なるべく製作には触れないようにはしているんですが、2はどうしても作品全体の批判になると触れなきゃならない部分もあって難しいです。
1か月が過ぎた。
場所は代わり、万事屋のリビング。
「ツライさんなのだ……アル」
ソファに体を力なくダラリと預け、天井を虚ろな目で見る神楽。
テーブルの向かいのソファでは新八と銀時が並んで虚ろな神楽を見ている。
神楽は力ない声で呟くように独白する。
「のけものブレンド2……全話見たネ……。やっぱり記憶から消せなかったから……気になったから……」
神楽は色のない瞳を銀時と新八へと向ける。
「アレ見て何が一番許せない思うアルか……?」
「かばんちゃんとサーバルちゃんの扱い?」
「全部だろ」
と銀時と新八が答えると神楽は虚ろな瞳をテーブルへと向ける。
「それもあるけど、一番許せないのはイエイヌの扱いネ……」
「神楽ちゃん……定春のこと考えたんだね……。そりゃ、許せないよね……」
と新八が言うと、神楽は「うん……」と力なく返事をする。
ちなみにけものフレンズ2を見た後の神楽は1週間近く定春に付きっ切りで傍にくっ付いていたらしく、逆に定春に嫌がられるレベルだったそうな。
神楽はボーっと天井を眺める。
「定春が居る身として、マジであのアニメには吐き気がした……」
「まぁ、吐いたしな……」と銀時。
「犬と家族どころか友達になれないどころか献身に鞭打つアニメにフレンズを名乗られたくないアル……。マジで改名しろヨ……」
「そ、そうだね……アレはあんまりにもあんまりだよ……」
新八はあまりの負のオーラに怖がって冷や汗を流しながら心から同意する。
神楽はどす黒いオーラを放ち続ける。
「ただただ不快ネ……。3話も使ってフォローもせずイエイヌの孤独描写して……なにがしたかったアルか……あのアニメ? ただ単に設定を視聴者に見せる装置アルか? マジで犬の飼い主に喧嘩売ってんナ……」
「ネット視聴者に『脚本なにも考えてない』と散々言わせるだけあるよな」と銀時。
「そもそもアレ見て私らにどうしろと? 飼い犬大事にしろと? アニメは大事にしてないのに? 何もできない視聴者に問題だけ見せてイエイヌ放置ってなにがしたいアルかこのアニメ。まずはお前らがイエイヌ救済してお手本みせろヨ」
神楽の言葉を聞いて新八は虚しそうに頭を垂れる。
「ホントにそれ……。アレホントに救いようがない……。伏線回収しても話の核心に触れないのも謎が一つも解けないのもホントに救いようがない……」
「家族が傷ついたら心配するし、怒るし、泣くのが普通ネ……。飼い主の責任すら描けないアニメにイエイヌを描く資格はないネ……」
「キュルル飼い主じゃねェだろ」
と銀時はバッサリ切り捨てる。
「イエイヌを再び孤独に突き落としたただの外道だろ」
「キュルルなんてクソはどうでもいいネ。問題はイエイヌの元の飼い主アル。そいつはイエイヌ放置と言うけものフレンズと言うアニメにあるまじき行為したネ」
「ホントそれホントそれな」と銀時は頷く。「飼い主の生死がどうだろうとイエイヌに対するあのアニメの扱いはマジで最低最悪の部類に入る。ましてやけものフレンズって題名のアニメでやっちゃダメなこと連発し過ぎなんだよホント」
「ただ単に念入りに犬の飼い主を怒らせただけですよね、アレ……」
と新八は呆れた声で呟く。
神楽はぐるりと体を半回転させて銀時と新八に背中を向ける。
「私にとってアレはただの虐待アニメネ。マジで胸糞悪いアル」
神楽はそのまま何も喋る事はなかった。
*
場面は代わり真選組屯所の居間の一つ。
そこでは近藤が座椅子に背中を預けながらボーっと縁側から見える庭を見ていた。
その様子を廊下側の障子の隙間から見ていたのは武装警察真選組鬼の副長と名高い――土方十四郎。
彼はとりあえず、ここ最近の近藤の様子を眺めていたのだが、とにかく心ここにあらずが続いていて口数も少ない。
もうとにかくどっかおかしいのは見て明らかなので、ため息を吐きながら決心を固める。襖を空け、近藤へと対面するようにテーブルを挟んで座布団に胡坐をかく土方。
土方はタバコの煙を口から吐いてから、咳払いをしてから近藤へと恐る恐る声を掛ける。
「ぁ、あぁ~……こ、近藤さん。ど、どうしたんだ? そ、その……まるで魂が抜けちまったみたいによ……。す、少しくらいは愚痴……聞くぜ?」
「……2だ」
と近藤は色のない目を天井に向けながら声を漏らす。
「2のお陰で……俺の心はもうレットゾーンのズタズタよ……」
「あ、あぁ……けものフレンズ2ね。はいはい」
どもりながらも相槌を打つ土方に近藤は、
「トシ……。アレを安易にけものフレンズなんて名前を付けてはいかん……。余計に苦しく……」
目じりに涙を溜めながら色のない瞳で見てくるので土方は慌てて立ち上がりながら答える。
「あぁ!! はいはい!! わかったわかった!! じゃあ俺、見る!! けも――じゃなかった! 2を見ようじゃねェか!! 待ってな近藤さん!! 俺がすぐに相談相手になって――!!」
「待てトシィィィィィィィィィ!!」
居間を出ようとする土方に近藤が四つん這いになりながら凄まじい勢いで近づき、土方の足をガシっと掴む。
近藤は涙を流しながら土方に懇願する。
「アレを安易に見てはいかァァァァァァァァァん!! 1期とセットで見たら最後!! 心を壊されてしまうゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「いや止めんなよ!! 話進まねェだろ!!」
「俺はお前まで傷ついて怒りの化身になってほしくないんだァァァァァァァァァ!!」
「わかった!! わかった!! 2だけ見る!! 2だけ見るから!!」
「もしくは1だけ見るんだ!! 2には触れるな!! 一切触れるな!! そうすればたのしー! 気持ちで過ごしていける!!」
「だからそれじゃ意味ねェだろうが!! 話が進まねェし!! とにかく2だけ見て戻って来るから!!」
そんなこんなで時間は経過する……。
「近藤さん……」
と土方が居間へと戻って来る。すると抜け殻状態だった近藤はすぐさま我を取り戻し、土方へと駆け寄る。
「と、トシ!! 見たのか!? 2だけ見たのか!?」
「あぁ、見た。2だけな」
そう言って土方は懐から手帳を取り出して開き、そして口からタバコを離して言う。
「そんで感想なんだが……ありゃなんだ? マジで意味不明なんだが?」
「そ、そうなの!?」
「いや、最初こそはまぁまぁどんな話かは分かってきたんだ。んで、6話ではなんか良くわかんないかばんて研究者がサーバルと知り合いくらいしか分かんなかった。9話はまぁ、気付いたが、ありゃ胸糞だな。描写不足でああなるなら一種の奇跡だ」
「そ、それで最終話まで感想は?」
「面白くねェと雑過ぎるの一言に尽きる。いや、1話の亀裂のシーンがマジで苦痛なんだが、他のシーンも面白いんだか面白くないんだか良く分からん。これは俺の感性の問題だから放って置くにしても10話~12話に掛けての雑さは目に余る。最終回辺りのキュルルのセリフにはマジで呆れたが……、とにかくこのアニメは何をしたいんだか何を伝えたいんだかよくわからんのがマジで問題だ」
そこまで言って土方は一回タバコを吸ってから吐き、言葉を続ける。
「一応は少し見直して回収されてないだろう謎や伏線や気になった点を書き連ねてみたんだが……」
土方が近藤に開いた手帳を見せる。
ざっと土方が謎に思った部分は……。
1.そもそもフレンズってなに?
2.そもそもセルリアンてなに?
3.ジャパリパークってなに?
4.かばんとサーバルの関係は?
5.なんでキュルルが気付いた海底火山にかばんは気付かない?
6.キュルルはなんでかばんにヒトのことも家のことも何も聞かないの?
7.7話はリレーの終盤の時、キュルルたちがワープしてんだけど? アレなに? 超能力かなんか?
8.マーゲイのサーバルを見た時の意味深な反応ってなに?
9.なんでファンがアイドルに暴力振るってんの?
10.アルマジロの使った檻はなんで壊れた?
11.キュルルのイエイヌの冷遇の理由のなに? ロボなの? 外道なの? イエイヌ嫌い?
12.アライさんとフェネックとカバンの関係って? 命の恩人てなに?
13.なんでリョコウバトが自画像要求したらキュルルは集合絵を渡してんの? 頭悪いの?
14.6話と11話の変な夢の正体ってなに? キュルルになんか特殊能力あんの?
15.そもそもなんであの高さから海に落ちたのになんで無傷? なんでスケッチブックどころかどこも濡れてないの?
16.なんでイルカとアシカはご褒美要求しない?
17.フウチョウの目的ってなに?
18.キュルルとフレンズたちって助けに集まるほど絆を深めた描写あったっけ?
19.イエイヌは? なんで集合してないの?
20.なんであのスピードでフルルが落ちるの?
21.なんで強いコピーセルリアンがワンパンなの? 強さが同等設定どこいった? フレンズ一人で無双できてるぞ? アルマジロにも負けてんぞ。フェネックのチョップで消滅してんぞ。
22.そもそも無双できるのに弱いフレンズを連れてくる意味は?
23.そもそもコピーセルリアンのほとんど棒立ちで囲ってるだけなの? 仲良くなりたいの?
24.リョコウバトが仲間に拘る描写そんなにあった?
25.リョコウバトは他のフレンズと初対面なのに仲間とは?
26.コピーセルリアンの強さって結局何なの? 思いの強さなの? コピーしたフレンズと同等なの? どっちなの?
27.キュルル今まで誰か積極的に友達になろうとした? 分かり合おうとした? 遊びを提示しただけでは?
28.そもそもコピーセルリアンの強さが思いの強さなら、キュルルは他のフレンズたちをどうでもいいとしか思ってないの?
29.大好き? イエイヌに冷遇しといて? 本当にロボかなんか?
30.だからフウチョウの目的ってなに? なにがしたい?
31.ビーストはなんでキュルルを襲わない?
32.なんでサーバルとカラカルは最初から本気出さない?
33.ビーストの上になんで瓦礫が落ちてくるの? 屋上なのに?
34.ビースト生き埋めなのになんでキュルルも他のフレンズも気にしない? キュルル大好きとか分かりあいとか言ったのはうそ? やっぱロボなの? 外道なの?
35.だからサーバルとかばんの関係は?
36.火山はどうした?
37.船のセルリアンは?
38.ビーストが生き埋めの上でライブってなに? 正気? 俺警察だけど取り締まるよ?
39.そもそもキュルルってなんなの?
40.のけもの約二人くらいいたけどそこんとこどうなの?
41.9話のサーバルの目が光った意味は? なんでビースト追い払えた?
42.最後の絵の意味は?
「多い多い多い多い多い多い多い多い多い多い多い多い!!」
と近藤は上げられる謎の数々に顔を青ざめる。
近藤の様子を眺めながら土方は問いかける。
「俺の私見も入っているが、気になったシーンに回収されない伏線に説明されない描写に謎はこれだけあった」
「俺でも忘れてる伏線と謎と気付かない描写不足があるぞ!! お前よく気付いたな!?」
「いやぶっちゃけつまんねェから謎とか描写不足とか露骨な伏線がとにかく目に付いてな。そもそもこれ、1期を見ると全部分かったりするのか……?」
「…………」
土方の問いを聞いて近藤は口を閉ざし、顔を背けながら答える。
「せいぜい分かるのはかばんちゃんとサーバルの関係とフレンズとジャパリパークの全体像とセルリアンぐらいだろう……」
「えッ? 後は?」
「なにもわからん」
「はッ?」
「ちなみに1期を知ったら2期の謎が増えるぞ」
「はァァァァッ!?」
口をあんぐり開けて驚く土方。だがすぐさま土方は真顔となり。
「なぁ……これって……マジでプロが作ったの?」
「…………うん」
「自主製作アニメじゃなくて?」
「………………うん」
「そもそもこんだけ回収しきれてない伏線や謎があって続編発表すらないって一つの作品としてヤバくないか?」
「…………………………うん」
「こんな雑なモンに金払う?」
「……………………ううん」
「アニメ業界やべェな……」
と土方が呟き、顎に指を当ててからため息を吐き、首を何回か縦に振る。
「まぁ……そのォ……なんだ。でも良かったんじゃねェ……の? かわいいフレンズはいっぱい出て来たんだし。物語として破綻しまくりでも。そう言うかわいい女子キャラで楽しむアニメなんていっぱい――」
「トシ。無理してフォローしなくていい……」
と近藤は首を横に振りながら真剣に告げる。
「トッシーと言うアニメオタクの怨霊を理解したお前になら分かるはずだ。可愛い女の子が出てくるアニメを俺が求めているならば、今期やっていたかぐや様だってわたてんだって五等分だって、それこそ大人気だったごちうさだってなんならプリキュアだって……アニメじゃなくても良いならギャルゲーだって良い筈だ」
「詳しいなおい……」
「フッ……2が過酷過ぎて癒しを求めに求めてしまった結果さ……」
悟ったような表情でアニメいっぱい見ました宣言をする近藤に土方はなんとも言えない表情を浮かべながら上司の話に耳を傾け続ける。
「だがなんでも良いわけじゃないだろう? どんなに可愛い女の子を主力としたアニメだってギャルゲーだって必ず各々なにか別の魅力が宿っているはずだ。量産型と揶揄されようが、それぞれにはそれぞれの良さがあると俺は思っている」
「まぁ、似たような菓子がどっちが良いかで論争が起こるようなもんだな……。どっちもどっちなんてのは何も知らない傍から見た奴の無責任な言葉って場合もあるからな」
「それはそれとしてだ。今言ったようにけものフレンズもまた、個別の魅力があると俺は言いたいんだ。けものフレンズにはけものフレンズにしかない魅力があったからこそ俺は絶賛し評価し好きになった。だからこそ、続編にもそれを少なからず求めたんだ」
「だが違った……」
「あぁ、そうだ」
と近藤は頷きながら悲し気に応える。
「例えるなら、ラーメンを頼んだら出て来たのはお椀に水と醤油をぶち込んだだけの料理ですらないナニカだった。ラーメンが好きな要素を残らずどっかに捨てた……そんなアニメだったんだ……2は……」
近藤の言葉を聞いて土方は「なるほどな……」とうんうんと頷いてから力強くうんと首を縦に振る。
「よし。もうすっげェ気になるしもやもやするから1期見てくる」
「えッ!? ちょッ!? まッ!? えええええええええええええええええええええッ!?」
驚く近藤をよそに土方は居間を出て行こうとする。
「こうなったら確認してやる!! もし1期も2期みたいな出来だったのなら俺は間違いなくあんたの脳みそを疑う!!」
「待って!! 待って!! 待って!! 待って!! 1期は面白いの!! だから余計に2期は見ちゃダメなの!!」
近藤が土方の肩を掴んで止めに入るが、
「離せ!! 話進まねェから!! そもそもそれ聞いたら余計に見たくなんだろうが!! 1期と2期の出来の違いを確認しに行く!! 諦めろ!!」
土方はそのまま近藤の手を振り切って居間をダッシュで出て行く。
「トシィィィィィィィイイイイイイイイイ!!」
近藤も慌てて追いかけるのだが、土方はある一室に鍵をかけて籠ってしまう。
「だから見ちゃダメなんだってェェェェェエエエエエエエエ!! 修羅になっちゃうからァァァァァアアアアアアアアアアアア!!」
近藤がドンドンドンドン!! と扉のドアを叩くが土方に応答はない。たぶんイヤホンか何かをしているのだろう。
「そもそもこんな部屋真選組屯所にあったっけ!?」
そしてまた時間は経つ……。
「………………」
またしても取返しのつかない事態になる予感を覚えながら近藤は土方が出てくるのを居間で天井を見上げながらボーっと待っていた。
すると、
「待たせたな。近藤さん」
土方が戻ってきた。
近藤は気づき、バッと上半身起き上がらせて恐る恐る土方に問いかける。
「だ……だ、大丈夫かト――!」
「2期マジで史上最悪な出来じゃねェかァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
かんぱつ入れずに叫び、天に向かって叫ぶ。
「1期の最終回まで見たら2期思い出して胸糞になったぞおィィィィイイイイイイイ!!」
「だから言ったんじゃァァァァァァァァァん!!」
と涙を流しながら叫ぶ近藤であった。
「腹立たしいことこの上ないぞ!! つうか2期はマジなんなん――!!」
*土方くんの怒涛の愚痴が終わるまで少しお待ちください。
けもフレ界隈が色々とヤベーイ!
もうダメだ……。