【完結】精霊とか知らないけど、たぶん全員抱いたぜ [士道 age21] 作:くろわっさん
彼が“シン”となってから三ヶ月の時が過ぎた。シンは店のナンバーワンホストに為っていた。
女を口説くために生まれたと言っても過言ではない漢は、店を訪れる姫――ホスト業界でのお客様のことである――に愛を注ぎ極上の
『一身上の都合によりこの世界のトップ貰います』
ホストに為った最初の一言がこれだった。それは妄言ではない。
瞬く間に売り上げを伸ばしていき、一月目の締め日には上位に食い込み、二月目の時にはトップと為っており…そして三月目、再びトップの業績を上げた彼は紛れもなくナンバーワンに登り詰めたのだ。
シンの快進撃は止まらず、その名は店だけには留まらない。天宮の夜の街に彼の名と衝撃が駆け巡り、半年もしないうちに彼の名を知らない者はいなくなっていた。
誰が言い始めたのかはわからないが、彼は二つ名とも言える別の名で呼ばれるようになる。彗星の如く夜の街に現れた新星、突如として君臨した夜ノ都ノ神…《ヤトガミ》と。
現フラクシナスの乗組員と出会ったのもこの時期からだった。
女性陣である椎崎、箕輪は当然姫として店に来たことで知り合った。だが二人ともシンの担当の姫に連れて来られただけで、別のホストが担当に付き直接は接客を受けていなかった。相談に乗ったり悩みを解消したりはしたが、シンとしては貢がれることはなかったのだ。
尚、ホスト界隈では店の中で他のホストから姫を奪うことは御法度、犯してはならない
フィリピンパブに通い詰めていた
因みに令音はホストに為った初日からの極太客だった。極太客とは業界用語で、金払いのめちゃくちゃいいお得意様のことである。
勢いに乗るシンはこのまま天宮のナンバーワンホストの座へと駆け昇っていく。だがそのシンの前に立ち塞がる者がいたのだ。
『まさか君がこんなとこで、こんなことをやってるなんてね。なら私が君の望みを止めてみせよう』
それは先輩の居なくなった天宮で直ぐ様ナンバーワンと為った、夜ノ魔術師《ウィザード》と喚ばれるホストだ。
その源氏名は“アイク”。異邦より突如現れたにも関わらず、圧倒的なカリスマを持って名を上げた新人ホストであった。
ツンツンと逆立った白い髪に
見た目三十代というホストにしては遅咲きの華は、新参ながら大物のオーラを纏って夜の街に咲き誇っていたのだ。
『メタファーの魔術師が魅せる艶密な佇まい』
アイクもまた、メンズナックルに魅せられし伊達ワル漢だったのだ。ふたりの伊達ワルはホストとして衝突を始める。
天宮の夜を舞台に二人は常に凌ぎを削っていた。その壮絶な戦いは正に戦争、夜街は戦場と化していた。
担当する姫の数も太さもほぼ互角、だが
『いや、悪いね。今回も私の勝ちのようだ』
『くっ…!』
シンがアイクに半歩及ばなかった理由。それはシンが酒を一滴も呑めなかったからだ。
いくら伊達ワルを極めしシンといえど、法律のいう枷からは逃れられない。無論、無視することなど容易だが、法を犯して売り上げを伸ばすなど、ホストとして言語道断である。
つまり、アイクは自分が呑んだ分だけシンよりも稼げていたのだ。この一滴が勝敗を分けていたが、周囲も、そしてアイク自身も己が勝っているとは思っていなかった。
『君とは最高の状態で戦いたい。その上で叩き潰させてもらうよ』
『その余裕の面、必ず歪ませてやるぜ、色男…』
『楽しみだ、さあ戦争を続けるとしよう。これからもね』
この酒で酒を洗う戦争は二年もの間、続いていく。
そして迎えたシンの
『俺の誕生を祝って…乾杯』
『『乾杯―――!!』』
彼の誕生を祝うため、店には老若男女問わず多くの人が訪れた。記念すべき日を飾るように、彼の為だけに次々と酒を入れていった。
シンは祝いにきてくれた全ての人と杯を交わす。更に彼のグラスに酒が残ることはなく、彼が呑めると思えばその分だけ酒が注がれ、消えていった。
ここは饗宴の場、ホストクラブ。酒は只グラスに注がれるだけな筈がなかった。
シャンパンタワーがドバイの高層ビル郡のように積み上げられていき、ドン・ペリニヨンが湯水のように開いていく。
ドンペリの白だけでなく、ロゼであるピンドンが、さらにドリペリ黒が次々と開けられていき、高級品であるP2やP3に、更にはドンペリゴールドすら飛ぶように売れてゆく。
当然店の在庫は直ぐに尽きてしまう。問屋や近隣の店から買い取っても尚足りない程に酒が流れ行き、巨額の金が渦巻く狂喜の世界が広がっていく。
人々は後にこの出来事を振り返り、こう呼んだ……
『この瞬間、世界の中心は間違いなく俺』
シンはこの夜だけで、ライバルであったアイクの一月分の倍の売上を稼ぎ、圧倒的な差をつけて完勝した。この日、シンは名実ともに、天宮ナンバーワンホストに為ったのだ。
―――この日を最期にシンはホスト界から姿を消した。ヤトガミの名はドンペリベリオンと共に伝説となり、天宮の夜の街に語り継がれていく…
「とまあ、こんな感じのことがあったのさ。そんでもって復学して今に至る。おしまい」
自らの過去を語っていた士道は、パンパンと手を叩いて軽い調子で話を締めた。
琴里は疲れた表情でこめかみに手を添えている。そして大きなため息を吐いたあと、士道に対して訝しげに訊ねた。
「ちょっと待ってもらっていい?色々と突っ込みたいのは山々なんだけど、まずひとつ。なんでそこまで入れ込んでたホストを辞めたの…?」
「実は途中から薄々気づいてはいたんだ。俺のやるべきことってこれじゃないのかも知れないってな。それで先輩が居た頂点まで登り詰めれば何か見えてくるかも知れん、そう思って続けてたんだが……いざ見えた景色は違うものだったわけさ」
士道は少しだけ寂しいそうな表情を浮かべたが、すぐにニヒルな口で自傷的に笑い飛ばした。
僅かに哀愁を見せた兄に対して琴里は憂いを覚え、少しだけ優しくなった口調で続けて訊ねる。
「それじゃあ、士道のやるべきことって何だったのよ?」
「それはな……
士道はバッと腕を伸ばすと琴里の頬に優しく添えて、眼を見詰めてキザな台詞を真正面から投げ掛ける。不意打ちでそれを喰らった琴里はドキリとさせられ、胸の奥から沸き上がる熱に浮かされた。
頬を上気させながら惚けていた琴里だったが、周囲から生暖かい目で見守られていることに気付くと、「コホンっ」と、わざとらしく咳払いをして仕切り直す。
「そ、そう!……じゃあ二十歳の誕生日から復学するまでの一年間は何してたわけ?」
「女を口説きながらブラブラ~っと。まあ女の方が俺に寄って来てたってのは言わなくてもわかるな?」
「はあ。呆れた……」
士道が当たり前のように言った答えに琴里は呆れてしまった。その一端は先程のチョロ過ぎる自分にもあると解っていたので尚更だ。
「さて、俺は帰るとするか。琴里、夕飯何がいい?」
「え、あー?ハンバーグかなぁ…」
「了解、んじゃ遅くなんねえうちに帰ってこいよ」
「はーい」
話し終えて満足した士道は何気ない会話をして去っていく。その雰囲気に流され思わず返事をしてしまった琴里は、我にかえって恥ずかしがっていた。
フラクシナスの艦橋から去る士道の後ろをさも当然のように令音が歩いていったことに突っ込む者は最早いなかった。
士道が語った衝撃の過去と、自由奔放な態度に振り回され続けた一同が、士道に話を聞いた当初の目的を忘れてしまったのは仕方のないことだろう。
表向きには空間震の被害ということで臨時休校となった来禅高校。
その校門前に一台の真っ赤なオープンカーがハザードランプを点滅させて停まった。そして降りてくるサングラスをかけた漢は―――
「早く着きすぎたか。いや、世界の方が遅すぎるんだな」
―――勿論、五河士道である。士道はサングラスをダッシュボードにしまうと、崩れた校舎に向かって悠々と歩き始めた。
何故こんなところに一人で現れたのか。そんな疑問は四六時中、空から士道を監視しているフラクシナスの乗組員にも広がっていた。
この監視は、昨日士道が霊力を発現したことを考慮したラタトクスとして当然の処置である。決してどこぞの解析官の趣味ではない。
「士道、なんでわざわざ休みになった学校に…?てかあの車何!?私見たことないんだけど…!」
「あ、アレ!フェラーリの488GTBじゃないですか!?」
一緒に暮らしていた筈の琴里が見たこともないような車に驚いていると、その車種を見ただけで特定した中津川がさらに大きな驚きの声を上げる。
この段階で琴里は嫌な予感がとまらなかったが、一応中津川に訊ねた。
「……もしかして、高いの…?」
「高いなんてもんじゃないですよ、司令!家買えちゃうくらいのもう超超々高級車ですって!」
琴里の顔色はどんどんと青ざめていき、額には冷や汗が滲む。
前の方で「レボリューション!」とか言っている中津川をスルーしながら、琴里は震えそうになる手でスマホを取り出して士道に電話をかけた。
「もしもし、士道!聞こえる!?」
「“俺だ”」
「俺だ。じゃないわよ!その車どうしたの!!今モニターしてるけど、めっちゃ高いって聞いたわよ!いつ買ったの!!?」
突然の電話で、更に電話口の先でキャンキャンと叫ぶ声に、スマホを耳から離して士道は一瞬顔をしかめる。だが直ぐに余裕の表情に戻ってスマホを耳に当てた。
「“これは貰った。勿論、買えないこともないがな”」
「貰っ……」
「私が買って上げたんだ。格好いいだろう?シンにピッタリの車だ」
「やっぱりそうか……」
うっとりとしながらも周囲へのドヤ顔をやめない令音に、琴里は頭を抱えながら大きなため息を吐いた。
私の右腕はどうしてこうなってしまったのだろうか、と。
壊れた校舎まで辿り着いた士道は、まだ比較的綺麗な壁に向かって腕を伸ばして手を着いた。
偶然かはたまた狙ってやったのか、そこは昨日十香と士道が語らった教室の真下だった。
士道の不可解な行動を見た琴里がすかさず通信を入れた。その届き先は先程の琴里の指示でしぶしぶつけた士道のインカムである。
「“何してんのよ士道?”」
「俺クラスになると逆算して先に壁ドン。ココに女のほうから来る」
「はあ?あんたふざけたこと言ってんじゃ―――」
なんとも冗談染みた発言だが…伊達ワルを極めし士道が言った場合はその限りではない。
琴里の台詞が終わるより前に突如として、士道の腕の中が光りだし、そこにひとりの少女が出現する。
きらびやかな紫の
「霊波照合!プリンセスの静粛現界を確認しました!」
「そんなの見れば解るわよ!問題はなんでそのプリンセスが士道の腕の中に収まったのかってことよ!!」
突然事態に琴里は動揺し、思わず機器の並ぶデスクを叩いて叫んでしまった。
落ち着きのある司令官でいるべきなのに、士道が絡むとどうもこうなってしまいがちだ。
けれど分かってあげてほしい。常にフルスロットルな伊達ワル士道を相手にしているのだから、ちょっとヒステリックになってしまうのも仕方ないことなのだ。
「ったくなんなのよ…!士道には解ってたっていうの!?」
「“まあ、LINEで待ち合わせしてたからな”」
「いや、LINE繋がるんかい!!」
偶然にも繋がってしまった通信から飛び込む士道のトンデモ発言にも、しっかりとツッコミを入れられる辺りかなり適応出来ているのではないだろうか。
「ち、近いなシドー……何やらむず痒いではないか」
士道の腕の中で十香は頬を染めながら、しどろもどろに呟く。
そんなしおらしい十香の姿をじっくり眺めた士道は、顔をぐっと近付けて彼女の耳元で吐息と共に囁いた。
「さあ、俺たちの
誤字修正ありがとうございます、非常に助かっております。
物語も半ばですが、これからも完結に向けて頑張っていきます!次回もよろしくお願いします!