たぶん。
「九一式徹甲弾か……欲を言えば一式徹甲弾の方が……」
「対地装備なら僕も三式弾でいいよ。WG42の方が希少だから……」
長門と最上が口をそろえて砲弾のことに触れる。
「実は今三式弾は鈴谷と榛名に持たせててな……在庫が無いんだ。あと一式徹甲弾は今大和が持ってる。ワンオフだし、
「そういえば砲弾って結構種類あるのに、今ボクらが使えるのは零式通常弾と九一式・一式徹甲弾、三式焼夷弾だけだよね」
「ぶっちゃけると零式通常弾でも一式と効果は変わらない筈なんだけどな。どっちも徹甲榴弾……APHEの類で、強いて言えばキャップ……被帽の形状くらいだし」
「水中弾効果を狙ってるらしいが、深海棲艦相手ではあまり機会もないな」
普段使ってる目線からの長門の発言はもっともだった。
「へぇ~そうなんだ。詳しくみると砲弾も面白いね」
「気になるか?最上」
「お願いするよ」
「砲弾は概ね、運動エネルギー弾と化学エネルギー弾の2つに大別されるんだがな……」
火薬を手にした人類は、やめておけばいいのに武器に転用しようとした。その過程で、元寇の際の『てつはう』*1などが出て来たが、それは外に置いておき。
運動エネルギー弾を簡単に説明すれば、鉄板に弾丸ぶつけて力ずくで叩き割ってブチ抜く、ということである。
まず艦船から徹甲弾の運用が始まり、大質量の砲弾で装甲を貫くのだが、装甲に突き刺さりやすくするために先端が尖った形状になる。
この単純かつ脳筋な砲弾が、AP*2(徹甲弾)である。
だが、表面硬化装甲が開発されると徹甲弾は劣勢に立たされる。
表面が硬い装甲相手の場合、正面から直撃したときは弾丸が砕け、斜めに命中したときは弾が滑るのである。この防御優位は、凡そだが日露戦争前後に顕著となる。
しかし、徹甲弾側もめげずに進化を続ける。
軟鉄で作った柔らかいキャップをかぶせて食いつきをよくするAPC*3(被帽付徹甲弾)が登場する。
また、空気抵抗を減らすために、着弾の衝撃で外れるキャップを取り付けたAPBC*4(仮帽付徹甲弾)が登場し、APCとの相の子といえるAPCBC*5(仮帽付被帽付徹甲弾)となる。
また、着弾後の破壊力向上にも注力され、炸薬を封入したAPHE*6(徹甲榴弾)が登場。着弾後に敵車両内部に破片を巻き散らすのだ。
また、それまでのAPC、APBC、APCBCにも炸薬が封入される場合があり、それぞれ、AP(HE)C、AP(HE)BC、AP(HE)CBCと分けられることがある。
装甲貫徹力は、概ね着弾時の砲弾の運動エネルギーに依存する。
つまり、弾速の2乗に比例し、砲弾重量に比例するのだ。
逆に、運動量(≒反動)は、弾速×砲弾重量に依存する。
であれば、砲弾を$\frac{1}{2}$の重量にして、弾速を2倍にすれば、貫通力を2倍にできる。
(元の砲弾)
反動:v × w = vw
運動E:$v^{2}$ × w =$v^{2}$w
(新型砲弾)
反動:2v × $\frac{1}{2}$w = vw
運動E:$(2v)^{2}$ × $\frac{1}{2}$w = 2$v^{2}$w
と表され、反動はそのまま運動エネルギー(貫通力)を2倍にできるのだ。
この思想の下設計された砲弾はAPCR*9(硬芯徹甲弾)や、HVAP*10(高速徹甲弾)と呼ばる。*11
構造的には、硬度の高い金属でできた弾芯に、着弾時に吹き飛ぶ軽量かつ柔らかい金属が纏わりついているのである。
実戦では、WWIIに於いてAPCRがドイツ軍により使用された*12。また、アメリカ軍によりHVAPも一部で使用され*13、重装甲のドイツ軍戦車と渡り合った。
ただ、軽量かつ硬い弾芯が求められるため高価になりやすく、軽量化のため炸薬を封入できないなど、欠点もあり、より強力な砲弾(後述)が開発されるにつれ廃れていった。
ここで問題が出てくる。砲弾の軽量化・装薬強化による弾速向上に限界が見え始めたのだ。
大きな初速を達するには、多くの装薬を使用する必要があるが、大口径の砲の方が装薬は増やしやすい。しかし、口径が大きいと空気抵抗を低減させづらくなるのだ。
そして、高速徹甲弾の理想としては、細い砲弾である。空気抵抗が少なく、着弾時の抵抗が少なくなるのだ*14。そこから考えれば、軽量の金属にまとわりつかれている高速徹甲弾は、対極であるといえる。
これを解決するのに、とある狂気染みた案が出されるのである。
「結局のところ、最後に吹き飛ぶ軽金属部分が最初に外れればいいんでね?そしたら貫通に必要な弾芯だけ高速で飛び出すべ」
そして、細身の砲弾と、発射時のみセットされる台座が作られることになる。
そう、APDS*15(装弾筒付徹甲弾)の完成である。
WWII中の1944年にオードナンス QF 17ポンド砲用の新型APDSが完成すると、高い貫通力*16を示した。
とはいえ精密に組み合わせられた品であり、被弾した場合確実に動作する保証のない砲弾である。撃たれることをある程度見越した武器としてはやや不適合なものでありながら、その性能を買われて最前線でティーガーを撃破し続けたのだ。
しかしAPDSにも限界はあった。細いため貫通力には有利に働くのだが、斜めに命中した際は跳弾する可能性が高くなったのだ。
また、貫通力を求めてより細長くした際、とある問題が発生した。
普通砲弾は、ライフリングで高速回転を与えることで、ジャイロ効果により安定して直進するのだが、細長くなると逆に軸がブレて不安定になったのだ。
というわけで、APDSは新たな砲弾の陰に隠れて、戦車用砲弾としては廃れていった。
では今の戦車はどんな砲弾を使っているのか。
そのおおもとの発想は、とある珍妙な、しかし革命的で、以後の対戦車運動エネルギー弾の基礎となるものだった。
「回しても不安定なんだったら回さなくてもよくね?」
である。
*17ついさっきまで、砲弾は回転を与えることで安定して飛翔しているとの発言をしておいてこれである。
これまでの先人の積み重ねなど知らんこっちゃないといわんばかりであるが、実際結果を出してしまったので仕方がない。
ここでライフリングをぶん投げて方向転換。ライフリングの切られていない滑腔砲から発射されることになる。
しかし(やはりというべきか)ジャイロ効果の発生しない無回転の砲弾は、飛翔が不安定である。
そして辿り着いた答えが、
『翼をつける』
ということである。
飛行機みたく揚力を求めているわけでも、ミサイルみたく誘導時の空力効果を求めているわけでもない、ただの安定翼ではあったが、一定以上の効果を発揮した。
これがAPFSDS*18(装弾筒付翼安定徹甲弾)である。
APFS*19(翼安定徹甲弾)とAPDSの相の子である。
しかしこのAPFSDS、その程度ではないとんでもない貫徹力を備えている。文字通り矢と見まごうほどに細いが、その結果として、運動エネルギーが一点に集中する。
貫通力を高めるためのアプローチだったが、別の効果を発揮してしまう。
運動エネルギーが集中しすぎて、装甲の金属が液体のように振舞うのだ*20。
物体には弾性というものが存在し、加わる力が一定以下であれば元の形状に戻ることができる。それを超えれば、変形してしまうのだが、ユゴニオ弾性限界というものを超えると、固体を維持することができず、常温でも液体として振舞う。
つまり、侵徹体と装甲が狭い領域で高圧で圧縮され、塑性流動を起こすのだ。これにより、侵徹体は長さを急速に失いながら侵入するが、同時に装甲もメタルジェットとして振舞い、直撃部はどんどん侵徹されてゆく。結果として、侵徹体は車内へと飛び込み*21、飛散して乗員にダメージを与える。
貫通力を求めていたら、それまでの金属製の装甲など意に介さない砲弾が完成したのだ。ここまでくると最早炸薬を封入せずとも車内に致命的なダメージを与える。
完全に攻撃優位の時代が始まったのだ。
今回はここで終わりとしよう。
次回「第三回 戦車の砲弾(2)」に続く。
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