コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

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TURN 02 ~ 逆襲の処刑台(後編) ~

 ショッピングモールにて。

 ヴィレッタの誕生日が近い事もあり、プレゼント選びに(かこ)つけて、シャーリーはルルーシュとのデートに興じていた。

 そんな二人をミレイ達と共に尾行していたロロは、突然起きたパニックにより又してもルルーシュを見失ってしまう。

 前回の二の舞だけは何としてでも避けたかったロロは、即座に機情と連絡を試みるも不通。

 何か良からぬ事が起きているのではと、胸の騒めきを抑え込みながら、彼は状況を確認するべく機情の地下施設に向けて全力で駆ける。

 だが、やっとの思いで辿り着いた彼が見たのは無人の施設。

 

 「……誰も……居ない?」

 

 困惑しながらロロが歩みを進めると、突然背後から声を掛けられた。

 

 「C.C.を探しに行ったんだよ」

 

 足を止めたロロは、ゆっくりと顔だけを動かし背後を見やると自身に銃を突き付けている存在、ルルーシュに対して告げた。

 

 「やっぱり記憶が……」

 「あぁ。尾行者を俺の支配下に置いた。あの男爵が言っていたとおり、お前達にとってC.C.の捕獲は最優先らしいな。例え間違った情報でも、確認しなければならないのだから」

 

 ルルーシュは嘲笑う。

 しかし、ロロも内心で冷笑を浮かべると、次の瞬間ギアスを発動させた。

 訪れる王の時間。ルルーシュの動きが止まる。

 ロロは慣れた手つきでルルーシュから銃を奪うと悠々とした足取りで背後に回る。

 そして、ルルーシュの頭部に狙いを定めた時、王の時間は終わりを告げた。

 

 「なっ!?」

 

 突如として眼前からロロが消えた事に一瞬ルルーシュは困惑したが、続いて後頭部に冷たい感触を感じた時、ギアスを使われたのだと瞬時に理解した。

 

 「…………時を止める能力、か」

 

 確認するかのように吐き捨てるルルーシュだったが、ロロに自身のギアスの効果を教える気など更々無い。

 代わりに、ロロは死に逝く者への最後の手向けとでも言わんばかりに語る。瞳を暗殺者のそれにして。

 

 「答える必要を認めません。僕に与えられた指令は2つ。一つはC.C.の捕縛。そしてもう一つは、ルルーシュ・ランペルージの記憶が戻ったなら、ゼロが復活したのなら、抹殺する」

 「16…17…18…19…」

 「何です? その数字は?」

 

 ルルーシュの生殺与奪はロロが握っている。にも関わらず、ルルーシュは当然意味不明な数字を読み上げ出した。

 それに対して怪訝な表情でロロが問うと、ルルーシュが語った言葉はロロのギアスの効果そのものであった。

 ロロは短時間で見抜かれた事に瞳を見開くも、絶対的な優位性を信じて疑わない。

 

 「今更分かったところで、何が出来ると言うんです?」

 

 皮肉めいたその言葉に仮説を確証へと昇華させたルルーシュは、ゆっくりと振り向くと行動を開始した。

 

 「ロロ、お前が直ぐに俺を殺さないのは分かっているからだろう? このままでは2つとも手に入らないと」

 「2つ?」

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかったロロだったが、2つの内の一つについては直ぐに理解した。

 しかし、もう一つは皆目見当が付かなかった。

 ロロが視線で続きを促すと、それを認めたルルーシュが語る。

 

 「1つは、この俺を餌に探していたC.C.――」

 「それは分かります。もう一つは?」

 「お前の命」

 「僕の?」

 

 答えを聞いたロロは僅かに眉を顰めた。それに手応えを感じたルルーシュは、慎重に言葉を選ぶ。 

 

 「ロロ、未来が欲しくないか?」

 「未来……」

 

 その瞬間、それまで殆どと言っていい程、鉄面皮を貫いてきたロロの表情に明らかな変化が現れた。

 唇を噛みしめてジッと哀しみに耐えるかのような表情。

 それを動揺と捉えたルルーシュは内心ほくそ笑む。

 

 「そう、未来だ。希望と言い変えてもいい。お前の任務の先に希望はあるのか? C.C.を捕縛した後、お前にはどんな未来が開ける? 今のままだ。何も――」

 「フッ、フフフフ……」

 

 だが、ロロは突如として俯きがちに笑い出した。

 ロロの豹変。その予想だにしていなかった反応にルルーシュは少々面食らった。

 

 「何が可笑しい?」

 

 瞬間、ロロは勢い良く顔を上げたかと思うとあらん限りの声で叫んだ。

 

 「C.C.を捕らえれば、未来は繋がるんだっ!!」

 

 先程までとは打って変わって、ロロは平静さを失っていた。目尻にはうっすらと涙さえ浮かべて。

 それは紛れもないロロの本心。

 あの日以来、ロロはライに見限られたと思っていた。

 とはいえ、未だC.C.捕縛という使命まで失った訳では無い。だからこその慟哭。

 

 「今は、今は駄目でも捕らえたらきっと……また、あの人と……!! 褒めて貰うんだ!!」

 「あの人? 待て、誰だそれは?」

 

 感情的になった事で余計な事まで口走ってしまった事に、ルルーシュの問い掛けで我に返ったロロは一転して冷え切った瞳を向けた。

 

 「……僕とした事が……少し話し過ぎました。ルルーシュ、その悪魔の瞳と伴に……死ね」

 「C.C.を捕らえたいんじゃないのかっ!?」

 

 明瞭な殺意に当てられて、焦ったルルーシュが咄嗟に言葉を紡ぐ。しかし、それが彼の命を救う事となった。

 ロロの片眉が跳ね上がりトリガーを引く指が止まる。それを見逃すルルーシュでは無い。

 ロロの言うあの人が誰を指しているのか。今のルルーシュは知る由もない。

 しかし、ロロの心に深く入り込んでいる人物だということは容易に想像出来た。

 そして、先程の半泣きとも言えるロロの表情を見て、両者の間に何らかのトラブルがあったと想定したルルーシュは餌をちらつかせる。

 

 「見逃してくれたら、C.C.を引き摺り出してやる」

 「売るんですか?」

 

 努めて平静に言ってはみたものの、ロロの心は揺れ動いていた。

 C.C.を捕らえる事が出来れば、それがきっと再び自分とライの架け橋になるとロロは信じていた。

 それこそが先程ルルーシュが言ったロロの未来に他ならない。

 一方で、ルルーシュは穏和な口調で説得を試みる。

 

 「誰でも自分の命が一番大事だろう?」

 「本当、でしょうね?」

 

 未だ警戒の念を湛えた瞳でロロが問う。

 対して、ルルーシュは普段のように優しさを湛えた瞳を向けた。

 

 「あぁ、明日俺がC.C.を引き摺り出してやれば、お前は未来を掴める。約束するよ」

 「約……束……」

 「あぁ、大丈夫さ。お前に嘘は吐かないよ。お前にだけは……」

 

 その表情を認めたロロは、依然として警戒の念を解くこと無く暫しの間、思慮に耽る。

 しかし、どれ程考えても最良の答えは同じ。取るべき手段は一つしか無かった。

 今はもう、ルルーシュの言葉を信じるしか無かったのだ。

 それに、もし仮に嘘だったとしたならば、憂さ晴らしの意味も込めてV.V.から言われた使命を果たすだけ。

 その後で時間は掛かるがC.C.を探せばいい。

 その考えに到ったロロは、小さく頷くと銃口を降ろした。

 しかし、本来ならば魔人の言葉など聞くべきでは無いのだが、今のロロにそれが出来る筈も無い。

 知らず知らずの内に魔の手がその身に迫っている事に、ロロは気付けないでいた。

 

―――――――――――――――――

 

 コードギアス 反逆のルルーシュ L2  

 ~ TURN02 逆襲の処刑台(後編)~

 

―――――――――――――――――

 

 時計が夜中の24時を回った頃、機情の地下施設では定時連絡が行われていた。

 

 「最新の動きとして、総領事館で小規模な爆発がありました。公式発表は未だ為されてはおりません」

 『ソチラハ"ギルフォード"ニ任セテオケ。ソレデ、ソノC.C.ヲ見タトイウ隊員ノ証言ニツイテハ?』

 「はい。それに基づき探してはみましたが、その……申し訳ありません」

 

 ヴィレッタは頭を垂れた。

 

 『ソノ時ノ"ルルーシュ"ノ状況ハ?』

 「ロロが尾行していましたが、これといって不審な点は無かったと」

 『ソウカ。今度ハ見失ナワナカッタカ』

 

 面を上げたヴィレッタが見たのは、僅かに肩を揺らすカリグラの姿。

 彼女は驚きのあまり思わず瞳を見開いたが無理もない事。

 カリグラに仕えて一年近くになるが、彼が喜ぶ様子など初めて見たからだ。

 

 『"ロロ"モヤレバ出来ルトイウ事ダナ』

 

 すると、カリグラが珍しく誉めた事が影響したのか。

 彼女の隣に控えた男。とある理由でロロの存在が耐えきれなくなっていた一人の隊員が身を乗り出した。

 

 「カリグラ卿。上申のご許可を!」

 「控えないか」

 

 ヴィレッタは押し留めようと隊員の肩に手を伸ばす。

 理由は二つある。

 一つは、彼女なりの部下への気遣い。

 如何にカリグラの機嫌が良いとはいえ、万が一下手な事を言えば部下の身に危険が及ぶ可能性が十二分に考えられるからだ。

 二つ目は、普段カリグラはヴィレッタ以外の部下の上申を許す事は無いからだ。

 だが、前述の通り機嫌が良かった事が影響したのだろう。彼は珍しくそれを許した。

 

 『構ワナイ。何ダ?』

 

 許しを得た隊員は、悲しみを宿した瞳を向けると言った。

 

 「ブルーノが、殺されました」

 『ブルーノ?』

 

 しかし、その名を聞いたカリグラはあろうことか首を傾げてみせた。

 まるで、それは誰だ? とでも言わんばかりのその態度に、隊員達は思わず絶句した。

 一方、カリグラはそんな彼等の様子さえもお構い無しといった態度で、暫しの間考え込む素振りを見せる。

 やがて、漸く思い出したようで僅かに頷くと問い掛けた。

 

 『アノ男カ。誰ニ殺サレタ?』

 「あ、あのガキです! 彼奴がブルーノを……」

 

 我に返った隊員は憎々しげに答えるが、返って来たのは非情な言葉だった。

 

 『ソウカ。デハ、代ワリヲ送ル』

 「それだけ……ですか?」

 『他ニ何カアルノカ?』

 

 カリグラは再び首を傾げると、今度こそ皆目検討がつかないといった様子で一向に語ろうとしない。

 業を煮やした隊員は思わず声を荒げる。

 

 「これで5人目なんですよっ!?」

 

 が、既にその怒りがロロでは無くカリグラ向けられている事は誰が見ても明らかだった。

 咄嗟に限界だと悟ったヴィレッタが割って入る。

 

 「いい加減にしないか! その態度は上官反抗罪に当たるぞ!」

 

 その指摘にハッとなった隊員だったが、尚も諦めきれないようで悔しさを滲ませながら呟いた。

 

 「仲間を殺す死神と、チームは組めません」

 

 ―― 死神 ――

 

 正にロロに打ってつけの二つ名と言えた。

 前述の通り、ロロはこれで5人殺した。

 しかし、ロロとしてはギアスを知られた可能性がある場合は消せというライの命に従い、忠実に実行したに過ぎない。

 確かに、中にはロケットに触ったというだけで殺された不憫な者も居るにはいた。

 だが、そもそも彼等は訴えるべき相手を間違えていた。いや、正確には知らなかった。

 モニターに映る銀色の仮面。

 その下に在る素顔の持ち主こそ死神の主、ライなのだと言う事を。

 

 『何ヲ言イ出スカト思エバ、仲間ダト? 下ラナイ』

 

 当然の如くカリグラは吐き捨てる。

 すると、今度は余りにも非情なその言葉に堪り兼ねたのか、彼とブルーノの仲を知っていたヴィレッタが口を開く。

 

 「カリグラ卿、それは――」

 『黙レ』

 

 だが、一喝されてしまった。

 そしてモニター越しに滲み出る得も言われぬ覇気に気圧された彼女は、声を失ったかのように押し黙らされてしまう。

 

 『何レニセヨ、数ガ減ッタノデアレバ補充スル。以上ダ』

 

 話は終わりだと言わんばかりに告げると、彼は一方的に通信を切った。

 

 ◇

 

 通信を切ったライが仮面を外した時、嚮団のメインホールに幼い少年の声が響いた。

 

 「どうだったの?」

 

 ライが無言のまま声がした方向へ視線を向けると、不意に柱の影が揺らいで声の主が姿を現した。

 その姿を認めたライが問う。

 

 「V.V.、何処に行っていた?」

 「ちょっと良い所にね。君にも何れ見て貰おうと思ってるけど」

 

 V.V.は楽しそうにクスクスと笑いながら歩み寄ると、怪訝な表情を浮かべているライを他所に彼の右隣に据えられた玉座に腰掛けた。

 

 「それにしても、本当に相変わらずだね」

 

 先程の会話を聞いていたのか。

 陰惨な笑みを浮かべるV.V.に対して、ライは乱れた髪を手櫛で整えながら口を開く。

 

 「盤上の駒に仲間意識など必要無い」

 

 そう言って、まるで路傍の石でも見るかのような表情を浮かべてみせた。

 それが気に入ったのか、V.V.が笑みを一層深くしていると――。

 

 「王様! どうぞっ!」

 

 快活な声と共に一人の少女が紅茶を運んで来た。

 ライは僅かに口元を緩めながら受け取ると、普段の様に香りを楽しむとゆっくりとした仕草で飲み始める。

 一方で運んで来た少女は階段下に居る仲間の元に戻ると、共に惚けた表情を浮かべながらライの姿を見上げた。

やがて、ライが飲み終わったのを見計らったV.V.が問い掛ける。

 

 「結局のところ、C.C.は見つからなかったの?」

 「あぁ」

 「随分と落ち着いてるね。本当に居た可能性もあるかもしれないのにさ」

 「痕跡は何処にも無かった。そもそも、見たという証言だけでは信憑性に欠ける」

 「そっか……」

 

 V.V.は僅かに肩を落とすも、それは一瞬の事。

 

 「そういえば、総領事館で爆発があったって?」

 「公式発表は未だ無い。原因は目下調査中だ」

 「調査中? 盗聴中の間違いじゃないの?」

 

 笑いを湛えながら問うV.V.に対して、ライは僅かに口元を釣り上げるだけで何も答えない。

 だが、V.V.はそれを見逃さなかった。

 

 「ライ、まさか君がやったの?」

 

 V.V.が疑うかのような視線を投げ掛けると、突然被疑者扱いされたにも関わらずライは一笑してみせる。

 

 「ハッ! 馬鹿な事を。見ろ」

 

 ライは慣れた手つきでパネルを操作すると、モニターには爆発直後の総領事館の画像が映し出された。

 

 「私なら総領事館を消し飛ばす」

 「そんな事したら――」

 「C.C.はお前と同じく不死」

 

 その問いにV.V.の瞳が理解の色を覗かせると、ライは三日月を浮かべた。

 

 「瓦礫の中から捜せばいい」

 「犠牲が出れば、中華連邦本国も黙ってないんじゃない?」

 「名目上は災害救助とする」

 「それでも疑われたら?」

 「ゼロのせいにでもしておけばいい」

 「……君じゃない事は分かったよ」

 

 V.V.は矢次早やに問い掛けたが、返答は流暢なもの。

 その為、疑念が払拭されたV.V.はそう言ったのだが、逆にライは柳眉を顰めると、不思議に思ったV.V.が問い掛ける。

 

 「どうしたの?」

 「妙に素直だな」

 「妙に説得力があるからね」

 

 屈託無く笑うV.V.に対して、ライは鼻を鳴らすと話題を変えた。

 

「何はともあれ明日だ。さて、私は先に休ませてもらうか」

 

 そして、未だ階段下に居る子供達に対して、お前達も早く寝ろ、と告げると、ライは悠々とした足取りでその場を後にする。

 V.V.はそんな彼の後ろ姿を無言で見送った。

 やがて日は昇り……遂にその日はやって来た。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 「イレブン達よ、時間だ。お前達が信じたゼロは現れなかった。全てはまやかし。奴は、勝負から逃げた惰弱者だ。……構えっ!」

 

 ギルフォードの指示の元、銃口が藤堂達に照準を合わせる。彼等の命は今正に風前の灯火。しかし――。

 

 『違うな! 間違っているぞ、ギルフォード!』

 

 突如として一帯に響き渡った声。その主を認めたギルフォードが叫ぶ。

 

 「成る程な、そう来たか! ゼロッ!」

 

 ナイトメアごと振り向いたギルフォードの視線の先にあったのは、コックピットより悠然と身を乗り出しているゼロの姿。

 同じく、ヴィンセントに乗り込んだロロがゼロを睨み付けるのと同時に、機情の一室も(にわか)に熱気を帯びる。

 

 「ゼロが現れました!」

 

 だが、やや興奮した面持ちで告げるオペレーターとは対照的に、カリグラは何処までも冷静だった。

 

 『"ルルーシュ"ノ現在地ハ?』

 「30分前よりスパイラルシアターに。ロロが付いています」

 『ソウカ……』

 「動きます!」

 

 カリグラはブリタニア軍に対して単身乗り込むゼロの姿を注視し続ける。

 

 『惰弱者とは言ってくれる。そういえば、貴方の主君の口癖でしたね。お久し振りです、ギルフォード卿。出て来て昔話でも如何ですか?』

 「折角のお誘いだが、遠慮しておこう。過去の因縁には、ナイトメアでお答えしたいのだが?」

 『決闘をお望みですか……相変わらずで安心したよ』

 「なに?」

 『衆目の集まる場での捕虜の処刑。君らしくない手段だったからな』

 「くっ……」

 

 痛いところを突かれたギルフォードの顔貌が苦悶に歪む。

 しかし、ゼロは我関せず。コックピットにその身を滑り込ませると、仮面を外したルルーシュは朗々と語る。

 

 『良いだろう! では、差し当たってルールを決めようか』

 「……ルール?」

 『決闘のルールだよ。決着を付けるなら、一対一であるべきだ』

 「了解した。他の者には手を出させない事は確約する」

 『武器はお互いに一つだけ』

 「よかろう」

 

 ギルフォードは機体に装備された武装をパージしランスを構える。

 対するゼロは暴徒鎮圧用のシールドを武器として貸し与えるように要求。

 真意を推し量れずにいるギルフォードであったが、断る理由を思いつけず、不承不承ではあったが了承した。

 そうして、二人がお互いの獲物を手に構えた時、一連の流れを聞いていたカリグラは笑いを溢した。

 それに気付いたヴィレッタが首を傾げる。

 

 「どうされました?」

 『何、忠義ヲ貫キ過ギルノモ考エモノダト思ッタマデダ』

 「それは、どういう意味でしょうか?」

 『見テイレバ分カル』

 

 告げられた言葉は何とも曖昧な返答。

 ヴィレッタは不に落ちないといった表情を浮かべながらも、言われるがままモニターを注視した。

 

 『質問しよう、ギルフォード卿。正義で倒せない悪が居る時、君ならどうする? 悪に染まってでも悪を倒すか? それとも、己が正義を貫くか?』

 「我が正義は姫様と共にっ!」

 

 ゼロの問い掛けに対して、ギルフォードは誓いの言葉と共にランスを突き出し突進する。

 だが、ゼロは些かも動じなかった。

 

 「私の答えとは違うな。私ならば、悪を成して巨悪を討つ!!」

 

 ゼロがそう告げた次の瞬間、地響きのような音と共に一帯が競り上がると、それを見たカリグラは思わず呟いた。

 

 『ブラックリベリオン、カ』

 

 あの時と同じく租界の構造を利用したゼロの策。

 しかし、それが嘗て自身が立案した策だとは今のライは夢にも思わないだろう。

 

 ――見ているか? ライ。お前の策で俺は彼等を……。

 

 ライが考えた策で、今度は彼が大切にしていた仲間を救う。

 そんなルルーシュの誓いと共に、総領事館の敷地に滑り落ちて行くブリタニア軍。

 その様子を見ていたカリグラは簡潔に思いを述べた。

 

 『勝負アリ、ダナ……』

 

 ◇

 

 『カレン、突入指揮を取れ! 卜部、お前はカレンを援護しろ!』

 「はい!」

 「承知っ!」

 

 ゼロの指示を今か今かと待ち望んでいた二人は力強く応えた。

 更にカレンは左手を見つめると心の内で尚も強く叫ぶ。

 

 ――行くわよ、ライッ!!

 

 そうして、操縦悍を力強く握り締めたカレンはペダルを踏み込んだ。

 

 「二機、私に付いて来いっ! 扇さん達の救出が最優先だっ!」

 「残りは俺に続け。紅月を援護するぞ!」

 「「「「はい!」」」」

 

 二人からの指示の元、他の隊員達は瞬時に分かたれると後に続く。

 遂に、紅い鬼神が駆け出した。

 

 『黒の騎士団総員に告げる! ブリタニア軍を撃滅し、同胞達を救えっ!』

 

 ゼロの指令が一帯に響き渡る。

 

 「逃げられてしまう。中華連邦内に……」

 

 部下の呟きに、椅子に座り込むと思わず首元を緩めるヴィレッタ。

 だが、そんな彼女の仕草に対して仮面の下でライは瞳を細める。

 

 『ドウシタ? ヴィレッタ』

 「い、いえ。何でもありません」

 

 無意識下の行動だったとはいえ、目敏く指摘されたヴィレッタは慌てた様子でモニターに向き直ると、瞳に飛び込んできたのは騒然とした現場からの中継映像。

 G-1ベースからの映像は既に途絶え、中継ヘリからの映像も租界構造帯が激しく叩きつけられた影響で噴煙しか映っていない。

 

 「こ、このままでは本当に逃げられてしまいます!」

 

 焦りを隠し切れなかったのか、隊員の一人は思わず叫ぶも、カリグラは機械的に返すのみ。

 

 『目的ハアクマデモC.C.ダ。"ゼロ"ハ"ギルフォード"ニ任セテオケ』

 「Y、Yes, My Lord!」

 

 ――何の備えも無しにゼロの土俵に上がった時点で負けだがな。

 

 部下からの返答を聞き流しつつ、ライは心の内で嘲笑いながらモニターを見つめる。

 が、相も変わらず現状把握は困難を極めていた。

 しかし、そんな現場を眺めつつも依然として彼に焦りは無い。

 

 『良ク見エナイナ』

 「そ、そんな事を仰ってる場合では――」

 『ヴィレッタ。一体何ヲ焦ッテイル?』

 「あ、焦ってなど……ただ、これではC.C.を確認する事さえ不可能だと思ったので……」

 

 実際のところ、噴煙のせいで扇がどうなったのか分からずヴィレッタは内心気が気では無かった。しかし、そんな事を言える筈も無い。

 その為、咄嗟に嘘を吐いたのだが、彼女は続けざまに告げられた言葉に恐怖する事となる。

 

 『……ソウイウ事ニシテオコウカ』

 

 自分の気持ちを、あるいは嘘を。

 まるで見透かしているかのようなその言葉に、ヴィレッタは思わず粟立つ肌を押さえたい衝動に駆られながらも何とか耐える。

 そして、今度こそ気取られぬように奥歯を噛み締めると、モニターに映る噴煙立ち込める総領事館の映像に再び視線を向けた。

 

 ◇

 

 その中では死闘が繰り広げられていた。

 紅蓮が猛進する。立ち塞がる敵を粉砕して。

 卜部達もそんな紅蓮をサポートするべく必死だ。

 しかし、カレンは背後に、自身の背中に若干の不安を感じていた。

 それは卜部のサポートが不十分だからという理由では無い。

 実際、卜部のサポートは堂に入っていた。

 そう、彼女が安心して背中を任せられる存在は一人しか居ない。だが、その存在はもう居ない。

 それでも、いや、だからこそカレンは駆ける。

 ライが大切に想った仲間を、自分にとってもかけがえのない仲間、扇達を助けるべく。

 やがて、仲間達が続々と解放されてゆくのを確認すると、それまで険しい表情を浮かべていた彼女の表情が僅かに緩む。

 

 「後少し!」

 

 だが、そう言った矢先、カレンの視線を遮るように金色の大型ランスを手にしたグロースターが。

 グラストンナイツの一角を担うアルフレッドが立ち塞がった。

 それを認めたカレンは高らかに叫ぶ。

 

 「ブリタニアァッ! ここはもう日本の領土よ! パスポートは持ってるかしら!?」

 「紅いナイトメア……お前か! 馬鹿め、日本など存在しない!」

 「あっそ。これだからブリタニアはっ!」

 「ハッ! だから何だ? さぁ、次はお前の番だ!」

 「……何、ですって?」

 

 アルフレッドの言葉にカレンは表情を強ばらせると、同時に紅蓮の機動も僅かに鈍る。

 それを動揺と受け取ったアルフレッドは、ランスを繰り出しながらも意気揚々と語る。

 

 「双壁の一翼。その翼は一年前に焼け墜ちた。お前も最早恐るるに足らん!」

 

 だが、その台詞はカレンの神経を逆撫でるには十分過ぎるものだった。

 

 「さらばだ! イレブンのエース!」

 

 勝利宣言と共に、動きを鈍らせた紅蓮の左腕を弾き返すと懐に飛び込んだアルフレッドは至近距離より銃撃を浴びせた。しかし……。

 

 「なっ!」

 

 瞬時に突き出された紅蓮の異形の右腕。そこから発せられた紅い壁に阻まれた。

 

 「こ、この距離で防ぐのかっ!?」

 

 アルフレッドが驚嘆した瞬間、彼のコックピットに衝撃が走る。

 紅蓮の右腕が猛禽類さながらにグロースターの頭部を鷲掴みにしたのだ。

 

 「これが輻射波動。あなたが懐に飛び込んで来た時点で私の勝ちは決まっていたの」

 

 そう告げたカレンは、次に射殺さんばかりの瞳で睨み付けると必殺の一撃を見舞う。

 

 「じゃあねっ!」

 「うわあぁぁぁっ!」

 

 轟音をたてて爆散するグロースター。

 だが、カレンは爆散を見届ける事無く再び扇達の元へ駆け出した。

 

 「アルフレッドが!」

 「よせっ! ここは中華連邦の治外法権区だ」

 「見逃せと言うのかっ!!」

 「見ろ! 報道カメラも入ってるんだぞ!」

 

 レーダーから兄弟機の反応が消えた事に怒りを露にするエドガー。だが、クラウディオの正論に静止せざるを得ない。

 

 「くそぉっ!」

 

 目の前に仇が居るというのに手を出せない。

 エドガーがそんな己の歯痒さを噛み締めていると、突如として通信機よりヴィンセント突入の一方が響いた。

 

 『ヴィンセント、ダト……?』

 

 同じくその一報を傍受したカリグラは、思わず言葉を漏らした。

 そして瞬時に記憶を探った彼は、ある事実に気付くと確認の意味も込めてヴィレッタに問い質す。

 

 『アノ機体ハ、アノ日"ロロ"ガ使用シテイタ。ソウダッタナ?』

 「は、はい。間違いありません」

 『何故今頃突入ヲ……?』

 

 カリグラは再び呟くと、胸に引っ掛かる物を感じつつもモニターを見やる。

 モニターの向こうは、やっと視認出来る程度には晴れ始めていた。

 

 ◇

 

 その中では、ロロが目に映る光景に言葉を失っていた。

 突然の狙撃により避けられないと直感的に死を意識したその時、直撃コースに突如としてゼロが割って入り、結果としてゼロの機体は両腕を失い地面に倒れ伏す事となった。

 ロロはそれを未だ呆然と見つめながら、信じられないといった様子で呟いた。

 

 「どうして、どうして僕を……」

 

 それはごく当たり前な反応だろう。

 殺しに掛かった筈が、気付いた時には助けられていた。

 何よりも、奪い続けて来たロロにとって助けられるなど初めての経験だったのだから。

 その呟きを聞いたゼロ、ルルーシュは口元を妖しく歪ませた。

 

 『弟を助けるのに、理由が要るのか?』

 「なっ!!!」

 

 ゼロ(魔人)の魔の手がロロの心に巻かれた銀の鎖に迫る。そして――。

 

 『偽りの記憶だったとしても、お前と過ごしたあの時間に嘘は無かった』

 

 甘言と共にゼロは鎖を引き千切ると、続けざまに剥き出しになったロロの心。そこに刺さった(くさび)をへし折った。

 その時、ロロの脳裏に浮かんだのはこれまでルルーシュと過ごした穏やかな思い出。

 たどたどしく蚊の鳴くような声でロロは語る。

 

 「今までの事が、嘘じゃなかったって……自分の命が一番大事だって、そう言ったくせに。そんな下らない理由で……」

 

 それを聞いたゼロは、最後に新たな楔を手に取ると――。

 

 『約束しただろう? 未来を掴ませてやるって。お前の未来は……俺と共に』

 「っ!!」

 

 ロロの心に打ち込んだ。

 一方で、ゼロの機体が停止している事を好奇と捉えたギルフォードが叫ぶ。

 

 「ゼロ。ここで因縁を断とう。この一撃で! この私の鉄槌で!」

 

 手にしたランスの矛先をゼロに定めると、あらん限りの力で投げ付けた。

 が、それは後一歩という所でヴィンセントに阻止された。

 

 「なっ!? どういうつもりか、キンメル卿っ!! まさか……ゼロの仲間かっ!?」

 

 そのギルフォードの驚愕を通信機越しに聞いていたカリグラが指示を飛ばす。

 

 『ヴィレッタ、二人ニ連絡ヲ取レ』

 「その――」

 『ドチラデモイイ!』

 「は、はい!!」

 

 ヴィレッタは慌てて携帯を取り出すと電話を掛ける。

 

 ――あれに乗っているとしたら……ロロ、この私を裏切る気か?

 

 そんな彼女をモニター越しに眺めながら、仮面の下でライが憤怒にその身を焦がしていると、ヴィレッタが口を開く。

 

 「ル、ルルーシュか?」

 『どうされたんですか?』

 「いや……少し心配になってな。総領事館の件なんだが、聞いているか?」

 

 そう尋ねながらヴィレッタがモニターに視線を移すと、銀色の仮面より浴びせられた無言の圧力に思わず身震いした。

 

 『ええ、何でも――』

 「ま、待て。ロロはどうしたんだ?」

 

 ヴィレッタが慌ててルルーシュの言葉を妨げると、ルルーシュは努めて冷静に口を開く。

 

 『どうしたんですか、一体……ロロですね? ちょっと待って下さい』

 

 そう告げると、暫しの間を置いて通話口よりロロの声が響く。

 

 『…はい』

 

 それを聞いたヴィレッタは再びモニターに視線を移すと、カリグラは静かに頷いた。

 その様子に内心胸を撫で下ろしつつも彼女は再び問い掛ける。

 

 「ロロか? 何処に行っていた?」

 

 だが、そこにルルーシュが割って入った。

 

 『やだなぁ先生、トイレぐらい別々にさせて下さいよ。で、何でしたっけ? さっきの……』

 「総領事館の話だ」

 『あぁ、すごい騒ぎらしいですね』

 

 二人のやり取りを聞きつつも、ロロはコックピット内で狼狽していた。

 

 ――ダメだ。今までの事が知られたら機情から排除される。あの人だって……でも……。

 

 一方で流石と言うべきか、あっけらかんとした様子で語るルルーシュ。

 だが、そんな彼をヴィレッタは咎める。

 

 「ルルーシュ。一つ言っておくが――」

 『分かっていますよ。もう危ない事に弟を巻き込みません』

 

 ――っ!!

 

 再び弟と呼ばれた事にロロが心を震わせていると――。

 

 「ほぅ、この前の件で少しは改心したのか?」

 

 ヴィレッタが苦笑しつつ問い掛けると、ルルーシュはロロに対してとどめとばかりに言い放った。

 

 「当たり前じゃないですか。ロロには人殺しがある世界なんて似合わない」

 

 ――僕が……弟……。

 

 ルルーシュの言葉が幾度となくロロの心に染み渡る。

 と、その時。突如として総領事館より星刻の声が響いた。

 

 『そこまでだ、ブリタニアの諸君。これ以上は武力介入と見なす。引き上げたまえ!』

 

 同時にヴィレッタが再びモニターに視線を移すと、カリグラは小さく頷いた。

 

 「それじゃあな、ルルーシュ。あまり遅くなるなよ?」

 『やだなぁ。そんなに信用無いですか? 俺って』

 「知りたいのか?」

 『いいえ。遠慮しておきますよ。それじゃあ』

 「ああ」

 

 通信を切ったヴィレッタが携帯を仕舞いモニターに向き直ると、カリグラはオペレーターに問い掛けた。

 

 『発信場所ハ?』

 「スパイラルシアターです。間違いありません」

 『ソウカ……』

 

 そう呟くと顎に手を当てて何やら考え込む素振りを見せるカリグラ。

 そんな彼を余所に、ヴィレッタは指示を請うべく口を開く。

 

 「この後は如何が致しますか?」

 『……ヤムヲ得ナイ、カ。現時刻ヲ以テ作戦ハ終了トスル。但シ、引キ続キ"ルルーシュ"ノ行動ニハ注意シロ』

 「その事なのですが、卿は未だあのゼロがルルーシュであるとお疑いなのですか?」

 

 今回の一件はヴィレッタの疑念さえ払拭するに十分だった。

 その為、未だルルーシュを監視せよとの命は些か慎重過ぎると思った彼女は思わず尋ねたのだが、カリグラは何も答えない。

 気になったヴィレッタは自身の考えを告げる。

 

 「今回の事を鑑みても、同一人物と断定する事は些か無理があるのでは?」

 

 すると、その問いにようやっとカリグラは口を開いた。

 

 『証拠ハ何処ニ有ル?』

 「先程の通話が全てではないでしょうか?」

 『確カニナ。ダガ、発信場所ヲ偽ル事ナド容易イ。今回ノ一件モ前回ト同ジ。状況証拠ヲ積ミ上ゲタニ過ギナイ』

 「しかし、今回はロロが付いています。まさか、ロロが裏切ったというのですか?」

 『ソノ可能性モ含メテ、私ハ考エル』

 「それは些か――」

 

 ヴィレッタは、慎重過ぎるのでは? と続けようとしたが、続いて遮るように告げられたカリグラの言葉に思わず息を呑む事となる。

 

 『有リト有ラユル可能性ヲ考慮シロ。"ゼロ"ノ持ツ力。ソノ恐ロシサ。忘レタ訳デハ無イダロウ?』

 

 ―― ゼロの力 ――

 

 その言葉を聞いたヴィレッタは思わず声を荒げた。

 

 「卿はご存知なのですか!?」

 

 よもやカリグラもギアスについて知っているとは思っていなかったからだ。

 しかし、一方で機情の長ならばと納得もした。

 だが、ヴィレッタは続け様に告げられた言葉に少々拍子抜けする事となる。

 

 『何ヲ言ッテイル? "ゼロ"ノ力ハ天賦ノ才トデモ言ウベキ謀略ト、ソノ頭脳ヲ駆使シタ狡猾サダロウ? "ナリタ"デハ、"コーネリア皇女殿下"ヲ追イ詰メ、アノ"ナイトオブセブン"サエモ騙シ続ケタノダカラナ』

 「……はい?」

 『何ダ? ソノ態度ハ……』

 「い、いえ! 何でもありません」

 

 咎められた事に姿勢を正すヴィレッタ。

 だが、仮面の下でライはそんな彼女の様子を目を細めると愉快そうに眺めていた。

 

 ――馬鹿め。知っていると言うとでも思ったか?

 

 ギアスについて、ライはおいそれと告げる気は毛頭無かった。

 仮に知られれば、それはまず間違いなくロロにまで伝わる事となる。

 そうすれば、ロロが自身と機情の関係を勘繰るようになるのは自明の理。

 下手をすれば気付かれる可能性さえも。

 そうなった時、己に依存しきっているロロの事だ。

 週に一度の定時連絡は任務を遂行している事への褒美。

 それを心待ちにしていたロロにとって、毎日行われている機情の報告の際にいつでも話せるという事になってしまう。

 そうなれば、任務に支障が出る事は十分に考えられる。

 ただ、全ては仮定に過ぎない。

 だが、そういった芽は潰しておくに限ると彼は考えていた。

 

 『引キ続キ監視ノ目ヲ緩メルナ』

 

 最後にそれだけ告げると、カリグラは通信を切った。

 

 ◇

 

 総領事館の敷地内は喜びに溢れていた。

 ある者は手を、またある者は互いに抱き合うと解放された喜びを噛み締めていた。

 無理もない。

 彼等は一年もの長きに渡り拘束されていたのだから。

 そんな彼等の間をカレンが縫うように走る。

 

 「扇さん!!」

 

 カレンは瞳に涙を浮かべながら駆け寄ると、その勢いそのままに扇の胸に飛び込んだ。

 扇はそんな彼女を優しく抱き止める。

 

 「ありがとう、カレン」

 「うぅん、良いの。良かった、無事で……」

 

 夕日を背に再開を喜び合う二人の姿は傍目には親子や兄妹のように映り、それを見ていた隊員達の目には薄らと光が零れていた。

 一方、扇の背後では卜部が俯いたまま男泣きしていた。

 

 「中佐……よくぞ……よくぞ御無事で……」

 「済まない、迷惑をかけた」

 

 そう言って藤堂は卜部の肩に手を置く。

 

 「め、迷惑などっ!!」

 

 慌てて顔を上げると否定に走る卜部だったが、藤堂の笑みを見た瞬間、感極まったのか再び俯くと肩を震わせる。

 そんな彼の様子を、他の四聖剣の面々は微笑ましげに見守っていた。

 やがてその中の一人、朝比奈が口を開く。

 

 「苦労したんでしょ?」

 「あぁ……別の意味で苦労させられた」

 

 顔を上げた卜部は目尻に残る雫を拭い答えると、朝比奈は思わず苦笑した。

 

 「何ですか、それ」

 「女性の言い争いを仲裁するのは骨が折れるって意味だよ」

 

 そうだけ告げると未だ扇にあやされながら会話しているカレンと、その遥か向こうから我が物顔で歩いて来るC.C.に視線を向けた。

 察した朝比奈は、そういう事ですか、と納得したようで、今度は愉快そうに笑うと、残りの同僚二人も後に続いた。

 

 「全く、あの二人は……」

 「ハッハハハ。今日は目出度い日よな」

 

 千葉は呆れたように言葉を零すが、その表情に棘は無い。方や仙波もその表情を見て楽しげに語る。

 だがそんな彼等とは対照的に藤堂は目を伏せると一人呟いた。

 

 「そうか、では、やはり彼は……」

 「……はい」

 

 藤堂のどこか哀しみを湛えた言葉に卜部が相槌を打つと、残りの面々は一様に眉を顰めた。

 二人の口論を止めるのは、ゼロが居ない時は専らライの役目だった。

 それをこの一年は卜部が担っていたという。

 その事からも導き出せる結論は……やはり、一つしか無かった。

 藤堂達は一年かけてある程度気持ちに整理を付けていたとは言え、何処かで、といった思いを完全に払拭する事は出来ていなかったのだ。

 

 「中佐……」

 「いや、済まない。俺とした事がつい、な」

 

 再び告げられた残酷な現実。

 尋常ならざる藤堂の苦悶の表情を心配した千葉が問い掛けると、藤堂は力なく笑った。

 そんな彼等の会話が聞こえていたのだろう。

 扇もまた、カレンに問い掛ける。

 

 「カレン、よかったら教えてくれ。ライは、その……本当に……」

 

 カレンは一瞬哀しげな表情を浮かべると直ぐに顔を伏せた。

 だが、彼女にとって父親とも兄代わりとも言える他ならぬ扇からの問いだ。何とか答えようとしたのだろう。

 カレンはゆっくりと顔を上げて口を開く。

 だがその時、空気の読めない男、玉城の声が響いた。

 

 「なあなあ! あのパイロットは?」

 「っ!?……あれは……」

 

 カレンが言葉に詰まっていると、その様子を見た玉城が誤解した。

 

 「ひょっとしてよ! アイツなのか!?」

 「っ!!」

 

 カレンの表情が先程とは比べ物にならない程の哀しみに染まる。

 が、彼女は何とか言葉を絞り出す。

 

 「……ちがう……わ」

 

 すると、そんな悲痛なカレンの様子を見ていられなくなった扇は堪らず声を荒らげた。

 

 「おい! 玉城っ!!」

 「な、なんだよ……そんなに怒る事ねぇじゃねえかよ……」

 

 玉城のボヤキを余所に扇はカレンに向き直ると、なるべく彼女を傷付けないように尋ねる。

 

 「やっぱり、そう……なんだな?」

 

 その優しさが伝わったのだろう。カレンは静かに頷いた。

 

 「そうか……」

 

 それを見た扇は短く呟くと唇を噛み締める。

 だが、そんな扇に対して一転して精一杯の笑みを浮かべたカレンは左手を胸に抱くと言った。

 

 「でも、ライなら居るわ。ここに」

 

 カレンの言葉を聞いた扇は、彼女の前では涙は見せたく無かったのだろうか。思わず天を仰いだ。

 

 「ああ、そうだな……そうだよな……」

 

 二人の間を哀しくも暖かい何かが包み込む。

 そんな最中、背後で二人の会話を聞いていた千葉は一歩前へ出る。

 それを見咎めた朝比奈は、今は野暮だとでも思ったのだろうか。止めようと手を伸ばすも、仙波が肩に手を置き窘める。

 驚いた朝比奈が仙波を見やると、彼は答える代わりに首を横に振った。

 

 「では、あの機体のパイロットは誰だ?」

 

 突然の問いにカレンが視線を向けると、飛び込んで来た千葉の表情に思わず目を見張る。

 そこには既に先程の憂いは無かったのだ。

 有ったのは彼女が戦いの最中に見せるようなどこまでも冷静な瞳。

 しかし、それは千葉が非情だからでは無い。

 尋ねた側が悲痛な面持ちであれば、答える側は尚更苦しむ事になる。それは千葉なりの優しさだった。

 それがカレンにも伝わったのかどうかは定かでは無い。

 だが、その表情を認めたカレンは涙を拭うと、ここに来て初めて真剣な眼差しで告げた。

 

 「あの機体は敵だったの。でも、今のパイロットは私も……」

 「そうか」

 

 同じくカレンの表情を認めた千葉は短くそう答えた後、ほんの僅かではあったが目元を緩めると、カレンもまた釣られるように笑みを浮かべた。

 そんな時、辺りに彼女達とは別の女の声が響いた。

 

 「ゼロを救ったのだ。少なくとも敵では無いだろう?」

 

 驚いたカレン達が振り向くと、そこにはいつの間にかC.C.が居た。

 彼女の言葉を聞いた藤堂は、未だ総領事館の外で自分達に手を振る数多の同胞達に視線を移すと、日本の解放とライの仇という新たな決意を胸に抱く。

 

 「背負うものが、また増えたな」

 

 だが、その言葉に気負いは微塵も無い。

 藤堂の側でその言葉を聞いていた5人は静かに頷く。

 カレンは頷きこそはしなかったが、想いは扇達と同じだった。

 

 ――ライ、皆は取り戻したわよ。次は日本と、そしてあなたの仇を……見ててね。

 

 彼等が決意を新たにしていたその頃、C.C.の姿をコックピット内より認めたロロ。しかし、以前とは違いその心は……。

 

 「目の前にC.C.が居るのに……僕は、僕はっ!」

 

 既に漆黒の鎖にその心を絡め取られていたロロは、指一本動かす事さえ出来ないでいた。

 目の前に、ライとの未来が居るというのに。

 その呟きを聞いたルルーシュは再び動く。

 

 「ブリタニアにお前の安らぎは無かったんだ。お前の居場所は……俺の傍だ」

 

 宥めるかのような優しい口調。

 だが、その言葉はロロの心を締め上げるには十分過ぎる程のもので。

 それ以降、ロロが言葉を発する事は無かった。

 方や、その反応の無さこそ魔人が確信を抱くには十分なものであり、ルルーシュはその端正な顔を妖しく歪ませる。

 

 ――遂に堕ちたな。ナナリーの居場所を奪った偽物め。散々利用して、ボロ雑巾のように捨ててやる。

 

 ◇

 

 様々な思いを胸に彼等が再開を果たしていたその頃。

 遥か彼方。

 総領事館の敷地を一望出来るビルの屋上が僅かに光った事に、その場に居た誰も気付けなかった。

 光源の場所には一人の男が居た。

 男はうつ伏せになると身を隠すかのような姿勢を取り、紅い縁取りに彩られた両目で通信機片手に望遠レンズを覗き込んでいる。

 

 「C.C.を最大望遠で確認」

 

 嘗てカノンの右腕として暗躍したその男は、通信機の向こうに居る新しい主に向かって、まるで人形のような表情を貼り付けたまま抑揚の無い言葉を発すると、通話口からは若い男の声が響く。

 

 『こちらでも確認した。やはり、総領事館に居たか』

 

 新しい主、ライは満足げな声色で語った後、新たな指示を男に与える。

 

 『お前は別命あるまで身を隠せ』

 「Yes, Your Majesty」

 

 通話を切った男は、素早く機材を仕舞い込むと足早にその場を後にした。

 

 ◇

 

 通信機を置いたライがモニターに視線を向けると、そこに映っていたのはつい今しがた撮影されたC.C.の画像。

 それを眺めながら、ライは邪な笑みを浮かべると一人呟く。

 

 「魔女め、やっと姿を現したか」

 

 だが、それも一瞬の事。

 ライは次に自身の右隣。そこに有る空座の玉座に視線をやると、次に正面に向き直る。

 そして、彼は階段下に居る子供達を視界の端に捉えつつも、その先で一人縮こまっている黒衣の男に問い掛けた。

 

 「この大事な時に、V.V.は何処に行った?」

 

 ライが剣のある口調で問うと、男は声を震わせる。

 

 「V…V.V.様は、現在、その……研究棟に()られます。じ、直にお戻りになられる、かと……」

 

 男は完全に畏縮していた。恐らく、今の彼の心労はヴィレッタの比では無いだろう。

 だが、そんな事はライには関係無かった。

 

 「研究棟? そんな場所が有るのか?」

 「は、はいっ!」

 「では、案内しろ」

 「陛下、V.V.様は直にお戻りになりますので……その……」

 

 男は何とかライを引き留めようと言葉を搾り出すが、それはするべきでは無かった。

 瞬間、子供達が皆一様に哀れむかのような視線を送る。

 それに男が怪訝な表情を浮かべると――。

 

 「次は無い。案内を」

 

 ライは有無を言わさぬ口調で命じた。

 その彼の口元には三日月が浮かんでいる。

 それは、傍目には大層美しく映るだろうが、今の男にとっては悪魔の笑みと同じ。

 その時になって、男はようやっと先程子供達が浮かべた表情の意味を理解した。

 

 「わ、分かりました! ですから、どうか命だけはっ!」

 「ハッ! その様な事、する筈が無いだろう?」

 

 男の返事を聞いたライが玉座より立ち上がると、子供達も同じく立ち上がる。

 そして、ライが男の元へ歩み寄るべく階段を降り始めると、子供達も心得たもの。ライの邪魔にならないよう道を譲った。

 やがて、彼は片膝を付き肩を震わせながら臣下の礼を取っている男の元まで歩み寄る。

 

 「何をしている? さっさと案内しろ」

 「は、はい!」

 

 慌てて立ち上がった男がライを先導するべく歩き始めると、彼は無言で後に続く。

 一方、ライに道を譲ると再び階段に腰掛けた子供達は、徐々に小さくなっていく二人の後ろ姿を眺めながらヒソヒソと話始めた。

 

 「さっきの王様、本気だったよね?」

 「だね」

 「それでも気付かないなんて――」

 「大人は鈍いって事さ」

 「うん、鈍い鈍い」

 

 結論に達した子供達は、皆一様に口元を妖しく歪ませると、その場でライの帰りを待つ事とした。




ここまでお読みくださりありがとうございました。

次は間幕のお話にしたいけど、どうしよう・・・。
ネタが思いつかない。
白の騎士と紅の夜叉からの新キャラ、ベニオで一話考えてみようかな。
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