【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21]   作:くろわっさん

14 / 16
第14話 俺の心を奪いたいなら死に物狂いで来な

 魔王は宙に佇みながら、足下から見上げるひとりの漢を眺めては顔をしかめる。

 

「生きていたのか…シドーとやら。十香(わたし)は死んだものだと思っていたようだが」

「まあな、死んでも死なないのが俺だ」

「理解し難いな…貴様は」

「神の視点でしか俺を理解できないぜ」

 

 会話を交わす度にどんどんと魔王の顔は曇っていく。怒りと哀しみが入り交じっても尚美しい顔で魔王は士道を睨み付けた。

 

「まあよい。そんなことはどうでもいいのだ。生きているなら私が手ずから殺すのみ…」

 

 魔王は士道に対して殺意を滾らせて、漆黒の大剣の切っ先を向ける。

 

「貴様は十香(わたし)を哀しませた。十香(わたし)にとって貴様は剰りにも眩しすぎて堪らなかった…!十香(わたし)は貴様に惹かれていた。惹かれ過ぎていた!!」

 

 胸の奥から涌き起こる感情を叫ぶ魔王。悲壮に染まるその顔は儚げな少女のそれによく似ていた。十香というひとりの少女に。

 

「その輝きを、光を喪った哀しみが貴様にわかるか?…私には解る。十香(わたし)にとってのこの世界は貴様と居ること…ソレだけだったんだ!それを貴様は…!!」

 

 表裏一体だった魔王と十香は混ざり合った。この叫びはどちらのものなのか、それは言わずもがなだろう。

 

「喪うことがこんなに辛いのなら知らなければよかった!…想いなど!愛など!初めっから知らなければよかったんだ!シドーのことなんて……シドーなんて…!」

 

 彼女の瞳からは衝動と共に大粒の涙が流れる。愛が溢れて止まらない。だから彼女は、止まらないのだ。

 

 涙を流したあと、彼女は黙りこんで俯いた。時間にして五秒も経たないうちに顔を上げると、そこに涙はなく再び怒りの炎が宿っている。

 

 身体からは黒い波動が止めどなく放たれ、全てを壊す魔王が君臨する。

 

「…故に。故に貴様は殺す。この世界と共に壊す。十香(わたし)を苦しめるもの全てをこの剣で破壊する!塵ひとつ残らず…消えるがよい」

 

 

 

 

† † †

 

 

 

「ああ!なんでこうなっちゃうかなぁ!!」

「中津川さん、拗らせた愛ってのはね…時に何よりも重いんですよ」

「わかります。それ」

「あんたらが言うと重いなホントに!」

 

 フラクシナスではふたりの様子をモニタリングしながら、中津川が椎崎と箕輪に突っ込みを入れていた。

 

「不味いわね…話し合い。というより士道が十香を丸め込んで終わりかと思ってたけど、雲行きがあやしくなってきたわ」

 

 乗組員たちの様子を横目に、独り言と共に琴里は考えを巡らせていた。

 

 正直なところ今の流れは琴里の想定の外にある。理想としては士道がいつものモテ技を駆使して、暴れる前に十香を封印してしまう形がよいと考えていたのだ。

 

 それが今の状況はどうだ。十香は殺意を滾らせているし、士道は黙して語らない。このままでは闘いになることは必須だ。

 そうなれば士道は瞬く間に挽き肉に変わってしまうだろう。あの謎の霊力があろうと、相手は戦闘に特化した精霊《プリンセス》で、更にはそれが殺意を持って襲いかかるのだ。

 いくらイフリートの再生能力を持ってしても限界はある。殺され続ければ、本当に士道は死んでしまうだろう。

 

 戦うことなく穏便に済ませて欲しい。それが琴里の何よりの願いだった。

 

 だが、そんな琴里の心配を知る筈もなく、現場では士道が動き始めていた。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

「十香、ちょっとだけ待て。おい、折紙!巻き込まれんように下がってな」

 

 士道は宙に浮く魔王に遠慮なく待てを言い渡し、振り返って折紙に呼び掛ける。するとボーッとした様子でふたりを眺めていた折紙が急にハッとした顔になると、目をパチクリと見開いた。

 

 壊れた少女は瞬時に自分を取り戻した。それも当然だろう、彼女の心は愛によって破壊と再生を繰り返し続けていたのだ。その均衡が崩れれば、この結果は目に見えていた。

 

「士道さん…私に話し掛けてくれた…?」

「当たり前だろ、お前にいってんだ。ここから先は拳で語る喧嘩の時間だぜ?関係ないお前はさっさと離れてろよ」

「関係なくなんてない。私は貴方を殺し…いえ、殺そうとした。それには気が付いている筈……なのに何故?」

 

 折紙は影を落とした表情で士道に訊ねる。

 

 理屈は解らないが士道は生きている。だからといって自らが犯した罪は消えない。人を殺そうとした罪は消えないと折紙は考えていた。

 

 だが士道は思い詰める折紙とは裏腹に、軽い調子で笑い流した。

 

「気にすんなよ、折紙。嫉妬に狂ったオンナに命を狙われるなんて喧嘩と同じくらい経験してるぜ」

「貴方が気にしなくても、私は…人を撃った。精霊と同じ。そんな私は死ぬべき……」

「折紙。お前にひとつ教えてやろう」

 

 自己嫌悪と自責の念から項垂れる折紙に、士道は優しくも力強い口調で語りかける。そして指をたてて折紙に見せ付けながら続けた。

 

「どう死ぬかじゃない、どう生きたかだ」

 

 短いながらも真っ直ぐに届く言葉だった。

 

 人はいつか死ぬ。折紙も士道でさえ、いつかは死ぬだろう。だからこそ人はその時を迎えるまで走り続けるのだ。足掻いてもがいて、必死に生き続ける。

 そんな命を輝きを士道は折紙に伝えたのである。

 

 折紙の瞳から一筋の涙が流れる。それと同時に彼女の心はどこまでも澄みわたった青空のように開けた。

 

 折紙は少し震えた声で「士道さん…」と名前を呼ぶ。士道は答えるように口元を吊り上げた。

 

 

 ―――あぁ……やっぱりこの人は私の光だ。消したくても消えてくれなくて、それでいて私を照らしてくれる太陽と月を合わせたみたいな光。あのときから何一つ間違ってない。私はこの人に……全てを捧げよう。

 

 

 折紙が士道を見詰め、士道も折紙を見詰める。二人だけの時間が流れる―――

 

 

 

 ―――わけがなかった。

 

 肌を刺すような殺気がふたりを包み込む。その発信源は宙に浮かぶ魔王と化した十香だった。

 

「…死ね」

 

 魔王は疾風のように速く、剣を振り上げて距離を一気に詰める。そしてふたりを真っ二つにするために、漆黒の大剣を振り下ろした。

 だが振り切る前に剣が止まる。士道が両の掌で刃を、所謂真剣白羽取りで抑え込んでいたのだ。

 全てを消し去ろうとする漆黒の波動と士道から溢れ出る煌めきがせめぎ合い、バチバチと音を発てて弾けて打ち消しあっている。

 

「おう。気が早いな…!それじゃ始めよう、かっ!」

 

 士道は大剣の腹を掴んだまま、身体を捩りながら腕を捻る。すると宙に浮く魔王は剣に引っ張られて体勢を崩した。士道の動きは止まらず、その場で回転するようにステップを踏みながら大剣(もろ)とも魔王を空中にぶん投げる。

 

 投げられた魔王は器用に空で踵を返して、再び士道を見下ろす。その視線の先には余裕な表情で、来いよと言わんばかりに手招きをする士道の姿があった。

 

「俺の心を奪いたいなら、死に物狂いで来な!」

 

 

 

 

† † †

 

 

 

「士道くんから強力な霊力を確認っ!霊波は…やはりあのパターンです!」

「でしょうね!見ればわかるわよ!でもそこじゃないの。どうして士道が精霊と、それにあの《プリンセス》と対等に力で渡り合ってんのよ!?」

 

 艦橋中央の巨大なモニターには、漆黒の大剣を振り回す十香と徒手空拳で互角の闘いを繰り広げる士道が映し出されていた。

 

 予想の斜め上をいく士道に琴里は声を荒げてしまうのはある種のお約束となっていた。

 

「いやぁ士道くん、結構腕っぷしも良いんですよ、司令。まだボーイだったときなんて夜の街の厄介者やらなんやらを、千切っては投げ、拳で黙らせてましたからねえ」

「街のチンピラと特殊災害指定生命体を並べてんじゃないわよ!!」

 

 あっけらかんと語る神無月に琴里の鋭いツッコミが蹴りとなって刺さる。尻を蹴られた神無月は嬌声を出しながら地面を転がっていた。

 

 琴里の平穏はまだまだ遠いようだった。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 地上ではふたりの闘争が熾烈さを増していた。

 

 魔王は宙から弾丸のように真っ直ぐと速い突きを繰り出す。対する士道はそれを見切って半歩だけ横に避ける。高速の突進をすかされた魔王は勢いのまま地面に突っ込み、ド派手な土煙を上げた。

 

 一閃。土煙を裂きながら漆黒の大剣が横凪ぎに振り抜かれた。魔王は着地と同時に振り向きながら、士道を切り裂くために剣を振るっていたのだ。

 だが士道にそれは当たらない。迫る刃をまるで棒高跳びのように背面飛びで軽やかにかわしていく。しかし競技でのそれとは違って背中で着地するのではなく、そのまま一回転してしっかりと両足で地を踏んだ。

 

 次に士道を襲ったのは魔王の返す刃だ。士道はタイミングを合わせて踵落としで大剣の腹を踏み抜き、鈍い音を発てながら大剣は地面に押し付けられる。

 

 ここで士道は違和を感じる。振り払われた剣が、軽い。

 

 素早く視線を足下の剣から正面の魔王に移すと、彼女は左手を士道に向けて翳していた。剣が軽かったのはこれを予想して、あらかじめ片手で剣を振るっていたからだった。

 

「消えろっ!」

 

 言葉と共に魔王の掌から槍のような漆黒の波動が、士道の頭を貫くために放たれた。

 士道は首から上を真横に振って、紙一重で躱す。靡いた毛先が黒に呑まれ消え去るが、士道は未だに余裕の表情を崩さない。

 彼女の攻撃は終らず、一撃、二撃、三撃と立て続けに同様の波動が士道に迫るが、これまた同様に上半身の動きだけで全てを躱していく。

 

「ちぃっ!!」

 

 イラつきが悪態として魔王の口から溢れ、これまでよりも二回りは太い波動を掌から放つ。しかしそれすらも士道は腰から上を大きく反らして難なく躱していった。

 だがそれと同時に彼女は足蹴にされていた大剣を力任せに振り上げた。

 上半身を反らし体勢の崩れた士道はその馬鹿げた膂力によって宙へと打ち上げられる。

 

 打ち上げられた士道が重力に捕まり、落下を始める。その落下地点では魔王が大きく剣を振りかぶって待ち構えていた。

 そしてタイミングを合わせての縦一閃。宙に浮かされた士道に逃げ場はなく、当たれば真っ二つに身体裂けるであろう一閃だ。

 

「エレガントに舞い、クレイジーに酔う」

 

 士道の身体が煌めきに包まれ、不自然な軌道で曲がった。当たる筈の刃をヌルリと避けると、何事もなかったかのように士道は地面に着いた。

 

「面妖な…!」

 

 攻撃が当たらないことに苛立つ魔王。当てたくても当たらない、その上反撃も仕掛けて来ない。まるで遊ばれているようだと魔王は思い、更に苛立っていく。

 

 接近戦では勝ち目が無いと察した魔王は剣を片手に大きく後ろへと跳ねる。距離をとってから広範囲を薙ぎ払う斬撃を放ち、避ける間もなく消し去ろうとしたのだ。

 だが士道は彼女を逃がさない。跳ねた瞬間に大剣の背を掴むと、強引に振り下ろして魔王を地面に叩き落とす。

 両足から地面にめり込んでいく魔王。離れることは不可能だった。

 

「ならばっ!」

 

 魔王は両手で剣を引くと、士道の胴目掛けて突進じみた突きを放つ。一度放った技を食らうような士道ではなく、半歩だけ動いてこの突きを簡単に躱す。

 この技を既に見切られていることは彼女も解っていた。だからこそ次の一手を打つ。

 

 魔王は剣から手を離して、雄叫びを上げながら拳を振りかぶる。突進の勢いに乗り、大剣の横をすり抜ける様に近づき、士道の顔面目掛けて腕を振り抜いた。

 

 まさか剣を捨てるとは思ってもみなかったのか、敢えて受けたのかは解らないが……魔王の拳が士道に届く。

 

 士道の頬に突き刺さった拳。精霊の膂力を遺憾なく発揮したその一撃は士道を紙屑のように吹っ飛ばす。

 錐揉み回転しながら飛んでいく士道は、地面に一回、二回と跳ねたところで体勢を立て直し、両足で地を捉え二本の轍を作りながら止まった。

 

「良い拳だ。やるじゃねえか、十香」

 

 パンパンと服の埃を落としながら、相も変わらず余裕綽々の士道。だがその頬にはしっかりと殴られた痕が刻まれており、口の端からは血が流れていた。

 

 士道は口から血を唾と共に吐き出し不敵に笑う。すると傷痕から青い炎が上がり、たちまちその傷が塞がっていった。

 

 キレイな顔に戻った士道は手招きをしながら魔王に言い放つ。

 

「さて、そろそろ本気でいくぜ。ここからが第二ラウンドだ」

 

 

 光と闇の衝突。士道と十香の闘争(デート)はまだ終わらない。

 

 

 

 





気がつけば、士道さんに立ち向かう反転十香ちゃんの図。

どうしてこうなった!

次回もよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。