けもフレ9話はホントになんでああなってしまったんだろう……。
第1話:動物を好きな奴に悪い奴はいない
「……はッ? 新八が最近ネット中毒で鬱病になってる?」
志村新八の実家である志村邸の居間では、銀髪天然パーマの死んだ魚の目をした男である坂田銀時が木造りのテーブルを間に挟んで、志村妙から相談を受けていた。
銀時の横では赤髪の少女――神楽が用意されたお菓子をもりもり食べている。
銀時が怪訝そうな表情を浮かべると志村新八の姉である妙は「はい、そうなんです」と不安そうな表情を浮かべながら頷く。
銀時は妙の話を聞いて机に頬杖を付く。
「あいつ最近心ここにあらずだけど、んな事になってんのかよ……」
万事屋の掃除といった雑用をさせていたのだが最近は上の空でまるで仕事に身が入っていなかった。
とにかく落ち込んだ表情が目に映るようになったのは覚えている。
「結構前は楽しそうに掃除してんだけどなぁ……あいつ」
銀時が言う様にだが、一時期は普段とは違うくらい雑用を進んでやるくらい機嫌が良かったのだ。
なぜか時々だが「すっごーい」とか「うれしー」とか謎の言葉を呟いていた時にはかなり不気味に感じたものではあるが。アレは鬱病の前兆と言う事なのだろうか。
銀時の言葉を受けて妙は頷き、不可解と不安が交じり合った表情で言葉を続ける。
「ちょっと前までとにかく落ち込んでいただけなんですけど、ここ最近になってすっごい不機嫌になって今じゃ暇な時は、それこそ日がな一日部屋に籠ってパソコンに噛みついているんですよ」
「……あー、なんか確かに聞くだけだと鬱病っぽいな」
銀時が腕を組んで自身の予想を告げるとさっきまでお菓子をもりもり食べていた神楽が反応を示す。
「私はどうせネトゲの萌えキャラに嵌って情緒不安定になったってオチを押すネ」
「まぁ、そう言う前科あるしなぁ……」
銀時は腕を組みながら天井を見て思い出すのは新八がギャルゲにドハマりして我を失ったエピソードである。
「確かに前は女の子がいっぱい出てくるアニメを見ていたと思うんですけど……今はなにか別のモノに熱が集中しているんですよね」
妙が頬に手を当てながら告げた言葉に銀時は目を細める。
「ん? そうなのか?」
「ちょっと前に心配になって後ろからこっそり新ちゃんが何をしているのか画面を覗いたことがあるんですけど、なんだかネットの掲示板に色々書き込んでいたんです」
「ネットの掲示板?」
妙の言葉を聞いて銀時は眉間に皺を寄せる。
妙は悲し気な表情でポツリポツリと言葉を漏らす。
「新ちゃんはきっと……家族に相談できないほどの悩みを抱えて……ネットの掲示板に入り浸るようになってしまったんじゃないかしら……」
「まぁ、分からなくはねぇな。だって、悩みの種がゴリラに育てられた暗黒物質量産機――」
ズドンッ!! という凄まじい轟音が志村邸に響く。
「きっと私は仕事の不満、つまりは万事屋への不満が溜まっているんじゃないかと思うんです」
とお妙は真剣な表情で告げる。
「ネットの掲示板に不満を呟いて解消しようとしてもしきれない。そんな負のサイクルが新ちゃんの躁鬱の原因じゃないかと私は見ています」
というお妙の話を聞きながらどでかいタンコブを頭に生やした銀時は机に頬を付けながら精気のない小声を漏らす。
「むしろ俺がお前への不満を呟きてェよ……」
「とにかく銀さん! 原因はなんにせよ、新ちゃんは鬱病一歩手前かもしれません!! そうなる前になんとかしないと!!」
必死に頼み込むお妙に便乗するように頬袋にお菓子をため込んだ神楽も。
「そうアルよ銀ちゃん。ぱっつぁんが鬱病にでもなったら、まず原因は仕事場の上司たる銀ちゃんになるネ。そしてゆくゆくは姉御にたんまり慰謝料払わないといけないアル」
とんでも理論提唱する神楽の言葉は無視するとして、今の新八の状態を放っておくのもまずいと思う銀時。
銀時はゆっくり体を起こしながら頭をボリボリと掻く。
「まぁ、マジで鬱病なんぞになられても困るしな……。病院連れてくとか大きな問題になる前に、やるだけやってみっか……」
*
新八の私室。
そこでは電気も付かない暗い部屋では座布団に胡坐をかき、視線を前のめりにしてカタカタと音を鳴らしながらキーボードを弄る新八の姿があった。
一心不乱に画面を注視し、とにかくカタカタカタとキーボードを打つ新八。
その時、
「なぁ~にやってんだお前?」
横からぬ~っと新八の顔に自身の顔を並び立つように死んだ魚をした目の男が現れる。
新八は突如顔の横に現れた銀髪天然パーマを二度見してから、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
悲鳴を上げて銀時に離れるように後ろに飛び退く。
「ちょッちょッちょッ!? えッ!? ちょッ!? いきなりなにッ!? ビックリさせないでくださいよ!! 心臓に悪い!!」
狼狽える新八に対して銀時は机に置かれた液晶画面を覗き込む四つん這いのポーズのから立ち上がり、尻もちを付く新八へと体を向ける。
「画面に噛り付いてるおめぇが俺に気付かなっただけだろ」
銀時の言葉を聞いて新八は「あッ」と声を漏らす。
「もしかして……銀さんが呼んでるのに僕、気付きませんでしたか?」
「あぁ、呼んだよ。心の中で」
「いや口で呼べや!! 口で!!」
とツッコミ入れる新八に構わず銀時は腰に手を置いて新八を見下ろしながら口を開く。
「まぁ、そんな些細なことはこの際置いといてだ」
「いや置いとくなよ!! 僕は心臓飛び出るくらいビックリしたんですが!!」
「おい、新八」
「えッ? は、はい」
「お前、ラジオ体操やってみねェか?」
「………………はッ?」
「朝早く起きて体動かすのは心と体の健康にいいはずだぜ」
「…………へッ?」
なに言ってんのこの人と言わんばかりに目を点にする新八。だが眼鏡の青年の様子などにまったく構わず銀時は次々と言葉を告げる。
「早起きがメンドーならランニングはどうだ? 汗と一緒にイライラを流してみェか?」
「いや……えッ?」
空いた口が塞がらない新八に対して銀時は腰を曲げ、ポンと肩に手を置く。
「体を動かすのが嫌ならせめて銭湯はどうだ? 風呂に入れば、もやもやした気持ちも少しは洗われるはずだぜ」
「ちょちょちょちょちょちょちょ!! こわいこわいこわいこわいこわい!! あんたさっきからどうしたの!! なんでそんなに優しい感じなの!? 全然銀さんらしくありませんよ!!」
顔面を青ざめさせて動揺する新八に銀時に真剣な表情で告げる。
「おめェの姉上から全部話は聞いたぜ。お前最近、掲示板に鬱憤を吐き出してるそうじゃねェか」
「えッ!? 姉上、知っていたんですか!?」
「むしろ気付かねェ方がおかしいくらい最近のお前がおかしかったんだよ。さすがにネットに入り浸り過ぎだってな」
「そッ……そうだったんですか……」
と言ってから新八は申し訳なそうな顔で告げる。
「すみません……。心配かけてしまって……」
「まぁ、謝んなって。別にお前が悪いってワケじゃねェし」
「あの……なんでそんなに……優し気なんですか? ちょっと気持ち悪いとか通り越して怖いんですけど……」
「どうも姉上が言うには、おめェは鬱病になりかけてんだとよ」
「ぼ、僕が鬱病ォ!? なんで!? どうして!? 僕精神病患者みたいな感じに見られてたんですか!? ちょっと心外なんですけど!?」
「それだけお前の様子が変だったってことだろ。まぁ、心の病気ってのは体の病気みてぇに本人ですら中々気づけねェもんらしいからな」
「は、はぁ……」
なんか納得がいかないと言うか腑に落ちない表情を見せる新八に対して銀時はポンポンと肩を叩く。
「おめェがなんの不満は溜め込んでいるかは分からねェが、少しは周りの人間に鬱憤をまき散らすのも悪かねェんじゃねェか? どこの誰とも知らねェ奴よりかは、よっぽど相談に乗れると思うぜ」
「いやぁ……そもそも……僕が鬱病扱いされているのが問題だと思うんですけど……」
「まぁ、お前が病気云々はこの際置いとくとしてだ。まずはお前の悩みを教えて欲しいんだよ。でねェと、おめェの姉ちゃんが心配という心労のあまり精神病になっちまうらしいぞ」
「鋼より頑丈な精神を持った姉上が病むワケないでしょ……」
「まぁ、いいですけど……」と言って新八は立ち上がり、眼鏡をクイッと上げて真剣な表情を向ける。
銀時もまた新八へと合わせるように立ち上がり、彼へとまっすぐ対面する。
「僕が何に悩んでいるかは、もう分かっているんですか?」
と言う新八の問いに銀時は頷く。
「まぁ、おおよそはな」
「そうですか……。なら、この際だからぶちまけちゃいますよ?」
「おう。どんとこい」
とにかく相談をするという場面にまで持ってこれた銀時は内心よしと頷き、これから悩みを吐き出すであろう新八の言葉を待つことにする。これで一応お妙へに自分は何もできなかったという情けない報告はしなくてすみそうだ。
新八はすぅ~っと息を吸いながら不満をぶちまける準備をする。やはりよっぽどの悩みなのだろう。
その間に銀時は新八が一体何について悩んでいるのか予想する。
――どうせ神楽のことだろうな。
どういう自信があって自分のことではなく、毒舌娘の神楽が原因であると決めつけるかと言う疑問はさておき。
新八は息を深く吸ってから吐きを何度か繰り返した後、目をクワッと見開き、
「けものフレンズ2のことなんです!!」
不満を吐き出す。
銀時は新八がちゃんと悩みを言ってくれた事にしっかり頷き返す。
「うん、そうか。けも…………うん?」
だがすぐにあれ? 変な単語でてきたぞ? と思考が停止する。
銀時の様子など露知らず、新八は不満を爆発させるように捲し立てる。
「けものフレンズ2はマジでおかしいんですよ!! もうホントにどうしてこうなったっか言うレベルで――!!」
「ちょっと待て」
「1期ファンだからこその怒りはあります!! だけど楽しんでいる人もいる!! だからこそそういう不満や怒りをグッと抑え込んで好意的に見守っていこうとしたんです!!」
「だからちょっと待て」
「たとえおかしくてもですよ!! けもフレっぽくないとしてもですよ!! ことごとく1期ファンの気持ちを逆撫でするシーンが満載だとしてもですよ!! 僕は我慢したんです!! 我慢し続けたんです!! でも6話で視聴を途中で中断しちゃいました!!」
「ちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てッ!!」
「でもなんとか持ち直して視聴を再開したんです!! なんか妙にネットで話題になってたから!! 7話をなんとか耐え抜き迎えたのが8話です!! 8話だったんです!! まさかの――!!」
「ちょっと待ってつってんだろうがァァァァァァァ!!」
こっちが我慢できなかったので新八にアッパーカットぶち込む銀時。
「ゴハァッ!! 暴力のフレンズ!!」
なにかよく分からない単語を出しながら吹っ飛び畳の上に横たわる新八を眺めながら銀時は頬をピクピクさせる。
「えッ? お前なに? なんの話してんの? ふれんず? なにそれ? けもフレ? なにそれ? 魔法呪文かなにか?」
殴られた新八は顎を抑えながら慌てて喋り出す。
「ぎ、銀さん!? なんで怒ってんですか!? あなた僕の悩み分かってくれたんじゃないんですか!? なんで言葉じゃなくて鉄拳が飛んでくるの!?」
「いや、知らねェよ!! けものなんちゃらなんて!!」
「えええええええ!? 僕がけものフレンズ2ってアニメについて悩んでるの知らなかったんですか!? あんたこっちの事情まるで把握してないじゃん!!」
「こっちがええええええ!? だわ!! 把握できるワケねぇだろ!! 予想外過ぎて口じゃなくて手が出ちまったじゃねェか!!」
「いや僕が訂正する前に手は出てたじゃん!!」
「つうかアニメだァ!? たかだかアニメの事についてあんなにマジで悩んでたのかおめェは!! てっきり万事屋の――主に神楽とかの不満について悩んでるばっかりに思ってのに!! 心配して損したわ!!」
「いや悩みってそっちかよ!! まぁ妥当な悩みでしょうね!! つうかなんで神楽ちゃんオンリーなんだよ!! むしろ不満があるとしたらあんただわ!! この際だから言っとくけど今月も給料薄給ってレベルじゃなかったぞおい!! そもそもあんたに対する不満なんて普段からぶちまけてますから!! こうしてあらためて言う必要どこにもありませんからね!!」
とにもかくにも銀時も新八も口から不満をあるだけぶちまけた後、一旦口論を止めてハァハァと肩で息をする。
そして銀時は息を整えてから気持ちを落ち着け、やがて口を開く。
「まぁ……なんだ。つまりはー……アレか? おめェが見たって言うその~……なんだ……」
「けものフレンズ」
「そう。そのげてものフレンズを見てすんげー文句があって今まで悩んでたワケだ」
「けものフレンズです。……まぁ、ぶっちゃけるとそんな感じです」
新八の悩みを聞いた銀時の感想は、
「バカじゃねぇの?」
と実直なものだった。
「……予想はしてましたけど、バッサリ言いますね」
特に傷ついた様子もなく、新八はジト目を向ける。
「たかがアニメだからな。そんなもんに一々精神乱される奴の気が知れねェよ」
「そりゃ、僕だってアニメにここまで凹まさせられるとは思ってみませんでしたよ……」
「じゃあ見るの止めればいいじゃねェか」
「いや、ホントそれが正解なのかもしれませんけど……1期のファンとしてはどこがおかしいのちゃんと検証したいというかなんというか、とにかく途中で脱落するのもいかんともしがたく……残り話数も少ないからもうこうなったら行くとこまで行ってやろうって気持ちにすらなってしまうワケで……」
「あ~……わかった。とにかくおめェの悩みの種は分かった。まぁとにかく、こっちが用意したもんは必要なさそうだな」
「用意したもん?」
不可解そうな表情を浮かべる新八を尻目に銀時は新八の部屋の扉の前まで来て襖の引き手に手を掛けて横へとスライドさせる。
「つうわけで、問題なさそうなんで帰ってもらっていいですか?」
「オヤ? イイノデスカ?」
タンクトップを着こんだ筋肉ムキムキ色黒マッチョマンと、
「安くしときますよ、シャチョサーン」
バスタオル一枚に小脇にたらいを抱えた女性が新八の部屋の前で待機していた。
「いや誰だよその人ら!! あんた僕をどうするつもりだったの!?」
と新八がツッコミ入れると銀時は気の抜けた顔で色黒まっちょに手で指しながら答える。
「こっちはマッサージのマサさん」
「ハーイヨロシクネ」
「もろ外国人じゃねェーか!! どこがマサさん!? つうかなんでマッサージ!?」
と新八がツッコミ入れると銀時が真顔で告げる。
「身体の凝りと一緒に心の凝りをほぐそうと思ってな」
「ちょっとうまいこと言ってんじゃねェよ!! 腹立つな!!」
新八はすぐさまバスタオルの女性を指さす。
「じゃあこの人はなに!?」
「こっちはベティだ。一応マッサージ師だな」と銀時は答える。「……下の」
「おい加減しろよマジで!! 青少年にどんな癒しを提供しようとしてんだあんたは!!」
「とりあえず、おめェの鬱憤を下から出そうと――」
「それ別のもんが飛び出すだけだろうがァァァァ!!」
帰れェェェ!! と言って新八はダブルマッサージ師を追い出すのだった。
*
「まぁ……なんだ」
とりあえず、話を本筋に戻そうとする銀時。
「おめェの悩みは分かった」
「ならもういいでしょ?」
と新八は気のない声で答える。
「たかだかアニメに対する不満。銀さんとか姉上に相談しても意味ないんですって」
「俺らに相談してもまともな受け答えになんねェから、掲示板に不満ぶちまけてんだろ?」
「いやまぁ……僕と同じ意見の人いっぱいいますし……どこが悪いかあらためて考えられますからね」
「なんでかは分かんねェが、おめェがそのけものフレーバーが気に入ってることは理解した」
「けものフレンズです。興味ないのは分かりますけど、せめて名前くらいは憶えて下さい。まぁ、そうですね。好きだったんですよ。〝1期〟は。でも……2期が酷くて……」
「不満と怒りが込み上げてきたんだろ」
「まぁ、つまりそういうことです」
「つうか、よくよく考えたらおめェ親衛隊やらの規則に抵触にしねぇの? アニメファンになるの?」
親衛隊とは、新八が寺門通というアイドルを応援する為に結成された親衛隊。要はアイドルファンクラブである。
「いや、さすがにそれは横暴なんでやってません。他のアイドル応援するとかアニメに現を抜かしてお通ちゃん応援をおろそかにするなら制裁ですけど。応援活動に支障が出ない限りは口出ししないって決まりになってます」
新八の問いに対して銀時は心底どうでも良さそうな顔で。
「あッ、そ。まぁ、どうでもいいけど」
「いや、あんたが聞いたんでしょ」
「まぁ、わかった。なら、最初の問題に戻るが、おめぇはその精神に異常をきたすアニメをこのまま見続けるつもりなんだな?」
「いや、精神異常をきたす言い過ぎですからね? とにかく不満と怒りを覚えずにいられないってだけですからね?」
「それでも十分だと思うけどな。とにかく、見るんだろ?」
「まぁ……はい。これからどうなるかって気にはなるんですよね。良い意味では決してないですけど」
「怖い物見たさってヤツか。まぁ、そう言うワケなら分からんでもないな」
銀時はため息を吐いた後、うんうんと頷きながら「わかった」と言葉を漏らす。
「なら、俺もそのアニメ見てみるか」
「えッ!?」
予想しなかった答えだったのだろう。新八は心底驚いたと言う表情をし、銀時は説明を始める。
「まぁ、なんでそんなにお前が怒り抱えてんだか純粋に興味あるしな。言っちまえば俺も怖いもんみたさってやつだ。それに俺も見とけば、ちったぁおめぇの愚痴の吐き出し相手に俺もなれんだろ」
「じゃ、じゃあ……銀さんもけものフレンズ見るってことですか? 大丈夫ですか?」
話しが通じる相手がこれからできる事が嬉しいのか、新八は表情を綻ばせるが同時に不安そうな表情を浮かべている。
「なに? そのアニメ、グロいホラーアニメなのか?」
「いえ。銀さんの苦手なホラー要素は皆無です」
「いや、苦手じゃないからね? グロだったら嫌な気分になるかもなーってだけだからね? ホラーならどんと来いだからね? まぁ、とりあえずグロもホラーもない題名通りのガキ向けアニメなんだな?」
「まぁ、子供向けって言えば子供向けですねかね? 1期はですけど」
時折暗い表情で妙な言い回しをする新八に眉間に皺を寄せる銀時だが、とくに質問はせず話を聞く。
「とりあえずざっくり説明すると、動物擬人化アニメですね」
新八の言葉を聞いて銀時は目を細める。
「それ……登場人物全員女とかじゃないよな?」
「…………」
いくばくかの沈黙の後、新八は無言で頷く。
「テラキモ」
天パ男の言葉に新八は顔面に青筋浮かべ頬を引き攣らせるのだった
*
「なにやってるアルか?」
志村邸の居間。
そこでは神楽が怪訝そうな表情でリモコンを操作する新八と頬杖を付く銀時を見る。
銀時は気だるげな表情で木造りの机に頬杖を付きながら神楽の問いに答える。
「ぱっつぁんが撮り溜めしてるげろものフレンズってアニメをこれから一気見すんの」
まったく視線を神楽へと移さない銀時の答えを聞いて、赤毛の少女は「おぉ!」と声を漏らす。
「それ私見たネ!! めっちゃ面白かったアル!!」
「えッ!?」
と銀時は驚きの声を漏らしながら神楽へと顔を向ける。
「なに? お前視聴済みなの? マジで?」
「前にパピーが『情操教育に良いって評判のアニメらしいので、折角だから神楽ちゃんも見て、優しい心を養って下さい』って手紙と一緒にDVD全巻を送ってもらったアル」
「へー……。んで? 面白かったと?」
「マジ面白かったネ!」
「へ~……なるほど。ガキ向けらしいが、出来は良さそうだな」
と銀時がけものフレンズと言うアニメに期待を持ち始めていると、
「ハァ……。まさか新ちゃんがアニメで悩んでいるなんて思ってもみなかったわ」
四人分の湯飲みと和菓子が詰められた木皿が乗せられたお盆を持ってきた妙が呆れた声を漏らす。
湯呑を神楽、銀時、新八の前に順に置きながら妙も正座で座布団へと座る。
「まぁ、いいんじゃね? そこまで深い悩みってワケでもなかったんだしよ。あいつのお気に入りのアニメがどんな惨状になってんだか確認した後から、テキトーに愚痴聞いてやりな」
「まさかこの歳になって弟と一緒にアニメを見る事になるとは思わなかったわ……」
「新八いわく、家族と一緒に見ても恥ずかしくはならないアニメらしいぜ」
「それはいいんですけど、私は銀さんをシバキ倒すだけで済むと思ってたから、残念で仕方ないわ……」
「うっし新八! さっさと見よう! 見て愚痴を存分にまき散らそう!」
「あッ、はい。じゃあ、再生しますね」
新八が再生のボタンを押し、アニメが始まる。
すると木々が生い茂る広大な大地の映像が映し出される。
神楽はアニメを見ながら和菓子をもっさもっさ食いながら口を開く。
「銀ちゃん銀ちゃん。そもそも、なんでぱっつぁんの部屋で見ないアルか?」
「DVDデッキが居間にある一台しかねぇんだとよ」
銀時も和菓子をもっさもっさ食べながら答える。
ちなみに二人共、一応画面から目を離していない。
映像に木の上で寝ている獣の耳が生えた少女の姿が映し出される。
「なぁ、新八」
と銀時が声を掛ける。
「なんですか?」
「なにこれ? 粘土かなにか? アニメの質感おかしくない?」
「最近よく見かけるCGですよ。あんた仮にもジャンプ読者でしょ? CGアニメくらいは知ってて下さいよ」
「あぁ~。それってあれだろ。ネズミの――」
「それ以上は言っちゃあかん!!」
新八が危ない発言を遮る中映像は切り替わり、ケモミミの少女が誰かを追いかけ始めている。
『うわぁ~! ウヒヒヒ!! ウヒヒヒ!! アハハハ!! ウヒヒヒヒ!! アーハー!!』
パチン!
突如として映像は切れ、真っ黒な画面となる。ようはつまりテレビの電源が切れたのだ。
新八、神楽、妙の視線がある人物――リモコンボタンを持った銀時に向けられる。
「つまらん。耐えられん」
と銀時は冷めた声で告げ、
「いや、早いですって」と新八。「気持ちは分からんでもないですけど。とりあえず、続き見ましょう?」
「いや、確信したね。コレはクソだわ。お前らガキ共と俺の感性が間違いなく合ってない。だって面白くねぇもん。ドラゴンボールやワンピースやナルトを思い出せ。あの最初のワクワク感がこれには決定的に欠けているじゃねぇか」
「まだ始まって1分ですよ? ドラゴンボールの引き延ばしより耐えるの楽でしょ」
「もういい。もうめんどくせー。これの為に貴重な俺の時間を割いてられねェ」
「年中暇人のあんたに貴重な時間なんてないでしょ?」
銀時は深くため息き、妙も微妙な顔で告げる。
「新ちゃん。私も新ちゃんには悪いけど、このアニメが面白って思えないわ」
「そりゃ開始一分で脱落したら面白さもヘッタクレも分からんでしょ普通」
こらえ性のない年上たちと思ったのか新八は深くため息を吐き、銀時は頭をボリボリと掻きむしってから告げる。
「おい、新八。2期って1期を見なくても普通に話とか理解できんのか?」
「えッ!? ……ま、まぁ……一応は大丈夫だと思いますけど……。2期見て話が分からないなんてことないでしょうし」
「もうまどろっこしいから問題の2期見せろ」
「ええええええッ!? いや、それはまずいですよ!!」
「えッ!?」と神楽は驚く。「マジアルか!? けもフレには2期があったアルか!! 見たいネ!!」
興奮する神楽をよそに銀時は気だるげな声で言う。
「別にいいだろ。おめェは1期が面白いから文句とかねェんだろ?」
「そ、そうですけど……」
「そんで問題は続編の2期なんだろ?」
「は、はい」
「なら、おめェの言う2期見た方が余計いいじゃねェか」
「いやいやいや!! 1期と2期って普通に繋がりがあるんですよ!! そんでもって1期見ないと2期のどこが悪いか判断できないでしょ!!」
「ばっかお前。俺はなぁ、おめェの愚痴聞く相手になってやると言ったが、Yesマンになるなんざ言ってねェぞ」
「いやいやいやいや!! Yesマンとかそういう問題じゃないんです!! 1期ファンの僕が怒ってる理由を理解する為にも2期の前に1期でしょうが!!」
「いいか? 俺はなぁ、アニメにしろマンガにしろ周りの情報に踊らされずにちゃんと見てから吟味して感想を持つ男なんだよ。ならよ、1期を知らない真っ白な状態で見た方が公平な感想が出来ていいじゃねェか」
「え、えェ……そ、そうなんですか……?」
「そうだよー。お前が1期をどれだけ過大評価しているかわからねェけどよ、もしかしたらただのファンと言う心理によって視野が狭まり目が曇っているだけかもしれねぇ。もしかたら2期は1期よりも面白い物かもしれねェ。なら尚の事、真っ白な状態の俺こそが2期を公平かつ厳正に審査できるだろ?」
「は、はぁ……。わかったような……わからないような……」
ちなみだが、銀時はただ単にけものフレンズ1期12話を一気見するのがめんどくさいので、2期9話を見てテキトーに新八の愚痴を聞く腹づもりなだけである。
戸惑う新八を追撃するように神楽がグイッと手を上げる。
「私も銀ちゃんに賛成ネ!! 2期見たーい!!」
「か、神楽ちゃん……あの…その……2期はね……えっと……」
なんだか凄く言い辛そうにする新八に更なる追い打ちをかけるように。
「ねぇ新ちゃん。もうこの際だからアニメの説明はしないでちょうだい」
という妙の言葉を聞いて新八は慌てだす。
「あ、姉上!? いやだって2期はですね――!!」
「ねぇ、新ちゃん。私も1から順に見るのは大切だと思うけど、ファンである新ちゃんから受け取る情報は公平性も欠けていると思うわ。それに、銀さんの意見もあながち的外れじゃないと思わない? だってファンじゃない人間が見た感想を聞く方が新ちゃんとしてもあらたな見解を得られるはずよ」
「う、うぅ…………わ、わかりました……。そこまで言うなら……」
折れた新八はDVDデッキを操作し始めながらけものフレンズ2を再生する準備を始める。
だがやがて新八は手を止めて、
「じゃあ、もう何も言いませんけど……そこまで豪語するならもう視聴を途中で止めたいと言うのなしですよ?」
訝し気な視線を向けながら確認してくるが銀時は構わず軽い口調で返事をする。
「わかった。侍に二言はねェから安心しろ」
「同じく」
と妙も頷く。
「じゃあ、はい」
と言って新八が再生ボタンを押す。
そして始まるけものフレンズ2。
シーンは進んでいき、主人公(?)とサーバルの会話。
そしてお腹が空いたというシーンで、
『『た、食べないでー!』』
プツン!
また画面が暗くなった。
そして新八、神楽、妙の視線は前と同じ方向に向き、リモコンをテレビに向ける銀髪は一言。
「すまん。俺、今日から侍止めるわ」
長くなりそうなので、短編ではなく連載と言う形で投稿させてもらいます。