~ 紅と蒼の契り(前編)~
神根島、そこでライは自身の記憶を断片的ではあったが思い出した。
そしてそれをゼロに伝えたところ、ゼロもまた自らの秘密をライに明かした。
その際、ライは自身にギアスを掛ける事を望むも、その言葉こそが何よりの信頼の証だとして拒否される。
「ライ、いいな? この事は俺達だけの秘密だ」
「あぁ、分かってる、ルルーシュ。同じ力を持つ者として、君と共に歩もう」
そう言うと古の時代に狂王と呼ばれた青年と、現代において魔王と呼ばれる青年は固い握手を交わした。
彼らはこの時、初めて本当の親友と呼べる存在になったのかも知れない。
だが、感動的とも言える場面であるにも関わらず、その場に居合わせた魔女C.C.は人の悪い笑みを浮かべる。
「ライ、お前はカレンとは共に歩まないのか? お前達は恋人同士なのだろう?」
しかし、そんな茶化すC.C.を物ともせずにライは胸を張る。
「勿論一緒だ。僕はカレンを愛してる。記憶の事も話したけど、それでも彼女は受け入れてくれた。共に歩むなんて、そんな事は今更言うまでもない事だ」
「ほぅ、言ってくれるな……愛か。だが、ここ数日あの女は何処か様子がおかしいぞ? 何かあったのか?」
「それは…」
C.C.から珍しく心配するような口調で尋ねられ、ライがやや面食らっているとルルーシュが念を押す。
「お前とカレンは今や黒の騎士団に無くてはならない存在だ。意思の疎通は十分にな」
「分かってるさ。今から聞いてくる」
即断即決。
短く頷くと踵を返したライは部屋を後にする。が、そんなライの背中をルルーシュが呼び止めた。
「あぁそうだ、ライ。言っておきたい事があるんだが」
「何だい?」
ライは振り向きざまに問うた。
すると、返ってきた言葉は彼にとって何よりも嬉しい言葉だった。
「お前に会えてよかった」
ルルーシュは静かに微笑んだ。
「僕も同じ気持ちだ、ルルーシュ」
ライも同じく微笑み返すと二人の間に穏やかな空気が流れる。
「やれやれ、全く甘い連中だな。だが、それも良いか」
C.C.は慈愛を湛えた瞳で二人の若き王の姿を眺めていた。
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コードギアス 反逆のルルーシュ L2
~ 前日譚 紅と蒼の契り(前編)~
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ライは格納庫に向かいながらC.C.の指摘を思い起していた。
カレンの様子がおかしいという事は、ライも薄々ではあったが感じていた事だった。
神根島から帰還した後、お互いの気持ちに気付き、互いに想いを伝え合い恋仲になって以降、カレンは時々思案顔を浮かべるようになっていたからだ。
気になったライは幾度となく尋ねるのだが、その度にカレンにはぐらかされる、といった事が続いていた。
大切な女性であるにも関わらず、今一歩踏み込んで聞く事が出来ない己の情けなさを悔やみつつ、ライは思考の海に沈む。
しかし、格納庫に着くまでに答えが見つかる筈もなく。
ライの視線の先には紅と蒼、2体の巨人が佇んでいた。
その足元には今しがた愛機の整備を終えたのか。パイロットスーツのまま地面に胡坐をかき、首からタオルを下げるとドリンクを飲んでいる赤髪の女、ライにとって最愛の女性、カレンの姿があった。
周囲に人影はない。
遠巻きに見つめるライに気付いていない彼女の表情は例の如く思案顔。
今日こそは、と意を決したライは声を掛ける。
「カレン!」
すると、ようやっと気づいたカレンは立ち上がると手を振りながら微笑んだ。そこに最早先程の雰囲気は一欠片も見られない。
ライも手を振り返しながら歩み寄る。
「ゼロとの話は終わったの?」
「あぁ。終わった」
「そう……ねぇ、何か良いことでもあった?」
「何故そう思うんだ?」
「だって、今のあなたの顔、もの凄く嬉しそうなんだもの。ゼロと良い話が出来たのかしら?」
カレンは口元に手を当てて小さく笑うと、その仕草を見たライに悪戯心が生まれる。
「何故ゼロなんだ? カレンに会えた事が嬉しいからかもしれないじゃないか」
「違うわね」
笑顔で否定するカレン。
「私に会えた事が理由ならいつもの様な表情をしてくれるもの。けれど、今の顔は初めて見るわ」
ライは面食らうと同時に、そこまで自分を見てくれているのか、と思わず頬を緩めた。
「それよ」
唐突にカレンに指摘されたライは慌てて我に返る。
「今のが私の一番好きな表情よ」
カレンが柔和な笑みでライを見つめると、ライも思わず笑顔になる。
「カレンには敵わないな。それに、凄く嬉しい。そこまで僕の事を見てくれているなんて」
飾らない言葉を紡いだライに対して今度はカレンが面食らったのか、瞳を瞬かせたかと思うと次の瞬間、頬を染め俯いた。
「……バカ。そんな事口に出して言わないでよ。恥ずかしいじゃない」
◇ ◇ ◇
格納庫に佇む互いの愛機に背中を預けながら、向かい合うライとカレン。
二人はたわいもない話を続けていた。穏やかな空気が格納庫に漂う。それは、とても幸福な時間。
しかし、ライは今日こそ尋ねなければならなかった。
そのため、会話が一瞬途切れたのを好機と捉えたライが口を開く。
「カレン。最近何か悩んでいないか?」
「…何のこと?」
言葉とは裏腹に、カレンの雰囲気が変わった事を察したライ。
いつもであれば彼はここで引いていた。
しかし、彼は決めていた。今日こそは引かない、と。
「僕でよかったら話してくれないか? 君の力になりたいんだ」
「言ったら、あなたを縛る事になりかねないもの。だから言えない」
やんわりと拒絶されたライだったが、口元を強く結ぶと意を決して踏み込んだ。
「それでも、僕は君の悩む姿を見たくない。お願いだから話してくれないか」
ライの真摯な眼差しに、思わずといった様子で視線を逸らしたカレンは、次に思い悩むかのような横顔を見せるがそれも一瞬のこと。
再びライに向き直ると探るかのような視線を向ける。
「話しても、引いたりしない?」
「約束する」
「……じゃあ、結論から言うわ。ねぇ、ライ。私と……結婚して?」
「なんだって?」
寝耳に水とは正にこの事だろう。予想だにしなかったカレンの言葉に、ライは一瞬我を忘れた。
「やっぱり、引いちゃった?」
悲哀を湛えたカレンの瞳。ライは咄嗟に否定する。
「そうじゃない!……けど、僕達はまだ未成年だ。結婚なんて……」
「分かってるわ。だから先に婚約だけしておくの」
何時になく真剣なカレンの眼差しに、ライは押されていた。
「けれど、そういうのはちゃんと大人になって――」
言い終わる前に一瞬で間を詰めたカレンはライの胸に飛び込んだ。しかし、咄嗟の事でライは支えきれず押し付けられる格好となる。
驚いた様子でいるライを余所に顔を上げたカレン。その瞳は僅かに潤んでいた。
「ライ……私達は、私達は普通に大人になれると思ってるの!?」
カレンの頬を涙が伝うがライは何も答えられない。
「普通じゃないわっ! 生徒会の皆みたいに、平穏な生活なんて望めない! 私達は未来を作る為に戦ってる。けど、その私達には"今"しか無いのよっ!!」
遂に耐え切れなくなったのか。カレンは溢れ出る涙そのままに思いの丈をぶつける。
「神根島で、貴方を置き去りにしないといけなかった時の私の気持ちが分かる? 本当に気が狂いそうだった。あなたとこのままの関係で終わるなんて絶対に嫌!! ライ、あなたとの絆が欲しいの!!」
これまで耐えてきた心情を吐露したカレンは、再びライの胸に顔を埋めた。
二人以外誰も居ない格納庫にカレンのくぐもった声が木霊する。
その両肩は震えていた。ライはそっと手を添えると、思い定めた瞳を向ける。
「カレン、顔を上げてくれないか」
望まれるがまま、カレンは静かに顔を上げた。
視線を交わす二人。
ライは涙で濡れたカレンの頬を指先でそっとなぞりながら言葉を紡ぐ。
これは契りなのだと。心と体だけではない、カレンと魂まで深く結びつく為に必要な儀式なのだとの思いを胸に。
「結婚しよう」
瞬間、カレンは瞳を輝やかせた。
「本当に、いいの?」
驚きと嬉しさを抑え切れないような笑みを浮かべるカレンに、ライは穏やかな笑みで応じる。
「勿論だ」
「私、結構独占欲強いわよ?」
「構わない」
「嬉しいっ!!」
カレンは再びライの胸に顔を埋めた。ライはその髪を優しく撫でる。しかし、彼は見逃していた。
己の胸に顔を埋める瞬間、彼女が浮かべたまるで獲物を仕留めたかのようなその笑みを。
「そうと決まれば次は結納ね。その前に、ゼロと扇さん、あと、他の皆にも報告しないと」
顔を上げたカレンは微笑を湛えたまま立ち上がると、ライは慌てて押し留めようとする。
「待ってくれ。いくら何でも早すぎる」
「こういう事は早い方がいいのよ。さっ、行きましょ!」
首根っこを掴まれたライはズルズルと引き摺られると、もと来た道を戻って行った。
◇ ◇ ◇
『で、二人とも。これは一体何事だ?』
怪訝な様子でゼロが問う一方で、隣に控える扇も困惑顔。
そんな二人からの疑念を受けて、カレンに脇腹を肘でつつかれたライは言葉を発する。
「急に集まってもらってすいません。実は……」
しかし緊張のためか上手く言葉に出来ないようで。
言葉に詰まるライなど見たことがなかったゼロは益々困惑した。
『らしくないな、本当にどうしたんだ?』
その言葉に、ライは双眸に決意の色を浮かべると口を開いた。
「カレンと婚約する事にした。ついては結納を行いたいと思う。それについて認めて欲しい」
『なっ!? お前は急に何を言い出すんだ!! 今、我々がどんな状況か分かって――』
「ゼロ、ちょっといいか?」
ゼロの詰問の最中に、突如として扇が割って入った事にライは目を見張る。
それはゼロも一緒だったらしく、彼にしては珍しく一瞬言葉に詰まった。
『……何だ?』
「今回の件、認めてやってくれないか?」
『扇、聞いていなかったのか? 今、我々にはそんな事をしている暇は無い』
「分かっている。分かってはいるが、頼む。この通りだっ!!」
頭を下げる扇。
ライはそんな二人のやりとりを唖然とした面持ちで眺めていた。
扇がゼロの意見に反する事など、今まで一度としてなかったからだ。
そもそも、扇はカレンにとっては兄ナオトが行方不明になって以来、時には兄代わりとして、時には親代わりとして接してきた男でもある。
今回の話にしても、二人にとって一番の難敵になると予想していたからこそ、その扇が真っ先に賛成してくれた事にライは感謝する一方で驚きを禁じ得ない。
ライの隣に座るカレンに至っては、頬を紅潮させるとジッと二人の会話に耳を傾けている。
そんな必死に食い下がる扇に対して、ゼロの疑問は尽きない。
『…………何故だ?』
「俺はずっと思ってたんだ。カレンには普通の女の子としての生活を送って欲しいと。ナオトもきっとそれを望んでいた筈だ。けど、当時の俺たちにとってカレンの力はどうしても必要だった。だから俺はその狭間で悩み続けた。そんな時だ、ライが入団したのは。それからカレンは変わった。ライと一緒に居る時のカレンは、よく笑うようになった。その笑顔を見ていて気付いたんだ。ライならカレンを支えてやれる。二人なら互いに支え合っていけると。だから頼む、ゼロ。認めてやってくれ!」
呼吸するのも忘れてしまったのか。扇は捲し立てるかのように心情を吐露すると、再びゼロに頭を下げた。
ゼロは何かを思慮しているのか、腕を組んだまま一言も発しない。
対する扇も頭を下げたまま微動だにせず、ゼロの言葉をただただ愚直に待ち続ける。
「扇さん……」
カレンは泣いていた。ライも心を揺り動かされ言葉が出ない。
そんな折、何処から入ってきたのか。さも愉快だと言わんばかりの口調でC.C.が割り込んだ。
「ゼロ、お前の負けだな」
『お前は黙っていろ』
「何故だ? 婚約ぐらい良かろう? 子供が出来た訳でもあるまいし」
その言葉に、それまで頭を下げていた扇は顔を上げると二人に視線を向ける。
「二人とも。分かってるだろうがそれはまだ早いぞ」
「「わ、分かってます!」」
二人は顔を真っ赤にしながら全力で否定した。
そんな三人を余所にC.C.はゼロの耳元で何事か囁くと、短く頷いたゼロは二人に向き直る。
『お前達はそれを何よりも望むんだな?』
力強く頷き返すライとカレン。
暫しの間を置いてゼロは言った。
『……いいだろう。黒の騎士団総帥として、二人の婚約を認める』
「あ、ありがとございます!」
「ありがとう、ゼロ」
二人が立ち上がり頭を下げた瞬間、突如としてドアが空いたかと思うと幹部達が雪崩れ込んだ。
皆は口々に二人に祝いの言葉を送る。
ライは男連中に揉みくちゃにされながらも、ふとカレンを見やると、彼女は井上に抱きしめられ頭を撫でられていた。
その姿は、ライにとってまるで本当の姉妹のように見えた。
◇ ◇ ◇
『丁度良い。今後の事について話し合う事にする』
ゼロの宣言を受けて、皆徐に席に着く。
全員が座ったのを確認したゼロは議題を口にした。
『二人とも、先程結納をすると言ったな。そこで聞きたいが、結納とはどうするんだ?』
ゼロはライに顔を向けるが、ライも詳しくは知らなかった。
「カレンは知ってるか?」
「ごめんなさい。作法となると詳しい事は私も知らないの」
そんな二人を見てゼロは呆れたように言う。
『全くお前達は……扇。お前はどうだ?』
「い、いや、俺と千草はまだそこまでは……」
「誰だよ、それ」
突然ゼロに話を振られ慌てた様子の扇を玉城が茶化した。
『藤堂、お前はどうだ?』
「いや、私も詳しくは知らん」
面目ないといった様子で答える藤堂。
『では千葉、君は?』
「わ、私か!? 私はそんな事は……いや、知っておくべきだったか……済まない、紅月」
千葉は一瞬横目で藤堂を見やった後、申し訳なさそうに謝った。
『それでは朝比奈は?』
「それ以前に相手が居ないよ」
朝比奈はそんな千葉を横目に苦笑する。
『では、卜部と仙波』
「右に同じだ」
「存じませんな」
我関せずと言った様子で簡潔に返す二人。
その後もゼロは尋ねて回るが結局のところ、この場に集まった団員の中には正しい作法を知る者は誰も居なかった。
その事で全員が頭を悩ませていると――。
「知りたいか?」
不意に声が響いた。
皆が声がした方に視線を向けると、そこにはまたしても意地の悪そうな笑みを浮かべたC.C.の姿が。
「結納なら知っているぞ」
「「「「『本当か?』」」」」
一斉に注目が集まる。それを心地よいとでも思ったのか、C.C.は勝ち誇ったかのように胸を反らす。
「ああ、知っているぞ。例えばだ。結納の際には、相手に失礼のないよう正装で臨まないといけない、とかな」
『正装? この姿では駄目なのか?』
ゼロが己を指差すと、C.C.は見下したかのような視線を送った。
「それなら間違いなく人格を疑われるな」
固まるゼロ。そんな彼を無視して彼女は更に続ける。
「正装といえば男は紋付き袴。女は振袖だな」
『待て、やけに詳しいがお前は何故そんな事を知っている?』
立ち直ったゼロがこの場に居る全員の思いを代弁して問い正したが、返ってきたのはお決まりの言葉。
「私は魔女だからな」
『答えになっていないぞ!』
「ゼロ、落ち着いてくれ」
ライは苛ついた様子を見せるゼロを宥めた。
『くっ、止むを得ないか。続けろ』
「ここから先は有料だ」
「『何だと!?』」
ライとゼロ、二人が呆れた口調で叫ぶと、それまで熱心に聞いていたカレンが急に怒気を孕んだ口調で問う。
「ちょっと待って。お金を取る気?」
対するC.C.は臆面もなく言い放つ。
「金など要らん。結納後には食事会を行うものなのだ。その時にはピザを出せ」
「何でそうなるのよっ!」
「知りたいのだろう?」
そう言うとC.C.はまた人の悪そうな笑みを浮かべた。
観念したゼロは頭を振ると了承の言葉と共に疑問を口にする。
『良いだろう。二人の為だ、続けろ。が、その前に一つ聞きたい。モンツキハカマとは何なんだ?」
「この国では古来より各々の家には家紋という…まあ紋章のようなものを持っているのだ」
「待ってくれ。僕は持って無い」
「ふむ、それは困ったな」
ライの指摘にC.C.は残念そうな表情を浮かべたが、その解決策は予想外の方向から齎された。
「あら、良い時に来ましたわ」
唐突な第三者の参入。
その場にいた全員が慌てて声がした方向に視線を向けると、有り得ない人物がそこにいた。SPを二人引き連れて。
「「「「か、神楽耶様っ!!??」」」」
皆一様に驚くが無理も無い。
キョウト六家を束ねる皇家の当主がこんなアジトまで来るとは思ってもみなかったのだから。
しかし、当の本人はまるで気にした素振りも見せず、唖然とする団員達を余所に、まるでそこが自分の立ち位置なのだとも言いたげにゼロの座るソファーの肘掛に腰を下すと平然と告げた。
「私の、皇家の家紋をお使いになれば良いのです」
「それはちょっと……」
ライは慌てて諫めようとするが、聞く耳持たずといった様子で神楽耶は話し続ける。
「良いではありませんか。ライ様には皇家の血が半分入っているのですから。私は何れゼロ様に嫁ぐ身。その後はライ様が皇家を継がれたらよろしいのです。何も問題はございません。いえ、寧ろこれは丁度良い機会ですわ」
自分の考えが余程素晴らしいと思ったのか、神楽耶は大層ご満悦だった。
「いや、ですから……」
ライは何とか再考を願い出るべく口を開きかけたが、続く玉城の一言で全てがぶち壊された。
「そうなるとよぉ~。将来カレンは皇家のお姫様って事になるのか? おい、すげぇじゃんかよ!!」
「私が……皇家の人間に……?」
そう呟くとカレンは一瞬考える仕草を見せる。
「カレン?」
怪訝に思ったライが尋ねると、何を思ったのか。彼女はライの意思など関係無しに言い放った。
「神楽耶様。その話お受けします」
「待ってくれ!……僕の意思は?」
「無いわよ?」
ライの抗議を異に返さず、カレンは満面の笑みでもって一蹴した。しかし、ライは尚も抵抗する。
「よりにもよって、突然皇家を背負えなんて無茶だ」
「あら、ライ様なら大丈夫ですわ。何と言ってもゼロ様が信頼される殿方ですもの」
同じく笑顔で判決文を読み上げる神楽耶
現当主が了承した事によって、ここにライの命運は決した。
「これでライの件はクリアか。他の者も同様に正装は用意出来るだろう。となると後は……」
事の成り行きを静観していたC.C.の言葉によって、全員の視線が一点に集まる。
『何だ?』
ゼロは首を傾げるが、ライを以てしても今の彼をフォローするのは二の足を踏む。
「困りましたわ。その服装はゼロ様にとっては正装でも、私達キョウトの人間からすれば正装とは程遠いものですもの」
神楽耶の言葉を聞いて憮然とするゼロ。するとそこにC.C.が助け舟を出した。
「まぁ、ゼロの件は任せておけ。紋付袴が無ければ作れば良いだけの事だからな」
『出来るのか?』
「安心しろ。誰もが知っている素晴らしい図がある。ここまで言えばお前達でも分かるだろう?」
自信有り気な表情を浮かべるC.C.。
ライは直感的に彼女の言わんとしていることを理解する。
一方で、周囲のメンバーも一様に納得したのか頷きあう。勿論、ゼロも。
『素晴らしい案だ! C.C.。あれはこの私にこそ相応しい! では、これより一週間後にライとカレン。二人の結納の儀を執り行う。神楽耶様。場所の選定をお願い出来ますか?』
「キョウトの総力を上げて準備致しますわ」
神楽耶が胸を張って応じると、ゼロは居並ぶ団員達に向けて高らかに宣言する。
『皆も戦闘隊長兼作戦補佐のライと、零番隊隊長紅月カレン。二人の為に総力を上げて貰いたい!』
「「「「「おぉー!!」」」」」
すったもんだあった結果、無事にゼロと扇に婚約を認められ、仲間達からも祝福の言葉を送られた二人は、こうして一週間後に控える結納に臨む事となった。
◇ ◇ ◇
解散後、ライとカレンはアジトの外に出ていた。
二人で瓦礫の上に座る。夜の帳が落ちたゲットーは月明かりに照らされていた。
「何だか凄い事になっちゃったわね」
「大事にしたのは君のような」
「何か言ったかしら?」
笑顔で惚けるカレンを見て、ライは微苦笑を浮かべつつも覚悟を決めた。
「本当に僕でいいのか?」
「言ったでしょ。私はあなたじゃなきゃ駄目なんだって」
柔和な笑みを浮かべるカレン。
ライも小さく笑窪を作ると互いに見つめ合い、やがてどちらともなく顔を近づける。
月明かりに照らされた二人の影は、やがて静かに重なった。