【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21] 作:くろわっさん
「私の知らないお兄ちゃんがいたなんて……只の不登校じゃなかったの?」
疲れた顔で琴里は自棄気味に士道に尋ねる。マトモな答えが返ってくるとは思えないが一応尋ねてみたのだ。
「イイ男には秘密が付き物。勿論イイ女にもな」
思った以上にマトモじゃなかった。
当たり前のように琴里の想像を超えてくる士道。だが、そんな琴里に助け船が渡される。
「知らない一面があったのはお互い様だと言いたいのだろう」
「なんで令音が翻訳出来るのよ…」
「ひとえに付き合いの長さ、かな」
「私、義妹なんだけど……」
助けが来たと思ったら強大さを自慢しに来た黒船だった。琴里は呆れ果てて、だらりと背もたれに身体を預けた。そして頭の中で考えをまとめる。
琴里は兄に勝つことは不可能といい加減に気が付いた。
この後のことを考えると話を優位に持っていけるように、会話の主導権を握りたかったが、とりあえず話を聞いてもらうのが先決だろう。そう判断した。
「まあいいわ。本題に入りましょう。士道、あなたをここに連れてきたのはやってもらいたい仕事があるからよ」
「断る。悪いな琴里、今日は忙しい」
「なんでこの状況で即答!?」
半ば拉致に近い形で連れてこられたにも関わらず、士道は説明を求めることもなく答えを出す。おかげで琴里の予定は駄々崩れだ。
「俺が求め、俺を求めるモノが待ってんだ。今日は帰るぜ」
「ちょ、ちょっと!待って士道!今に始まったことじゃないけど話聞かなすぎるでしょ!!」
既に
「俺の迸る伊達ワルは、黒部ダムでも止められないぜ」
「つまり…どういうことだっての…!?」
「俺を止めることは出来ない、そう言いたいのだろう」
令音の翻訳の通り、士道は止まる気がさらさらなかった。彼をここまで突き動かすものとはいったい……
「しかし、
「先月の空間震の被害で印刷所がダメになりましてね。発売が延期になってたんですよ」
心当たりのありそうな令音の疑問に、神無月がさらりと答える。そして神無月は「士道くん、これをどうぞ」とビニール袋に入れられた雑誌を手渡した。
「神無月さん、これは何処で…!?」
「こんなこともあろうかと、今朝がた天宮書店で開店と同時に買っておいたんですよ」
険しかった士道の表情は一転して柔らかくなり、不敵な笑みを浮かべ始めた。というよりニヤついているというのがしっくりくる顔にまでなっている。
そう、彼の手に渡ったのは他でもない“メンズナックル5月号”だった。
発売が延期となり士道が待ちに待ち、空間震を差し置いてでも買いに行こうとした、彼れにとっての
そして士道は腕を組ながら不遜な態度で口を開いた。
「じゃあ、話を聞こう」
「うわっ…私のお兄ちゃん、現金すぎ…!」
琴里がツッコむのも無理の無いほどの、現金な手のひら返しであった。
「士道にやってもらいたい仕事ってのは、その空間震に深く関わるものなのよ」
「ほう」
神無月の巧みな仕事により、士道になんとか話を聞く姿勢を持たせた琴里は、余裕を持った態度で士道に対して話始める。無論、士道が謙虚な態度になるわけではない。
「改めまして。私達は“ラタトスク”。精霊との対話による空間震災害の平和的解決を目指し結成された秘密結社よ。因みに私はその司令官。神無月は副司令で、令音は解析官を勤めてるわ。士道が知り合いだった川越も中津川も幹本も、箕輪も椎崎もみんな精霊の保護の名の下に集まったってたわけ」
琴里の言葉と同時に、艦橋にいる乗組員全員の視線が一斉に士道に向けられる。司令の言うとおりだ、と言わん張りに視線を注いでいた。
士道は余裕の態度を崩さず、少し考えて口を開いた。
「精霊…生き様を例えるなら、妖精姿の可憐なる野獣。ということか」
「へえ……」
ここまでの経緯とこの状況から導きだした答えにしては、かなり的を得ている士道に思わず感心する琴里。
何も考えていないように見えた兄が、思いの外理解が早いことに安心していたのだが、その後の士道の言葉に度肝を抜かれた。
「つまり、俺のことだな?」
「違うわ」
やっぱり解っていなかった。
琴里は少しでも期待した自分を戒めて、士道に対して説明を始めたのだった。
琴里の話を要約すると―――
精霊とは“隣界”に存在する特殊災害指定生命体である。発生原因も存在理由も共に不明であるが、こちらの世界に
まず人類は武力による殲滅を試みた。先程空を飛んでいた陸自の対精霊特殊部隊“AST”などがそれにあたる。しかし精霊は非常に高い戦闘能力を持つため達成は困難である。
そこで異なる対処法を思案した。それが精霊との対話による平和的解決であった。
―――ということだそうだ。
「そして士道が昼に出逢ったのが、私達が《プリンセス》と呼ぶ精霊よ」
「プリンセス…精霊……なるほど」
士道は琴里の話を聞いて、頷きながらフフンと鼻をならした。だがこの男、ここまで聞いて一切理解していなかった。
士道の脳裏に浮かんできたのは紫の絶世の美少女の姿であり、精霊のように可憐なるお姫様、それがあの娘。といったものが伊達ワルな士道の認識だったのだ。
「ラタトスクの目的は、精霊とデートして、デレさせて、封印することよ。そのためのフラクシナス。そのための士道。あなたがこの作戦の要なの」
「封印…」
「ああ、別に壺に閉じ込めたり、縛り付けたりするわけじゃないわ。ただ……そうね、普通の女の子に成るだけよ」
真剣な顔で話をじっと聞いていた士道の姿を見て、琴里は確信した。間違いなく心優しいお兄ちゃんはやるはずだ、と。
「それで、やってくれるわね士道?」
「意味がわからないな」
琴里の問いかけをバッサリと切り捨てる。またもや予想を裏切る士道の答えに琴里は二の句が止まらない。
「なんでよ!?やりなさい!!」
「なんでって言われてもなぁ」
琴里の鬼気迫る追及にもどこか要領を得ず、あっけらかんと答える士道。
暖簾に腕押しな状態に段々と琴里は興奮していく。
「士道がやってくれなきゃ空間震の被害はこれからも増え続けるのよ!!」
「おい琴―――」
「これは只の遊びじゃないの、この国を……いえ、この世界を守るための戦い。いえ、戦争なの!!」
士道の言葉すら遮り、琴里は叫ぶ。本来ならば冷静に、一方的に会話にのせて、半ば強要してやらせようとしていた。
だが士道の想像を超えるマイペースに呑まれた琴里は感情のままに言葉を紡いでしまっていたのだ。
「だから、助けてよぉ……お兄ちゃん…!!」
琴里の激しい感情の揺らぎは怒りを通り越してしまった。力なく涙声で懇願するまでに心が弱り過ぎていた。
「琴里、俺を見ろ」
士道はそう言って琴里の顎を右手でそっと掴んで、クイッと持ち上げる。ほのかに涙の滲む瞳が士道の力に満ちた瞳を捉える。
彼は話の流れが解らなかった訳ではない。只、琴里が強制してやらせようとしていたことの意味が解らなかった。
「御神木のようなスピリチュアルな佇まい」
士道は全身から放つオーラで答えを示す。彼の表現はどこまでも他人には伝わりにくい独自のものだったが。
――そう、士道は言っていない。
「この神秘性に落ちない女はいない」
「やって…くれるの……?」
士道にとって女に愛を囁くことなど、やって当然のことだった。
犬が吠えるように、魚が泳ぐように、鳥が空を舞うように、特別理由がなければやらないほうがおかしい。それくらいに当たり前のことなのだ。
故に、それを頭を下げてやってくださいと言われても意味が解らないと思っただけの話だ。
―――彼は一言だって言っていなかった。
「足掻いても、この色気の罠からは逃げられない」
琴里の眼から零れ落ちそうな雫をそっと指で拭いながら、彼は言い切った。
―――やらないとは、一言だって言っていない。
士道と精霊の、世界を賭けた一騎討ちが、始まる。
誤字修正ありがとうございます。本当に助かりました!
これからも頑張ってやってきたいと思います。
では次回もよろしくお願いします!