提督の提督による艦娘のための軍事小噺   作:柱島低督

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前回からの続きです。

基本的に一話完結ですが、今回は「第二回」も併せて読むとより楽しめると思います。


第三回 戦車の砲弾(2)

「提督。こないだは運動エネルギー弾の話しか聞いてないよ?」

 

「そういやそうだったか……」

 

執務室に突撃してきた最上に指摘され思い出す。

 

「まぁ、化学エネルギー弾といっても、火薬が入ってるとかそんなレベルだしな」

 


 

時はAP全盛の時代。とある誰かが気付いたのだろう。

 

「あれ、これ中に火薬入れて爆発させれば強いんじゃね?」

 

というわけで、装薬のみならず炸薬を封入し、着弾後に内部から吹き飛ばすHE*1(榴弾)が開発された。

 

しかしここで問題が出てくる。

着弾だけでは火薬は爆発しない。

 

というわけで、信管が取り付けられるのだが、更なる問題が発生してしまった。

 

「こいつ、いつ爆発させるん?」*2

 

そして数種類の信管が開発されたのだ。

 

 1.着弾したらすぐ (着発・瞬発信管と呼ばれる)

 2.着弾してから少しして (遅延信管)

 3.発射から暫く経って (時限信管)

 

そして、榴弾としては、概ね1がセオリーとなる。

特に戦車などの陸戦兵器では、信管の時間*3を設定している時間もない。

また、*4小口径であるため、*5炸薬の含有割合が高くなり、*6被覆となる金属部分は薄くなるので貫通力も見込めない。*7

 

という訳で、榴弾の目的は、構造物の破壊ではなく、非装甲部*8の破壊や、弾片での歩兵掃討に変化していく。

 

爆発すると薄い被覆が周囲に飛び散るので、生身の歩兵であればひとたまりもない。

そして貫通力が無いとは言え、爆発で飛び出す弾片はそれ相応のスピードを持っているため、極端に薄い部分に直撃すれば、それなりのダメージを与えることはできる。

 

そして、これらの影響は多少離れていても作用するのだ。

 

特に野砲や対戦車砲の破壊には、着弾した場所の重装甲目標にしか効果の出ない徹甲弾は向いていない。それこそ、直撃せずとも周囲の兵士を範囲攻撃で殺傷できる榴弾の本分だ。*9

 

こうして、榴弾は戦車の砲弾として、WWIIでも使われることとなる。

 


 

戦後世代の砲弾ではあるが、他にも粘着榴弾というものが存在する。

 

榴弾を名乗ってはいるが、その実態は、爆発の運動エネルギーで装甲の内側の被膜を千切れさせ、車内を飛散させることで乗員だけ殺傷する砲弾である。

 

たとえば、岩石に爆薬を密着させた状態で起爆するとする。

するとその衝撃波は岩石の中を伝わり、裏側で跳ね返る。その際、岩石を引っ張るように力がはたらく*10

特に、岩石やコンクリートでは、圧縮に対する『圧縮強度』よりも、引張力に対する『引張強度』の方が弱いので、圧縮する方向に働く爆発の力ではなく、引張波による力で裏側が乖離してしまうのだ。

 

これをホプキンソン効果といい、この内張りの乖離をスポール破壊という。

 

これを応用したのが、粘着榴弾(HESH(ヘッシュ)*11、又はHEP*12)である。

 

以下説明図

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

とはいえ、砲弾(弾頭)自体が粘着力を持っているわけではなく、着弾後に装甲材に密着して起爆せねばならないため着弾時の弾頭の食いつきを良くしただけである。

その着弾時に、軟鉄のキャップが潰れて張り付くように見えるため、粘着と称されるのである。*13

 

内部の乗員だけ殺傷するという、なかなかにえげつない砲弾である。

 


 

そして話は榴弾に戻る。

 

榴弾では装甲を貫通できない。

しかし徹甲弾のみでは貫通後の破壊力に不安が残る。

 

二極化が進んでいた砲弾は、このようにジレンマが発生した。

 

「じゃぁ徹甲弾に炸薬封入するべ」

ということで、徹甲弾(AP,APC,APBC,APCBC)に少量の炸薬が封入されることとなった。

 

ここである事実が発覚する。

 

「相手の車内に弾片を巻き散らすだけなら、少量の炸薬でも問題ない……だと……」

である。

 

まず、榴弾が殺傷能力を持つのは、周囲に被覆の断片を巻き散らすからである。

であるから、相手の車内に弾片が巻き散らされれば所定の目的は達される。そして、普通の*14状態の徹甲弾では、破壊に大きな力が必要で、大量の炸薬が必要になる。

 

しかし、着弾して貫徹し、内部へ入った後ならば、砲弾が壊れ(潰れ)て強度が落ちている。

その状態であれば、少量の炸薬で断片を巻き散らせるのだ。

 

そして誕生したのがAPHE*15(徹甲榴弾)である。

適度な貫通力と、貫通後の破壊力を兼ね備えた砲弾は、多くの国で主力砲弾として使用される*16ことになる。

 

と、キメラのことは置いておき、

 


 

その後の榴弾は、対戦車榴弾という形で、貫通力を手に入れることとなる。

 

説明がややこしくなる*17が、円錐形のくぼみに成型した火薬に、金属で薄い内張*18をする。

これを後ろから起爆すると、窪みの奥から順にライナーが押し出され、円錐が広がっていくと、周囲から同時に爆圧で押し込まれ、円錐の中心軸でぶつかって、向きを変えて前方に噴出する。

APFSDSでも触れた、ライナーの金属のユゴニオ弾性限界を超えた力が加わり、ライナーが飛び出すことで侵徹体として機能するのである。

 

この侵徹体は、成形された炸薬で貫徹力を得ているために、貫通力は砲弾の運動エネルギーに依存しない。

つまり、遠距離で空気抵抗により弾速が落ちても*19貫通力が維持される、という特性を持ち、遠距離戦では最適である。

 

しかし、この貫通力はライナーの直径に依存する*20ので大口径の方が望ましい、最適な起爆距離から外れると空気中でメタルジェットが減衰し大きく貫通力が落ちる、といった欠点もあり、メインの砲弾としては扱われることは少ない。

 

この成形された炸薬で破壊力を得ているので、化学エネルギー弾に分類されるのだ。

 

これがHEAT(ヒート)*21(対戦車榴弾)である。WWII時代に使用されたもので有名なのは、ドイツのGr38 Hl/C*22が挙げられる。

 


 

そして、滑腔砲での無回転の波はHEATにも近寄る。

 

もともと、HEATは回転を与えるのに適してない砲弾だったのだ。何が問題かというと、メタルジェットが収束する時に、回転により飛沫として飛散するので、メタルジェットの生成が阻害され、貫通力が落ちるのだ。

 

貫通力のハンデが減るとなれば、無論安定翼での無回転型が登場する。それがHEAT-FS*23(翼安定対戦車榴弾)である。

 

それはおいといて、

 

とある人が気付いたのだろう。

 

「あれ、これ元々の榴弾の仕事してくれなくね?」*24

 

正確に言うと、高圧かつ高温のガス*25を周囲に巻き散らすというとんでもなく危険な代物なのだが、如何せん効果範囲が狭すぎた。

 

そして、成形炸薬の中に、金属製のテザー(鎖状の紐)が封入され、爆発時に周囲に飛び散るようになった。

これがHEAT-MP*26(多目的対戦車榴弾)である。『対戦車』とか言っておきながら今度は『多目的』である。

 

こいつらの発展によって、再び戦車の砲弾はAPFSDS(徹甲弾)HEAT-MP(榴弾)の二本立てに戻ることになる。

*1
High Explosive

*2
ベタな答えは『リア充になってから、』だろうが……

*3
2,3共にだが、3などは特に

*4
概ねだが艦砲などに比して

*5
所定の威力を達するには

*6
更に言えば被覆の断片を周囲に巻き散らすため、

*7
さらにいえば、2は貫通をある程度期待して内部での爆発を見込むものなので、不適合となる

*8
または露天の施設

*9
その榴弾が撃てなかったイギリスの歩兵戦車(の一部)は対戦車砲にカモにされたのだ

*10
この力をもたらす波を引張波という

*11
High Explosive Squash Head

*12
High Explosive Plastic

*13
実際、Squash Head(弾頭が押しつぶされる)にも、Plastic(プラスチック爆薬)(なぜプラスチック爆薬かというと、特定の目標(今回の場合は装甲材)を破壊するのに適しているから)にも、『粘着』の意は含まれない

*14
発射直後の

*15
Armor Piercing High Explosive

*16
砲の性能に支えられたドイツのPzgr.39(AP(HE)CBC)は特に猛威を振るった

*17
という訳でwikipediaの参照を推奨

*18
これをライナーと呼ぶ

*19
又は低初速の短砲身の砲を使っても

*20
WWIIごろのものでは直径の2倍弱、最近のものでは5~8倍

*21
High Explosive Anti Tank

*22
短砲身(24口径)の75mm砲用で100mmの貫徹力を持つ

*23
High Explosive Anti Tank Fin Stabilized

*24
『対戦車』と銘打ったらホントに『対戦車専用』となってしまったのだ

*25
間違ってもメタルジェットのことではない

*26
High Explosive Anti Tank Multi Purpose




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