このファランの騎士に祝福を   作:カチカチチーズ

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本当は他の作品を投稿してからこっちに手をつけようと思ったのですが予想外に筆が進まずこちらを投稿しました。

この先 冒険者がいるぞ


そして騎士は唐突に

 

 

 

 

 アクセルの街。

 曰く、地理的に魔王の城から最も離れており周囲のモンスターも弱く、まさに駆け出し冒険者の街であるそうだ。

 街の周囲はしっかりと石壁に囲われており、街の出入り口には衛兵らが警備している。

 こうして、街に入ってその内側も見るになかなか良い街並みであると思うが……亡者やらなんやらが出てくるようなあの世界と果たして比べて良いものなのだろうか。

 まあ、決して良くはないだろうな。

 しかし、本当に平和だ。

 時折冒険者なのか少々荒くれ者にも見える装いの者も見かけるがそれでも、嘗ての世界のような何処か殺気めいたものを漂わせている者とは偉く大人しく見える。

 具体的には普通の犬と亡者に近しい犬ぐらい違うな…………改めて考えるとあの世界は恐ろしいな。

 

 

 途中、道行く人にギルドの場所を尋ねつつもなんやかんやで俺は冒険者ギルドへと辿り着いたわけだが……意外にこの街は広かった。

 外から見てはそこまで大きくはないと思っていたがこうして中にいるとその大きさがよく分かる。

 先程も中央通りに面して恐らく貴族の屋敷であろう建物も見受けられた。それほどこの街が栄えているという事なのだろうな。

 と、それはそれとしてだ。

 先程から何やら視線を感じる。無論、俺がこの街の人間からすれば余所者であるというのもあるのだろうが、別にそんな事は大した影響は無いだろう。

 少なくともこの街は駆け出し冒険者の街と言われているのだ、冒険者に憧れ冒険者になりに来た外村の若者も来るのだから今更俺のような存在を注視する必要はない筈だ。

 いや、これで俺の見た目が原因だったら正直泣きたくなる。決してこの装備がそういう注目を浴びるような装備だから泣くのではない、何せあちらの世界じゃあ俺たちは不吉の象徴の様に扱われていたんだからな。

 実際、俺たちは闇より深淵の兆しを探り、異形を狩る集団なのだから、俺たちが来るということは災厄の種があるという意味合いにも取れる…………後はアレか、何回か国ごと滅ぼしたのが原因か。

 

 と、話がズレたな。……うまく隠れているのか、視線の主が何処にいるのかは少し分からないが……この視線には悪意というものが一切込められていない。

 俺が学院で浴びせられたあの軽蔑の眼差しは……俺たちへと向けられた恐怖と嫌悪と利用しようとする面倒な感情のごっちゃ煮の視線ばかりだった。前者は忘れようろくな思い出じゃあない、後者は兄弟達との思い出である以上善し悪しは関係ない。ンン、またズレたな。

 さて、この視線。感じるに込められている感情は恐らく心配?といった感情だろう……言うなれば親が子を心配しているようなそういった視線だ。

 ン、これはアレだな。兄弟(ホークウッド)が入ったばかりの頃に俺と二人で隊の流儀を殺し合いながら教えていた時に兄弟達に向けられていたモノと似てるな。具体的に言うとなんかやらかさないか心配って感じのだ。

 この世界に来てそんな視線を向けてくる存在……多くて二種類になる。

 

 まず一つは俺が危険かもしれないけど悪い人間じゃないとかなんやらいるわけもない人間。

 そして、二つ目もとい本命となるのは皆まで言うなそんなのたった御一人……一柱?しかいないに決まっている。

 そうつまりは我が女神だ。

 間違いなくあの御方だろう……ならば、心配御無用という事を示すべく普通に変に張り切らずに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 いつも通りの日常。

 いつも通りの風景。

 アクセルの街の冒険者ギルドはいつも通り代わり映えなく冒険者たちで賑わっていた。

テーブルにつきジョッキを片手に自分が成功した冒険を語らう者、依頼の貼られた掲示板の前で依頼を物色する者、受付嬢を口説こうとして見事に振られる者。

 そんないつもと大して変わらない冒険者ギルドにまた一人足を運ぶ者がいた。

 

 

「ッ────」

 

 

 それは騎士だった。

 何処かボロボロで、だが積み重ねられた歴史を感じさせるような衣服、その下にはしっかりとした鎧を着ており腰には短刀やらが吊り下げられたベルトが何本か巻かれている。

 色褪せた赤いマントに背負われた大剣、そして何より印象深いのは首から上だろう。立っている襟と布で鼻から下は隠され、更には目元を守るためのマスクを装着しており、三角帽子の様な鉄兜を被る事で全くと言っていいほどその人相が分からないそんな風貌の騎士。

 実力のない者でもこの騎士が幾度も修羅場をくぐり抜けた猛者であることを理解するだろう。

 そんな騎士に受付嬢は気を引き締め直す。

 何処から来た冒険者なのかは不明であるが第一印象というのは大切である。何せ騎士についてまったく知らないのだから、もしその性根が最悪で些細な事で暴れるような輩であればどうしようもないからだ。

 故に彼女は真っ直ぐ受付に歩いてくる騎士に向けて表面上はいつも通りの笑みを浮かべながらいつも通りの問いを投げる。

 

 

「冒険者ギルドへようこそ、今回はどういったご用件でしょうか?」

 

 

 そんな彼女の問いかけに騎士はそのマスクから覗かせる視線を彼女に向け、しばし沈黙のままその場に佇む。

 流れる沈黙、ギルド内の冒険者らの視線も彼女と騎士の二人に向けられている。

 そして、果たしてどれほどの時間沈黙が流れていたのか。十秒か、一分かそれとも十分なのか────実際は十秒程なのだがそれは気にすることでは無い────騎士がその手を動かした。

 一瞬、それに彼女の肩が跳ねて────騎士は懐から一つの袋を取り出し受付に置いた。

 冒険者らはそれにキョトンとして、ようやくここで騎士がその口を開いた。

 

 

「冒険者登録には千エリスかかると聞いた……丁度のはずだ」

 

「え、あ、はい」

 

 

 布で口元を覆っているから何処かくぐもった声で話す騎士に彼女は気の抜けた返事を返すがすぐにいつも通りの対応に戻すのはやはりプロと言うべきだろうか。

 置かれた袋を開け、中に入っているエリスを数え確かに千エリス入ってる事を確認し頷く。

 

 

「はい、確かに登録料の千エリス預かりました。それでは念のために冒険者の説明をさせていただきますね」

 

 

 不安な気持ちはもう半分近く消え、いつも通りの対応で彼女は騎士に対して冒険者業の説明を行っていく。

 経験値やそれの取得方法、更には経験値が溜まることでレベルアップが行われその際に手に入るスキルポイントやそれの割り振り、そしてそれらを可能とする冒険者カードの事。

 そういった冒険者として基本的な諸々の説明を終えて彼女は書類とペンを騎士に手渡す。

 

 

「では次にこちらの書類に必要事項を御記入ください」

 

 

 騎士────パーシヴァルは書類とペンを受け取ってそのまま書類に必要事項を書き込んでいく。

 不死となった事で学院より追われる身となったパーシヴァルであるがしかし、元々学院という知識の溜まり場に在籍していたのだ。

 そこらの不死と違い文字の読み書きなど雑作もないことだった。唯一の懸念はこの世界と嘗ての世界における文字の違いだが……女神の加護のおかげかスラスラとこの世界の文字を記すことが出来た。

 体重やら年齢やらあまり覚えてないものは適当に書き終わらせて書類を彼女に手渡す。それを受け取った彼女は書類に軽く目を通して軽く頷き、新たに掌大のカードを取り出す。

 

 

「最後にこのカードに触れてください。そうする事で貴方のステータスが表記されるのでその数値からなりたい職業をお選びください」

 

「ン……」

 

 

 その言葉にパーシヴァルはカードへ触れる事で返答し、冒険者カードはパーシヴァルのステータスを算出していく。

 

 

「わっ!?魔力と知力は平均をやや超えるほどですが、それ以外の五つはかなり高いランクですよ!特に筋力と器用度と敏捷は前代未聞ですッ!?」

 

 

 深淵を狩る狼血を分かちあった不死の騎士であるならばある意味当然の事だろう。

 と、言うよりもこの世界とあちらの世界を同列に扱っては絶対にいけないのは間違いない。こちらの世界で言う神器クラスの武器を素材とソウルさえ渡せば鍛え上げてしまうような鍛冶師や竜になれる誓約やらなんやらがいたりあったりする時点で普通の世界とは比べるべきではないだろう。

 これは余談であるが後のパーシヴァルはもしもステータスに耐久度のようなものがあればカスだったろうと貴族のクルセイダーや他のパーティーのタンクを見て呟いていた。

 

 

「冒険者でいい」

 

 

 さて、そんなパーシヴァルのステータスを見て興奮した様子で様々なパーシヴァルがなる事が出来る職業を説明していた彼女にパーシヴァルは一刀両断する様にそう一言言い放った。

 その言葉に流石の彼女も表情を固まらせ、数拍置いて再起動し改めて別の職業を勧めようと口を開き

 

 

「ポイント消費量が増えるだけで他の職業のスキルが取得出来るならば冒険者の方が使い勝手がいい」

 

 

 もはや、有無を言わさぬ物言いである。

 これ以上は無理だと判断したのか彼女は説得を諦め、自身の書類に何やら書き込んでから再びパーシヴァルへと向き直り

 

 

「では、これにて登録は終わりとなります。冒険者ギルドへようこそパーシヴァル様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています」

 

 

 一礼と共にそう締めくくった彼女にパーシヴァルもまた軽く礼を返し、そのまま依頼についての話を始める。

 

 

「依頼ですか?でしたら、ジャイアントトードはどうでしょうか」

 

「そうか、ならそれを」

 

「はい、分かりました。では期日はですね────」

 

 

 

 この日からパーシヴァルのこの世界での冒険が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリス様、流石に淑女がそのような格好をするのはどうかと思うのですが?」

 

「バレた!?」

 




パーシヴァルのステータスですが、ダクソステを見るに運と信仰以外はきちんと振られてますし、ファランの大剣を使う以上それなりの数値です。
無論、上質脳筋ステに比べれば低いですが。それでもダクソ世界で深淵の魔物などを狩ったり国を滅ぼしたりするような不死隊所属の騎士がチート持ち転生者以下なわけもないんですよね。
ちなみになんで運が初期値なのになにか言われなかったのかと言うとエリスの加護です。幸運がそこそこ高まってます

最後の人は誰なんだろうか……

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