コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

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遅くなり申し訳ありません。
構成見直しに手間取りました。
ロロの設定、昔考えた時と今では大きく違うので、何とか整合性を持たせようと躍起になってはみたものの、上手く出来てれば良いのですが。


本話ですが、スザクがお好きな方はご注意下さい。
扱いがあまりよろしくありません。


TURN 03 ~ ナイトオブラウンズ(中編)~

 ある所に、一人の少年が居た。

 その少年はある日親に捨てられると、とある存在に拾われる。親が少年を捨てた理由は今もって分からないが、それだけであれば少年は特に気にしなかった。

 その存在に連れて来られた場所。

 そこには己と似た境遇の少年少女ばかりだったのだから。

 しかし、そこに来た際、真っ先にそれまでの名前を名乗る事を禁じられると同時に、番号で呼ばれる事を義務付けられた事には言い知れぬ悲しみも有してもいた。

 それは周りも同じだったのだろう。

 多くの人間が集まれば、気の合う者やそうで無い者とも出会う事だろう。

 やがて、少年少女達はグループを形成するに至る。

 少年もその内の一つに収まると、仲間内でのみ禁じられた嘗ての名前を密かに呼び合うようになる。

 そんな彼等が集められた理由は一つ。適性者を育てる為。

 日々繰り返される過酷な訓練と、身体検査と称した非道な実験の数々。それに身も心も疲弊してゆく少年少女達。

 ある者は発現した力に蝕まれて。また、ある者は力を発現する事が出来ず、用済みとして処理され。

 そうして仲間が消えてゆく事に耐えられず、心を壊した者もその後を追った。

 しかし、少年はそれに耐え続けた。

 少年が唯一の心の拠り所とするグループに所属する4人の兄姉達もまた、誰一人として脱落する事は無かったからだ。

 だが、ある時それに変化が訪れる。

 少年が慕う4人の兄姉のうち、2人が脱走したのだ。

 それはまだ幼かった少年の心をこれ以上無い程に痛く傷付けた。何故、自分も連れて行ってくれなかったのか、と。

 沸き上がった哀しみは流転し、憎しみへと変貌するのに然程の時は要さなかった。

 やがて、姉が追跡者の手により処理された事を己を拾った主より知らされると、良いキミだと思うほど。

 鬱屈した精神のまま月日は流れ、残った2人の姉も任務により少年の元を離れると、遂にグループは彼一人となった。

 その時からだ。

 少年の空虚な心に小さな欲求が芽生えたのは。

 それは名前を呼ばれたいという渇望。

 しかし、嘗ての団欒の象徴でもあったそれを与えてくれる存在は何処にも居ない。

 今の少年に有ったのは名前と呼ぶには余りにも限定的なもの。任務の時にだけ与えられる仮初めの名、コードネーム。それだけしか無かった。

 一方で、普段、主がその名を呼ぶ事は決して無い。

 当然だ。主にとって、それは名では無いのだから。

 だからこそ、日に日に想いは募る。誰彼憚る事無く名乗れる名前が欲しい。また呼ばれたい、と。

 決して口には出せないその想い。

 少年は分かっていたのだ。

 己を拾った主にとって自分はただの駒なのだと。

 その主に命じられるがままに人を殺す。

 普通の人生を歩む者にとっては異質なそれも少年から見れば普通の日々。

 いや、普通の者が歩む人生こそが少年にとっては異質に()える事だろう。

 その日も、普段と変わらず少年は主より任務を授かった。

 しかし、それは今までとは少しだけ違っていた。

 命じられたのは殺害では無く監視。対象は嘗ての魔人、ゼロ。その抜け殻とはいえ期限は不明のオマケ付き。

 それでも命じられた当初、これまでの境遇に浸り切っていた少年の心に波風は立たなかった。だが、後にそれは揺らぐ事となる。

 翌日、少年は一人の若き王に出会う。それは少年にとって運命の出逢いと言えた。

 その王は少年がどれだけ渇望しようとも、決して許される事が無いと諦めていた名前をいとも簡単に、当然のように与えたばかりか、誰彼憚る事無く名乗る事さえも許したうえ、主にさえもそれに異を唱えさせなかったのだから。

 その時からだ。

 少年の空虚な心に自身を拾ってくれた主よりも、嘗ての兄姉達よりも大きな楔が打ち込まれたのは。

 それは、名前と言う名の楔。

 そんな王と過ごす日々は少年にとって何よりも鮮烈なものだった。

 王が微笑む度に、少年の心に失われた暖かみが広がる。

 やがて、少年は次第に任務に付く日が近づくのを疎ましく思うようになっていった。

 任務に就くという事。

 それ即ち王の袂を離れる事を意味するものであり、オマケにそれは何時終わるとも知れないものなのだから。

 少年は悩む。だが、拒む事は出来なかった。

 主だけでは無く、王もそれを望んでいたのだから。

 後ろ髪引かれる思いで王と別れ、任務に就いた少年。

 当初は苦痛でしか無かった。だが、そんな少年の心に次第に変化が訪れるようになる。

 初めて送る普通の人生。初めて出来た甘えられる存在。その存在より与えられる無償の愛情。

 自分でも気付かぬ内に、少年は任務を楽しむようになっていった。

 そして、運命のその日。

 少年は些細な事から王の怒りを買ってしまう。

 ただ、王はそれ程に怒った覚えは無い。自分を裏切れる筈がないとの絶対の自信があったからだ。

 そしてそれはその通りなのだが少年の心は再び痛く傷ついた。

 対する王はここで一つのミスを犯した。

 王は知らなかったのだ。魔人が目覚めてる事に。

 同じ頃、目覚めた魔人は少年を籠絡するべく情報を集めていた。

 その時、偶然にも見たのだ。画像に映る少年の笑みを。

 決して演技には見えなかったそれ。

 魔人は王も気付いていない少年の内なる想いにいち早く気付いた。

 仮に王もその画像を見ていれば危険な兆候だと察しただろう。だが、ここでも王はミスを犯した。

 少年個人の学園での生活態度等は至って普通との報告を受けていた王にとって、それ以上の情報は不要だった。

 元々、王はこう考えていたのだ。

 嘗て、母親と妹を狙った連中と同じく、少年は生来の暗殺者。そう簡単にその心に何度も変化が起きる訳が無い、と。

 

 ── 慢心 ──

 

 それはこの王の唯一の弱点と言えた。

 一方で、見限られたと思い絶望し疲弊していた少年。その心の隙を魔人が見逃す筈もない。

 魔人は言葉巧みに王が打ち込んだ楔をへし折ると、新たな楔を少年の心に打ち込んだ。

 誕生日と家族という二つの楔を。

 その王、ライに名乗りを許され、魔人、ルルーシュには誕生日と家族を与えられた少年、ロロは遂にライの意に反する事を決意する。

 だが、ロロの心の奥底には未だライに打ち込まれた楔。その切っ先が残っていた。

 それが彼の心を引き留めた。

 優先順位はルルーシュとなったものの、ロロにとってはライもまた大切な存在だという事は変わらなかった。

 それは当然だろう。

 ロロにとって絶対者である主、V.V.が定めた不文律を呆気なく破壊してみせたのだから。受けた衝撃は計り知れない。

 一方、ロロがライに嘘を吐いている事に変わりは無い。

 ロロの心を引き留めたその切っ先は、同時に鈍い痛みも覚えさせた。

 その痛みに必死に耐えながらも彼は考える。ライの為に。

 結果、裏切った事がV.V.に知られればライにも危険が及ぶとの結論に至る。ロロはV.V.の非情さをよく知っていたのだから。

 しかし、そこでふと思う。

 このままシラを切り続ければ、少なくともV.V.がライに危害を加える事は無いのではないか、と。

 痛みに後押しされながらも悩み抜いた結果、ロロはライを護りつつ自分の居場所(ルルーシュ)も護る。そんな端から見れば出来る筈も無い道を選択した。

 だが、ロロは知らない。

 ライの存在理由を知っているV.V.が、約束の時まで彼に危害を加える事など有り得ないという事を。

 

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 コードギアス 反逆のルルーシュ L2  

 ~ TURN03 ナイトオブラウンズ(中編)~

 

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 「先生。俺とロロに関する全てのイレギュラーを見逃してもらえますか?」

 

 微笑を浮かべたルルーシュが命じると、紅い鳥に心を蝕まれた監視員は頷いた。

 

 「分かった。そうしよう。二人とも、余り外を出歩くなよ?」

 「「はい」」

 

 心此処に在らずといった面持ちのまま、監視員は立ち去っていった。

 

 「残るメンバーは、ヴィレッタ先生だけだな?」

 

 最後の監視員にギアスを掛け終えたルルーシュが問うと、ロロは小さく頷いた。

 

 「いえ、まだ枢木スザクが居ます。殺しますか?」

 「そういう事はもうやめろ。あぁ、それと……」

 「何でしょうか?」

 「変な言葉使いは無しにしないか? 俺達……兄弟だろう?」

 

 ロロの心の内に暖かい何かが染み渡ると、同時にそれが後押しする。

 押し黙ると物言いたげな瞳で見つめるロロに気付いたルルーシュが問う。

 

 「どうした?」

 「実は……もう一人居るんだ」

 「もう一人? 二人以外にか?」

 

 驚いた様子で尋ねたルルーシュにとって、続くロロから告げられたのは、彼にとって衝撃的な内容だった。

 

 「うん……でも、アイツにギアスは効かない」

 「なっ!? ギアスが効かないだと!? どういう事だ?」

 「学園……というか、エリア11には居ないんだ」

 

 その答えに胸を撫で下ろすと、平静さを取り戻したルルーシュは再び尋ねる。

 

 「そいつの名前は?」

 

 しかし、返事は無い。

 

 「ロロ。教えてくれないか?」

 

 怒る事無く柔和な笑みを向けるルルーシュ。

 躊躇したロロは一瞬言葉に詰まったが、遂には告げた。

 ルルーシュが機情を掌握するに当たって最大の障害に成りうる男の名を。

 

 「機密情報局長官、カリグラ。機情のトップに居る男だよ」

 「カリグラ……暴君の名前だな。どんな男だ?」

 「……」

 「ロロ?」

 

 再び黙り込んだロロに対して、ルルーシュは少々訝しみながら問うた。

 すると、ロロはそんな視線から逃れるかのように俯くと言った。

 

 「そっくりなんだ。兄さ……ゼロに……」

 「何だと?」

 

 それはルルーシュでさえも全く予期していない答えだった。

 彼が詳しく尋ねるべく歩み寄ると、突然顔を上げたロロは必死な形相で懇願した。

 

 「で、でも、心配しないで。アイツは僕が抑えるからっ!!」

 

 そうは口にしつつも、ロロ自身、カリグラをどうにか出来るという明確な自信は現時点では持ち合わせていない。

 そもそも、ロロは嚮団から派遣されて機情に席を置いているに過ぎない。

 その上、これまでのカリグラとの関係はお世辞にも円満とは言い難く、早急な関係の改善を図る必要があった。

 当然、それを知っていた訳では無いが、ロロの必死な形相を見たルルーシュは、果たして任せられるのか、と疑問を懐いた。

 そしてルルーシュが懸念を口にしようとした時、不意に明るい女性の声が周囲に響いた。

 

 「あーっ!! 二人ともこんな所に居た! 会長、こんな所に居ましたよーっ!」

 「やぁ。シャーリー」

 

 声の主、シャーリー・フェネットの姿を認めたルルーシュは咄嗟に普段の笑みを貼り付けるが、彼女は膨れっ面をしたまま詰め寄った。

 だが、その頬が少し紅潮してるのはお約束。

 

 「もうっ! 最近は授業にも真面目に出るようになったと思ってたのに、こんな所で油売って! スザク君の歓迎会が近いんだよ?」

 「済まない。ちょっと用事があってさ。なぁ、ロロ?」

 

 突然話を振られた事にロロが少々驚いた表情を浮かべると、それを見たシャーリーは口を尖らせる。

 

 「ロロのせいにしないの! ロロも無理に付き合う必要無いんだよ?」

 「そ、それは誤解──」

 

 ロロは慌てて否定しようとするが、生来、思い込んだら一直線な彼女に通じる筈もない。

 

 「いいから、いいから。駄目でしょ? ルル」

 

 最早、ルルーシュは苦笑するしかなかった。

 既にこの場は彼女が支配しており、撤退は容易では無い。

 それを理解していたルルーシュは、何とか上手く逃れられないかと話題を逸らす。

 

 「それにしても、良く俺達が此所に居るって分かったな」

 

 だが、ルルーシュには見えていなかった。絶対支配者が近づいている事に。

 

 「そりゃあ、ねぇ? シャーリーはルルーシュの事になったらぁ……」

 

 突然響いたシャーリーとは別の女性の声。

 その声を聞いたルルーシュは、内心天を仰ぎたい気分になった。

 声の主は言わずもがな。この学園の首魁にしてルルーシュがコントロール出来ない唯一の存在、ミレイ・アッシュフォード。

 ニンマリと笑みを浮かべながら、その豊かな胸を強調するかのように腕を組んで仁王立ちしている彼女の姿を見たルルーシュは、瞬間、心の内で諸手を挙げて降参した。

 

 「な、何言ってるんですか! 会長っ!!」

 

 慌ててミレイの元に走り寄ると顔を真っ赤にして抗議の声を上げるシャーリー。対するミレイは悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる。

 

 「照れない、照れない」

 「べ、別に照れてなんか……」 

 

 (かしがま)しく騒ぐ二人を余所に、最早全てを諦めていたルルーシュはロロにだけ聞こえる声で呟いた。

 

 「ロロ。後でその男の事を詳しく話してくれないか?」

 「う、うん。でも、目と耳は至る所にあるから……僕の部屋でなら……」

 「それじゃあ、夕方にでも──」

 「なに話してるの? 行くよー?」

 

 遮るかのように告げられた声。

 先程までの照れていた姿は何処へ行ったのか。

 ルルーシュ並の切り替えの早さを見せるシャーリーに、彼は軽く相槌を打つ。

 

 「あぁ、今行く」

 

 そう言って二人は彼女達の元まで歩み寄ると、不意に思い出したかのようにミレイが口を開いた。

 

 「そうそう、ロロ。さっきヴィレッタ先生が探してたわよ?」

 「先生が……ですか?」

 「ええ、何でも相談したい事があるって言ってたわね」

 

 その言伝にロロは一瞬だけ眉を顰めると、瞬時に意味を察したルルーシュが背中を押す。

 

 「行って来い。こっちは俺達でやっておく」

 「ありがとう。兄さん」

 

 ロロは一言礼を言うと彼女達に会釈した後、走り去って行った。

 そんなロロを見送ったミレイは残る二人に号令を掛ける。

 

 「それじゃあ、私達は準備に戻るわよっ!」

 「はーいっ!」

 「はいはい」

 

 元気一杯なシャーリーと、苦笑しながら返すルルーシュ。

 最後にルルーシュは、ロロが立ち去った方向に一瞬だけ視線を移した後、次には何事も無かったかのように彼女達の後を追った。

 

 ◇

 

 図書室の隠し扉から機情の地下施設に入ったロロは、そこでヴィレッタと会話している人物を見て少々驚いた。

 

 ──枢木……スザク……。

 

 「ロロ、遅いぞ」

 

 ヴィレッタが非難するも、普段通り無言で聞き流したロロは椅子に腰掛けると、彼女は再びスザクに向き直る。

 

 「それで、ここ数日に渡り接触されてみて何か気付かれた点は?」

 「いえ、特に……」

 「ではやはり、対象の記憶は戻っていないと──」

 「待って下さい。もう暫く調査が必要です」

 

 慎重な姿勢を崩さないスザクに、ロロは僅かに身を乗り出すと抗議の声を上げる。

 

 「僕達の監視が信用出来ないと?」

 「君達はC.C.の件が最優先事項なんだろう? 君は今まで通り弟役を頼む」

 「……Yes, My Lord」

 

 ロロは面倒な相手だと思いつつも下手に勘繰られるのを避けるべく短く返すと、ヴィレッタが今後の予定を告げた。

 

 「では明日、生徒会主催で行われる枢木卿の歓迎会。そこで再度確認を」

 「分かりました。もう少し踏み込んでみます」

 

 この時、スザクは自身が持つルルーシュの反応を探るに最適とも言える手札。

 それを使う事を決意すると同時に、考え込むかのように瞳を閉じる。

 が、次の瞬間、意を決した彼は瞳を見開いた。

 

 「一つ、お願いしたい事があります」

 「何でしょうか?」

 

 不思議そうに尋ねるヴィレッタと、無言で続きを待つロロ。

 そんな二人に交互に視線を向けたスザクは、一拍間を空けた後、彼女を見据えると重々しい口調で告げた。

 

 「今後、自分にも報告を上げて頂きたいんです」

 「それは……」

 

 その予期せぬ依頼にロロは内心舌打ちし、ヴィレッタは露骨に眉を寄せる。

 しかし、彼女の仕草を不思議に思ったスザク。

 

 「何か、問題でも?」

 

 問われたヴィレッタは背筋を正すと自身の考えを告げた。

 

 「貴卿は私共よりもルルーシュと接触出来る機会は多いかと思います。その上更に報告せよ、とは……失礼ですが、そこまでの必要性は無いのでは?」 

 「自分には軍務もあります。毎日のように学園に出席する事は出来ないんです。ヴィレッタ卿、お願い出来ますか?」

 「……どれ程の精度をお求めなのでしょうか?」

 「委細洩らさずにお願いします」

 

 スザクの注文にヴィレッタは少々困ったような表情を浮かべた。理由は簡単だ。

 機情の監視対象者には、確かにルルーシュも含まれているのだが第一目標はあくまでもC.C.なのだ。

 そのC.C.は、彼女の上司から直々に総領事館に居る旨の一報が画像と共に送られて来ていた。これはどうやって撮られたのか、ヴィレッタ自身未だに謎の部分なのだが。

 故に、今重きを置くのはC.C.の動向である。

 その為、現在、機情はその戦力の大半を総領事館周辺に配置している。バベルタワーで喪失した実働部隊であるカルタゴ隊の穴埋めとして、正規軍と連携して監視に努めなければならなくなってはいたが。

 なお、それについてヴィレッタは上司より近い内に新たな実働部隊を手配する旨の一報を既に受けている。

 よって、今のような多少緩めの監視報告ならば問題は無い。緩めと言っても、C.C.接触に対処するだけの人員は揃っているのだから。しかし、スザクは精密な報告を希望した。

 それを行うには今の人数では足らなかった。かといって、C.C.に充てている人員を順位の低いルルーシュに割り振る事は、余り好ましいとは言えなかったからだ。

 一方で、二人の会話を無言で聞いていたロロは内心苛立っていた。

 ロロも機情の実情は把握していた。

 スザクの願いを聞く事になれば手が足りなくなる。そして、その希望を叶える為には増員は必要不可欠だという事も重々承知していた。

 だからこそ苛立っているのだ。折角、ルルーシュが監視員にギアスを掛けて回ったばかりなのだから。

 要求を受け入れさせるのは避けさせたかったロロは行動を起こした。

 

 「それは僕達だけで判断出来る事じゃないですね」

 

 それだけ告げて、ロロは絶対に断るであろう男に連絡を取らせるべくヴィレッタを見やる。

 彼女もロロの言わんとしている事には直ぐに気付いた。

 そもそも、彼女も当初よりそのつもりだった。そういった裁量権は与えられて無かったのだから。

 

 「……少々、お待ち頂けますか」

 

 ヴィレッタは一言断りを入れてスザクに背を向けると、コンソールパネルに指を走らせ始めた。

 すると、それを再び不思議に思ったスザクが尋ねる。

 

 「何を?」

 

 だが、その頃には彼女の指は止まっていた。ヴィレッタは再びスザクに向き直る。

 

 「ロロも言ったように私共には決めかねますので、上の許可を──」

 「必要無い!!」

 

 突然の怒号。

 ヴィレッタは思わず後退り、ロロでさえも思わず目を見張る。

 先程までの平静さも何処へやら。「上の許可」という言葉に過剰反応したスザクは声を荒げた。

 

 「どうしてもと言うのなら、ナイトオブセブンとして命じる! ヴィレッタ・ヌウ!」

 「Y、Yes, My Lord!!」

 

 直立不動の姿勢で反射的に答礼するヴィレッタを見て、落ち着きを取り戻したのかスザクは軽く頭を垂れた。

 

 「すいません。声を荒げてしまって……」

 「く、枢木卿。どうか面を上げて下さい」

 

 よもやラウンズから謝罪されるとは思ってもいなかったヴィレッタは心底慌てた。

 だが、彼女がどれだけ頼み込んでもスザクが顔を上げる事は無い。

 

 「お願いします」

 

 ただひたすらに頼み込む姿勢を崩さないスザクに、どうするべきか悩み続けるヴィレッタ。

 そんな二人の姿をロロが忌々しげに見つめていると、彼女はとうとう根負けした。

 

 「分かりました。ラウンズである貴卿のご命令となると、私個人は拒否出来る立場には御座いません。ですが、私にも立場があります。ですので、あくまでも個人的にお受けするという事をご理解下さい」

 

 ロロは思わず目を見張るが、その言葉にスザクは面を上げると謝辞を述べる。

 

 「有り難うございます」

 「い、いえ」

 

 そんな二人のやり取りを聞いていたロロは、文句の一つでも言ってやろうとヴィレッタを睨む。が、その時、部屋の中に聞き慣れた着信音が響いた。

 ヴィレッタは反射的に身体を震わせてスイッチに視線を落とすと、彼女の態度に相手を悟ったスザク。その瞳が薄暗い色を帯びる。

 

 「どうぞ、出て下さい。彼には俺から話を付けます」

 「た、助かります」

 

 ヴィレッタは安堵した表情を浮かべてスイッチを押すと、程なくしてその男は現れた。

 

 『何ガアッタ?』

 

 モニターに映る銀色の仮面。スザクは怨敵に瓜二つの仮面を被る男、カリグラをジッと睨み付ける。

 同時にカリグラもスザクの存在に気付いた。

 

 『"ヴィレッタ"、何故コノ男ガ其処ニ居ル?』

 「枢木卿は学園に復学されたとご報告──」

 『知ッテイル。私ガ言イタイノハ、何故コノ男ヲソノ部屋ニ入レタカトイウ事ダ』

 

 頬杖を付いて不機嫌極まりないといった様子でいるカリグラを尻目に、ロロは内心ほくそ笑む。

 その時、スザクが動いた。

 

 「入ってはいけなかったのか?」

 『無論ダ、私ハ貴様ノ入室ヲ許可シタ覚エハ無イカラナ』

 「君の許可が必要とは知らなかった」

 『デハ、二度ト其処ニハ入ルナ』

 「それは出来ない相談だ。それに、俺は君に命令される謂われは無い」

 『……ダロウナ。私モ"ラウンズ"ニ命令サレル謂ワレハ無イノダカラ』

 

 機情の長とナイトオブラウンズ。互いに皇帝直属である彼等に命を下せるのは文字通り皇帝以外存在しない。

 静寂が部屋を支配する。

 このまま牽制し合うだけの時間が流れるかと思われたが、それを無駄な時間だと理解していたカリグラは相手を変えた。

 

 『"ヴィレッタ"、用件ヲ』

 「はい。実は枢木卿よりルルーシュの監視報告を要望されました。ついては卿にご判断を、と思い通信致したのですが……」

 

 彼女は懇切丁寧に説明するが、そこまで言って言葉に詰まる。すると、続きを請け負うかのようにスザクが告げた。

 

 「けれど、それはもう必要無くなった。そうですね?」

 「は、はい」

 

 短く同意するヴィレッタを見て、カリグラはスザクが言わんとしている事を理解した。それは、ある程度は予想していた事でもあったからだ。

 

 『…………"ラウンズ"トシテ個人的ニ命ジタナ?』

 「そうだ」

 

 簡潔な肯定の言葉に仮面の下でライはスザクを睨み付ける。

 同時に、自身の懸案事項が現実の物となろうとしている事に歯噛みした。

 

 『勝手ナ真似ヲ……』

 「断るなら断るで構わない。だがその場合、俺は勝手にやらせてもらう」

 

 頑として譲る意思を見せないスザクの瞳。

 相も変わらず、その大切な何かを失ったかのように暗く光る瞳を仮面越しに認めたライは思慮に耽る。

 勝手に動かれる事はライにとって好ましい状況では無かった。しかし、認めなければ面倒な事になることは請け合い。

 それを十分理解してはいたものの、簡単に認めてしまうのもまた不愉快。

 ライは咄嗟にどうするべきか模索する。

 最も簡単な方法は直ぐに思い付いたのだが、生憎と手も肉声も届く距離では無い。

 結果として、スザクの行動をある程度コントロール出来る方法など一つしか無いのは自明の理。

 だが、答えが出ているにも関わらず高過ぎるプライドが邪魔をするのか。

 彼にしては珍しく長考していると、この殺伐とした空気に耐えれなくなったのかヴィレッタが動いた。

 

 「あ、あの……カリグラ卿?」

 

 それが切っ掛けとなった。

 ライはカリグラの仮面を力無く左右に振って見せると結論を出した。

 

 『要望ハ"ルルーシュ"ノ監視報告ノ提供。ソレダケダナ?』

 「それと自分が軍務で居ない時、ルルーシュに何か変化があれば直ぐに知らせて欲しい」

 『……"ヴィレッタ"。要望通リニシテヤレ』

 「よ、よろしいのですか?」

 

 ヴィレッタは驚いた。よもやカリグラが許可するとは思ってもいなかったからだ。だが、それ以上に驚いたのはロロだった。

 

 ──不味いことになった。

 

 ロロが何と言うべきか言葉に悩んでいると、彼女の驚きを目の当たりにしたカリグラは軽口を叩く。

 

 『断ッテモイイゾ?』

 

 が、彼女にそのような事が出来る筈も無い。

 

 「い、いえ! その通りに」

 

 ヴィレッタが慌てて断りを入れると、スザクが謝辞を述べた。

 

 「協力感謝する」

 『貴様ガ私ニ礼ヲ言ウトハナ』

 「それぐらいは辨えてる」

 

 少々意外だったといった様子で語るカリグラにスザクは釘を刺すが、蒼い瞳は全てを見透かしていた。

 

 『本音ハ?』

 「……君の存在は不愉快だ」

 

 一瞬、間が空いたが、さして悪びれた様子も無く吐き捨てるスザク。対して、今度はカリグラが釘を刺しに掛かる。

 

 『ダロウナ。ダガ、コノ私ガ譲歩シタノダ。呉々モ言ッテオクガ、私ノ邪魔ダケハスルナ。邪魔ヲスレバ"ラウンズ"デアッテモ許シハシナイ』

 

 それは脅し以外の何物でも無い言葉。だが、スザクが怯む筈も無い。

 

 「その言葉、そっくりそのまま返す」

 

 再び睨み付けるスザクに対して、仮面の下ではライが妖艶な笑みを浮かべていた。

 

 『……貴様ヲ殺シテヤリタクナッタ』

 「でも、それは出来ない。違うか?」

 『本当ニソウ思ッテイルナラ、愚カノ極ミダナ……』

 「君命に逆らう気か?」

 

 スザクが目敏く問い詰めるが、カリグラは無視すると話題を変えた。

 

 『一ツ答エロ。貴様ノ目ニ"ルルーシュ"ハドウ映ッタ?』

 「どう、とは?」

 『何カ気付イタ点ハ無カッタカ?』

 「いや、今の所は何も。だが、2日後の歓迎会で全てを明らかにするつもりだ」

 

 薄暗い瞳に決意の光を宿すスザク。

 それを仮面越しに探るかのような瞳で見つめていたライの心にふと、嗜虐心が湧いた。

 

 『歓迎会ノ中心メンバーハ、"ミレイ・アッシュフォード"、"シャーリー・フェネット"、"リヴァル・カルデモンド"、ダッタカ? "ロロ"』

 「えぇ」

 「君は何が言いたいんだ?」

 

 突然、話を振られた事に、ロロは僅かに眉を顰めると端的に返す。

 一方で、カリグラの意図を理解しかねたスザクが問うと、仮面の下でライは今度こそ壮絶な笑みを浮かべながら口を開いた。

 スザクにとって、決して聞き流す事が出来ない言葉を。

 

 『純粋ニ貴様ノ復学ヲ祝ウ仲間達ヲ欺キナガラ、嘗テノ友ヲ監視スル。今ノ気分ハドウダ?』

 「っっっ!!!」

 

 刹那、スザクは両手を勢いよく机に叩き付けて立ち上がると、鬼のような形相で睨み付けた。

 その表情に背筋が凍るヴィレッタと、一貫して無表情のままのロロ。

 一方、今のライにとってスザクのそれは愉快な見せ物でしか無かった。

 

 『精々、偽リノ友情トヤラヲ楽シムガ良イ』

 「カリグラァァッ!!」

 

 刃のように辛辣なその一言は、スザクの緒を容易く断ち切った。

 スザクは床に固定されている筈の椅子を力任せに引き抜くと、次の瞬間、モニター目掛けて投げ付けた。

 

 「く、枢木卿っっっ!?」

 

 ヴィレッタは慌てふためきながら、ロロは相変わらずの無表情でそれぞれ咄嗟に机の下に身を隠す。ロロはギアスは使わなかった。ヴィレッタと二人だけの極秘事項と思っていたからだ。

 硝子が砕け散る音と共にモニターは破壊された。

 火花を散らすモニター画面。だが、通信機器は健在なようでスピーカーからはカリグラの哄笑が響く。

 

 『クハハハハッ!! ソレガ貴様ノ選ンダ道ダロウ。耐エラレナイノナラバ早々二其処(学園)カラ去ルガイイ……ソレト"ヴィレッタ"。早々ニ復旧サセロ』

 「Y、Yes, My Lord!!」

 

 ヴィレッタが机の下から這い出ながら応じるのを余所に、スザクは何も言い返さなかった。いや、言い返せなかったのだ。彼は、拳を固く握りしめると怒りに肩を震わせる事しか出来なかった。

 

 『当日、私ハ所用デ席ヲ外ス。タダ、何カアレバ一報ハ入レルヨウニシロ。報告ヲ楽シミニシテイル。ソレト、"ナイトオブセブン"。貴様モ何カ気付ケバ"ヴィレッタ"二知ラセロ。デハ──』

 

 そう告げるとスザクの返答を待たずして、カリグラは通話を切ろうとする。

 だが、その時ヴィレッタよりも早く机の下から這い出したロロが呼び止めた。

 

 「待って下さい!」

 

 それは、普段であれば聞き届けられる筈もない。

 だが、強い口調に懇願するかのような響きを怪訝に思ったカリグラは手を止めた。

 

 『……何ダ?』

 「監視員はどうするつもりですか? ルルーシュの監視を強化するつもりなら、今のままでは人数が足りません」

 

 制服に付いた埃を叩きながらロロは問うた。

 増員を決定する気なら、直ぐにでもルルーシュに伝えなければと思っていたからだ。

 しかし、カリグラにその気は無かった。 

 

 『ソレニツイテハ現状維持デ良イ』

 

 ロロは内心拍子抜けしつつも、増員しないに越したことは無いと思うとそれ以上の追及を控える。

 だが、それは彼にとっては又しても聞き流す事が出来ない言葉だった。

 

 「どういうつもりだ?」

 

 批難の色を隠すこと無く問うスザク。

 カリグラは語る。

 

 『C.C.捕縛ハ陛下ヨリ賜ッタ至上命題。居場所ガ明ラカトナッタ今、餌ニ対シテ増員スル理由ハ見受ケラレナイ』

 「だが──」

 『ソレニ言ッタ筈ダゾ? 私ハ"ラウンズ"ニ命令サレル謂ワレハ無イ、ト。ソレトモ何カ? 貴様ハ私ノ裁量権ニマデ踏ミ込ンデ来ル気カ?』

 「君はルルーシュを……ゼロを甘く見ていないか」

 『甘ク見テイレバ、貴様カラモ見解ヲ求メヨウトハシナイ』

 

 スザクは思わず押し黙った。再び沈黙が辺りを漂う。対するカリグラはそれを終了の合図と判断した。

 

 『話ハ終ワリノヨウダナ。デハ──』

 

 カリグラはそう告げると今度こそ通信を切った。

 だが、言い返せなかったとはいえ納得出来なかったスザクは、その矛先をヴィレッタに向ける。

 

 「出来るんですか? 今の人数で……」

 「それは……何とも……」

 

 出来ない等と言える筈も無い。

 ヴィレッタが言葉に詰まっていると、代わりにロロが口を開く。

 

 「出来ますよ」

 

 驚いた様子で振り向いたスザクに対して、ロロは少し言葉を変えて重ねるかのように言う。

 

 「やります」

 

 すると、ロロの瞳から滲み出る力強い光。それを決意と受け取ったスザクは小さく頷いた。

 

 「……分かった。君の言葉を信じる。それとヴィレッタ卿──」

 「何でしょうか?」

 「モニターの件、申し訳ありません。修理に掛かった費用は自分に回して下さい」

 

 最後にそれだけ告げたスザクは踵を返すと部屋を後にする。

 そんなスザクの後ろ姿をヴィレッタと同じく無言で見送るロロ。その瞳が怪しく光る。

 

 ──残念ですけど、僕はあなたの期待に応える気は無いですよ? 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 その日の夕方。

 歓迎会の準備からやっとの思いで解放されたルルーシュは、ロロから情報を聞きだすべく彼の部屋に来ていた。

 だが、生憎とロロは別件でミレイに捕まっており、まだ部屋には戻っていない。

 無為な時間の浪費を嫌ったルルーシュは、その待ち時間を利用して携帯片手にC.C.と連絡を取っているところだった。

 

 『そうか、学園は支配下に置いたか。流石だな、坊や』

 「詰めの部分が残ってはいるがな。ところで、そこに卜部は居るか?」

 『生憎、今は席を外している。カレン達とトレーニング中だ』

 「……では、詳細は後で伝えるとして、卜部にはニイガタまでの安全な脱出ルートの検証と、新たな拠点構築のため、先発部隊として一足早くそこから抜け出てもらう。何時でも出発出来るように準備を進めておけと伝えておいてくれ。こちらの手筈が整い次第、指示を出す」

 『分かった。だが、手筈なら整っているんじゃないか?』

 「何を言っている。準備は必要だろう?」

 

 1年近く拘束されていた他の団員達は今のニイガタ、いや、エリア11の現状を詳しくは知らない。

 方や卜部は1年間ブリタ二アの追跡から逃げ続けた実績がある。

 ルルーシュは若干、会話がすれ違っている事に疑問を抱きながらも、この任務に彼以上の適役は居ないとの考えからそう言った。

 彼がそこまで考えている事を理解していたのか、さして興味が無かったのか。

 C.C.は、分かった、とだけ返した。 

 話が一段落したところで彼は問う。自分にとって、目下最重要課題となっている二人の行方を。 

 

 「何か分かったか?」

 

 だが、返って来たのは落胆する結果だった。

 

 『いいや、何も。相変わらずお前の妹に関しても、ライの事に関しても。何も分からず仕舞いだ』

 「そう……か……」

 

 C.C.が一拍の間も置かずに返した事にルルーシュは、本当に探しているのか? と若干訝しむも、それを口に出す事無く少し暗めの口調で返した。

 すると、それを受けたC.C.は何故か自分が悪いかのように思えたのか。

 

 『そういうお前はどうなんだ?』

 

 やや棘のある声色で問い返すと、ルルーシュは慎重に言葉を選びながら言った。

 

 「一人、気になる男が居る……らしい」

 『らしい?』

 

 彼女は、煮え切らない発言をするルルーシュを珍しく思いながら続きを待つ。

 

 「ゼロと同じ仮面を被った男。機情のトップに居る男だそうだ」

 『ギアスを使えば早かろう?』

 

 何を手を(こまね)いているのか、と思ったC.C.は、一番手っ取り早い方法を提示したが、ルルーシュはあっさりと否定した。

 

 「このエリアには居ない。まだ俺も見た事は無いが、普段はモニター越しに報告を行うそうだ。ギアスは使えない」

 『……その男が学園に監視網を敷いたんだな?』

 

 言葉尻に不快な色を滲ませる彼女にルルーシュの表情が曇る。

 

 「恐らくそうだろうな。だが、それがどうかしたか?」

 『いや、アレには随分と苦々しい思いをさせられたからな』

 「愚痴か? 魔女らしくないな」

 『それ程に付け入る隙が無かったんだよ。だが、その監視網も最早ザルに近いな』

 

 冒頭にルルーシュより今の学園の状況を聞いていたC.C.は素直な感想を口にしたが、彼は慎重な姿勢を崩さなかった。

 

 「表向きはな。だが、油断は出来ない」

 『まだ疑われているのか?』

 

 まるで他人事のような声色を響かせる彼女に、彼は僅かに眉を顰めた。

 

 「その可能性は否定出来ないが、忘れたのか?」

 『何をだ?』

 「機情の標的はお前だぞ!? 今もお前が喰い付くのを待ってるという可能性もある!!」

 

 思わず声を荒げたルルーシュだったが、C.C.はあくまでもC.Cだった。

 

 『やれやれ、モテる女は辛いな』

 

 彼女の軽口を聞いたルルーシュは、先程まで歓迎会の準備に追われていた事も相まって、一気に虚脱感に襲われる。

 最早、文句を言う気力も失せてしまった彼は力無く肩を落とした。

 

 「兎に角、今が好機なのは間違いない。奴らに隙を見せたのが仇になった事を教えてやろう。この学園は、もうすぐ俺の自由の城になる」

 

 ルルーシュが自分を奮い立たせるかのように、口角を吊り上げて陰惨な笑みを浮かべると、不意にC.C.が呟いた。

 

 『そうか。それは…………頼もしいな』

 「……おい、今の間は何だ? 何を考えている?」

 

 気になったルルーシュが追及するが、C.C.は何事も無かったかのように惚けて見せる。

 

 「ん? 何も。そうそう、準備の件だったな。卜部に伝えておく。それと、私からもう一つ知らせておく事がある」

 

 露骨に話題を逸らそうとするC.C.に、ルルーシュは眉間に僅かな不快感を刻む。

 しかし、続いて彼女から語られた内容には、露骨に表情を曇らせた。

 

 「新規の入団者だと? どこから其処(総領事館)に入った?」

 『妙な事を聞くな? 地下階層からに決まっているだろう?』

 

 予想だにしていなかったのだろう。

 彼女が疑問符を浮かべながらも提示した答え。

 それはルルーシュの予想した通りのものであり、また、卜部に指示する予定で検討していた複数のルート。その内の一つでもあった。

 だが、同時に一つの疑問を懐いた彼は思考を回す。何故、C.C.は新人達がそのルートを使った事が、さも当然であるかのように言ったのか、と。

 瞬間、最悪の答えが朧げではあったが彼の脳裏を過った。

 ルルーシュは、眉間に出来た皺を更に深く刻むと状況把握の為に更問いを行う。

 

 「……使える者は?」

 『先日行われたナイトメアを用いての模擬戦では、30名の新規入団者に対して僅か1名だったと聞いている。居合わせたカレンが言うには、その者もギリギリ及第点に届くかどうかだそうだが、熱意と将来性を買ったらしい』

 「銃火器を扱った者は?」

 『残念ながら皆無に近い。有り体に言えば、素人同然だな』

 

 その回答を以て、ルルーシュは己の懸念が事実であるとの結論に達した。

 

 「クソッ! やられた!」

 『……あぁ、そういう事か』

 

 彼が吐き捨てると同じ結論に至った彼女は共犯者を窘める言葉を紡ぐ。

 

 『おい、ルルーシュ。藤堂を誉めてやるんだな』

 「藤堂がどうした?」

 『ブリタニア側のスパイを疑った為、こちら側の入り口を今朝になって塞いでしまった。その事で、扇と一悶着あったようだ』

 

 事態の悪化に歯止めが掛けられている事に、ルルーシュは安堵すると思考を切り替えた。

 

 「流石は藤堂といったところか。それで……スパイは居たのか?」

 『確認したが白だ。ブリタニアの影響下にある者は居ない』

 「何故、そう言い切れる?」

 『私が直に見触れた結果だからな』

 「お前が自発的に動くとは、珍しい事もあるんだな」

 『ルルーシュ、茶化すな。お前が懸念するところは、私も理解していたつもりだ。だからこそ態々(わざわざ)動いてやった訳だが』

 

 そう、彼女は今回の出来事はルルーシュに()るものだと判断していた。

 だからこそ、彼がある程度選別した上で送ったであろう新人達に対する最終選別(スクリーニング)

 それを己に課しているのだろうと誤解していた。

 

 「安心しろ、ギアスに侵された連中(・・・・・・・・・・)は一人も居ない』

 

 誰の、とは言わなかった。それは二人の間では、暗黙の了解であったのだから。

 

 「複雑な気分だ」

 

 顔貌を歪めるルルーシュに対して、彼女は更なる根拠を提示する。

 

 『その際、ついでに全員の深層心理まで覗いてみたが、皆がブリタニア憎しの想いを持っていた。あの負の感情を持ったままスパイ活動は無理だろうな。もし仮に出来る者が居るのなら、ソイツは人間として終わっている』

 「分かった。信じよう……では、残る課題は一つだな」

 『なんだ、まだ有るのか?』

 

 相方の懸念はそれだけだと推察していた彼女にとって、最後の一言は青天の霹靂。

 そのため不思議に思い尋ねるも、返された言葉は彼女にとって見当外れなものだった。

 

 「C.C.。お前は1日に何食摂っている?」

 『可笑しな事を聞くな。ちゃんと三食摂っているに決まっているだろう?』

 「では、二食に削れ。併せて他の者達にも食料の消費を控えるように指示を出せ」

 『イヤだ。断る』

 「おいっ!」

 『ルルーシュ、今回は私の早とちりだったとはいえ、そもそもは連絡を寄越さなかったお前が一番悪い。私は健気にも自主的に労働した訳だが、お前はそんな私から報酬とは逆にピザを一枚奪おうとしているんだ。せめて納得出来るだけの理由を聞かせろ』

 

 頑として譲らぬ硬質な言葉の響きを受けて彼は動く。まずは決定的なすれ違いを言葉にせんが為に。

 

 「新規入団者の件だが、俺は何もしていない」

 『だろうな。それはお前の先程の悪態で察したよ。それで?』

 「俺は地下階層が通れる状態だという事は、まだ把握出来ていなかった。卜部を通す為の候補ルートではあったがな。しかし、これ以上は扇と藤堂をそこに呼んでからだ。二人にも危機意識は共有してもらう」

 『……少し待て』

 

 C.C.は携帯のスピーカーをONにすると、机に置いて席を立つ。

 次に、座っていたソファーから立ち上がると部屋を見渡し、電話の置かれた脇卓の傍まで歩み受話器を取る。

 そうして二人を呼び出すよう指示を出すと、受話器を置いた彼女は元の場所に戻ると両膝を抱えて沈黙に身を委ねた。

 待つ事3分。

 ルルーシュの耳元に部屋の扉が開く音と複数の足音が響いたかと思えば、間を置かずに呼び出された二人、扇と藤堂が口々に語る声が耳朶を打つ。

 

 『連絡してくれて良かった、ゼロ。お願いがあるんだ』

 『私も丁度確認したい事があった』

 

 二人からの上申を受けたゼロは端的に尋ねた。

 

 「新規の入団者の件だろう?」

 『あぁ。皆、俺達の力になりたいって危険を顧みずに――』

 「だが、新人達は目下のところ素人ばかり。そうだな?」

 『そ、そんな言い方は無いんじゃないか? 確かにそうだが、俺達も最初はそうだった。これから経験を積んでいけばいいじゃないか。確かに時間は掛かるかもしれない。でも、何か適性を見出だしてやれば……既にオペレーターとしての適性を持つ者も見つかった。お願いだ、ゼロ。君からも藤堂さんを説得してくれないか。藤堂さんは入り口を塞いでしまったんだ。彼等の中にブリタニアの内通者が潜り込んでいる可能性があるって』

 

 今回の一件をゼロの策だと判断していた扇は、新人達の気概に心打たれていた事も相まって、何とか撤回させようと必死に思いの丈をぶつけた。

 しかし、やはり扇も誤認していると察したルルーシュは、次に彼の純朴な心情に一定の理解を示しつつも、穏当に窘める。 

 

 「人間には得手不得手がある。適性については、扇。お前の言う通りだが、藤堂が懸念するのも当然の事だ。しかし、私が最も危惧するのはそんな些細な事では無い」

 

 その含みを持たせる物言いに、疑心を確信へと昇華させた藤堂が無言で居住まいを正す一方で、疑問に思った扇が問う。

 

 「聞かせてくれないか?」

 『総領事館の周囲は、ブリタニア軍が24時間体制で監視している』

 『あぁ、それが――』

 『その中を、そんな素人同然の実力しか無い彼等が、どうやってそこに辿り着いた?』

 

 それは入り込んで来る彼等を受け入れていたある時、ふと藤堂が内通者の可能性を疑う事となった理由と同じだった。

 事態を完全に把握した藤堂は口元を固く結ぶが、携帯口から(もたら)されたその言葉を、素直に受け止め切れない扇は瞠目する。

 

 「ま、待ってくれ! その言い方だとまるで――」

 『そうだ。私は地下階層が通行出来る事は把握していない! だからこそ可笑しいと言っている! 何故、地上で厳戒体制を敷いているにも関わらず、地下は無防備なんだ?』

 

 ゼロの言葉を受けて藤堂が動く。

 

 「それはこちらが最初に気にした事でもある。だからこそ塞いだ訳だが。ゼロ、やはりこれは君の指示では無かったか……」

 「で、でも、それだと妙ですよ、藤堂さん。皆は俺達からルートを聞いたと言っているのに」

 『なんだと?』

 「一人だけ、全く違うルートから来た者も居たようだがな」

 

 ゼロの驚きを余所に、C.C.が茶化すかのように割って入ると、その物言いに引っ掛かるものを感じたルルーシュであったが、先ずは決定的な誤解を解かんと否定の言葉を口にする。

 

 「C.C.には先に告げたが、今回、私は誰にもそんな指示は出していない」

 『それだけ聞ければ十分だ。扇、これではっきりしただろう。(みな)の気概を全く無視している訳では無いが、彼が指示したのでは無い事が明らかとなった以上、今の状況は逆に不自然だ』

 

 押し黙る扇から視線を外した藤堂は、机に置かれた携帯に向き直ると率直に己の不明を恥じる。

 

 「済まない、ゼロ。最初から受け入れるべきでは無かった。完全にこちらの落ち度だ。先に君に確認を取るべきだった」

 『連絡は此方から行う事を当初に厳命した筈だ。お前に落ち度は無い。しかし、懸念しているスパイの可能性については、既にC.C.が確認している。今の所はクリーンだ』

 

 断定してみせたゼロを不思議に思った藤堂はC.C.に視線を向けた。

 

 「根拠を聞かせて貰っても?」

 「女の勘だ」

 

 ソファーに寝そべると明後日の方向を向いたまま、不確実極まりない答弁を口にする彼女に藤堂の表情が曇る。

 

 「ゼロ、当てにしても良いのだろうか?」

 『そう思うのも無理は無いが、今は私を信じて欲しい』

 

 そこまで言い切られてしまえば、彼としても受け入れざるを得ない。

 藤堂は腕を組むと、やや不承不承ではあったが小さく頷いた。

 

 「分かった」

 『続けるぞ。新人達にそのルートを教えた者について、何処まで把握している?』

 「それについては、黒の騎士団の制服を着た誰かだったという事までしか分かっていない」

 「だから、俺はてっきりゼロの特命を受けた誰かが、と思っていたんだ」

 

 藤堂が説明に被せるかのように、扇は弁解混じりに己の判断根拠を口にした。

 ルルーシュは、盲信も考え物だと顔眸を歪めると、やや落胆の声色で問う。

 

 「顔は見ていないんだな?」

 『あぁ。流暢な日本語で接触して来たそうだが、何れも日が落ちてからだったらしい。その際、バイザーを着用していたそうで、素顔までは分からなかった、と』

 「クソッ!」 

 『悪辣だな』

 

 C.C.が相変わらずの姿勢のまま他人事であるかのように呟く。

 ルルーシュは歯噛みした。

 

 「あぁ、全くもって(たち)が悪い」

 『なぁ、ゼロ。まさかとは思うが――』

 「お前の推察する通りだ、扇。黒の騎士団を騙る何者かが手引きしている。最悪な事に、今の我々には新たな団員を受け入れるだけの余力が無い。特に、物資については中華連邦からの配給に頼らざるを得ない状況だからな」

 『で、でもスパイは居ないんだろう!? なら、例え誘導されていたとしても彼等の想いは本物だ! 今更――』

 「既に受け入れた者達を追い返すような真似はしない。それをすれば噂は直ぐに広まり、求心力の低下は免れないからな」

 

 その言葉に、扇はようやっと溜飲を下げると安堵の吐息を溢した。

 

 「しかし、スパイが居ないにしても、これでブリタニアの意図は明瞭となった。籠城する敵に対して、捕虜を敢えて送り付ける事で受け入れざるを得ない状況を創出する。そうして食料の消費を加速させる事で、不平不満を募らせ、内部から徐々に崩壊させる腹積もりだろう。古典的な手法だが、今の我々には効果的だ!」

 

 携帯を握るルルーシュの左手に力が籠る。

 日本においても戦国時代を紐解けば、似たような事例も見つかるだろう。

 有名処で言えば、羽柴秀吉が使った戦法により、多くの餓死者を出した鳥取城の悲劇だろうか。

 それを思い描いたのか定かでは無いが、藤堂は苦悶の声を上げる。

 

 「考え無しに受け入れ続けていれば、餓え殺しにあうところだったな」

 

 沈黙が彼等の間を満たすと、団員達の心意気に胸を打たれ、やや視野狭窄に陥りかけていた扇の頬に一筋の冷や汗が伝う。

 それもその筈。

 事実、周囲を取り囲むブリタニア軍は、運び込まれる物資についても一昨日から検閲体制を強化し始めていたのだから。

 だが、これについて中華連邦側は強く抗議の声を上げる事が出来ない立場にいた。

 何故なら、ブリタニアは電気や水道といったおよそインフラと呼ばれる物には一切手を付けていない。

 また、物流についても完全に止めた訳では無く、これまで通り駐在する中華連邦関係者の人数から逆算して、導き出された必要量については通過を認めていたからだ。

 しかし、元より総領事館に潤沢な蓄えなどある筈も無い。

 当初、ブリタニアが兵糧攻めを取った場合をも想定していたルルーシュにしてみれば、バベルタワー脱出時の現有戦力であれば、一月程度は十分に持ちこたえられると見積もっていたが、続く虜囚解放と今のペースでの増員を考慮に入れれば、二週間と持たずに瓦解の兆しが顕れると踏んでいた。

 しかし、独断専行ではあったものの、結果的には藤堂の判断が最悪の事態を押し留めている。

 だが、それでも彼等には時間が無い。

 ルルーシュにとって、最も憂慮するべき事態への対処が成されていなかったからだ。

 

 「餓え殺しになるのは、何も我々に限った話では無い。このままでは、何れ中華連邦との間で物資の奪い合いが発生する。私が最も危惧するところは、それを嫌った連中が想定よりも早く我々を見限る可能性だ。ブリタニアも流石に中華連邦の領地と同義である其処には手出しを控えているからな。仮に安全な退去を連中が望めば、両手(もろて)を上げて確約するだろう。新たな総領事館の場所さえ提供して、な」

 

 なお、これは未だ中華連邦本国にも伏せられている事ではあるが、ルルーシュがギアスの支配下に置いていた高亥は、過日、星刻の手により排除されている。

 その事をC.C.から聞かされていたルルーシュとしては、現在、実質的な中華連邦側の責任者と目される星刻との関係性は薄氷を踏むようなもの。

 よって、仮に星刻がそのような決定を下したとすれば、それはつまるところ、現在の総領事館が中華連邦の領土では無くなる事を意味するだけでは無く、置き土産とばかりに高亥殺害の責まで押し付けられる可能性を孕んでいた。

 当然の事ながら、それはルルーシュにも織り込み済み。

 

 「連中がそこを放棄した場合、我々は唯一の盾を失う。かといって、無理やり押し留めるのは今後の関係を視野に入れれば愚策でしかない。しかし、そうなれば待っているのは完全な孤立。場合によっては、総領事殺害の濡れ衣すら被る事になる。早急に脱出の手筈を整える必要が有る。最も、それこそがブリタニア側の本命だろうがな」

 『でも、脱出といっても一体どうやって?』

 

 扇が疑問を挟むと、ルルーシュは矛先を変えた。

 

 「C.C.。先程気になる事を言ったな? 一人だけ全く違うルートから来た、と」

 『あぁ、どうやらソイツも他の者達と同じルートを知らされたらしいが、途中で道に迷ったようだな。さ迷い歩いた結果、地下階層よりも更に下のルートから辿り着いている』

 「更に下だと?」

 『地下鉄跡だ』

 

 瞬間、ルルーシュの脳裏に閃きが走る。

 

 「藤堂! お前にはその新人が通ったという地下鉄跡を今日中に走査し、脱出ルートを確立しておいて欲しい!」

 『それは構わないが、危険ではないか?』

 

 疑念を表明する彼に対して、ルルーシュは自身の推察を口にする。

 

 「危険度であれば、地下階層の方が遥かに上だ。一見、素人が通れるほど無防備に見せかけてはいるが、実際はブリタニアが用意したルートだ。間違い無く見張られているだろうからな」

 『こちらを死兵にしない為に、完全包囲するのでは無く敢えて逃げ道を残す、か。攻城戦で用いられるものだな』

 「あぁ。だが、その新人は偶然そこ(地下鉄跡)に迷い混んだと仮定すれば、そのルートは連中も把握出来ていないイレギュラーの可能性が高い」

 『問題は、その地下鉄跡こそが最も安全な逃げ道だと、そう思い飛び込んだ後の事だが……』

 「そこで藤堂、扇! お前達にもう一つ頼みたい事が有る」

 『何だろうか?』

 

 依然として慎重な姿勢を崩さない藤堂と、無言で聞き入っている扇に向けて、ゼロは事も無げに言い放った。

 

 『塞いだ入り口を開けろ』

 

 携帯口から告げられたその要請に愕然とする三人。

 いち早く立ち直った藤堂が動く。

 

 「正気か!? それをすれば――」

 『来るもの拒まず、だ。入団希望者はこのまま受け入れ続ける』

 

 これまで、その知略を如何なく発揮させていたというのに、一転して自らの首を絞めるかのような、そんな真逆の対応を要求するゼロ。

 傍目に聞いていたC.C.は愉快気に笑った。道化を演じるつもりか、と。

 しかし、残る二人にはそんな軽口を叩ける程の余裕は無かった。

 酸欠に陥ったかのように口を忙しなく開閉する扇と、二の句が告げない藤堂。

 特に、ゼロの真意が推し量れなかった藤堂は焦燥に駆られたのか、再起動すると思わず噛み付いた。

 

 「馬鹿な! 今の我々には受けれるだけの余力が無いと言ったのは、ゼロ! 君だろう!? それに君の事だ。(いず)れ物資供給すら完全に断ってくる事態も予想しているのではないか? そうなれば、足腰が立たなくなった頃合いを見計らったブリタニアに雪崩れ込まれて、我々は一貫の終わりだ!」

 『だからこそ、全員を退去させる為の露払いとして、卜部には敢えて地下階層を通ってニイガタまで向かってもらう』

 「ニイガタ? 何故だ?」

 『中華連邦本国に身を寄せているラクシャータ達とニイガタ沖で合流してもらう為だ。人数は一個小隊とする。聞いているか、扇! お前はその方面の地理に明るい者達を集めろ。その上で人選は藤堂、お前に任せる』

 

 その指示に、救出後に行われた会合の場で、南に言われた言葉を思い起こした扇は唇を噛み締める。危険と目される地下階層の通過を命じるなんて。やっぱり、ゼロは俺達を駒として使うつもりなのか、と。

 すると、そんな彼の思いを代弁するかのように棘の有る口調で藤堂が詰問した。

 

 「……それは卜部達に決死隊となれ、と言っているようにも聞こえるが?」

 

 対するルルーシュは瞳を閉じると首を横に振った。

 

 「こちらに安全性を誤認させる為に、一度だけなら通す公算も有る。確かに危険な掛けである事は認めるが、ブリタニアの意識を地下階層だけに留めておく方法はこれしか無い。その上で、実際の脱出時には地下鉄跡を使う。だが、危険を察知すればどちらも即座に撤退するよう厳命しろ。特に、卜部はバベルタワーで死に急ごうとした前科が有るからな」

 『卜部が?……分かった。厳守させる』

 

 疑念が払拭された藤堂が端的に返すと、駒扱いされている訳では無いと理解した扇はそう詫びると同時に己を恥じた。

 

 『済まない、ゼロ。君を疑ってしまった』

 「気にするな。私にも卜部と同じく前科(ブラックリベリオン)が有る」

 『……君は、本当に変わったと思う』

 

 扇は改めて心情を吐露するが、ルルーシュとしてはライが命懸けで守ろうとした者達だ。

 何れ取り戻した際、彼を悲観させる事を嫌っただけの事。しかし、一方でするべき時はするとの決意を持っていたのもまた事実。

 

 『誤解の無いように言っておくが、我々が行っているのは戦争だ。ブリタニア相手に何の犠牲も出さずに勝利を得る事など不可能だという事だけは、肝に銘じておいて欲しい』

 「私は軍人だ。それが必要な時が有る事は承知している」

 「お、俺もだ! でも、出来る事なら……」

 

 藤堂は明瞭な覚悟を口にするが、しかし、扇はまだそこまでの境地には至れていない。

 ゼロは重ねて告げる。

 

 『今回はまだそこまでの事態には至っていないというだけだ。卜部達や地下鉄ルートの結果如何によっては決死の脱出を試みてもらう事になる。覚悟はしておいてくれ』

 「承知した」

 「あ、あぁ……分かった」

 

 彼らはこの時、ある意味初めて危機意識を共有するに至ったと言っても良い。

 特に扇が受けた衝撃は大きい。

 幾つもの危機を乗り越えて見せたあのゼロをして、危険な綱渡りを余儀なくされる程、自分達は追い込まれているのだと。今、置かれている状況は決して楽観視出来るものでは無いのだという事実に、今更ながらに気付かされたからだ。

 逸る気持ちを抑えて藤堂が問う。

 

 「ゼロ、その時期はいつ頃を想定している? プランがあれば聞かせて貰いたいが」

 『4日以内だ』

 「早いな」

 

 思わぬ答えに藤堂と扇が目を見張ると、ルルーシュは理由を開示するべく口を開いた。

 

 「昼間、政庁から発表があった。新総督着任の件だ。聞いているか?」

 『あぁ。こちらも中華連邦本国から通知があったと、今朝方ここの責任者(星刻)から聞かされた。それまでには出ていけ、とも』

 「言われずとも出て行ってやろう。それと、その際、新総督の名前は聞いているか? 大衆向けには発表が無かったが」

 『いや、彼もそこまでは聞いていないそうだ』

 「……妙だな」

 

 困惑するゼロに釣られた扇は不安げな声色を上げた。

 

 『な、何か問題でもあるのか?』

 「一応は友好関係にある筈の中華連邦本国に対してまで名前を伏せるという事が、だ。これまでブリタニアがそういった事を執った記憶は無い。しかし、それならそれで好都合だ。4日後に着任する新総督は余程の大物が来るのかもしれない。そうであれば、周囲に展開しているブリタニア軍も万が一の事態を考えてそちらに人員を割り振る必要が出て来るだろう。結果がどうであれ、お前達をそこから脱出させるのはその時が最適解だろうな。それまでに新人達も付いて来れる程度には鍛えてくれ」

 『分かった! 有難う、ゼロ!』

 

 扇が朗らかに礼を述べる。

 しかし、そのスケジュールは後にスザクから新総督の名を聞かされる事で、大幅な修正を余儀なくされる事となるのだが。

 

 「では、早速行動に移してくれ」

 『承知した』

 

 そうして二人は足早に退出して行った。

 それを見届けた後、起き上がったC.C.は扉をロック。

 再びソファーに戻った彼女は、携帯を手に取りスピーカーをOFFにすると耳元に当てる。

 

 『怪しいな』

 「お前もそう思ったか」

 『バカにするな』

 

 C.C.は非難するが、ルルーシュは颯爽と聞き流す。

 

 「新総督の件は何れ分かる事だ。この際、問題では無い。問題は今の総督代行のギルフォードだ。正規軍が動いている以上、今回の件にも絡んでいる筈だ。しかし、藤堂達の処刑の件といい疑問が残る。こんな搦め手を使う男だったか? 似つかわしく無い手段だ」

 

 ギルフォードの背後に何者かの跳梁跋扈を感じたルルーシュは、真っ先にシュナイゼル辺りを想定する。

 そんな最中、C.C.が問い掛けた。

 

 『主の件でタガが外れたんじゃないか?』

 「コーネリアがどうしたというんだ?」

 『半年ほど前にブリタニアを出奔したらしく、現在に至るまで行方知れずらしいぞ』

 「そういった事は早く教えろ。しかし、そんな報道は一度も無かったと記憶しているが?」

 『私独自の情報さ』

 「情報源は?」

 『乙女の秘密だ』

 

 先ほど危機意識を共有した筈が、お返しとばかりにそれをおくびにも出さないC.C.。

 その態度に、咎めるのを諦めたルルーシュは口論を避けた。

 

 「まぁ、いい。しかし、それならそれでコーネリアの動きも気になるな。俺を恨んでいる筈だ。それについても、引き続き探ってくれ」

 『報酬は?』

 「……そこから脱出した後なら、好きなだけピザをくれてやる」

 『魅力的だが、足らないな。お前は今後も送り込まれる連中の真贋を私に判断させる腹積もりだろう? 知らなかったか? あれは大変な労力を伴うんだ』

 

 実際はそこまで大袈裟な事では無い。

 彼女の言葉の節々から滲む楽し気なイントネーションを拾ったルルーシュとしても、それは薄々感じ取っていたところではあった。

 しかし、珍しく奮起しかけている彼女を下手に刺激した結果、臍を曲げられては元も子もない。

 彼は、敢えて追及の言葉を呑み込むと同時に、彼女が望む報酬を提示する。

 

 「お前はこれまで通り三食摂っていい」

 『男に二言は無いな?』

 「無い! この強欲な魔女め!」

 『何だ、知らなかったのか?』

 「知っている。再認識しただけだ」

 

 吐き捨てるかのように皮肉を口にした彼だったが、案の定、彼女に効果などあろう筈も無い。

 

 『それは良かった。それじゃあな。おやすみ、ルルーシュ』

 「おい! まだ話は──」

 

 ルルーシュの引き留めも空しく、言質(げんち)を取ったC.C.はこれ幸いとばかりに通話を切ってしまった。

 

 「何なんだ? あの魔女は……」

 

 ルルーシュは携帯から視線を移すと部屋の窓を見やる。外は茜色に染まっていた。

 

 「あいつはこんな時間から寝る気なのか?」

 

 そう呟いた後、ルルーシュはロロが戻るまでの間、ただ無言で夕陽を眺めていた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 その翌日の事。

 政庁ではちょっとした騒ぎがあった。

 その騒ぎの元凶たるナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグは、止めに入った同僚の姿を認めると笑みを浮かべる。

 

 「おぉ! スザク」

 

 彼は自身の駆るナイトメア、トリスタンのコックピットから身を乗り出すと嬉しそうな声で名を呼んだ。

 そして、コックピットから降りたジノは破顔しながらスザクの元に駆け寄ると、出迎える形となった彼は少々呆れたように言う。

 

 「ジノ。ランスロットを持って来て欲しいと頼んだのに……」

 「あぁ、週明けにロイド伯爵と一緒に来るよ。それより何だい? その服──」

 「これは制服だよ。学校帰りだからね」

 「へぇ、これが……」

 

 興味津々といった様相を見せるジノ。

 スザクは苦言を呈する。

 

 「ジノ。幾ら名門貴族とは言え少しは普通の──」

 

 だが、ジノはそれを聞き流しながら背後に回るとスザクを抱き締めるかのように体を預けた。

 それは彼なりのスキンシップ。

 理解していたスザクはその行為を拒否する事は無かった。いや、何度言っても聞かない事から半ば諦めに近い感情を持っていたと言う方が正しいかもしれない。

 しかし、自分よりも大きな相手に凭れ掛かられては堪らない。

 

 「あの……重いんだけど──」

 「しっかしさぁ。このエリアは随分と物騒だと聞いてたのに、蓋を開けてみれば肩透かしも良いところだよな。例のイレブンの王様(ゼロ)が復活したにしては、警備体制が緩々じゃないか」

 

 スザクの抗議を華麗に聞き流したジノは、振り返ると己の機体、トリスタンの両脇に佇む首を失った二機のグロースターにやや蔑みの視線を送る。

 そのコックピット内では、ギルフォードの留守を預かるクラウディオとエドガーが奥歯を噛み締めていた。

 

 「聞いていたって、誰にだい?」

 

  スザクに問われた彼は向き直る。

 

 「出立前にさ、鉄の淑女(・・・・)に挨拶に行ったんだよ」

 「ファランクス卿の元に?」

 「そうしたら何て言ったと思う? あの人を切り殺しそうな瞳で、ジノ、要らぬ好奇心は猫をも殺すわよ、だってさ。その後で陛下にも呼ばれて機情がここで作戦行動中だって釘を刺されるし、期待していたんだけどなぁ」

 「君は行く先々で色々と無茶をするからじゃないか?」

 「酷いな、スザク。私は──」

 「ジノ、本当に重いんだけど」

 

 スザクが彼の抗議の声を遮った時、一帯に一人の女の声が響いた。

 

 『お仕舞い?』

 

 同時に一機のナイトメアが二人の前に降り立つと、その姿を認めたスザクは思わず呟いた。

 

 「モルドレッド……アーニャまで来ていたのか」

 『お仕舞い?』

 

 声の主はナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。

 彼女が今一度問うと、身体を離したジノが代わりに答える。

 

 「終わりだってさ、スザクが」

 『ふーん………………つまんない』

 

 心底残念そうに呟いたアーニャはコックピット内で携帯を弄り始めた。

 ジノとアーニャ。

 二人の実力を良く知っているスザクにとって、軍事面でこれ程頼りになる援軍は無いだろう。更には、自分の部下達も到着する予定である。

 スザクはモルドレッドを見上げながら一人思う。

 

 ──これで、戦力は十分過ぎる程揃う事になる。ルルーシュ、明日の歓迎会で全てを明らかにしよう。

 

 ◇

 

 スザクが一人決意を懐いていた頃、通路の天上に巧妙に隠匿されていたカメラが彼等の姿を捉えていた。

 それから送られて来る映像をモニター越しに眺めながら、彼等の会話に聞き耳を立てている人物が二人。

 その内の一人が言う。

 

 「盗撮と盗聴。共に感度は良好みたいだね」

 

 すると、もう一人はその言葉を少々不快に思ったようだ。

 

 「何となく嫌な響きだな……諜報活動と言え。V.V」

 

 だが、指摘されたV.V.は愉快そうに笑みを溢すだけで反省の色を見せない。

 

 「ライ、君は妙な所に拘るよね。でも、政庁の至る所に取り付けるなんてさ……よく気付かれなかったね」

 「設置した者達は皆、元は優秀な鼠だったからな」

 

 関心した様子でいるV.V.を尻目に、ライはさも当然のように返した後、手に持ったティーカップに視線を落とす。

 彼は満たされた紅茶に映る己の顔を見つめつつ、感慨深げに言った。

 

 「しかし、便利な時代になったものだ」

 「それ、何だか古くさい台詞だよ?」

 

 クスクスと笑うV.V.を無視してライは語る。

 

 「今も昔も、情報というのは鮮度が命だ。あの頃は早馬を出しても手元に届くにはそれなりの時間が掛かったからな」

 「人の歴史は戦いの歴史。戦争が通信技術を進歩させたんだよ」

 

 その指摘にライは成る程な、と思うと同時にその元凶の名を口にしようとするが、V.V.が機先を制した。

 

 「それをさせているのが神。でも、僕は思うんだ。人々を争わせる神なんて必要無い。そんな神様なら……殺してしまおうって」

 「それがお前の願いだったな」

 

 陰惨な響きを受けたライは思い出したかのように呟くと、言葉の続きをV.V.が担う。

 

 「それだけじゃないよ。それは君の母親と妹の仇にもなるんだから」

 「あぁ、だからこそ私はお前達と共に歩んでいる。その為ならば、どれ程汚れた事であろうとも行うまで。これもその一環だ」

 

 顔をあげたライは、再びモニターに映るスザク達の姿を眺め見る。

 今の彼の行為は、所属やその目的も違うとはいえ、単純に考えれば仲間を監視している事に他ならない。

 最も、今の彼はそういった手合いを心の贅肉として、欧州で既に削ぎ落してしまっている。

 だが、それを差し引いたとしても盗み見ているという事実に代わりは無い。

 端から見れば良心の欠片も無いと思われるに足る行為。

 だが、V.V.はそう思ってはいなかった。

 

 「諜報機材を設置したのは公の場所だけだよね?」

 「それがどうした?」

 「つまり、プライベートな場所だけは避けたという事……僕はそこに君の最後の良心を感じるよ」

 

 良く分かってるでしょ? とでも言いたげに、V.V.の口元が弧を描く。

 その時になって、ようやく彼に視線を向けたライではあったが、表情を崩す事は無かった。

 

 「私は必要と認めれば、何処であろうとも設置させるが?」

 「折角褒めてあげたのに……」

 

 呆れ顔のV.V.を見て、ライはこの時初めてそれまでの表情を崩した。

 

 「それは気付かなかった」

 「……嘘吐き」

 

 口元をつり上げるライ。

 V.V.が軽く溜息を吐いてモニターに視線を向けると、彼も同じように視線を戻す。

 

 「しかし、枢木一人でも億劫なのだが……よもやラウンズを増員するとは。皇帝め、ナナリーの件といい情報共有を何だと思っている」

 「君ならどうとでも出来るでしょ? 頑張ってね。ライ」

 

 先程の事を引き摺っているのか、V.V.は他人事のように突き放した。

 ライは、少々やり過ぎたと思いながら、微苦笑を浮かべたその口元にゆっくりと紅茶を運ぶ。

 その時、短い着信音が辺りに響いた。

 紅茶を一息に飲み干したライは、次いでパネルを操作し発信者を確認するとスピーカーに繋げる。

 

 「私だ」

 『定時報告。昨晩、新たに荷物を八つ、発送致しました』

 「受け取り手側の反応は?」

 『これまでと変わらず、呑み込んでいます』

 「返品の兆候は?」

 『皆無』

 「根拠を述べよ」

 『本作戦当初、総領事館内に建設された簡易宿舎らしき建造物。その増築が今朝方より始まっているのを確認しています』

 

 告げられた根拠に納得しつつも、同時に僅かばかり疑念を深めたライは腕を組むと押し黙る。

 『如何なさいますか?』

 「作戦は継続せよ。同時に、新総督の着任が既に中華連邦側にも周知された以上、近々、連中(黒の騎士団)が動く可能性が有る。気取られぬよう地下階層の監視を強化し、そこを連中が使った場合、その中にC.C.が居れば捕らえろ。ただし、判断に悩めば手を出さずに追跡せよ。その後の監視は正規軍に引き継げ」

 『Yes,your majesty』

 

 返答と共に通信が切れる。

 深い溜息を一つ吐いたライは、玉座の背凭れに深く身を委ねると、脚を組み例の仕草(指輪に触れる行為)を取るが、それを見咎めたV.V.が問い掛けた。

 

 「どうしたの? 作戦は順調なんでしょ?」

 「妙だ。此方の意図に気付いていない筈が無いのだが」

 「敢えて乗ってるって事? 人員確保を優先させたのかな?」

 「そうであれば、直ぐにでも食料に困窮する事に思い至る筈だ。そもそも物資の流入量を絞り、こちらが選別した人員(役立たず)を敢えて送ったのは、連中を早くあの場から動かす為のハラスメント目的でしかない」

 「だからと言って、僕にも断食を強要しなくても良いんじゃない?」

 

 V.V.は苦言を呈した。

 理由は本作戦立案時に起因する。

 ライが考えた当初、彼はコード保持者(C.C.)の身体が断食に何処まで耐えられるか検証が必要として、身近に居るV.V.にそれ(被検体)を要求していたからだ。

 なお、当然のことながら激しく拒絶したV.V.と、彼に助け舟を出した皇帝に窘められた結果、未遂に終わったが。

 しかし、非難の眼差しを差し向けるV.V.に対して、ライは臆面もなく言い放つ。

 

 「死にはしないだろう?」

 

 良心の呵責を一切感じさせないその物言いに、呆れ果てた様相でいるV.V.を無視して彼は続ける。

 

 「しかし、本当に気付かず受け入れ続けているなら度し難い。中華連邦本国を通じて退去を促した後に押し入るまで」

 「そうなれば、ゼロは要人を盾にするかもよ?」

 「有り得ない。それをすれば万が一脱出出来たとしても、その後の関係悪化は必死だ。しかし、出来れば是非やって貰いたいものだな。その時は救出の大義名分が得られるからな」

 

 嘲笑うライ。

 そう、それこそが彼の本命。

 契約や取り決めを何よりも重んじるよう宿命付けられている(・・・・・・・・・)ライにとって、全ては皇帝が取り決めた方針に矛盾する事無く、大手を振って武力行使に乗り出せる大義名分を得んがため。

 仮に黒の騎士団がお人好しに徹した結果、飢え殺しを選ぶならそれも良し。

 一方で本格的な脱出を試みるならば、手薄に見せかけた地下階層を使った瞬間に包囲殲滅と正に二段構えの殺し技。

 元来、ライとしてはゼロが立て籠もりを選択した時点で、運否天賦によるか余程のかイレギュラーでも無い限りとの条件は付くものの、勝敗は決したとの見立てでいる。

 だが、それは既にルルーシュの深謀遠慮によって(おおよ)そ見破られてしまっているばかりか、最も懸念する内の一つ、イレギュラー(地下鉄跡)が発生している事までは把握出来ていなかった。

 しかし、それは詮無き事。

 エリア11がまだ日本と呼ばれていた頃。

 その首都の地下に蟻の巣のように広がっていたそれは、彼が持っているトウキョウ租界の見取り図の何処にも記されてはいなかったのだから。

 

 「そんな事言って。実際は中華連邦の関係者(もろ)とも殲滅するんでしょ?」

 「するものか。不幸な事故が此処彼処(そこかしこ)で起きるぐらいだ」

 「あぁ、やっぱり君は最高だよ」

 

 回答に満足したのか。破顔するV.V.にライは白眼視を向けた。

 

 「まさか、誉めているのか?」

 「そのつもりだけど?」

 「全く嬉しいとは思えない。一体誰のせいで私がここまで苦労していると思っている」

 

 能面顔で吐き捨てたライ。

 V.V.は苦笑した。

 

 「素直じゃ無いなぁ。それとも、まだ、(ナナリー)の事を根に持ってるの?」

 「それもあるが、V.V.。皇帝の手綱はしかと握っておけ。名を伏せているとはいえ、新総督の着任を中華連邦側に通知するなど、何を考えている」

 「不味かったかな?」

 

 ライは小首を傾げるV.V.を射殺さんばかりに睨み付けた。

 

 「秘密裏に事を進ませたにも関わらず、黒の騎士団がそれに食い付けば、そこから漏洩元を辿れる。場合によっては、それだけで仮面(ゼロ)の内側にまで迫る事が出来る可能性もあった!」

 「シャルルには、軽率な行動を控えるようにお願いしておくよ」

 

 悪びれる素振りを見せないV.V.の態度に、ライは小さく溜め息を溢した。




ここまでお読み下さりありがとうございました。

ルルーシュとライの謀略戦が書きたかったんですが、しかし、これはある意味で戦闘描写よりも難しいですね・・・。
遅筆なのはご容赦下さい。

今後とも、よろしくお願いします。
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