限定時間   作:西月

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夕焼けと遮る雲

「ほんと、巴は何考えてるの? 嫌だよ私は!」

 

 カウンター横の大きな黒い扉が「がちゃ」と、少し重めの音がしたかと思うと、ちょっと熱が上がった声が聞こえ、同時に美竹蘭が黒い扉を開けずんずんと出てくる。その後、追うようにAfter Glowの面々が出てくる。

 

「あっ、望月さん」

「まこちー、やっほー」

「あれ? 羽沢さんに青葉さん、練習もう終わっちゃったの」

「まだだよー。これからやろうと思ってたんだけどー、ああなっちゃってー」

 

 青葉さんは視線だけを問題の美竹さんと宇田川さんのほうに動かして合図する。顔を向けると何やらあーだこーだ言い合いをしている模様だ。挨拶もそこそこに、さっさと外に行ってしまった。

 羽沢さんのほうに顔を向けると、すごい苦い顔をしている。

 

「蘭ちゃんに今度のライブで、望月さんに写真を取ってもらう事を話ししたら、蘭ちゃんが怒り出しちゃって……」

 

 あー、なんか察した。私が写真取るって話になって美竹さんがNGを出したってとこかな……。まぁ、出会いからして嫌われるような事してるから仕方ないわな。

 

「蘭も巴もストーップ! 二人共ちょっと落ち着こうよ」

「なにさ、ひまりだって賛成の人間でしょ、あたしに黙って撮影の話ししてたんだから一緒だよ! 多数決でもあたしは絶対に嫌だからね!」

 

 上原さんが宇田川さんと美竹さんの間に入って、事態の一時ブレイクを取ろうとするものの、怒り怒りのベクトルが方向を変えるだけだった。上原さん半泣きじゃん……、こりゃ事態の収集出来ないなぁ……。

 意を決して、声を大にして怒ってる本人に話しかける。

 

「うーん、美竹さん?」

「あっ、アンタは! なんでこんな所、来てるのよ! もともとはアンタが写真なんか撮らなきゃ……」

「ス・ト・ッ・プ! スタジオさんのご迷惑になるから、その辺で一回抑えてもらえるかな?」

 

 幸い店頭にはAfter Glowと私、オーナーさんだけだ。周りからの視線は無いが、美竹さんの声量は凄まじい、それこそ人を威圧するのには十分すぎる。私が美竹さんが捲し立てるのを遮るようにお腹から声をだす。とりあえず、まずは問題の人間に止まってもらわなきゃいけないので、現状を把握してもらおう。泣きそうな上原さん、沈痛な顔で何か言いたげで今にも爆発しそうな宇田川さん、困り顔の羽沢さん、あんま気にしてなさそうなオーナーさん。

 

「……っ!……ふん!」

 

 上がった血は一旦引いたが、怒りは収まりきらないようだ。ソファーの方に向かって怒りオーラを出しながら歩いていく。一旦美竹さんが引いたことで、どこか安心したのか長い息を吐く羽沢さん。

 まぁ、あんなに怒るとはなぁ……。とりあえず、爆発してしまいそうな宇田川さんの肩を軽くポンポンとたたき合図し、怒りをぶつけられて半泣きの上原さんをなんとかしてもらおうと彼女に視線を送り、「よろしく」と一言伝え、お怒りになられてる美竹さんの方に行く。

 

「……なに? アンタとなんか話すことなんか無い」

 

 めっちゃ低い声で睨まれる、上原さんも半泣きになるってば、この怒り方……。すんごい圧で怒ってる。

 

「とりあえずさ、あんなおっきい声で真正面から怒鳴るのは駄目だって、耐性が無いとあれ威圧にしか見えないよ?」

「そんなの知らない! 大体アンタなんかに言われる筋合いなんか無い」

「まぁ、そうかも知れないね。でも、喧嘩してるなら止めるのたいじゃん? ましてや、知り合いが喧嘩してたらさ」

「これは喧嘩なんかじゃない、タダの言い合い。コレくらい普通。そもそもアンタとあたしは知り合いってほどの間柄じゃない! 口を挟まないで」

 

 美竹さんをあっち向いてホイの状態になる。こうなってくると取り付く島すら無い。しかし、怒鳴るにしても加減ってものがあるだろう。上原さんをチラッと見ると宇田川さんになにやら慰められてる。

 

「にしても、派手に怒鳴ってたよ? 美竹さんって声大きいんだね。前に話した時はそんなに大きいとは思わなかったけど、ここまでとは思わなかった」

「そんなことない! コレぐらい普通……」

「普通じゃないよ。声すごく大きい。それに声がとても通る、きれいな声なのにもったいない」

「またアンタはそうやって!」

「いやいや、事実だって」

 

 美竹さんはあまり人目を気にしないタイプなのかな? 声が大きい事は別に悪いことじゃないけど、やっぱり使い方はマスターしないと、どうしても人目がつくと思う。美竹さんはおそらく無意識で、声を荒げちゃってる感じ。

 

「アンタ、ホントなんなの? この前からチョロチョロと……」

「とりあえず、話をしましよ? この前も自己紹介はしたよね、改めて望月真琴です、よろしくね。今日は宇田川さんに呼ばれてここに来たの」

「知ってる。巴が写真撮ってくれって言ったんでしょ、私は反対。私達に写真なんていらない」

 

「ふんっ」と顔を向こうに向けられる。うん、わかるわかるー、撮ってほしく無い人はとことんそうだもんね。学校で撮影してるときもカメラに写った写ってないでトラブった時もめちゃくちゃ相手に文句を言われて怒られた事がある。しかし、バンドを2年近くやっていてバンド外の事でこんなに感情的に怒るって、相当嫌なものなのだろうか? 今回の撮影はちょっと辞めたほうが良いんじゃないの?

 

「らーん。今日ちょっと駄目だよー、来た時からなんかピリピリしてるしー」

 

 いつの間にか青葉さんが、飲み物を両手に持って帰ってきていた。外の売店で買ってきたらしい飲み物を美竹さんに渡しながら、弱めの注意をする。

 

「……だって、私に内緒で写真撮影の話決めちゃって、モカだって知ってるでしょ。私は嫌なの、写真とかそういうのは」

「蘭が写真が嫌いなの知ってるよー。でも、最近ちょっと変だよ、なんだかとても辛そう。この前だって、また授業さぼっちゃったでしょ?」

「……っ。今それは関係ないし、それに私の授業の話はモカたちに関係ない……」

「ともちんもつぐもひーちゃんもみんな、蘭が元気ないこと気になってる。それなのに、蘭は何にも言わないで1人で無理してる。ほら、まこちーの渾身の写真をもう一回見て?」

「……」

「みんな傍にいるよ? 蘭のすぐ傍にさ? みんな蘭の心配してる」

 

 どこから持ってきたのか、青葉さんの手の中にあの黒いフレームに入った1枚の写真があった。さっきまで、青葉さんの言う通りピリピリしていた美竹さんだけど、諭されたせいだろうか? 写真を見てなのだろうか? ちょっとその空気感が変わった感じがする。この前というのは、もしかして私が徹夜で編集作業した日のことだろうか? 確かに、あの時の顔はどことなく辛い顔だったかもしれない。

 

「まこちーはちょっと変な子かも知れない。けどね、私たちが今どんな形になってるのかをちゃんと撮ってくれると思うんだ。蘭もこの前の写真見たでしょ? 私、久々に蘭がちゃんと笑ってるのを見たよ?」

 

 ……ん? 気のせいか? なんか私が話の中に登場しだす。やばい、恥ずかしくなってきた。手に力が入ってアイスコーヒーのカップがちょっと崩れる。

 

「蘭ちゃん? その……、勝手に話進めちゃってごめんね。でもね、モカちゃんの言う通りなの。このところずっと気になってた、私たちの知らないところで何か抱え込んじゃってるんじゃないかなって。それなら私たちは私たちなりに目で見えるような形で蘭ちゃんに見せて安心させてあげたいと思ったの……、だから……ちゃんと望月さんに写真を撮ってもらって見える形にしたいなって……」

 

 おずおずと言った雰囲気がとても似合う羽沢さんが美竹さんに皆の代表の言葉をゆっくりと選びながら気持ちを伝えていく。そんな中にも私の写真の事が出てくる。所在がなさげになり、口の中にアイスコーヒーを流しこみ、咥えたストローをひたすらガジガジと噛み始める。いい感じに犬歯にストローが引っかかって、噛んでる感覚がする。

 

「……いい。私こそなんか変でごめん。ちょっと外で風に当たってくる」

 

 青葉さんに渡されたアイスコーヒーを片手に外に出ていく。

 

「蘭……」

「ひまり、その……大声で怒鳴っちゃって、ごめん。30分だけ時間頂戴、先始めてていいから」

 

 ストローをガジガジしながら、美竹さんが上原さんに一声かけてそのまま出ていく姿を見届ける。

 

「ねえ巴、蘭大丈夫かな……」

「どう……だろうな。こればっかりは蘭が話してくれないと始まらないからな……」

 

 宇田川さんが上原さんの頭をやさしく撫でてる。怒鳴られたときは酷い顔をしていたけど、宇田川さんが撫でるにつれ、ちょっとずつ落ち着いてきたみたいだ。撫でている本人もあまりいい顔はしてないが、まだ上原さんが泣いてしまうよりマシだろう。

 原因が分からない。一番の問題はこれだと思う。周りは目に見える形でちゃんと傍にいることをアピールして、寄り添うことを決めている。要は本人が後は体を預けてくれないと始まらない。だから、ここまでということなのかも知れない。どうして彼女はあんなにも不安な顔をするのだろう。あれじゃまるで何かにおびえてるようじゃないか。

 浮いては消える思考とともに口元のさっきからだんだんと噛み応えがなくなってきたストローを犬歯をゆっくり立てていく、やがて『ブツッ』と言って、1本だったストローが2本になる。

 

「あっ……」

 

 舌の上に違和感を感じて、ストローから口を離すと先が千切れて短くなったストローだったものが見え、場違いな声をだす。口の中からストローだったものをつまみだし、アイスコーヒーを包んでいた紙ナプキンに包む。

 

「私、ちょっとストロー千切れたから新しいのもらってくるね」

 

 無残に姿を変えたストローの刺さったアイスコーヒーを振って席を立つ

 

「ちょ……、千切れたって。望月さん何してるの……」

「噛んでたら千切れたわね。噛み応えがあってちょうどよかったわ」

「……」

 

 上原さんは絶句というか、口を開けてなんとも形容しがたい顔をしていた。うん、先ほど泣きそうな顔をしていたが、だいぶマシな顔をしてると思う。ちょっと心がホッとする。この子はさっきみたいな不安な顔は似合わない。

 

「ストローもらってくるだけだから、ね?」

 

 上原さんにそう言って美竹さんが出て行ったドアから私もカフェ側の外に出る。

 外に出ると薄っすらと雲が空を覆って気持ちのいい天気とは言えない、なんとも微妙な雲が広がってる。このもやもや感はなんだかさっきまでのやり取り近い。




過去話を一部訂正いたしました。
(おもに真琴の呼び名……、完全にやらかしました)

今回よりスタイルを少し変更いたしました。
(過去話にも更新はかけさせていただきます)

本日もありがとうございました。
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