──ディケイド
──ディケイド!!
士がふと目を覚ますと、聞き覚えのある声が耳鳴りのように頭の中を巡っていた。
辺りを見渡すと、ぼんやりながらそこにはアンティークな雰囲気を醸し出した洋室が、彼を包み込んでいた。
ともかくも士はここが光写真館である事に安堵し、年季の入った白いソファからむくりと上体を起こす。
あの声は何だったのだろう? 鎧武の声に似ていたが……? そんな事を考えていると、ふと目に移った背景ロール──それは士の身長の1.5倍はあった──が大きな音を立てながら、突然次の絵を見せた。
窓の外が眩いばかりに輝くと、いつもの通り別の街並みを映し出す。
改めて背景ロールに目を移すと、そこに描かれていたのは宇宙をバックに15個の眼球、そしてその周りに15体の幽霊?だった。
またか、と士は立ち上がり、廊下を渡って外に出ようとする。
そしてドアノブに手をかけ、開いてみたその瞬間、士の服装は別の物へと激変した。
真紅のシャツに紺のジャケットとパンツ。
首からは純白のネクタイがぶら下がっており、頭にはコットンの黒ハット。 その隙間からは、アフロのカツラがはみ出している。
首にかけられたネックホルダーには、「光明寺博物館 不可思議現象研究所 門矢士」という文字が顔写真付きで刻まれていた。
「……なんだこれ」
士はこの信じられないくらいダサい格好に呆れて、再びドアを開けてその中へと戻っていった。
程なくして戻ってきた士は、いつも通りこの世界を散策してみる事にした。
黒いロングコートの裾をはためかせ、肌寒い雑踏を通り、街並みを首から下げたマゼンタの二眼レフで写し撮る。
だが、平穏な時は長くは続かなかった。
「あ! 門矢さん! またこんな所サボって!」
赤シャツに紺のスーツをきたアフロの男達が、士の両腕を片方ずつ抱えて、引きずっていく。
「おい! どういう事だ! 離せ!」
士の叫びに二人は耳も傾けず、抵抗もできぬまま連れ去られていった。
彼の強烈な抵抗と同時に、枯葉を吹き飛ばす強い風が吹く。
するといつのまにかその姿はどこかへと消えていた。
「所長、門矢さん連れてきました!」
少し大きめのビルの三階、法律事務所のような部屋の木の扉が開くと、士はやっと解放された。
すると、目の前に立っていた高身長の男が、士の顔を覗き込むように見つめた。
整った顔立ちに不釣り合いなアフロヘアー。
額にはサングラスが乗せられている。
この男もまた、赤いシャツと白いネクタイ、紺のスーツを纏っている。
となるとここは、「光明寺博物館の不可思議現象研究所」なのだろうか。
「いや〜困りますよ門矢さん、貴方だって給料貰ってない訳じゃないんですから、ちゃんと調査しにいってくださいよ」
「あ?」
士がイライラ気味に目の前の男──山ノ内を睨むと、彼はため息混じりに社長椅子に座っておもむろに話し始めた。
「ご存知の通り、ここももう設立10周年なわけですが、未だにやってくる人は『猫を探せ』だの『浮気調査』だの、不可思議現象を研究するというよりただのお安い探偵業。 今回起こった事件を解決しないと、ここホントに解体ですよ? そしたら皆クビ。 行く場所なんてありません」
「今回?」
「ああもう、サボりすぎて今回の事件まで忘れちゃいましたか! ……ポルターガイスト事件のことですよ。最近この街で頻発してて、社会現象になってるんですよ」
山ノ内は自らのノートPCの画面を士に向けるよう抱え、エンターキーを叩いた。
映し出されたのは、防犯カメラに移る、まさに不可思議な現象だった。
コンビニだろうか? ありえない方向に飛散する陳列棚の商品。 棚も勝手に倒れたり、まるで誰かが居るようだった。
落ちた商品は、切り刻まれて粉々になっているようにも見える。
次に映し出されたのは、無人で急加速する車。
だがその車が歩道に突っ込む前に、車はなぜか上に吹っ飛び、事なきを得ている。
「これを解明できれば、私達も鼻が高い。 これでリュウさんにこれ以上迷惑をかけなくてすみます」
「なるほどな。 だいたいわかった」
「あの、私も連れて行ってください」
ソファに座っていた女子高生が突然立ち上がり、士の顔を覗き込む。
不快に思った士は睨みつけるように彼女に尋ねた。
「何のようだ?」
「他にも調査してほしいことがあるんです! 幼馴染が行方不明になってて!」
茶髪のショートヘアーを揺らし、切れ長の目を歪ませた少女はとても気が強くプライドが高そうだったが、よほど幼馴染が心配なのだろう。
頭を下げて士に頼み込んだ。
「あのねアイちゃん、割とおじさんたちの職がかかってるから、タケルくんの捜索はまた今度にしてくれないかな? 待ってくれたら依頼料ただにしてあげるから!」
士はめんどくさそうにため息をつくと、カメラを掴んでドアを開け立ち去った。
「ちょっと! ホントにわかったんですか!」
山ノ内の呼びかけは、ドアに反射されて士には届かなかった。
アイは肩掛けカバンを掴むと、その後を追って部屋を飛び出していった。
────
「今度の世界は平和だなぁ」
ユウスケが感心したように辺りを見回す。
横を歩く夏海は、そうですねと返答した。
だが、何かがおかしい──そう思った瞬間、何かが肩に触れた気がした。
振り向いた時にはもう遅かった。
ユウスケは頬を殴られ、地に打ち付けられている。
姿の見えない何かが私たちを囲んでいる…?
夏海はそう考え、すぐさまキバーラを呼び寄せる。
「キバーラ!」
「あら、出番みたいね?」
飛来した白いコウモリ型モンスター・キバーラは、翼をはためかせながら夏海の人差し指に噛み付いた。
「カプ」
「変身」
キバーラはそのまま生成されたベルトの止まり木にとまり、その瞬間ライフエナジーが放出され姿が白い女性騎士に変わる。
ユウスケも立ち上がると、腰に手を当てアークルを出現させる。
「変身!」
構えを取り、腰に力を込めるとその体が赤い鎧に変化していく。
金色の角と赤い複眼。 リントの戦士・クウガは続け様に超変身!と叫ぶ。
すると身体はさらに変化し、緑の肉体に精密な五感を誇るペガサスフォームへと変わる。
だが、クウガは「射抜く物」を持ち合わせてはいない。
すなわち武器がないのだ。
しかも変身制限時間は僅か50秒前後。
見えざる敵の位置が分かっても、それをキバーラへ伝えるだけでは倒しきれない。
「夏海ちゃん! 銃とか持ってない?」
「ありませんよ! キャ!」
キバーラは見えない敵に翻弄され、ほぼ一方的に攻撃を受けるばかりだった。
打つ手はないのか……その時、虚空から何かがユウスケに投げつけられた。
不思議に思いながらも、ユウスケは見えない何かを拾った。
するとその見えない何かは、ペガサスボウガンへと変化した。
落ち着け、耳を澄まして空気の動きを感じ取れ……。
クウガは仮面の下で瞳を閉じ、少し俯いて神経を集中させる。
何者かの気配が周囲を蠢き──来る!
クウガがペガサスボウガンの弦を力一杯引き、それを離した瞬間、封印エネルギーを混ぜ込んだ空気の弾丸が高速で射出される。
弾丸は見えない敵を捉え、直進し、遂にその胴体を貫いた。
「ぐあああああ!」
断末魔とともに爆発が起き、同時にクウガがグローイングフォームへと戻ってしまった。
膝をついたクウガは変身解除し、苦しそうに軽く喘いだ。
だが、キバーラがユウスケを連れて帰ろうと変身を解こうとした次の瞬間、謎の斬撃が彼女を襲った。
不意を突かれて変身が解除されると、見えない敵はようやく姿を現した。
蜂の女性怪人・インセクト眼魔だ。
インセクト眼魔は後退る夏海にジリジリと近寄っていく。
そして怪物が手を振り上げ、夏海が悲鳴をあげて腕で顔を覆う。
すると、ふと夏海の身体は何かに抱えられ、いつのまにか怪物から引き離されていた。
「士くん……! 来てくれたんですね!」
「たまたま通りすがっただけだ。 下がってろ、夏海。 ここは俺が片付ける」
士はディケイドライバーを掲げると、それを腰に当てる。
ディケイドライバーから射出されたベルト部が士の腰を覆い、巻きつくと起動音が響き渡った。
士はバックルを展開し腰に生成されたライドブッカーからカードを引き抜くと、それを眼前に掲げた。
「士頼む!」
「……ああ。 変身!」
カードを折るようにひっくり返すと、それをバックルへ差し込んだ。
『KAMEN RIDE』
士がバックルの両サイドを押し込むと、バックル中央の赤い宝石からバーコードの紋章が浮かび上がった。
『DECADE』
生成された九つの影が、士を中心に寄り集まってグレーの鎧を形成する。
そしてブランク状態のディケイドの顔面に四角い物体が等間隔に突き刺さると、全身の色はマゼンタへと変化し、緑の目は発光した。
「変わった…?」
アイは建物の陰から士を見ていた。
その姿が異質なものへと変化すると、彼女は目を見張り驚嘆した。
変身を見たインセクト眼魔は、すぐさま姿を消して奇襲を狙う。
その意図を把握したディケイドは、カードを取り出しそれをバックルに差し込んだ。
『ATTACK RIDE INVISIBLE』
何も見えなくなったかと思いきや、しばらく経つと虚空から火花が飛び散り始める。
ライドブッカーの乱撃を浴びたインセクト眼魔が、姿を現しながら地面を転がった。
同じく姿を現したディケイドは、すぐさま次の一手を打った。
取り出したカードには、仮面ライダーの顔が刻まれている。
「さっさと成仏しやがれ!」
『KAMEN RIDE HIBIKI』
「また変わった!」
紫色の炎に包まれたディケイドがそれを払うように腕を振りかざすと、その中から別の仮面ライダーが出現した。
アイの驚きは薄れることなく、尚のこと鮮明に印象付けられる。
紺に近い紫の肉体に銀の装飾が施された音撃を極めし鬼──響鬼の力をまとったディケイドことディケイド響鬼はインセクト眼魔の腕を掴み引き起こすと、膝蹴りを浴びせることで出来た隙に別のカードを装填、使用した。
『ATTACK RIDE ONIBI』
腕は離さず、いやむしろ引き寄せながら口から炎を放つ。
鬼幻術・鬼火である。 ディケイド響鬼の鬼火はインセクト眼魔の顔面を焼き尽くし、彼女は絶叫を上げた。
「逃すか!」
慌てて逃げようとするインセクト眼魔にとどめを刺さんと、ディケイド響鬼は黄色いライドカードを取り出した。
『FINAL ATTACK RIDE』
カードを装填してから、両腕を軽くはたくと、バックルを閉じた。
すると響鬼のライダーズクレストが浮かび上がるのと同時に、処刑宣告がディケイドライバーより下される。
『HI・HI・HI・HIBIKI』
ディケイドライバーの中央に生成された爆裂火炎鼓がインセクト眼魔の身体に張り付き、その体の大きさに合わせ拡大し、インセクト眼魔の逃走を封じる。
鬼専用の太鼓のバチ・音撃棒の中でも響鬼の扱う烈火を取り出すと、ディケイド響鬼は身動きの取れないインセクト眼魔にゆっくりと歩み寄る。
「ハッ!」
ディケイド響鬼の音撃が始まる。
横に構えた音撃棒を、最大限の力で振るった。
清めの音が増幅され、インセクト眼魔体内の眼魔眼魂に響き渡る。
「フンッ! ハッ!」
インセクト眼魔の身体から紫の湯気のようなオーラが立ち上る。
だんだんとディケイド響鬼の演奏が強く激しくなっていく。
そして仕上げに音撃棒を力一杯振り下ろした。
「ハーッ!」
ついにインセクト眼魔は絶叫しながら吹き飛び、そのまま爆発を起こして中の眼魂は木っ端微塵になった。
ディケイド響鬼は音撃棒・烈火を指で回転させながら、腰に収納し一息つく。
そして変身を解除しようとしたその時、その真横に謎の紋章が浮かび上がる。
──間に合わない!
ディケイド響鬼は反応が遅れ、まんまとその不意打ちを受けてしまった。
地を転げながらディケイドへと変身解除させられたところで見上げてみると、紋章から黒い影が歩み寄ってくるのが見えた。
「ハカイシャ……デテイケ……」
影はやがて朧げながらも輪郭を浮き上がらせる。
フードを被った幽霊は、剣を取り出すと浮遊しながらディケイドに飛びかかった。
「この野郎、話を聞け!」
彼は慌ててライドブッカーを取り出し応戦するも、幽霊の浮遊を利用した高速一撃離脱になすすべもなく変身解除に追い込まれる。
ディケイドの鎧はモザイク状になると霧散していった。
士は苦悶の表情を浮かべながら幽霊を見上げる。
だが、次の瞬間、思いもよらぬ事態が起こった。
幽霊が銃撃を浴びて倒れ込んだのだ。
銃の射手の方へ目を向けると、そこには青い装甲を纏ったコソ泥が立っていた。
「海東……?」
「海東!」
「海東さん!」
士とユウスケ、そして夏海が一斉に声を上げる。
コソ泥こと海東大樹の変身するディエンドは、士達を一瞥すると立ち上がろうとするゴーストを再度射撃する。
「さて、英雄眼魂は頂くよ」
ディエンドは腰部のカードホルダーから取り出したカード二枚を続け様に銃型召喚機・ディエンドライバーに装填した。
『KAMEN RIDE CHASER』
『SKULL』
「死者の舞踏会ってとこかな」
ディエンドライバー下部のポンプを動かし、銃身を延長すると、ディスプレイ部分に頭蓋を象るエンブレムと、Rを象るエンブレムの二つが浮かび上がる。
「いってらっしゃい」
トリガーを引くと、エネルギーがディエンドの前に射出され、影が三方向にブレ、それらが収束して実体化していく。
形成された2体の仮面ライダーが、幽霊に突進していく。
仮面ライダーディケイドの能力が他のライダーへの変身であるなら、ディエンドの能力はライダーの『召喚』。
どこからともなく手に入れてきたカードを使い、異世界のライダーを傀儡のように操る。
チェイサーの回し蹴りを屈んで避けた幽霊を、スカルが射撃で吹き飛ばし、さらにそれをチェイサーが加速して追いついた後、シンゴウアックスで追撃を加える。
「さ、トドメと行こうか」
ディエンドは拍子抜けしたようにディエンドライバーのポンプを掴んで引き戻し、気を抜きながら取り出した黄色のカードをディエンドライバーに差し込んだ。
『FINAL ATTACK RIDE』
再びポンプを動かすと、今度はディエンドの顔を模したバーコード型ライダーズクレストが表示され、無数のライドカードが環状に並び、環は幽霊と銃口の間に列を成す。
そしてスカルとチェイサーはカードに戻され、そのカードの環の一部に組み込まれた。
しかし、ディエンドがトリガーを引こうとしたその時、一人の少女が幽霊の前に仁王立ちした。
彼女は気が狂ったのか、その両手を広げ、私を撃ちなさい!と叫んだ。
「どういうつもりだい? 僕は邪魔する奴は誰であろうと容赦しないよ?」
「アイ! 危ない!」
叫ぶ士にも御構い無しに彼がトリガーを引くと、環を通りエネルギーを増幅させた光弾が幽霊めがけて射出される。
その光弾は紙一重、或いは少し彼女の髪を掠ったのかもしれない。
すれすれのところを通り、地面を抉りながら幽霊の背後で爆発を起こした。
幽霊は立ち上がると、指で虚空をなぞり、目の紋章を描いた。
その中に入ることで立ち去るつもりだった。 だが。
「タケル! 待って!」
ススだらけの顔でアイが幽霊の背中めがけて叫んだ。
その声に反応するように、幽霊の動きが止まる。
「タケルなんでしょ! ねぇ!」
アイの呼びかけに戸惑い、横目でアイを一瞥しながらも、幽霊は紋章の中に吸い込まれていった。
「ふう、外したか」
『ATTACK RIDE INVISIBLE』
ディエンドは残念そうにアタックライドカードをディエンドライバーに装填して透明化、そのままずらかっていった。
アイは振り返ると、士を見つめながらゆっくりと口を開いた。
「お願いします、タケルを連れ戻してください」
その瞬間、士の視界がぐらつき始め、いつのまにか見知らぬ空間に取り残されていた。
でもその薄暗い夜の空間は、すごく懐かしかった。
かつて紅渡と邂逅した、始まりの世界とも言える場所だったのだから。
士が立ち上がり、振り向くとそこにはベージュのトレンチコートを着た青年が立っていた。
青年は士を見るなり口角を上げると、話しかけてきた。
「いらっしゃい、ディケイド」
「……アンタ、何モンだ?」
再び微笑む青年。 彼は何も言わずに指を鳴らした。
すると彼の頭上に小さな地球が浮かびはじめ、それが士の眼前に降りてくると、それは九つ──最初の一つを含めて十個になった。
その内の二つがまず接触し、壊れていく。
そして次にまた一つ、また一つとぶつかった衝撃で壊れていく。
「ってなわけで、ディケイド。 お前の力が必要だ」
「世界を壊せってことか? ここも含めて」
「そういうこと。 創造は破壊からしか生まれないってわけ。 俺も新しい世界を『ビルド』したとき、同じようなことをした」
青年はいつのまにか士の背後に立っていた。
「お断りだ。 どうせ前と同じような事になるからな」
「まあまあそう言わずに。 まだ時間は少ないけどないわけでもないし、俺と俺の仲間たちが食い止めてるから、さっさとやってきて。 じゃ、よろしく〜」
オーロラが士を通り抜けると、いつのまにか周囲は明るくなり、目の前にはアイが立っていた。
士の旅は二度目の佳境へと突入したわけだが、士自身はまだそれに気づいていなかった。
第二次ライダー大戦の前哨戦の幕は、切って落とされた。
────
次回仮面ライダーディケイド
ユウスケ「仮面ライダーゴースト?」
アイ「嘘つき!」
イーディス「永遠の命がいらないというのか!」
士「いくぞタケル!」
士&タケル「「変身!」」
士「そんなもの、コイツに必要ない!」
──第2話 永久!オレの魂──
全てを破壊し、全てをつなげ!
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