このファランの騎士に祝福を   作:カチカチチーズ

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 貴公、久しいな……私はまだ大丈夫だろうか……フフッ





女騎士と監視者と女神様

 

 

 

 

「私の名はダクネス。職業はクルセイダーだ」

 

 

 防御力には自信がある。

 そう白い鎧の胸を軽く叩いて目の前の女騎士、ダクネスは自信気に語った。クリスが連れてきた彼女を観察しながら、俺は手元の羊皮紙に羽根ペンを走らせる。

 羊皮紙に書かれているのは現状の俺たち徒党の情報。シーフであるクリスに冒険者───あくまで職業がそれなだけであり実際は魔術戦士なわけだが───である俺。

 集団戦の大切さを身をもって分かっているからこそ俺とクリスでは戦力が足らないと判断した所、クリスが心当たりがあるとギルドからどこかへ行っている間に羊皮紙と羽根ペンを手に入れ、同時に彼女が心当たりを連れてきて今に至る訳だが……。

 

 

「ふむ、クルセイダー。確か上級職だったな……」

 

 

 役割としてはタンク────つまりは壁役悪く言えば肉壁であるがそれは気にせず、上級職であるクルセイダーがいるならば場合によっては俺が魔術にかかりきりになる事も難しくはない。

 そこまで考えて俺はもう一度彼女に視線を向ける。

長い金髪を後頭部で一房にまとめ上げた誇りを感じさせる表情、上半身を覆う白い鎧に黄色の衣服に所々鎧を身につけている。なるほど、なかなかに有用そうな女騎士だ。

 しかし、なんだろうか……何か、何か致命的にズレている気がする…………こう、なんと言えばいいのだろうか……深淵やらなんやらを見てきた俺からすると、何か薄ら寒いものを感じる。

 無論、それは悪意的なモノではないだろうが…………。

 

 俺は軽く視線を動かし、向かい側のダクネスの隣に座るクリスを見る。

 視線が互いにぶつかり合ったがしかし、すぐさま彼女は視線を切りあらぬ方向へと視線をむける。その表情はいつも通りであるのだが何処と無く申し訳なさそうなそれと何やら隠しているような、ともかく彼女はダクネスから感じるこの違和感の真実を知っているのだろう。

 恐らくこの場で問い質したとしても彼女は誤魔化す事だろう。それは火を見るよりも明らかであるが……だが、同時に彼女がこうして私のもとに紹介して来たことを加味するならばこれといった問題はないのだろう。

 

 

「俺の名はパーシヴァル。職業は冒険者だが、魔術戦士の役割をやっている」

 

「何度か見かけていたが、あの身のこなしからして中々の戦士であることは分かる。どうか、これからよろしく頼む」

 

「ああ」

 

 

 ダクネスが差し出した手を握る。

 どのような問題があるかは分からないが少なくとも、かもしれないで彼女を拒絶するのは違うだろう。

 そう判断し、俺は編成について少し思考を回す。

 隊にいた頃は魔術が使える兄弟らはいたにはいたのだが、そのほとんどが短矢などの牽制目的に習得した程度のソレであり、学院出身の俺と違ってそこまで考えずに使っても問題なかったが…………俺はなぁ。

 槍やら矢雨を撃つことが多いからある程度、場を見て色々判断しなきゃいけなかったからな…………大変なんだな、これが。

 

 

「さて、ダクネス。貴公の実力の程を知りたい…………そうだな、ジャイアントトードでも行くか」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 

 何やらクリスが微妙な顔をしているが、見て見ぬふりをしよう。そうしよう。

 それとジャイアントトードに誘った瞬間、何かこう背筋にゾワっとしたものが……。

 気の所為としておこう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思っていたんだがなぁ……。

 

 

「ハアッ!てェい!」

 

 

 両手で剣を握り、目前のジャイアントトードへと斬り掛かるダクネス。そんな彼女を後方から見守る俺とクリス……だが、なぁ。

 意気軒昂に剣を振るう彼女であるが、いったいどのような宿業を抱いて生まれてきたというのだろうか、不意を打っておきながら彼女の一撃がまったくジャイアントトードに掠りもしないのだ。

 これがジャイアントトードが動き回っているから、という理由があるのならばまだよかった。

 とても、とても残念な事に目の前で見せられているのはその場で驚き動いていないジャイアントトードをわざと当てないように振るっているとしか思えない剣筋のダクネスである。

 これにはジャイアントトードも驚くばかりだ。

 

 

「クリス……」

 

「えっと……うん、こ、攻撃はこんな感じ……」

 

 

 攻撃は、という言葉にクルセイダーとしての肉壁の役割はきちんと果たしてくれるだろうと淡い想いを抱きながら、俺は腰から杖を引き抜く。

 攻撃が当たらないということはこちらでジャイアントトードを処理せねばならないわけで、それにジャイアントトードとて大人しくしているはずも無い。

 現にジャイアントトードはその後ろ脚に力を込めていて────────

 

 

「「あ」」

 

 

 ジャイアントトードが跳び上がった。

 十分な溜めからの跳躍、それなりに高く跳び上がったジャイアントトードはそのまままっすぐダクネスをその大きな腹で潰す様に落下していく。

 丁度いい、と俺は判断して避けるダクネスと代わるように前へ出る……筈が

 

 

「貴公ッ!?」

 

「来いッ!」

 

 

 なんでそんな気合いの中に喜悦が混じってそうな声音で避けるのではなくその場で腕を広げてるんだ!?

 いくら、クルセイダーとはいえ避けれるものは避けないか!?下手すれば勢いのまま圧殺されかねんぞ!?

 故になんとか彼女をジャイアントトードから逃れさせようと走るがしかし、ジャイアントトードの巨体が落下するのにそう時間があるわけもなく、物の見事に俺の目の前でダクネスはジャイアントトードに潰された。

 

 

「ダ、ダクネスゥゥゥウウ!?」

 

 

 さながらそれはデーモンに叩き潰された兄弟の様で────

 

 

「────」

 

 

 すぐさま、俺は魔術を詠唱する。

 ソウルが杖先へと集まり、同時に俺は左手を振るう。生成されるのはファランの大剣に瓜二つ、だが直剣サイズのソウルの大剣。リーチという面においては不安が残るそれではあるがこの場においては何ら問題は無く、振るわれた魔術:ファランの速剣はそのままジャイアントトードの上顎と目下の間を横一文字で切り裂く。

 悲鳴をあげさせる間もなく、右手の大剣を振り上げることで下顎からそのまま脳天を両断する。

 なんとも力業な方法であるが問題あるまい…………

 

 

「しかし…………」

 

 

 ダクネスが……彼女が…………まだパーティーを正式に組んでもいないというのに……何故こんな事に……すまない。

 せめて、彼女の家族の為にも遺体は…………おい、クリスなんだ。何か言いたげだが……ああ、すまない。会って数十分も経っていない俺よりも友人であった貴公の方が…………。

 

 

「あー、その……」

 

 

 俺の判断ミスだ。

 

 

「罵ってくれて構わない……すまない」

 

「いや、その違くて……ね?」

 

 

 彼女の家族になんと伝えれば良いのか。例え、殺されたとしても俺は文句は言えない。こちらの世界で俺が本当に死ぬのかは分からないが……ダークリングがある以上、死なない可能性は高いが。

 いや、そんな事はどうでもいい。俺が死ななかろうが関係無い、俺は彼女の分まで歩き続けなければいけないのだから。

 

 

「おーい、パーシヴァル。聞いてる?ねぇ、パーシヴァル?パーシヴァル!」

 

「ッ、なんだクリス。どんな事でも俺は受け入れる…………ン?」

 

 

 クリスに揺すられ、俺は例えクリスに、いや我が女神にどのような罰を下されても構わないと覚悟を決めて、クリスの方へ視線を向ければ彼女は指をジャイアントトードの方へと向けており視線をそちらにずらして見れば…………

 

 

「……動いている?」

 

 

 可笑しい。死んだはずだ。

 下顎から脳天を両断されて死んだというのに何故動けるのか。……いや、違う。

 これはジャイアントトードが動いているんじゃない……何か下で動いている……!?

 

 

「まさか……!」

 

 

 すぐさま、俺はジャイアントトードへと近寄り筋力に任せてジャイアントトードを押し退ける。そうすると先程までジャイアントトードがいた場所が露になり、そこには恍惚とした表情のダクネスがいた。

 

 

 

「………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移り変わってギルド。

 そこの一角でパーシヴァル、クリス、ダクネスの一行は反省会をしていた。

 珍しく兜とマスクを外したパーシヴァルは目頭を抑えながら俯いており、そんな彼を見てクリスは申し訳なさそうないたたまれない表情をし、ダクネスもまた申し訳なさそうな表情をしている癖にどこか何かを期待している様な表情が見え隠れしている。

 目頭から指を離し、パーシヴァルが薄目を開けて一度その視線をダクネスへと向けると視線に反応したのかダクネスはビクリと肩を跳ねさせ、やや頬を赤らめていた。

 その変化には流石のパーシヴァルもため息をつき、一度水に口をつける。

 

 

「…………とりあえず。ダクネス、貴公が無事であった事はよかった」

 

「あ、ああ、私は頑丈だからな。アレぐらいなら全然問題ない、というかアレぐらいバッチコイと言いたい」

 

 

 ダクネスの無事に胸を撫で下ろし、パーシヴァルがそう言えばダクネスはまるで問題ないと言わんばかり、いやむしろもっと来てくれとでも言わんばかりに胸を張り、頬を赤らめながらそう語る。

 そんな彼女にもう一度パーシヴァルはため息をつく。

 

 

「貴公の趣味等にはとやかく言う気は無い……だが、こう視覚的に……周囲から見て危ない真似を平然としに行くのは少し辞めて欲しい…………本当に」

 

「うぐ……そ、それは……すまない」

 

 

 ダクネスも流石にこうして心配され苦言を呈されてまで自分の性癖を優先するつもりは無いのか、反論すること無く大人しく謝罪する。

 そんなダクネスにクリスは嬉しそうに何度も頷いており、その反応からしてダクネスの性癖に振り回されていたという実感をパーシヴァルは受けつつどうするか、と目を細めつつ視線を今度はクリスへと向ける。

 

 

「クリス。貴公は知っていたのだろう?なら、先んじて一言なりとも伝えて欲しかったのだが」

 

「あー、うん、それはごめん」

 

 

 ジャイアントトードに行く前にここで微妙な表情をしていたのはパーシヴァルも知ってはいたが、蓋を開けてみたらこんな度し難い被虐趣味であったなど、驚く以外になくせめて一言でも伝えて欲しかった。その責める言葉にクリスはバツが悪そうに表情を歪めてすぐに謝った。

 彼女らからの謝罪を受け取ったパーシヴァルは三度目のため息をついたかと思えばその表情を引き締め、改めてダクネスへと向かい直る。

 

 

「さて、ダクネス。貴公の趣味はまあ、分かった。そして、長所と短所も一応理解はさせてもらった。クセが強いがまあ、うむ……」

 

 

 表情を歪めながら言葉を切る。

 数拍ほど、間を開けてから再び口を開いて、

 

 

「ある程度貴公の趣味を考慮はする。だから何か指示を飛ばされた時は趣味よりもそちらを優先して欲しい…………その上でどうか俺とパーティーを組んではくれないか?」

 

 

 そう言ってパーシヴァルは手を差し出すとダクネスは一度目を瞑ってから、頷き差し出された手を掴んだ。

 

 

「私でよければ宜しく頼む」

 

 

 互いに握手を交わし、こうしてパーシヴァル、クリス、ダクネスによるパーティーが正式に結成された。

 

 

 




皆さん、風古戦場の準備はどうですか?
私はいま、猫の5凸の為に書物集めに勤しんでいます……書物の泥率、ティーカップに比べて低すぎない??


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