【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21]   作:くろわっさん

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第4話 もっと強気でいい、俺にはその価値がある

 薄暗い部屋の中、男は厚手のカーテンに手をかけた。真横に引くと、シャっという小気味良い音と共に窓から柔らかな朝陽が差し込み、男の身体を照らす。

 

 陽射しによって明るくなった部屋に立つのは、上半身裸の五河士道だ。

 士道は慣れた手つきで煙草に火を着けながら、窓の外を眺める。陽に照らされ写るのは漂う雲。そしてその遥か下に小さく見えるのは、彼が日々過ごしていた天宮の街並みだった。

 

 士道は後ろからもぞりと動く音に気が付き、ゆっくりと振り向いた。

 

「起こしちまったみたいだな」

「ん…その匂いがするときは、いつもシンがいなくなる時だから……」

 

 ベッドの上で身体を起こして微睡んだ声で話すのは、薄手のシーツ()()()身に纏う令音だった。

 

 

 なぜこんなことになってしまっているのか。事の発端は前日に遡る―――

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 

「―――足掻いても、この色気の罠からは逃げられない」

 

 顎に手を添えられたままの琴里の瞳を、士道は吐息がかかりそうな距離で、尚もじぃっと見詰めていた。

 

「し、士道…?」

 

 次第に冷静さを取り戻していく琴里だったが、今度は急に恥ずかしくなり顔を真っ赤にしていく。それでも士道は瞳を逸らさず、穴が開くのではというくらい義妹の眼を見詰めていた。

 

「お兄ちゃん……」

 

 耳まで真っ赤に染まった琴里は、右へ左へ上から下へと目が回りそうな程に眼を泳がせて……最後には覚悟を決めたようにそっと瞳を閉じた。

 

 

「話はまとまったようだね?」

「ひゃう!!?」

 

 突如真後ろからかけられた声に、琴里は驚いて跳ね上がった。そこにはジトーっと滑り気を帯びた視線で琴里を眺める令音がいた。

 

 MK5(マジで恋する五秒前)だった琴里は慌てて士道から離れる。そして、バクバクとざわつく心臓を抑えながら覚束(おぼつか)ない足取りで艦長席に戻るのだった。

 

「さ、さあて。じゃあ士道の同意も得られたことだし、明日から早速訓練を始めましょうか!」

 

 動揺の抜けきらない声で話す琴里。どうにか仕切り直しにして、出来ればなかったことにしたい、というのがまるわかりだった。

 

「琴里、訓練ってなんだ?」

「それはね、士道が女の子にモテモテになるための訓練よ!」

「ふっ…」

 

 琴里はややあざとさを見せながら、ビシッと指差して決める。突拍子も無いことを言われた士道は、済まし顔をしながら鼻で笑った。

 

「司令ー。士道くんには今更いらないでしょ。その訓練」

 

 そんな声を上げたのはフラクシナスの乗組員のひとり。太っちょでメガネを光らせる中津川だった。

 それに続くように「ふむ。確かにその通りかもしれませんね」と神無月が納得する。気づけば乗組員のほぼ全員が同じような意見を口にしていた。

 

「士道ってそんなにモテるの…?」

「モテろって囁くのさ。俺の伊達って止まらないワル(ソウル)が!」

「だってこんなよ?絶対!必要でしょ!」

 

 決めポーズで話に割り込んできた士道を指差しながら、呆れ顔で琴里は訓練の必要性を説く。

 これから口説く精霊たちがこの変わり者に(なび)くのか、と不安になってしまったことは責められないだろう―――

 

「先程まで恋に落ちそうな顔をしていた人間の言うこととは思えないが……」

 

 ―――但し、言った本人が靡いてない場合に限る。

 

 令音の見も蓋もない一言でこのゴタゴタは終結した。あとに残るは恥ずかしそうに顔を伏せる琴里の姿だけだった。

 

 

「さて、コイツもあるし…いい加減に帰らせてもらうぜ」

 

 士道はこれ見よがしにメンズナックルの入ったビニール袋を掲げて、足早に出口へと向かう。

 帰り道は解らないがなんとでもなるだろうと思いながら歩を進めようとした時だった。

 

「それなら私の部屋で読んでいくといい。今から家に帰るのは大変だろう?」

「いいのか?」

「勿論、艦内に私室を設けてもらっているから直ぐだよ」

 

 令音は流れるような動きで士道の隣に並び、そのまま部屋に招待したのだ。あまりの早さに俯いていた琴里は気づけていない。

 

「いや、転送すれば家まで一瞬なんじゃ―――ひっ!?」

 

 口を挟んだ椎崎を令音の鋭い眼光が射ぬく。長い前髪で隠れている片目の奥すら見抜かれているような圧力に、出来る限りの早さで顔を逸らし口をつぐむ。

 

 実際、秘密結社ラタトスクが用いる超技術である顕現装置(リアライザ)を使えば、上空一万五千メートルに存在する戦艦フラクシナスから地上までは瞬時に移動が出来る。

 しかし、令音はその事実を意図的に士道に伏せたのだ。

 

「コーヒーでも淹れようか。まあ飲みながら()()にゆっくりするといい」

 

 穏やかな口調で話ながらも、ぐるりと周囲を見回して、ざわつく周りを眼で殺す令音。

 士道はオモチャを買ってもらった少年のようにメンズナックルに夢中だったので、その視線に気付くことはなかった。

 

 そして、ふたりは揃って艦橋を立ち去っていった。

 

 

「怖かったですねえ、村雨解析官」

「目がマジでしたよ。おぉ怖っ!一途な女って怖い怖い」

「箕輪さんがそれ言うんですか…保護観察処分中なのに」

 

 令音と士道が去った艦橋では、睨まれていた一同が緊張から解かれ談笑していた。

 因みに琴里が復活したのはこれから更に二分後のことであった。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

「お待たせ、ブラックでよかったね?」

「ん、ああ。ありがとう」

 

 士道はベッドに腰掛けながら、令音から渡されたコーヒーを受け取り、一口含むとサイドテーブルに置いた。そして再びメンズナックルに眼を落とす。

 

 士道は部屋に案内されベッドに座るよう促されると、そこからは口を開くことなくメンナクの世界に潜り込んでいった。

 

 女性の部屋に上がり込んでおいてそれでいいのかと問いたくなるが、部屋の主である令音は満足げな表情でそれを見守っていたので、ふたりの間ではこれが正解なのだろう。

 

 それから士道はメンズナックルを読んで読んで、読み尽くした。時折コーヒーに口を着け、また読み、途中に出された軽食に手を出して、また読み耽る。一ページ一ページを味わうように士道はゆっくりとメンズナックルを読み込んでいった。

 

「……やはり、ローランド様は神だ…」

 

 パサリと雑誌が閉じられる。士道は読み終わったメンズナックルを片手に、背筋を伸ばしながら天を仰ぐ。

 

 気がつけば夜も遅く、窓の外はすっかり暗くなっていた。

 

「終わったかい、シン」

 

 少し離れたところからかけられた声に反応して士道はそちらを向く。

 そこにはバスローブだけしか着ていない令音の姿があった。シャワー上がりでまだ上気した白い肌が妙に艶かしく輝いていた。

 

「随分と長居しちまったな。いろいろありがとうな、じゃあそろそろ俺は―――」

 

 目的を終えた士道は令音に手を振りながら、部屋を去ろうと立ち上がって歩き始めた。そして令音の横を通り過ぎた瞬間、後ろから急に抱きしめられる。

 色めいた四肢を絡め、身体全てを使って令音が彼を引き留めたのだ。

 

「これだけ待たせておいて、ハイさよならなんて言うと思ってたのかい?」

 

 問われた士道は無言のまま、己の身体を縛る令音の掌を優しくほどく。そのまま振り返ると、そこには今にも泣き出しそうな顔でこちらを見上げる令音がいた。

 

「今夜は……ひとりになりたくない…」

 

 零れる落ちるようなか細い令音の言葉。それは彼女の心からの本心だった。

 

 士道は深呼吸をしたのちに、令音の柔らかな身体をそっと抱き締めて、耳元で囁いた。

 

「このまま朝までオマエを抱き寄せて過ごそうか」

 

 令音は何も言わずに壊れそうなほど士道を抱き返した。それが彼女なりの返答だったのだろう。

 

 そして夜は更に更けていく……

 

 ここで語れるのは、士道によって令音が夢のような時間を過ごしたということだけだ。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 ―――そして現在に至る。

 

「よく眠れたみたいだな」

「本当に……本当に良く眠れたよ」

 

 ニヒルに笑う士道に、一呼吸おいてから令音は朗らかに笑いかけた。顔に目立っていた隈がいつもより大分薄くなっていたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

 士道は煙草を吹かしながら「ところで」と話題を変えた。

 

「これはラタトスク的にオッケーだったのか?」

 

 士道が疑問に思ったのは、秘密結社という組織の中でこのような関係に成って良かったのかということだ。

 尚、抱いたこと自体にはなんの後悔も憂いもなかった。

 

「ああ、精霊は繊細で(うぶ)な存在だからね。シンが先走らないように私が身体で引き留めただけだよ」

 

 令音は淡々とした口調でビジネスライクな言葉を紡ぐ。だがそれは自分の中でそう思っていただけだ。

 実際には声は震えている上に眼も泳いでいたので、他人から見れば嘘を言っているのがすぐにわかる。

 それでも令音は言葉を止めずに、嘘を続けた。

 

「シンは本当に手が早いからね。こちらから手を打ったのさ」

 

 積み重なっていく大人びた言い訳。素直になれない彼女だったがそれを見逃す士道ではない。

 

「そう、これはあくまで仕事の―――」

 

 そこまで話したところで令音の唇が塞がれる。蓋となったのは他でもない士道の唇だった。驚きに眼を見開いた令音だったが、すぐに瞳を閉じて甘美な妨害に身を委ねた。

 

 重なる唇と唇。令音が口付けを堪能したのち、遠さがる互いの唇にはきらめく糸が引かれた。

 

 息を切らしながら瞳を蕩けさせる令音から眼を逸らさずに士道は口を開く。

 

「もっと強気でいい、俺にはその価値がある」

 

 士道はそれだけ言い残すと、黒のアウターを羽織ながら部屋を後にする。そして、惚けたままの令音だけが部屋に残された。

 

 令音はベッドに倒れて、まだ湿り気を帯びた自らの唇に触れる。

 

「シン……本当に君はズルい。やはり…私だけのモノにしたくなってしまうじゃないか……」

 

 令音は微かに残る彼の温もりと香りをシーツから感じながら、火照った身体をひとり冷まし続ける。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 士道は昨日までの非日常など無かったかのように、普通に高校に登校していた。

 

 いつも通りに教室へ向かい、いつも通りに自分の席に着く。そしていつも通りのホームルームが始まったのだが―――

 

「新学期二日目ですけども、このクラスに副担任の先生が就いてくれることになりました」

「村雨令音だ。担当は物理。よろしく」

 

 ―――全てがいつも通りとはいかないようだ。

 

 令音は白衣姿にメガネをかけた装いで、生徒たちに向かって軽く笑顔を振り撒く。その視線は特に()()()()()に向かっていたが。

 

 突然の報告にぎわつきだすクラス。そんな中でも士道はニヒルな笑みを絶やさず、クールに振る舞うのだった。

 

 少しだけ変わった士道の日常だったが、当の本人は特に気にすることなく、騒がしくも平穏な日々を過ごしていく。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 そして一週間の時が過ぎた。

 

 日常を謳歌する士道は殿町と共に昼飯を食べながら駄弁っていた。

 

「士道さん、俺は決めましたよ。今から先取りして……夏を頂く!!」

 

 食事が終わるや否やそんなことを言い出す殿町。今は四月の頭、夏はまだ先だというのに気の早いことだ。

 

「というわけで士道さん、何か夏モテの秘訣。ありませんかねえ?」

「んー…悪いなヒロト、あまり力になってやれそうにない」

「ええっ!?何でですか!!?俺には教えてくれないってことですか!?」

 

 まさか士道がモテの秘訣を知らないとは思っていなかった殿町は、悲しそうに夏モテを連呼しながら膝を着く。

 だが士道はそんな殿町の肩を、そうじゃないと言わんばかりに力強く叩きながら言う。

 

「夏モテ?悪いがオレは一年中モテだ」

 

 士道は夏限定のモテなど知らなかった。彼のモテは365日年中無休で営業しているのだから。

 

「流石は士道さん…根底からして違う…!」

 

 感動にうちひしがれる殿町。士道はそんな殿町を優しく見守りつつ、席を立ち教室を後にする。

 

 シンプルにお手洗いに行きたくなっただけだが、それを感じさせない立ち振舞いで堂々と彼は歩くのだった。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

「待って欲しい」

 

 トイレから出た士道を待ち受けていたのは、学年一の才女鳶一折紙だった。

 

「どうした折紙?」

「その格好、今日もいい感じでカッコいい」

「おう?まあな」

 

 唐突に士道の改造制服を誉め出す折紙に、疑問を抱きつつも当然のごとく返す士道。

 士道と彼女の会話はわりとこんな感じの始まりが多いので、士道はあまり気にしていなかった。

 

「士道さん、実は私は前から貴方のことを知っていた」

「そうか」

「二年で同じクラスに成れてとても嬉しい。だから授業中はずっと貴方のことをずっと見ている」

「そうか、授業はちゃんと受けとけよ」

「問題ない。それに放課後貴方の体育着の匂いを嗅いだりもしている」

「そうか、盗むなよ?」

「問題ない。あと、良かったら私と付き合って欲しい」

「そうか、いいぞ」

 

 淡々と繰り返される問答。あまりの急展開に並みの人間なら着いていけないだろう。だが伊達ワルを極めた士道がこの程度の速度に振り落とされるわけはなかった。

 

 その代わりに、並みの人間が置いていかれるわけだが。

 

 士道は何か思い付いた顔をした直後、素早くスマホを弄って何かを始める。すると電子音と共に折紙のスマホが震え、士道は折紙にスマホを確認するように促した。

 

「俺のブロマイド、送っといてやったぜ」

 

 一見して迷惑千万な行為だが、士道がやるとなると話は別だ。

 現に折紙はスマホが壊れるのではないかと思えるほど強く握りしめながら、送られた写真を必死でスワイプしていた。

 

「それと折紙、お前は―――」

 

 士道が何かを折紙に伝えようとした瞬間、空間震警報が鳴り響きその言葉を止める。

 折紙は苦虫を噛み潰したような顔でサイレンを鳴らすスピーカーを睨み付けていた。

 

「私はこれで。士道さんは早く避難を。じゃあまた」

 

 それだけ告げて折紙は士道の前から走り去っていってしまった。それと入れ替わるように今度は士道のスマホが鳴り出した。

 

「俺だ」

「“士道、プリンセスが現界(げんかい)するわ!出現予測地点は……来禅高校…!!士道の近くよ!フラクシナスで回収するから移動して、早く!”」

 

 電話口からは琴里の焦りを含んだ声が響く。だが士道はゆったりと歩幅で歩きながら移動を始める。

 

「底抜けに優雅にクレイジーってのは大アリだな」

「“言ってる場合!?空間震に巻き込まれるわよ!!”」

 

 相も変わらず空間震を恐れない、何処までもマイペースな五河士道だった。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

「“士道、プリンセスが現界したのはグラウンドの中心だったみたい。ついでに校舎の一部を呑み込んでね。でもそのおかげでプリンセスが校舎に入った。これならASTの邪魔も入らないわ”」

 

 士道が令音から渡された小型のインカムから、琴里の状況報告が届く。士道は転移によって強制的にフラクシナスに回収され、再び校舎前に転送されていた。

 

「それで、お姫様は何処にいるんだ?」

「“プリンセスは三階に居るみたいね。ナビするから向かって頂戴”」

 

 士道は不敵な笑みを浮かべたまま、琴里の案内のもと校舎へと足を踏み入れた。

 

 彼を待ち受けるは、最強と名高い精霊《プリンセス》。再びの邂逅の行方は――――

 

 

「さあ、私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 

 

 




書けるときと書けないときの差が激しい!

次回もよろしくお願いします!
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