コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

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戦闘描写って難しいですね。
読み辛かったらすいません。


TURN 04 ~ 太平洋奇襲作戦【Part 2】 ~

 太平洋の大海原を眼下に見下ろして、一隻の浮遊航空艦が飛行していた。

 その艦、アヴァロンのメインブリッジでは、手元のコンソールパネルに視線を落とすと眉間に皺を寄せたセシルが、常人には近寄り難い雰囲気を醸し出している。

 そんな只ならぬ雰囲気に気付いたロイドは、彼女の顔を覗き込むなり言った。

 

 「どうしたの? えらく不機嫌みたいだけど?」

 「あれ、どうにかならないんですか?」

 「あれって?」

 

 ロイドは皆目見当がつかないのか首を傾げてみせる。

 すると溜息一つ、小さく肩を落としたセシルはようやっと顔を上げるとそっと後方へ視線を移す。

 彼女の視線の先に居たのは、足を組みブリッジに据え付けられた椅子に悠然と腰掛けると、手に持った書類に目を通す仮面の男、カリグラの姿だった。

 普段、腰に据えている剣は彼が嚮団に居る時と同じ位置、椅子の左側に立て掛けてある。

 それを見て、ロイドはやっとセシルの不機嫌な理由を理解したのだが。

 

 「どうにもならないでしょ」

 

 考える素振りなど微塵も見せずに言い放つロイドに、セシルは心底呆れた表情を向けた。

 

 「どうにもならないって……ロイドさん。この艦はどなたの持ち物でしたっけ?」

 「あれ? 忘れちゃったの? シュナイゼル殿下だけど?」

 「知ってます!」

 

 飄々としたロイドの態度に業を煮やしたセシルは思わず声を荒げたが、慌てて口を塞ぐと恐る恐る背後の様子を伺う。

 そこには、相も変わらずに我関せずといった様子で書類を捲っているカリグラの姿が。

 ホッと胸を撫で下ろしたセシルは囁く。

 

 「あそこには、本来そのシュナイゼル殿下や他の皇族方しか座れない筈ですよ?」

 「じゃあ、それを彼に言える? 僕はとてもじゃないけど言えないねぇ」

 「ハァ、それは――」

 

 締まらない笑みを浮かべるロイドを見て、深い溜息と共にセシルが苦言を呈しようとしたその時、二人の元に血相を変えた兵士が走り寄って来た。

 

 「ロ、ロイド博士ッ!」

 「何々? どうしたの?」

 

 尋常では無い様子を見てもなお、嬉しそうに瞳を輝かせるロイドとは対照的に、セシルが不安そうに兵士を見やると――。

 

 「新総督を乗せた旗艦より救援要請を傍受しました!」

 

 逼迫した声色で語る兵士。セシルは顔を蒼褪めさせた。

 一方、これにはロイドも僅かばかりに瞳を細めると硬質の声色で問う。

 

 「内容は?」

 「ハッ! 太平洋上で黒の騎士団の奇襲を受け――」

 『格納庫ニ繋ゲ!』

 

 兵士の言葉を遮ると、書類を放り出したカリグラは勢い良く立ち上がる。

 命令を受けた通信兵は慌てて回線を開いた。

 

 「…ど、どうぞ!」

 

 一瞬の間の後、ブリッジにある大型モニターにギルフォードの上半身が投影された。

 

 『"ギルフォード卿"。黒ノ騎士団ガ現レタソウダ』

 

 開口一番告げられた事実に、ギルフォードは複雑な表情を浮かべた。

 

 『あなたの願望通りになりましたか』

 『貴卿ノ懸念通リデモアルガ?』

 『……確かに』

 

 思わぬ指摘だったのか、ギルフォードは苦笑した。

 

 『今頃"アプソン"ハ貴卿ヲ連レテクレバ良カッタトデモ思ッテイルダロウナ』

 

 そう言ってカリグラは僅かに双肩を揺らすと言葉を続ける。

 

 『出撃セヨ。指揮ハ私ガ執ル』

 『貴卿が、ですか?』

 

 ギルフォードの表情が露骨に曇ると、カリグラは腕を組み顎を上げた。

 

 『問題デモ?』

 『……Yes, My Lord』

 

 一拍置いたギルフォードは肯定の言葉を告げると通信を切った。

 大型モニターがブラックアウトすると同時に、立て掛けてあった剣を手に取り腰に据えたカリグラは、足早にブリッジを後にしようとする。

 しかし、そんな彼の歩みをロイドの言葉が引き留める。

 

 「あのさぁ――」

 『止メテモ無駄ダゾ?』

 「まさかぁ。こっちとしてもエナジーウィングの実戦データは喉から手が出る程欲しいからね。止める気なんて更々無いよ」

 「ちょ、ちょっとロイドさんっ!!」

 

 ロイドの嬉々とした口振りに慌てるセシルを無視して、足を止めるも振り返る事無く、相手の真意を今一つ読み切れないでいたカリグラは問う。

 

 『デハ何ダ? 手短ニ済マセロ』

 「紅い機体には気を付けてね」

 『……"紅蓮弐式"ノ事カ』

 

 黒の騎士団と紅い機体。

 それらの単語に該当するのは彼の知識の中でもたった一つ。

 故にカリグラは自然とその名を呟いた。

 しかし、ロイドは意外だとでも言いたげな言葉をその背に送る。

 

 「あれ? 知ってたんだ。そうそう、その紅蓮だけど黒の騎士団が出張って来たなら、多分居る筈だからね」

 『我ガ軍馬ナラバ恐ルルニ足ランダロウ?』

 

 銀色の外套を翻し振り向いたカリグラは、右腰に手を置くと余裕綽々(しゃくしゃく)とした態度を見せる。

 それもその筈。

 紅蓮弐式の戦闘能力は、ブラックリベリオンにおいて鹵獲した藤堂達の月下に残っていた模擬戦データや、これまで蓄積してきたランスロットとの戦闘データと照合する事で詳細に解析済みである。

 そもそも、その実力は過去、ランスロットと対等に渡り合った時点で折り紙付き。

 そのランスロットが、白き死神として他国より畏怖の対象となった今、紅蓮弐式の名はブリタニアのみならずブリタニアと戦火を交える国々にも波及している。

 が、それでもそのスペックは第7世代クラス。

 更には飛翔能力を持たないという点を鑑みても、第9世代に片足を突っ込んでいるトライデントの敵では無いとの事前分析を済ませていたからだ。

 しかし、よもや自機の生みの親である筈のロイドが、何故に気を付けろと懸念を顕わにするのか理解出来なかった彼は押し黙ると返答を待つ。

 すると、ロイドはカリグラの言葉を肯定しつつも、自身の懸念を露わにする。

 

 「僕もそう思う。それに、唯一紅蓮のポテンシャルを完全に引き出す事が出来た蒼い機体はもう居ないから尚更。けど、それでもあの機体のパイロット、腕はスザク君クラスだからさ。念の為だよ」

 『資質ハ"ナイトオブセブン"ニ匹敵スル、カ……何レ"アノ男"トハ殺シ合ウ機会ガ訪レルヤモ知レン。前座ニハ丁度良イ』

 「こ、殺し合うって……」

 

 驚愕の表情を浮かべたセシルが呟くと、銀色の仮面が妖しく光る。

 

 『"アノ男"ガ光デアッタノナラ、ソウハナラナイ。光ト闇ハ表裏一体。共存ハ可能ダロウ。シカシ、奴ハ私ト同ジ……イヤ、アレガ立ツノハ"夕闇(ゆうやみ)"ダナ。マサカ、気付イテナイノカ?』

 「そ、それは……」

 

 セシルは思わず言い淀んだ。

 ユーフェミアを失ってからのスザクの瞳は光を無くしたかのように暗く、ラウンズに叙された当初に行われた御前試合ではジノ相手に我が身を顧みない闘いを繰り広げた程。

 ジノ達他のラウンズとそれなりの親交を持つようになってからは、幾分か光を取り戻しつつあった瞳も嘗てのスザクを知るセシルからすれば十分に薄暗い。

 スザクの今の姿は正にカリグラが言ったように夕闇の中、帰る家を見失いアテも無く彷徨い歩く幼子のように痛々しいものだったからだ。

 しかし、返答に苦慮しているセシルに向けて闇そのモノとも言える存在、カリグラは愉快げに肩を揺らす。

 

 『察シテハイルヨウダナ。マァ、己ノ行イヲ棚ニ上ゲテ、コノ私ヲ非難スル(ヤカラ)ダ。本格的ナ衝突ヲ迎エタトシテモ、何ラ不思議ナ話デハ無イダロウ?』

 「そんな事は――」

 「そうなったら、僕としては大切なデバイサーを失う事になるから止めて欲しいねぇ」

 「ロイドさん!! 何を呑気な――」

 『ハッ!! ソレハ一体ドチラノ身ヲ案ジテノ台詞ダ?』

 「へっ?」

 「さぁ? どっちだろうねぇ」

 

 呆気に取られるセシルを横に、惚けてみせたロイドの答えは実際のところ、どちらも、である。

 1対1の戦闘では辛くもスザクに。

 しかし、部隊を用いての戦闘ではカリグラに軍配が上がる、とロイドは予想していた。

 ただ、誤解の無いように言っておけば、避けられるのであれば避けたいというのはロイドの中でも偽らざる本音。

 ロイドにとってスザクは優秀なデバイサーであり、それはカリグラも同じだったのだから。

 逆を言えば、ラウンズと機情のトップのどちらもロイドにとってはデバイサー扱いだと言う事でもあるが。

 当然、カリグラたるライはロイドの心底に有るモノを察した。しかし――。

 

 『……喰エン奴ダ』

 

 仮面の下でライは微苦笑混じりにそう咎めるに留めた。

 飄々とした態度を崩さぬロイドに毒気を抜かれた為でもあるが、問い詰めた所でその発言はどうとでも言い逃れる事が出来ることを理解していたからだ。

 踵を返したカリグラは再び歩み始める。が、今度は自ずと歩みを止めると思い出したかのように語り始めた。

 

 「蒼イ機体。紅蓮弐式トソレヲ以テ"ゼロ"ノ双璧ト呼ブ、ダッタカ? 誰ガ言イ出シタノカハ知ラナイガ、嘗テ幾度トナク"ゼロ"ヲ討タントシタ"コーネリア皇女殿下"ノ御前ニ悉ク立チ塞ガッタ者達トシテ、ソノ渾名ハ言イ得テ妙……クハハハハッ! 是非ニ揃ッテ手合ワセ願イタカッタモノダ」

 

 決して叶わぬ言葉を口にした彼は、悠々とブリッジを後にする。

 やがて、扉が閉まるとその後ろ姿を見送ったロイドは独り言のように呟いた。

 

 「面白くなって来たよねぇ」

 

 非常事態であるにも関わらず、その瞳は笑っていた。

 そんなロイドを見て、セシルは深い深い溜息を零すのだった。

 

 ◇

 

 「カレンさん! 気を付けて下さいね!」

 「ありがとう、ベニオ」

 

 紅蓮弐式を吊り下げていたヘリコプターのパイロット、朱城ベニオに礼を述べたカレンは、ワイヤーロープを切り重アヴァロンの翼に降り立った。

 小さくなってゆくヘリコプターを一瞥したカレンは周囲を見渡す。

 己と同じく旗艦に取り付いている黒の騎士団のKMF部隊。

 作戦は順調に推移していた。

 

 『カレン、紅蓮の調子はどうだ?』

 

 実働部隊の一人でもある杉山。その声は何処か不安げだった。

 ここの所の激戦に次ぐ激戦をフルに戦い抜いて来た紅蓮弐式は、元々右腕に問題を抱えていたのだ。

 現在の紅蓮弐式に装備されている甲壱型腕装備は、ブラックリベリオンにおいてランスロット・エアキャヴァルリーに破壊された右腕の代わり。

 謂わば予備パーツで作られた応急代替でしか無い。

 輻射機構は備わっているが、伸縮機構の簡略化や出力・連射力の低下。更には、自動でカートリッジの射出が行えないといった不具合を。

 杉山はそれを思慮していたのだ。 

 しかし、一方でカレンはそんな杉山の思案を吹き飛ばすかのように気丈に振る舞う。

 

 「大丈夫。あの子が整備してくれたんだもの。ちゃんと動くし問題無いわ」

 

 そう告げた彼女は、出撃前に満足な整備を行えていない事から、俯きがちに謝罪の言葉を述べたサヴィトリに手向けるかのように、手近な砲台を一基、輻射波動で破壊して見せる。

 

 「ね? 安心――」 

 

 その時、突然画面がホワイトアウトした。

 

 「な、何これ? 杉山さん? 杉山さんっ!?」

 

 カレンは慌てて通話を試みるが、画面は何も映し出さない。

 それどころか通信機能させも麻痺したのか、スピーカーは雑音を響かせるのみ。

 一方、メインカメラに写る杉山とその部下達が乗った無頼に異常は伺えない。

 カレンはホッと一息吐くと周囲を見回す。

 藤堂率いる四聖剣はハンドサインで意思の疎通を図っており、混乱した様子は見られないが同じ状況下にあることは推察出来た。

 因みに、卜部はラクシャータ達との合流を優先した結果、この作戦には間に合っていない。

 カレンは再び視線を落とすと通信モニターを見やる。

 が、そこは相変わらず白の世界。

 だが、3分程経過してカレンがいよいよ機器の故障を疑い始めた段になって、モニターは突然何事も無かったかのように杉山の姿を映し出した。

 

 「え? あ、あれ?……今のは?」

 『そっちもか? 分からない。電波障害の類いだとは思うが……』

 

 二人は一様に首を傾げるが、同時に通信機器の故障では無い事を理解すると互いに胸を撫で下ろす。

 そう、彼等は知らないのだ。

 大規模な電波障害。

 それこそが銀色の暴君が起動した合図だという事を。

 

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 コードギアス 反逆のルルーシュ L2  

 

 ~ TURN 04 太平洋奇襲作戦【Part 2】 ~

――――――――――――――――――――――

 

 「これで航空戦力もお終いかな。復帰戦にしてはちょっと物足りないね」

 

 先程起きた謎の障害を気にしつつも、朝比奈は墜ち行く最後の護衛艦を見送りながら余裕ありげに呟いた。が――。

 

 『浮かれ過ぎると因幡の白兎になるぞ?』

 「はいはい、分かってますよ」

 

 仙波の諭すかのような口調に朝比奈は苦笑する。

 そんな二人の通信を聞きながら千葉が口を開く。

 

 「中佐。ゼロは?」

 『艦内への侵入は果たしたようだが、その後はECCMの影響か、連絡が取れん』

 

 藤堂が口惜しげな口調で呟くと、カレンがすかさずフォローに入る。

 

 「ゼロなら大丈夫です! 私達もこれから艦内の制圧に!」

 『ゼロを信じ過ぎるのもどうかと思うけどね』

 『朝比奈。流石に今は――』

 

 皮肉を漂わせる朝比奈の発言を咎めようと仙波が言葉を紡いだ時、突如として彼等の間をまるで縫うように緑色の光が三つ、通り抜けた。

 刹那、爆音の三連発が大気を伝い彼等のコックピットを震わせた。

 

 『うわぁっ!!』

 『くそっ!』

 『っ!? やられた?』

 

 同時にスピーカーから響いた杉山達の悲鳴に、思わず振り返った藤堂達は愕然とした。

 そこには、黒煙を上げる三機の無頼の姿があったからだ。

 二機は頭部を、一機は左脚を失っていた。

 やがて無頼達は事切れた人形のように、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。

 

 『す、済まない! 後は――』

 『『も、申し訳ありませんっ!!』』

 

 杉山とその部下二人は、短く詫びるとコックピットブロックをパージ。

 射出されたブロックは青海の中に落ちて行った。

 パラシュートの作動を確認した藤堂達は杉山達が無事だという事に胸を撫で下ろしつつも、即座に緑色の光が飛来した方向に機首を向ける。

 すると、その視線の先にあったのは飛翔する4機のKMFの姿。

 同時に鳴り響くアラート音。

 

 「ブリタニアからの――」

 「援軍!?」

 「バカなっ!? 早過ぎる!!」

 

 朝比奈を皮切りに、千葉や仙波が驚きの声を上げる。

 しかし、そんな只中にあっても藤堂だけは一人冷静に状況を分析していた。

 

 「いや、方角としては後ろ備え。それにあれは……フロートユニットか」

 

 そう呟いた藤堂は眼前に迫る一団を睨み付けた。

 

 ◇

 

 藤堂達が迫る機体に敵意を剥き出しにしている頃。

 その機体の搭乗者たるギルフォードは感嘆の吐息を零していた。

 

 「よもやあの距離から当てるとは……」

 

 呟いたギルフォードは後方カメラに切り替える。そのモニター画面に広がるのは雲の海。

 だが、僅かに出来た雲と雲の切れ目にそのKMFはいた。

 長距離用に銃口を絞り込んだ新型ヴァリスを構えると、三叉の角を雄々しく広げ、深紅の双眸で艦の翼上に取り付いた藤堂達をまるで獲物でも見るかのようにジッと見据える銀色の機体、トライデント。

 しかし、その姿は直ぐに流れて来た雲によって隠されてしまう。

 

 『ギルフォード卿!』

 「……あぁ、そうだな。さぁ、幕を降ろそう」

 

 スピーカーより響いたデヴィッドの声に、我に返ったギルフォードは己に言い聞かせるかのように気を吐いた。

 だが、既にその時彼の見据える先には急拵えとはいえ藤堂を中心として右より朝比奈・仙波・千葉が前衛を固め後衛に紅蓮が、といった防御陣形が出来上がっていた。

 

 「あれを切り崩すのは骨が折れるが、さて……彼はどうするつもりか……」

 

 自機の機体特性を完全に把握出来ていない事。

 そして、何よりもカリグラの指揮能力が未知数という事も相まったギルフォードはごちる。

 その頃、デヴィッドの駆るグロースター・エアには一本の秘匿通信が入っていた。

 

 『"A2"、仇ヲ討チタイカ?』

 「なに?」

 『兄弟ノ仇ヲ討チタイカト聞イテイル』

 「当然だ!!」

 

 カリグラの問いに対して、先の総領事館での一戦でバートとアルフレッドを討たれていたデヴィッドは怒号を響かせる。

 それは普段のカリグラ、いや、ライであったならば決して許しはしない口振り。

 しかし、今の彼はそれを聞いても仮面の下で口元を歪ませ『ソウカ』とだけ呟いたかと思えば、続けざまに挑発めいた言葉を紡いだ。

 

 『貴様ハ勇マシク戦エルカ?』

 「……何だと!?」

 

 まるでアルフレッド達がそうでは無かったとでも言いたげな問い掛けに、激昂したデヴィッドは操縦桿を握り締めた。しかし――。

 

 『怒ルナ。勇マシク戦エルノデアレバソレデ良イ』

 

 デヴィッドの怒りの一切を無視したカリグラは通常回線に切り替える。

 

 『"A1"ハ直進シ前衛中央ノ機体ヲ狙エ。"A3"、"A4"ハ両脇ニ陣取ル"二機"ヲ牽制。"A2"ハ翼下ニ潜リ込ミ指示ガアルマデ待機シロ』

 

 ECCMの影響をものともしないトライデントのレーダー網には、この空域全ての敵味方情報が手に取るように分かる。

 それを証明するかのように、機体のメインモニターには四つの仮想窓が浮かんでいた。

 強固なデータリンクシステムを使い、ギルフォード達の機体のメインカメラが捉えている映像も収集していたのだ。

 一息で命じ終えたカリグラは、彼等からの返答を待たずして通信を切ると仮面を外す。

 

 「着弾点がズレた……あぁ、気流の影響か」

 

 ライは杉山達を仕留めた狙撃が狙い通りの箇所に当たらなかった原因に思い至ると、直ぐさま手元のパネルを操作する。

 

 「これで5対5だ。さぁ、始めようか」

 

 そうして、望みのデータを手に入れたライが愉悦を帯びた口調で呟くと同時に、レーダーに映るギルフォード達の機体が増速した。

 その時。

 トライデントは雲海の中より一発の弾丸を、ギルフォードの背中目掛けて発射した。

 

 ◇

 

 艦の後方より、大気を切り裂いて4機のKMFが迫る。

 

 「来るよ!」

 「分かっている!」

 

 朝比奈と千葉はその内の一機。突出して来る敵機(ギルフォード)を仕留めるべく己の機体、月下の左腕に備えられた速射砲の照準を合わせる。

 が、同時にその敵機の後方左右からも2機が迫る。

 それらにも対応しようとした結果、照準がブレる事となったがそこは藤堂。

 

 「二人は両翼の敵に対応しろ!! 仙波! 抜かるな!!」

 『『『承知っ!!』』』

 

 藤堂は的確に指示を飛ばすと、三人は瞬時に反応してみせた。  

 しかし、その時出来た僅かな隙を突いて敵機(ギルフォード)の背後に居た一機(デヴィッド)が機首を下げる。

 気付いた藤堂は再び声を張り上げた。

 

 「船底に潜り込む気か。紅月君! 背後は任せる!」

 『はい!!』

 「仙波ッ!! 来るぞ!」

 『お任せを! さぁ来い! 相手にとって不足無し!』

 

 藤堂は迫る敵機を注視しつつも、同時に千葉や朝比奈にも指示を送りながら足下に潜り込んだ機体にも対処すべく周囲を見張る。

 仙波機が腰より引き抜いた廻転刃刀を正面に構える。対する敵機も呼応するかのようにMVSを手に取った。

 急接近する二機。

 そして互いに刃を交えようとした次の瞬間、敵機は一転して急上昇。交戦を避けた。

 

 「逃げるか! 張り合いの無い!」

 

 虚を突かれた仙波は逃がすまいと目で追う。だが――。

 

 『っ!? あれはっ!!!』

 『避けろぉっ!!』

 

 千葉と朝比奈。二人の絶叫が仙波の耳朶に触れる。

 驚いた仙波が正面に向き直ると――。

 

 「なっ!?」

 

 彼の眼前には緑色の光弾が迫っていた。

 それは、先程トライデントが放った一撃。

 光弾は敵機の機体を死角としていたのだ。

 

 「お、おのれっ!!」

 

 仙波は回避するべく操縦桿を握り締めるが、避け切れるまでの確証は持てなかった。

 よしんば避けれたとしても、その場合後方に構える藤堂達にまで危害が及ぶ可能性がある。

 咄嗟の判断を下した仙波は、アームブロックの構えを取った。

 着弾。

 響き渡る轟音。

 藤堂が叫ぶ。

 

 「っ!? 仙波ァァァッ!!」

 

 突然の出来事にカレンも思わず振り返ると、飛び込んで来た光景に彼女は思わず息を呑む。

 視界に映るのは、尋常ならざる程の黒煙を上げる仙波の月下。その後ろ姿だったからだ。

 

 「そんなッ! 仙波さん!!」

 「無事か、仙波!?」

 『な、何……とか……』

 

 藤堂とカレン。

 二人の問いに対して、着弾時の衝撃により意識が朦朧としているのか。仙波の声に先程までの覇気は無い。

 そんな最中、左隣に陣取っていた千葉は仙波機の惨状を目の当たりにした瞬間、悲鳴に近い声を上げていた。

 

 「酷い……脱出して下さい。その機体ではもう戦えません!!」

 

 千葉の言は当然の事と言える。

 仙波の月下は両腕のみならず頭部も吹き飛び、機体前面の装甲も完全に喪失。

 更には動力部までもが剥き出しになっており、そこから漏電の為か火花が散っていた。

 素人目に見ても戦える状態で無いのは一目瞭然だったのだから。

 

 『し、しかし、装置が作動せん……のだ……』

 「っ!? それなら!」

 

 仙波の弱々しい言葉使いに、一刻の猶予も無いと判断した千葉が刃を振るう。

 彼女は機体とコックピットブロックを強制的に切り離すと、駆け寄った朝比奈機がそれをキャッチ。

 続け様に千葉は噴煙を纏う仙波機を蹴り落とすと、海面に落ちる只中で機体は激しく爆散した。

 

 『す、済まん…』

 「パラシュートは、無事ですね。それじゃ、行きますよ」

 『ちょ、ちょっと待っ――』

 

 朝比奈はコックピットブロックに損傷の無い事を確認すると、仙波の静止も聞かずに放り落とす。

 

 『ぬわぁぁぁっ!!』

 

 コックピットブロックが仙波の絶叫を纏いながら大海原に吸い込まれていくと、一部始終を見ていたカレンが問う。

 

 「だ、大丈夫なんですか?」

 

 すると、眼下を覗き込んでいた朝比奈が口を開いた。

 

 「……パラシュートの作動を確認。うん。大丈夫」

 『朝比奈、お前……』

 

 これには千葉も呆れ顔。

 そうこうしていると、敵機が後退する素振りを見せた事に一人警戒の念を怠らなかった藤堂が問う。

 

 「朝比奈、今の攻撃は?」

 『俺が相手にしてた機体からじゃありません』

 

 朝比奈が否定の言葉を紡ぐと、我に返った千葉も後に続いた。

 

 『私の方もそうです。むしろ、その後方……あの雲海の中から飛来したように見えました』

 「……間違い、無いか?」

 『『はい』』

 

 二人からの報告を聞いた藤堂は、口を真一文字に結ぶとレーダー画面を見つめる。

 そこには彼等以外では船底に潜り込んでいるデヴィッド機を除けば三機の敵影しか映し出していない。

 何故なら、今の月下の索敵範囲はECCMの影響下という事もあり5km四方程度である。しかし、対する雲海までの距離は10km近い。

 その事実に藤堂は眉を顰めると一瞬、そんな射手が居る筈が無い、と心中で否定しかけた。

 千葉の発言をまともに聞いた場合、それ程の距離があるにも関わらずその射手は撃った事になるのだから。

 しかし、一方で千葉の優秀さも藤堂は良く理解しており、簡単に「見間違いだろう」と切り捨てる事も出来なかった。

 故に思う。

 確かに、それは最も旗艦に被害が及ばぬように考慮した射撃だ、と。

 上空からの射撃ならば気付かれる可能性は低いが、万が一気付かれた場合、そして避けられた場合は確実に旗艦の翼を傷付けてしまう。

 対して、翼上に対しての水平撃ちならば避けられても旗艦に損害を与える可能性は低いからだ。

 しかし、それは一歩間違えれば翼どころか旗艦本体にも直撃する可能性がある。

 だからこそ、藤堂は思う。並みの精神ならば躊躇する、と。

 にも関わらず、その射手はやってみせた事になる。

 それどころか、戦力を減らす事まで成功させている。

 だが、それらは藤堂にしてみれば推察の域を出ない。

 故に、悩む。しかし、それも一瞬だった。

 戦場において絶対という言葉ほどあてにはならないという事を、彼は長い経験から学んでいたのだから。

 

 「分かった。気を付けろ、紅月君」

 『えっ?』

 「敵は今、目に見えてる数だけでは無いという事だ」

 

 驚くカレンを余所に結論を出した藤堂が注意を喚起すると、補うかのように二人が後に続く。

 

 『最低でも、あと1機は隠れてる可能性が有るって事だよ』

 『ああ。そしてそれが事実だった場合、恐らく其奴こそが――』

 『『指揮官!!』』

 

 二人の言葉に藤堂は小さく頷きながらも釘を刺す。

 

 「それはあくまでも可能性の問題だが、範囲外に敵機が隠れている可能性が有る事だけは忘れるな!!」

 『は、はいっ!』

 『『承知!!』』

 

 この時、藤堂達は朧気ながらも気が付いた。

 目の前を飛び回る機体に指示を送りながら、この戦場を支配下に治めようとしている存在が自分達の視線の先にある雲海、その中に居る可能性が有るという事を。

 

 ◇

 

 この時、指揮官たる藤堂が思慮した事により彼等の統率は一瞬とはいえ鈍っていた。

 当然、それを見逃すライでは無い。

 

 『"A2"、ヤレ』

 

 スピーカーより響く傲慢とも言える口振りに、デヴィッドは激憤しそうな胸の内を必死に抑える。

 そうして翼下を潜り抜け飛び出した彼は、背面を晒している藤堂達に向けてライフルを構えた。

 今、薙ぎ払うかのように一斉射すれば何れかの機体に被弾させる事は十分に可能であった。が――。

 

 「こいつはっ!」

 

 彼は見てしまったのだ。総領事館にて、兄弟であるアルフレッドを討った機体。紅蓮弐式の無防備な背中を。

 瞬間、デヴィッドの脳裏に先程のカリグラの問いが過ぎる。

 

 ―― 貴様ハ勇マシク戦エルカ? ――

 

 その後の彼の行動は、ライフルの一斉射では無かった。

 ライフルを放り出したデヴィッドはMVSを引き抜くと、一撃必中とばかりに背後を晒している紅蓮に猛然と襲い掛かった。

 そんなデヴィッドの挙動を、雲海に身を隠すトライデントのモニターから見つめていたライは口元を妖しく歪めた。

 

 「そうだ、それで良い。さぁ、無事に仇を討てるか? 序でに、試させて貰うぞ? 紅蓮弐式」

 

 ◇

 

 デヴィットが翼下から飛び出した時。

 一人レーダー画面を注視していた事が功を奏したと言える。

 藤堂は反射的に振り向くと、カミソリのように鋭い瞳を見開き叫ぶ。

 

 「紅月君! 後ろだ!」

 『っ!?』

 

 藤堂の声に導かれるかのように振り向いたカレンの眼前には、MVSを振り上げ迫るグロースター・エアの姿が。

 一瞬遅れて紅蓮弐式のコックピット内に警告音が鳴り響く。

 獲った!!とばかりに敵機(デヴィッド)がMVSを振り下ろす。

 が、そこでカレンは信じがたい程の反射速度を見せた。

 左腕に忍ばせていた呂号乙型特斬刀を引き起こし最小の動作で弾いてみせると、返す刀でMVSを握った|敵機の手首を切り飛ばしてみせたのだ。

 バランスを崩す敵機。 

 

 「舐めんじゃないわよッ!!」

 

 短く吐き捨てると射殺さんばかりの瞳で睨み付けるカレン。

 肉薄する二機。

 しかし、それはとどのつまり……カレンの距離。

 敵機は咄嗟に距離を取ろうとする。対するカレンはそうはさせじとハーケンを射出。

 

 「逃がさないって言ってんでしょ!!」

 

 敵機の足首にハーケンを絡ませた紅連弐式は力任せにたぐり寄せ始めた。

 そこに直上より急降下で迫る敵機(ギルフォード)

 だが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 「させん!」

 

 藤堂は瞬時に速射砲を構えると、千葉と朝比奈もその後に続く。

 大空に響く無数の銃撃音。

 堪らず回避行動を取る敵機(ギルフォード)

 一方、ライはそんな灼熱の戦場を眺めながら只一人、嬉々とした笑みを浮かべていた。

 

 「やるな」

 

 紅蓮弐式に及第点を付けたライは思考を切り替える。

 

 「餌と成り果てた者に用は無いのだが。ギルフォードめ……仕方無い」

 

 彼の行動を目の当たりにしたライは、短く舌打ちすると指示を飛ばす。

 

 「残るお前達も続け! 射撃を分散させろ!」

 

 変声機越しに命を下した後、ライはまるで下らない喜劇でも見ているかのように表情を一転させると、送られて来る映像を眺めていた。

 

 ◇

 

 後方より再び迫る二機のグロースター・エア。それを視界の端に捉えた千葉が吠える。 

 

 「朝比奈、そっちは任せた!」

 『全く、無茶言ってくれるよね!』

 

 千葉は朝比奈の言葉を聞き流すと再び上空を見上げ狙い撃つ。

 対する朝比奈はというと、千葉の頼みを何とも軽い口振りで引き受けたがその表情は真剣そのもの。

 朝比奈はいつ何時飛来するとも分からない光弾。

 その発射時を発見するべく、周囲を睨み付けながらも迫り来る二機に対して隙の無い銃撃を加えていた。

 この朝比奈の働きは、戦況を注視していたライにとって少々予想外だった。

 

 「あのパイロット……中々やるな。連中では荷が重いか」

 

 モニターから送られて来る朝比奈の働きを見たライは率直な感想を胸に抱く。

 しかし、それも一瞬の事。

 

 「さぁ、餌は目の前だぞ? 紅蓮弐式」

 

 ライは邪な笑みを浮かべると操縦桿を握り締めた。

 一方、ライの指摘した通りに二機のパイロットは苦戦していた。

 腕ではギルフォードやデヴィッドより劣る彼等は、朝比奈の的確な射撃に反撃する事が出来ず回避運動を取る事で精一杯。

 全く以て近付けないでいる。

 その頃、彼等と同じくギルフォードもまた、苦戦していた。

 

 「くそっ! これではっ!!……」

 

 直上より降下した為、翼上に陣取る藤堂達に翼を盾にされる格好となってしまっていたからだ。

 ギルフォードは翼への損傷を気にする余り撃ち返す事が出来ず、二機から放たれる苛烈な対空砲火を必死に回避しながら、徐々に距離を詰める事しか出来ないでいた。

 結果、デヴィッドの命運は決まった。

 

 「ぐっ!!」

 

 デヴィッドの乗るコックピットに衝撃が走った。遂に捕まったのだ。

 グロースター・エアの喉元を鷲掴みにする異形の右腕。そして――。

 

 「食らいなぁっっ!!」

 

 勝利宣言にも等しいカレンの一声(いっせい)

 必殺の一撃。

 三本爪の間から紅い光が迸り、唸り声にも似た重低音が響き渡るとグロースター・エアの装甲が泡立つ。

 

 「くッそおぉぉぉッ!」

 

 輻射波動の直撃を受けたデヴィッドは堪らず脱出レバーを引くと、彼を乗せたコクピットブロックは海原に落ちて行った。

 それを見たギルフォード達は再び射程圏外へと離脱する。

 直後、轟音と共にグロースター・エアは爆散した。

 巻き上がる黒煙。

 しかし、その時。

 轟音を聞いた藤堂が、一矢報いた事にフッと一息吐き呼吸を整えた正にその時。

 雲海の中から光弾が現れた。

 それも、一定の距離を開けて左から右へとほぼ同時に。 

 

 「光った! 10、12、14時の方角!! やっぱり居ましたよ! 藤堂さん!!」

 

 目を光らせていた朝比奈は、捉えた瞬間早口で捲し立てた。

 しかし、そんな彼を嘲笑うかのように三発の光弾は瞬く間に距離を詰める。

 振り向いた藤堂は気流に乗って不規則な軌道を描きながら、しかし、狙い澄ましたかのように迫るそれを視認した結果、誤解した。

 

 「少なくとも三機かっ!」

 

 千葉もまた、朝比奈の警告に射撃を止めると三人は一様に回避運動を取る。

 その頃、ギルフォード達には再び命が下っていた。

 

 『"A1"!! 紅イ機体ヲ狙エ! 残リハ連中ヲ引キ付ケヨ!』

 「はっ!」

 

 ギルフォードは、命じられた通りに再び紅蓮弐式に狙いを定めると強襲を敢行。

 その時、中央に陣取っていた千葉の視界に一瞬だけ影が過ぎった。

 彼女はほとんど反射的に振り仰ぐと、その瞳に映ったのは再び急降下を開始した影の主(ギルフォード)

 続いて彼女が見たのは気流に流され薄れつつある黒煙と、その中にうっすらと映える紅の機体。

 

 「紅月ィィッ!」

 「っ!?」

 

 千葉が叫んだ時、カレンの視界がようやっと晴れる。

 

 「な、なに――」

 『上だ!!』

 

 千葉の一喝。

 同時に藤堂が速射砲を紅蓮の頭上に構える。

 ハッとなったカレンが直上を見上げると、そこには今にも切り掛からんとする敵機(ギルフォード)の姿があった。

 だが、千葉の切羽詰まった叫びが功を奏していた。

 二機の間は先程のデヴィッドの奇襲よりも幾分か距離があったのだ。

 カレンは咄嗟に操縦桿を握り締める。

 煙を上げるランドスピナー。翼上に黒い轍を残す。

 カレンは機体をターンさせると、振り下ろされた刃を紙一重の所で躱してみせた。

 だが、ギルフォードはすぐさま打ち落とした刃を左斜めに切り上げる。

 が、紅蓮弐式は右腕でMVSを握った敵機の手を掴みそれを阻止。

 整った必殺の態勢に、ギルフォードの顔が焦燥に染まると猛禽の瞳をしたカレンが叫ぶ。

 

 「あんたも喰らえ!……しまった!」

 

 しかし、カレンはここにきてカートリッジの射出を失念していた事に気付いた。

 

 「っ!? 撃てないのか? ならばっ!」

 

 好機と捉えたギルフォード。残る右手が腰に据えたライフルに触れる。が――。

 

 「させるかぁぁぁっ!!」

 

 カレンは咄嗟に左腕の刀で胸部を狙うもギルフォードはライフルに触れかけた右手を素早く戻すとそれを阻止。

 結果、互いに両手を塞ぎあう形となった二機。

 掴んだままでは紅蓮のカートリッジは射出出来ない。しかし、手を離せばMVSの切り込みが待っている。

 ギルフォードの場合も似たようなもの。

 右手を離せば、ライフルに触れる前に貫かれてしまう。

 膠着状態。

 朝比奈は、依然として懐に飛び込まんとする二機の対応で手一杯。

 藤堂は速射砲を構えつつも、紅蓮弐式を盾にするかのように陣取る敵機に対して引金を引けずにいた。

 

 「これでは撃てん!」

 

 藤堂が思わず歯噛みすると――。

 

 「紅月! そのまま捕まえていろ!!」

 

 現況を打開するべく、廻転刃刀を握り締めた千葉の月下が駆け出した。が――。

 

 「藤堂さんッ!」

 

 朝比奈は相手にしていた二機をあっさりと追い抜き迫る光弾に危機感を募らせた。

 すると藤堂は、不意にこれまでとは違う三方向からの一斉射を訝しむと、咄嗟にその射線軸を脳裏に描く。

 瞬間、戦慄と共に振り向いた藤堂の瞳に映ったのは、紅蓮弐式の後ろ姿。

 

 「いかんッ!!」

 

 相手の意図を察するや否や藤堂は叫んだ。

 

 「紅月君を守れェッ!」

 

 藤堂の鶴の一声にハッとなる朝比奈と、急制動を掛ける千葉。

 名を呼ばれたカレンであったが、ギルフォードと力比べの様相を呈しており身動きが取れない。

 光弾との相対距離が700mを切った。

 説明する間すら惜しんだ藤堂は、機体を光弾に正対させ廻転刃刀を真横に構えると二人に激を飛ばす。

 

 「何としても止めろ!」

 『『承知!!』』

 

 藤堂の動きを視界に捉えていた千葉と朝比奈の両名は、瞬時にその意図を理解する。

 光弾との相対距離が100mを切った。

 二人は藤堂と同じく射線軸に陣取りながら、再び迫り来る2機のグロースター・エアを射撃でもって牽制。

 相対距離50m……ゼロ。

 三人に光弾が襲い掛かった。

 

 「くッ!」

 

 至近距離での爆発。砕け散る藤堂の廻転刃刀。

 朝比奈も同じく刀を、千葉は速射砲ごと左腕を持って行かれた。

 しかし、直ぐ様体制を立て直した彼等。

 藤堂と朝比奈は迫る二機に対して銃撃を加え、千葉の月下は残った腕に廻転刃刀を握り締めるとカレンの元へ再び駆け出した。

 

 ◇

 

 その頃、再び雲海の切れ目より顔を出していたトライデント。

 三者三様の攻防を俯瞰していたライは感嘆の声を上げる。

 

 「良い反応速度だ……やるな」

 

 愉しくて堪らないとても言いたげにライは口角を釣り上げたが、飛び出した一体(千葉)の月下の動きを見るや否や形勢不利と判断した。

 

 『"A1"、ソイツゴト上昇シロ』

 「Yes, My Lord!!」

 

 即応したギルフォードはフロートの出力を全開にして機体を上昇させる。

 ゆっくりと、しかしながら確実に引き上げられていく紅蓮弐式。

 後少しという所で間に合わなかった千葉と、迫る二機を追い返した朝比奈が。

 そして、構えながらも撃てずにいる藤堂が叫ぶ。

 

 『紅月! 手を離せ!』

 『無茶だよ!』

 『紅月君!』

 「でも! やっと掴まえたのにッ!」

 

 カレンの逡巡を余所に、そうこうしているうちにも高度は上がり――。

 

 『"A1"、ソコデ止マレ』

 「い、一体何を?」

 

 慌てて停止するギルフォード。

 時を同じくして、カレンも戸惑いの声を上げる。

 

 「止まった? な、何で!?」

 

 そんな二人を余所に、陰惨な笑みを浮かべたライは――。

 

 「確かに良い騎手だったが、これで終わりだ」

 

 そう告げるとトリガーを引いた。

 

 ◇

 

 『また光った!!』

 

 紅蓮のコックピットに朝比奈の声が響くと、自身目掛けて飛来する光弾を認めたカレンは焦る。

 

 「ち、ちょっと待ちなさいってばっ!!」

 

 咄嗟に右手を離し備えようとする紅蓮弐式。

 しかし、左手はギルフォードに捕まれたまま。

 一方で、自由を取り戻したギルフォードの左腕は当然のようにMVSを振り下ろす。

 が、カレンは直ぐさまカートリッジを射出すると、今度はその振り下ろされるMVS自体を掴んでみせた。

 同時に放たれる紅い光。ギルフォードは堪らず柄を手放す。

 

 「クッ!!」

 

 直後に起きた至近距離での爆発と、輻射波動が使用可能という事を見せつけられたギルフォードが顔を顰めたその時。

 

 『"A1"、右手ヲ離セ』

 

 再びの命に、その意図を図りかねたギルフォードであったが、困惑しつつも直ぐさまそれに倣う。

 法則に従って落下する紅蓮弐式。

 カレンは落下の最中にカートリッジを射出すると、再び親指を輻射波動のスイッチに添える。

 

 「お願いっ!!」

 

 瞬間、紅い光が発せられたかと思うと、それは頭部に着弾寸前の光弾を弾いてみせた。

 その光景を目の当たりにしたライは思わず身を乗り出した。

 

 「バカなッ!! 防いだのか!?」

 

 ライの驚きを余所に、紅蓮弐式はその右腕を正面にかざしながら墜ちて行く。

 

 「た、助かった……」

 

 間一髪。

 難を逃れたカレンは心底安堵したかのような声を溢したが、それはまだ早かった。

 

 『残り二発!』

 

 再び響いた朝比奈の声。

 

 「何なのよ、これ!!」

 

 自機の落下に合わせるかのように、寸分の狂いも無く襲い掛かる光弾にカレンは一瞬舌を巻く。が――。

 

 「でも、残念!」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべたカレンは、二発の光弾も同じ要領で弾くと後方へ振り向きハーケンを射出。

 それが旗艦の翼に食い込むと、走り寄った千葉機がすかさずワイヤーを引く。

 結果、遂にカレンは翼上へと舞い戻った。

 

 ◇

 

 「あれを防ぎ切った、だと? こちらの出力不足か……いや、何れにしても楽しませてくれる。シミュレートではこうはいかないからな」

 

 翼上に立つ五体満足な紅蓮弐式の姿を見つめつつ、ライは口元を綻ばせると胸の内で認めた。

 あの機体は、己が全力で対峙する価値がある、と。

 故に、続いて発せられた言葉は必然と言える。

 

 「全機距離を取れ。次は私が出る」

 

 それは、真正なる出撃宣言。

 ライはペダルをゆっくりと踏み込む。

 銀色の装甲の上を雲が流麗に流れてゆく。

 雲海の中より浮かび上がるかのように姿を現す、赤色巨星にも似た色の双眸を光らせる銀色の機体。

 遂に、トライデントがその全貌を露わにした。

 

 ◇

 

 「陣形を建て直せ!」

 

 翼上では藤堂が敵機に射撃を加えながら激を飛ばしていた。

 カレンは愛機を駆り藤堂の正面に陣取ると、僅かに遅れてその両翼を千葉と朝比奈が固める。

 彼等の見事な守勢とは裏腹に、ギルフォード達は後退を始めていた。

 それを見た千葉は安堵の吐息を零す。

 

 「引いて行く……」

 『気を緩めるな』

 「は、はい!」

 

 一瞬、緊張の糸が緩んだ事を藤堂に指摘された千葉は慌てて襟を正す。

 その様子に小さく頷いた藤堂は状況把握に動く。

 

 「朝比奈、何処からの射撃か分かったか?」

 『………』

 「朝比奈?」

 『やっぱり雲海の中からでした。でも、あまり認めたくないですね』

 

 剣呑な表情のまま呟いた朝比奈は、続いて雲海の一点を指し示した。

 敵機が集結しつつある方角に泰然と浮かぶ雲よりも後方にあった巨大な雲海。その一点が煌めいていた。

 藤堂達の瞳が剣呑の色を濃くするのと同じく、煌めきはジワリジワリとその光度を増してゆき――。

 

 「ち、中佐!」

 

 千葉は驚愕に瞳を見開いた。

 雲海の中より現れた2対6面で構成された白銀色の翼を持つ銀色のKMF。

 その機体はまるで藤堂達に己の体躯を見せ付けるかのように、腕を組むと仁王立ちしていた。

 

 『あぁ、やっと見えたぞ、彼奴だ!』

 「バカな! あんな距離から狙い撃っていたというのですか!?」

 

 心中穏やかでは無いにも関わらず、それを決して表に出さない藤堂に対して千葉の驚きは尋常では無かった。

 しかしそれは止む無し事。

 彼等が視認している機体が居る位置は、彼女が想定していたポイントよりも後方だったのだから。

 

 『だから言ったでしょ。あまり認めたく無いってさ』

 

 スピーカーから響く朝比奈の口調も何処か厳しい。

 一方、カレンは最大望遠にした紅蓮弐式のモニターに映る敵機の姿を無言で睨み付けている。

 そんな最中、不意に朝比奈がそれまで心中に渦巻いていた疑問を吐露した。

 

 「でも、妙だね。一機だけってどういう事さ……」

 『まさか、今までの射撃は全て彼奴がやっていたなんて事は――』

 「面白いね、それ。でもさ、それが本当なら悪夢だよ?」

 

 千葉が思わず口にした言葉を朝比奈はやんわりと否定した。

 彼がそう思うのも当然の事。

 三発全てがほぼ同時に別々の方角から射たれた。それを目撃したのは朝比奈ただ一人。

 そんな芸当が出来る機体ともなれば、既存のKMFの飛行速度を遙かに凌駕する事になるのだから。

 

 「そ、そうだな」

 

 暗に笑われている事を感じ取った千葉は、少々気恥ずかしそうに頬を染めた。

 

 「兎に角、気をつけろ。まだ周囲の雲に潜んでいるかもしれん。これ以上狙い撃たれても億劫だ。今のうちに身を隠せ!」 

 

 『『了解!!』』

 

 藤堂の命を受け、二機の月下は敵機と正対したままホイールを唸らせながら後退する。

 しかし、紅蓮弐式だけはまるで脚に根が生えたかの如く微動だにしなかった。

 そのことに藤堂が疑問の声を上げる。

 

 『紅月君?』

 「行って下さい! 皆が隠れるまで私が――」

 『しかし――』

 「大丈夫です。全部防いでやりますから!!」

 

 危惧の念を抱く藤堂を余所に、カレンは愛機に対する絶対の自信から来るのだろう。壮絶な笑みを浮かべてみせた。

 

 ◇

 

 「なんという方だ……」

 ギルフォードは率直な感想を口にした。しかし、それも当然と言える。

 戦闘開始より10分も経っていない。

 にも関わらずカリグラは月下一体を含む四機を仕留め、更には他の三機にも損害を与えている。

 デヴィッド機を失ったとは言え、この戦果は十分に釣りが来るものだったのだから。

 しかし、アヴァロン艦内で戦況を見守っていた者達の驚きはそれ以上だった。

 

 ◇

 

 静まり返るブリッジ。

 本来、戦闘中であるのだからこの場はもっと喧噪としていて然るべき。

 にも関わらず、誰も言葉を紡げずにいた。

 皆が皆、目の前の光景に理解が及ばなかったからだ。

 しかし、ここでもやはりと言うべきか、ロイドだけは異彩を放っていた。

 

 「アハッ。流石というかやっぱり凄いね、彼。これは杞憂だったかな??」

 

 そう言うとロイドは右隣に居るセシルに合いの手を求めたが、それが差し伸べられる事は無かった。

 

 「どしたの?」

 

 不思議に思ったロイドが問うと、セシルはようやっと口を開く。しかし、それはこの場に居た皆を代表するかのような言葉だった。

 

 「い、異常です……」

 「そんなの先日のシミュレートで分かってた事じゃな~い」

 

 微苦笑を浮かべるロイド。しかし、セシルは引き下がらない。

 

 「で、でも! 最初の射撃の後に一帯の気象データを取り寄せて、その後は気流に乗せて射撃してるんですよっ!?」

 「へぇ~。彼、そんな事までしてたんだ」

 「その後の射撃は防がれこそしましたが、それでも照準は全て敵KMFの急所を狙い撃ち。誤差は10cmも無いんですよ!?」

 

 セシルは「これでもですか!?」とでも言いたげな視線をぶつけるが、当然と言うべきか。ロイドに効果など有る筈も無い。

 

 「ふ~ん」

 「ふ~ん、って。それだけですか?」

 「今更驚いても仕方無いでしょ。でも、まるで機械のような正確さだね、彼。皇帝ちゃんの直属にしとくのは惜しいよねぇ」

 

 驚くどころか不敬な言葉と共に一層笑みを深くするロイドに、セシルは堪らず肩を落とした。

 

 ◇

 

 セシルとロイドが騒いでいた頃、ライはモニターに映る紅蓮弐式を睨み付けていた。

 その紅蓮弐式はというと、両脚を肩幅まで広げ腰を落とすと異形の爪を翼上に叩き付けた後、「撃ってみろ」とでも言わんばかりにその右腕を翳している。

 その勇姿を受けてライの瞳に光が宿る。全てを切り裂き兼ねないような鋭い光が。

 

 「私を挑発するか……そうだな、許そう……(きみ)にはそれだけの力がある」

 

 激昂するどころか優し気な声色を発したライはモニターに視線を落とす。

 

 「リミットは、6分27秒……か」

 

 エナジーの残量を一瞥すると瞬時に活動時間を導き出したライは、続いて右の操縦桿を動かしながら左手でモニターパネルに指を走らせた。

 トライデントが動く。

 右腰からエネルギー供給用のケーブルを引き抜くと、右脚側面に装着していたヴァリス。その銃床部位に繋げた。

 すると、それまで絞り込まれていたヴァリスの銃口が花開く。

 遠距離用の狙撃モードから、近接戦闘用のフルバーストモードへと姿を変えたのだ。

 フルバーストモード。

 それは撃つ際に機体エナジーを使用するのと、射撃の際に発生する熱量を逃がす為に砲身冷却を行う必要性が生じることから連射は出来ない。

 が、出力は桁外れに跳ね上がる。ランスロット・コンクエスターのハドロンブラスターを鼻で笑う程に。

 ヴァリスがその形状を変えると、続いて機体全体から小刻みな電子音が生じ、それが周囲に響くと今度は機体背面の空間が波打つ。

 刹那――。

 

 ◇

 

 「なっ!?」

 

 敵機を睨み付けていたカレンは思わずたじろいだ。

 機体後方にあった雲海。それが跡形もなく消し飛んだからだ。

 それはエナジーウィングから溢れ出た暴走にも似たエネルギーの奔流。その所業。

 雲を消し飛ばしたその流れは、やがて収束に向かうと続いて空間を歪ませる。

 断続的に発生する歪な銀色の波紋。それはさながら光輪を背負っているかのよう。

 その異様な姿を視認したカレンは、背筋に悪寒を感じながらも一人気を吐き撥ね除ける。

 

 「あんたが天使を気取るなら、あたしは夜叉にでも成ってやるッ!!」

 

 カレンの瞳に(ほむら)が宿る。

 

 「こんな所で終われないのよ! 私はッ! ライを見つけるまで、戦って戦って生き抜いてやる! さぁ……かかって来な! ブリタニアァァッ!」

 

 操縦桿を握る手にこれでもかと力を込めたカレンは、相手の一挙手一投足も見逃すまいと鬼神の如く睨み付けた。

 丁度その頃、トライデントの変貌を呆然と眺めていたギルフォード達。彼等の機体にも異変が起こっていた。

 

 ◇

 

 「な、何だこれは!? 機体が動かない……」

 

 突然中空で停止した事にギルフォードが驚きの声を上げると、二人の部下もそれに追従する。

 

 『こ、こちらも同じです!』

 『一体何が……』

 

 彼等の機体は操縦桿やペダルを踏み込んでも一切の反応を示さなかった。

 最も、射程圏外である為、撃ち落とされる危険性は無いが、整備不良ともなれば黒の騎士団を相手にするどころでは無くなってしまう。

 

 「フロートが生きているのが不幸中の幸いか……しかし、これでは……」

 

 無念そうに呟いたギルフォードは、状況を打開するべくアヴァロンとの通信回線を開く。

 

 「こちらギルフォード! ロイド博士は居るか?」

 『…………』

 

 しかし、通信機は空しくもノイズを響かせるのみ。

 己の懸念が深まった事にギルフォードは思わず頭を抱えた。

 だが、彼等の機体に起きた異変は故障等によるものでは無かった。

 

 ◇

 

 それに真っ先に気付いたのは、アヴァロンでデータ収集を行っていたセシルだった。

 手元のモニターに映るトライデントの機体データ。

 下から上に流れて行く無数の数字。

 常人であれば目が追いつくどころか、全くの意味を為さないその数字の羅列を真剣な眼差しで追っていた彼女は、異変に気付いた瞬間大声で叫んでいた。

 

 「ロイドさんッ!!」

 「ど、どうしたの?」

 

 突然の大声に隣で佇んでいたロイドは思わず後退る。

 すると、セシルは唇を震わせながらポツリと呟いた。

 

 「フィンブル(大いなる)……ロアー(咆哮)……です」

 

 同時にこの世の終わりのような表情を浮かべるセシル。

 ロイドは瞳を有らん限り見開いた。

 

 「ちょ、ちょっと待って! それは――」

 「事実です! 既にギルフォード卿や他の機体の全システムに侵食を!!」

 

 セシルの声は、最早悲鳴に近かった。

 ライが現在進行形で行っている方法は、指揮形態のまま個別戦闘を行った場合の活動時間の限界を計っていた時、つまりは出立前に行ったシュミレート時に偶然発見された。

 強固なデータリンクシステムと、情報処理能力。

 更には、皇族やラウンズ以外では拒否出来ない程の指揮命令権限を有するトライデント。

 それが味方機に対して、データリンクを介して無理矢理操縦権限を奪い取る。

 奪われた機体は、意のままに操られるだけでは無い。その性能全てを敵撃滅に傾注させられるのだ。生命維持機能さえも停止させて。

 結果、操られた機体はスペック以上の性能を発揮出来る事となるのだが、同時にそれは搭乗者にとっては空飛ぶ棺桶と同義。

 唯一の救いがあるとすれば、活動時間の短さだけ。

 常日頃よりパイロットをデバイサー扱いする事を憚らないロイドでさえ「いくら何でも使っちゃ駄目だよねぇ」との一言と共に、容易に踏み止まらせてみせた最悪の戦術。

 しかし、全ては遅かった。

 

 「ああっ! もうっ! 止まりなさいッ!!」

 

 何とか停止させようと、忙しなくパネルに指を走らせるセシルに対して、ロイドは諦念(ていねん)の面持ちを向けた。

 

 「……無理だよ」

 「で、ですけどこのままじゃ!!」

 

 セシルは沈痛な思いを吐き出すが、続く言葉が出てこない。

 彼女はロイドが言わんとしていることが分かってたのだから。

 そう、今、この中にトライデントを静止させる事が出来る立場の人間は居ないという事を。

 彼等が出来る最後の手段として、トライデントが演算処理に使用しているアヴァロンのメインシステムを強制的にシャットダウンさせるという方法も有るには有る。

 が、それをすれば再起動前にアヴァロンが墜ちる。

 よもやその手段を取れる筈も無い。

 

 「……ギルフォード卿達の身体が、丈夫な事を祈るしか無いね……」

 

 ロイド達が出来る事といえば、アヴァロンの望遠レンズが捉えるトライデントの後ろ姿を眺める事ぐらいだった。

 

 ◇ 

 

 モニターに浮かぶ文字は制圧完了。

 

 「ギルバート・GP・ギルフォード。帝国の先槍。では、これより私の先槍となってもらおうか」

 

 ライは今一度、決意の眼差しでもって紅蓮弐式を睨み付けるとEnterキーを押す。

 絶対遵守の命令が、下された。

 ギルフォード達の機体が急反転する。

 

 「ぐっ!!」

 

 予期せぬ自機の動きに、ギルフォードは意識を持って行かれそうになる。

 彼等の機体は先程までの流麗な動きとは一線を画し、およそ人が乗っていられるのか不安になる程の不規則な軌跡を描きながら、翼上に立ち構える紅蓮弐式目掛けて突進を開始。

 1機に対して4機で襲い掛かる。

 それは、戦場であれば何ら問題無い戦術だが今のギルフォード達の現状を知る者、セシル辺りに言わせれば「非人道的」と切って捨てるだろう。

 だが、これこそが「至上の指揮官機を」との合い言葉と共に開発されたトライデント。

 それが偶然とはいえ手に入れた戦術。言うなれば、紛れも無くその能力の一部でもあるのだ。

 最も、単機決戦にシフトしたとしてもトライデントと紅蓮弐式。

 その二機のスペックには如何ともし難い差が有る。勝負は一瞬で決まっただろう。

 しかし、ライはそれを否定した。

 一切の手を抜かずに自機のポテンシャルを総動員させて、眼前の紅蓮一機を撃滅する道を選んだ。

 即ち、それはライが紅蓮の能力を、そして気高く立ち構えるパイロット、紅月カレンの心意気を高く評価したに他ならない。

 左手にMVSを握ったトライデントが前傾姿勢を取る。

 その機体内部では、正八面体に加工された特殊コアルミナスが円形かと見紛う程に激しく回転し、時折、雷光にも似た光を放つ。

 ここに、全ての準備は整った。

 先槍と化したギルフォード達は紅蓮との距離を2km弱まで詰めている。対するライと紅蓮の距離は8km近い。

 並みの機体ならば、今動いたとしてもギルフォード達がカレンと刃を交える時には間に合わない。

 しかし、トライデントであれば間に合う。

 

 「さぁ、私と踊ってくれ」

 

 膝を付き淑女を舞踏に誘うかのような口振りで、ライは届く筈も無い言葉を手向けるとそっとペダルに足を乗せる。

 そうして、踏み込むべく脚に力を込めた時。

 不意に小刻みな電子音がライの耳朶を打った。音の正体はアラート音。

 トライデントのレーダーが遥か前方、エリア11の方角より迫り来る飛行体を捉えたからだ。

 僅かに顔を顰めたライがモニターに視線を落とすと、そこにあったのは三つの光点。

 そしてその光点の隣に表示された数字を見た瞬間、ライは眉間に皺を寄せると嫌悪感を顕わにした。

        

 【 Tristan 】 3:13

 【 V-TOR  】 6:39

 【 Mordred 】 6:47

 

 記されるのは見知った文字。表示される数字はそれらの到達予想時間。

 

「…………存外、早かったな」

 

 そう呟くや否や、ライはモニターパネルを殴りつけた。

 同時に、不規則な軌道を描いていたギルフォード達の機体も止まった。

 

 ◇

 

 突然の停止につんのめりながらも、操縦が回復した事に驚きを顕わにするギルフォード達。

 だが、眼前に迫っていた紅蓮弐式より距離を取るべくすぐさま後退を選択する。

 

 「な、何だったんだ? 今のは……?」

 

 朦朧とする意識の中、安全圏まで離脱して初めて安堵の吐息を零すギルフォード。

 彼の部下二人も離脱に成功していたが意識の混濁がギルフォードよりも酷いのか、こちらは一言も言葉を発する事が出来ない。

 しかし、そんな満身創痍の彼等に向けてスピーカーからは無情ともいえる機械音声が響く。

 

 『誠ノ騎士トヤラノオ出マシダ。貴卿等モ、後ハ好キナヨウニ振ル舞ウガイイ。私ハ帰艦スル』

 

 一方的に告げ終えたライは、口元を固く結ぶと憮然とした表情のまま指揮形態までも解いてしまう。

 収納される左右の角。

 双眸も紅より蒼へと変わると、一本角となったトライデントはその機首をアヴァロンに向けて飛び去ってしまった。

 残される形となった部下達が覚醒しつつある意識の中、問う。

 

 『ギ、ギルフォード卿……』

 『如何……致します……か?』

 

 カリグラの行動が全く理解出来なかったギルフォードは、やれやれといった様子で頭を振ると代わりに命を下す。

 

 「直ぐに機体の状況をチェックしろ。その後は再び攻勢を仕掛ける!」




ちょっと長いので、今回はここまでにします。
御読み下さりありがとうございました!

以下、余談。

Q1.フィンブル・ロアーって何さ?
  →カレンは輻射波動、ルルーシュは絶対守護領域、スザクは生きろギアス
   みんな固有技持ってるから、ライにも持たせたかったんです。

Q2.やってることはハッキングじゃない?
  →フィンブル・ロアーです!
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