けものフレンズ2を見た万事屋+α   作:黒龍

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最終回:怒りの先 中編

 凄まじい勢いで愚痴を吐き出した土方が一旦落ち着きを見せたので近藤は恐る恐る。

 

「……落ち着いた……?」

「まぁ……」

 

 ようやく冷静さを取り戻した土方はタバコを吸いながら精神を整えている。

 そして、土方は取り戻した冷静な感情のまま近藤へと語り掛ける。

 

「……それで、近藤さん。1期を見た上での俺の忌憚のないけものフレンズ2の評価を言っていいか?」

「…………うん」

 

 土方はタバコの煙を吐いてから、言葉を発する。

 

「気持ち悪い。とにかく1期を見てから余計に嫌悪感が増幅する。最終回は特に。それに尽きる」

「まぁ、俺もそれは感じてた……」

「それで、どうして気持ち悪いのかを考えたんだが、俺は数式を持ちいて説明しようと思う」

「えッ?」

 

 と近藤はポカーンした表情を浮かべ、土方は手帳をテーブルの上に開いて説明を始める。

 

「まずけもフレ2期は説明されていない部分を数式――まぁ、足し算で表現してみるか……」

 

 と言って土方は、

 

X+Y=2

 

 数式を書いて隣にいる近藤に見せる。

 

「まぁ、こんな感じで表現してみるとしよう」

「トシ……」

「なんだ?」

「これは……どういう意味だ? ヒエラティックテキストか?」

 

 土方はイラついて顔に青筋を浮かべた後、

 

 〇+□=2

 

 に書き直す。

 

「これでどうだ?」

「おぉ! 足し算の穴開け問題か!!」

 

 と勉学がお足りない上司に土方はため息をつきながら話を進める。

 

「んでだ、まずは2期の前に俺が考えたこの当てはめをけもフレ1期の考察や伏線回収に使ってみる。それでだ、俺が思うに考察ってのは与えられた情報をこの穴あけ問題に一つ一つ数字を入れ込んで解を導くもんだと思ってる」

「ふむふむ……それで?」

 

 と近藤は納得しているんだかしていないんだか分からないような反応を見せ、土方はタバコを口に咥えて話しながらメモ帳に数字を記していく。

 

「まずは……そうだな……。1期の重要部分であるかばんの正体についてだな……」

「まさに目から鱗の感覚だった……」

「まぁ、そういう感想とかはいいから。んで、かばんの正体は12話全部見ると後から全部わかる事がちゃんと頭にすっと入ってくる」

「そうそう! アレ凄いよな! ただの演出と思ってたサンドスターが――!!」

「…………」

 

 土方はまたブチっと頬に青筋浮かべて睨むので近藤は「つ、続きをお願いします……」と勧める。

 

「……それでだ。まずかばんの正体がヒトのフレンズだと分かった事を数字の1として穴あけ問題に当てはめる」

 

1+□=

 

「そしてもう一つの数字としてアライさんの説明を入れる」

 

1+1=

 

「そして最後に1話冒頭のサンドスターと言う解が残っている」

 

1+1=2

 

「まさに気持ちいいくらいの伏線回収要素だ。ちゃんと用意された数字と言うパズルのピースが当てはまり視聴者をアッと言わせる。更にはアライさんが帽子を追いかけた理由もかばんが助かった理由も今までにちゃんと察せる説明が入れられてる為に違和感がなく本当に気持ちがいい」

「そうだ! そうなんだ! バカな俺でも楽しく見れるアニメでもある!」

「ちなみに一話に出て来た普通の動物の謎もちゃんと読者に解が導き出せるように設定が用意されている……」

 

 と言って土方はまた数式を出す。

 

「1話の動物……まぁなんの動物が知らんがそいつの近くにセルリアンがいた」

 

1+〇+□=

 

「そしてセルリアンはフレンズを捕食してサンドスターを奪い、元の姿に戻してしまう情報が開示される」

 

1+1+□=

 

「そして1話の謎の悲鳴……」

 

1+1+1=3

 

「開示された情報からあの動物の元はフレンズでありセルリアンに捕食されたという解が導き出せる」

「おぉ!! そうだったのか!! 知らなかった!! まさに小出しした設定と伏線を12話を使ってふんだんに使っている!!」

 

 近藤驚き、感嘆の声を漏らす。

 

「まぁ、とにかく分かりやすくそして想像しやすいレベルで伏線や設定や情報が張られ考察もしやすく、まさにたのしー現象を起こしているのだと俺は思った。あの内容なら小さいフレンズなら伏線や情報を考えずとも優しいフレンズたちの雰囲気、和やかな雰囲気に分かりやすい問題の解決、更に冒険のお陰でストレスなく見ることができる。それに伏線回収にも驚かされるだろうな。それに大きなフレンズなら考察しながら楽しむという要素も与えられているのもまた凄いと思う点だ」

「トシ! お前そこまでけもフレを分析したのか!!」

 

 近藤は感嘆の声を漏らし、土方は顎に指を当てる。

 

「とは言えこれは俺の私見だ。なによりこれが評価や考察として正解とは断言できんが俺が考えるうる限りでけものフレンズ〝1期〟に人気があると思った理由だ。ほとんどの描写に世界観としての違和感がなく、俺もたまに頭をカラッポにしながら考え、そして感情移入できた作品と思った」

「そうだろそうだろ!! そうなんだ!! たのしー! そして好き! と言う思いをこうやって語れるのは本当に俺としても嬉しい!!」

「だ が な」

 

 とここで土方の目元に影が差し、近藤が動きを止める。

 

「けもフレ2はこの12話かけて用意された伏線に情報に描写がマジで酷い」

 

 と土方は嫌悪感を露わにする。そして近藤の表情はどんどん暗くなっていく。

 土方は思いを吐露するかの如く激しく喋り始める。

 

「正当な続編だから1期に与えられた情報を踏まえた上でツッコミとかは我慢して色々と情報を当てはめていただけに本当にワケわかんなくなった!! もう気持ち悪いのレベルなんだよ!! おかげで1期まで純粋に作品が楽しめなくなるレベルだ!! 良いか!? 行くぞ!!」

 

 土方は手帳に数式を書き殴っていく。

 

「まずかばんと同じキュルルの正体なんだが、1話で与えられた情報を1とする」

 

1+□=

 

「んで12話まで使って与えられた情報を踏まえた上であいつの正体を数字として当てはめる」

 

1+□=

 

「これでなにを分かれってんだッ!!」

 

 土方は机をバンッ!! と叩く。

 

「1話の冒頭の装置の正体もあいつがフレンズかどうかもわかんねェのに考察ができるかァーッ!!」

「ま、待て! 落ち着くのだトシ! キュルルは自分でヒトと言っていたではないか!」

「あんな人でなしをヒト代表にされたくないんだけど!! そもそも俺にはあいつがフレンズにヒトって言われたからヒトって名乗ってるようにしか見えなかった!! つうかあいつは自分の事がなんにも分かってねェのになんであの世界観で自分がヒトって認識できてんだ!? もうワケわかんねェよ!! 気持ち悪い!!」

「い、言われてみれば……」

 

 近藤は土方の言葉に否応なく納得してしまい、そのまま土方の独自の解説が続く。

 

「そして一番の問題点であり俺を激怒させた一つである1期のかばんとサーバルの謎だが……二人がバットエンドを迎えた情報を解の100とする」

「えッ? なんで100?」

「そしてフレンズが再フレンズ化したら記憶失くす情報を10とする。そして二人の謎の過去にあったことを踏まえた数式にすると……」

 

10+〇+□+×+△+▽+?+$+%=100

 

「いやなにこれェーッ!?」

 

 と近藤は謎の数式を見てビックリして顔を青ざめさせる。

 

「そもそも情報が少な過ぎんだよ!! あの二人の終着点の過程がどうなったのか全然分かんねェもんだからすっげェもやもやしてイライラして気持ち悪いんだよ!! そもそも解き明かされすらしない要素をわざわざ持ってくんじゃねェよ!!」

「い、いや!! きっとかばんちゃんとサーバルちゃんのアレは考察の楽しみとして考えられなくも――!!」

「つうかそもそもバットエンド考察とかマジで鬱になる要素をけものフレンズで持ってくんじゃねェーよッ!! 荒廃したパークの妄想による殺伐とした考察ならまだしもあの優し気な雰囲気のまま好きになったキャラの不幸をわざわざ考える要素なんてけものフレンズで欲しくねェんだよ!! ドSの総悟くらいだぞこんなん喜ぶの!!」

 

 なにも反論できる要素が無いのか近藤は口を閉ざし、土方がどんどん書き殴っていく。

 

「そしてコピーセルリアンの情報がマジで気持ち悪いの一言だ!! とりあえず、コピーセルリアンはフレンズと同等の力を持っているから多くのフレンズたちを連れて行くと言う納得の解を用意してくれた!!」

 

1+1=2

 

「う、うん……」

 

 と近藤が頷き、「だがしかし!」と土方は説明を続ける。

 

「これに強キャラ設定のフレンズのワンパン無双を加える!」

 

1+1+1=2

 

「んんん?」と近藤は困惑。

「破綻した!! なんだアレ!? フレンズ大集合が思いっきり腑に落ちなくなっちまったじゃねェか!! 気持ち悪いことこの上ねェよ!! せめてフレンズVS偽フレンズの1対1で勝っていく描写が有ったら納得でできたのにな!!」

 

 土方は不快を露わにし、両手の指をわなわなと動かす。

 

「そもそも最終回に至っては色んな要素を散りばめたまま全部投げだされてるもんだから嫌悪感が倍増して余計に脳が混乱して気持ち悪くなる!! なんだコレ!? なにかの耐久テストか!?」

「まぁ、さすがに俺も新しい要素を生み出し続けたまま全部投げだすとは思わなんだ……」

「だがなによりこのアニメで最大最悪の納得考察要素がマイナス部分と言うのもマジでひっでェんだよ!!」

「いや、俺にはほとんどの要素がけものフレンズとして破綻しているようにしか見えなかったんだが……」

 

 と近藤が力なく言うと土方がビシッと指を差して答える。

 

「まずはキュルルがサイコパスもしくはただの外道って解だよ!!」

「えッ?」

 

 近藤の解を聞き、少し声を冷静なモノへと戻した土方が数式を書いていく。

 

「一つ目はキュルルがイエイヌにした冷遇。それにビーストを特攻させた挙句に見捨てておきながらなんの憂いも悲しみも見せないで笑顔を浮かべる姿……」

 

1+1=サイコパスOR外道

 

「もうこの解しか導き出せん」

「いやいやいやいや!! キュルルがみんな大好きとか分かり合いとか言ってたじゃん!!」

「あれもイエイヌの冷遇とビーストの特攻させて見捨てて悲しまない要素を加えたらもうマジでただのサイコだぞ? アレした上でみんなと分かり合いたいとか仲間だとかのたまって挙句には大好きとかほざいたんだぞ? しかもコピーセルリアンの強さが思いの強さなら、ワンパン雑魚の他セルリアンから考えてあいつの大好きは真っ赤な嘘なんだぞ? それ見てサイコか外道以外のなんだと思えと?」

「…………ごめん……無理……」

 

 近藤は呆れたと言う感情を表すように頭をガックリと落とす。

 土方はタバコを一息吸ってから灰皿を使って火を消し、すぐに新しいタバコを一本出して火を付け吸い、煙を吐く。

 

「そしてこれがそもそも一番の胸糞な解なんだが……このくそフレ2ってのは要は1期を否定する為に作られたと推理できるような作りになっちまってる」

「そう……思う……?」

「最後の絵がマジで意味不明でな。だがよくよく思い出してミライの事を考えたら腑に落ちた。ミライはパークが崩壊する前に働いていた職員だろう? そしてパークを崩壊する前はキュルルとサーバルとカラカルの三人が仲良しで描かれている」

「うッ……」

 

 近藤は苦虫を噛み潰したような顔となり、土方はタバコの煙を深く吸ってからペンを動かす。

 

「つまりだ。サーバルがかばんの記憶を失くし……」

 

1+

 

「挙句は思い出したのかどうかもわからずにお別れしてキュルルの元に戻る……」

 

1+1+

 

「そしてあの絵からキュルルとサーバルとカラカルが三人は昔から仲良しのお友達だったと言う情報……」

 

1+1+1=

 

「そしてキュルルは見事サーバルとの仲を取り戻したと言う情報……」

 

1+1+1+1=

 

「これだけ揃った情報から2期に隠されたテーマはもう……わかるよな」

 

 土方は近藤へとペンを渡す。

 

「サーバルとかばんちゃんとボスの旅を主軸とした1期の完全否定……」

 

 1+1+1+1=死

 

「「…………」」

 

 提示された情報で導き出した回答に二人は黙りこくり、

 

「うぅ……!!」

 

 近藤はもう我慢の限界だったのか両腕で顔を覆いながら机に突っ伏す。

 腕で顔を覆いながら嗚咽を漏らす近藤に顔も目も向けずに土方は煙を吐く。

 

「なるほど……あんたが傷ついた理由はよ~く分かった。こりゃ、1期が好きな奴にマジで最低最悪の嫌がらせになっちまってるな。故意かどうかはともかくしてもだ。二次創作じゃなくて公式自らこんな考察を持ってくるとはな」

「なぜだ公式ィィィィィ!! なぜ2期を使ってここまで1期を否定するゥゥゥゥゥゥ!! 故意でないとしてもこの内容に誰か異議を唱えなかったのかァァァァァァァ!!」

 

 近藤は悔しくて悲しいのかわんわんと鳴きながら吠え、土方は遠い目を向ける。

 

「そもそも1期の世界観を色々とぶち壊してるだけでもファンが憤慨ものなのに公式自ら1期を否定しに来るような描写を持って来たら怒るどころかもう泣き寝入りもんだ。かばんとサーバルとボスの旅の謎を解かずに強引に終わらせた時点で色々と察せるが……こうも念入りに死体蹴りかましてくるとはな……」

「なぜ伏線の回収も整合性を合わせるのもキャラの統一性も疎かにしてこういう部分だけはちゃんと作ってるんだァァァァァァ!!」

「悪意か、それともよっぽどけもフレが自分たちの物だと主張したかったか、はたまた本当にウケると思ったのかどうかは知らんが、俺としてはこの未完成品を完成品として放映しただけでも鳥肌もんだ……。作画の崩壊、杜撰な描写、辻褄の合わない話、そんな作品は世にごまんとある。だがそんな不出来なモンでも許容できちまうのが創作の世界でありアニメなんだろう。だが、ここまで伏線も考察も展開も本筋も説明も情報も辻褄も整合性も色々とぶん投げて考えるのを放棄させた挙句は悪意の存在を匂わせる作品をとてもじゃねェが俺は許容できるとは思わねェな……」

 

 土方はタバコの煙を吐いてから、天井を見上げる。

 

「もしもだ。この作品が悪意も敵意もなく作り上げられたのだったとしたら、作り手はかなり危ない架け橋を渡る事になる。キャラクターに悪意があるんじゃなく作品そのものに何らかの悪意が盛られてるとちょっとでも判断されるモンをネットじゃなく公共の電波で流した時点で公式としてはOUTだろうな。案の定、ネットじゃもっぱら悪意ある説、もしくは悪意がないとしたらこの作品の骨組みを作った奴はクリエイター失格か無能って言う話題で方向は決まっちまってるらしい」

 

 土方の言葉を聞いて近藤は頭を上げて真顔で告げる。

 

「トシ……知らないのか? 今出揃っている情報じゃネットで2の悪意は……」

「近藤さん……」

 

 土方は近藤の肩をポンと叩く。

 

「言わない方が良い事もある」

 

 土方は首を横に振って優し気に声を掛け、近藤は深く首を縦に振る。

 そして土方は手を離し、説明を続ける。

 

「まぁ、そこんとこの精査は2を見た奴ら全員に任せるとするが。なんにせよ、このアニメは誰も救われず、なんにも得られなかったってことだな」

 

 やがて土方は近藤へと顔を向ける。

 

「なぁ、近藤さん。2を先に見た俺でさへイエイヌとビーストの時点でキュルルはもう許容できんのだが……あんたはよく1期を見てあまつさへ2の最終回見てからでもキュルルを擁護しようとしてたな……。辛くないのか?」

 

 近藤は身振り手振りを使って自身の気持ちを表現しようとする。

 

「俺だってなぁ、キュルルは受け入れたかったんだ。新主人公どんとこいの精神だ! 前作の主人公とは違うキャラと物語を楽しめるのだから!」

「だが主人公が酷過ぎんだかストーリーが酷過ぎんだか分かんねぇがとにかくアレを受け入れるのが困難な要素がてんこ盛りになった」

「そうだ! ジュースは飲めても下水を飲めるわけがない!」

 

 と近藤は胸を叩きながら嘆き、更に心の思いを吐き出す。

 

「二次創作のオリキャラだってどんとこいだ! 原作に見られなかった物語を見られるのだからな! それこそ歴史改変によって生まれたIFによる原作キャラたちとオリキャラの新しい関係図を見る事ができるのなんて二次創作以外にはない! 設定改変だろうが歴史改変だろうがどんとこいだ!! でも気に入らなかったら拒否はします!!」

「まぁ、根幹には別物と言う安心感が生まれ、スナック感覚で楽しむことができる世界なんだろうしな」

「そうだッ!」

 

 と近藤は強く返事を返し、指をわなわなと動かす。

 

「でも〝公式続編〟の2は無理だ!! 何度否定しようとしても現実は覆らなかった!! アレはもうIFでもなんでもなく正当な続編であり正史扱いだから! 例えるならそう! 楽しみにしていたギャルゲの続編でお目当てのヒロインと結ばれてイチャラブ見せられるかと思ったら、いきなり冒頭で新しいゲス男が現れてヒロインの記憶は消され、あまつさへその二人のイチャラブを見せられた挙句、ヒロインにさよなら宣言されたようなそんな気分になった!!」

 

 近藤の説明を聞いて土方はうんうんと顔を立てに動かす。

 

「まぁ、概ねマジでそんな感じだからな……」

「更にエンディング迎えてその新しいゲス男が主人公より昔からヒロインと恋仲というとんでも事実が飛び出すんだ!! まるで公式が主人公を排斥しあまつさゲス男を認めろ認めろと訴えかけてきて恐怖と気持ち悪さを感じてしまうんだ!!」

「本当にそう解釈できるのが尚のこと笑えねェな……」

 

 土方はふぅとタバコを吐き、「まぁ、だがしかしだ」と言って言葉を続ける。

 

「そもそも長編作品だったり続編だったりで新主人公だろうが新キャラだろうが受け入れさせるのは往々にして難しいだろうからな。認めさせられるかは作り手の腕次第ってとこだろう。結果は積み重ねの不足に描写不足に余計な描写が化学反応を起こしてドエライことになっただけだったが」

 

 近藤は力なく頭を垂れる。

 

「そこはもう仕方ないと納得するしかない……。だが、俺がなによりショックだったのは……けもフレ2と言う作品が、決して、肯定できない要素をいくつも作った事だ……」

「…………」

 

 土方はただ近藤の吐露を聞いている。

 

「けもフレ2は確かにキャラデザは良い! OPも良かった! 次回予告も良かった!! ペパプライブも良かった! フレンズがかわいいと思える描写も確かにあった! イエイヌちゃんやロードランナーちゃんを生み出した功績も認めよう! 1話~7話まで好意的に見て今後に期待だってしていた!! これからなんとかなるって!! 1期ファンがちょっと騒ぎ過ぎだろうって!! だがしかし!! それらすべてを払拭して見えなくするほどアレは俺に不快感と嫌悪感をもたらしたんだ!! 8話やイエイヌちゃん回ですら認められない要素満載なのに最終回の隠されたテーマまで解釈してしまうと2自体を肯定する事は決してできない!! いや認める事すら(はばか)れる!!」

 

 そこまで聞いて土方は呆れた表情を浮かべながら同意する。

 

「そりゃ、2を1期全否定って解釈しちまったら1期ファンは肯定なんざできねェだろ……。そもそも暴力に次いでイエイヌ回になった時点で無理か……」

「そうなんだ! 1期好きと2期好きをわざわざ対立させたいのか2は!? 愛犬家すら怒らせただけでも危険だと言うのに!!」

「まぁ、憶測でしか語れんからなんとも言えんが一つの作品を通して1期を認めない&けもフレ俺の物と言う鉄の意志は感じられちまったな。否定する部分だけしっかり描いて後は雑になったと捉えられるのがある意味凄いが」

「続編が作られ前期のテーマ、更には前期主人公の存在を過去も未来も使って否定したなんて作品を俺は未だかつて見たことない!! ゲームだと前作の悪い部分を取り除いて作品を向上させたのなら良く聞くんだが、その斜め下をされるとは予想もしていなかった!! アレは視聴者を楽しませる為に作られたアニメとは程遠いナニカだ!!」

「いやホント……その言葉に尽きるな……。マジで楽しませる為に作られたとは思えねェよアレ……」

 

 土方はタバコを吸っては吐き、近藤は俯きながら語気を弱めながら語る。

 

「ネットじゃ2の視聴を本気で止めさせる有様。視聴済みの者たちからは呪詛と怒り悲しみが撒き散らされ、1期1話の動画じゃ助けを乞うありさまなんだ……」

「まぁ、クソゲーみたいにネットじゃネタ的な意味で人気になった例もあるが……」

「ある動画サイトを見たか!? かばんさん黒幕説! キュルルロシアのスパイ説! けものフレンズ2地獄説! すっごーいいっぱいある批判動画と作品の粗を考察する動画の数々! あとは皮肉った動画がちらほら! ネタですら褒めてる物なんてほとんど見かけなかったぞ!! けもフレ2関係で目に付く人気動画はそう言うものばかりだ!! ……まぁ、批判動画もなんとか褒める点を出してくれる所もあるにはあるし、ネタで頑張ってくれてはいるが……もうそう言うことなんだぞ……あのアニメは……」

「……マジでけもフレ界隈地獄だな…………」

「各所は荒れに荒れ、昔のようなたのしー雰囲気はどこにもなく……けもフレ2の周りはただただ阿鼻叫喚の地獄と相成ってしまった……」

「…………」

 

 土方がただただ悲しい現実に何も語れず、近藤は俯きながら頭を左右に振る。

 

「実はな、トシ。お前に相談する前に俺を心配して山崎と総悟が声を掛けてくれたんだ」

 

 山崎退。真選組密偵であり、地味がトレンドマークの男だ。

 

「俺としては巻き込みたくはなかったが、声を掛けてくれたザキと総悟の厚意に甘えて思い切ってけもフレ2に苦心していると相談したんだ。するとな――」

 

『あぁ……2ですか。やっぱ酷かったんですね」

 

 山崎退。真選組密偵であり、地味がトレンドマークの男だ。普段は不幸な目に地味に遭遇する男ではあるのだが。

 

『俺、色々と騒動とかも考えて、3話辺りで嫌な予感したんで切っちゃいましたが、やっぱりひでェ出来だったんですね……。ネットも炎上中みたいですし……。ご愁傷様です……局長。ちなみに1期は見ましたよ、話題になってたんで。面白かったです』

 

「っと、ザキは下調べを怠らず危険察知能力をフルに生かして最悪の事態を回避したらしい」

「なるほど。そりゃ、賢明な判断かもな……」

「そして総悟に至っては……」

 

『2ですかィ? そりゃ、あんな面白いモン早々ありませんぜェ。だって……』

 

 沖田総悟。真選組一番隊隊長であり、

 

『――あそこまで〝大炎上《ばんがいへん》〟が愉快な作品なんて早々ありませんからねェ』

 

 サディストとして有名な青年だ。

 

『あの界隈は最近結構な面白炎上してるんで、俺は楽しんでますぜェ。あッ、気になってつい1期は見ましたけど、パンチは弱いですが、良いんじゃありませんかねェ? 裏設定は中々殺伐としてしてますしねェ。まぁ、2期は1話で〝クソ〟と確信したんで1話切りしました。俺ァ今、12.1話を楽しんでるで、近藤さんも切り替えて後日談楽しむ方向にシフトした方が良いですぜェ』

 

 沖田の言葉を思い出した近藤は薄っすら笑みを浮かべる。

 

「なんだかんだ2と好意的に向き合ってるようだ……」

「いや、ただの野次馬根性だぞそれ……。あいつ楽しみ方まで歪んでな……」

 

 土方は呆れた表情を浮かべ、近藤は満足げな表情で告げる。

 

「だが、俺としてはザキと総悟まで2の犠牲にならずに済んで安心している」

 

 と言って近藤はゆっくりと顔を上げて遠く見つめるような憂いを帯びた眼差しで天井を見つめる。

 

「けもフレが輝かしかったあの頃が遠い昔のようだ……。1年くらい前は、空前絶後の大ヒットで盛り上がったと言う情報に当時けもフレを評価していた俺はとても興奮したものだ……。これからどれだけけもフレが盛り上がるのだろうと……一体どれほど伝説の打ち立てるのだろうと……期待に胸を膨らませていたのにな……。今は見る影のないまったく真逆になってしまったが……」

 

 近藤は右手で胸をバン!! と叩いて胸倉を力いっぱいに握りしめながら首を垂れる。

 

「だが何より俺が一番悲しいのは……1期を純粋に楽しめなくなった事だ……!!」

 

 絞り出すように近藤は言葉を吐き出し、悲しみのあまり嗚咽と共に涙を流す。そして土方へと顔を向け強く言い放つ。

 

「トシッ! 俺は1期が好きだ!! サーバルちゃんとかばんちゃんとボスの旅が大好きだった!! あの優しいフレンズたちが好きだった!! 大好きだったんだ!!」

 

 悲しみと言う気持ちを宿した言葉を土方はただ黙って聞き、近藤は吐露を続ける。

 

「だがそうやって好きだと思うほどに……2期で待つかばんちゃんとサーバルちゃんとボスの結末を思うとただただ苦しい……!! ギスギスするフレンズたちを見て辛い……!! 2期は1期の世界をことごとくぶち壊してくる……!! あんなの……我慢できない……!!」

「…………」

「昔のようだと言わんばかりにキュルルの元に戻っていくサーバルを思うと……やるせなくて仕方なくなる……!! かばんさんの涙を見て苦しくなる!! サーバルの本当の親友がキュルルだったなんて後付け……あまりにもあんまりじゃないか……!!」

「まぁ、好感度がゼロどころかマントルに到達するくらいマイナスな主人公の元に戻っていく人気ヒロインなんて公式で見たくねェわな……」

 

 近藤は頭を垂れ、横に振りながらパン! パン! と拳で膝を叩く。

 

「キャラではなく公式から邪魔者扱いされるかばんちゃんが……あまりにも不憫過ぎる……!! イエイヌちゃんの孤独な姿は不憫を通り越して悲惨過ぎる……!! 2はただただ……新しいキャラも既存のキャラも不幸にしていっただけだ!! 愛も何も感じられないんだ!!」

 

 そのまま近藤の独白を終え、しばしの間ただ頭を下げて口を閉ざしていた。

 すると、土方はため息を吐いた後、言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、簡単に情報を統合するとだ。あのアニメ界の邪神とも呼ぶべき存在が完成するには――」

 

 土方は右手を顎より少し下の左の位置に置きながら語りだす。

 

「どんどんつまらなくなる、伏線はほとんど回収しない、辻褄も描写もキャラもどんどん整合性が取れなくなる、胸糞要素あり、ファンだともっと胸糞、前作キャラは雑に扱う、虚無、主人公は最悪、大人気だった前作のファンが良かったと思う部分をこれでもかと壊した上で否定、そしてプロが作った公式作品……」

 

 土方自身が悪いと思った部分を列挙する度に右手を左から右へと動かし、言い終わると手を下へと降ろす。

 

「この全ての力が合わさり、初めてあの邪神が完成するのか……。すげェなやっぱ、まるで儀式みてェだ……」

 

 土方がある意味感心してうんうんと頷き、呟く。

 

「これでワザとじゃなかったら、ある意味神業だな……」

 

 すると、

 

「トシ……」

 

 近藤は土方の名を呼び、鋭い声で語り掛ける。

 

「俺はこれから万事屋と共にこの憤りと決着を付ける為に最後の戦いに向かう……お前はどうする……?」

「ふぅ……」

 

 土方はただタバコの煙を吐くのだった。

 

「そりゃ、決まってんだろ」

 

 

 

 場面は移り変わり、場所はビルの屋上。

 日は沈み、外の景色は完全に夜へと変わった。

 ビルの屋上の上――鉄柵の傍には桂小太郎、そして彼に対面するように十数歩離れて立つのは銀時に新八。

 

「お、おいヅラ、止めろ」

 

 少しどもりながら銀時が右手を出して声を掛けると、遠い景色を眺めていた桂は勢いよく振り返る。

 

「ヅラじゃない桂だ!! 止めるな銀時!! 俺は最早この世界に愛想が尽きた!!」

 

 桂は両手にはボール型の爆弾が握られ、額にはハチマキが巻かれ両側の側頭部には火が付いた蝋燭がくくり付けられ、和服の至るところにはボール型の爆弾がくくり付けられている。

 桂は涙を流しながら吠える。

 

「最早俺の好きだったけものフレンズは帰ってこない!! 公式の名の元に好きと言う気持ちも思い出もただただ蹂躙されたのだ!! こんなドロドロした感情のまま国を憂い、戦う事だってできはしない!! けものフレンズ2が記憶に残っている限り俺の怒りの炎は消えることはないんだ!! まるで発作のように問題ある部分を思い出してしまう俺の気持ちがお前にだって分かるはずだ!!」

 

 呪詛の化身となった桂は身振り手振りを大仰に振って自身の気持ちを表現する。

 

「12話と9話、更には公式集合絵を思い出すだけでも胸が締め付けられて反吐が出る!! だがなにより一番許せんのは最終回だ!! 俺もせめて最終回は伏線を少しは回収して少しはまとまって終わるだろうと思ったんだ!! 少しは皆が掌を返すような最終回になるだろうと言う期待もあったんだ!! なのに向き合ってみたらあの出来だ!! あそこまで斜め下の最終回を見たのは初めてだ!! 嫌悪感で何度吐き出した事か分からん!! アニメでここまでダメージ受けたのは始めてだ!! 俺にとって6話以降は地獄と言っても差し支えない!!」

「いや……まぁ……すんごく分かりますけど……」

 

 新八が微妙な表情でうんうんと頷き、桂は強く言い放つ。

 

「もうこうなれば強硬手段だ!! 悪意あるこの作品をこの世から一片の残らず消し去ってくれるわ!! 俺のこの怒りが悪意であると言うならば、悪意を持って悪意に鉄槌を下すまで!!」

「よしわかった! 俺も手伝う! 2を根絶やしすんぞッ!!」

 

 と銀時が思いっきり賛同するのですぐさま新八が。

 

「ちょッ!? 銀さん! 違うでしょ!!」

「じゃ――なかった……。お、おめェが怒る気持ちも分かる。だけどテロ行為はマジで止めろ」

 

 銀時は少しどもりながらも右手を出して桂を落ち着かせようとし、新八も右手を出して少しどもりながら声をかける。

 

「そ、そうですよ桂さん! んなしょうもないテロしたらキュルル以下ですよ!」

「あのクソガキと一緒にするな!!」

 

 と桂は怒りながら右腕を横にぶんと振る。

 

「そもそも貴様らネットの反応を知っているか!? 2期は1期と違って子供に見せられないアニメどころか情操教育にすら悪いアニメと揶揄されるまでに成り下がってしまったんだぞ!! あれだけ子供にも見せられるアニメともてはやされていたのに、今じゃ子供は主人公を嫌う、挙句はフレンズであるサーバルやカラカルまで嫌われる始末だ!! そして極めつけはねっとちほーの大炎上だ!! ヤバイ情報どんどん飛び出しけもフレ界隈は地獄業火もかくやっと言った有様だぞ!! どうなっているいんだけものフレンズ!! どうなっているんだアニメ業界!! もう嫌だッ!! もうたくさんだッ!! こんなテロアニメが世に蔓延ると言うのであれば、俺自ら鉄槌を下してくれるわ!!」

「いやだからって店舗に並ぶDVD爆破と止めて下さい!! マジでしょうもない!!」

 

 と新八がツッコミ入れる。

 

「そもそもそれだと被害被るのがお店だけなんですが!?」

「そもそもDVDに攻撃しても2が倒せるワケねェだろ」と銀時。

「ならばこのまま泣き寝入りしろう申すか!!」

 

 桂が怒りのままに声を張り上げ、銀時は右の拳で胸をトントンと叩く。

 

「俺たちは散々あの作品に怒らされ踊らされ、最後の最後まで傷つけられてきた。でもこのまま泣き寝入りしたって気が収まるワケじゃねェ。だったら――」

 

 と銀時は低い声を漏らす。

 

「俺たちが最大限出来る俺たちなりの方法で決着を付ける他ねェだろ」

 

 




ついに次回で最終回となります。
冷静になった今から考えると当時はホントに怒りで我を失ったと言う感覚に近いものであったなと思ってます。
怒りを発散させる為に小説を書いているお陰でギリギリ冷静な思考ができていたんじゃないかと思うレベルだったと思います。
怖くて忘れられない映画や不満を覚えた作品やキャラは数ありますが、作品自体に怒りが止まらなくなるアニメなんて後にも先にもたぶんけもフレ2以外に出会った記憶はないですね。

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