ざっくりハーフのトライアンフ(仮) ~シャングリラ・フロンティア外伝 ヌルゲーマーのエチュード~   作:みそぎ 鈴

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1-4 初めてのシャングリラ

 セルリアンブルーファンタジー。通称「セルブル」。

 現在国内最大手のソーシャルゲーム会社cava_gamesが提供する、シャンフロ同様これまた業界最有力の──こっちは携帯端末でプレイする、所謂ソーシャルゲームってやつだ。

 この作品は数十年前の日本国内ソシャゲ最隆盛期にヒットした作品のリメイク作と位置づけられており、ふわっとボーイミーツガールで始まる剣と魔法の世界における王道寓話展開と洗練されたキャラデザ猛プッシュで、ライトユーザーからヘビィな方々まで幅広く取り込む仕様が主な特徴として挙げられる。

 

 

 例えば俺は、年に一本購入するかしないか程度のゲームですら一度エンディングを見ればプレイ済の棚に収納してしまうライト……、いや、もうはっきり言ってヌルゲーマーだと言う自覚がある訳だが──そういった傾向に合致しない、がっつりハマった作品も少数存在する。

 それらはアルマジシリーズ、スペクリ、三つの国が織り成すストラテジー的なアレ、わくわくアクターズに……、このセルブルくらいだろうか。

 皆お馴染みのログインボーナスやデイリーミッションと言った毎日プレイする事に価値を見出す要素と、期間限定クエストや常時解放されたメインストーリー。こなすべき作業を多次元的に用意するとともに、それらの報酬を良質なデザインのキャラクターにする事でビジュアル的にも訴えてくる、ここ数十年のソシャゲ的鉄板仕様。

 これらはかつてソシャゲ黎明期にcava_gamesが定式化したものとされており、強固過ぎる鉄板仕様は後発のソーシャルゲームの多様性を駆逐してしまったという、業界有数の功罪とまでに語られている。

 

 

 まあ結局のところ、皆こういう分かりやすい世界観って好きなんだよね。きっと。少なくとも俺は好きだ。

 そしてこれらを在り来たりと評する意見は見た事があっても、それそのものを嫌いだと言っている意見は今のところ見た事が無い。少なくとも普通に生活していて嫌いだという意見に遭遇した事は無い──そんな程度には確信を持って言えるレベルのものって言うか。このニュアンスって伝わるだろうか?

 

 

 さて、俺が唐突にここでセルブルについて述べたのには、やはり一応理由が存在する。それは端的に言ってしまえば、シャンフロとセルブルの違いについて比較するためだ。

 シャンフロもセルブルも概ね世界観自体はそれなりに近しいゲームであり、主人公となるプレイヤーアバターのジョブや育成状況なんかも基本的に自由に設定出来る仕様は同様だ。しかし両者にはいくつかの明確な違いが存在しており──それらは突き詰めて言うなら「運営のスタンスの差」に大体行き着くと表現して良いだろう。

 

 セルブルに代表されるソーシャルゲーム群には基本、季節に応じたイベント群が存在し、それらは基本提供される国々の文化や行事をゲーム内世界観に踏襲させた限定クエストを提供する。そしてこれらを進行する際には、必ずマスコット的ナビゲーターや狂言回しが主人公に付き纏い、常に物語を先導するアウトラインが存在するのが一般的だ。この辺は最早様式美と言っても良い。

 これらは言い換えれば、プレイヤーの自由度を一定量奪う代わりに徹底的にストレスを排除する仕様、と表現出来るだろう。未知の世界ってのは、方向性だけ示された位のノリとナビゲーターや自分の経験則なんか込みで初雪を踏む感覚を楽しむってのが一番、って感覚はヌル勢の俺でも共感出来る。

 実際問題、俺もセルブルにはかなりハマったクチであり、個人的にはこういう作品こそがヌル勢にとって一番しっくり来る形なんだと思っている。

 

 一方で、シャンフロはセルブルと打って変わってのハードスタイルだ。

 まず、皆お馴染みのクリスマスや水着イベントなんざ一切存在しない。また、公式HPの紹介自体もその人気に比べると随分と素っ気無い作りとなっており、ましてや愛玩動物的ナビゲーターなんぞも気配も予感も皆無といった有り様だ。

 一応ゲーム内アナウンスを取り仕切る運営公式アバターなんてのは存在するが、それも期間限定扱いであることが既に公式からアナウンスされている始末であり、ぶっちゃけ愛想の欠片一つだってあったもんじゃないってのが俺の印象である。

 

 またシャンフロには現状、所謂「最適解プレイ」というものが確立されておらず、むしろそんなもん知るかレベルで効率厨に喧嘩を売りまくった仕様──ユニークシナリオ、なるものが存在している。そしてこれこそがシャンフロの魅力であり、ハード足らしめる要素と言えるだろう。

 

 例えばステ振り系オンゲってのは殆どの場合、所謂ステータス極振り勢が相当数存在し、彼らは所謂検証勢も兼ねているパターンが非常に多い。各種スキルや魔法のダメージ効率や割り当てられた係数を絶対値・相対値の両サイドから実証していくスタイルはMMOゲーが世間にお披露目されて半世紀、「AdB+C」のゲームダイス理論の係数調査ボランティアな方々はかつての経験則に基づいてシャンフロに挑んだ──訳であるんだが、結果はほぼ惨敗と言って差し支えない。

 圧倒的な評判を得続けているシャンフロにおいて、それでも確かに存在する極少数のアンチ勢。彼らが主張するシャンフロアンチポイントは、こういった再現性の乏しさを否定し、その恩恵に自分があやかれなかった事を声高に叫び続けている点に集約されている、というのが現状だ。

 ……まあ、本音を言うと、その辺の感情は個人的には分からないでもないって言うのは、俺が捻くれているからだろうか。この理屈を突き詰めていくと、『合理性を勘案しない奇行塗れのスーパー有能ゲームプレイヤーが居れば、そいつはシャンフロでトップを張れる』って結論とかになるんだろうが────そんな奴なんて居る訳ねーわな。ははっw

 

 

 そも、ゲーマーには大きく分けて二種類存在する。それは即ち世界観に浸り切るプレイヤーとスコアを突き詰めるプレイヤーだ。

 前者は例えばシャンフロやセルブルを「剣と魔法のファンタジー」と定義し、その為のエッセンスを感じる事に注力する。ゲームとして提供されるインターフェースやユーティリティも含めて「らしさ」を追求し、脳内妄想やSNS投稿、果ては二次創作活動に至るまで自分の人生の一部をそれらに染め上げる……そういうタイプ。

 そして後者はこれらを「ハック&スラッシュのゲーム」と定義し、定められた仕様の中で最適解を模索する事に血道を上げる。RTAや対戦格ゲーにおける数値の大小にこそ価値を追い求めて、文字通り構成要素の全てを用いて精査し、「より正しい」スコアへの道筋を見つけ実証する事を何よりも重要視する……そういうタイプ。

 

 

 別にどちらが正しく、間違っているという話ではない。娯楽コンテンツと提供される全てのものは、関わる人間が楽しいと感じる限り全てが正解と断言して間違いないものだ。スポーツ、ゲーム、小説、それこそ手品に至るまで、他者の財産と良心を侵す事なく笑顔を生み出せる事が出来たのならば、そこに優劣は存在しない。……煽りプレイとかは、まあ──程々に?

 

 さりとてその上で、どちらがより多くのゲーマー、もといプレイヤーの選択肢足り得るかと聞かれれば、それは前者であると俺は考えている。

 後者は言うなればプロゲーマーや求道者の思考のそれであり、ゲームを世界に数多存在する趣味の一つから隔絶した、特別なモノとして捉えた視点に沿うものだ。例えばそれは「貴方はなんのためにゲームをしますか?」と問われた時に、何かしら明確に回答を出来る人種。即ちゲームを自発的に選んだ、もしくはゲームに選ばれた奴等が属するカテゴリであり、ヌルゲーマー勢とはやはり若干違う視点を持った人達と言わざるを得ないだろう。

 僻みや排他的視点と言ったものではなく、ただ単純にガチ勢をやるにはそれなりの熱意とリソースが必要になるが故に存在する、明確な境界線。それでも多くのヌル勢はシャンフロを楽しめており、本来殆ど違いが無かったアンチ勢との間には確実に一点、違いが存在していることを示唆している。

 

 

 要は何が言いたいのかと言うと、シャンフロにおいては「ゲームを能動的に楽しもう」という姿勢が明確に求められるのだ。

 前例踏襲型の極振り勢は一部の狂信者を除いて門前払い、再現性の乏しいユニークシナリオは誰にでも得られるものではない。それは俺達が現実世界で振舞うのと同様に、成功するには主体性を求められる、という事を示している。

 そしてこれらはきっと、ゲームを余す事なく知り尽くして欲しいという製作者側の自己顕示欲故の仕様だろう。俺だって手品というコンテンツでスポットライトを浴びた経験がある人間の端くれだ。創作物に籠められた自意識の表れくらいは読み取る事が出来る。ていうかそもそも、オープニングムービーや公式の標語で「世界を拓き、世界を楽しめ!」って明言されてるからな。

 設計思想が明確であればあるほど、プレイヤーとしてはそこに期待しても良いかなという気分にもなれる、俺はそう考えている。ゲーム熱自体は正直そんなでもない本音なんであるが、上手に惚れさせて欲しいなあと、ぼんやり期待もしている、そんな感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————————

PN:デブリ

LV:1

JOB:魔法使い(マジシャン)

SUB:薬師

230マーニ

HP(体力):20

MP(魔力):20

STM (スタミナ):15

STR(筋力):10

DEX(器用):15

AGI(敏捷):15

TEC(技量):15

VIT(耐久力):15(6)

LUC(幸運):15

 

スキル

・サイドステップ

魔法

・【ファイアーボールLv.1】

・【スネアLv.1】

 

装備

左右:無し

頭:開拓者のフード(VIT+2)

胴:開拓者の羽織り(VIT+3)

腰:アウターベルト(VIT+2)

足:開拓者のレギンス(VIT+3)

アクセサリー:開拓者のポーチ(インベントリ容量+1)

————————————

 

 

 さて、改めてステータスの現状を再確認しよう。

 

 

 まずはPN、「デブリ」。これは俺が大体のゲームにおいて使用しているキャラクターネームだ。由緒正しきレトロアニメで言うところの、光が差して道となる的な星屑を意味する単語だな。

 ……決してデブでもデーブでもないぞ? ましてやメタボなんかじゃないからなっ!

 

 メインジョブ。これはもう即確定だ。

 キャラメイク画面でアホ程スクロールを強いた選択肢の中で目を引いた「魔法使い(マジシャン)」。キャラロール的な意味でも魔法使い系は好みだが、何よりも読ませ方が良いよな。マジシャン、もうこんなの無条件で一発確定に決まっている。

 ちなみにキャラクターの出自なんて項目もあったが、考えるのが面倒だったので「平凡な生まれ」を選択してみたところ、筋力以外見事なまでに真っ平なステータスと相成った訳である。

 ……一応他の選択肢の中でも「在野の雄」なんてのはちょっと厨二心を擽られるとこもあったんだが、良い歳こいた社畜にはちょっと気恥ずかしいかなとか考えて結局止めてしまった。

 いや、別にいちいち誰に見せる訳じゃないんだけどさ。三十路を超えて自我を捨てるって行為には正直何となく抵抗があるんだよね。

 

 サブジョブのチョイスにはあまり深い意味は無いが、薬師にしておいた。今のところ積極的にパーティープレイをするつもりも無いし、回復について自給自足出来れば良いかな位に適当な思い付きで選んだチョイスである。

 ちなみにこれは後に調べて分かった事だが、この選択は現状初心者が最も多く選択するサブジョブであるらしい。理由は大雑把に二つあり、一つはファステイアの直ぐ傍にあるエリア「跳梁跋扈の森」が植生の豊かな森林フィールドである為に、ジョブとして即戦力の有用性が高い事。

 そしてもう一つは「ファンタジーゲーなんだから将来的には錬金術に進化するでしょ」的なメタ思考故とのwiki先生的ご指摘だ。ちなみにwikiはクソ程重かった辺りにこのゲームの狂気を感じたのはまた別の話になるんだが…。

 まあ、錬金術については俺も考えなかった訳でもないんだが、正直そこまで深追いする程シャンフロをプレイし続けるかどうかも分からない訳で。

 

 最後、魔法とスキル。

 【ファイアーボール】はファンタジーゲーお約束の初級魔法で、効果も言葉通りと言えるだろう。【スネア】は所謂行動阻害系魔法で、使用対象の足元に何らかの変化を引き起こす魔法だ。効果は使用時における対象の接地面によって効果が異なるが、概ね木の根や蔦が爪先に絡み付いたり、数センチ程地面が陥没したりするものが確認されているらしい。

 ……こういうのってクラシックゲーだと土属性とかにカウントされるのが常だけど、シャンフロだとどういう扱いなんだろうか? まあ、急ぐ訳でもないし、その辺もおいおい検証していこう。

 それとスキル「サイドステップ」は使用時にスタミナ減少緩和と回避行動に補正が入るスキルだ。まあ現状、俺はシャンフロをハスクラとして捉えるつもりは無いんだが、運営が初期仕様として準備したものでもあるし、スキル不使用とか気取った縛りプレイをするつもりもない。使えるものは有難く使わせてもらおうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなでようやく遂にシャンフロ初めてのフィールドデビューと言った訳だが……

 結論から言うと、シャンフロ、すっげえムズい……。クッソムズい。何だこれ、ギャグかな?

 

 

 

 ──至近距離に迫ったゴブリンが大上段から手斧を振りかざし、無造作に俺の胸元に斬りかかって来た。俺はVR慣れしていない身体で、無理矢理半歩下がり身体を半身して柄に裏拳を叩きこむ。浅い。

 逸らし切れない斧刃の軌道が腕をなぞってカスダメを喰らい──ここで体勢を崩したらそれこそそのままフルボッコにされてしまうだろう。でもな、俺だってそんな往生際は良くないわ、例えそれがゲームだとしてもな。

 軸足に力を籠めて重心を低く保ち姿勢を維持して堪えると、小学生ほどの身長差に位置する顔面に思いっ切りビンタを叩きこんで──

 

 

 「【ファイアーボール】っっ!!」

 

 

 発動! 右手のビンタがゴブリンに直撃する直前、発動した魔法エフェクトは恐らく十数フレーム程の空白時間を伴い──次の瞬間、おもむろに敵の側頭部を派手な爆炎で吹っ飛ばした。まずは一匹!!

 素人目にも分かる程に明らかなオーバーキルであるが、他に攻撃手段が無いのだから仕方がない。そして唯一の攻撃手段にリキャストタイムがカウントを開始される。

 LV1のファイアーボールのリキャストタイムはちょうど10秒。その間の俺は完全に丸腰と同じ状態となる。残りのゴブリンは二匹、どちらもオンボロの武器と携えた、短剣持ちと長槍持ち。迷っている余裕なんざ一切無い。こういうのってゲームプレイの経験則の有無が如実に出るよな。

 

 

 【スネア】発動! 短剣持ちの三歩背後にスネアをぶち込むと、対象判定内距離と認識されたシステムは条件通りに魔法を挙動させる。スネアはその性質上、発動してから実際に物理演算として結果が出るまでに数秒の時間が発生する。故に先撃ちして効果を確定させてから、そこに対象を放り込まなければならない。

 余裕なんざ本当に欠片も無い。短剣持ちに軽装備のマジシャンスタイルのまま全身で突進──リキャスト明けまで後7秒。短剣持ちをスネアの効果範囲内へ押し込んだ瞬間、今度は側面から長槍持ちの攻撃が俺の脇腹を狙って来やがった。あ゛ーっっ!! もうっっ!!

 「サイドステップ」更に無理矢理起動! 前のめりに体重を押し込む動作にスキルで無理矢理追加補正を掛けて、短剣持ちをスネアの判定に無理矢理押し込み切った瞬間──確定したスネアが短剣持ちの足元で光り、そこそこグロい野生児的なゴブリンの脚に木の根として絡み付いていくのが見えた。確か拘束時間は通常モンスター相手に10秒弱だったか。

 

 そのまま短剣持ちを完全にスルーしてバックステップ、長槍持ちを感情のままに思い切り睨み付ける。リキャスト明けまで後4秒。体勢を整えようとする俺に、再度容赦無く長槍持ちの突きが繰り出されやがったわshit! よっ! ほぁっ! イテっっ、クソがっっ!!

 小兵に見合わぬ中々見事な三連突きを二回ほど躱すも、最後の一突きを太腿に喰らってしまった。元々欠片も無かった筈の余裕が今度こそ完全に無くなり、HPの残りはあと僅か。次にクリーンヒットを貰ったら完全にHP全損だ。リキャスト明けまで後2秒。ここが山場か。

 

 スネアの効果が切れるまで後5秒程。ファイアーボールのリキャストが明けるのとほぼ同時に長槍持ちを倒さないと、間違いなく俺は詰むだろう。それでなくとも無理矢理な挙動を続けたせいでスタミナも切れる間近だ。どの道逃げ場は無い。

 VRゲー特有の集中、この感覚は久し振りだ。……そんな感傷に浸る間も無く体感時間が局所的に圧縮され、ほぼ予備動作無しのコンパクトな突きがゴブリンから繰り出される。俺はそれに対するように、前傾姿勢のままピーカブースタイル擬きで穂先に突進──そのまま切っ先を左手の甲と手首で挟み込むように捉えると、鞘走りの要領で穂先から柄まで手首に鞘走らせて直撃を反らす。

 じゃりじゃりと嫌な音が擦れる手首から聞こえて今日何度目かのカスダメ判定が発生し、HPの残りは3。ハッ! クリーンヒットじゃなけりゃ全損じゃねえっつっただろバーカ!!

 

 

 「ん────なろぉぉぉぁぁっっっ!!」

 

 

 動作としてはきっと、相撲の素首落としに近い。

 穂先を捌いて長槍持ちとの距離をゼロまで詰めると、そのまま垂直にゴブリンの頭頂部をアイアンクローで掴んで押し潰す。そのまま間髪入れずに【ファイアーボール】発動!!

 体重を掛けた状態から更に火炎エフェクトがゴブリンを無理矢理吹っ飛ばして撃破。って、うぉぉぃっっ! バックファイアでカスダメ喰らってHP残り1じゃねえかっっ!!

 

 歪んだ高揚感から来る苛立ちと殺意をそのままに、スネアの効果が解けた残りの短剣持ちゴブリンを全力で睨み付ける。ほんの一瞬ゴブリンと視線が合い、遠慮ガン無視でそのまま目を細めると──短剣持ちは一目散に逃げ出していった。程なくして戦闘終了のメッセージログが視界の片隅に流れる。

 

 

 

   んんん…、ぁぁぁぁぁ─────っっ、つっかれたぁぁ~~~~………

 

 

 

 緊張感と言うよりも直接的なストレスに近い全身の硬直が一気に抜けると、思わずそのままへたり込んでしまった。

 

 なんっっだよこれ……。マジでキッツいわ。最初の街の傍にポップする雑魚敵と一戦するだけでこんな消耗すんのかよ──……。いやまあ、うん。正直なところ、かなり楽しい。それは間違いない。楽しいよ?

 ただこれはセルブルのような「強武器揃えて敵をブッパして爽快感!」みたいなノリではなく、自分の手持ちのリソースをどれだけフル回転させて敵を倒すか、と言ったカードゲームやストラテジーゲーに近いフィーリングに思えてならない。最近の若い子は皆こんなレベルで気合い入ったゲームをプレイしてるんだろうか?

 んまあ、単純に自キャラが弱過ぎてあらゆるリソースをブッ込まないと単純に目標に届かないってだけの話ではあるんだが……。ていうか、取り敢えず回復回復っと。

 回復薬だけはそこそこ溜まりまくってると言って良い。さっさとHP回復しないとね。ていうかゴブリン相手にHP残1て。リアル死な安かよ。

 

 

 

 さて、しっちゃかめっちゃかになってしまったんで、状況を整理しよう。あ、やっべ、腰防具全損してる……。

 

 

 現在は、サブジョブで選んだ薬師に関連する初等クエスト「蛍鈴草の採取」をプレイしている真っ最中だ。大体のゲームに存在する、お約束の基礎系クエストってやつである。

 それでもって蛍鈴草ってのは所謂調合系素材の一種で、消費量の多さからそこそこプレイヤー間での価値も高い回復系アイテムだ。24時間が現実とゲーム内で完全同期されているシャンフロにおいて、このオブジェクトは「昼は鈴のような音を鳴らす」「夜は蛍のように光って見える」という性質をヒントに、この跳梁跋扈の森を徘徊して一定数を採取する、と言うのはクエストの達成条件となっている。この仕様は、シャンフロの製作陣がそのリアルさを誇っているが故に設定されたものだと言って間違いないだろう。

 実際問題、俺も如何なく視覚と聴覚をフル活用して採取活動に勤しんでおり、製作陣の意図に異論を挟む余地は無いと断言出来る。あのね、すっげぇリアル。というか各種エフェクトが強弱を巧みに設定されており、質感という意味ではむしろ現実より上ではないかと錯覚するほどだ。

 オープニングムービーでも感じた事ではあるが、活字や写真画像で知っている程度の大自然の心象風景を、システムで本能的に納得させに来る圧がシャンフロには有ると思う。いや、だからと言って魔法のバックファイヤでHP削るところまでリアルにせんでもって話なんだけど、とにかく作り込んだであろうスタッフの執念が凄い。これは良いマジ〇チ仕事ですわ。

 

 

 それでもって、先程の戦闘は、まあ分かりやすい雑魚敵戦闘に死ぬほど苦戦した初心者俺、という、これまた分かりやすい構図だ。

 

 このゲームさん、物理演算まで気合いが入り過ぎたバランスをしている為、放たれたファイアーボールが敵に到達する為の補正が微ホーミング程度に抑えられている。そして所謂「最初の街」の位置付けであるファステイアの近隣モンスターは、今まで確認限り体躯が小さい個体しか見掛けていない。

 結果的に、この二つの仕様をヌルゲーマーである俺が実践戦闘しようとしたところ、ファイアーボールが殆ど敵に命中しない、という現象に見舞われてしまった次第なんである。唐突に始まる魔法的エフェクト的ストラックアウトの適正は、どうやら俺には無かったようだ。

 

 ……ぶっちゃけそれでも暫くはムキになって遠隔攻撃を何度も試みてはいたんだが──命中しなかったファイアーボールの一つが枯れ木に引火して危うく森林火災になり始めた挙句、何処からともなく現れた木こりのNPCプレイヤーの迅速な消化活動を見せ付けられる&お小言を貰う、というコンボを喰らってしまう始末となってしまった。流石シャンフロ、救済措置にも手が混んだ演出捻じ込んで来るよね。

 本音を言うと、消化活動で使っていた土嚢っぽいものを扱う魔法、ちょっと興味があるんだが。まあそれはまた別の話だr────今度はサドンアタックかよぁぁっ!!

 

 

 脈絡なく唐突に戦闘開始のログが流れ、全快させた筈のHPの二割程が削られる。

 背面から「アルミラージ」なる兎の頭突きを足元に喰らって、思わず膝カックンしそうになってしまったのをすんでのところで耐えると、モンスターアバターに正面から向き直ってそのまま「サイドステップ」起動。勢い任せに敵の側面に回り込むと、その特徴的な兎角頭に触れて──【ファイアーボール】発動!

 あっさりと勝利判定を得ると、それと同時にドロップしたのは焼き兎肉だった。うーん、過程すっ飛ばし過ぎ。

 まあ下手にグロい生肉をアイテム化されても、それはそれで困るけどな。とりあえず単体出現ならリキャスト考えなくて良いから楽ではある。

 

 

 エンカウント率が常識的、てのはヘビィユーザーの評らしいが、常識的であるが故に不意打ちとかも割と容赦が無い。とは言え、まあ群れる習性があるっぽいゴブリン以外は慣れれば何とかなるっぽいかな。たまに例外的に番いっぽいアルミラージにエンカウントする事もあるが、それ以外は工夫次第って感じで。

 今のところ攻撃は当たりされすれば一撃で敵を撃破出来ているから、多対一戦闘は徹底的に避けて、ぼっちモンスターだけを存分に辻斬って行くスタイルで行こう。勝利パターンが確定したらそれに徹底的にむしゃぶり付く。これヌルゲーマーの鉄則。

 

 

 無限にポップする疑惑のある蛍鈴草を贅沢に使用してリソースを維持しながら、とにかく一匹だけで遭遇するモンスターだけをひたすら狩り続けていく。バイタル判定にアラートが入り、数時間が経過している事に気が付いて漸く自らの熱中具合に気付いたようだ。まあ要はひたすらぼっちアルミラージだけを狙ってるだけなんだけれども。これが本当の「兎に角(とにかく)」ってやつか?

 ……うーん、親父ギャグがナチュラルに出て来る辺り、マジで気を付けないといけないかもしれない。年齢的に笑えない感キツいわ。──お、新手のカモ(ウサギだけど)発見。経験値ゴチでーす。クエスト報酬もドロップアイテムも収集順調だとテンション上がるよね!

 

 視界に捉えたモンスターは今まで同様体躯は小さく、それこそ童話に出て来る程に分かりやすい兎の恰好をしたアバターだ。おっと、向こうもこっちの接敵判定に気付いたようだ。

 って、あれ? アルミラージってあんな毛色だったっけか? 何か二足歩行してるっぽいし。まあ良い、一応念のために攻撃前にサイドステップも重ねておこう。……三歩───、二歩───、一……、今!!

 

 

 「サイドステップ」起d──────   あへ………?

 

 

 これ以上無いというタイミングで攻撃しようとした瞬間、AGI15の俺を遥かに超える速度を一瞬で叩き出した兎の斬撃によって、俺のHPは一発全損した。………斬撃?

 全損判定が出る刹那、一瞬で俺の首元に迫ったウサギアバターの挑発的な目付きと視線が合い──次の瞬間、俺の視界は死亡判定によるブラックアウトに包まれていったのだった。

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