コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

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お読みになる前の注意点。
本作は、時系列的には「古王の胎動(後編)」の最後、彼の出発前のお話という位置づけです。
書いている本人に、原作キャラを乏しめる意図はございません。
ただ、原作キャラが好きな方々には不快に映る場面があるかもしれませんので、お読みになられる際はご注意下さい。
亡国のアキトがお好きな方には申し訳ありませんが、アキト達主人公サイドは全く出てきませんので、ご容赦を。
キャラの口調や人格、思想等は詰め切れておらず、想像が入っていますのでご注意下さい。

※4/3追記 時系列に一部齟齬あり。
内容を若干修正しました。
※4/23追及 ご指摘をいただき、スザクの経歴から白ロシアの記述を削除しました。


【GAIDEN】コードギアス 反逆のルルーシュ L2
亡国のアキト ~ 彼方より来る者達 ~


 サンクトペテルブルグ中央駅。

 武装した兵士が一定の間隔で並び、周囲を果断無く伺っている。

 そんな厳戒態勢の構内に原因となる皇族専用車両が乗り付けると、緊張はピークを迎えた。

 最初に降り立ったのは、青い外套を身に纏う帝国最強の騎士。その一角を担うナイトオブセブン、枢木スザク。

 出迎えるはユーロ・ブリタニアの宗主、ヴェランス大公の名代、ミヒャエル・アウグストゥス。

 彼は長旅を労う言葉と共に右手を差し出すと、スザクは短い謝辞のあと形式的に握り返す。

 そんなスザクの背後より一人の青年が降り立つ。

 

 「我々が来てやったと言うのに、この出迎えの少なさは何だ」

 

 黒髪に左目を仰々しい眼帯で覆うも、晒された半面には整った顔立ちが伺える。

 眼帯と相まって一目でより一層の衆人を惹き付けるであろう、眉目秀麗たるその男の装いは軍師の出で立ち。名をジュリアス・キングスレイ。

 皇帝の勅命により、此処ユーロピア戦線における作戦計画を一手に任される事となった彼は、不遜な視線そのままに酷薄な笑みを浮かべ、両手を広げると大仰な仕草と共に尊大な態度を周囲に振り撒く。

 そんなジュリアスに、ミヒャエルは気取られぬよう憤怒を噛み殺しつつ目礼する。

 すると、そのジュリアスの背後に又しても一つの影が。

 その影の主もまた、青年であった。

 歳はスザクやジュリアスと同年代。

 豪奢な皇族の衣服を身に纏うその青年は、灰銀色の髪を揺らしながら、端正ではあるが人形のように感情の乏しい表情を張り付けたまま周囲を見渡す。

 が、その蒼い双眸の奥にあるのは眩くも凍えるような光。

 ジュリアスとは対象的に青年は言葉を発する事こそしなかったが、目が合ったミヒャエルは気圧されると同時に、内面はジュリアスに負けず劣らず尊大な男である事を察した。

 彼は心中で本国に向けて悪態を吐きつつも、ジュリアスに接したように憤りを見せる事は決して無く、その青年の名を呼ぶと腰を折る。

 

 「ようこそ、ユーロ・ブリタニアへ。ライ殿下」

 

 「あぁ、短い間になるだろうが、世話になる」

 

 悠久の時を経て、ライは再び踏み締める。過去、一度征服したこの地を。此度は嘗ての友、二人と共に。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

  コードギアス 反逆のルルーシュ L2  

 

    ~ GAIDEN 亡国のアキト ~

 

    ~ 彼方(かなた)より来る者達 ~

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 到着後、迎賓館に招かれた三人ではあったが、先方の歓待の一切を拒否すると談話室で寛いでいた。

 その談話室にて、ジュリアスとライ。

 二人はそれぞれ一人掛けのソファーに座り小ぶりの机を挟んで向かい合うとチェスに興じていた。

 スザクは両者が俯瞰出来る丁度中間の位置にある一人掛けのソファーに同じく腰掛けると、何をするでもなく、ただ無言で二人を眺めている。

 盤上に置かれる駒の硬質な音だけが部屋に響く。

 

 「チェックメイト」

 

 今宵、三度目になるそれを告げたのはジュリアスだった。

 ライはソファーに背を預けると天を仰ぎ感嘆の吐息を溢す。

 

 「強いな。これで一勝二敗。私の負け越しか」

 「いや、殿下も十分にお強い。何度かヒヤリとさせられる局面がありました。本当に初めて打つのか疑わしい」

 「負けは負けだ、世辞はいい。それと、敬語は止めろ。お前に言われると何となくむず痒い」

 

 予期せぬ提案だったのか、ジュリアスは一瞬驚きに満ちた瞳を浮かべるも、次には躊躇(ためら)い無く応じてみせる。

 

 「良いだろう」

 「あぁ、その方がお前らしい」

 

 互いに冷笑を浮かべあう二人。

 続いてライは白いナイトの駒を手に遊ばせてスザクを誘う。

 

 「枢木。次はお前もどうだ?」

 「いえ、自分は」

 

 スザクが短い言葉で断ると、興味を失った彼は再びジュリアスに向き直った。

 

 「明日、予定通りに事を運ぶのは理解した。だか、本当にそれをするつもりか?」

 「あぁ、大公の目の前で宣言してやる。ユーロピア連合風情に梃子摺(てこず)る惰弱なクズども。ブリタニアの名を冠する事すら烏滸(おこ)がましい。連中に陛下の御威光を知らしめてやる」

 

 ジュリアスは陰惨な笑みを浮かべると、スザクが座るソファーの横にある机。

 その上に置かれている白色のアタッシュケースを一瞥するも、同時にその視線を追っていたライは吐き捨てる。

 

 「あんな物を使う必要があるとは思えないな。お前なら実力で黙らせる事も容易だろうに」

 

 それは、ジュリアスの誇りを痛く傷付けるものだった。

 

 「あんな物、だと?」

 

 剣呑な瞳を向けるジュリアス。ライは受けて立つ。

 

 「物に頼らず己の力で屈服させろ。お前にはその力がある筈だ」

 「聞き捨てならない。あれは、この私が陛下より直々に賜ったもの。私のこれまでの功績に対する陛下からの信頼の証! 君は仮にも皇族。あれを振るう事が出来る事が如何ほどの名誉か知らん訳ではないだろう?」

 「お前が何時(いつ)、何処で、どの様な功績を上げたのか知りたいものだ」

 

 ブリタニアに仇なした功績なら(そらん)じてやれるがな、との想いを秘めて、ライはジュリアスを挑発した。

 耐えられなかったのだ。嘗て目の前の男が己の力で成し得た戦功の数々。それに一時とはいえ心踊らせた身としては。

 しかし、そんな想いをジュリアスが知る(よし)もない。

 

 「それは(ねた)みか? 陛下に満足いただけるだけの功績を一つとして積んだ事も無ければ、未だに皇位継承権すら得る事が出来ない君には、今しか触れる機会が無い代物だ。最も、触れさせてやる気は更々無いが」

 「……貴様」

 

 ライの眉が危険な角度を描くも、ジュリアスは鼻で笑うと尊大な態度を崩さない。

 

 「まぁ、大船に乗ったつもりで見ているといい。陛下の信頼厚きこの私が、君に初めての功績を与えてやろう。ユーロピア征服という偉業をな」

 「鏡を見てから物を言え。今のお前は些事であるにも関わらず、父親に誉められたという理由だけで無邪気に喜ぶ幼児(おさなご)のようなものだ。滑稽な見世物でしかない」

 「……父親? 喜んでいるだと? 私が…ぐっ!!!」

 

 突然、ジュリアスは眼帯を押さえると苦しげに背を丸めた。

 

 「違うっ! 私は…俺はっ! あ、あんな男にっ! 消えろっ!! ジュリアスッ……ジュリアス・キングスレイッ!!」

 

 必死に己の記憶と戦い続けるジュリアスを、ライは頬杖をつくと冷めた瞳で眺める。

 

 「枢木、これは本当に使い物になるのか?」

 「殿下。今宵は此処までとしていただけませんか」

 

 顎でジュリアスを指し示すライに対して、スザクは薄暗い瞳を向ける。

 しかし、それで止まるライではない。

 彼は立ち上がると(うずくま)り震えるジュリアスの傍まで歩み寄る。

 

 「これが嘗てのゼロ。その成れの果てか。今のコレには何を言われても敵愾心どころか対抗心すら湧かないな。この様な無様な姿の男と今回(くつわ)を並べなければならない事になるとは。残念だ」

 「ライ!」 

 「枢木。貴様にその名を呼ばれる謂れは――」

 「お願いだ」

 

 聞く耳を持たぬスザクの懇願に呆れたのか。

 溜息を吐くいたライは今だ蹲り呻き声を上げ続けるジュリアスの姿に興味を失ったのか。

 

 「興が醒めた。ソレの介護は貴様に任せる」

 

 そう言い残すと外套を翻し部屋を後にしてしまった。

 

    ◇

 

 一方その頃。

 カエサル宮殿の大公の居室には、ミヒャエルの姿があった。

 

 「閣下、明日、明朝9時より謁見の間にて本国からの特使が着任の挨拶を。あの者達の経歴はこちらに。お目通し願います」

 

 恭しく差し出したファイルを受け取ったこの宮殿の主にしてユーロ・ブリタニアの宗主、オーガスタ・ヘンリ・ハイランドは書類に視線を落とす。

 

 「苦労を掛けたな。それで、お前の目にはどう映った?」

 「癖のある連中である事だけは確かかと」

 

 視線を落としたまま書類を捲る大公は忠臣の直截な感想に口元を緩めるも、目に映る青年の経歴に小さな吐息を溢す。

 

 「あの枢木スザクが護衛として来るとはな」

 「はい。あのエリア11に於ける黒の騎士団なるテロ組織が引き起こした大規模戦闘(ブラックリベリオン)において、首魁たるゼロを捕縛した功績によりナイトオブラウンズに叙されましたが、その後に行われた御前試合ではナイトオブスリー相手に一歩も引かない闘いを繰り広げました。ナンバーズではありますが、実力は折り紙付きかと」

 「元ナンバーズだ。市井(しせい)の人の中にも、やはり一角(ひとかど)の人物は居るのだな」

 「引き抜きますか?」

 

 命じられれば直ぐにでも、といったミヒャエルの視線に対して、大公は(かぶり)を振る。

 

 「(なび)かないだろう。この者は未だに亡きユーフェミア皇女から与えられた選任騎士の証を肌身離さず持つと聞く。ゼロに与すれば祖国解放も叶った可能性があったにも関わらず、それを良しとせず志半ばで倒れた主の仇を見事に取ったばかりか、今も変わらず忠節を尽くす騎士に対して、それはするべきではない」

 「出過ぎた事を申しました」

 

 ミヒャエルは深々と答礼した。

 大公はそんな彼を視界の端に捉えつつ再び書類を捲る。が、次の書類に示された青年の経歴には思わず目を見張った。

 

 「この軍師、ジュリアス・キングスレイといったか。華々しいまでの功績の数々だな」

 「その者には特にお気をつけ下さい。こちらを値踏みするかのようなあの視線、心底を探られているかのように感じました」

 「危険人物か」

 「はい。恐らく今回の者達の中では最も注意すべき人物かと」

 

 ミヒャエルの注進に短く頷いた大公は三度(みたび)書類を捲るも、最後は怪訝な表情を浮かべた。

 

 「この、ライという皇子については? 先程の二人と違い、顔写真すら無いが」

 

 その書類には名前以外には、生年月日と血液型の他には大公が言ったように前述の二人と違い顔写真も添付されて無ければ、極々短い文章しか記載されていなかった。

 

 「本国への照会には、そこに書いている以上の事は何も。特務総督府に何度尋ねても梨の(つぶて)。顔写真については、その…」

 

 突如として、歯切れ悪く言い淀むミヒャエルを不思議に思った大公が問う。

 

「何があった?」

「はっ! 顔写真の件を問うとその…一言。見たりて問え、と」

「意趣返しのつもりか」

 

 苦々しげな表情を浮かべた大公ではあったが、拘っても仕方がない事と割り切ると思考を切り替える。

 

 「過去の経歴は全て白紙。それどころか母親の名前さえ無いのか」

 「これは邪推になるやもしれませんが、相当に身分が低い可能性がございます。后妃として取り立てれない程かと仮定すると、今は亡きかのマリアンヌ后妃よりも下の身分も考えられます」

 「それでは、市井の人以下という事になる。根拠は?」

 

 大公の問い掛けに、ミヒャエルは胸を張った。

 

 「書類に記載されておりますように、皇籍登録は未だ仮初めのものでしか無く、皇位継承権に至っては付与の予定は無いとの事。母親については、記す必要は無いと断言されました」

 「それは誰が言ったのか」

 「特務総督府のベアトリス・ファランクス主席秘書官からでございます。なお、宰相府では何も情報を把握出来ていない様子で、逆に問われた程でした」

 「それは、例の宰相の副官からか?」

 

 ミヒャエルは小さく首肯すると、続いて吐き捨てるかのように言った。

 

 「全く、女であれば見境がないとは、ブリタニアの種馬らしいかと」

 

 苦笑しつつも一連の発言を聞いた大公は顎に手を当て考える。

 個人の実力を高く評価する一方で、血統にもまた一定の重きを置く彼にしてみれば、どちらも不十分と言えるライを素直に受け入れる事は難しく、心中穏やかではない。

 

 「そのような出自の者を、何故今更此処に送りつけた?」

 「断言しておりましたが、実際は継承権付与に内々で動き始めているやもしれません。此処、ユーロピアで功績を上げさせるために軍師と共に送り付けた可能性も。ついでに、護衛と箔付けを兼ねてラウンズを一人付けたのかと。しかし、態度だけは既に一人前の皇族気取りでございました」

 

 駅で見せたライの瞳を思い出したミヒャエルは、再び沸き起こる怒りを噛み殺す。

 

 「ライ・S・ブリタニア。かの王と同じミドルネームだな」

 「腹立たしい限りでございましょう。心中お察し致します」

 

 ミヒャエルの少々過度な心遣いに、大公は苦笑すると同時に思う。

 たった17年の歳月。玉座を得てからの実働期間で言えば僅かに4年。

 であったにも関わらず、それまで数百年に及んだ島の戦乱を平定した後に、一度は此処、欧州すら手中に収めてみせた王、ライゼル・S・ブリタニア。

 列王記に記されるのはその偉業の原動力を裏付けするために書かれた文字の数々。

 その性情、傲慢にして苛烈。不遜にして尊大。力への渇望著しく、欲望は無限大。その飽きることのない大慾(たいよく)で、世界すら飲み干さんとした狂気の王。

 しかし、王に付き従った軍団の騎士団長であった開祖が残した手記と、その開祖自らが手掛けた壁画に描かれた王の姿を見知る者として、彼だけは別の結論に至っていた。

 それは王のほんの一側面を抜き出し、声高に強調したものに過ぎない、と。

 一方で、ミヒャエルはそこまでは知らぬものの、彼としては主が並び立つを良しとする唯一の存在である事を理解していたが為に出た言葉。

 

 「彼の王の名を継ぐ者を寄越してみせて、私が奉ずるとでも思っているのだろうか、皇帝は」

 

 大公の瞳が鋭く光る。

 

 「こちらの反発を誘うのが目的か?」

 「お気をつけ下さい。特に例の軍師に至っては、芝居めいた所作を取る事が多うございます。不用意な発言は言葉尻を取られかねません」

 

 大公は鷹揚に頷いた。

 彼としては、ユーロピア共和国連合を下した後、三極の一つに取って代わるという最終目的がある事から、その諫言を素直に受け入れるとともに、慎重な姿勢で臨む必要があるとして兜の緒を締め直す。

 しかし、それは後に意図も容易くジュリアスに踏み砕かれる事になるのだが。

 

 「明日、会えば如何なる人物か分かるだろうか」

 「御心の信じるままに」

 

 深々と頭を垂れるミヒャエルと、それっきり無言で考え込む大公。

 二人の夜は更けていった。

 

    ◇

 

 その翌日、それは彼等にとって運命の日と言えた。

 謁見の間にはユーロ・ブリタニアが誇る四大騎士団の総帥が揃い踏み。

 定刻になると、彼らの視線の奥にある扉が開き、歩み出す三人。

 大公から見て右には例のケースを手に持つ騎士の装い、枢木スザク。

 中央には傲岸不遜な視線を改めようともしない軍師の装い、ジュリアス・キングスレイ。

 そして、左には鉄面皮を張り付けた皇族の出で立ち、ライ・S・ブリタニア。

 拝謁もそこそこにミヒャエルの叱責が飛ぶ。

 

 「不敬であるぞ! 大公閣下の御前を何と心得るか!」

 

 片膝を付くと臣下の礼を取ったのはスザクのみで、ジュリアスとライはそれを良しとしなかったからだ。

 ジュリアスが動く。

 彼は薄紫色の瞳に嘲笑の色を乗せ腰に手を当て胸を反る。

 

 「私は皇帝陛下より全権を委任されている。今、その(あかし)を見せてやろう!」

 

 その言葉を合図として、立ち上がったスザクは手に持ったアタッシュケースのロックを外し蓋を開ける。

 ジュリアスはそこに納められていた物を手に取り、居並ぶユーロ・ブリタニアの面々に意気揚々と差し向けると彼らは思わず息を呑む。

 

 「インペリアルセプター(帝笏)、か」

 

 呻くミヒャエルを筆頭に、聖ガブリエル騎士団総帥ゴドフロア・ド・ヴィヨンが(いき)り立つと、普段であればその彼を窘める役目を負う聖ウリエル騎士団総帥レーモンド・ド・サン・ジルまでもがそれに追従し、最後に聖ラファエル騎士団総帥アンドレア・ファルネーゼがその美貌が歪むのも構わず歯嚙みする。

 唯一、無表情を貫いたのは聖ミカエル騎士団総帥たるシン・ヒュウガ・シャイングのみ。

 したり顔のジュリアスは高らかに吠える。

 

 「私は陛下の意思の代弁者! むしろ不敬なのは、この私を一段上から見下ろす貴卿らの方ではないか?」

 「で、では、その者はどうなのだ!」

 

 分が悪いと判断したミヒャエルは咄嗟に非難の矛先を変えた。

 それを向けられたライではあったが、彼はジュリアスが帝笏を誇らしげに大公達に差し向けた瞬間、見るに耐えないものとして顔を背けていた。

 その為、今の彼の視線は謁見の間の窓ガラスから降り注ぐ陽光に向けられている。

 

 「おい」

 

 気付いたジュリアスが棘のある声色で注意を促すと、向き直ったライは溜息混じりに語る。

 

 「私はこの者の付属品だ。物に敬意を求めるな」

 

 事も無げに述べるライ。

 これにはジュリアスでさえも絶句した。

 そんな中、シンだけは一人、冷徹に品定めを進めていた。

 スザクが持つ薄暗い瞳の奥にある光。己と同じく人間を憎み、世界に絶望する者が持つその光を見て嗤い。

 唯我独尊を貫くジュリアスの姿勢には、組み易さを見出だしてほくそ笑む。

 しかし、彼は最後に訝しむ。

 己やスザクと似た絶望の瞳を持つにも関わらず、その奥にある何故か眩く輝く光を持つライを見て。

 一方の大公は愕然としていた。幻覚ではないかと。

 その為か。知らず、彼は口にしていた。

 

 「其の方、ライと言ったか。その顔は生まれついてのものか?」

 

 突然の意図不明な発言に疑問符を浮かべる一同を無視して、大公はライを注視すると静かに答えを待つ。

 

 「御身の発言の意図が分からないが」

 

 僅かに首を傾げるライを見て、大公は我に返る。

 

 「いや、詮無き事を聞いた。許されよ」

 「貴公の謝罪を受け入れよう」

 

 気を取り直した大公が短く詫びると、ライもそれを受け入れた。

 続いて大公は指先で小さくミヒャエルを招くと、腰を屈めた彼の耳元で囁いた。

 

 「あの皇子とだけ、会談の機会を持ちたい。それも早急に」

 「畏まりました」

 

 その後、ユーロ・ブリタニアの面々は延々と不忠を(あげつら)うジュリアスに渋顔を浮かべるも、沈黙を貫きそれに耐え切った。

 

    ◇

 

 その夜。

 自室に訪ねて来たミヒャエルの言葉に応じたライは一人、大公の居室に招かれていた。

 

 「長旅の疲れも癒えていないだろうに、済まないな。今一度尋ねたい事があったものでな」

 「この身はただの付属品。如何様にでもされよ」

 

 ライの同意を取り付けた大公は、鷹揚に頷くと側に控える忠臣に命じた。

 

 「ミヒャエル、席を外せ」

 「しかし!……畏まりました」

 

 有無を言わさぬ主君の眼光に、ミヒャエルは優雅に答礼すると部屋を後にする。

 扉が閉まるのを確認すると、大公は口を開いた。

 

 「最近、皇族になられたばかりと聞き及んでいるが、君のその顔は生来のものか?」

 「また、意味の分からない事を言うのだな」

 「皇族に列せられる際、顔を変えさせられ――」

 「そこまでにされよ。私の身は母から与えられたもの。それに手を入れる事などあり得ない」

 「では、生まれついてのものか」

 

 そう呟くと暫しの間、大公はライを観察し続ける。

 しかし、ライとしてはそんな視線を向けられ続けていつまでも我慢出来る筈も無い。

 彼の眉が徐々に吊り上がる。そうして、危険な角度に至ろうとしたその時、大公が動いた。

 

 「着いて参られよ」

 

 そう告げると意を決した大公は席を立つ。

 理由も告げずに一方的に求めるその姿に、ライは皇帝の姿を重ねるとともに不承不承といった態度で後に続く。

 そうして、ミヒャエルが出た扉とは別の扉に向かった大公は、壁に据え付けてあるスイッチを押す。

 程なくして、短い電子音が鳴ると扉が開く。それはエレベーターだった。

 そこに二人が乗り込むと扉が閉まり降下を始めた。

 暫しの間を置いて、再び扉が開くと歩み出る二人。

 そのエレベーターは宝物庫に直結していた。

 部屋の中は絢爛豪華な美術品の数々が、見上げる程の天井の高さまで一つ一つ丁寧に区分けされた壁に埋め込まれた強化ガラスの向こうで輝いている。

 周囲を見渡すライを余所に、しかして大公はそれを自慢するでもなく、最奥にある小さな、それでいて明らかに堅牢であることが傍目にも分かる重厚な金属の扉に向かって歩みを進める。

 やがて、そこに至った彼は指紋、虹彩の認証を経て、最後に暗証番号を打ち込むと重い起動音とともに扉が開く。

 開かれた扉の奥は小さな部屋だった。

 通ってきた宝物庫の天井と比べるまでもない。四辺5m程度の正四角形の形をしたその部屋の壁面は、一切の汚れを嫌ったかのような白で統一されている。

 しかし、その最奥。

 分厚い強化ガラスに幾重にも護られて安置されているそれを見た瞬間、ライは息を飲んだ。

 

 「本国の人間が見るのは、君で三人目だ」

 

 大公の説明に何の反応も示すことが出来ない程、ライは動揺していた。

 彼の眼前にあるもの。それは壁画だった。

 大きさは縦横ともに2m程度。

 元々は別の場所で描かれたのだろうか。

 周囲の壁と見比べるまでもなく、明らかに経年を感じさせるそこに描かれていたのは、一人の女性と儚げな容姿をした少女に挟まれた呆気(あどけ)なさを残した一人の少年の姿。

 場所は新緑映える何処かの草原。

 純白の衣服を身に纏う女性は、黒髪を風に靡かせつつも、その黒い瞳に慈愛を湛え(おとがい)に手を当てると微笑みを浮かべていた。

 一方で波打つ黒髪と薄紫の瞳を持ち、同じく純白の衣服に包まれている儚げな容姿の少女は、満面の笑みで少年の腰元に抱きついている。

 抱きつかれている少年は、戦帰りなのか。

 厳めしい戦装束に身を包むと灰銀色の髪を風に靡かせて。

 その背後には地面に突き立てられている一振りの紅色の剣が。

 しかし、その髪の間から覗く蒼い瞳は、少し困ったような、それでいて慈しむかのような視線を少女に向けると静かに微笑んでいる。

 

 「我が家に伝わる家宝だ。道すがらに見た宝物等、これの前では霞んでしまう。良い絵だと思わないか?」

 

 大公の同意を求める声にも、ライは反応を返せない。

 彼は無言のまま、その壁画の下部にある黄金色(こがねいろ)の金属板に刻まれた文字に視線を落とす。

 作者は見知った名。しかし、表題となるものは何処にも無い。

 幾分か平静さを取り戻したライは努めて冷静に口を開いた。

 

 「それは過分な物を見せてもらった。同時に、大公が疑問に思うのも無理からぬ事だという事も理解出来た。成程、私に良く似ている」

 

 声の震えは無いか、声色は平静か。

 細心の注意を払いつつ嘯いてみせたライであったが、心は未だ搔き乱されるばかり。

 

 ――ハイランドめ。これは、島の平定後か。

 

 そういえばアイツもその場に居たな、とライは嘗て己の力を最後まで使う事の無かったごく一握りの人物の内の一人の事を思い出す。

 と同時に、臣下の礼を取りつつ気さくに笑う偉丈夫の姿がライの脳裏を過ると、彼は胸の内で文句を吐きつつ思考を切り替えた。

 

 「だが、他人の空似だ。王の時代からどれ程の月日が流れたと? あり得ない話だと分かるだろう?」

 

 しかし、ライは平静さを装う事に気を取られるあまり、不用意な発言をした事に最後まで気付く事が出来なかった。

 大公の瞳が僅かに見開かれる。

 しかし、彼は敢えてその言葉を呑み込んだ。

 

 「確かに、君の言う通りだ。私も歳かな」

 

 微苦笑を浮かべると何事もなかったかのように。

 二人は暫しの間、無言でその絵を眺め続けていた。




タイトル詐欺甚だしいです。
アキト達は次話も出ません。その次も多分出ません。
ある意味、ミヒャエル無双みたいな感じになってしまいました。
次の投稿も頑張ります!
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