【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21]   作:くろわっさん

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めちゃくちゃ伸びているので緊急投稿します。


第6話 迷うな!悩むな!俺という正解だけを見ろ!

 夕暮れの教室に降り注ぐは、茜色の斜陽と鈍色の弾丸の雨。

 

 それは精霊の反応を検知し校舎上空で待機していた、陸自の対精霊特殊部隊“AST”による、精霊《プリンセス》の炙り出しの為の攻撃だった。

 

 ババババッと途切れることなく銃声が鳴り、巣穴に逃げ込む獣を追い詰めるように、崩れた校舎の一角へと発砲し続ける。

 

「炙り出しの許可は下りたわ。引き摺りだして機動戦に持ち込むわよ」

 

 ASTの隊長である黒髪ロングのポニーテール女性、日下部遼子(くさかべりょうこ)は隊員たちに指示を出しながら、構えたアサルトライフルのカートリッジを交換していく。

 

「出てこい精霊……今日こそ……必ず殺す、仇を討つ…!」

 

 隊長の言葉に従い打ち続ける隊員の中でも、一際鋭い殺意を滾らせるのは白銀髪の少女。士道のクラスメイトで、つい小一時間程前に恋人に昇格した鳶一折紙だった。

 

 まさか自分が放つ弾丸の先に、自身の恋人がいるなど知る由もなく、彼女はひたすらに引き金を引き続けるのだ。身を焦がすような憎しみに燃えて……

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 士道と十香に降り注いだ弾丸は、半透明のバリアのような何かによって防がれた。

 その膜はやや紫がかった光が滲んでおり、十香の精霊としての力によるものであるというのが一目で解った。

 

「早く逃げろシドー。私と一緒に居ては同胞に撃たれる」

 

 十香は士道に寂しげな顔でそう告げながら、迫り来る銃弾の雨粒を力の傘で弾く。

 

 十香にはこうなる事が解っていた。しかし、士道と話してみたいと思ってしまった。思ってしまったが故に巻き込んでしまったのだ。

 

「問題ないさ、気にするな十香」

「私が気にするんだ…」

 

 ほんの僅かな時間の会話だったが、十香は嬉しかったのだ。この世界には自分を殺しに来る人間だけでなく、自分と話すためだけにノコノコと現れる人間もいると知れたことが。まあ少々変わり者ではあるけれど。

 

 そんな人間を、士道を巻き込むわけにはいかないと思えたのだ。それは彼女にとって初めての経験だった。

 

 だから彼女は武器を手に取ることを選ぶ―――

 

「来い!鏖殺公(サンダルフォン)!!」

 

 

 

† † †

 

 

 ―――少女が初めて誰かの為に剣を振るおうと決心していたその時。五河士道という男は、サンダルフォン?最新機種のスマホか? などと全くもって的外れなことを考えていた。

 

 十香が木目調の教室の床を軽く踏みつける。すると床から光が溢れだし、その中から黄土色の石材からなる神秘的な玉座が現れるではないか。

 

 士道はそんな光景を前にしても、考えを改めることはなかった。

 

「デカいな、流石は最新スマホだ」

「すまほ?とやらは知らんが、これは違うぞシドー」

 

 いつぞやのように十香は玉座の背に伸びる柄を握ると、一思いに引き抜く。そして現れるのは、あの美しい幻想的な大剣だった。

 少女の声に呼応して召喚されたのは玉座ではなく、大剣の鞘だったというわけだ。

 

 これには流石の士道も考え直したであろうと思われた。だがしかし、一筋縄ではいかないのが伊達ワル士道だ。

 

「ハハン、なるほど。タブレットだったわけか、そりゃデカいわな。そっちはスタンドだな?」

「“んなわけないでしょ!それは天使よ!!”」

「今どきの学生はそういう言い方するのか。サンキュー琴里、勉強になったぜ」

「“違うつってんでしょこのウスバカゲロウ!!”」

 

 琴里は士道に怒濤のツッコミをいれまくるが、彼はそれがスマホないし、タブレットだと信じて疑わなかった。

 

 自分がこれと思ったらその考えを容易く変えることなく、信じぬく。それが五河士道という漢の考え方なのだ。

 例えすっとんきょうな勘違いを重ねていようと、彼が信じる以上彼の中ではサンダルフォンは通信端末にしか成り得ないのだ。

 

「じゃあ十香、LINE交換しようぜ」

「らいん?何を交換するというのだシドー。そんなことより、メカメカ団を迎え撃たねば!」

 

 士道は自らのスマホを取り出すと、サンダルフォンに視線を落としながら近づく。十香は不用意に剣に触れようとする士道に驚きながら、誤って触れないようにさっと剣を引いていた。

 

 彼の的外れな言動のせいで忘れがちだが、彼らは現在進行形でASTから襲撃を受けている真っ最中である。十香が精霊の力で弾丸を防いでいなければ、精霊である十香ならまだしも、人間でしかない士道はあっという間に蜂の巣にされてしまうのだ。

 

 だが士道はそんなことお構い無しに、スマホを片手にアプリを起動していく。

 

「おい十香、コード読み取りにくいから動かすなっての」

 

 剣を振り上げようとする十香の手を掴み、士道はサンダルフォンを手繰り寄せてスマホを近づけていく。

「ここか?……それともこれか」などと呟きながらサンダルフォンの刀身に刻まれた模様や鍔に埋め込まれた珠にカメラをかざして、連絡先を交換しようとしていた。

 

「“何やってんの!そんなの読み取れるわけ――”」

「出来たぜ」

「“――いや読み取れるんかい!どうなってんのよ!!”」

 

 インカムから飛び込む琴里の必死の叫びを他所に、士道は慣れた手つきでスマホを操作して読み取ったと思わしき情報を登録し終えていた。

 

 もしかしたらこの漢の辞書には不可能という文字はないのかも知れない。

 

 

「シドー、もういいか?私はいかねば…」

「外野なんてほっとけよ、今は何より大事な俺との時間だぜ」

「しかしそれではシドーが…!」

 

 十香は困惑していた。自身の巻き添えという形で今にも同胞である人間たちに撃たれようとしているにも関わらず、悠々と、そして堂々とした振る舞いをまったく崩さない目の前の男にだ。

 

 だからこそ、私が護らなくてはと思っていた。やるべきことも解っている。簡単なことだ。いつものようにこの身に宿った力を使って、戦って追い払えばよいのだ。

 でも目の前の男はそれを望んでいない。彼が望むのは私と話すこと、共に居ること…それだけのことだった。

 

 出逢うもの全てから拒絶されてきた私のような存在に、初めて手を差し伸べてくれた者の想いに答えたいと思った。それと同時に、こんな私が理由(わけ)も解らないままこの優しさに触れても良いものなのかと怖くなった。

 

 せめぎ合う感情の波に呑み込まれ、十香は今、悩んでいた。

 

 その最中、士道の言葉が十香へと届けられる。

 

「迷うな!悩むな!俺という正解だけを見ろ!」

 

 それは彼女が欲しがった答えだった。十香の心の中を見透かすように、士道が放った驚くほど迷いのない言の刃は、ジレンマによって苦しめられていた十香の悩みをスッパリと断ち切る。

 

 銃弾が奏でる喧騒すら十香の耳には届かない。士道の言葉だけしか聴こえない。

 

 ―――十香の瞳には、もう士道だけしか映らない。

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 士道が十香の心をガッチリと掴み取った時から、もうそこはふたりだけの場所、ふたりだけの時間だった。いや、正確に言うならそこは士道の独壇場と言えるだろう。

 

 士道が口を開けば十香は嬉しそうに微笑み、胸踊らせる。十香が話せば士道が十香の考えを超越した言葉の群れで返す。

 

 士道と話せば話すほど、十香は士道に深く惹かれていった。

 

 

 その様子は空中戦艦フラクシナスでもしっかりとモニタリングされていた。

 

「好感度、更に上昇を確認!」

「凄いですね…士道くん。十香ちゃんのご機嫌メーターがうなぎ登りで上がってきますよ」

 

 浮かび上がるモニターには十香の精神状態が表示されており、それが士道によってもたらされた結果を如実に表していた。

 

「我々がサポートすることありませんね、これは…」

「AIの解析もギリギリでさっきから選択肢も出てこないですしね」

「もう全部士道くんひとりでいいんじゃないかな」

 

 乗組員の間には諦観にも楽観にも似たムードが漂っていた。だがそれを素直に受け止めきれない者も居たのだ。

 

「油断しない!相手は精霊よ、何が起こるかなんてわからないわ!」

 

 士道の義妹であり、フラクシナスの司令官でもある琴里だ。彼女は弛み始めていた艦橋の雰囲気を一蹴すべく、声を張って喝を入れる。

 

「当人たちは気にしてないみたいだけど、ASTの襲撃はまだ終わってない。それに本来不可視の精神状態を数値化出来るのは私たちの最大の強みで、決して無くなった訳じゃないのよ。だからこそ現状できるサポートはいくらでもあるわ!各自計器から目を離さないこと!いい!?」

「「了解!!」」

 

 琴里の言葉に乗組員たちはキレイに揃って返事した。それを確認すると琴里は艦長席に深く座り直し、大胆かつ不敵に脚を組み換える。

 

 このまま傍観して終わるなど自らのプライドが許さない。そう思った琴里は自分の職務を全うすべく、士道への通信回線を開くのだった。

 

 

 

† † †

 

 

 

「“士道聞こえる?”」

 

 十香と楽しくお話をしていた士道のインカムに、琴里の声が飛び込んでくる。

「ちょっと待て」と十香に告げると、士道は通信に耳を傾けた。

 

「“十香の好感度が十分に上昇したわ。そろそろ仕掛けていきなさい”」

「なるほど、任せろ」

 

 小声で呟いたためか、まるで耳元で囁くような低い声で了承の返事をした士道。それがこそばゆかったのか通信の向こうの琴里は「ひゃうぅ…!」というなんとも情けない声を上げていた。

 

「“デートに誘えという意味だよ。その先じゃあない。わかってるね、シン?”」

「…………任せろ」

「“今の間は何ぃ!!?”」

 

 釘を指す令音への意味深な返事に思わず琴里がつっこんでしまった瞬間だった。

 

 

 さて、先程からそんな様子を不審な目で眺めるのは、待てを言い渡された十香だ。

 他でもない士道に待てと言われたからには待ってるつもりだったが、何やら士道の様子がおかしい。頻りに耳に手を当てて何かボソボソと呟いている姿に不安を覚えてしまったのだ。

 

 そしてざわざわとする胸の騒ぎが抑えられず、彼女は意を決して口を開いた。

 

「さっきから何をボソボソと言っている!まさか…この期に及んで私を謀ろうというのではないな!?なあシドー…?」

「そんなわけないだろ。そうだな……十香、お前に伊達ワルの真髄を教えてやろう…!」

「なん…だと…!?」

「“違う、そうじゃない”」

 

 鈴木雅之もびっくりなほど訳の解らないデートの誘い文句だった。

 不安こそ消えたものの、士道には驚愕させられてばかりの十香に、琴里は同情を禁じ得なかった。そんな琴里もそろそろツッコミ疲れた頃なのではないだろうかと思えるが。

 

 兎に角、伊達ワルに染まった士道に周りは振り回されてばかりだった。

 

「シドー……()()()()とはなんだ?」

「ああ、それを今から二人っきりで教えて―――」

 

 純粋な十香の疑問への答えは、突然の爆発音によって掻き消された。士道たちは十香の力によって無事だったが、辺りは爆炎で包み込まれていた。

 

「ASTが本格的な攻勢に出てきたわ!一旦引きなさい士道!!」

 

 爆発の正体はASTが放った攻撃だった。銃弾による炙り出しを諦めて、ミサイルによる周囲の破壊を始めたのだ。

 

 いくら十香の力によって怪我などをしないとしても、こうもドカンドカンと激しい爆発の音と空気を伝播する衝撃が酷いと、最早話どころではなくなってくる。何せその話し声すら掻き消されていくのだから。

 

 士道は露骨に不機嫌な顔になると、騒音の元凶の方へと歩き始めた。

 

「俺に構って欲しい女が騒がしいのはスタンダード。でもな……今は大人しく順番待ちしてる時だぜ!」

「シドー!危険だからあまり離れるな!!」

「“士道!?何するつもり!!?いいからさっさと逃げなさい!”」

 

 その場で十香が、通信に越しに琴里が、無闇に鉄火場へ赴こうとする士道を止めようとするが、士道は歩みを緩めることはない。

 

 崩れた校舎の外、ASTを姿がよく見えるような窓際まで行くと、士道は天を仰いで言い放った。

 

「圧倒的な美しさの恐怖、味あわせてやる」

 

 

 

 

† † †

 

 

 

 銃弾での炙り出しから、ミサイルによる波状攻撃に戦闘手段を切り替えてから暫くすると、破壊の広がる校舎からひとりの人影が現れる。

 遂に精霊が姿を現したかと、折紙は思った。しかし現れたのは彼女が予想だにしなかった人物だった。

 

「あれは……士道さん!?」

「シン様!!?なんでこんなとこに!?」

「……は?」

 

 折紙が士道の姿を確認すると同時に、隊長である日下部の口から聞き覚えのない名前が聞こえてくる。だが明らかに知っている人物だという口振りだった。

 

「総員打ち方止めーーー!!シン様…じゃなくて、一般人がいるわ!一時待機!これは命令よ!!!」

 

 隊長の指示により、成りやまなかった銃声と爆音がピタリと止まった。折紙も引き金から指を離し、状況を整理するためにその天才的な頭脳をフル回転させていく。

 

 ――何故士道さんがここに…?逃げそびれて学校に残っていたの?というか隊長の言うシン様とは…?それよりもどうして精霊がいる筈の所から士道さんが現れた?まさか精霊に襲われている…?

 

 不可解すぎる状況に、折紙の頭の中は疑問符に包み込まれる。

 

「何あれ、超イケメンじゃない!?あっ、こっち見―――」

 

 オープンチャンネルで悠長なことを言っている同僚の通信が半端なところで途切れる。不埒なことを言った同僚睨み付けてやろうと視線を送る。だが、気付けばその同僚は戦線から消えていた。

 

 何が起きたのか理解する間も無かったが、その時何か光が走るのを折紙は見ていた。

 

 彼女は光の軌跡を辿って出所へと視線を動かす。其処に居たのは他でもない士道だった。

 

「いったい何が……きゃあ!!?―――」

 

 瞬間、士道から煌めきが走った。その煌めきは光のような速さで突き進み、魔術師(ウィザード)の最大の防護障壁である随意領域(テリトリー)を瞬く間に食い破り、空を舞う為の要であるCRユニットを貫いた。

 

 制御を失いフラフラと墜落していく隊員。幸いなことに煌めきは隊員の身体を傷付けることはなく、再び随意領域を生じさせて事なきを得ていた。

 

 信じられない光景に折紙は頭の中が真っ白に成りそうだった。だが驚く折紙を尻目に、先程と同様の煌めきが次々と走っていく。

 

「うわぁぁあ―――!」「嫌ぁ―――!?」「嘘でしょ!?」「助けてください隊長!日下部隊長―――!!」

 

 次々と断末魔が空に木霊していく。陸自のエリートであり、対精霊特殊部隊である魔術師たちが成す術もなく地に落ちていく。

 

 突如襲い来る脅威と認めがたい現象に、折紙の頭は混乱し、心の中は混沌を極めていた。

 

 

 

† † †

 

 

「“何をしたのだ!?ピカッとしたらメカメカ団が墜ちていったぞ!?”」

「“この流し目はレーザーガンより破壊力があるぜ”」

「“おお!凄いなシドー!”」

「“ふっ、当然だ”」

 

 モニターには、はしゃぐ十香とスカした士道の姿が映し出されている。

 

 ASTを襲った驚天動地な出来事はフラクシナスでもしっかりとモニタリングしていた。

 

「今のは何!?」

「現在AIが解析中です!でも今のって…!」

 

 琴里は艦長席から身を乗り出して驚き、箕輪が信じられないといった様子で返事をする。

 混乱していたのはASTだけでなく、フラクシナスでも同じだった。

 

「――結果、出ます!」

「な…!士道くんから霊力を検出!!なんだこの数値!?」

「まさかイフリートが…?いや、でもこんなの知らない…!そうだ、識別反応は!?」

「パターンアンノウン!……いや、これは……嘘っ!?」

「椎崎!状況報告は正確に!!」

「も、モニターに出します!」

 

 艦橋中央の巨大な空中モニターに映し出される情報に、琴里は度肝を抜かれてしまい、目を見開いて唖然とする。

 

 ポカンと開かれた口からチュッパチャプスが滑り落ち、乾いた音を発てて床を転がった。

 

「天宮市一帯に広がっていたあの微弱な霊波とパターンが一致してます…」

「そんな、嘘でしょ…?只の近似の可能性は?」

「解析AIによると、99.8パーセントの一致。ほぼ間違いないでしょう。つまり…士道くんがこの霊波の発信源だったということに……」

 

 神無月の粛々とした説明に琴里は言葉を失った。

 

 琴里の発する雰囲気につられ、慌ただしかった艦橋の空気は静まり返り、モニター越しの十香の愉しげな声だけが響き渡る。

 

 モニターに映っている、いつものように不敵な笑みを浮かべる士道を、琴里はじっと見つめて呟いた。

 

「いったいどうなってるの……ねえ、お兄ちゃん…」

 

 

 

 

 




ツッコミと化した琴里がいると話が締まりますね!

本文中の“味あわせてやる”は“味わわせてやる”の誤字ではなく、メンナク名言の原作リスペクトなので間違いではありません。ご了承ください。


日間ランキング一位…?見間違いかな?

いやぁ、みんな好きなンすねえ、メンズナックル。


たくさんのアクセス、お気に入り登録、感想、本当にありがとうございます。
これを励みに、完結まで書ききりたいと思いますので、これからもよろしくお願いします!
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