コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

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今回からR2に入ります。
オズもアキトも絡めていきたいと思います。
時系列については、目を瞑ってやって下さい。


【本編】コードギアス 反逆のルルーシュ L2
TURN 01 ~ 魔神が目覚める日(前編)~


 ブラックリベリオンより1年。

 トウキョウ租界では相変わらず餌の監視が続いていたが、ライは苛立つと共に珍しく戸惑いに近い感情も抱いていた。

 苛立ちの理由。

 それは黒の騎士団は未だ健在であり、活動状況についてはベアトリスより詳細な報告が入っていた。

 だが、嘗てゼロを筆頭として猛威を振るっていた頃と比べれば、それは余りにもお粗末な活動でしかない。

 だからこそ、それがライを苛立たせるのだ。

 しかし、それは黒の騎士団に対してでは無い。

 矛先は、寧ろそのお粗末な連中を一年経っても捕らえる事が出来ない軍部、主にカラレス総督に向けられていた。

 ライはそれ程短気では無いが、かといって1年も悠長に待てる性格を持ち合わせてもいないのは、欧州まで手ずから出向いた一件からも明らか。

 因みに、カラレスの統治は本国においても高い評価に分類されるものであったが、ライからすれば手緩いの一言。

 次に戸惑いの理由として、前述の通り今も騎士団の活動は続いている。

 ルルーシュ1人に対して機密情報局が敷いた監視網。

 それは幾ら不老不死のコード保持者と言えども、ライは1人で乗り込んで奪還出来る様な、そんなぞんざいなものでは無いとの認識でいる。

 ならばこそ、彼はC.C.がルルーシュを奪還する気があるのならば、何れは騎士団を動かして来るだろうと踏んでいた。

 しかし、C.C.はこの1年一度としてルルーシュ奪還に動くといった気配を見せる事は無かったのである。

 

 「そう簡単に飛び込んでくる程愚かでは無いという事か。それとも、ルルーシュに見切りを付けたか?」

 

 嚮団のメインホールで、見飽きた報告書を片手にライが誰に聞かせるでも無く一人そう呟くも、それは直ぐ傍で聞き耳を立てていた存在に否定される。

 

 「彼女がルルーシュを見捨てる事なんて無いよ」

 

 その背丈に凡そ不釣り合いな椅子に腰掛けたまま、両足をプラプラと宙に浮かしながら得意げに笑うV.V. 。

 ライはその様子を横目で見ながら、分かりきった言葉を口にする。

 

 「理由は何だ? と言っても答えないか」

 「良く分かってるじゃない。理解してくれて嬉しいよ」

 「一年も行動を共にすれば、嫌でも理解する」

 

 ライが素知らぬ顔で受け流すと、V.V.はその笑みを更に深くする。

 それを見た彼は、あの日黄昏の間で皇帝より頼まれた案件を思い出すと、僅かに心が揺らいだのを感じた。

 あの時の会話。

 それは、V.V.を監視しルルーシュ殺害に動いた場合は知らせる様にとの皇帝たっての願い事。

 だが、今のところそれは(さざなみ)程度のものでライの心を掻き乱すには至らない。

 その証拠に、ライはその事実を冷静に受け止めた後、まるでお笑い種だとばかりに打ち消してしまったからだ。

 

 「何れにしても、機情の立案待ちか」

 

 気を取り直したライは、如何なる提案が上がるのか夢想するべく、その身を深紅の玉座に深々と沈めると静かに瞳を閉じるも、それはあっさりと見開かれる事となる。 

 

 「ライが立案すればいいんじゃないの?」

 

 V.V.は体を向けると片方の肘掛けに両肘をつき、何で?といった様子で首を傾げてみせる。

 その言葉に、ライは辟易した様子で軽く頭を振ると、瞼を開きその蒼い双眸をV.V.に向けた。

 

 「では、ルルーシュを処刑するか」

 

 口ではそう言ったものの、その方法は皇帝より禁忌とされており、それに対してはライやV.V.も誓っている。

 その気は毛頭無い。少なくともライ自身には。

 では、何故そう言ったかというと皇帝の懸念が現実味を帯びてるものかどうか探る為。

 V.V.が乗って来るかどうか鎌を掛けたのだ。

 しかし、ライは少々失念していた。彼の性格を。

 

 「いけない子だね」 

 

 V.V.はふと口元に悪戯っぽい笑みを浮かべると楽しそうに咎めた。

 少々面食らったライは瞼を瞬かせると同時に、格好の餌を与えてしまった事に気付くと眉間に皺を寄せる。

 次にその顔を張り付けたまま再び深々と玉座に身を沈めると、最後に自嘲するような薄笑いを浮かべた後、今度こそ固く瞼を閉じた。

 

 ――――――――――――――――――――

 

  コードギアス 反逆のルルーシュ L2

  

  TURN01 ~ 魔神が目覚める日(前編)~

 

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 エリア11には特別な施設がある。

 そこは元々重犯罪者専用の施設だったが、一年前のあの日以降、今では黒の騎士団専用の施設となっていた。

 だが、それだけでは無い。

 以前とは違い、そこに入るには特務総督府より特別に許可を得なければ、例え総督であっても一切の例外無く門前払いされる。

 当然の如く、取り調べに際しても総督権限は及ばない。

 それは皇帝直属のとある機関が行っていた。

 そんな厳重過ぎる施設の廊下に、一人の男の声と鉄格子を蹴り付ける音が響く。

 

 「ここから出しやがれっ!! ブリキ野郎ォッ!!」

 

 叫んだ男の名は玉城真一郎。

 彼は嘗て黒の騎士団で宴会を担当した幹部だ。

 玉城は力の限り叫んだがその声は空しく響くだけ。

 しかし、看守達が咎めに来る気配は微塵も無い。

 当初は少しでも叫ぼうものなら、決まって血相を変えた看守達が飛んで来ては手痛い仕打ちを彼に見舞ったものなのだが。

 

 「畜生ッ! ゼロが居ればブリタニアなんかに!」

 

 玉城は最近さっぱり注意されなくなっていた事に安堵していた。

 その為、これ幸いとばかりに続けるが意外にもそれは身内から発せられる事となる。

 

 「アイツは裏切り者だ」

 

 凛とした女の声が辺りに響く。

 女の名は千葉凪沙。四聖剣の紅一点。

 彼女は冷めた様子でそう吐き捨てたが、それはゼロの親友を自負する玉城にとって我慢ならない言葉だった。

 

 「だからゼロは裏切ってなんかいねぇって!」

 

 咄嗟に反論すると、それに同調するかのように人当たりの良さそうな男の声が後に続く。

 

 「何か、そう…だな。きっと理由があったんだ」

 

 男の名は扇要。

 黒の騎士団にあって副指令の地位に居た男であり、玉城とは旧知の間柄。

 だが、千葉はそんな二人の言葉を鼻で笑うと白けた様子で問い返す。

 

 「理由? 最終決戦で指揮官が離脱だぞ。これを裏切りと呼ばずして何と言うんだ?」

 

 すると、今度は千葉の言葉に二人の男が賛意を示す。

 

 「俺も千葉と同意見だね。元々ゼロは信用出来なかったし」

 「同じく」

 

 憎々し気な口調を隠す素振りすら見せない男の名は朝比奈省悟。

 そして、短くはあったが渋い響きで同意した男の名は仙波崚河。共に千葉と同じ四聖剣だ。

 だが、形勢が逆転したにも関わらず玉城は尚も食い下がる。

 

 「信じねぇぞ俺ぁ! 見てろ! ゼロはいつか必ず"あいつ等"を連れて俺達を助けに来てくれるんだっ!!」

 

 玉城は自身満々に言い放ったが、千葉はそこに彼が、ライが含まれている事を感じ取った。

 それは他の者も同様だったようで、朝比奈は剣呑な表情を浮かべ、仙波は口元に悔しさを滲ませる。

 ゼロとライ。

 二人の生死について、彼等は幾度となく議論し合ってきた。

 ゼロの死については取り調べの際に告げられた。

 当初は敵の言葉など信じなかった彼らも、ブラックリベリオン以降ゼロが表舞台から姿を消してしまっている事を鑑みた時、徐々にではあるが本当ではないかと信じるようになっていった。

 一方でライに関してはブリタニアからの発表は一切無い。

 それは、当初ライの生存を願っていた者達からすれば喜ばしい事だった。

 その為、ライの生死について話し合うと決まって紛糾した。

 だが、幹部である四聖剣はあの爆発を見ている。

 見ている者達と見ていない者達。

 前者から生きていられる筈が無いと告げられてしまえば、後者は何も言えない。

 既に、彼等の中で二人の生死については一定の答えが出ていたのだ。

 しかし、それでも信じたくないといった者が居るのも事実で、受け入れている者達はそういった者達に配慮したのか、極力その話題は避けようと努め、同時に信じたくない者達も同様に語る事は控えていた。

 そういった半ば不文律のような物が出来上がっていたにも関わらず、玉城は暗にそれを犯した。

 その事に遂に我慢ならなくなった千葉は、その時初めて怒りを露にする。

 

 「だから何度言えば分かるんだ! ゼロもあいつも死ん――」

 「黙れっ!!」

 

 空気が震えた。

 言い争いを続ける彼等に対して、それまで沈黙を続けていた男が一喝したのだ。 

 男の名は藤堂鏡志朗。

 奇跡の藤堂とも呼ばれ、四聖剣を従え黒の騎士団では軍事総責任者を勤めた彼は、ブラックリベリオンにおいてはゼロに指揮を任されると最後までブリタニアに抗った。 

 結果として敗北に至ったが、それは藤堂が愚かだったからという訳ではない。

 予期していない様々な要因が重なった結果であり、この場に居る者達は皆それを理解している。

 だが、当の本人は責任を感じていた。

 そして、ライの最後を見た藤堂はこうして囚われの身となった今、散っていった仲間達の喪に服すかのように余り言葉を発する事は無くなっていた。

 その藤堂が久々に力強い言葉を発したのだ。

 玉城を初めとして皆一様に驚きにも似た表情を浮かべる。

 特に彼を(あるじ)とする四聖剣の面々の表情はどこか嬉しさも含んでいるよう。

 だが、藤堂は突然大声を発した事を恥じたようだ。

 

 「済まん。だが、ゼロも彼も死んだんだ」

 

 藤堂は短く謝罪した後、一転して静かな口調でそう告げるとそれっきり押し黙ってしまう。

 その言葉を独房の壁に凭れ掛かりながら聞いていた扇は、天井を見上げると蚊の鳴くような声で自身の思いを吐露する。

 

 「本当にそうなのか? ライ……」

 

 その問い掛けは虚空に消えていった。

 彼等の元にその答えが返って来るのは、まだ先の話。

 

    ◇

 

 「またあのイレブンが暴れています!!」

 

 玉城が鉄格子を蹴り付けた時、それを別室でモニター越しに聞いていた新人看守は、すぐ傍で雑誌を読んでいる先任看守に対して鼻息荒く話しを振った。

 が、振られた彼は飽き飽きした様子でこの使命感に溢れた新人を窘める。

 

 「放っとけ、いつもの事だ。って事はもうすぐ昼か」

 

 そう言うと、雑誌を閉じた彼は昼飯のメニューを調べ始める。

 ここに配属された当初は、彼も新人と同じく使命感に溢れていた。

 だが、今となっては半ば諦めていたのだ。幾ら痛めつけようとも全く懲りない玉城に。

 最も、彼にも矜持は有る。

 目の前で喚こうものならそれなりの態度で臨む気はあるのだが、以前のように飛んで行く程の情熱はとうの昔に失せていた。

 

 「良いんですか?」

 

 訝しむ新人を余所に、彼は淡々とした口調で語る。

 

 「良いんだよ。注意しに行っても無駄だ。幾ら言っても聞きやしない。いちいち構ってたらそのうち私刑にしたくなるぞ」

 

 それは彼の経験から来る忠告であった。

 ついでに言えば、前述の通り総督でさえも許可無しには立ち入る事が許されない場で、一看守に団員達を私刑に出来る権限などある筈も無い。

 そう言った後、彼は愉快げに口元をつり上げると未だ怪訝な表情を崩そうとしない新人に問い掛ける。

 

 「それにだ。お前もここに配属されたって事は、アレを見たんだろ?」

 

 その言葉に、新人は思わず顔を顰める。

 ここに配属が決まった者は、団員を殺さぬようにと決まってある者から忠告を受けるからだ。

 銀色のゼロに酷似した仮面を被る男、機密情報局長官、カリグラに。

 新人も例に漏れず、その洗礼を受けていた。

 

 「ええ、まぁ……」

 「どうだったよ?」

 

 彼が楽しげな表情のまま更に問うと、モニター越しではあったがその男から感じた雰囲気を思い出した新人は、身体を僅かに震わせると素直な感想を口にする。

 

 「寒気がしました」

 

 その答えが気に入った彼は、そうだろうとでも言いたげに頷く。

 だが、その仕草が気になった新人は真剣な面持ちで問い掛けた。

 

 「あの男について何か知ってるんですか?」

 「知ってるって程じゃない。名前の通りヤバい存在って事ぐらいだ」

 「カリグラの名前がそれ程危険なのですか?」

 

 不思議に思った新人は首を傾げながらも更に問う。

 すると、それを聞いた彼は拍子抜けしたかのような表情を浮かべた。

 

 「お前、何も知らないのか? カリグラって言えば、帝国最初の暴君の名前だぞ?」

 

 その言葉を新人は心底怪しんだ。

 彼もブリタニア人である。当然自国の歴史については知っていた。

 だが、そんな名前の皇帝など聞いた事も無かったからだ。

 

 「聞き覚えが無いんですが」

 「あぁ、違う違う。我が麗しの帝国じゃない。古代ローマの皇帝の名前だ」

 

 新人の勘違いに気付いた彼は、そう前置きするとその皇帝の所業を話し始めた。

 やがて講義の時間が終わると、大人しく聞いていた新人に忠告する。

 

 「仮にだ。あのイレブンの学習能力の無さに耐えきれず、怒りに任せて私刑にでもしたとしようか。次は間違いなくお前だぞ? イレブン相手にそいつは釣り合いが取れないってもんだ」

 「その皇帝とあの男は違います。本当にそんな事をするとは思えません」

 

 未だに疑念を払拭出来ないのか、新人は頑なな態度を崩さない。

 すると、彼はその時になって初めて真剣な面持ちを作ると静かに語り始めた。

 

 「これは余り言いたくなかったんだが……お前の前任、優秀で使命感に溢れてたばっかりに、あの男に文句言った3時間後に異動になった。で、それ以来連絡が取れない」

 

 その言葉に新人は心底驚いた様子で瞳を瞬かせるが、彼は真剣な表情を崩す事無く尚も語る。ここで言い聞かせておかないと危険だと感じたからだ。

 

 「それに、お前も寒気を感じたと言っただろ?」

 「それは……そうですが」

 「俺もそうだった。だから俺は自分の直感を信じる事にしたんだよ」

 

 彼からの指摘が余程説得力的を持っていたのか、新人はもう何も言わなかった。

 彼は最後にこの血気盛んな新人に釘を刺すかのように告げる。

 

 「分かったろう? ここでも機情は目を光らせてるんだ。俺達はあいつらが逃げないように監視してるだけでいいんだよ」

 

 そう言った後普段通りの表情に戻った彼は、新人の肩を軽く叩くと再び昼食のメニューを調べる作業に戻っていった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

 この1年、監視を初めて以降、ルルーシュの周辺に何の波風も立たなかった事に対して、機情の長カリグラは昨日より一計を案じるように実働部隊であるカルタゴ隊に指示を下していた。

 そして今日、それを聞いたカリグラは呟くように部下からの案を反芻する。

 

 『租界外縁部ニ出ス、カ……』

 

 部屋の空気が緊張感を持つ。

 モニター越しではあるが変声機を通して語られるカリグラの声色は一切の抑揚が無く、それは不気味の一言に尽きる。

 だが、隊長を勤める男爵は静かに付け加えた。

 

 「はい。現時点で喰い付く可能性は最も高いかと」

 『確カニ、ナ』

 

 カリグラの肯定。

 それは月に一度お目にかかれるかどうかも分からない程珍しいもの。

 気を良くした男爵は、胡麻を擂るような雰囲気を醸し出す。

 

 「では、お任せ頂けますか?」

 『ダガ、コレハ"リスク"ヲ背負ウ事ニナル。貴様ハソレヲ理解シテイルカ?』

 

 カリグラの問い掛けは当然だった。

 機情の包囲網は学園周辺に限定されており、租界外縁まではカバー出来ていなかったからだ。

 だが、驚くべき事に男爵はカリグラの問いに対して敢えて沈黙をもって答えとした。

 その意味を理解したカリグラは暫しの間押し黙った後、突如として笑い出す。

 

 『クハハハハッ!! 良イダロウ、陛下ニハ私カラオ伝エスル』

 

 カリグラの笑い声を聞いた隊員達は一瞬後ずさったが、一人それを耐えた男爵はここぞとばかりに願う。

 

 「その際には是非!!」

 『分カッテイル。貴様ノ発案トイウ事ハ』

 「有難うございます」

 

 そう言うと男爵は下卑た笑みを浮かべた後、恭しく頭を垂れる。

 

 『ダガ忘レルナ。万ガ一仕留メ損ナッタ場合ハ、ソノ身ヲ以テ償ワセル。餌ヲ誤ッテ害シタ場合モ同様ダ』

 

 男爵の笑みをカリグラは咎める事はしなかったが、最後にそう釘を刺すと一方的に通信は切られた。

 同時に辺りに漂っていた緊張感も霧散すると、副官の男が男爵に詰め寄る。

 

 「よろしかったのですか? 万が一にも失敗すれば我々は……」

 「仕留め損なわなければ良いだけだ」

 「ですが……」

 

 男爵は特に気にした様子も無くあっさりと言い切るも、尚も不安げな表情でいる副官に対して、彼は胸の内を晒す。

 

 「お前の懸念は分かっているつもりだ。だが、そもそも陛下のご裁可が下るかどうかも分からん。それまではこの話に意味は無い」

 「それはまぁ、そうですが」

 

 副官が理解を示した事に対して、男爵は安心させるかのように語る。

 

 「陛下もお忙しい身だ。どうなるか分かるまでは今暫く時間が――」

 「通信です」

 

 突然言葉を遮られた事に対して、瞳を細める男爵に代わって副官がそれを代弁した。

 

 「誰からだ?」

 

 問われた通信担当の隊員は、コンソールに表示された発信者の名前に首を傾げた。

 

 「カリグラ卿からですが……」

 

 それを受けて思わず男爵も首を傾げる。

 

 「何か伝え忘れた事でもあったというのか? まあいい。出せ」

 

 隊員がその言葉に従ってパネルを操作すると、モニターに再び銀色の仮面が映った。

 何事かと口を開こうとする男爵よりも早くカリグラが動く。

 

 「陛下ヨリ裁可ガ下ッタ」

 

 それを聞いた一同は心底驚くと同時に疑念を持った。

 しかし、それは次に送られてきた皇帝印可が押された電子書面を目の当たりにするや氷解すると同時に、こうも容易く皇帝より許可を取り付けた上司の権力の大きさにただただ唖然とするばかり。

 だが、そんな部下達を余所に、この男に付いて行けば更に出世出来る、と皮算用に余念が無い男爵は静かに続きを待った。

 

 「作戦決行日ハ2週間後ノ正午トスル。準備ト平行シテ此レヨリ情報ヲ流セ。餌ノ誘導ハ"アノ者"ニ行ワセル」

 

 矢継ぎ早に指示を出すカリグラに対して、素早く日時を確認した副官は慌てた。

 

 「お、恐れながら申し上げます。その日はカラレス総督が中華連邦の大使と会食する日となっており、同日の作戦となると――」

 「ソレガドウシタ?」

 

 カリグラが言葉を遮った時、周囲に緊張が走った。

 モニター越しに伝わって来た雰囲気は明確な怒りを孕んでいたからだ。

 更には、抑揚の無い機会音声がそれを増幅させる。

 だが、理由を問われたからには答えなければならない。

 副官は背筋を流れる冷たい汗を感じつつも、何とか言葉を絞り出す。

 

 「で、ですから、その日時に作戦を行うとなると、万が一にも食いついて来た場合、無用の混乱を――」

 「アノ男ノ面子ナド無視シロ」

 「は?」

 

 一瞬、緊張を忘れた副官は惚けた表情を浮かべるが、カリグラは特に気にした様子も無い。

 

 「"カラレス"ナド、未ダニ残党ヲ捕ラエル事ガ出来ヌ無能者ダ。何故、私ガソノヨウナ者ノ体面ヲ気遣ワネバナラナイ?」

 

 仮にも総督という地位に居るばかりか、本国においてはそれなりの評価を得ているカラレスを無能者と断じたカリグラ。それを聞いた隊員達は皆言葉を失ったが――。

 

 「Yes, My Lord!」

 

 たった一人、口元にあの笑みを浮かべた男爵が明瞭に返答すると、我に返った隊員達は皆それに習う。 

 それを聞いたカリグラは、部下の前に餌を釣り下げた。

 

 「陛下ノオ言葉ヲ伝エル。成功スレバ地位モ名誉モ思ウガママダソウダ。命ヲ掛ケルニハ十分ダナ」

 

 そう言い終わると、また一方的に通信は切られた。

 

    ◇ ◇ ◇

 

 私立アッシュフォード学園。

 そのクラブハウスの一室で、今宵もまた楽しげな兄弟の声が響く。

 

 「兄さん。そろそろ寝た方がいいんじゃない? 明日の授業に差し支えるよ?」

 

 淡い栗色の髪をした少年、ロロは気付かれぬよう机に置いてある携帯を一瞥するも、それを目敏くも見逃さなかった漆黒の髪を持つ青年、ルルーシュは悪戯っぽい笑みを向けながら優しく返す。

 

 「水臭いじゃないか、ロロ。恋人でも出来たのか?」

 「そ、そんな人居る訳無いじゃない!」

 「ムキになるなよ。冗談さ」

 

 からかわれているのは分かっていたが突然の問いであったが為、ロロが慌てて否定するとその様子が余程面白かったのか。

 悪戯っぽい含み笑いを浮かべたルルーシュ。

 彼は少し臍を曲げた様子でいるロロの頭を軽く撫でた。

 

 「分かってるさ。それじゃあ、俺もそろそろ寝るかな」

 

 撫でられた事で少し機嫌を良くしたロロではあったが、あくまでも確約を取り付けようと縋る。

 

 「明日はちゃんとヴィレッタ先生の授業に出てね」

 「やっぱりか。先生に言われたんだな? まぁ善処するよ」

 「サボる気だね?」

 

 ジト目で抗議するロロに分が悪いと悟ったのか、ルルーシュは慌てた様子で撤退を開始した。

 

 「あっ! 兄さん!」

 

 ロロからの静止にルルーシュはドアの前で立ち止まると静かに振り向き、最後に温和な口調で告げた。

 

 「また明日な。お休み、ロロ」

 「はい、お休み…なさい」

 

 その声が余りにも優しくて、ロロは思わずルルーシュから確約を取り付けるという事を忘れてしまった。

 やがてドアが閉まるとロロは軽く息を吐いた。

 傍目には先程の会話は実に他愛も無いものに映るかもしれない。

 だが、それはロロに暖かい気持ちを抱かせるには十分なもの。

 暫しの間、ロロは僅かに頬を緩ませるとそれに浸る。

 しかし、長くは続かない。

 携帯が震える音と共に、ロロの心からそれは消える。

 そうして、彼はそれまでの表情から一変して暗殺者のそれになる。

 

 『私だ。本日の報告を聞こう』

 

 携帯口から聞こえたのは自身に名を与えてくれたライの声。

 だが、それはルルーシュのものとは違い何の温かみも何も無い凍てついたものだった。

 昔のロロであれば特に気にもしなかっただろうが、今の彼はそれが酷く冷たいものだという事を感じ取れるまでに成長していた。

 だが、それでもロロにとってライが大切な存在である事に変わりは無い。

 ロロはたった今感じた思いを振り払うと、努めて平静に応じた後、最後に昼間、ヴィレッタより告げられた近々行われる作戦についての概要を説明した。

 

 『そうか、では何があってもお前はその日ルルーシュの傍を離れるな。C.C.が現れるとしたらその時をおいて他に無い』

 

 ロロからの報告を受けたライは、僅かに笑いを含んだ口調で告げた。

 それを少し不思議に思ったロロではあったが、敢えて尋ねる事はしなかった。

 

 「はい、兄さ…いえ、ルルーシュを盾にしてでもC.C.を仕留めます」

 『そうだ。殺す事は不可能だが一時的に活動を止める事は可能だ。その後は速やかに拘束しろ』

 

 再度、はい、とロロは力強く答える一方で、彼は一つの疑問を口にする。

 

 「ですが、カルタゴ隊が先に仕留めた場合は?」

 『連中はC.C.が不死だという事までは知らない。元々、学園に騎士団が乗り込んで来た時の事を考えての実働部隊だからな』

 

 余談だが、従来の想定ではナイトメア部隊までもを配置する予定は無かったのだが、監視が始まる前に学園で起きた一騒動。

 ルルーシュの妹役兼監視役として一足早く嚮団より学園に配置されていた【コードネーム】クララことクララ・ランペルージが紛れ込んだテロリスト(オルフェウス・ジヴォン)により殺された事件を切っ掛けに、当初、ルルーシュの同級生兼友人役として配置が予定されていたロロの配役と併せて、V.V.より修正案が提示されると、ライが余計な連中がこれ以上入り込まないように監視網に添削を行う事で、現在、学園は鳥籠と言うよりはその道の人間からすれば、思わず二の足を踏むような堅牢な要塞に様変わりしていたりする。

 ライはそう前置きをした後、今度は傍目にも明らかに笑っていると分かる口調で告げた。

 

 『殺害後は速やかに遺体を拘束する手筈になっているのは覚えているだろう? 引き取るのは欧州と同じくお前の役目だ、ロロ』

 「分かりました」

 

 ライが楽しんでいる。

 言葉の端々からそれを感じ取り嬉しく思ったロロは、願わくばライからもとの思いを胸に口を開くも、それは叶わない。

 

 「それでは――」

 『期待している。では』

 

 ライが通話を切ろうとしているのを感じ取ったロロは思わず声を荒げた。

 

 「あ、あのっ!」

 

 だが、ロロの静止を待たずしてライからの通信は切れてしまう。

 

 「お休みなさい、陛下……」

 

 ロロは哀愁の面持ちを浮かべると、携帯口に向かって届く事の無い言葉を溢した。

 

    ◇ ◇ ◇

 

 「10日後にルルーシュを奪還する」

 

 C.C.の言葉を聞いたカレンは、逸る気持ちを抑えると努めて平静を装う。

 

 「やっと動く訳ね。待ちくたびれたわよ」

 

 しかし、魔女に隠し切れる筈も無い。

 何処となく上擦っていたその声色を見逃す筈も無いC.C.が、その口元に獲物を見つけたかのような笑みを浮かべると、カレンはばつの悪そうな顔をする。

 

 「で、でも10日後は急過ぎない? 準備は間に合うの?」

 「死ぬ気でやれば、どうとでもなる」

 

 あっさりと言い切ったC.C.にカレンは内心呆れながらも、それとは別に危惧している思いを口にした。

 

 「けど、学園に乗り込むんでしょ? それなりの準備は必要じゃないかしら?」

 

 そう、学園には生徒会で一緒だった仲間が居るのだ。

 カレンは一年前のあの日のように、また彼等を巻き込んでしまうという事を恐れていた。

 あの時はゼロの命であったから従ったのであって、C.C.相手なら遠慮する気はカレンには毛頭無い。

 何よりもライが大切にした仲間達でもある。出来る事ならそれだけは避けたかったのだ。

 だが、そんな彼女の心情を知ってか知らずか、C.C.は再び否定する。

 

 「残念ながら学園では無い。そもそも、あんな所には行きたいとも思わない。蟻一匹入り込む事が出来ないからな。全く、あの監視網を敷いた奴は相当な完璧主義者か、性根がひねくれてるのどちらかだな」

 

 彼女もどちらかと言えば後者に分類されるのだが、カレンは敢えてその言葉を飲み込んだ。

 そう、機情が学園に敷いている監視網は厳重過ぎたのだ。魔女と自負する彼女を以てしても思わず舌を巻く程の。

 悪態を吐き終えたC.C.は、眉間に皺を寄せながら一枚の写真をカレンに手渡す。

 無言でそれを受け取ったカレンは首を傾げた。

 

 「何処よ、ここ」

 「新しく出来たビルでバベルタワーという。カジノやその他娯楽施設が入ってるそうだ」

 

 それを聞いたカレンの目が細まる。それは明らかに全てを理解している瞳。

 

 「カジノってまさか――」

 「ご明察。賭けチェスにでも行くのだろうさ」

 

 C.C.は飄々とした口調で返すが、それは火に油を注ぐ結果にしかならない。

 

 「あんの男はっ!! 私達の今の境遇も知らずに優雅にチェス!? 何様のつもりよっ!!」

 

 カレンは机を叩くと勢いよく立ち上がった。

 が、C.C.はそんな彼女に対してあくまでも冷静に事実を告げる。

 

 「仕方がないだろう? 記憶を失ってるアイツに何を求めるんだ?」

 「分かってるわよ。でも……何か許せないのよ」

 

 その言葉に少し冷静さを取り戻したのか、カレンは己の短慮を渋々認めると再びソファーに腰掛けた。

 

 「なら、それは再会した時にでもぶつけてやれ」

 

 代わりとばかりに今度はC.C.が苦笑を浮かべて席を立つと、不思議に思ったカレンが問う。

 

 「何処に行くの?」

 「他の連中にもこの事を伝えに行く。特に、卜部には死に物狂いで準備してもらう」

 

 C.C.が嗜虐的な笑みを見せると、彼女の言わんとしている事に気付いたカレンも同じく笑う。

 

 「そうね。これまでの失態を取り返してもらわないとね」

 

 そして二人は最後にもう一度ニヤリと笑った。

 

    ◇

 

 C.C.が去り、一人部屋に残ったカレンは先ほどの会話を思い出していた。

 やがて、自分が自然と笑みを零している事に気付いた彼女は少しだけ悲哀の色をその瞳に滲ませる。

 

 「ねぇ、ライ。ルルーシュは変わって無いわよ。ほんと、相変わらずだわ」

 

 居なくなってしまったライに対して柔らかく、そして囁くように告げると祈るように両手を胸元に持っていく。

 そして瞳を閉じた彼女は眉間に皺を寄せると一転して真剣な面持ちでそっと指輪をなぞりながら、ライに届けと言わんばかりに願う。

 

 「お願い、ライ。私達に力を貸して」

 

 そう呟いたカレンは口元を真一文字に結ぶと、卜部達が迎えに来るまでの間、静かに祈り続けた。

 

 だが、彼女はまだ知らない。

 いや、仲間の誰もが知らないのだ。ライが生きているという事を。

 そして、ルルーシュとは違い記憶を失ったライが変わり果てた姿で自分達を待ち構えているという事を。




カリグラのセリフ、カタカナ表記で読み辛いでしょうが、そうしているのには理由があります。
どうかご容赦下さいませ。

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