【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21] 作:くろわっさん
仲間は次々と落とされた。あの煌めきは精霊が放ったに違いない。そして何より…最愛のあの人を、私の全てを捧げるあの人を盾にして、襲いかかってくるなんて……
「……絶対に殺す…!!」
激昂した折紙は身を焦がす衝動に任せて、光剣を抜いて突貫した。黒鉄の翼は空を切り、あっという間に精霊との距離を詰める。
そして彼女は雄叫びと共に剣を振り下ろす。しかし、憎き精霊を両断する筈だった光剣は、精霊の大剣によって軽くいなされてしまった。
為されるがままというわけではなく、折紙は身を翻して士道と精霊の間に立ちはだかるように着地した。
「彼を盾にとるなんて…
あくまでも士道は自分の意思で精霊である十香と共にいたため、全ては彼女の勘違いなのだが、それを説明している隙はなかった。
「おいおい、ちょっと待―――」
「はあぁぁ――――ッッ!!!」
「てやぁ―――――ッ!!」
士道が止めに入るよりも早く折紙は光剣を上段の構えから振り下ろす。十香も横凪ぎの振りでそれを迎え撃った。
折紙の光剣と十香の
せめぎあった力の奔流は周囲へと巻き散らかされ、強烈な光が辺り一面を包み込んだ。
そして光が収まる。そこにはもう十香の姿はなく、残されたのは無作為の力によって傷付いた折紙とかすり傷ひとつない士道だけだった。
流れる血と埃と煤に
「おい、大丈夫か?」
「平気…うっ……」
折紙は傷の痛みからふらついて倒れそうになる。しかし、士道が当然のように折紙の身体を引き寄せて、彼女は士道の胸に速やかに収まった。
「ごめんなさい…貴方の服を汚してしまった」
「気にするな、元より俺は
「んっ…ありがとう。士道さんは無事?」
士道の胸の中で赤らみながら縮こまる折紙。身体は傷で痛んでいても、この時この場所は彼女にとっての極楽浄土に違いないだろう。
いつもより少しだけ抑揚のある声で問う折紙に、士道は力強く笑いかけながら答えた。
「肩で風を切って生きる男は摩擦熱には強いんだ」
たぶんではあるが、怪我はなかったと言っているのだろう。
だが折紙にはしっかりと伝わったようで、彼女は安心したように「良かった…」と呟くと、士道の腕で安らかな顔をしたまま眠るように意識を失ってしまった。
士道は一度しゃがんでから、所謂お姫様抱っこで折紙を抱えて立ち上がる。
さて、どうしたものかと士道が考え始めた時、空から空気を裂く音が近づいてきた。
「折紙ぃーー!!無事なの!!?」
大声を上げながら砕けた壁から突入してきたのは隊長の日下部だった。
因みに、やや来るのが遅かったのは、《プリンセス》の
「ハッ!?やっぱりシン様!!……じゃなくて、えーと、その…」
「よお、遼子ちゃん。元気してたか?」
「えっ……?」
慌ただしく来たものの、士道の姿に動揺を隠せない日下部だったが、士道の気さくな態度に呆然としてしまう。
「あの、私のこと覚えて―――」
「それじゃ折紙のこと頼むわ、じゃあな」
「――うぇ!?お、折紙!大丈夫!!?」
士道は抱えていた折紙を手早く日下部に渡す。為されるがまま日下部は折紙を受け止め、傷だらけのその姿に驚きを隠せなかった。
しかし、よく見ると深手を負ってる様子もなく、すやすやと寝息を
「あの、すみませんが我々と一緒に―――って、いない?」
折紙の無事を確認して、顔を上げるとそこにはもう士道の姿は影も形もなかった。そう遠くにいける時間も無い筈なのに、近くに気配すら感じられない。
「シン様、覚えててくれたんだ…」
日下部が士道もといシンに会ったのは一度きり。溜まりにたまった日頃の鬱憤を晴らすため、ボーナスを使いきって夜街で大盤振る舞いをしたかつての日に、ホストクラブで一回接客して貰っただけだった。
まあ、その一回で日下部はシンに夢中になってしまったのだが。
激務と金欠を乗り越えて、次のボーナス支給日に店に行った時、シンは既に
そんな思い出を振り返りながら呆然とする日下部とその腕で幸せそうに眠る折紙を残し、士道は壊れかけの校舎から去っていったのだった。
その頃、空中戦艦フラクシナスの艦橋では、司令官である琴里がうんうんと頭を悩ませていた。悩みの種は勿論兄の士道のことである。
「士道の過去について解らないことが多すぎる……これは徹底的に調べ上げるしかないわね」
「お任せ下さい司令!この神無月、士道くんとの出会いから彼が巻き起こした伝説まで、事細かに説明致しましょう!」
「んー、ちょっと不安だけど今は少しでも情報が欲しいわね。いいでしょう、話しなさい」
勢いのある神無月の提案に、悩みながらも琴里はゴーサインを出す。
だがそこに待ったをかけた人物がいた。士道のことなら誰にも譲らない女、村雨令音である。
「シンのあの性格を考えれば最適解はひとつ。本人に語ってもらうのがいいだろう」
「呼んだか?」
「士道!?いつの間に…」
何処からともなく現れた士道に琴里を筆頭に一同が驚く。神出鬼没の伊達ワル……という訳でもなく、ただ単に令音が転送してフラクシナスに回収し、その足で艦橋まで来ただけの話なのだが。
士道がユーモアを交えた大言壮語は吐けど、細やかな嘘を吐く性格ではないのを理解していた琴里は、令音の助言に
「じゃあ士道、教えてちょうだい。私の知らない貴方の過去のことを。ね?」
琴里は視線を一度落としてから、真剣な顔で士道に訊ねた。
義妹の真剣さを感じ取った士道は、珍しくあの不敵な笑みを消して、キリッとした真面目な顔になる。
「いいぜ、教えてやろう。俺という生き字引の引き方をな」
尚、言ってることは何時もと変わらなかった模様。
―――昔話をしよう。少年が青年になるまでの……五河士道という男の子が、シンという漢となり、再び五河士道という漢になるまでの話を。
夏の始まり、5年前の7月の終わりに。少年はソレに出逢った…出逢ってしまったのだ。彼の運命を変え、自らの導きとなる一冊の本へと。
その本の名は“メンズナックル”。伊達ワルを志す漢の
そして運命の日を迎える。8月3日、その日に何が起こったのかを彼は今では断片的にしか覚えていない。
燃え盛る街。泣きじゃくる妹。空に浮かぶ輝き。絶望に沈む白銀の髪をした少女。そして■■■■■との邂逅。
■■■■■は今日という日の彼の記憶を封印した。
その影響で彼の自我は、一時的にではあるが揺らいでしまった。そこまでは■■■■■も想定しており、ただちに問題が起こることもないと高を括っていたのだ。
思春期の少年の精神に影響を及ぼす程の力を持ったその本の存在を彼女は知らなかった。メンズナックルという漢の
本来ならばそれは少年にとって一時的なブームにしかならない筈だった。時が経てば薄れていき、思い返せば恥ずかしくなる、そんな思い出になる筈だった。
不安定になった自我が元に戻ろうとする際に、彼の心に刻まれていた不完全な伊達ワルの精神が融合し、彼は完全な伊達ワルの誇りを持った漢として生まれ変わってしまったのだ。
それは■■■■■にとって想定外の出来事となる。だが最大の想定外はその直後に起こった。
『寂しいけど今日はこれでお別れだ。また会いに来るよ、必ずね…』
『伊達ワル・マイスターはただ君臨するのみ』
『は…?いったい何を言い出すんだい、シn―――』
言葉の先は紡がれなかった。いや、彼の唇が■■■■■の唇を塞いでいたために、紡げなかったのだ。
朧気な意識の中でも彼は、熱く情熱的に、濃艶で情欲的に、その唇を貪り尽くした。
それが彼の初めてで、女というモノの入り口を知った瞬間だった。そして流れ込む■■■■■の一部に、彼は己の使命を半端に思い出したのだ。
女に愛を注ぎ、愛されることで、女から何か大切なモノを受けとるという、自らの存在理由を魂から喚び起こす。
逃げ帰るように■■■■■がその場から消え去っても、彼は止まらず衝動のままに走り出した。
絶望に堕ちそうな白銀を抱き締め、己が存在を刻み、心を預かった。
そうして彼の意識がはっきりと戻る頃には全てが終わっていた。
これが8月3日、大火災の起きた天宮市における彼の記憶だ。
それからは早かった。彼は「やりたいことが見つかった」と高校休学の意思を義両親に伝えた。それを告げられた時、彼の両親はとても驚いたが、きっと災害に巻き込まれたショックでそうなったのだろうと納得。
自分達が家をあけがちなこともあり、まだ幼かった琴里の面倒を見ることを条件に、休学を承諾したのだ。
自分のすべきこと、その答えは彼を変えたあの本に有った。女を愛し愛される究極の境地……即ち、ホストに為ること。
―――そうして彼は、夜の世界へと脚を踏み入れた。
だが、そう上手くはいかなかった。まだ伊達ワルに目覚めたばかりの彼に非情な現実が降りかかる。
『俺をここで働かせてください!』
『帰んな!ここはガキの来るトコじゃねーんだよ』
彼は門前払いを食らった。それもその筈、この時の彼はまだ16歳の少年でしか無かったのだ。そこはホストクラブ、大人たちの饗宴の場は彼などに用はなく、夜の街は彼を受け入れることなどない。
来る日も来る日も、何軒も店を回り頭を下げて頼み込んだが、彼を雇ってくれる店は一軒も無かった。
しかし、それでも彼は諦めなかった。自分が思ったのなら貫き通す。幼いながらもそこには伊達ワルの精神が宿っていたからだ。
そんなある日、彼はひとりの人物に出逢う。
『あら、可愛い子。こんなところで何してるの?こんな時間まで出歩いてちゃダメですよ』
『…貴方は?』
『私はカンナ。この先のオカマバーで働いてます。ここは君みたいな若い子がくる場所じゃないんだ』
『そうかも知れないですね……でも、俺はやるべきことがあるので』
あまりにも真剣な彼の表情に、カンナと名乗るオカマは何やら事情があるのだと察した。そして気になったカンナは彼の話を聞くことにした。彼は事情を話し、カンナは黙ってそれを聞き続ける。
彼の話の意図も理由も理解したとは言いがたかったが、それでもカンナは彼が嘘を吐いているようには見えなかった。
『今からいう住所の店に行ってみてください。私の名前を出せば話くらいは聞いてもらえるでしょう』
『え、いいんですか?』
『やるべきことがあるのでしょう?なら使えるものは何でも使っとくべきですよ。こんなオカマでもね』
『カンナさん…恩にきます!』
カンナから住所と店の名前を聞くと、彼はすぐに駆け出してその住所に向かおうとする。しかし、振り返って一言だけ訊ねた。
『どうして見ず知らずの俺によくしてくれるんですか?』
『その眼が気に入ったから…ですかね。さあ、行きなさい!』
『ありがとうございます…!カンナさん、また必ず…会いましょう!』
カンナは走り行く彼の背中を見送った。このカンナこそが現在ラタトクスで副司令を勤める、神無月恭平その人であった。
暫く逢えなくなり、感動の再会を果たすようなような感じだが、この3日後に普通に会う。
彼は教えてもらった店に辿り着き、カンナから紹介されたという話をすると、まだ開店前の店の中まで入れてもらえた。本当に話を聞いてもらえることになったのだ。
『それで、何しにきたの君?』
『俺をこの店で雇ってください』
『いや無理っしょ。いくらカンナさんの口添えとは言え、高校生はちょっとね…』
『そこを何とかお願いします!それに高校なら行ってません!』
『あんね、高校いってようがいってまいが、無理なモンは無理なの。法律って知ってる?ガキは働かせらんねえの!』
だが結果は変わらない。かのように見えた、ある男が現れるまでは。
『何を騒いでんだ?』
『あ、先輩!すいません、直ぐに追い出すんで!おい、わかったらさっさと帰れ!』
『まあ待てよ。おいお前、なんでこの店で働きたいんだ?』
『ホストに為るためです…!』
『お前が想像してるほどホストってのは甘い世界じゃないかも知れないぜ。華やかな裏には泥にまみれることもあるし、楽しいだけの仕事じゃねえ。モテたいからってんなら辞めとけ、ホストだからモテるんじゃない。ホストで在ることが出来るからモテるんだ』
先輩と呼ばれたその男は、その店のナンバーワンホストだった。それどころが天宮の夜の街でナンバーワンとも言われていたカリスマホストだ。そんな男の重みのある言葉が彼にのしかかる。
『それでも俺はホストにならなきゃいけないんです』
『なんでそこまでホストに為りたい?』
『それが……俺の生きる理由だから…!』
男は彼の中に光る本物を見た。こいつは何かを持っている、と。
『面白い…採用だ』
『ええ!?まずいですよ先輩!サツにバレたらしょっぴかれちゃいますよ!』
『解ってる。おい、お前。今いくつだ』
『16です』
『なら18になるまでは雑用兼ボーイだ。そんで毎回22時には帰す。地味な下働きを二年間…耐えられるか?』
『勿論、やります!ホストに為るためならなんだって!』
彼の勢いのある返事に先輩は不敵に笑いながら頷き、一言だけ彼に告げた。
『成功したいなら やるか、
こうして彼は昼間は琴里の面倒を見ながら家事を完璧にこなし、夜はボーイとして働きながら漢を磨き続けた。
カンナからは夜の街の生き方を教わり、彼は夜街を己の庭の如く歩けるようになった。
メンズナックルを読み続け、伊達ワル漢としての知識を頭に叩き込み、すらすらと人を惹き付ける台詞を吐けるようになった。
そした彼を見初めたあの先輩からは―――
『いい女の条件って知ってるかい?それは、俺が「いい女」だと思うかどうか』
―――女とは何かを説かれ、挑む相手を知った。
『ホストが売れる方法を教えてやる。まず出勤して、女性の隣に座って、最後にウインクをする。簡単だろ?』
―――ホストとしての仕事のいろはを聴き、勤めを理解した。
『NOが言えないヤツのYESに価値はない』
―――漢としての価値観を魅せられ、必死に同じ視点を得ようとした。
『俺来た道戻らないから、覚える必要ない。自分の来た道突き進むだけだから』
―――己の貫き方を感じ取り、己を貫き通す心を鍛えた。
そうして多くを知り、学び、時は流れ行く。
彼の18歳の誕生日前日に彼は先輩に呼び出された。
『お前、明日から遂にホストとしてデビューだな』
『はい、ここまでこれたのは先輩の力添え有ってこそです』
『そんなお前に朗報だ。俺、今日でこの店辞めるから。明日からはナンバーワンの座が空くぜ?』
先輩はいつもの不敵な笑みを浮かべ、嬉しそうに彼に語る。彼は突然の報告にショックを隠しきれなかった。
『ホスト辞めるんですか、先輩…?』
『いや、俺は歌舞伎町へ向かう』
『歌舞伎町……ソレってつまり……』
『ああ、俺は日本一のホストに、いや…俺は神に為る』
『俺、応援しますよ。それがせめてもの…』
『いらない。俺、ナンバーワンの為り方以外知らないし。だからお前はお前の
『…はい!』
先輩は止まらなかった。更に上へ、自らを高めるため、広い世界へと旅立つのだ。
愛を求める彼と、頂点を極める先輩。ふたりの路は此処で分かたれたが、彼が先輩から受け継いだモノは
二年の月日を過ごし、伊達ワルと、夜の街での経験と敬愛する先輩から託された想いを胸に、遂に彼は完成した。
そして彼の18歳の誕生日。ひとりのホストが産声を上げた。
彼の源氏名は“シン”。魂から滲み出た真名とも言える彼の新しい名前だ。
伝説が今、幕を開けようとしていた―――
先輩のモデルは勿論あの方ですが、この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
1話分のプロットが2話に化ける不思議。なので次回も過去編の続きになります。よろしくお願いします!