「提督よ。それでは、戦車に必要なものは火力と、砲撃を回避できる機動力……いや、相手に装甲がほぼないとなると、それこそAPFSDSのような過剰な攻撃力は不要になるのではないか?」
「いやぁ……それがねぇ、そう簡単にいかないもので」
こないだのことについて、長門が質問してくる。ビッグ7として世界に名を馳せ、最後は水爆にすら耐えた装甲の持ち主だ。その点に気づいたのは必然ともいえるだろう。そのことにのらりくらりと返しながら提督は言葉を続ける。
「うーん……ファインセラミックスって知ってる?」
「確か、窒化ケイ素などの人工原料を焼成した……焼き物だぞ?なぜ装甲と関係があるのだ」
「それがねぇ……」
対戦車砲といった野砲も存在せず、後方からの砲撃支援は、戦車という小さな的に当てるには精度に難があったため、大型の砲の直撃は考慮されていなかったのだ。
しかし、同時期に前線配備が進められていたドイツの小銃/機関銃用徹甲弾「SmK弾」に貫通されてしまう8mm厚の装甲では不満だったこともあり、改良型*2のマークIV戦車に取って代わられることになる。
そして時代が進むと、敵国の戦車相手に戦う必要が発生する。
すると、敵戦車の火砲*3に耐えうる装甲を施した戦車が登場し始める。
しかし最初期は、非力なエンジンが足枷となり、装甲の強化もある程度で頭打ちとなる。
そして、普通の鉄では限界が見え始めたのだ。
少し余談になるが、鉄*4に於いて、硬さと強さ*5は、
つまり、硬くなればなるほど、欠けやすく*6なり、逆に、欠けにくくすると、柔らかくなってしまうのだ。
鉄鋼は、鉄+炭素で作られている。
炭素の含有率が上がれば、硬くなるのと引き換えに脆くなり、逆に下げれば欠けにくくなる代わりに柔らかくなる。
これが曲者で、砲弾を受け止めるには硬い方が理想的だが、硬くすると逆に強度が落ちて、衝撃で砕けてしまう可能性が高まるのだ。
そして、とある人が思いつく。
『これ、表面だけ硬くすればいいんじゃね?中身は多少柔らかくても表面で敵弾を砕いて、内側で衝撃を受け止める……これ、どうよ!?』
という発想に則り開発されたのが表面硬化装甲である。
1つ目の製法としては、鉄板として完成させた後に、表面を高温で加熱する
2つ目は、低炭素鋼の鉄板を加熱した上で、片側だけ高温の炭素ガス中に暴露させる。それにより、炭素が染み込み、表面だけ硬化されるのだ。特にこちらは、浸炭装甲と呼ばれる場合もある。
当時の砲弾がただのAPだったこともあり、着弾時に斜めだった場合は砲弾が滑って運動エネルギーが逃げ、直撃した場合でも砲弾の方が砕けてしまうといった形で、一定以上の効果を発揮した。
そして弾頭にキャップをかぶせて滑りにくくした
しかし、それでも限界は訪れる。
特に二次大戦中期以降*9になると、砲の攻撃力が大きく上回り、硬さだけでは対処できなくなったのだ。*10
そして登場したのが、ほぼ一定の質で圧延された鋼板。
これは、比較的品質管理も行いやすく、防御力は概ね厚みに相関するので、表面の硬さしか持たなかった表面硬化装甲に比べて、簡単に防御力を引き上げることができる。*12
特に、戦後第二世代MBTでは、*13防御力より機動力を優先したこともあり、品質維持が容易なRHAは多用されることとなる。
だが、金属など無いに等しいAPFSDSの前には、だいたい400mm以上ないと防ぐことは難しい。
そして、400mmというと大和型
話は飛ぶが、装甲の金属は鉄鋼でなければならないということは無い。
つまり、軽量の金属を用いればそれだけ重量を抑えて分厚く*14することができる。
その発想に則ったのがアルミニウム合金装甲である。
アルミニウムは鋼鉄の約$\frac{1}{3}$の密度なので、同じ重量で約3倍の厚みにすることができる。しかし、大きな問題がある。
『う……うん?……アルミニウム*15の強度って、鋼鉄に比べて約$\frac{1}{3}$じゃね?』
お分かりいただけただろうか?
($\frac{1}{3}$……重量……ウッアタマガ)
とお気づきだろうが、
『厚みが3倍で同じ防御力じゃね?』
という根本的な問題が出てくる。つまり、同じだけの重量でも厚みは3倍になるが、防御力はそのままなのだ。
つまり、軽量化できていないうえに防御力も向上せず。そのくせ体積だけは3倍浪費するという……
おまけに覇権を握りつつあったAPFSDSやHEAT*16に対して、アルミ合金はRHAよりも極端に脆弱という問題点も発生した。*17
という訳で、冷戦期の空挺戦車や、浮上航行可能な装甲車などの、極端な軽量が要求される一部車両を除いて現在ではほぼ使用されていない。
では、他の金属ではどうだろう。
特に硬い金属に限るとしても、そういった金属は需要が大きく、得てして高価である。大量の金属を要する兵器には不適だろう。また、兵器は大量生産されねばいくら性能が高くとも蹂躙されるだけである。*18
そんな事情が絡み、適度に硬く適度に安い金属という条件が付く。
結論から言うと、ほぼ存在しないのだ。
チタン装甲は、ほぼ半分の重量で鉄鋼と同等の防御力となるが、やはりと言うべきか聊か高価である。*19
高い水圧に耐える必要のある潜水艦の外殻や、
方向性を変えて、APFSDSに対する抗堪性を上げるために、重金属のアテを探すともう1つ、安価*22な金属がある。
劣化ウラン
その名が示す通り、*23ウランを使っての原子力発電の、最後に残った
もちろん放射性物質なので、そのまま使用はできない。
例として*24M1エイブラムス(米)の
とは言っても、結局主装甲の中に封入するだけだったのだが、被弾して被覆が吹き飛べば、周囲に放射線が撒き散らされる。
*25タンクデザントなんてした日にゃ、自車の歩兵*26のみならず周囲に被害が及ぶ。
放射性残留物の戦後処理に大きな問題も残るだろう。
そして、1番の問題は、APFSDSの貫通を許した場合、車内に劣化ウランのメタルジェットが飛び込む
それと、やたらめったら重いという問題もある。それを補うため、M1エイブラムスでは2000馬力を発揮するガスタービンエンジンを搭載している。
この調子で語り倒したら止まらないので、続きは次回とさせてもらいます。
(なんか前後編仕様が跳梁跋扈し始めてる……)
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