女子力とは!   作:w大草原w

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ヴァスキ撃破時の面白フリードさんから降ってわいたネタ。


アイリス・ニュートの転機

無間地獄ゲヘナ。茹だるような熱気と、薄気味悪い有機的な外壁に覆われた隔絶された異界。不死の神シェオルに統治されるこの地は、生理的にも肉体的にも住まう者に負荷を強いる煉獄の地だ。およそ生命活動に適した土地とは言えず、当初はシェオルと僅かばかりの側近を除いた大多数のマモノ達は、過酷な環境下で細々と生活するのみだった。

 

しかしながら生命というものは逞しいもので、長い年月を経てこの地に住まうマモノは完全に環境に適応した。そうなってからは、生きとし生けるものを苛む悪環境は、時折訪れる招かれざる異邦者から、そこに住まう者を守る天然の障壁としての役割を果たすようになった。

住めば都とはよく言ったもので、今となってはこの地で暮らすマモノにとってゲヘナは楽園だ。事実、マモノ達が適応した以降ゲヘナが外敵の侵攻を受けることは一切なく、長い月日をかけて掴み取った自由をマモノ達は謳歌している。

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ゲヘナでの生命活動を通して、殆どのマモノは慣れによって少しずつその暮らしに適応していった。しかし、どんな集団にも例外があるもので、中には強引な手法でそれを行った個体が僅かばかり存在した。より強靭に、より柔軟に、自信の『種』そのものを作り変えた者が。

 

龍人種変異種ヴァスキ

 

ゲヘナで生まれた変異種は、ただでさえ強力な個体の多い龍族を祖にする者だった。龍人は肉体年齢の固定が早期に行なわれる種であり、瑞々しい若さを長期に渡り保つ種だ。それ故、種として好奇心、探究心が非常に強い傾向にあり、ある意味この地で変異種が生まれたのは必然であったとも言えるだろう。いかなる状況下でも衰えないその精神性が、種族の限界を乗り越えたのだ。

 

前述の通り龍人種は好奇心、探究心が非常に強いのだが、その方向性は個体によって異なる。人間同様、マモノにも趣味、嗜好が存在し、龍人種の興味が向けられる対象も個々によって大きく違う。

当然龍人種の変異種であるヴァスキもその例に漏れず、世代によって様々な事物を対象としてきた。そんな中、当代のヴァスキが興味を持ったのは『女子力』だった。

 

『アイリス・ニュートは美少女である』

 

物心が付いたころには彼女は既に悟っていた。同年代の周りの他者と、自分との確かな違いを。それは純粋な容姿であり、何気ない仕草でもあり、諸々を含めた『女性的』な評価において彼女に敵うものはいなかった。同性からの羨望、異性からの称賛を一身に受け、当然の事実として自分の価値というものを、アイリスは正しく理解していた。褒められると嬉しい。だからより可愛く、より綺麗に。生まれ持った資質を磨く事がライフワークになり、彼女の知識欲は女性らしさを追求する事に特化していく事になったのも当然の帰結であった。

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マモノ一の女子力の持ち主〜いつしかアイリスは並び立つ者のいない果てまで、その資質を研ぎ澄ますに至ったが、龍人の欲求に終わりはない。女の自分磨きにも、果てがある訳もなし。まだ見ぬ地平に女子力を求め、外界への旅立ちを夢想するも、変異種としての立場と矜恃がその歩みを押し留めていた。

 

そんな折、ゲヘナに外界からの久方ぶりの侵入者の報が流れる。その者達は非力なニンゲンにも関わらず、立ちはだかるマモノを打ち倒し、刻一刻と最奥に近付きつつあるという。不謹慎ながらも、アイリスは歓喜に打ち震えた。外界の女子力が、まだ見ぬニンゲンの女子力が、自らこちらにやって来るのだ。死なない程度に痛め付けて、根掘り葉掘り、己が知識欲を満たす糧にしよう。興味が尽きれば、適当に捨て置けばいい。役割さえ果たせば、シェオル様にも言い訳がつく。鬱々と溜まった知識欲を満たす事を想像し、カラダに力が満ちるのが分かる。久々に本気を出して戦おう〜今か今かと侵入者を心待ちにするアイリスの前に、『運命』は現れた。

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「アリシア!短詠唱型の呪文が来るぞ!前面に出て皆をガード!メルヴィはアリシアの抑え切れ無かったダメージのリカバーだ!詠唱待機中のヒーリングでカバーを頼む!」

 

「了解だよ〜」

 

「分かったわ!」

 

「ヤエはアリシアの後方で追撃に備えろ!アイツの詠唱後に連撃を加えるんだ!集中する隙を与えるな!流石に大技を食らうのはアリシアでも厳しい!」

 

「あい、わかった!アリシアにばかり負担はかけまいぞ!」

 

「フリードさん、私はどうしましょうか?」

 

「フィオラはこれまで通りイリュージョンの枚数と詠唱切れにだけ気を付けながら、このままダメージディーラーを頼む!今が正念場だ!俺はアイツの挙動に集中するから、オールラウンダーのフィオラには負担をかけるが、すまないな」

 

「いえ、頼りにしていただいて嬉しいです。頑張りますね」

 

「イストはこのまま撹乱をしつつ、皆のTP管理を頼む!」

 

「承知しました」

 

なんなの、なんなの、なんなのこいつら!

 

侵入者と相対して数刻、私はこれまで体験した事のない苦境に立たされていた。所詮非力なニンゲン共、いくら束になろうとただのマモノならともかく、上位種たる私にかかれば一捻り。適当に小突いて戦意を無くして、後は思う存分知識欲を満たして追い出せばいいわね〜。なんて、簡単に考えていた数分前までの私を引っ叩いてやりたい!

 

個々の実力はいいところゲヘナの中堅くらいってとこだけど、連携に隙がないのが厄介過ぎる。有象無象のはぐれマモノだったら同じ実力でも各個撃破で余裕で完封出来るレベルなのに………

 

「くっ、これでもくらいなさい!」

 

「アリシア!」

 

「は〜い」

 

苦し紛れに放った速度重視の魔法も、初動を掴まれた所為か赤毛の盾持ちに何なく受け流されてしまう。コレだ!先程からまるでこちらの手の内が全て把握されているかのように、あらゆる攻撃が対処されてしまっている。特に普段牽制用に使う用な攻撃は全て最小限の動きで阻まれて大技の時間稼ぎすら出来ない………

 

(この厄介な連携の起点は、アイツ!)

 

敵陣深くで目まぐるしく変わる戦況を見渡しながら、私から一度も目を離さない、あのオトコ。アイツがこのパーティーの要なのは間違いない。アイツ自身は戦いに参加する事はないけど、その代わりに的確な指示を出しつつ、仲間達も迷いなくその要求に応えている。なんて厄介………!

 

(でもだからこそ、やりようもある)

 

「はあああぁ!秘剣、煉獄朧斬り!」

 

予想通り、後続の前衛から追撃対策の連撃がくる。どこにそんな膂力があるのか、細身で扱うには苦労しそうな長大な刀が袈裟斬りに振るわれる。本来ならなんなく回避して、次の一手を考えるところだけど、敢えてこの攻撃は受ける!龍人種の象徴たる翼で全身を素早く覆い、衝撃に備える!

 

「はあっ、せい!」

 

「くうぅう!」

 

袈裟斬りから返す刀で同軌道の一閃、振り上げられた状態から渾身の振り下ろし………!一撃一撃が現界の生温い環境で生きているマモノ相手であれば、必殺になるであろう強力な三連撃。衝撃を受け流しきれず、堅牢な翼から相当数の羽根が切り飛ばされ、辺りを舞う。あの男の言うとおり、私の集中を乱すには十分だっただろう技ね。直撃を受けていれば。そう、心構えが無ければ!でもこれは想定の範囲内!

 

「あああぁあ!私のキューティクルが!もう!でも、来るのが分かってる攻撃なら、気合いで耐えられるわ!変異種を舐めないでよね!」

 

これだけ連携を受ければ対処法くらい考えつく。相手の指示は私にも聞こえるのだから、それに備えて受けに回れば逆に攻撃のチャンスになる。ただ、欠かさず手入れをしている自慢の翼を傷付けられたのは許容範囲外だわ!無力化して適当に話を聞ける程度には手加減するつもりだったけど、やっぱり痛い目を見てもらう。追撃の最中から練り始めた魔力を使って、大技で崩しにかかる!

 

「其は暴風の化身、全てを拒み、呑み込む巨壁………」

 

膨大な魔力に呼応して、周囲に強風が吹き荒れる。これは一度詠唱が始まれば、外敵を阻む障壁を生む攻防一体の大魔法。発動後に消費魔力に応じた硬直が発生してしまうけど、ただのニンゲンが防ぎきれる程甘い魔法じゃない。女子力の探求の一方で、ゲヘナの護り手として編み出した私だけのオリジナルワン………!

 

「すまぬ、フリード!攻めきれなかった!メルヴィのバフで何とかならぬか!?」

 

「ダメだよ、ヤエ!私の魔法じゃ防ぎきれない!」

 

「私の防御壁も間に合わないよ〜!どうしよう、フリード〜!」

 

慌てふためく敵陣営に少し溜飲が下がる。これまでは防戦一方だったけれど、この切り札で形勢逆転よ!防御の要であろう前衛とヒーラーの言葉通り、あちらにもう打つ手はないはず。さぞ司令塔の男も肝を冷やしているでしょ。

 

「っ!」

 

確たる自信を持って見やった敵陣奥深くには、真剣な眼差しでこちらを見つめるあの男の姿があった。正しくこちらの攻撃の威力を理解しているのか、これまでとは違う渋面ではあったが、その眼光はこれまでと変わらず、焦りや諦めは見られない。虚勢なのか、対抗策があるのか………面白いじゃない。何か打てる手があるのなら、見せてみなさい!

 

「万物を切り裂く見えざる刃よ、立ちはだかる者を薙ぎ払え!くらいなさい!タービュランス!!」

 

膨大な魔力が消費され身体中の力が抜ける感覚。引き換えに、眼前には一帯を埋め尽くす程の大規模で荒れ狂う暴風が顕現する。有機的な壁面や床を削り飛ばしながら、相手の逃げ道を完全に塞ぐ形で風壁が敵パーティーに迫る。ちょっと見た目的にグロテスクなのはいただけないけど、まぁ、相手の視覚にもダメージを与えると思えば結果オーライよね。さぁ、私の秘奥を前に、どうでるつもりかしら!

 

「全員集合!メルヴィとアリシアは対魔法壁を全力展開!フィオラは風魔法をカウンター詠唱!それ以外の皆は3人を後ろから支えてくれ!」

 

「ダメだよ、フリード!それだけじゃ足りない!呑み込まれちゃう!」

 

「いいから!ライブラを、俺を信じろ!」

 

「フリード………分かった、私、信じる。今、私に出来る全力で皆を護る!」

 

「私も一緒に頑張るよ!メルヴィ!」

 

「私も出来る力を持って協力します。皆で力を合わせましょう」

 

最初は戸惑いつつも、結局男の指示通りにパーティー全体を覆う形で淡く輝く半円状の魔法障壁とこちらの暴風に対抗してか、範囲重視の風壁が展開される。ただ、ヒーラーの指摘したようにこの程度の防御では焼け石に水。それくらいはあいつも理解してるハズだけど………期待外れだったかしらね。

 

「そんなもので私の風を防げると思ったのかしら。吹き飛びなさい!」

 

いよいよ相手の防壁に暴風圏が接触する。さすがに多重に張られた防壁を一瞬で消し飛ばずまではいかずに、拮抗する形になった。けれども、当然こちらが押し負ける訳がなく、あちらの防壁の輝きは徐々に失われていく。

 

「くうぅ、負け、ないんだからあああ!」

 

「無駄な抵抗はやめなさい!貴方達なら分かるはず!」

 

「やっぱり、駄目………なの………?」

 

「そうはいかない、いくぞ!封印書、限定多重解放!引き出す力は天狗!フェアリー!マギ!耐風魔力限界突破!!」

 

「フリードさん、無茶です!常時発動の封印書と大封印書だけでも私達全員の管理は負担があるハズなのに!」

 

「無茶じゃない!マモノ馬鹿なめんなああぁああ!」

 

これで終わりかと思った瞬間、叫びと共に男が手に持つ本が尋常じゃない輝きを放ち、それと同時に砕ける寸前だった防御壁が再び光を取り戻す!どういう原理なの!?こんなの、見たことない!

 

「うおぉおおおお!」

 

「フリード!」

 

「フリードさん!」

 

「こんな馬鹿な話が………負けないんだからああああ!」

 

今や私の暴風と相手の光壁は完全に拮抗していた。これを防がれたら確実に負ける………もう、後先を考えずにこの一撃に全魔力を込めるしか………!発動後はコントロールを離れる魔法に魔力を注ぎ、強引に威力を底上げする………!未だかつてこの切り札が防がれた事はなく、初めての試みだけど、やるしかない。ありったけの魔力を注ぎ込み、それに呼応した風の刃が厚みを増し、相手パーティーが視認出来ない程の嵐が吹き荒れる。後は野となれ山となれよ!

 

「あああああああああ!」

 

「負、ける、かああああああ!」

 

一瞬、眩い光が視界を埋め尽くした。互いが互いに限界を超え、燻った魔力が弾け飛ぶ。全ての力を使い切り、開けた視界に飛び込んで来たのは、満身創痍ながら、各々武器を手放さずにこちらをしっかりと見据える相手パーティーの姿。思わず、天を仰いだ。天井はいつも通り、慣れ親しんだ、グロテスクな肉壁だったけど、何故か気分は晴れ晴れとしていた。

 

(全力を尽くして負けた………シェオル様、ごめんなさい。でも、これだけの相手に負けるなら、悔いはないわ。私の事、許してくれますよね?)

 

「あ〜、負けよ負け。降参。もう煮るなり焼くなり、好きにするといいわ」

 

天を仰いだ姿勢のまま、力の入らない四肢の言うがまま、仰向けに倒れ込む。こんなニンゲンが、外界にもいたのね………力を使い果たした私の身体を、ゲヘナの肉壁が優しくねっとり受け止めた。わ、私のキューティクルが………

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倒れる私の元に敵パーティーがゆっくり近付いてくる。途中、他の仲間を手で制してリーダー格と思われる男のみが私の目の前に立った。

 

「ふう、封印させてもらうぞ」

 

男が手に持った本が独りでに開き、パラパラとページが捲られる。最後に魔法がぶつかり合った瞬間のように、目映いばかりに輝く書に目が眩む。これが、噂に聞く、ライブラとやらの、封印?

 

(これは...ヤバい!)

 

イマイチ理解はしきれてないし、敗けは認めてるんだけど、これは何だかヤバい気がする...!うん、戦いには負けたけど、まだ私は負けちゃいないんだから...!マモノ一の女子力、見せてあげるわ!

 

「やあ~ん!服が破れちゃったぁ~!今日キメてきたブラとショーツが丸見えじゃないの~(棒)!」

 

痛む身体を強引に起こして、激しい戦闘で傷付いた衣服をわざとはだけさせる。乙女はいついかなる時も全力勝負。少し子供っぽ過ぎるかとは思ったけど、今日の気分に合わせた明るいストライプの入った可愛らしい下着を、これでもかと露出させー

 

「あ~ん、封印はちょっと待って~?せめて服は直させて~?(棒)」

 

渾身の涙目上目遣いととろけるスウィートボイスのコンボよ!今だけかつてこれで堕ちなかったオスはいないんだから!

 

(これで目を逸らした隙に逃げる算段をー)

 

「...<●><●>...」

 

必ず生じるであろう男の隙を突いて、目眩ましの術式でここは戦術的撤退を...って、コイツ何て無味乾燥な表情をするの!?戦闘中含めて今日一番感情の無い視線なんだけど、何コレ!?

 

「...え?無反応!?ここ普通、慌てて目を逸らすとか、恥ずかしがりつつもチラチラ見ちゃうとか、何かそういうんじゃないの!?

 

「やれやれ...」

 

「かといってその反応はムカつくんだけど!?」

 

想定外の反応に撤退どころか、ついつい相手に食ってかかってしまう。それでもどこ吹く風の男は空いた左手でビシリと指を突き付け、宣った。

 

「どうやらお前は、『女子力=媚び』だと勘違いしているタイプのようだな...」

 

「え?」

 

意味ワカンナイ。コイツナニイッテルノ。

 

「人間の場合だが、女性が考える女子力とは、ファッションセンスや外見のことだと大抵は思っているようだ。服の着こなしや化粧の仕方を磨けば、確かに一見魅力的には見える。そして男も当然ながら、一番に見える部分だ。しかし、いくら外面がよくても、内面が磨かれていない女性は、果たして女子力があると言えるだろうか?そして大抵の男は、女性が血眼になって努力する部分を、大して気にしていないからな?」

 

「ウソでしょ...!?マジで言ってるの!?」

 

ゲヘナのお友達や有象無象のオス共は私の一挙一動からちょっとしたイメチェンまで、過敏なくらい反応くれてたけど!?たまに外から遊びに来るマモノ達だって...

 

「気にしないどころか気づかない場合も多いぞ。髪の毛を少し切ったとか、化粧の仕方を変えたとか、小さな変化だとまず気づかない。あまりに見た目が悪ければ別だが、そんな些細な外見の変化よりも、内面の変化を求める男が多いだろう」

 

「考えてみろ?見た目綺麗な女性と、見た目綺麗で気遣いもできる女性、どっちが男受けするかなんて、悩む必要もないだろう?最後に言っておくと、意外と媚びる女を嫌う男も多いからな?」

 

「媚びればニンゲンの男なんて一発だって教わったのに...!」

 

そうよ!マモノの皆は異口同音に「男なんて皆一緒

w」「ちょっと隙を見せてやったらイチコロよw」って言ってたのに!っていうか、実際マモノのオス達はイチコロだったし!でも、訥々と語り続ける男は確かに私に靡いている様子は全くなく、堂々とした立ち振舞いからその言葉に偽りはないように感じる...

 

「慣れていない男なら一発かもしれないが、普通そんな態度を取られたら、いくら男でも警戒する。ということで、女子力の磨き方を間違うな」

 

今まで積み上げてきた、私という存在がガラガラと音を立てて崩れていく...ただ、今の私を真っ向から否定してくる男に、反論する気は次第に起きなくなっていた。男の言葉にどこか私を諭しているような、優しさを感じたからだろうか。

 

「...貴方にとっての女子力とは、なんですか?」

 

気が付いたら、そんな言葉を投げ掛けていた。今日初めて会った、本気で戦った、異性のニンゲンに、敬意を払っている事に愕然とするも、今聞かなければきっと私は後悔する。そんな 使命感が私を急き立てていた。

 

「それは人によって違うと思うが、俺は『女子力≒男から見た女性の魅力』だと思っている」

 

「『女子力≒男から見た女性の魅力』...」

 

淀みなく答えられたそれは、漠然とした言葉にも関わらず、心に風穴が空けられた気がした。

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周りの皆に、『可愛いね』『綺麗だね』って褒められるのが嬉しかった。嬉しいから、ありとあらゆる自分磨きにのめりこんでいった。艶やかな髪や翼の維持。流行のファッションに身をつつみ、それらを引き立たせるべくメイク術の研鑽。同性と仲良くする為の処世術や、男受けする仕草の研究。料理だって、裁縫だって、マモノ上位種として、戦う為のスキルの取得だって、何だってした。

 

自分を高める程、私を称賛する声は増えていった。そしてその度に、私の欲求は加速していった。

 

でも、いつからだろうか?純粋な気持ちで、ただ、『褒められるのが嬉しかった』。私の出発点はそこだったはずなのに...いつの間にか私は『どうすれば褒められるのか』。という事に固執するようになっていた。結果と目的の順序がいつしか入れ替わり、ただ闇雲に女子力という言葉に振り回されていたのかもしれない。

 

女子力≒男から見た女性の魅力...

 

初心を忘れ、所詮男なんてと一括りに考えて安易な色仕掛けに走った私に彼は、文字通り一欠片も魅力を感じなかったのね...

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遠い記憶、大事な始まりーまさか、ニンゲンの男に気付かされるなんてね。でも、不思議とその事実はストンと胸に落ちた。見苦しく着崩した衣服を整え、改めて彼に向き直り

 

「先生!もっと女子力について教えてください!」

 

自然と頭を垂れた。私の中の龍人の血がこの出会いを逃してはいけないと、頻りに訴えている。この人と一緒なら、私の女子力は次のステージへ辿り着ける、そんな予感がするから...!

 

「先生って...俺?」

 

「はい!」

 

「俺が女に見えるなら、プリーステスの治療でも受けた方がいいと思うぞ?」

 

「性別は関係ありません!先の貴方の言葉、凝り固まっていた私の心に真っ直ぐ響きました!そんな貴方にもっと教えを請いたいんです!」

 

何よりも、大事な事を思い出させてくれたこのヒトと共に歩みたい!私の女子力探求の道は、今ここから、再出発するのよ!

 

「だったらこの書に封印されていろ。俺が教えるのはおこがましいが、俺の意見を話す程度はできるから、ヒマがある時に出して話してやれる。後、俺はフリード・アインハルトだ。柄じゃないから、先生はヤメロ。フリードでいい。敬語もいらねぇ」

 

「...フリード」

 

何て呼べばよいか分からず、思わず先生って呼んじゃっていたけど、思いがけず名前を聞く事が出来た。フリード・アインハルト。私の新しい師の名前...シェオル様、ごめんなさい。私は新しい師と共に、ゲヘナを旅立ちます...!

 

「...分かったわ、フリード!私はアイリス、アイリス・ニュートよ!宜しくね!」

 

認められた喜びと、新たな決意を表明する為、渾身の笑顔を、貴方に...!これが、今の私に出来る最高の技よ!!

 

「何だよ、自然な笑顔出来るんじゃねえか。まぁ、過度な期待はせずに待っててくれ、アイリス」

 

苦笑気味に不意討ちでかけられた何気無い褒め言葉に、頬が熱くなる。思わず伸ばした手先から、粒子となって光輝く書へと吸い込まれていく。これが、封印...最初は意識の中で警鐘が鳴らされていた、未知の体験だけどー何故か今は凄く穏やかな気分...ね......

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「さてー」

 

ライブラの役目を終えて、フリードが振り返ると、後ろの女性陣全員が、モニカのように一生懸命メモを取っていた。

 

「をい。なぜお前らが女子力についてメモってる?」

 

ため息混じりに指摘するフリードに、曖昧な笑顔を送る仲間達。普段はマモノバカでマモノ以外に興味はありません!な、フリードのまさかの女子力講釈。想いの強さに違いはあれど、気になる異性の貴重な意見に、手が勝手に動いてしまっていた。気まずい雰囲気を打破するべく動いたのは、やはり一番付き合いの長いメルヴィであった。

 

「あ、あはははは。そ、それよりあんな安請け合いしちゃって良かったの?わざわざ封印前に名前を教えてあげるなんて、今までなかったし。まさか、本当にあの子の面倒を見てあげるつもりなの?」

 

メルヴィにしてみれば、純粋に疑問もあった。女子力講釈についつい気がいってしまっていたが、最後のアイリスとのやり取りは、ただの口約束という雰囲気でなく、本気が垣間見えた。長い付き合いであるメルヴィだからこその判断であるが。

 

「あ~、皆には迷惑をかけるつもりはないし、調査活動に差し支えがない範囲で約束は守るつもりだ」

 

答えは肯定である。確信を持っての質問であったが、これにはさすがのメルヴィも戸惑いを隠せなかった。ライブラとしてのフリードは職務に厳格であり、マモノに手心を加えるケースはほぼ無いといってもよい。

 

「...理由を聞いても?」

 

もしや気付かない内に高度な魅力にでもかかったのか?フリードに全幅の信頼を寄せるメルヴィであるが、万が一はある。明確な理由がなければ、精神汚染の治療も検討するべく、一挙手一投足を見逃さなぬよう、答えをまった。

 

「...」

 

「しいて言えば、そうだな。何だか他人な気がしなくなったっつーか」

 

「えっ」

 

考えを纏めながら答えるフリードの答えもまた、メルヴィ以下パーティー全員の予想外の言葉だった。女子女子していた彼女とシンパシーを感じた?まさか、今までどれだけ好意をアピールしても暖簾に腕押しだったのは...まさかの新事実発覚に、思わず引きつった笑顔を浮かべる一同に、再びフリードは大きなため息をついた。

 

「お前らが今何を考えたか、何となく予想がつくから言っておくが、そういう意味ではない。俺はいたってノーマルだ」

 

「だ、だよね!えっと、他人の気がしなかったっていうのはどういう意味なの?」

 

ホッとしつつも慌てて誤魔化すメルヴィに、フリードはライブラの書に目を落としながら改めて口を開いた。

 

「いきなり検討違いの行動をされた時は、痛々しい勘違いをしている残念な奴かと思ってたんだが、話してる内にそれは違うって事に気付いてな。戦闘中の対応を見るに頭の回転早そうだったし、地頭は良さそうだったし」

 

「俺としては思わず指摘しちまっただけって話だったが、アイツにしてみれば『女性らしさ』って事に拘りがあったって事だろう。今回は表面的な部分を見て否定的な事を言ったが、多分アイツも俺の知らない努力はしていたんだろうなって」

 

「自分の探求心の赴くまま、一途に追い求める物があるって気持ち。分かるんだ」

 

「だって、俺も、マモノ馬鹿だからな」

 

「だからまぁ、きっかけを与えちまったのも俺みたいだし、そういう奴が増えるってのも刺激になるし、出来る限りの事をしてやるのも吝かではない。ま、そんな感じだ」

 

そう言ってフリードは優しく封印書の表紙を撫でた。全てを聞き終えメルヴィが思ったのは、フリードはやっぱり、フリードなんだ。という、当たり前の事だった。いつもマモノの事ばかり考えてて、でもその何かに一生懸命な男の子であるところにこそメルヴィは惹かれた。そして、なんやかんや面倒見のいいところにも。

 

そんなフリードが決めた事に、自分達が口出しをするのは自分の想いを否定する事になる。今回の事はフリードのやりたい様にやってもらおう。でもー

 

「うん、分かったよ、フリード。でも、フリード一人でやることはないよ。私達も協力するから」

 

メルヴィには閃きがあった。後ろの仲間達に目配せをすると、皆考える事は同じだったのだろうか。理解の色が見える。

 

「いや、俺が勝手に決めた事だし、皆に面倒かけるつもりはー」

 

「大丈夫、フリード!私に任せて!」

 

「そうだぞ!フリード!我らを頼らぬとは、水臭いではないか!」

 

「奉仕の心はメイドの嗜み。私、フリードさんの心意気に感服しました。誠心誠意、ご助力致します」

 

「皆さんの仰る通り。これも神のお導きでしょう」

 

「お、おう、お前ら、凄いやる気なのな」

 

咄嗟に否定をしようとするフリードに沈黙を保っていた仲間達の連携が炸裂する。先の戦い、決着の瞬間と遜色ない、鮮やかな連携であった。

 

(マモノ馬鹿のフリードだけどー)

 

(これを機に異性への意識が変わるやも)

 

(まさに千載一遇の好機ー)

 

(これは私達の可能性が開くかもしれない道です)

 

(((((全力で協力するしかない)))))

 

ここに今、女子一同の心は一つになった。

 

「それに、もしかしたらあの子ーアイリスがメフメラの新しいお友達になってくれるかもしれないじゃない?私達はメフメラの事大好きだけど、マモノのお友達が出来るのも素敵だと思うよ。そうしたらユーニだって喜ぶだろうし。図書館で待ってる皆にも紹介してあげていいんじゃない?」

 

「ふむ、そういう考え方もあるか...」

 

確かに、乙女的打算もあるが、それ以外にもアイリスと対話をする事には意義がある。優しい女の子らしいメルヴィの言葉が最後の一押しとなる。

 

「分かった。皆もマモノへの理解が深まるのは今後の探索にプラスになるだろうし、都合のつくヤツがいたら手伝ってもらう事にする。頼むぞ、皆」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

こうしてアイリスの預かり知らぬところで、王立図書館全メンバーによる協力体制が築かれるのであった。

 




続きが出るかはやる気次第です。メンバーそれぞれとアイリスを絡めつつ、皆の魅力を引き出しつつも、天然ジゴロフリードが大活躍するみたいな構想。

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