このファランの騎士に祝福を   作:カチカチチーズ

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|ω・)

|ω・) つ 『最新話』

҉ パッ




未知の話と未練の話

 

 

「キャベツ…………が、空を飛ぶ?」

 

 

 彼女の言葉に俺は思わず繰り返すように口にし、そして何度も瞬きをしてしまった。それもそうだろう、普通に考えていったい何を言われてるのかも分からない。

 クリスもとい我が女神は時折悪戯心を見せはするが、基本的に真面目で落ち着きがあり上品な御方だ。勿論、クリスの時にはある程度性格を切り替えておられる為、少し活発的になるがだとしてもこんな突拍子も無い冗談をいきなり言うのは寝耳に水なのだが、

 

 

「むー、信じてないでしょその目」

 

「いや、まあ。二枚貝が歩き回るならともかく流石に野菜が飛行するのは……」

 

 

 ありえないだろ。

 視線を彼女からズラしつつ、そう答えれば先程までの頬を軽く膨らませ拗ねたような表情から一変した何か引き気味な表情でクリスはこちらを見ていた。

 

 

「え、むしろ、なんで二枚貝が歩くの……怖……」

 

「…………さぁ、創造者の趣味だろ」

 

 

 脳裏にあの公爵が過ぎるが、すぐに脳裏から追いやる。少なくともアレと俺の間に関わりはほぼほぼない。あるとすれば、俺たちファランの不死隊の同盟者である古老がビックハットの系譜であることぐらいだろう。

 ここらで話を戻そうと視線をクリスへ戻してみればどうやらこちらの意図を察したようで彼女は軽く咳払いをし、俺はひとまずは野次を入れないように口を閉じて彼女の話を促す。

 

 

「いや、ね?実はこの世界ではさ、収穫の時期になると味が濃縮してきて簡単に食われてたまるか!って感じに畑から飛び出して、街や草原を駆け抜けて駆け抜けて人知れぬ秘境で最後に息を引き取るんだよ」

 

「……キャベツが」

 

「キャベツが」

 

 

 なんなら、他の野菜も動くよ。

 そんな要らない情報まで追加され、俺は思わずギルドの天井を仰いだ。なるほど、間違いなくクリスは冗談でも嘘でもなく本当の事を話している。

 この世界に来て、そこそこに経っているがやはりまだこの世界独自のあれそれは知らないのは事実だ。

 だが、だがなぁ……流石にこれは…………冗談と信じたい……信じたいが、本当らしい。

 

 

「それで、そんな話を切り出してどうした」

 

「うん。もうすぐ、そのキャベツの群れがねこのアクセルに来るんだよ」

 

「群れが、か」

 

「キャベツには経験値が詰まってて、私たち冒険者はそれを収穫するんだ。勿論、経験値の量には個体差があって高いほど高値で取引されるから、キャベツの収穫は私たち冒険者にとって稼ぎ時の一つなんだよ」

 

 

 話を聞いているだけで頭が痛くなってくる。

 いや、言いたいことは分かる。経験値を溜め込んだキャベツ狩り……要するにキャベツがソウルを溜め込んでいるという事だろう。

 なんだそれ。

 だが、それが冒険者にとっての稼ぎ時であるのならば、仕方ない話で……。

 

 

「つまり、その収穫に俺も参加しろと言いたいんだな?」

 

「そういうこと。ほら、パーシヴァルも基本的に装備は自前で整備とか出来るけど、それはそれとしてお金は入用でしょ?」

 

「…………そうだな。投げナイフやらなんやらは消耗品だからな、当然その分金は必要であるし何より宿代を考えれば尚更だ…………経験値はともかく金があるに越したことはない」

 

 

 クリス、ダクネスと一党を組んでいる以上、依頼をこなす際に野宿をする機会は当然ある。既に何度か行っているが、その際に使う食事を始めとする費用を考えればここらで大きく稼ぐのはありだ。

 それにそろそろ宿代も馬鹿にならなくなってきた。稼げる時に稼いで貯金に充てるべきだろう。

 色々と釈然としないが、少なくともそのキャベツ収穫に参加する事が決まった。

 

 

 

「ちなみに中にはレタスも混じってるから気をつけてね。レタスはキャベツより安いから」

 

「…………あ、ああ」

 

 

 …………不安しかない。

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスとのキャベツ収穫の話を終え、俺は一人このアクセルの街をぶらついていた。

 冒険者として依頼をこなすべきだと思うがしかし、クリスはあの話の後にやることがあるから、とそそくさと冒険者ギルドを後にした。恐らくは女神としての責務を果たすべく一度天界に戻られたのだろう、もしくは神器という他の異世界からの転生者が特典としてこの世界に持ち込んだが持ち主が死んだ事で遺ってしまった特典、遺物を回収しにいったのだろう。

 もしも、この世界で俺が死んだ際に俺の装備等もこちらに遺ってしまう可能性を考えると、女神の手を煩わせてしまうことになる。気をつけねば…………。

 話を戻して、もう一人のメンバーであるダクネスはそちらはそちらで昨夜別れる前に今日は予定があると言っていた為、そもそも冒険者ギルドには顔を出していない。

 つまるところ、一党で俺だけが特に予定があるわけでもなく手持ち無沙汰なのだ。

 

 

「一人、依頼をこなす。というのは選択肢に入りはするが、まあ今日の所はこの街の見聞を広める事に勤しむとするか」

 

 

 そもそもこの世界に来て、この街に来て、俺はほぼほぼ落ち着いて街を歩くという事がなかった。

 嘗ての世界であれば、不死人である以上三大欲求は常人より薄く、精神的に影響を受ける為眠りはするが食事は無視してもそこまで影響は無く、残りの性欲に関しては不死隊として集団生活をしている以上、そんなモノ発散する暇があるどころかそもそも気にしすらしなかった。

 だが、この世界においては不死人であることを隠している以上、食事もするし眠りもする。性欲はわざわざ晒す必要も無いため無くて問題ないが……ともかく、常人の様に当たり前の生活をしていたわけだ。

 生きていれば当然、金はかかる。ならば、生活の為に金を稼がねばならず、その為に依頼をこなす必要があり、ここ数日はダクネスとの連携の為にも依頼にこなしていた。

 だから、こうして特に何も無い日というのは初めて、と言っても良いわけで

 

 

「………………平和だ」

 

 

 嘗ての世界でいったいこんな事が考えられただろうか。

 魔術の才を見出され、竜の学院の門戸を叩き、不死の呪いを生じた事で家族から学院から逃げ出し兄弟らに拾われ深淵を狩る不死隊となって、そこに平和などなかった。

 勿論、一時の平穏があったのは事実だ。

 例えば、ヘイゼル。

 例えば、ホークウッド。

 例えば、兄弟ら。

 だが、それも

 

 

「決して今の様に、平然と街を歩ける様なものではなかった、な」

 

 

 兄弟らは大丈夫だろうか。

 彼らが薪の王となることを知っているがしかし、実際にそうなるのかどうかは途中で離脱してしまった俺にはてんで分からない話だ。

 その道程は間違いなく過酷極まりない筈だ。

 何人の兄弟が俺のように離脱していくのだろう、何人の兄弟が残りその狼血と共に火を継ぐのだろうか。それはもう、あの世界から消えた俺には分からない話だ。

 未練がない、などとは口が裂けても言えない。

 

 

「……………………駄目だな、やることが無いと、考えてしまう」

 

 

 こういう事を考えないようにする為に無意識に依頼ばかりやっていたのかもしれない。そんな事をふと考えながら歩いていけば、ふと視界に映ったそれに思わず足を止める。

 『ウィズ魔道具店』

 読んで字の如く、魔道具の店を示すであろうその看板をしばし注視して、俺は視線を動かし看板と共にある一軒の店を見る。

 外観としては小さな店だ。

 言ってしまえば、何処にでもある店構えだがやはり魔道具を取り扱っている、というのが響いたのだろう。既に俺の中でこの店に入らないという選択肢は無かった。

 

 

「…………相場を知らないからな、一先ず今日は見るだけにしておこう」

 

 

 戦いに役立つものは欲しい。

 少しでも仲間内の被害を少なくしたい。

 あの世界で不死隊として戦っていれば当然の考えで、それはこの世界であっても変わらない。何より、ダクネスは正真正銘の人間だ。俺や我が女神と違い、死ぬ時は死ぬ。

 勿論、クリスとてふとした拍子に死ぬかもしれない。守らない理由にはならない、ならば少しでも手数は欲しくまた切れる手札も欲しい。

 それを考えれば魔道具という俺からすれば未知の手段を探るのは当然で、迷うこと無く俺は店の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

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