オリ設定苦手な方はご注意下さい。
ユーフェミアの特区宣言より数日後、黒の騎士団は決断を迫られていた。
今日も今日とて会議は紛糾。
しかし、式典の日まで残り少ないという事もあり、最終決定はゼロに委ねるという事で一応の決着を見た。
結果、ゼロは式典会場に向かい真意を問うとの結論を出し、会議はお開き。
ライはというと、案の定というべきか当然というべきか。
会議の後、ゼロに呼ばれ彼の執務室を訪れていた。
「ライ、お前は俺達と共にガウェインで同行してもらうぞ」
ルルーシュはソファーに寝そべるC.C.を尻目に有無を言わさぬ口振りで同意を求めると、ライは短く首肯しつつも疑問を口にする。
「分かった。でも、ガウェインは二人乗りだ。三人は厳しいんじゃないか?」
「どちらかがお姫様だっこでもすれば良かろう?」
「悪い冗談は止してくれ」
「あぁ、全くだ」
C.C.の提案を二人は阿吽の呼吸で断ると、続いてルルーシュが告げた。
「当日はガウェインの肩に乗る」
「大丈夫か? もし落ちたら……」
「紐で括り付けておいてやろうか?」
ライは少々不安げな面持ちで。対するC.C.はさも楽しそうに軽口を叩いた。が、ルルーシュは気に入らなかったようだ。
「お前達は俺を何だと思ってるんだ? だが、念の為だ。当日の操縦はライ、お前に頼みたい」
少し尖った口調で返したルルーシュにライは頷いて返す。
そんな二人に対してC.C.は目を細めると抗議の色を滲ませる。
「お前こそ私を何だと思ってるんだ?」
「毎日寝転がってピザを食べてるだけの女だろう?」
「二人とも相変わらずだな」
ライは肩を竦めるが、嫌な気分ではなかった。
それはライにとって最早日常の一コマのように感じられ、寧ろ心地よいやり取りだったのだから。
「兎に角、当日は今言った通りで頼む。それと、これに目を通しておいてくれ」
そう言うとルルーシュは数枚の紙をライに手渡す。
「これは?」
「当日は念の為に会場周辺にKMFを配置させる。それはその配置図だ。他の隊員にも周知を頼みたい」
ルルーシュが慎重な性格だという事はよく分かっていたライだったが、この行動は少々行き過ぎでは無いかと怪訝に思う。
「罠の可能性があると? ユーフェミアの性格からしてそれは無いと思うけど……」
「分かっている。だが、相手はブリタニアだ。用心するのに越した事は無いだろう?」
その指摘に自身の甘さを恥じたライは、分かった、と答えた後部屋を出ようとしたが、ふと先日学園で会ったスザクとの会話を思い出した。
「この前、スザクに会った時に言われたよ。是非、特区日本に黒の騎士団も参加して欲しいって」
「スザクらしいな。それで? お前はどう答えたんだ?」
少しだけ哀愁を帯びた口調で問い掛けたルルーシュに、ライはその時のスザクの哀感に浸る表情を思い出したのか。胸に小さな鈍い痛みを感じた。
同時に、ルルーシュの心情を考えれば言うべき事では無かったと悔やむ。
そう、己だけではない。ルルーシュにとってもスザクは大切な友人。いや、付き合いの長さからすれば彼らの方が互いを親友と呼ぶに相応しいのかもしれない。
しかし、実際のところはルルーシュにとってライは自分と同じギアスを持ち、騎士団の中でも自分の考えに真っ向から意見を言ってくれる存在。
また唯一素顔を晒し、こうしてたわいもない話が出来るライをスザクと同じく大切な存在だと思っている訳で。
「僕達はゼロの信じる道を往く、と」
「そうか。だが、お前も本当の所はどうなんだ? 参加したいと思っているのか?」
ライの表情の機微に気付いたルルーシュが問うと、ライは少し考える素振りを見せた後、思いを語る。
「正直に言って、僕は特区の事よりも皆を護りたいという気持ちのほうが強い。そう考えると今回の話は悪いものじゃないとも思える。上手くいけば、皆を戦場に駆り出す必要が無くなるから。幾ら戦い続けて来たと言っても、一部の人達を除けば皆はまだ戦士としては少し心許ない」
「それは王だった頃の経験から来る感想か? 例えばだが、昔のお前ならそういった連中をどう使った?」
ルルーシュにとっては指揮官としての純粋な好奇心から出たものだったが、それを聞いたライは今度こそ苦しそうに顔を歪ませた。
「済まない、忘れてくれ。失言だった。」
ルルーシュは慌てて訂正した。
彼が素直に謝罪の言葉を口にする。これだけでも、端から見れば十分過ぎる程にライを大切な存在だと思っている事が見て取れる。
結局の所、二人もまた十分に親友
ライはそんなルルーシュからの謝罪を嬉しく思いながらも、頭を振るとゆっくりと話し始めた。
「多分……いや、間違いなく囮に使った。生き残ればそれで良し、死ねばそれまでの存在。昔の僕は他人の命をその程度にしか考えていなかったんだ。あの頃の僕には、母と妹、二人以外はどうでも良かった。けれど、だからこそ今の僕は君やカレン、それに騎士団の皆を護りたいという思いが強いんだと思う。皆を失うと、また昔の僕に戻るみたいで怖い、そんな思いもあるかもしれないけど」
「……そう、か」
神妙な面持ちでライの言葉を聞いていたルルーシュは、ここまで聞いてしまったのなら、いっその事との思いを抱く。
そうして、また苦しませるのではないかとは思いつつも、あの日以来ずっと聞けなかった事を尋ねた。
それはルルーシュにとっての最終確認でもあり、何よりもライの事をもっと知りたかったが為の行為だった。
「無理にとは言わないが、良ければ一つだけ教えて欲しい。お前が治めていた国の名だ。思い出しているか?」
「大丈夫だ、思い出してる。僕が生まれた国の名はブリタニア。ブリタニア属州――」
そう言うとライは何処か懐かしむかのように、もう一つの祖国の名を口にした。
「ドゥムノニア、だ」
◇ ◇ ◇
ライが部屋から去った後、二人残されたうちの一人。C.C.は探るかのような声色で問う。
「決まりか?」
問われたルルーシュは背もたれにその身を委ねると小さく溜息をついた。
「あぁ、まさかとは思っていたがな。これで決まりだ。北の蛮族、そしてブリタニアの辺境、あのドゥムノニアの生まれ。それらを考慮すれば、この名前しか該当が無いからな。俄には信じられなかったが」
それは肩の荷が下りた事によるものなのか、もうライを苦しませるような事を聞かずに済む事から来た安堵感なのか。
いや寧ろ両方なのかもしれないが、深い溜息を一つ。
次いでルルーシュは引き出しを開けると中から取り出した書類をC.C.に投げて寄越した。
受け取ったC.C.は目を通す。
それは、記憶の事を聞いた後にルルーシュが独自に調べ上げたライの出自、その検証結果を記したレポートだった。
しかし、そこに記された名を見た瞬間、C.C.の柳眉が僅かに逆立った事にルルーシュは気づくことが出来なかった。
そう、彼女はその名を知っていた。
嘗ての同志が、共犯者が。憧れ続けた存在だったのだから。
――ライゼル・S・ブリタニア――
ブリタニアが新大陸に遷都するよりも遙か昔。まだ、ブリタニアが島国に在った頃。
当時のブリタニアは王族がそれぞれに領地を持ち、それらを統べる上位者としてその王族の中から皇帝となる者を選出していたが、国家規模としては同時代に島で興隆した七つの王国と比べると劣るものだった。
そんな当時のブリタニアの辺境の一角、ドゥムノニア領を統治したとされる王。
だが、その王が実在したかと問われれば、それは疑わしいと言わざるを得ない。
何故ならば、その王に纏わる話。そのほとんどが子供が考えつくような、程度の低い嘘のような話ばかりだったのだから。
曰く、王の声を聞いた者は誰も逆らう事さえ出来なかった。
曰く、王の怒りを買った者は命じられるがまま、その場で笑みを浮かべながら自らの命を絶った。
曰く、齢13で即位した王は、僅か半年でそれまで数十年に及んだ隣国との戦いに勝利した。
曰く、時勢の勢いそのままに島の南部に在った三つの王国を支配下に置くと、時の皇帝に領地として献上した。
曰く、北部の諸国が対抗して戦線を張ると、皇帝より権威を代行する独裁官に任命された王は、島を二分した都度12回にも及ぶ大会戦、その全てに勝利すると残党を最北の地に追いやった。
未だ真偽が疑われる理由は、この王を詳細に記した書物で現存するものはブリタニア年代記とブリタニア列王記。たった2冊のみであり、それは歴史書にありがちな誇張や事実改変が他にも数多く見受けられ、凡そ文献としての体を成していない事に起因する。
他国を征服して領土を広げる事で本国に貢献したにも関わらず、最後は再び攻め込んで来た蛮族を治めていた国と庇護すべき民もろとも族滅し、自らも炎の中に消えたとされる狂気の王。
だが、嘗てブリタニアに住む者達の中で、この名を知らぬ者はいなかったとされる。
自らの身を滅ぼしながらも本国を護った英雄とされ、王の死後、その偉業を称えられると戯曲や絵本のモデルにもなり民に広く愛された。
だが、やがてその名は
そこまで読み進んだC.C.は、顔を上げると疑問を口にした。
「何故、忘れ去られたんだ?」
「昔は王の偉業に
ルルーシュはそう前置きした後、手に持っていた残りの書類を捲り上げる。
その王の名を冠した者は、幼少期から少年期にかけて突然の死を遂げる事があったと記されている。
また、成人したとしても、多くは心を病み自ら命を絶った、とも。
「今から考えればおかしな話だ。昔は今程医療技術も発達していなかったからな。免疫力の弱い子供が流行病である日あっけなく死ぬ事など珍しくなかった筈だ。だが、当時からすればやはり王の名は大きかったのかもしれない。無事に育つ事が出来た連中の後ろには常に王の影があり、何をするにしても比べられ、認められる事などなく、やがて精神を病み自死を選んだ者が出た。それを呪われた名前などと、誰が言い出したかも知れない風の噂を当時の人々は本気で信じ、いつしかその名を口にする事も恐れ、王の名はやがて歴史から消えた、といった所だろうな。だが……その名を復活させた者がいる」
ルルーシュの独白にC.C.は静かに同意した。
「リカルド……か」
この王は誰よりも力を望んだ結果、悪魔と契約し絶大な力を手に入れたと伝えられていた。
その半ば狂気じみた力への渇望こそが、今日のブリタニアの国是の元となり、やがて王の名は力を求める者にとってはある意味絶対的なものとして神格化されてゆく事となる。
「年代記や列王記もリカルドが即位した年に編纂が開始されているが、誇張や事実改変が多すぎる。要は、今のブリタニア皇族の正当性を主張する為に都合良く作られた紛い物。歴史書というよりは作り話に近い。だから、俺はこの話も信じてはいなかったが、それがギアスの力による物なのだとしたら納得がいく」
「だが、記憶を思い出した今のあいつの性格はどう説明する? とてもでは無いが狂気の王などには見えないぞ?」
至極真っ当なC.C.の質問に対して、ルルーシュは曖昧な答えしか返せない自分にちょっとした苛立ちを覚える。
「これは推測だが、それはカレンの功績が大きいと思っている。ライは記憶を失い
「つまり、王の記憶を思い出した今となっても、それがあいつの狂気を押さえ込んでいると? だとしたら、とんだ惚気話だな」
愉快そうに笑うC.C.を見て、ルルーシュは気を吐く。
「だからあくまでも推測だと言っている。しかし、仮にそうだとしても完全では無い。ディートハルトにギアスを掛けた時のライの纏った雰囲気を覚えているだろう?」
その時の様子を思い出したC.C.は静かに頷いた。
「もうこれ以上、ライにギアスを使わせる訳にはいかない」
「だから自分がやる事にしたのか。友達思いだな」
だが、ルルーシュはその言葉に対し、さも当然であるかのように鼻で笑うと釘を刺す。
「分かっているだろうが、この事は――」
「悪いが少し寝かせてもらうぞ?」
C.C.はルルーシュの言葉を突如遮ると、返答を待たずにソファに横になると瞳を閉じた。
良からぬ事にならなければいいが、との思いを胸に。
◇ ◇ ◇
ライは先程ゼロから受け取った当日の配置図を片手にアジト内を歩ていると、不意に呼び止められた。
声がした方を振り向くと彼女がいた。ライにとって誰よりも愛おしい彼女が。
「ゼロは何て言ってたの?」
真剣な彼女の眼差しに、ライは緩みかけた表情を引き締める。
「式典会場への同行を命じられたよ」
「そう……ねえ、特区の話、ライはどう思う?」
伏し目がちに問うカレンに対して、ライは僅かに逡巡するも思いを口にした。
「ゼロが言ったように真意を問う必要はあると思う。でも、あの時言っただろ? 僕は皆を護りたいって。そういう意味では、特区に参加すれば戦場に出ないで済む可能性が高くなるから賛成だ。でも…カレン。君はゼロの事を信じているんだろう?」
柔らかな口調で問い掛けるライの言葉に、カレンは静かに頷いた。
「僕も信じてる。彼ならしっかりとした判断をしてくれるって。例え決裂しても、そうなったらそうなったで今度は皆を護るだけだ。勿論、君の事も」
「ライにそう言って貰えるのは嬉しいわ。けど、私ってそんなに弱く見られてるのかしら?」
嬉しさとちょっとした不満が入り交じったような口調で問うカレンに対して、ライは宥めるつもりが、不要な事まで口にしてしまう。
「そういう意味で言ったんじゃない。寧ろ並の男よりは遥かに強いと思う」
「…何ですって?」
それまで何となく良い雰囲気だった場が、突如として張り詰める。
「落ち着こう、カレン」
しまったと思ったライは、慌てて治めようとするがカレンは笑顔のままにじり寄る。
「違うんだ! 君を護りたいと思ったのは……その……カレンが僕の一番大切な
すると暫しの沈黙の後、それまでの空気が嘘のように柔らかいものに変わった。
「まぁ、いいわ。それで許してあげる」
悪戯が成功したかのような笑みを浮かべるカレンを見たライは、内心胸を撫で下ろしつつも引っ掛かった事を理解した。
「まさか……遊んでいたのか?」
「少しね。最近、忙しくてあまり話が出来なかったでしょ? だからよ。まあ、ちょっとは自覚あるし……」
腕を組むと少しバツの悪そうな顔をした後、カレンは静かに微笑んだ。
「やられた。君には敵わないな」
ライは騙された者とは思えないような笑顔を向けた。
見惚れたカレンは、自分の顔が熱くなるのを感じて、思わず顔を伏せた。
「どうしたんだ?」
ライはその様子を見て不思議そうに問い掛けるも、彼女の理由は以下の通り。
――やっぱり、ライは天然ね。自分の笑顔の破壊力を全然理解してない。皆の前で結納しておいて良かったわ。
皆とは当然の如く他の女性団員の事で、ライは入団当初から、本人にはその気は全く無いのだが、あちらこちらでフラグを建築していた。
神根島の一件で互いに両思いであった事が確認出来た事はカレンにとっては幸いだったが、以降も相変わらず。
当初はカレンも見つける度に
しかし、生半可な台詞ではライは中々気付かない。
だから、あの時カレンが言った言葉は紛うことなき本心でもあった。多少は打算的なところもあったが。
「何でも無いわ。ねぇ、これからどうするの?」
カレンは笑顔でそう返すと、ライはそれまでの雰囲気を一変させ戦う者の顔になる。
「まずはゼロから渡されたこれを皆に見せながら打ち合わせだ。カレン、君にも入ってもらう」
対するカレンもそれまでの惚けた様子を消し去ると戦士の顔になる。
「当然よ。私はゼロの親衛隊長だからね」
二人は顔を見合わせ軽く頷いた後、互いの手を握り皆が待つ格納庫に向けて歩き始めた。
それは一見、端から見れば仲睦まじい恋人同士に見えるだろう。
しかし、二人から溢れるのは戦士としての自信と気迫であり、通路で出くわした団員は思わず道を開けるとその後ろ姿を見送る。
ライとカレン。二人の雄姿に目を奪われた団員は思わず呟いていた。あれが双璧か、と。
◇ ◇ ◇
金色の夕日が注ぐ壮麗な神殿にも似た場所で、二人の人物が静かに佇んでいた。
光を浴びて二人の後ろに影が出来る。一つは短く、一つは長く。
不意に短い影が揺らぎ、その持ち主が言葉を紡ぐ。
「ユーフェミアの件はどうするの?」
すると今度は長い影が揺らぎ、その持ち主もまた言葉を発する。
「放っておけば良いでしょう」
「ゼロの事も?」
「彼奴がこのまま何もせず、大人しく下るのならばそれも良し」
――ルルーシュがこのまま幸せに暮らす? それは駄目。呪われた皇子には、呪われた末路こそが相応しいよ。
小さい影の主は嫉妬の言葉を胸に秘め、心の内で邪悪な笑みを浮かべながら口裏を引く。
「けど、それだと"彼"が手に入らない。このままにしておくのは勿体ないよ」
短い影の主の問い掛けに、長い影の主は揺らぎを止めて静かに佇むと、短い影の主は愉快そうに言葉を発する。
「僕は欲しいな。彼は出来損ないと違って完璧に近いからね。きっと良い駒になると思うけど? それに、君も昔から憧れてたじゃない」
――そう、彼は僕達が憧れた存在。彼が居たから、今の僕達があるんだ。それに、血塗られた王に平穏なんて言葉は似合わない。彼の居場所はこちら側だよ。ルルーシュの側なんかじゃない。
小さい影の主の思いを知ってか知らずか、問われた長い影の主は短い沈黙の後、重々しく頷いた。
「……そうですな……兄さんに任せますよ」
「分かったよ。楽しみにしててね」
兄と呼ばれた短い影の持ち主は、それだけ告げると掻き消えた。
◇ ◇ ◇
式典当日、コックピットの中でガウェインの起動準備を終えたライは、顔を上げてメインモニターを見やる。
見慣れた紅い機体が無い事にちょっとした寂しさを抱きながら、ゆっくりとした手つきで左右の操縦桿を掴む。すると左手からカチリと音が鳴った。
バイザー越しに視線を移すと音の正体に気付いたライは目元を少し緩ませた後、今度こそ強く握り締めると静かに瞳を閉じてゼロからの言葉を待った。
「さて、そろそろ行くぞ」
準備を終えてゼロの衣装に身を包んだルルーシュが、ガウェインの肩口に乗る。
ライは瞳を開きオープンチャンネルで各部隊の状況確認を行う。
そうして各々から通信が入った後、最後にカレンが告げた。
『こちら零番隊隊長。紅月カレン。配置は無事に完了しました。機体状態、通信感度、共に良好です』
「全部隊オールクリアを確認。これよりゼロが式典会場に向かう」
ライはそう言い終えてガウェインを起動させようと両腕に力を込めると、不意に秘匿回線で通信が入った。
『私よ。……ちょっとだけいいかしら?』
「カレンか、どうしたんだ?」
彼女は少し不安だった。背中にライの気配が無い事に。
作戦の時は、自分の後ろにはいつもライが居た。それを当たり前のように感じていたのだから。
しかし、これは二人にとって藤堂救出以来、久々に別々で行う任務。
これからライが向かう先は敵地のど真ん中と言ってもいい場所。しかもたった一機で。
ゼロやライに若しもの事があったとしても、すぐに助けに行く事は出来ない。だが、ゼロは大丈夫だとカレンは信じて疑わない。何故ならば、ゼロの側にはライが居るのだから。
しかし、だからこそカレンはライが心配だった。
神根島の時のように、自分を犠牲にしてまで助けようとしないかという不安があったから。
『あの、その……気を付けてね。でも、無茶はしないで。何かあったら直に連絡して』
カレンの気遣いにライは幸せそうに微笑むと温和な口調で答える。
「ありがとう。カレンも気を付けて」
『うんっ!』
明るく元気な声が返って来た。
その声に少々名残惜しさを感じつつも、ライは通信を切り軽く息を吐いた後、流れるような動作で起動を完了させた。
すると、背後からそれまで蚊帳の外に置かれていたC.C.が冷やかすように語りかける。
「相変わらず仲が良いな」
「そうか? いつも通りだと思うけど……」
C.C.はライの言葉にヤレヤレと首を振りながら思いを潜める。
愛し愛される関係、そしてそれが当然のように感じられる事こそが、何にも勝る幸せなのだぞ、と。
一方のライはそんなC.C.の様子に首を傾げるも、直ぐに正面を向くとゼロに出発を告げ軽くペダルを踏む。
そうして、三人を乗せたガウェインはゆっくりと浮き上がると、式典会場に向けて飛び立った。
やがて、会場付近にある山の上空をガウェインが通り過ぎると、その姿を林の中で見たカレンは無意識のうちに左手に触れていた。
指先にあの日ライから貰った指輪の感触を感じながら、どうか無事で、と祈るのだった。
◇ ◇ ◇
ゼロ
その報告を合図に、会場の警備に当たっていたブリタニア兵に緊張が走る。
彼らはこの日の為にあらゆる事態を想定してきた。無論、ゼロが現れる事も前提にある。
だが、それでも緊張するのだ。
相手はあのゼロ。謀略の天才。
彼らはその知力と策略に幾度となく煮え湯を飲まされてきたのだから無理も無い。
だが、多くの兵士が動揺を隠しきれない中、彼女だけは違った。
「ゼロ! 行政特区日本へようこそ!」
全く恐れる事無く心からの思いを言葉に乗せる女性の名はユーフェミア・リ・ブリタニア。
彼女は歓迎の意を示すように、両手を広げてゼロを迎え入れた。そんなユーフェミアの様子を見ながらライは呟く。
「今のところは、不穏な動きは無いな」
コックピットの中で、ライは周囲の状況を冷静に分析しながら呟いたが、それが聞こえたのか。
C.C.は呆れたように言う。
「心配性な奴だな。ゼロに任せておけばいいだろう?」
「僕は僕のやれることをやるだけだ」
ライは引き続き状況の把握に勤める為、周囲の様子を伺う。
一方で、ユーフェミアがゼロの提案を受け入れた事を聞き届けたライは、ゼロの指示の元、会場の舞台裏にガウェインを着陸させる。
ゼロはガウェインの肩口から降り、ユーフェミアと共にG1の艦橋の中に消えていった。
二人の後ろ姿を見届けたライは、再度周囲の様子を果断なく伺う。
すると、翡翠の瞳に不安の色を浮かべながら、二人が去った方向を見つめる一人の騎士の姿が目に入った。
「C.C.、僕は少しここを離れる」
そう告げると視線に疑問の言葉を乗せるC.C.に対して、ライは真剣な眼差しを向けた。
「友達と話してくる」
そう言ってコックピットを開けると、ライはもう一人の親友とも言える青年の元へ歩いて行く。
「来てくれると信じてたよ」
ライの姿を認めたスザクが高揚を押さえた声で話し掛けるが、ライはバイザー越しに咎めるかのような視線を向ける。
「ゼロの護衛として来ただけだ。まだ気が早いんじゃないか? スザク」
「でも、嬉しいんだ。ここから何かが始まるんじゃないかって予感がして」
「……そう、だな。そうなればいいな」
スザクはライの指摘に動じることなく、思いの丈をぶつけた。
その言葉に、ライも思わず同意してしまう。
そうして二人は互いの主が戻るまで暫しの間、お互いの思いを語り合った。
そうこうしていると、不意にスザクが何かを見つけたように声を発し、ライの背後に視線を移した。
釣られるようにライも振り返る。
すると、丁度C.C.がコックピットから降りて来た所が見えた。
何故急に出て来たのか。
ライが訝しんでいると、突然、C.C.は額を押さえ地面に蹲った。
何事かと思ったライとスザク。顔を見合わせた二人は急いで駆け寄る。
スザクが抱き起こそうと肩に触れる。すると、彼は短い呻き声を上げて倒れ込んでしまう。
慌てたライが二人を起こそうとC.C.に手をやると、今度はライの意識を強い衝撃が貫いた。
瞬間、これまで思い出せていなかった記憶が湧き水のように溢れ出る。
本当の名前、自らのギアスの暴走によりもたらされた悲劇。母と妹の死。
あの日、二人の亡骸を両手に抱いた感覚までをも鮮明に。
それら全てを思い出しながら、ライの意識は闇の中に沈んでいった。
ギアスの世界はアーサー王に関するものが多いので、ライの故国もそれに因んでみました。
ブリタニアと響きが似てて、個人的には気に入ってる設定です。
また、ゲームではC.C.はライを知らなかったようなので、C.C.よりも前の時代の生まれにしようとしたらこうなってしまいました。
ライの母親の設定は、本編に絡ませる余裕がないので、そのうち何処かに書こうかな。
あと、本作はライカレ至上主義です。