【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21]   作:くろわっさん

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デアラアニメ勢です。よろしくお願いします。



第1話 俺の行き先?あの太陽にでも聞いてくれ

 ―――メンズナックル。それは伊達ワルを志す漢の聖書(バイブル)。何者にも曲げられぬ己を貫き、自らの流儀(スタイル)を魅せ誇る。その輝きは、この壊れた世界で何を示すのか―――

 

 

 

 

 30年前、ユーラシア大陸中央部を突如襲った超大規模な空間震動現象。1億5千万人の死傷者を出した“ユーラシア大空災”と呼ばれる災害を皮切りに世界中で同様の現象、通称“空間震”が観測されるようになった。

 

 一時は落ち着きを見せていた空間震だが、5年前より日本を中心に再び発生するようになっていた。

 

 

 

 

 そんな変わってしまった世界。その日本の一都市、天宮市では変わらず朝を迎える一人の男がいた。

 

「太陽は今日も俺を照らすためにやってきたか。その殊勝さは誉めてやってもいいな」

 

 お天道様に傲慢な評価を与えるのは顔立ちの整った青髪の青年だ。目覚まし時計が職務を全うし、響くベルと共に起床して、いの一番に口にした台詞とは思えない。

 

 青年の名は五河士道(いつかしどう)。都立来禅高校に通う二学年の生徒だ。但し、既にわかるように何処にでもいる普通の高校生とは少し違う。

 ひとつ言えるのは彼がお兄系ファッション雑誌“MEN'S KNUCKLE(メンズナックル)”の愛読者であるということだ。

 

「おにいちゃーん!朝だよー!ってやっぱりもう起きてる!」

 

 元気よく甲高い声を響かせて士道の部屋のドアをノックもせずに開けてきたのは、真っ白なリボンで結った真っ赤なツインテールを揺らす女の子。彼女は士道の妹の五河琴里(ことり)だ。それも何時ものことなのか、彼は妹を一瞥すると軽く挨拶を済ませて再び窓から太陽を見上げる。

 

「朝からたそがれちゃって、おにいちゃんは相変わらずキザなのだ。ホントに早起きだから起こしがいがないよー」

「コペルニクスに地動説を説いたのは俺だぜ」

「またスッゴい嘘ついて…まったくおにいちゃんは何処にいこうとしてるの?」

 

 誰にでもわかるような妄言を琴里は軽く受け止めているが、実際あまりにも堂々と言い切るものだから困惑していた。それでも士道はぶれることなくスカした態度を崩さない。かなり痛々しい中学二年生がよく陥る精神疾患――通称、厨二病――を患っているようにも見える。

 

「俺の行き先?あの太陽にでも聞いてくれ」

 

 ……本当に何処にいこうとしているのか。その答えは彼のみぞ知る。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 支度を済ませて、朝食をとりながら士道と琴里はテレビを見ていた。流れるニュース番組では雑多なニュースと共に空間震の話題にも触れていた。

 

「最近また多くなってきたよね、空間震」

「俺という史上の存在にこの世界が震えあがっちまってんだ。皆には悪いとは思ってるよ」

「ッ!……もし本当におにいちゃんが空間震の原因なら、世界中から命を狙われちゃうよ。そんなのやだぁ」

 

 琴里は一瞬だけ渋い顔をして言葉に詰まったが、すぐに士道の冗談に合わせておどけてみせた。そして、そんなことよりと言いながら直ぐ様話題を変える。

 

「そういえば今日は始業式だけだから、お昼までに学校終わるよね?」

「おう」

「琴里、デラックスキッズプレート食べたーい!」

 

 琴里は満面の笑みで騒ぐ。ファミレスのキッズメニューを本気で食べたがるその姿は中学二年生の14歳とは思えない。幼さの残りすぎた妹に対して士道は考える素振りをした後に答えた。

 

「今日は用事があるからパスだ」

「えーー!やだー!やぁだぁ!デラックスキッズプレート食べたい!食べたい食べたい!」

 

 士道の拒否に全力の駄々をこねくりまわす琴里。もはや五歳児と言われても違和感のない程の見事なまでの駄々っ子っぷりだった。

 

「はあ……用事が終わったらいいぞ。そんなに時間はかからねえからな」

「やったー!」

 

 根負けした士道はやや呆れながら、妹のワガママを聞くことにした。琴里も現金なもので、了承が得られた瞬間に小躍りするかの如く喜びだした。

 

 そして琴里はいだすらな笑みを浮かべると士道の方へと向きなおす。さらに可愛らしくウィンクをしながら一言。

 

「愛してるぞ!おにーちゃん!」

「おう、俺も愛してる。琴里」

 

 空かさず士道はウィンクを返しながら答える。照れさせようとした筈の琴里は、逆に耳元まで顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。急遽始まった愛してる合戦は、兄の方がどうやら一枚上手だったようだ。

 

「先にいくぞ、琴里。じゃあまた昼にな」

 

 琴里が惚けて機能不全を起こしている間に、士道は食事の片付けを終えてリビングのドアを開けていた。そしてそのまま止まることなく家から出発していったのだった。

 

「行っちゃった……まったくもー。妹に言う感じの愛してるじゃなかったよぉ……」

 

 にやけた頬を抑えながらモジモジと身体を捩る琴里。彼女が家を出るのはもう少し後になりそうだ。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 学校へと向かって五河士道は歩いていた。何気ない登校風景だが、士道のそれは何気ないとは言い難かった。

 

「あ、五河さんだ。今日はひとりなんだ、珍しいー」

「でも相変わらず全身真っ黒だよ。てか()()制服って言えんの?」

「まじひくわー」

 

 士道の姿を少し遠目に見ながら好き勝手なことを言うのは、同級生の仲良し三人組。話した順にポニーテールが特徴の亜衣、肩まで伸びたショートヘアーの麻衣、黒髪ロングで眼鏡をかけた美衣の女子グループだ。

 

 麻衣の発言の通り、士道は制服姿とは言い難い程の真っ黒な格好をしている。黒のスラックスに黒のシャツ、黒のネクタイ。そして極めつけは黒のブレザーで、その材質はまさかのレザーだ。

 改造制服というには(あま)りにもやりすぎである。だがこれこそが彼の流儀であり、それを曲げられる者はいない。

 

「士道さん!おはようございます!!」

 

 そんな士道に駆け足で近寄り、斜め45度の最敬礼決めて挨拶する男子生徒が現れる。顔を起こすと逆立った黒髪の短髪が際立つ彼の名は殿町宏人(とのまちひろと)、こう見えて士道の同級生である。

 

「おう。おはようさん、ヒロト」

「今日もバッチし極ってますねえ、士道さん!」

 

 朝イチから士道出会えたことが嬉しいのか、ハイテンションな殿町。「俺も士道さん見たくなりたいっすわ!」と言いながら士道の隣を歩く。

 士道はそんな殿町へ言い聞かせるようにキメ顔で語った。

 

「一つだけ言える真理がある……男は黒に染まれ」

「うおお!!士道さんカッケー!マジカッケーっす!!」

 

 元々軟派な気質の殿町が、伊達ワルを極めた士道に憧憬を抱くのは仕方のないこととも思える。だが殿町を始めとした同級生は大小はあれど、士道に対して尊敬の念を抱いていた。それには多少の理由がある。

 

「おい、あれ…五浪(フィフり)の五河じゃねえか?」

「あ、あの伝説の…!?」

 

 士道を見かけた生徒からそんな囁きが聞こえてきた。

 

 そう、何を隠そうこの五河士道という男は、高校を五浪している。すなわち21歳の高校2年生なのだ。

 一つ年上の先輩にすら大層な畏敬を抱くのが学生というものなのに、五つも年上の彼は最早未知の存在とも言えるだろう。

 

 だが彼は年下の生徒に囲まれ、ただひとり浮いた存在であるというのに、他の誰よりも堂々と学生生活を過ごしていた。誰に対しても媚びることもなく、退くこともない。

 

 浪人を経験したことがある者なら解ると思うが、浪人というのは何とも物悲しく、不安に包まれる。学生として過ごす何気ない日常生活がストレスになるのだ。五浪もしてしまえば常人ならまず耐えられまい。

 それをものともしない士道の強靭なメンタリティは、同級生達が敬うに値する凄まじいものだった。

 

 彼の名誉の為に補足すると、別に士道は体が弱いわけでもアホなわけでもない。色々と事情があっただけなのだ。

 

 さて、先程の陰口は無論士道にも聞こえていた。隣にいた殿町が不快感を露にするなか、士道は自信に満ちた笑みで呟いた。

 

「何時だって何処でだって話題をかさらっちまう。俺の噂は七十五日じゃすまないぜ」

 

 ―――やっぱりアホなのかも知れない。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 校長先生を筆頭に、長いだけで学生には響かない話が続いた始業式も終わり、その後のSHRもたった今しがた終わった。

 士道は号令がかかったと同時に立ち上がり、礼が終わっても席に着くことなく、教室の出口目掛けて歩き始めていた。

 

「待ってほしい」

 

 抑揚の少ない声で士道のブレザーの袖を掴んだのは、白銀色のショートカットの少女だ。彼女は鳶一折紙(とびいちおりがみ)。テストの成績は学年首席で、運動神経も抜群。文武両道を地でゆく才色兼備な美少女である。因みに恋人にしたい女子ランキング3位(殿町宏人調べ)らしい。

 

「なんだ折紙?」

「今日は始業式だから半日で学校は終わる」

「知ってんよ?たった今終わったからな」

「つまり午後は自由な時間になるはず」

「ああ、だろうな」

「だから、私と一緒にランチに行って欲しい。その後はデートをしにいきたい」

 

 わかりきったことを告げた後に唐突にデートの誘いをかける折紙。話がチグハグなのは、前もって考えていた台詞だったからなのだろう。然り気無い気遣いが出来る士道はそれを察して遮ることなく話を聞いていた。だが―――

 

「無理だ」

「…何故?」

 

 ―――気遣うからといって了承するわけではない。あまりの即答っぷりにふたりの話を聴いていた周囲が驚く。だが折紙は淡々とその理由を尋ねようとする。

 士道は自らの袖を掴んでいた折紙の掌を両手で優しくほどくと、折紙に背を向けて言い放った。

 

「おまえの聞きたいことは俺の背中が語っている」

 

 意味不明である。少なからず言われた張本人である折紙には理解が出来ず、その天才的な頭脳をフル回転させて必死に意味を考えていた。

 だが横で話を聴いていた殿町が堪らず「美少女からのデートのお誘いをわざわざ断る理由ってなんなんですか!?」と尋ねる。そこに隠された士道のモテ技を盗もうと必死だった。

 

「俺を縛り動かせるのは聖書(バイブル)と俺自身だけだ」

 

 それだけ告げると士道は今度こそ足早に教室を後にした。教室に取り残され立ち尽くす折紙。クラス中が士道の起こした一連の流れに呑まれて唖然とした。

 

「鳶一さんは何も悪くないよ!五河さんが変わってただけだって!」

「五河さんめ!こんな美少女を悲しませて居なくなるなんて」

「まじひくわー!」

 

 そんな中、亜衣麻衣美衣の三人組が折紙を囲んで慰める。一概に士道が悪いとは言い切れないが、それでも今の対応は彼女らにとっては酷いと思えるものだった。

 但し、我が滅茶苦茶に強い士道に何を言ってもいまいち響かないことも解ってはいるので、直接文句を言うことはあまりない。

 

「……やっぱり彼は素敵…」

 

 当の折紙は、うっすらと頬を染めながら士道に握られた右手を擦って惚けていた。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 校門をくぐり抜け、士道は街へと踏み出し始めた。何故彼はここまで急いているのか。それは他でもない――今日は様々な事情のせいで彼が待ちに待った――“メンズナックル 5月号”の発売日なのだ。

 当然、ここまで慌てなくてもメンズナックルが売り切れることは無いし、現代社会ならばネットで事前に予約して配達してもらうことも出来る。しかし彼には己に定めたルールがあった。

 “メンズナックルだけ書店に買いにいく”“仕事や学校などの公的行事はサボらない”というものだ。破ろうと思えば簡単に破れるルールだが、彼は自らを固く律する。聖書(メンナク)を汚すことになるから、と。

 

 故に士道は学校が終わったと同時に最短距離で書店を目指す。こうなった彼は雨が降ろうと槍が降ろうとメンズナックルを買い求めにいくのだろう。

 

 

 突如響く、人間が本能的に嫌うような物々しくけたたましいサイレン。

 少なくなかった人通りの街は途端に騒がしくなり、人々は速やかに避難を始める。このサイレンの名は“空間震警報”。意味するものはその名の通り、空間震の前兆を察知し公的機関が発する避難警報だ。

 人々は空間震に巻き込まれないために地下深くに備えられたシェルターへと避難する。人だけではない、車が、電車が、場所によっては道や建物ですら、対空間震の最新技術を用いて地下へと避難していく。

 

「俺がストリートに流れ着いたなら、空間だって震えあがっちまう」

 

 だが士道は避難をする素振りすら見せなかった。目的地へと向かいひたすらに歩みを止めず突き進む。この時士道が何を思っていたのか。自分が巻き込まれるわけがないと考えていたのか。警報が解除された時、一番に書店に着いていたかったのか。それは神にすら解らない。

 

 警報が鳴ったとき避難しなかった人間がどうなるのか。それは至極単純なことだ。災害に巻き込まれるのである。

 

 瞬間、空気が爆ぜた。地面が大きく揺れ動き、建物は耐えきれずに崩れ始める。()()()()に向かって大気は吸い込まれるように勢いよく流れゆく。まるで空間そのものが揺れ動くような衝撃。そう、これこそが“空間震”である。

 

 避難することなく地上にいた士道も必然的にこの空間震に巻き込まれる。しかし、奇跡的にも砕けた建物の破片は士道に当たることが無かった。

 それでも暴風ともいえる大気の動きだけは士道に襲いかかる。だが士道は脚に根が生えているかの如く、風に煽られずに直立不動の姿勢を保ったままだった。

 まるで災害の方から士道を避けているような光景が繰り広げられる。

 

 やがて空間震が収まり、甚大な被害を被る街の中で士道だけが無傷で立っていた。士道は澄まし顔で空間震など無かったかのように再び歩き始めた。

 

「疾風に負けるほどヤワな伊達ワルじゃないぜ」

 

 伊達ワルの奥深さが垣間見える。そんな出来事だった。

 

 

 少し歩いたところで士道の足が止まる。彼が進もうとしていた道はクレーター状に削り取られた様に無くなっていたのだ。どうしたものかと考えるが、そのクレーターの中心に誰かがいることに士道は気が付いた。

 

 黄土色を基調とした装飾された石造りの玉座を足蹴に、紫色のドレスにも鎧にも見える服装の女がそこに佇んでいた。今風の言葉に準えるなら姫騎士というのが相応しい格好だろう。

 

 女はクレーターの上から眺める士道に気が付く。

 すると彼女は軽やかな身のこなしで玉座に登り、背もたれの部分から伸びた棒状の物に手をかけ、一息に引き抜いた。

 それは彼女の身の丈の半分よりも大きな(つるぎ)だった。白銀の刀身に青白く光る模様が刻まれており、鍔は飾りつけられ中心には蒼い珠が輝く。なにより目を引くのは白くぼんやりと光りうっすらと透けた両刃だろう。

 触れたもの全てを切り裂くのではと思えるほどその剣は美しかった。

 

 女は剣を携えて士道に向かって一度だけ踏み込んで跳躍した。優に30メートルはあった筈のふたりの距離は一瞬にして詰まった。

 華奢な見た目からは想像がつかないほどの強力な膂力を彼女はその身に宿していたのだ。

 剣を正面に構えて弾丸のように飛び込んできた女を、士道はひらりと身を翻して避けた。

 

 至近距離で擦れ違うふたり。時が止まったような刹那、士道と女の視線がぶつかり合う。

 頭の後ろで一つに纏められた宵闇色の髪が靡き、紫水晶(アメジスト)に似た美しい瞳が士道を捉えている。

 やや幼さの残る端正な容貌は絶世の美少女として士道の魂に刻まれた。

 

 再び時は動きだす。士道の真横を通り抜けた少女は着地すると素早く踵を返した。それと同時に士道も振り向くが、既に少女は握りしめた大剣の切っ先を士道の喉元に突きつけていた。

 

「お前もか……お前も、私を殺しに来たのだろう?」

 

 敵意を剥き出しにしながら少女は問うた。近付くものを全て傷付けんとする程の殺意を込めた瞳の中には、どこか物悲しい感情が見え隠れしているように見えなくもない。

 

 相対し、命に手を掛けられながらの答えとは。怯え、悲しみ、怒り。どんな感情を抱くのだろうか。

 

 伊達ワルを極めし五河士道からの答えは……

 

「放っておいてくれ……今日は女って気分じゃない……」

 

 

 

 

 ―――孤高にて絶世の美少女と、至高の伊達ワル漢の道が、今交わる。

 

 




三人称絶賛練習中です。
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