コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

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お久しぶりです。
前回から大分間隔が空いてしまいましたが、投稿します。
本編進まず間幕となりますが、それでも宜しければ……。


TURN 03.65 ~ 暗闘 ~

 時刻が朝の10時を迎える頃。

 エリア24は政庁にある謁見の間。

 そこには左右に分かたれると直立不動の姿勢を維持する大グリンダ騎士団。その主だった面々の姿が見受けられる。

 彼等が一様に見つめるのは玉座に腰掛ける(あるじ)、マリーベル・メル・ブリタニア。

 その彼女の瞳は己の正面。今回の会談の為に特設された一台のモニターに向けられており、二分割されたその画面には二人の異母兄が映っていた。

 

 『どうだろう、マリーベル。君の騎士団をエリア11に派遣するというのは』

 「それは見送らせていただけないかと。シュナイゼル兄さま」

 

 彼女が毅然とした態度で辞退を申し出ると、残る一人が再考を促そうと口を開く。

 

 『何とかならないかい?』

 「……申し訳ありません。オデュッセウス兄さま」

 

 先程とは異なり、僅かばかり視線を落としたマリーベルが謝罪の言葉を述べると、その耳にシュナイゼルの独白めいた呟きが響く。

 

 『残念だね。君達も乗り込んでくれたら、彼女としても心強いだろうに』

 「彼女?」

 

 意味深な言葉にマリーベルが思わず小首を傾げると、その疑問に答えたのはオデュッセウスだった。

 

 『あぁ、まだ触れは出されていないけど、次に総督としてエリア11に赴任するのはナナリーなんだよ』

 『兄上……』

  

 生来の優しさから来るものか。緘口令が敷かれているにも関わらず、全く悪気なく機密情報を口にする長兄に、シュナイゼルは苦笑しつつもすかさずフォローに回る。

 

 『マリーベル。オフレコで頼むよ?』

 『あ、いや、済まない……』

 

 頭を掻き微苦笑を湛えたオデゥッセウスの口元から謝罪の言葉が零れたが、マリーベルは疑念を更に深めた。

 

 「父上は何をお考えなのですか? ゼロの元にあの子を送り込むなんて……」

 『やっぱり、マリーもそう思うかい?』

 『兄上。ナナリーが望んだ事ですよ?』

 『そうは言っても心配だよ。いや、彼等を信頼していない訳じゃないけれど……』

 「彼等、とは?」

 

 会話に疎外感を感じた彼女が三度問うと、シュナイゼルは事の顛末を口にする。

 

 『陛下は護衛としてナイトオブセブン、枢木卿を派遣された。しかし、兄上は更にヴァインベルグ卿、アールストレイム卿の二人までも増派されるお力の入れようでね』

 『それは……申し訳ないと思っているよ』

 

 ユーロピア戦線の指揮を執るシュナイゼルの手元から、オデュッセウスは異母妹(ナナリー)可愛さに半ば駄目元で二人のラウンズのエリア11派遣を皇帝に願い出た結果、了承を取り付ける事に成功していた。

 しかし、彼は喜ぶ反面、同時に後ろめたさをも感じていた事から肩を竦めると、そこに弟から気遣いの声が送られる。

 

 『兄上から事前にご相談を持ち掛けられた際にお止めしなかったのは私ですから、どうかお気になさらぬように。しかし、まさか陛下がお認めになられるとは思いもしませんでした。一体、どのような手管を使われたのか。後学の為にも是非お聞きしたいものですが……』

 『買い被り過ぎだよ。私はただ、父上にお願いしただけさ』

 

 オデュッセウスがそう述べるのも無理は無い。

 ナナリーの身を案じた彼は、ただ純粋に願っただけだったのだから。

 いや、だからこそシュナイゼルは思い至れないのだ。

 兄のその嘘偽り無い(・・・・・)言葉こそがシャルルを動かしたという事実に。

 弟からの称賛入り交じった言葉が面映(おもは)ゆいのか。頬をかいたオデュッセウスは笑い返す。

 しかし、そんな二人とは対象的に、マリーベルの顔貌に浮かんでいたのは呆れの色。

 

 「オデゥッセウス兄さま。それは流石に贔屓が過ぎるのではありませんか? シュナイゼル兄さまも、余裕があるのでしたら一人ぐらい此方に寄越して下さっても宜しかったのに」

 『それは済まない事をしたね』  

 『か、代わりにヴァルトシュタイン卿に出向いてもらう手筈は整えたんだよ……そう多くは望めないだろうけど……』

 

 詰問(きつもん)めいた妹の声色を、さらりと受け流すシュナイゼルとは異なり慌てたのか。取り繕うかのように語るオデュッセウスであったが、それは彼女の興味を引く言葉でもあった。

 

 「ナイトオブワンが欧州(ユーロピア)に?」

 

 そう呟いた彼女は口元に手を当て思考を回し始める。

 対する二人は黙して語らず。思案顔を浮かべる妹からの言葉を待つ。

 流れる沈黙。

 ややあって、考えを纏めた彼女は口を開いた。

 

 「欧州であれば、此方からも派遣出来ますが?」

 『それは願ってもない事だね! ……どうだろう?』

 

 両手(もろて)を上げて賛意を示しつつも、オデュッセウスは弟への配慮を忘れない。

 一任されたシュナイゼルは微笑と共に彼女の瞳を見据えると念押しした。

 

 『良いのかい?』

 「えぇ、ユーロ・ブリタニアであれば目と鼻の先ですもの。それに、帝国最強の騎士の戦いぶりを間近で見られるのは、私の騎士達にとって決して悪い事ではありませんから」

 

 寧ろ良い機会です、と彼女が締め括る一方で、この辺りが落とし処か、と判断したシュナイゼルは小さく頷いた。

 

 『では、君の好意に甘えるとしよう』

 

 提案が受け入れられると、玉座から立ち上がった彼女は優雅に腰を折った。

 

 「拝命いたしました。確か、シュナイゼル兄さまは……」

 『あぁ、今ユーロ・ブリタニアに向かっているところだよ。行程通りなら、明日の夕方には着けるかな』

 「では、ご到着に合わせて合流するように手配を進めておきます」

 『助かるよ』

 『いやぁ、良かった良かった』

 

 笑みを崩さぬシュナイゼルと朗らかに笑うオデュッセウス。

 彼女もまた、そんな二人に微笑み返すと着座する。

 互いの利益が一致した事から、会談が小休止の雰囲気を醸し出し始めると、暫しの間、取るに足らない世間話を始める二人の兄弟(マリーベルとシュナイゼル)

 それに相槌を入れつつ気を良くしたオデュッセウスが動く。

 

 『そうだ! マリー、君は復帰したナナリーとまだ言葉を交わしていないだろう? 先に総督となった先達として、気構えを伝えてあげる事は出来ないかい?』

 

 気配りの人、オデゥッセウス・ウ・ブリタニアらしいその言葉に、人が良過ぎる、と彼女は内心で溜息を吐くが。

 

 「えぇ、喜んで」

 

 それを(おくび)にも出さず、了承の言葉を返す妹の姿にようやっと肩の荷が降りたのか。オデュッセウスは満足げに何度も頷く。

 そんな兄に向けて、休息を切り上げたマリーベルは行動を開始する。

 

 「本来のご希望に沿えず申し訳ありません。ですが、今は此処の統治を磐石なものとする事に専念したいので」

 『いやいや、謝るのはこっちの方だよ。そんな最中にこんな事をお願いしてしまって済まないね』

 『くどいようだが、本当に構わないのかな?』

 

 心配顔を浮かべるオデュッセウスと、温和な面持ちのままのシュナイゼル。

 対象的な二人に向けて彼女は胸を張る。

 

 「ご心配無く。流石に全員を送る事はご容赦願いますが、対応は可能ですので」

 『確か【マドリードの星】と言ったかな? そこで蠢動(しゅんどう)するテロリスト集団は』

 「はい。この地に蔓延る反ブリタニア勢力は、残すところ連中のみです。近い内に終わらせますわ」

 『先程、君はラウンズを欲しがっていなかったかな? 聞きようによっては梃子摺(てこず)っているようにも受け取れる発言だったけれど?』

 

 シュナイゼルから挑発にも似た言葉が浴びせられる。残る兵力で対処可能なのかな? と。

 が、それにあからさまな反発を示す程彼女は幼くは無い。

 顎を引いたマリーベルは淡々と事実を口にする。

 

 「無理にとは申しておりません。確かに、連中は装備だけを見れば軍のそれと比較しても遜色が無いのは事実です。過日に行った掃討作戦では、サザーランド以外で新型のKMF(ナイトメアフレーム)の姿も確認されましたから。ですが、特筆すべき抵抗を見せたのはそのパイロット程度。全員の練度は決して高くありませんわ」

 『その報告書は読んだよ。例のテロ支援組織(ピースマーク)がバックアップしている可能性があるね』

 「まず、間違い無いかと。ですが、一介のテロリストにあれほどの装備を整えられるだけの資金力があるとも思えません。恐らく裏には――」

 『ユーロピア共和国連合が居る、だろうね』

 

 シュナイゼルが推察を披露すると、オデュッセウスは瞳を見開き呆気に取られた。

 一方のマリーベルはというと、彼女はまだ何処にも上げていない情報を既に次兄が把握しているという事実に警戒感を深める。

 が、そんな内心とは裏腹に、表面上は朗らかに微笑んでさえ見せた。

 

 「えぇ、此処エリア24の統治が完了すれば、連中は東はユーロ・ブリタニア。西は私達(わたくしたち)から挟撃を受ける事になるばかりか、昨今、シュナイゼル兄さまがドーバー海峡沿岸部に橋頭保を築かれましたから」

 

 彼女は昨今の欧州戦線の戦況図を脳裏に描きながら滔々(とうとう)と語った。

 ユーロピア共和国連合が頼みの綱とした加盟国イギリスの海上戦力を潰走させると、同時に北海の発電所を抑えたシュナイゼル。

 最も、共和国側も過去の戦訓からインフラの重要性を再認識しており、新たな発電施設を内陸に分散建設させていた事からその影響は限定的。しかし、続けざまに橋頭保を造られたのは痛恨の極みだった。

 今はユーロ・ブリタニアの侵攻を防衛線手前で押し留め、沿岸部に陣取る帝国本隊に対しては後背地のイギリスがブリタニアが進撃の動きを見せると、その背を狙う素振りを見せる事で何とか釘付け出来てはいるものの、肝心要の共和国軍本隊に押し返すための戦力の捻出は現時点では叶っていない。

 そこに、エリア24の統治を完了させたマリーベルが参戦してくれば、破局が現実味を帯びてくる。

 だからこそ、ユーロピア共和国連合は撹乱を主目的にエリア24の各地でレジスタンスを組織すると、仲介者(ピースマーク)を通じて陰ながら支援していた。

 最も、数多あったその組織も着任した彼女が徹底的に潰して回っている。

 その際に獲た捕虜に対する尋問(拷問)の結果、共和国側の動きを正確に把握していた彼女であったが。

 

 「形振(なりふ)り構ってはいられないのでしょう」

 

 あくまでも自身の推察であるという体を装うと、マリーベルは改めてシュナイゼルを注視する。

 

 「しかし、マジノ線()は今の運用では抜けないでしょうね」

 

 シュナイゼルは苦笑した。 

 方舟の船団の一件に端を発した大規模な戦線の押し上げ。

 それを阻止するべく、ユーロピア共和国連合が遅滞戦術により稼いだ時間を使い軍人のみならず民間人すら惜し気もなく投入して構築した絶対防衛線。通称、マジノ線。

 現在、戦争指導をヴェランス大公より帝権を使い強権的に譲渡させた皇帝シャルルは、総責任者にシュナイゼルを指名。

 勅命に添えられた封書の通りに、彼はその攻略を改めてユーロ・ブリタニアへ命じていたが結果は散々たるもの。

 それはそうだろう。

 何せ後方支援を碌に行わせていなかったのだから。

 故に、今やマジノ線は欧州貴族の屠殺場と化していた。

 

 「何故、未だに無為な攻略を命じられているのですか? シュナイゼル兄さまであれば如何様にでも料理出来るでしょうに」

 『それが陛下のご意志だからさ』

 

 シュナイゼルが微笑みと共に語ると、首を傾げるオデュッセウスとは違い、彼女はその言葉の裏に隠された本当の意味を正確に理解した。

 即ち、皇帝はユーロ・ブリタニア(反乱未遂)を赦してはいないという事。

 そればかりか、二度と身の丈に合わぬ野望を抱く事がないようにとの意思の元、その戦力の削減をユーロピア共和国連合にぶつける事で行わせている。いや、あわよくば共倒れすら狙っているのだろう、と。

 また、それが分からぬシュナイゼルでは無いというのに、唯々諾々と従っていることから、彼もそれに同意したという事を見て取ったマリーベル。

 しかし、言葉尻からシャルルとシュナイゼルの冷徹な一面を垣間見た筈の彼女は、逆に先程の意趣(挑発)返しとばかりに微笑んで見せると言った。

 

 「怖いお方」

 

 すると、思わぬ反撃だったのか。シュナイゼルは困ったように笑った。

 

 『君が早めに其処(エリア24)の統治を完了させてくれると、打てる手札が増えるのだけどね』

 「それは宰相閣下としてのご用命でしょうか?」

 『君の兄として、だよ』

 

 シュナイゼルがやんわりと訂正の言葉を口にすると、それまで兄妹の舌戦を不安な面持ちで聞き入っていたオデゥッセウスが割って入った。

 

 『本音で言えば、こんな事はもう()めにして欲しいよ……』

 「私では力不足と仰るのですか?」

 

 思わぬ伏兵の登場に、マリーベルは形の良い柳眉を僅かに歪ませる。

 しかし、それは早とちり。オデュッセウスは何処までもオデュッセウス(お人好し)だったのだから。

 

 『誤解だよ。ユフィの一件もあるじゃないか。私としては、何時までも妹を血腥い戦場に立たせておきたくは無いんだよ』

 「お心遣い痛み入ります。ですがオデュッセウス兄さま。テロリストの撲滅こそが(わたくし)の幸せです」

 『年頃の女の子がそんな事を言うものじゃないよ』

 

 どうしてこうも妹達は血の気が多いのか、とオデュッセウスが肩を落とすと、心外だとでも言わんばかりにマリーベルが指摘を飛ばす。

 

 『あら、コゥ姉さまという先例がございますが?』

 『それだよ。彼女も良い歳なんだから、この際、伴侶を――』

 『そのコーネリアの事だけれど……』

 

 話が脱線仕掛かったため軌道修正に乗り出したシュナイゼル。その意図を察したマリーベルが応じる。

 

 「こちらでも捜索はしていますが、依然として」

 

 彼女が(かぶり)を振ると、オデュッセウスは再び肩を落とした。

 

 『彼女は一体どうしたんだろう。皇籍を返還してまで何を探しているのかな……』

 

 そんな長兄を一瞥した彼女は、口元に手を当て考え込む素振りを見せる次兄に対して更問いを続ける。

 

 「姉上は本当に欧州(ユーロピア)に?」

 『宰相府で足取りを追った結果、エリア24行きの輸送船に偽名で乗り込んでいた事までは掴んでいるよ。それを手引きしたのが特務総督府だという事もね』

 「ファランクス卿が?」

 『本当かい!?』

 

 突飛な名前だったのだろう。驚く二人を余所にシュナイゼルは続ける。

 

 『つい先日、宰相府を通じて送った質問状の返答がありましたが、知らぬ存ぜぬの一点張り。鉄の淑女らしく、頑として口を開いてはくれないようです。最も、彼女は元々コゥの乳母の娘ですから、何かしらの口止めをされているのかもしれませんね』

 『それにしてもだよ……』

 「宰相閣下の追及にも口を割らないとは珍しいですね」

 『一年程前から、かな。頑なな態度に磨きが掛かっていてね』

 

 シュナイゼルが告げた言葉を最後に押し黙る面々。

 三人の間を再び沈黙が支配すると、それを会談終了の合図と見做したのか。シュナイゼルが動く。

 

 『兄上、そろそろ……』

 『あぁ、もうそんな時間かい? そうだね。名残惜しいけれど、この辺りでお開きとしようか』

 

 弟の意図を汲み取ったオデュッセウスは腕時計の針を一瞥すると妹に向き直る。

 

 『マリー、くれぐれも無理をしてはいけないよ?』

 「ありがとうございます。オデュッセウス兄さま。それと少し早いですが、ご婚約おめでとうございます」

 

 予期していなかったのか。

 オデュッセウスは瞳を見開くと気恥ずかしそうに笑った。

 

 『本当に気が早いよ』

 「シュナイゼル兄さまが直々に動かれている以上、決まったようなものですから」

 『これは、手を抜けないね』

 

 シュナイゼルは妖艶に、オデュッセウスは照れ臭そうに笑うと、最後に別れの言葉を口にした兄妹(きょうだい)達は通信を切った。

 

 

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 コードギアス 反逆のルルーシュ L2  

 

 ~ TURN 03.65 暗闘 ~

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 「お疲れ様でした。シュナイゼル殿下」

 「ありがとう、カノン」

 

 それまでやや離れた位置で会談を見守っていたカノンが、両手に持ったトレイに置かれた飲み物(紅茶)と共に歩み寄る。

 受け取ったシュナイゼルは僅かに口を付けた後、カップに写る己と視線を合わせた。

 そこに、策謀の眼差しで今は誰も映す事が無くなったモニター画面を見つめたままのカノンが口を開く。

 

 「思いの外、あっさりと事が進みましたわね」

 「彼女が派遣を受け入れた事がそれ程意外かな?」

 「はい。此方の思惑に気付かれると思っていましたから」

 「いいや、彼女は気付いているよ」

 「えっ!?」

 

 驚きと共に振り向くが視線はそのままに。

 シュナイゼルは淡々と語る。

 

 「気付いた上で乗ったのさ。何時でも呼び戻せる範囲に派遣するだけに留めたのが良い証拠だ。全く、我が妹ながら抜け目が無いね」

 

 探り合いが余程愉しかったのか。

 シュナイゼルは僅かに口角を釣り上げたが、カノンは逆に疑念を深めた。

 

 「であれば尚更分かりませんわ。危険に身を晒す可能性が高まる事ぐらい――」

 「彼女が所有する戦力を正確に把握しておく必要がある、と最初に言ったのは誰だったかな?」

 「それは……私ですが……」

 

 指摘を受けたカノンは言葉に詰まる。

 そう、派遣要請は只の建前。

 此度の会談におけるシュナイゼル側の真なる目的は、マリーベルが有する武力を測る事にこそあった。

 その理由として、彼女が率いる大グリンダ騎士団は、中核を成す騎士達については概ね公表されていたが、逆に彼等を除けば他は全て分厚い機密の壁に阻まれていたからだ。

 そのため、流入する資金額や資材量から逆算した結果、一皇族が有するにはしては少々過度なものではないか。何れは殿下を脅かす存在になるのでは? と危惧したカノンが提案し、シュナイゼルも興味を持ったが事の発端。

 なお、その際に彼はもう一つの懸案事項も併せて告げたのだが、それにシュナイゼルが興味を示す事は無かった(・・・・)

 因みに、会談にオデュッセウスを同席させたのはシュナイゼルの案だ。

 自分と一対一の会談ともなれば、妹は露骨に警戒するだろうと踏んでいた彼は、先の一件で負い目を感じていた兄を緩衝材にするべく言葉巧みに誘い出していた。

 主が手ずから動いているというのに、と己を恥じたカノンは顔を伏せた。

 そこにシュナイゼルが注釈を付記する。

 

 「そもそも、危険だと思っていないとしたら?」

 

 その言葉に、前提条件が誤っているという事に気付かされたカノンは顔を上げると思わず問う。

 

 「皇女殿下の持つ武力は、此方の想定を越えていると?」

 

 だとしたら、とやや焦りの色を見せるカノンであったが、シュナイゼルは落ち着かせるかのように、やんわりと(たしな)める。

 

 「全兵力を派遣するのは見送ると言っていたけれど、可能性は高まったと見ていい。最も、それは派遣されて来る人員構成を見た上でないと最終的な判断は出来ないけれどね」

 

 カップを置いたシュナイゼルはカノンに視線を合わせた。

 

 「後は君のやりたいようにやればいい。但し、それを受けて彼女がどう動いたか。それだけは詳細に報告してくれるかな?」

 

 実のところ、カノンはこの後の作戦計画をまだシュナイゼルに伝えてはいない。

 かといって、それが独断専行に当たるかと言えば答えはNOだ。

 昨今のエリア24の状況を鑑みれば、己の行動は既に主も予測済みである事を理解していたがため。

 ただし、その作戦計画自体は余り誉められたものでは無い事も立案者として重々承知していたからだろうか。

 

 「ご心配にはなりませんか?」

 

 今ならまだ止められるとでも言いたげに、カノンは同意を乞うかのような眼差しを向けた。

 しかし、シュナイゼルは兄とは違い全く後ろめたさを見せる事無く言い放つ。

 

 「彼女なら何とかしてみせるだろうさ」

 「……結果は宜しいのですか?」

 「分かり切った結末を詳細に聞かされる事ほど(つま)らないものは無いよ」

 

 シュナイゼル(虚無の申し子)は小さく嗤う。

 彼にとって、テロリスト(マドリードの星)が殲滅されるのは既に規定事項。

 目下のところ、彼の興味はそれに際してマリーベルがどのような手札を晒すのか。其処にしか無かったのだから。

 

 「……承知しましたわ」

 

 そう言って腰を折るカノンに対して、小さく頷いたシュナイゼルは自室に戻るべく立ち上がる。

 

 「君の悩みの種(例の筆頭騎士)が派遣されて来るといいね」

 

 妖艶に笑ったシュナイゼルは、最後にそれだけ告げると返答を聞く事なくその場を後にした。

 扉が締まり主の姿が消えると、一人残ったカノンはカップを片付けながらこの度の己の策謀、その遠因となった四人の人物を思い起こす。

 一人目は他の騎士達と違って容姿やそれまでの経歴が一切不明な謎の男、ライアーだ。

 カノンが彼に着目するようになった原因は一年程前まで遡る。

 それまでの筆頭騎士であったオルドリンを理由も告げずに突如解任したマリーベル。

 そんな彼女の動きを不審に思うも、間を置かずに後釜に座ったライアーが、時を同じくして彼が目下のところ要注意人物と定める事となった二人の内の一人と似通った名前を持っていたからだ。

 そう、二人目はライ・S・ブリタニア。

 ライアーとライ。

 現れた時期が近く、また前歴不明という共通事項があった事から、悩んだカノンはライアーがライの仮の姿では無いかとの仮説を立てるようになる。

 最も、それが無理筋に近いものであるという事は当の本人が誰よりも承知している。

 しかし、荒唐無稽であるとして即座に切って捨てる事は出来なかった。

 考えれば考えるだけ。時が経てば経つ程に。腑に落ちない理由が幾つも浮かび上がってきたからだ。

 一つ。

 ライの御披露目の場にマリーベルは現れなかった事。

 一つ。

 ユーロ・ブリタニアにあのナイトオブセブン、枢木スザクとジュリアス・キングスレイなる謎の軍師を引き連れて乗り込んだという事。

 一つ。

 それをヴェランス大公の側近であるミヒャエル・アウグストスからの事前照会により把握するに至ると、ユーロ・ブリタニアに忍ばせていた諜報員を使って密かに動向を報告させていたが、それがある時を境に途絶えたかと思えば、いつの間にかライ一人だけが本国に帰国していたという事実と、その際に使用したであろう帰還ルートが未だ判然としない事。

 そして最後はユーロ・ブリタニアとエリア24が地理的に近かった事が挙げられる。

 併せて、これは後に知った事だが、ライが帰国した時期は、丁度反逆者シン・ヒュウガ・シャイングがカエサル大宮殿の掌握に動いていた頃だった。

 また、理由は今以て不明だが、定期的に報告を上げていた諜報員が何故か徒党を組んでその反逆者の命を狙った結果、返り討ちの目に遭って(蜂の巣にされて)いたという真実が彼の推察に拍車を掛ける。

 果たしてなんの備えもなく、完全武装した兵士達が敷いた厳戒体制下から単身で脱出出来るものなのかしら? と。

 その結果、仮に殿下(ライ)筆頭騎士(ライアー)が同一人物であれば、脱出に際して密かに皇女殿下(マリーベル)の助力を得る事は可能ではなかったか、との考えを導き出したカノンは、冒頭に述べた仮説に傾倒してゆく。

 全くもって大外れと言わざるを得ない。

 最も、カノンの名誉の為に付け加えると、彼はその仮説をシュナイゼルに駄目元で報告していた。

 しかし、ライアーには興味を示す一方で、ライに対しては彼の予想通り。

 これまでの例に漏れずシュナイゼルはライに関してだけは食指を動かそうとはしなかった。

 マリーベル相手であれば、シュナイゼルが後塵を拝する事は無い。しかし、マリーベルとライが繋がっていればどうなるか。

 ライを認識した瞬間、あからさまに思考を放棄してしまう今のシュナイゼルが二人に勝てる保証は何処にも無い。

 そのため、いよいよ焦ったカノンは裏付けを取るべく自らが秘密裏に動くことを決意する。

 何故、自らが動かざるを得なかったのかと言えば、その時点の彼は情報収集に於いて深刻な問題を抱えていたからだ。

 そう、居なかったのだ。マリーベルの防諜網を掻い潜り、ライアーの人となりを探れるだけの人材が。

 最も、その原因は彼自身の失策によるもの。

 優秀な小飼の人員達。その多くを機密情報局の内偵に使った結果、唯の一人も戻る事が無かったがため。

 僅かばかりの自責の念に苛まれるが、同時にゆっくりと、しかし着実に追い込まれている事を再認識したカノンは歯痒い想いを抱く。

 やがて懐へ手をやると一枚の写真を取り出した彼はそこに写る人物を見つめる。

 黒髪に仰々しい眼帯で半面を隠す青年。謎の軍師、ジュリアス・キングスレイを。

 彼は前述の二人とは異なり、出生からその華々しい経歴の細部に至るまで完璧に追跡出来たのだが、カノンはその名をこれまで一度も聞いた事が無かった。

 そのため、(あらた)めて経歴を追うも結果は変わらず(齟齬無し)

 また、その際に関係者達からヒアリングを実施したが、どれも一様に彼を褒め称えるものばかり。

 しかし、カノンはそれを不気味に思う。

 兵士を駒のように使い捨てる作戦が多々見受けられたというのに、彼等からは恨み言の一つも聞かれなかったからだ。最も、それは単衣(ひとえ)に皇帝の努力(ギアス)の賜物なのだが。

 また、死亡した諜報員からは生前、ライと一度だけ舌戦を繰り広げたとの報告を受けてはいたが、それ以外は概ね友好的とのレポートも挙げられていた。

 しかし、そんなジュリアスの行方は二人とは真逆。(よう)として知れない。

 ふと、カノンの脳裏に最後の一人の姿が過る。

 苛立ちから眉間に皺を寄せたカノンは写真を見詰めつつ、自らを苦境に追い込んだ怨敵の姿をジュリアスに重ねた。

 

 「貴方が、カリグラ……なのかしら?」

 

 理由があった。

 カリグラの纏う服装がジュリアスのそれと似通っていた事と、ライとカリグラは行動を共にするのが多かった事が所以だ。

 いや、普段は離宮に籠りっぱなしのライと、所在が掴めない事が多いカリグラ。二人が確実に目撃されるのは皇帝との晩餐会(月の日)に限られていた事から、カノンは二人は相当に近い間柄であると踏んでいた。

 そのため、欧州に渡ったライを補佐するとの名目で敢えて素顔を晒して同行したのでは無いか、と。

 これまた大外れである。

 しかし、現状の情報だけで真実に気付ける方がこの場合はどうかしている。

 また、短慮は危険である事などカノンに対しては釈迦に説法。

 暫しの間、無言で写真を見つめ続けるが、今はやれるだけの事をやろう、と心機一転、気を取り直した彼はそれまでの推察を白紙に戻すと写真をしまう。

 そうしてシュナイゼルの後を追うように部屋を後にした。

 

 ◇

 

 モニターがブラックアウトしたのを確認したマリーベルは、静かに立ち上がると眼下に居並ぶ配下の者達に告げた。

 

 「天空騎士団並びに重装騎士団(大グリンダ騎士団の両翼)は速やかに第一級兵装を整えなさい。出立は明日の正午。場所はユーロ・ブリタニアはカエサル大宮殿。以後は着任された宰相閣下の指揮下に入る事。以上、大グリンダ騎士団総帥にして帝国皇女、マリーベル・メル・ブリタニアの名に於いて命じます」

 「「「Yes, Your Highness!!!」」」

 

 一糸乱れぬ答礼が謁見の間に響き渡ると一人の騎士が歩み出た。レオンハルトだ。

 

 「意見具申!」

 「直答を許します」

 

 了承を得たレオンハルトは、己を止めようと慌てて肩に手を伸ばしたティンクの手を払い除けた。

 そうして片膝を着き頭を垂れ臣下の礼を取った彼は自身の思いを口にする。

 

 「両翼を派遣されるのはご再考いただけませんか? この時期に皇女殿下の身辺警護を疎かにする事には一抹の不安が残ります」

 「リードルナイツとシュバルツァー将軍は残します。それとライアー。貴方も」

 

 名を呼ばれた老将と筆頭騎士が小さく頷き了承の意を示す一方で、不安を払拭出来ないのか。顔を上げたレオンハルトは尚も食い下がる。

 

 「では、せめて情報セクションにも監視を強化するよう通達を出す許可をいただけませんでしょうか?」

 「情報漏洩を懸念しているのなら無駄です。どうせ流されますから」

 「な、内通者が居るんですかっ!?」

 

 ライアーを除いた配下の騎士達が、レオンハルトを筆頭にざわめき始めると、そこに更なる驚愕の言葉が告げられる。

 

 「いいえ。流されるのは宰相閣下です」

 「まさか!」

 

 臣下の礼を解くと勢い良く立ち上がったレオンハルト。

 マリーベルは冷めた視線で迎えた。

 

 「シュタイナー卿。貴方は何故この時期に宰相閣下が派遣要請をしてきたと思っているのですか? ご丁寧にオデュッセウス兄さまなんて根っからの善人まで連れ出して」

 「……その……分かりません。何故でしょうか」

 「私達は本国から危険視されています。今回は暗に釘を刺しに来られたといったところかしら」

 「釘を刺す?」

 「いい加減、戦力情報を開示しろと言って来ているのです……秘匿し過ぎたのかもしれません」

 

 マリーベルが溜め息を吐くと、レオンハルトの斜め後ろに控えていた騎士が歩み出る。ティンクだ。

 

 「では、天空騎士団と重装騎士団を派遣される理由は……」

 「えぇ。お教えして差し上げる為です」

 

 マリーベルは泰然とした面持ちで語った。

 彼女の推察はシュナイゼルの考えを正確に射抜いていたが、副官であるカノンの思惑までは思い至れていない。最も、そこまで察するのは流石に無理があろうし、結果的には挫く事に成功している。

 一方で、二の句が告げないのはレオンハルト達だ。

 何と言えばいいのか悩んむ彼等は互いに目配せしあうだけ。

 そんな彼等に対して、彼女は今一度命令を口にした後、話は終わりとばかりに踵を返す。

 

 「将軍。後は任せます」

 「Yes, Your Highness」

 

 自身のお目付け役(忠実な僕)である男に事後を託した彼女は、未だ物言いたげなレオンハルト達の視線を振り切るかのように足早に場を後にする。

 その背をライアーが追うと閉まる扉。

 長い廊下を進み私室へと戻る道すがら、付き従うライアーが不意に疑念を口にした。

 

 「情報が流されるのを承知の上で、敢えてそれを食い止めようとしないのは何故だ? 奴ら(マドリードの星)を誘い込むつもりか?」

 「えぇ、どうせ流されるのであれば無駄に動く必要は無いから。食い付いてくれると有難いわ。リードルナイツの実践投入(テスト)が出来るし、彼等を呼び戻す口実が出来るもの。最も、シュナイゼル兄さまにしてみれば織り込み済みの事でしょうが」

 

 彼女は本国での自身の評価を表裏併せて正確に把握していた。

 だからこそ、この度のシュナイゼルの提案の裏に隠された真意にいち早く気付くと、敢えてそれに乗ったのだ。シュナイゼルの推察通り、何時でも呼び戻せる範囲に派遣する事を保険として。

 兄妹と言えども帝位を争うライバル。

 そんな皇族間の暗闘を察したライアーは、それ以上の詮索を控えると話題を変える。

 

 「……リードルナイツ。あの奇妙な連中か」

 「不満?」

 「いや、そうじゃない、ただ……」

 

 普段と異なり、やや歯切れが悪いライアーを不思議に思ったマリーベルが足を止めて振り返ると、彼はシリアスな口調で問う。

 

 「マリー、大丈夫か?」

 「あら? 何がかしら?」

 「顔色が優れない」

 

 指摘を受けたマリーベルは微笑みから一転して真顔になる。

 彼女がこうも警戒心を露にするのは珍しいとは思いつつも、しかして彼は尋ねずにはいられなかった。

 

 「君が懸念する本当のところは何だ? テロリズムを何よりも憎む君が、その権化とも言えるゼロを討伐する機会をみすみす逃した。その理由は?」

 「……何故、私がエリア11に彼等を派遣しなかったのか。それを不思議に思っている、という訳ね」

 

 己の行動原理を彼は正確に理解してくれている。

 その事実に僅かながらも充足感を感じたものの、それは彼女の心底に呪いのようにこびりついたモノを払拭するまでには至らない。

 

 「……危険、なのよ」

 「君から見てもゼロは危険か。しかし、本当にそれだけか?」

 「何が言いたいの?」

 

 全く引く素振りを見せない態度に柳眉を僅かに逆立てると不快感を露にするマリーベル。

 しかし、ライアーは臆する事なく踏み込んだ。

 

 「例の勅使との一件以来、俺は君が何かに怯えているんじゃないかと思っている。他の連中もそうだ。口には出さないだけで、皆、君の様子が何処かおかしいと感じている」

 

 先程のレオンハルトの行動はそこから来ていたのか、と彼女が理解を示す一方で、一旦言葉を区切ったライアーは次に硬質の声色で問う。

 

 「何があった?」

 「何がって……」

 

 虚を突かれる形となったマリーベルは思わず言い澱んだ。

 その時、彼女の脳裏に(よぎ)ったのは灰銀色した暴虐の王。その姿。

 

 「……何でも……無いわ……」

 

 骨の髄まで食い込んだ恐怖が沸々と滲み出る。

 マリーベルはその形の良い桜色の唇を静かに噛むと踵を返す。

 明確な拒絶の意思の表れに、流石のライアーもそれ以上の詮索を避けたのか。

 互いに口を噤むと無言で歩みを再開する二人。

 付き従うライアーの物言いたげな視線をその背に受けつつ、マリーベルは一人思う。

 ゼロを自らの獲物と公言してみせたあの(いにしえ)の王、ライゼルの事を。

 伝え聞く伝説と、あの時に垣間見せた苛烈な性情から察するに余りある絶対の決意。

 それらを見知った今となっては、万が一にも派遣した先でぶつかったとなれば。いや、派遣するだけでも約定を違えたと断じられてしまえば、最後。

 その時はエリア24に地獄が現出する事になる。

 ライゼルの持つギアスの前では、今の己が唯一心の拠り所としているライアーにも疑念の目を向けなければならなくなる。

 それ即ち、全てを奪われるという事なのだから。

 恐怖から逃れるかのようにやや速足で歩む彼女は、同時にこれまで幾度も検討してきた打開策を講じようと再び思考を回す。

 が、自分の(ギアス)を以てしてもライゼルには決して届かない事はあの場で嫌というほど理解してしまっていた。

 マリーベルの持つギアス、絶対服従にはあの時V.V.が語ったように発動条件が。いや、彼女にしてみれば唯一とも言っていい欠点が存在した。

 それは、己を敬っている相手でなければ通じないという事だ。

 彼女のギアスは、対象が持つ己に対する敬愛の念を増幅させる事によって支配下に置く事が出来るのだが、その強度は土台によって左右される。

 よって、ゼロに二乗関数を幾ら掛けてもゼロにしかならないのは自明の理。

 しかし、対するライゼルのギアスは違う。

 如何なる相手であろうとも、声を聞かせるだけで従わせる事が出来る。

 遥かな過去、敵対する兵士達を意図も容易く支配下に置くと、平然と同士討ちをさせてみせたという逸話からも明らかだ。

 己のギアスの支配下にある者達にまで通じるかは未知数ではあるが、それはギアスの根源とも言えるV.V.が太鼓判を押した事からも望み薄である、と彼女は推察していた。

 最も、当のV.V.にしてみれば確証あっての事。

 ギアスは使い続ける事でその強度を増してゆく。

 二度の暴走の果てに最後はシャルルと同じく己の意思だけでそれを押さえ込むと、到達者の位階にまで登り詰めて見せたのだ。その力はマリーベルの上を()く。

 故にあの時V.V.は言ったのだ。誓いを破れば彼は全てを奪いに現れるよ、と。

 当然の事ながら、それはマリーベルが与り知る事ではない。

 しかし、彼女にしてみれば、失敗(イコール)全てを失う危険な博打。

 やはり、検討にすら値しない分の悪い掛けでしかないと結論を出した彼女が顔を上げると、目の前には目的地(私室)の扉が見えた。

 無言のまま、そこを開け放った彼女は部屋に入りベッドまで歩み寄ると、ライアーがその後に続いた。

 扉が閉じるのを待って彼女はようやっと口を開く。

 

 「貴方が居てくれれば、それでいいの……」

 

 呟きと共に振り向いた彼女は、彼の胸元に撓垂れ掛かる。

 感じる鼓動と暖かさに落ち着きを取り戻したのか。

 体を入れ替えた彼女はゆっくりと彼をベッドに押し倒す。

 されるがままに、抵抗する事なく全てを受け入れる彼に、華憐な笑みを送りながら、彼女は彼の目元を隠す仮面に触れると丁寧に外し始める。

 そうして現れた素顔に、嘗ての大切な友人(オルドリン)を幻視した彼女はそっと唇を重ねた。




ここまでお読み下さりありがとございました。
マリーベルのギアスの発動条件はよく分からなかったので、完全な創作です。
それと、もともと1話で収めようとしていたのですが、長くなり過ぎたので区切りの良いところで切らせていただきました。
なので、次話も間幕になります。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。

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