コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

31 / 35
TURN 04 ~ 太平洋奇襲作戦【Part 3】 ~

 「どう、なってんの?」 

 

 白銀色の翼を翻すと飛び去ってゆくKMF。

 その背を拍子抜けしたカレンが呆然とした面持ちのまま眺めていると、遮蔽物に身を隠しながらも、援護するべく速射砲を構えていた朝日奈の月下がランドスピナーを唸らせ走り寄る。

 

 『君の迫力に尻尾を巻いたのかな?』

 「こんな時に冗談ですか?」

 

 表情を改めたカレンがモニター越しにジロリと睨むと、朝比奈は戯けた様子で受け流した。

 

 『まぁ、何にしても助かったね』

 「どういう意味です?」

 

 ふて顔で問うたカレンに対して、朝比奈は真摯な眼差しを向けた。

 

 『あのまま戦ってたらマズい事になったと思うけど?』

 「それは……」

 

 カレンは言葉に詰まった。

 大言を吐いたものの、彼女はあの機体が前傾姿勢を取った瞬間、恐怖にも似た感情を抱いていたからだ。

 もっとも、それは朝比奈も同じだったが。

 その為、彼女も自覚しているという事を察した朝比奈はそれ以上の追及を避けたのか、話題を変えた。

 

 『さて、敵さんが一時後退してる今がチャンスだ。さっさと艦内に侵入しようか』

 

 独り言のように告げると、カレンの返答を待たずして艦内制圧に向かおうと機体を反転させる。

 後をカレンが追おうとしたその時、二機のコックピットに警告音が鳴り響いた。

 咄嗟にレーダーモニターに視線を落とす二人。

 すると、そこには浮遊航空艦の進行方向、エリア11の方角より迫る謎の機影が映っていた。

 

 「またっ!?」

 「やれやれ、今度はそっちかい?」

 

 口振りとは裏腹に素早く機首を向ける二人。

 そこに、正体不明の機影から発せられた銃撃が襲い掛かるが、二人は難なく躱してみせた。

 一方、躱されたというのに撃った機体のパイロットに「外した」という動揺は微塵も無い。

 

 「さぁ、お仕置きタイムだ」

 

 可変KMF、トリスタンのコックピットで挨拶代わりの一斉射を見舞ったジノは、不敵な笑みを浮かべると速度を落とす事無く翼上で身構える二機に迫る。

 するとその時、突然遮蔽物の影から1機(藤堂)が現れると、翼上の二機は呼応するかのように苛烈な銃撃を加える。

 が、ジノはお返しとばかりに難なく躱してみせた後、まるで嘲笑うかのように彼等の頭上を凄まじい速度で飛び過ぎる。

 しかし、すれ違った際に視認した敵の機体状態にジノは首を傾げた。

 

 「おいおい、無事なのは一機だけかぁ?」

 

 自身の思惑とは想定外の惨状を晒している敵機達に驚きながらも、ジノは旗艦の後方に抜けたところで方向転換。

 その時、トリスタンに向けて一本の映像通信が入る。

 

 『その機体、ヴァインベルグ卿ですか?』

 

 モニターに映る男の姿を認めたジノは、戦闘中であるにも関わらず、まるで挨拶するかのような軽い口振りで応じた。

 

 「やぁ! ギルフォード卿か。良くここまで持たせた。それにちゃんと損害を与えてるし。流石だよなぁ』

 『い、いえ。それは我々のものでは――』

 「いいって、いいって。そんなに謙遜しなくてもさ。ところで、今から私も混ぜてくれないかな?」

 『それは……願ってもない事ですが……』

 「有り難うッ!!』

 

 ジノは嬉しそうに告げると機体を加速させた。

 迫るトリスタン。

 

 「この! 次から次へと!!」

 「妙な戦闘機だね」

 

 カレンと朝比奈は再び向かって来るトリスタンを左腕の速射砲で狙い撃つ。

 が、ギルフォード達とは違い相手は華麗に躱しながら二機との距離を瞬く間に詰める。

 そして、難なく旗艦上空に侵入を果たしたトリスタンは飛行モードを解いた。

 

 「っ!? ナイトメアッ!?」

 

 戦闘機と見誤っていた朝比奈は瞳を見開いたが、時既に遅し。

 

 「うわっ!!」

 

 トリスタンが持つ鶴嘴形のMVSが横一線に振るわれ、朝比奈の月下は腰元から一刀両断されてしまう。

 

 「まずは一つ!!」

 

 弾むような声色で戦果を口にするジノ。

 

 「ご、ごめん! 後は……」

 

 対照的に、朝比奈は口惜し気な言葉を残すと脱出レバーを引いた。

 

――――――――――――――――――――――

 

 コードギアス 反逆のルルーシュ L2  

 

 ~ TURN04 太平洋奇襲作戦【Part 3】~

 

――――――――――――――――――――――

 

 格納庫へと舞い戻ったトライデントは、入り口より一番奥の場所にその体躯を収めると、仮面を被ったライはコックピットから出て昇降機を使い降り立った。

 格納庫内は慌ただしく走り回る整備員達の姿がある。

 

 「ランスロットのエナジーフィラーは!?」

 「交換済みだッ!」

 「よし! コンクエスターユニットを取り付けるぞ!」

 

 戦場と遜色無い様相を呈するその場所こそ、彼等整備員達にとっての戦場と言えた。

 

 「見えた! 来たぞ来たぞ! 枢木卿だ!」

 「着艦されるぞ! 場所を開けろ! ランスロットが出るぞッ!!」

 

 その声に、カリグラが格納庫中央に鎮座すると主の到着を今か今かと待ち続ける白騎士に視線を向ける。

 同時に、その後方に大口を開けている入り口より見える青い空。

 その彼方より迫るVーTOR機も視界に捉えたのだが――。

 

 『煩ワシイ男ダ』

 

 一瞥すると吐き捨てるかのように呟いた彼は、スザクを出迎える事なく格納庫を後にした。

 

 ◇

 

 悠々と通路を進んだ後、ブリッジの扉を潜ったカリグラ。

 喧々囂々としたブリッジ内で只一人、所在なさげに椅子の背凭れに撓垂れ掛かっていたロイドは、その姿を認めると彼なりの労いの言葉を送る。

 

 「おかえり。早速だけど、機体の感想は?」

 『"エナジーウィング"カラ言ウゾ? 雲ヲ消シ飛バシタノハ見タナ?』

 

 カリグラが歩み寄る。

 背凭れから身体を離したロイドは無言で頷くと続きを促した。

 

 『原因ハ左右ノ"エネルギー翼"ヘノ"エナジー"供給量ガ均一デハ無イ事ダ。ソノ場デ調整シテハミタガ、全速飛行スルニハ翼前縁部ノ強度二不安ガ残ル。ツマリハ翼数過多ダナ。シカシ、ソノ他ノ"システム"ニオイテ文句ハ無イ』

 「それはどうも。となると次は8枚で試してみようかなぁ。所で、どうして途中で帰って来たの?」

 『私ノ戦場ニ自由意志ハ必要無イカラダ』

 「あれは使わない方がいいと思うけどねえ。ギルフォード卿達の心拍グラフは大分治まったけど、酷い乱れ様だったよ?」

 

 ロイドが彼にしては珍しく苦言を呈するも、聞き流したカリグラは腰に下げた剣を外し椅子の左袖に立て掛け、置いてあった書類を手に取ると椅子に腰掛けた。

 

 『ソレデ、状況ハ?』

 

 問われたロイドは諦めたのか、肩を竦めるとモニターを指差す。

 

 「流石、僕のランスロットだよね、ほら」

 

 指先を追ったカリグラが見たのは、右腕を喪失した紅い機体。

 

 『ラウンズ3機ヲ相手二スルノハ荷ガ重カッタカ……』

 

 バランスを崩し翼上から墜ちゆく紅蓮弐式を感慨深げに眺めていると――。

 

 「そんな事言ってる場合ですか!!」

 

 セシルの叱咤が二人に浴びせられた。

 仮面の下で顔を顰めると、五月蝿い女だな、と文句の一つでも口にしようとした所で、彼は、はたと口を噤んだ。

 モニターに映る旗艦が煙を吐いていたからだ。

 

 『ドウイウ事ダ? 何故、旗艦カラ煙ガ上ガッテイル?』

 「エンジンに損傷を受けたみたい」

 

 他人事のように返すロイドの言葉を聞いたセシルは肩を震わせるが、咄嗟にそれどころでは無いと判断したのか。

 正面に向き直るとモニターパネルに指を走らせる。

 そんなセシルを置いて、二人は呑気に語る。

 

 『黒ノ騎士団ノ仕業カ?』

 「さぁ? そこまでは分からないけど、結果的に2番フロートが停止状態。3番4番の出力も低下してる。最も、直ぐに爆発って事にはならないと思うけど、このままじゃ皆で海水浴だね」

 『……………』

 「それと、アプソン将軍が戦死したって報告もあるけど?」

 『ソレハドウデモ良イ。デ? 総督ノ現在地ハ?』

 

 現状説明を聞いたカリグラが最も気に掛けている事を問うと、間髪入れずに手を動かしたままのセシルが答える。

 

 「現在、旗艦内部を走査中です!」

 『判明次第、"ラウンズ共"ニ位置情報ヲ送ッテヤレ』

 「はい!」

 

 命じ終えたカリグラは椅子の背凭れにその身を委ねると、肘掛に左肘を置き頬杖を付くと思慮に耽る。

 フロートへの攻撃をゼロが命令したとするならば、彼の中で今のゼロはルルーシュでは無いという図式が成り立つ。

 旗艦には、彼の妹であるナナリーが乗っているのだから。

 しかし、それだと何故今まで旗艦を制圧するかのような行動を取っていたのかの説明が付かなかった。

 

 『既二身柄ヲ確保シタ故ノ行動カ?』

 

 傍に居るロイドにすら聞こえぬほどの声で口に出してみるも、答えを導くには情報が決定的に足らなかった。

 その為、彼は思考を一時中断すると戦況を注視する事を決めた。

 

 ◆

 

 同時刻、黄昏の間。

 

 「今頃は海の上かな?」

 「でしょうな」

 

 眩しげに瞳を細めながら金色の夕日を眺めていたV.V.が、ふと思い出したかのように言葉を紡ぐと、隣に居たシャルルが相槌を打った。

 するとその時、彼等の背後に黒衣の男が一人、現れた。

 男は臣下の礼を取ると徐に口を開く。

 

 「申し上げます。太平洋上に黒の騎士団が出現。新総督を乗せた護衛艦隊と交戦状態に入ったとの事です」

 

 その一報を聞いた二人は互いに顔を見合わせた後、振り返ったV.V.は意味ありげな笑みを男に送る。

 

 「彼はどうしてるの?」

 「新型機で出撃されたとの報せを受けております」

 

 男の返答は最新のものでは無い。

 既にこの時ライはアヴァロンに帰艦していたのだから。

 だが、それを知らないV.V.は嬉しそうに語る。

 

 「それじゃあ始めるけど……構わないよね?」

 「えぇ」

 「C.C.の驚く顔が目に浮かぶよ」

 

 そう独り言のように呟くと、V.V.は陰惨な笑みそのままにゆっくりと瞳を閉じた。

 

 ◆

 

 中華連邦を出港して佐渡に向かい、卜部達を拾うとそこから津軽海峡を抜け太平洋へ至る航路。

 そんな長い船旅の末、戦場に到着した黒の騎士団の潜水艦。

 その艦内にある大型モニターには今、一機のKMFの姿が映し出されていた。

 黒の騎士団初となる飛翔滑走翼を備えた紅いKMF、紅蓮可翔式だ。

 モニターに映し出されるその勇姿に団員達は熱い声援を送る。

 特にベニオは、隣にいるサヴィトリに抱きつくと高潮した面持ちで飛び跳ねている。対するサヴィトリは揺さ振られているにも関わらず、ベニオを振り払う事も忘れたのか。

 彼女にしては珍しく憧憬の眼差しを隠すことなく飛翔滑走翼を開発したラクシャータの後ろ姿を見詰めていた。

 しかし、そんな中にあっても緑髪の女、C.C.は彼女等とは一線を画していた。

 

 「カレン、頼む……」

 

 冷静さを失わない麗貌のまま、C.C.が小さく願ったまさにその時。

 彼女は思い掛けない事態に遭遇する事となる。

 

 「っ!?」

 

 突然、ルルーシュ以外のギアスユーザーの波長を察知したのだ。

 彼女は思わず瞳を見開くと、咄嗟にモニターから視線を逸らし一人虚空を見やる。 

 当然、そこには無機質な灰色をした隔壁しかない。

 しかし、その視線は確実に捉えていた。潜水艦内から見える筈の無い青い空。そこに浮かぶアヴァロンを。

 隔壁を浸透するかのように漂って来る気配に対して、C.C.は傍目には分からぬ程度に柳眉を顰めた。

 

 「ライ、お前なのか?」

 

 知らず、C.C.は尋ねるかのように呟いていた。

 近くに居たベニオ達や、神楽耶、ラクシャータは、獅子奮迅の活躍を見せる紅蓮可翔式の勇姿に釘付けになっており、それに気付く事はなかった。

 明後日の方向を見つめたまま、返って来る事の無い返答を待つC.C.。

 だが、いつまでも黙っているというのは彼女の性格上有り得ない。

 彼女は微笑を浮かべながら相手に向けて念を飛ばした。随分と女泣かせな事をしてくれるな、と。

 実際の所、彼女はこんな台詞を飛ばす気は毛頭無かったのだが、久方ぶりに弄れる事に我慢出来なかったのか、つい使ってしまった。

 しかし、今となっては後の祭り。

 同時に、珍しく興奮気味であった彼女は忘れていた。以前、自身がルルーシュに警告した筈の言葉を。

 C.C.は内心驚きに満ちた言葉が返って来るのを期待する。反応は直ぐにあった。

 だが、それを受け取った瞬間、C.C.は露骨に柳眉を逆立てた。

 

 『貴様が、C.C.か』

 

 その言葉は、殺意の固まりだったからだ。

 並の人間ならば、聞いた瞬間全身に鋭利な何かを突き立てられたと錯覚しても可笑しく無い程の。

 だが、彼女はC.C.だ。

 直ぐに皮肉気な笑みを浮かべてみせると、売り言葉に買い言葉といった様子で軽口を飛ばそうと試みる。

 が、その直前、ライの波長は突如として消えた。

 彼女は本能的に理解した。邪魔をされた、と。

 己の念話を遮る事が出来うる力を持つ者を、彼女は現世では(・・・・)一人しか知らなかった。

 同時に、以前何気なく言ったルルーシュの言葉が彼女の脳裏を過ぎる。

 

 ―― 何処からECMでも出てるんじゃないか? ―― 

 

 言い得て妙とでも言うべきか。ルルーシュの言葉は的を得ていた。

 この時、彼女は全てを理解した。

 何故、今までライの波長を感じる事が出来なかったのかという事を。

 C.C.がライの波長を喪失する原因となった事案は後にも先にもたった一度。

 そう、それは1年前の事。

 ジェレミアの駆るジークフリードを心中相手に見定めた彼女が海に突っ込んだ時だ。

 水圧により圧壊されてゆくコックピットブロック。失われてゆく酸素。

 如何に彼女が不死であろうとも、酸素の乏しい空間で意識を保ち続ける事は不可能で、遂には意識を失った。

 同時に、それまで朧気に感じていたルルーシュとライ。二人の気配も手放さざる負えなかった。

 次に彼女が目を覚ましたのは機体の残骸に混じって、大海原を彷徨っていた所を卜部達に救出された時のこと。

 直ぐに探りを入れたC.C.が真っ先に感じ取ったのは、遠ざかって行くルルーシュの気配。

 当然だ。ルルーシュの契約者はC.C.なのだから。彼に対する優先権は彼女にある。

 一方で、ライの気配は微塵も感じられなかった。

 そこに卜部より知らされた【生死不明】との一報。 

 彼女は当初それを全く信じてはいなかった。

 その為、以後、密かに何度か探りを入れてはみたものの、ライの存在は霞の中に消えたようで全く分からなかった。

 それが1ヶ月も続けば、いい加減彼女としても諦めに近い感情を抱くというもの。

 そして、トドメは過日に於いてマリアンヌから知らされた事実。

 しかし、V.V.はあの時に全てを済ましていた。

 ライの契約者はライに優先権を付けていなかった。故に、先に奪った者勝ち。

 V.V.はC.C.が意識を失っているのを良い事に、狙い澄ましたかの様に彼女から優先権ごとライを掻っ攫った。

 脳裏に「言えるものなら言ってごらん」とほくそ笑むV.V.の姿を思い起こした彼女は、珍しく怒りに肩を震わせた。

 しかし、流石にそんな雰囲気を醸し出しては周りに居る隊員達も気付く。

 だが、彼等は彼女の怒りの理由まで把握出来ている筈も無く、触らぬ神に祟り無しとばかりに距離を置いた。

 が、すぐ傍に居た二人だけは真逆の反応を見せた。神楽耶とラクシャータだ。

 

 「どうされたのですか? カレンさんは頑張って下さってると思いますけど?」

 「そうよ~。あたしの新型をあそこまで乗りこなしてるのよぅ?」

 

 しかし、流石の二人もC.C.の怒りの理由を理解出来てはおらず見当外れな意見を口にした。

 すると、返事が無いどころかC.C.の視線に気付いた二人は揃って首を傾げた。

 自分達とは違ってモニターを見ておらず、まるで猫のように明後日の方向を凝視していたからだ。

 

 「どうされたのでしょうか?」

 「さぁ? あたしに言われてもねぇ」

 

 小声で互いに疑問を出し合う二人。

 それすらも聞こえないのか、C.C.は全く反応を示さない。

 彼女にとってライが現世に居る事を確認出来た事は喜ばしい事だった。神の元であればどう足掻いても詰んでいるのだから。

 しかし、如何せんタイミングが最悪な上にV.V.は他者に対して絶対に気付かれない方法で告げて来た。

 今の騎士団の現状を知っているC.C.からしてみれば、告げようにも告げられない。

 喜びよりも先に、腸が煮えくりかえる思いだった。

 言えばルルーシュはどうなるか。

 只でさえ最愛の妹が敵側に居るのだ

 今の精神状態でライの事まで告げるのは(はばか)られた。

 尤も、ルルーシュに関してはナナリーを無事に救い出してからでも遅くは無いだろうと結論付ける事が出来たが、他の隊員にはとてもでは無いが言えたものでは無かった。

 彼らもまたライを大切に思っており、今では日本解放と同じ程にライの仇を、と思う者達も少なくない。

 更に言えば、幹部である四聖剣メンバーの中にはゼロよりも寧ろライ寄りだと言っても良い者達も居る。

 どうしたものかと考えるC.C.の脳裏に、不意に悲しみを湛えた紅髪の少女の姿が浮かんだ。

 彼女が最も考えたく無かった事でもあるのだが、それは無理からぬ事。

 C.C.は軽い頭痛を感じながらも考える。

 伝えたとしたら恐らく、いや間違いなくカレンは喜ぶだろう。それこそ良く教えてくれたと言ってピザを自腹で奢る可能性すらある、と。

 C.C.は、それは実に良い事だと思いながらも、一方では絶対に言えないという事も理解していた。

 今のライはルルーシュの時とは訳が違うのだから。

 先程感じた殺気は一年前、ディートハルトにギアスを掛けた時に見せた雰囲気を遙かに凌ぐものだったからだ。

 下手に出会ってしまえば、その変貌ぶりにカレンはどうなるか。考えるまでも無かった。

 いや、カレンだけでは無い。

 ライの仇を誓う者や生存を願う者。それらを原動力としている者達に与える衝撃は計り知れない。

 だが、対する今のライは違う。

 躊躇する事無く殺しに来るだろうという事は容易に想像出来ていた。

 そうなれば、待っているのは惨劇のみ。

 C.C.は、伝える事が許されるのはかろうじてルルーシュのみだと結論付けると、戦況に目を向け直す。

 モニターにはギルフォードを含む三機を堕とし、ジノとアーニャまでをも退けたカレンが、スザクに突貫する映像が映っていた。

 

 ◇

 

 「どっけえぇぇッ!!」

 

 猛禽の爪が白騎士に襲い掛かる。

 激突する両者。互いに一歩も引かない。

 しかし、押し返す事が出来ない事にスザクは驚きの声を上げた。

 

 「そんな!? ユグドラシルドライブのパワーも上がってる筈なのに……」

 「このっ!! 流石にキツイかな……」

 

 対するカレンも流石に力任せ過ぎたと反省していると、ランスロットのコックピットにセシルの声が響く。

 

 『スザク君ッ!! 総督の現在地はブリッジ後方のガーデンスペース。でも、墜落まで後47秒!!』

 「必ず助けます!!」

 

 強い決意と共にコックピットモニターに映ったセシルを見やるスザク。

 しかし、一瞬とはいえ相手より視線を逸らした事が仇となった。

 

 「っ!? しまった!!」

 

 虚を突いて放たれた紅蓮のスラッシュハーケンがランスロットの左側頭部を抉る。

 

 「ぐっ!?」

 

 衝撃に揺れるコックピット。

 スザクは堪らず顔を顰めるが、直ぐ様距離を取りランスロットを反転させるとカレンに背を向けた。

 

 「逃げてんじゃないわよッ!」

 

 カレンが憤慨した直後、今度は潜水艦内からC.C.と神楽耶。

 二人の声が飛ぶ。

 

 『カレン、今はスザクより――』

 『ゼロ様を!』

 「分かってるけど、何処に――」

 

 カレンが悲痛な面持ちで嘆いたその時。

 

 ―― カレン! スザクを追え!! ――

 

 彼女の脳裏に一年前に聞いたライの声が過ぎった。

 

 「そっか……分かりました、神楽耶様!!」

 

 力強く応じたカレンは、旗艦の装甲にコアルミナスコーンを使って大穴を開け突入したランスロットの後を追うべく、ペダルを力強く踏み込んだ。 

 

 ◇

 

 アヴァロンのブリッジに据えられた椅子。

 そこに居座る銀色の仮面の下で、ライは一人物思いに耽る。

 標的からの唐突な念話。

 それが明らかに上から目線で発せられた言葉だと理解すると、沸々と怒りが沸いたライは殺意で以て応じた。

 しかし、それ以後、標的からの返答は無い。

 それを疑問に思うと同時に、その時になって初めて自分の口元が緩んでいる事に気付いたライは、当初に記述した思いに至る。

 その笑みはライ自身喜んでいると分かるものだった。

 目標が巣穴から出てきた事に対してでは無い。

 何故か。

 あの声を心の内で反芻する度に、ライは酷く懐かしいような感覚を覚えていたからだ。

 心に波風を立てられた今のライにとって、最早戦況など眼中に無かった。

 ただひたすらに、その答えを探るべく思考の海に沈み行く。

 しかし、それはセシルの悲鳴にも似た声にサルベージされる事となる。

 

 「ああッ! 重アヴァロンがッ!」

 

 我に返ったライは仮面越しにモニターを見やる。

 彼の視界に飛び込んで来たのは海面上で爆散する旗艦。

 これにはライも思わずといった様子で椅子から立ち上がるが――。

 

 「だからさぁ、セシル君。総督ならさっき救出したってスザク君が言ってたじゃない」

 

 果たして目の前の状況を理解しているのか。

 全く心配しているといった素振りを見せないロイドの言葉が響くと、セシルは詰問めいた口調で批難する。

 

 「ロイドさん! 何であなたはそんなに暢気なんですかっ! あの爆発見て無いんですかっ!?」

 

 彼女の表情には普段の温和な面持ちは見る影も無い。しかし、これもロイドには効果が無かった。

 

 「だからさぁ。大丈夫だって――」

 

 ヒラヒラと手を振りながらロイドが言葉を発した時、遮るように通信が飛び込んで来た。

 発信者はスザク。

 そして、それはナナリー新総督の無事を知らせるものだった。

 通信内容が告げられた瞬間、ブリッジは大歓声に包まれた。

 ある者は同僚と固い握手を交わし、またある者は両手を高々と突き上げる。

 セシルも両手を口元に添えると瞳を潤ませ、「良かった」と何度も呟く。

 が、そんな中でもロイドは一人自慢気に語る。

 

 「まぁ当然だね。何といっても僕のランスロットは――」

 「ランスロットじゃなくて救助したのはスザク君です! ス・ザ・ク・君! 分かりましたかぁ~?」

 

 安堵した事により、それまで溜め込み渦巻き続けていた感情を全て怒りに向ける事が出来たセシルは、普段の温和な表情のままに寒々とした怒気を向けた。

 これには流石のロイドも肝を冷やしたのか。

 

 「そ、そうでした。そうでした。いやぁ~、流石だよね、彼」

 

 額に冷や汗をかきながらも全面的に同意の意を示す。

 だが、若干不満だったのか直ぐさま背筋を丸めて顔を逸らすと、子供のように口を尖らせた。

 それを見咎めたセシルが口元を引き攣らせると、危険を察知したロイドは背筋を伸ばすと回れ右。

 話し相手を変えた。

 

 「慌て無くても大丈夫だよ」

 『慌テル? ハッ! マサカ……』

 

 ロイドと視線が合ったカリグラは、そう言いかけたところで自身が未だ中腰のままである事に気付いた。

 

 『…………………………』

 

 無言で身を正したカリグラは椅子に座り直すと、ロイドは愉快げに口を開く。

 

 「ふ?ん。君にも一応、喜怒哀楽の感情は揃ってるって見ていいのかなぁ?」

 「ソウイウオ前ハ"喜々楽々"シカ無イノデハナイカ?」

 「あはぁ。一本取られたね」

 

 二人は埒も空かない言葉の応酬を始める。ブリッジに詰める者達の冷ややかな視線を無視して。

 だが、そんな矢先に仮面に内蔵された通信機が着信を告げると、右手を上げてロイドを制したカリグラは書類を手にしたまま立ち上がりセシルの傍まで歩み寄る。

 そうして、彼女の手元にあるパネルを操作すると、大型モニターに浮かび上がるのは【SOUND ONLY】の赤文字。

 

 『私ダ。機密レベル"ゼロ"ヲ念頭ニ報告セヨ』

 『はっ! ご報告申し上げます』

 

 スピーカーから響くのは若い女(ヴィレッタ)の声。

 

 『先程、疎界の中華連邦総領事館より、本国の外交ルートを経由して黒の騎士団退去の知らせが政庁に入りました。同刻、式根島基地防空管制隊より太平洋上に黒の騎士団が出現。護衛艦隊からの救援要請を傍受したとの一報を政庁が受けた事も確認しました。どうやら、新総督奪取に動いたものと思われます』  

 『政庁ハソレラノ報告ヲイツ受ケタ?』

 『今より10分前です』

 『10分前?』

 

 ラウンズ三人があの時間に到着する為には、退去報告を聞いてからでは間に合わない。

 瞬時にその事を理解した彼が疑問符を浮かべると、誤解した女は僅かに声を震わせる。

 

 『こ、ご報告が遅れた事、誠に――』

 『イヤ、ソウデハ無イ……ソレデ、政庁ノ動キハ?』

 『は、はい。現在DEFCON(デフコン)4から3に引き上げましたが、救援部隊の編成に手間取っています。進発は早くとも1時間後との事』

 『DEFCON(デフコン)4ヲ政庁ガ発令シタ理由ハ?』

 『把握には至れておりません。ですが、ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム卿が発令者である事までは掴んでいます』

 『発令時刻ハ?』

 

 その問いに、女は緊張の声色で応じた。

 

 『30分前、です。申し訳ありません。意図が不明確であった為、確認に手間取りました』

 『裏取リヲ優先セントシタオ前ノ意図ハ理解シタ。シカシ、連中ハ我々ヨリモ先二予兆ヲ掴ンデイタトイウ事カ?』

 『…………』

 

 女は心得たもので黙して語らず。じっと上司からの言葉を待つ。

 ややあって、カリグラは口を開いた。

 

 『ソレ二シテハ後ノ対応ハ愚鈍ダナ。上層部ハ何ヲ手間取ッテイル』

 

 アーニャが警戒態勢を発令させ、実際に黒の騎士団が動いたというのに、その後の対応の鈍さがカリグラを苛立たせると、女はその理由を提示する。

 

 『編成にあたりナイトオブラウンズに意見を求めようとしたところ、三人とも連絡が取れず混乱した模様です』

 『……成ル程』

 

 合点が行ったカリグラは短く首肯した。

 

 『ソレ以外二動キハ(・・・・・・・・)?』

 『ございません』

 

 機密レベルゼロに基づく最終質問に対して、端的に返した女。

 鷹揚に頷いたカリグラは指示を下す。

 

 『分カッタ。詳細ハ定時報告ノ際二聞ク。オ前ハ任務ヲ継続セヨ』

 『Yes, My Lord』

 

 通信を切ったカリグラは、セシル達の奇異な視線を無視したまま、椅子の傍まで戻り銀色の外套を翻すと、ドカリと腰を下ろす。

 そうして脚を組むと書類に視線を落とした。




これでweb公開版は終わりです。
ペースはちょっとゆっくりになるかと思いますが、次も頑張ります!
ここまで御読み下さりありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。