【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21]   作:くろわっさん

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今回は少し重めです。


第11話 圧倒的な包容力でオマエの全てを包み込む

 ――精霊《プリンセス》が消失(ロスト)した夜。AST本部にて……

 

「五河士道を暫定的に精霊として特別監視対象とする。識別名は…《スパークル》。直訳すると煌めき…見たまんまね」

 

 AST隊長である日下部が上層部から送られてきた命令文を読み上げながら呆れたような声を出す。

 

 新たな精霊の登場に整列していた隊員たちの顔に緊張と困惑の色が浮かぶ。だがその中でひとりの隊員が一歩前に出て発言するため挙手をする。その娘は白銀の髪を揺らし、蒼い瞳で日下部を見詰めた。

 

「何、折紙?」

「五河士道は間違いなく人間。この半年共に学友として過ごしてきた。私が証言する」

 

 上層部の決定に異を唱えるのは、士道の恋人となった折紙だ。冷静に話しているように見えるが内心は怒りで腸が煮えくり返りそうだった。

 

「折紙、残念だけど論より証拠よ。前例のない男性型の精霊、そして人間界に堂々と溶け込む態度。全てが異常で混乱するのはわかるわ。実際、上層部もまだバタバタしてるらしいし」

「証拠とは何?何故彼が精霊などと言われなくてはならないの」

「あの瞬間、彼から霊力が検知されたの。私たちを撃ち抜いたあの煌めきからね」

「あれは彼の真後ろにいた《プリンセス》から放たれたと考えるのが妥当。霊力もあの精霊が出したのでは?」

 

 引き下がるつもりなど折紙には更々無かった。そんな様子を日下部は察すると、頭を抱えながら話を続けた。

 

「霊波が違うのよ…プリンセスのモノとは全くといっていいほどね」

「それは…プリンセスがこれまでと異なる攻撃によって、変異した霊波を発したと考えるべき。彼が精霊という妄言には繋がらない」

「当然上層部でもその説は有ったでしょうね。でもその霊波はここ一年程天宮市全体を包み込んでいた微弱な霊波と一致してたのよ!」

 

 折紙の眼が驚きによって大きく見開かれる。そして折紙が「でも…」と口を開きかけた時、日下部がそれを手で制して険しい表情で話を続ける。

 

「そこまでの話なら、それすらプリンセスの影響だったはずだ、と言いたいのでしょうけど、他にも彼には不可解な点が見付かったの。あのあと直ぐに後方部隊が彼について調査を開始したわ、国家権力を存分に使ってね」

「……」

「五河士道について解ったことはこうよ。十六歳までは何処にでもいる普通の学生として過ごしていたわ。でも五年前に高校を休学、天宮駅の歓楽街のホストクラブでアルバイトを始める。その二年後正社員として雇用され、同店舗で二年間の勤務。これらは納税記録からも確かなことよ。そして約一年半前、人気絶頂期に電撃引退。かなり変わった人生送ってるけど、ここまでは彼は間違いなく普通の人間だった…」

「だった…?」

「そこから復学までの一年間は空白に包まれてるわ。記録上にはないのよ」

「仕事に疲れて、自由に過ごしたかっただけかも知れない」

「そういう考え方もあるかもね。ただひとつの一般人にはあり得ない点を除けば…」

 

 日下部は含みを持たせた言い方で言葉を溜めた。そしてはっと息を吐き出して士道の話を続けた。

 

「その空白の一年間を含めて、今日に至るまで…彼は一度も空間震の際にシェルターに避難した記録がない。はっきりいってこれは異常よ」

「そんな筈はない。この一年間で空間震はこれまでの比にならない程に増えている。精霊たちが活発になってきたせいで……ハッ…まさか…?」

「そう、精霊たちが頻繁に出現するようになったのも、天宮を包む霊波が確認されだしたのもほぼ同時期。そしてその間一度もシェルターに居なかった人物。今日、その人物が精霊と共に居て、霊力を放っていた……これを無関係と言うのは無理があるわ。五河士道は精霊ないし、同等の…いえ、それ以上の存在かも……」

 

 先刻に見た光景と繋がる情報と導きだされた推測。その事実を折紙は深く受け止めていた。だがそれと同じくらい受け入れ難い事実だった。

 

 折紙の頭の中には幾つもの推測や考察、反論が浮かんでは消えていき、最後に残ったのはシンプルな答えだった。

 

「私が確かめる」

「待ちなさい、何するつもり?」

「直接会って、真実を聞き出す」

「今、五河士道との接触は禁止されてるわ。それどころか所在不明の状態よ」

「なら、探し出す」

「止まりなさい折紙!」

 

 退室しようと踵を返した折紙の腕を日下部が掴んで、その歩みを止める。

 そして耳元に口を寄せて折紙にしか聞こえない声で告げた。

 

「今はまだ堪えるときよ。私だって彼が精霊だなんて信じたくない…明日以降には彼の本格的な監視が上層部から指示されるはず。相手は暫定的といえど精霊、私たちに任務が下されのはほぼ確実。そうなれば最前線に出るのは諜報能力に長けた優秀な隊員よ。解るわね?真実は自身の眼で確かめなさい…」

「…っ」

 

 日下部は折紙から一歩離れると、今度は周りの隊員にもあえて聞こえるような声量で語った。

 

「詳細不明の事態に混乱する気持ちはわかるわ。さっきの発言は聞かなかったことにしてあげる。今は頭を冷やしなさい」

「了解」

「よろしい…では、各員解散!!」

 

 日下部の号令に隊員たちが一糸乱れぬ敬礼で返す。そしてゾロゾロと部屋を後にしていった。

 

 ひとりきりになった部屋の中で、日下部は大きなため息を吐いてわかりやすく頭を抱えた。

 

「ほんと、どうなってんのよ……はぁ、シン様ぁ…」

 

 陸自の特殊部隊ASTの隊長である日下部の苦労は尽きることを知らなかった。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 翌日、日下部の読み通りASTに暫定精霊《スパークル》の監視という特殊任務が与えられた。

 

 その目的は大きくふたつ。ひとつはスパークルが、人間五河士道であるのか、精霊であるかを判断すること。再び霊力が確認された場合、対象を精霊と認定し空間震警報を発令。直ちに対象を殲滅する。

 ふたつめ、精霊との接触を確認した場合、準精霊と認定し監視を継続、可能であれば対象を殲滅すること。

 そして対象が人間社会に溶け込んでいる為、直接的な接触や刺激を与える行動は禁止されていた。

 

 監視役には鳶一折紙が抜擢された。非常に優秀な魔術師であり、高い諜報能力を備えている。そして部隊で唯一対象と交流を持っていたため、万が一勘づかれた場合に私的な理由をでっちあげられる。要は保険が効くのだ。

 

 他の隊員や衛星カメラによるバックアップを持って、ASTのスパークル監視任務が開始された。

 

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

 時刻は17時32分。夕暮れの差し込む丘に立つふたりの人影をスコープ越しに覗き込む。

 

 ASTはその日の士道と十香のデートの一部始終を監視していた。精霊と精霊に準ずる者はまるで人間のように振る舞い、人々の営みの中で自分たちと変わらぬ人間のように楽しんでいた。

 そこに普段の争いで見せる冷徹な姿はなく、閃光も硝煙もない世界で確かに精霊は生きていたのだ。

 

 これまで自分たちが戦ってきたのはなんだったのか。精霊とは人間と何が違うのか。自らのこれまでの行いに疑問を懐く者も隊員の中には出てきた。

 精霊は本当に殺さなくてならない存在なのか。そんなことすら考えてしまう。

 

 だがそれらはほんの一部だ。精霊の別の一面を見たからといってこれまでの精霊の行いが消えたわけではない。精霊によって家族を、友を、仲間を傷つけられた過去は決して消えはしない。怒りも憎しみも消えはしないのだ。

 

 それはAST上層部も変わらないようで、ふたりが人気のない丘に向かうと知ると、対精霊狙撃銃(アンチスピリッツライフル)による目標の殲滅を言い渡したのだった。彼女らは標的であるふたりから遠く離れた山間から銃を向け、その時を待っている。

 

 そして、この監視任務の最大の不幸は、そんな精霊を憎む筆頭と言える少女がその最前線に立ち、マジマジと精霊が生きる様を見せつけられてしまったことに他ならないだろう。そう、鳶一折紙という少女に……

 

 

 

† † †

 

 

 

 鳶一折紙は全てを観ていた。

 

 崩れた校舎で士道の腕に収まる精霊《プリンセス》の姿を見た。

 空間震を伴わない精霊の現界という異例の事態だったが、折紙が気にかけたのはそこではなかった。

 

 ―――何故お前のような存在が彼の腕の中に居る…其処はお前の居場所じゃない…

 

 

 ブティックで少女のように振る舞うプリンセスと笑いかける士道の姿を見た。

 

 精霊の身を包み堅牢な守護をしていた霊装をあっさりと消して、なんの保護も持たない只の布を纏う。そんな特異な状態よりも折紙は眼を離せなかったことがあった。

 

 ―――何故精霊なんかに笑いかけるの?その笑顔は私にくれる筈だったモノでしょう?なのに…どうして…

 

 

 カフェで恋人のように仲睦まじい士道とプリンセスの姿を視た。

 

 霊力を微かにしか感じさせず、只の人間と変わらぬ精霊の姿に他の隊員が動揺する最中、折紙は憎しみ燃えている。

 

 ―――其処は私の場所なのに。恋人は私なのに。どうして彼は精霊と共に居るの?私は此処で何をしているんだろう…

 

 

 商店街で食べ歩く精霊を見守る士道の姿を観ていた。

 

 地図に無かった商店街の出現、常識はずれの精霊の食欲など、眼を見張る点はいくつもあったが、折紙の眼には映らない。

 

 ―――精霊、憎むべき私の両親の仇。五河士道、私の全てを捧げた人間。なら、精霊に微笑む彼は……誰なのだろう…?

 

 

 

† † †

 

 

 夕暮れの丘に立つふたりの姿をスコープ越しに覗き込む。引き金には指がかけられている。

 鳶一折紙には何時でもふたりを撃つ準備が出来ていた。

 上層部からの許可も下りた。あとは折紙のタイミングで全てが始まり、全てが終わるだけだ。

 

 そして彼女の心は深い混乱と激しい憎悪に満たされていた。

 

 

 ―――彼に笑いかけられるアイツが憎い。彼に誉められるアイツが忌まわしい。彼の視線を、言葉を、香りを、熱を感じるアイツが羨ましい。嫉しい。妬ましい。

 どうして彼がアイツに…精霊ごときに…人類の敵に、私の仇に…

 

『圧倒的な包容力でオマエの全てを包み込む』

 

 かつて絶望の縁にいた私を救い上げてくれた彼が、あのときから私の全てを捧げると決めた彼が、どうして私の全てを奪った精霊と共にいるの…?

 

 彼にアイツが近付いていく。寄り添っていく。肩を、身体を擦り寄せていく。

 

 止めろ止めろ止めろヤメろヤメロ。彼が穢れる。腐りきった汚泥のよりも臭いそのニオイを彼にツけるな。汚物よりも汚ならしいその身を彼に触れさせるな。穢れる穢れる穢れる穢れる……なのに彼はどうして受け入れているのか。

 

 

 私はなにを見せられているのだろう。何故其処に居るのが私では無いのだろう。私ではダメなのだろうか。

 彼の傍に居るべきは私なのに。其処は私の居場所の筈だったのに。なのに。何故、何故、何故、ナゼ、ナゼ……?

 

 彼とアイツが向き合う。彼を奪うなど赦されない。アイツは殺す。絶対に殺す。だから退いて…其処に居たら撃てない。

 ソイツから離れて。このまま撃てば巻き込んでしまう……精霊を殺せないから、早く、離れて。

 

 私の願いは叶わない。私の想いは彼には届かない。彼がアイツに近付いていく。こんなに想っているのに……どうして。

 

 ああ、精霊が憎い。私の大切なモノを奪ったアイツらが憎い。私の大切な彼を奪おうとするアイツが憎い。憎い憎い憎い。

 

 だから殺さなければ。もう奪われないように、殺す。守り抜くために、殺す。精霊は私が、殺す。

 

 彼の顔が、吐息が、唇が、近付いていく……私の中の何がキレる音がする。何かが壊れる音がする。

 

 ダメ、離れて、もう盗らないで、奪わないで。これ以上は……何も失くしたくないのに……

 

 

 憎い憎い憎い憎い憎い。憎い殺す殺す憎い殺す殺す憎い憎い憎い憎い殺す殺す…………アイツが憎い。精霊が憎い。憎い。

 

 

『五河士道は精霊……』『……識別名は…《スパークル》』『真実は自身の眼で……』

 

 頭の中に言葉が巡る。答えは此処にあったんだ。もう、解っていたんだ。全部、全部視てきたから、確かめたから、解ったんだ。

 

 

 精霊は殺す、憎いから。

 

 精霊(プリンセス)は殺す、憎いから。

 

 精霊(五河士道)は、殺す。憎いから、愛しているから……殺せばいい―――

 

 

 

 引き金は弾かれた。憎しみ故に、愛故に、弾かれた。

 

 空を切り、風を裂き、真っ直ぐと飛んでいく。精霊を殺す為の人類の叡智の結晶が飛んでいく。

 

 凶弾が男の胸を穿つ。ポッカリ空いた胸の穴。少女の想いが彼の胸を穿ち、空いた穴へと収まる。

 

 

 これは彼女の愛なのだ。歪に捻じ曲がろうと、それは確かに愛だったのだ。

 

 だから漢は受け止める。全てを包み込むと決めていたから受け止める。例えその身が滅びようとも。

 

 

 差し込む夕陽に照らされて、壊れた少女の嗤い声が響いた。

 

 

 




士道さんが出ないだけでこんなにシリアスになってしまうとは……伊達ワル、早く助けてくれー!

後半読みづらくてごめんなさい。壊れた折紙を表現して見たかったのです。


次回もよろしくお願いします!
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