ざっくりハーフのトライアンフ(仮) ~シャングリラ・フロンティア外伝 ヌルゲーマーのエチュード~ 作:みそぎ 鈴
頭上に舞った紙吹雪の一つ一つに積層型の魔法陣が構築されていく。朝焼けの散乱光を受けた無数のオブジェクトの断片は、システム的なエフェクトを帯びて更に煌々と輝き──青白く点滅を繰り返し回転収束しながら臨界を超えて結実を迎えた。
拳を振り上げて、吐き出し切った筈の息を飲み込む。刹那、術者の意図を理解した【魔法】と呼ばれるその光の断片達は青白い発光を加速させて、その色を頭上に染まる朝焼けと同じ色の灼熱の炎へと姿を変えていった。
既にその詠唱に意味は無く、それでもプレイヤーはその所作を止めることは無い。
このゲームは詠唱が全てだ。故に目の前のアバターは、吐き出し切った筈の呼吸を無視して更に詠唱を続ける。不自然なまでに整った生気の無いその顔は、俺を見て小首を傾げながら形良くにこりと微笑んで──
「ああんっ、お義父さんダメですぅっ。皆が帰って来ちゃうっ。弟はっっ…… せめて弟だけにはこんな姿見せられないのっっ、アッッ嫌っっそんなにトントンしないでっ、私グズグズになっちゃ──っっ…… あっっ、あっっ、あぁぁっっっ!! えぇえっ…? いやぁあっ…ちぃ…違うっ…――ちがうのぉっ…あぁっはぁ…だぁあ…めっ!! やめっくぅん…てぇえ…はぁぅくっはぁ…ぅはぁ…っひぃあぁっ!! ダっっっ、ダメったらダメぇ~~~!!!!」
完全に頭おかしいとしか言えない嬌声がトリガーとなって起動した炎の連弾が俺の全身を包み込み、一瞬で焼失した。何じゃ今のはこらああぁぁっっ!!???
俺を屠ったアバターのキャラ名は──【サッカーボール】
別のある時は、街と街の間を結ぶ街道のど真ん中。
背丈は俺の半分ほどのホビットを模したアバターは、落語の寄席よろしく一人芝居を始めていた。俺の足元には
そうする間にも眼前には人間の背丈の倍以上はある巨大な炎柱が轟々と形成されていき──
「へっへっへ、もう観念するんだな。逃げられないぜお嬢ちゃんよぉ」
『らめぇっ、痛い事しないれぇ… ママぁ、ママぁっ……』
「口答えなんて直ぐに出来ないようにしてやるよ」
『れもぉ… そんなの絶対嘘だよぉっ、ママぁ怖いよぉ助けてぇ』
「いちいち口答えなんてするんじゃねえこのクソアマっ!!ごちゃごちゃ五月蠅え奴にはこうだぞオラァっ!」
『義父さんっ、お義父さんっっ止めてっっ? 何でそんな大きなマッサージ機を持ってるのっ? 嫌っ、怖いっっ近寄らなぃ──…』
「『すっっごいのこれえええええええぇぇぇ~~~~っっっ!!!』」
一人漫才が言葉を紡ぐ度に逆巻く炎柱は更に猛り狂い、程なく俺はその渦に飲まれて死んだ。おい最後声がダブってユニゾンしてたぞっっっ!つーかまたお義父さん出て来てんぞぉぁぁぁっっっ!!
俺を焼き殺したアバターのキャラ名は──【piledriver】
更にまたある時は、強制進行イベントの真っ最中。二十人を越えるNPCがオーケストラを演奏する中、突如耳元に妙な音と息が吹きかかる。
背筋を走る悍ましさに思わず全身を震えて後ろを振り向くと、至近距離には極彩色のグロテスクな唇が至近距離から俺に迫って
「---・- ・ ・・--・ ・・・- --・ ---・- ・ ・・--・ ・・・- --・ -・・・ ・- -・・ ・・ ・・・- --・-・ 」
ブサイクなタラコ唇しか確認出来なかったアバターのキャラ名は──【glory hole】。それぜってぇモールス信号だろオルァァぁぁ~~~っっっっ!!!
更に更にまたまたある時は、初心者がリスポーンするセーブクリスタルで同じく初心者と思しきプレイヤーとすれ違い──……
キャラ名は──【オム
あっ(察し)
「お前それもうそのまんまじゃねえkうぎょべちょるのりゃりぇうずううううううううううううあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っっっっ!!!!!!!!!!」
数えて四度。俺は準ガチ勢を自称するまでになったキャラクターを、見るからに初期装備丸出しのプレイヤーに徹底的にキルし尽くされた。
悔しい、であるとか。どうしようもない程イラつく、であるとか。様々な激情が胸の内に渦巻くが、それらに合理的な説明など付かないし、そもそも付ける必要性も感じない。
今やれる事はただ一つ、俺は無心でゲームからログアウトをして現実世界の端末を漁り────
「こんなクソゲーもう二度とやらねぇ。」
そのゲームのインストールディスク―― 『スペル・クリエイション・オンライン』 ――を叩き割った。
点滴スキーさんへの愛が足りない……
上手く書けたら後日修正します。