「ンだ、てめぇッ!!」
チンピラ同然の怒声と共に振るわれるのは上段大振りな一撃。武器の長さはギリギリショートソードと言えるのだろうが、上段からの大振りという選択をしたせいでその剣先が僅かに洞窟の天井を掠め、ジジッという嫌な音を僅かに響かせ、振り下ろされる。
耳障りな音を聴きながら、僅かに半身ズラしながら短刀で野盗のショートソードを滑るように受け止めながら、そのまま距離を詰める。
攻撃を受け止められた事が信じられなかったのか、振り下ろした体勢で目を丸くし、固まった野盗の顔面に拳を叩き込み鼻を折りつつ、蹴り飛ばす。
ちなみにだが、洞窟の通路は直線的に造られている。高さはそこそこ、幅もそこそこであるが何人もの人間が大きく動き回れるほどの広さがあるという訳でもなし、であればそんなところで勢いよく人一人蹴り飛ばせばどうなるか、など火を見るより明らかだ。
「うぶぇぁっ!?」
「ッ!?邪魔だ、おい!?」
洞窟の奥の方からやってきた野盗の一人に勢い良く飛び込み、思わず飛び込まれた方の野盗は持ってきていた大きな木の盾で仲間を受け止める。受け止めてしまう────
「いいモノを持っているな」
仲間を受け止め、仰け反った隙に野盗の木の盾の縁を掴んで勢い良く引き寄せる。唐突に飛んできた仲間を思わず盾で受け止めてしまえば、この松明があっても均等におかれてる訳もなくましてや洞窟の中、整備されていないのならば薄暗くて当然の場所で自分から視界を狭めてしまえば、目の前に敵がいても不意を突かれてしまうのは自明の理だ。
「は?っご!?」
「これで、四人目」
無理矢理に相手から盾を奪い取り、そのまま盾を相手の鳩尾に打ち込み、流れる様に下から顎へと掬い上げ意識を奪う。
これで四人目。
既に野盗たちの根城である洞窟に足を踏み入れて、四人を気絶させた訳だが、
「…………ちっ」
正直に言おう。
ストレスが溜まる。いや、正確に言えば余計に疲れると言うべきか。
言ってしまえば、俺がいた世界。あの世界は、やはりダークファンタジーというわけでだが、命の価値というものが大いに安かったと思える。
俺の知る盗賊共なら、今の仲間が飛んできた時は受け止めるなんぞしないだろう。下手すればその仲間を文字通り斬り捨てて、即座にこちらに突っ込んでくる場合もあるだろう。
俺であれば、殴りつけた野盗を肉盾にして視界を潰してからそれごと突き刺すか、魔術で吹き飛ばす。若しくはそもそも侵入する前に火で焼き出して魔術で早々に殺すのが選択肢にあったが…………
「思えば、こっちに来て対人は初めてだったな」
「パーシヴァル、大丈夫?」
殺さぬ様に、かと言って無力化する為にやり過ぎればそれはそれで人間性の問題だ……この場合の人間性は普通に精神的な意味合いだが。
そんな風に思考を回していれば、どうやら俺が気絶させた野盗らを縄でしっかりと縛り終えたらしいクリスが道中でもしていた様に女神らしく心配気な声音と表情をこちらに向けてきて…………俺は、
「…………気にするな、とはもう言えないか」
これ以上は、逆に問題になりかねないと判断して、一度ダクネスの位置を確認機してから俺は大人しくクリスに説明することにした。
「笑ってくれるな。俺は、お前たちと一党を解散するかもしれない、というのが存外怖いらしい」
「……え?」
「嘗ての世界は、この世界と比べて、命の価値というものがあまりに安かった。そして、当然だが俺もその世界の価値観に従っていたし、あまり自分で言うものではないが……かなり過激な方であった自覚がある。つまり、だな」
そこまで言って、俺は一度話を区切り足元に転がっていた石を蹴り上げ、握ると同時にそれを前方へと投擲する。クリスが、それを見て直ぐに構え直し、一拍遅れて野太い悲鳴が洞窟の奥から響く。
先程奪い取った盾を構え、短刀を普段通りの逆手に持ち替え
「当然、俺の中には野盗を、他者を害する悪党と呼べる人間を躊躇いなく殺すという選択肢が優先され易い」
松明による明かりが届かず影になっている方向から、矢が放たれたのを視認して素早く盾でそれを受け止め、クリスと共に通路の端へと避ければ後方、入口側からダクネスが盾を構えながら駆け込んでくる。
それを追いかけながら、視線を通路の側面へと僅かに向けていく。万が一横穴があれば対処する為に
「…………以前、俺はこの世界は優しい、と言ったな。今回もそうだ、紛れもなく悪人であり社会の敵である野盗を捕縛。命を奪わない、俺にはすぐには出てこないし、不安な選択だ」
クリスの側の横穴から飛び出してきた短剣を持ってる野盗にすぐさま盾を投げつけ怯ませる。その間にクリスを先に行かせ、怯んだ奴の短剣を握っている方の腕を掴みそのまま外側へと曲げさせて手から短剣を奪い、顔面を殴りつける。
それでも、動こうとしたのを素早く蹴りで股間を蹴り上げ、意識を刈り取る。
手元に縄が無いために首根っこを掴んで、クリスらの後を追いかけていく。
「クソっ!?なんだコイツ!」
「硬ぇ!クルセイダーか!?」
「くぅぅっ!!どうした!そんなものか!」
目測で野盗が六人ほどで固まっている中、その内の前衛の攻撃を受け止めているダクネスの後ろ姿を見る限り、特に問題はないようで後衛の野盗は先程の矢を打ってきた奴だろう、クロスボウを持っているのが一人いたがそこには矢の1本も装填されていない。
代わりに、クリスの手にはしっかりと矢筒が握られている。
「
状況を理解して、こちらへと振り向いたクリスと視線を合わせればこちらの意図を理解したのか
「ダクネス!」
「ああ!」
クリスによって呼ばれたダクネスは素早くその場から横に大きくズレ、俺は掴んでいた荷物を勢い良く野盗たちへと投げ込む。
もちろん、投げ込んだのは俺の武器でも、さっき奪った盾でもない
「はっ!?」
「人の心はねぇのか!?うぉっ!?」
固まっていた所に人間が投げ込まれる、それも気絶してる仲間が、来るなんて誰が考えるか。
すれ違った際に、クリスもやや引いていたがそれはまあ…………我が女神からそういう反応をされるのは辛い。それと、ダクネスは何やら目が輝いていた。投げんぞ、俺は。
ため息を零しながら、俺は瓦解し始めた野盗たちへと踊りかかった。
──────────────────────
「つまり、パーシヴァルは前の世界での経験の影響で、もしかしたら野盗を殺してしまったら、私たちの一党を解散するかもしれないって、のが不安だったわけなんだ」
「…………まあ、そうなるな」
野盗たちのアジトを完全に制覇し、潜んでいた彼らを軒並み縄に縛り上げたパーシヴァルたちは、野盗たちを運送する為に呼んだギルドの職員らの荷台に野盗らを放り込んで、帰路へとついていた。
しかし、そこにいるのはパーシヴァルとクリスの二人のみ。ダクネスはギルド職員と共に荷台の護衛として一足先にアクセルの街へと戻っている為だ。
その為、ここにいるのは二人だけ。周囲に通行人がいるということも無いため、堂々と周囲の耳や目を気にすることなく二人は話していた。
「まあ、確かに。君が前いた世界ってのは、君と関わってく中で結構物騒な世界なのは分かるよ。それで、まあ、命の価値観ってのも違うのもわかる。だけれども、君はその価値観のままどうこうしてるわけじゃないでしょ?なら、そんなに不安がらなくても大丈夫だよ」
「……そういうものか」
「そうそう。それに────」
パーシヴァルの抱いていた不安をクリスは諭す様に切り捨てながら、一度周囲を確認したと思えば
「パーシヴァルさん、経緯が経緯ですからね。しっかりと見ておかないと、何か大変な事とかしちゃいそうですし。それに、貴方は私の騎士ですからね、見捨てたりなんてしませんよ?」
少年めいたクリスではなく、女神エリスとしてパーシヴァルへとそう告げた。
まるで悪戯でもしたかのような笑みを向けて、そう告げた彼女に対してパーシヴァルは思わずその足を止めて、しばし固まったと思えば、すぐに肩を震わせマスクの下からくぐもった小さな笑い声が漏れ聞こえる。
「…………ッ、クッ……ック……なるほど、ならば、我が女神の騎士として、御身に泥を塗らぬ様に邁進させて頂きましょう」
「ええ、そうしてください」
パーシヴァルの抱いていた一抹の不安。
しかし、その不安が現実となる事はなく、そして自らが仕える女神からの嘘偽りの無い言葉によって、その不安が溶け消えていくのを感じながら、元のクリスに戻り歩いていく彼女の後を追いかけていった。