コードギアス 反逆のルルーシュ L2   作:Hepta

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~ 紅と蒼の別離(中編)~

 嗅ぎ慣れた匂いが鼻孔を擽り、聞き慣れた声が聴覚を刺激する。

 それらが頭の中で混ざり合い、闇に沈んだライの意識を呼び起こすと、彼は次第に覚醒へと向かう。

 

 ライはこれを知っていた。嘗て、幾度となく嗅いだ匂いだったのだから。

 ライはこれを知っていた。嘗て、幾度となく聞いた声だったのだから。

 

 それは、死の匂いと断末魔の叫び。

 

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 コードギアス 反逆のルルーシュ L2  

 ~ 前日譚 紅と蒼の別離(中編)~

 

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 ライは激しい頭痛で目覚めると共に、あの感覚を両腕に感じ言い知れぬ絶望感に襲われた。

 記憶が激流となって頭の中を駆け巡り、先程から会場中に響き渡る音と相まって、それがライの心を壊しに掛かる。

 咄嗟にライは固く目を閉じると、両耳を塞ぐ。

 すると、不意に左からカレンの声が聞こえた気がしたライは瞳を見開き慌てて顔を上げるが、その視界には誰も居ない。

 しかし左手のそれを見やったライは納得した様子でこの場に居ない彼女に心より感謝した後、ゆっくりと立ち上がる。

 頭痛は相変わらず。

 しかし、先程まで頭の中で暴れていた記憶は嘘のように治まっていた。

 ライはふらつきながらも会場へ向けて歩み始める。

 だが、辿り着いた先に広がる光景にライは我が目を疑った。

 それは、先程暴れていた記憶の中にあった光景。嘗て自分が引き起こしたソレに余りにも似ていた。

 違いがあるとすればたった一つ。

 

 「何だ……これ……」

 

 紫色の巨人が、人々を蹂躙していた。

 その光景を見るや否やライの頭痛は一層酷くなる。

 遂に立っていられなくなったライはその場に両膝を付き、目の前で繰り広げられる惨劇を呆然と眺める事しか出来ないでいた。

 すると、それまでライに背中を見せ、黒いマントを靡かせながら発砲を繰り返していた紫色の巨人、グロースターがゆっくりと振り向くとライに照準を合わせる。

 しかしライは、これから自分が撃たれるというのに、まるで他人事のようにその姿をバイザー越しに生気を失った瞳でただ眺めていた。

 すると次の瞬間、グロースターの姿が歪んだかと思うと人の姿になった。

 剣先を向けて、死笑を浮かべる……嘗ての自分の姿に。

 

 「危ない!!」

 

 唐突に発せられたその声と共にライに向けて発砲するグロースター。

 だが、間一髪。声の主に突き飛ばされたライは床を転がる。

 

 「ライ! 何をぼさっとしてるんだ!」

 

 声の主はスザクだった。だが、今のライには届かない。

 ただ、茫然自失といった様子で、床を眺めるのみ。

 スザクはそんなライを背負いこむと、再び照準を定めたグロースターが発砲するも、それから疾風の如く逃げると壁の裏に身を隠した。

 続いてスザクはライを壁に預けると、耳元にあるインカムで銃撃を繰り返す部隊に対して通信を試みるが、無駄だった。

 スザクは苦悶の表情を浮かべるとライに向き直る。

 

 「君はここに居て。僕はこの騒ぎを……ユフィを探さないと」

 

 スザクはそれだけ告げると駆け出して行った。

 

 ――何故、また僕にあの光景を見せる? 僕は、許されない存在なのか?

 

 床を見つめながら、己の運命を呪い続けるライ。そんな彼の元に走り寄る一つの影。

 その人物は、ライの側まで来ると彼の腕を掴んで力任せに引き起こした。

 

 「ライ、行くぞ……どうした? ライッ!?」

 

 だが、幾ら呼びかけようともライは反応を示さない。

 声の主は反応が無いライに心の中で詫びながら彼の右頬を叩く。

 その痛みにライの意識が戻り、恐る恐るといった様子で顔を上げると視線の先には仮面の男が居た。

 

 「……ゼロ?」

 「無事で良かった。歩けるか? 無理なら肩を貸そう」

 

 反応があった事に安堵したゼロは、今だ茫然自失といった状態から抜け出せていないライの左手を自分の肩に回した。

 

 「済まない……けれど、これは一体、何が……?」

 「……後で話す。今はここから脱出する事が先決だ」

 

 一瞬言葉に詰まったゼロだったが、そう答えただけでライに肩を貸し支えるようにして歩き出した。

 ゼロの足下はお世辞にも頼り甲斐があるとは言えなかった。しかし、それは無理もない事。

 これは彼にとってはジャンルでは無いのだから。

 ゼロはスザクのように出来ない自分にもどかしさを感じつつも、必死に友人を支えながら歩く。

 そう、こんな所で弱音を吐いている暇など彼には無い。

 彼は自分が引き起こした悲劇に終止符を打たなければならないのだから。

 全ては己と……そして何よりもユーフェミアの為にも。

    

    ◇ ◇ ◇

 

 何とかガウェインの所まで戻り、コックピットに滑り込むようにして入った所で、二人は自分達の格好に気付いた。

 今の二人は、ルルーシュがライを抱き抱えるような、皮肉にも出発前にC.C.が提案した状態だった。

 

 「ここまでするとはな。正直、私も驚いたぞ?」

 

 二人を出迎えたC.C.が、ガウェインを操縦しながら声を掛けたが、仮面を外したゼロ、ルルーシュは首を振ると事の顛末を話し始めた。

 

 「違う! 俺はギアスを掛けていない。掛けたつもりもなかった!」

 

 ルルーシュの腕の中でその言葉を聞いたライは思わず呟く。

 

 「暴走……か?」

 

 突然の言葉にルルーシュは驚いたような表情を浮かべるが、ライはそれを無視して問い続ける。

 

 「C.C.、どう……なんだ?」

 「あぁ、間違いない」

 

 ライは観念したような口調で自分の言葉を肯定したC.C.を見て、苦悶に顔を歪ませた。

 

 「僕と……同じ……か……」

 

 ライはルルーシュが自分と同じ道程を辿りかねない事に苦しむ。

 ギアスの暴走、それが齎す結末をライは身をもって知っているのだから。

 

 「お前と同じだと? おい、どういう事だ?」

 

 ルルーシュに真剣な眼差しで問われたライは、吐き気を押さえながらも何とか言葉を紡ぐ。

 

 「全部……思い出したんだ。僕のギアスも……かつて制御できなくなった事が……ある」

 

 そして話す。北の蛮族に再度攻め込まれた際に戦意高揚の為、全ての民が集まる場で演説を打った事。

 使った覚えなどまるで無かった事。だが、結果として全ての民にギアスは掛かってしまった、と。

 皆が皆、手に武器を取り叫ぶ。

 

 ――全ては我らが王の為、蛮族共を皆殺しにしろ!!――

 

 その時ライは見てしまった。他の者と同じように、武器を手に取りそれを掲げる純白の衣装に身を包んだ二人の姿を。

 一瞬、ライは見間違いでは無いかと自分を疑ったが、直にその考えを否定する。

 彼の国で、自身が白い衣装を着る事を許した人間は母と妹、たった二人だけだったのだから。

 ライは慌てて止めようと手を伸ばすも、二人は人の波に飲まれて消えてしまう。

 国が沸騰し、狂気が溢れ出る。

 民衆はまるで津波のように蛮族共に襲いかかった。

 そこには戦術や戦略など微塵も無かった。腕が切り落とされようと、脚が砕かれようと。

 ただ、民衆は命ぜられるがまま戦い続けた。

 やがて、どれだけの時が流れただろうか。その場には最早人の気配は感じられず、無数の屍がその姿を晒していた。

 そんな中を返り血を浴びて血塗れになったライは一人、手に持った剣を引き摺りながら永遠とも思える時を彷徨い続け……遂に見つけた。

 変わり果てた二人の姿を。

 純白の衣装は血と泥に塗れ、二人は折り重なるように息を引き取っていた。

 この身をどれだけ血で染め上げてでも、護りたい存在だった二人。自分のように醜い色に染まって欲しくなかった。

 その意味も込めて贈った純白の衣装。だが、結局それは叶う事無く、ライは二人の亡骸を抱くと久しく忘れていた涙を流しながら天を仰ぎ慟哭する。

 そんな折、突如として自らの契約者が現れ、ライは誘われるように眠りについた。

 そこまで話して頭痛が一層酷くなるのを感じたライは顔を顰める。

 

 「そう、か」

 

 短く言葉を発した後、ルルーシュは自嘲気味に笑った。俺とお前は一体どこまで似ているのだろうな、と。

 

 「C.C.、このまま……ラクシャータさんの所まで、飛んで……くれ」

 「何をするつもりだ?」

 

 ライはC.C.に話し掛けたつもりだったが、そこにルルーシュが眉間に皺を寄せて疑問の言葉を投げ掛けた。

 そんな彼を見ながら、ライは苦悶の表情そのままに答える。

 

 「あそこ……には、僕の……月下がある」

 「お前っ!!――」

 「こう……なったら、戦うしか……ない。皆を護る為に……も」

 「その状態でだと? 駄目だ! 今のお前を戦わせる訳にはいかない!!」

 「だが、僕は……皆を護ら……ないと――」

 

 ライの表情を見てルルーシュは考える。

 今のライは元々白かった肌が更に白く、唇の血色もまるで死人のよう。

 やっとの思いで言葉を発しているような状態であることは一目瞭然。

 しかし、ライの内なる意思の成せる技か、瞳だけは力強く光を放っていた。

 今のライなら例えどれだけ反対しようとも、全てを押し除けて出撃しかねない。

 そして、そんな彼を止める事など生半可な事ではない。

 ライにとって悪夢とも言える記憶、それと同じ光景を今度は自身が作り出してしまった。

 ライをここまで追い込んだのは自分の責任。その上、更に戦わせるなど愚の骨頂だと、そう結論付けたルルーシュ。

 

 「ライ、今は大人しくしていろ!」

 

 ルルーシュは、まだ何か言おうとしていたライの言葉を遮り、彼の瞳を真っ直ぐに見つめるとそう"命令"した。

 

 「……ああ、分かっ……た」

 

 好むと好まざるとに関わらず、その"命令"に従うしかなかったライは、今まで皆を護る為に戦うという意思によって何とか意識を保っていたが、ほんの一時とはいえそれを否定された結果、崩れるように意識を失った。

 

    ◇ ◇ ◇ 

 

「これは何なのよっ!?」

 

 カレンはモニターに映る会場内での惨状を悲痛な面持ちで見つめながら叫ぶ。

 が、他の団員も同じく事態の把握が出来ていない。

 

 『今調べてる!!』

 

 焦りが混じった声色が返って来るだけだった。

 

 ――これは一体、何? ライは? ゼロは? 何で応答が無いのっ!?

 

 カレンは自身の鼓動が早まり、息が荒くなるのを感じた。

 今すぐにでもライの元に飛んで行きたい。そんな衝動に駆られながらも、自分は隊長。命令無しに動く事など許されない。と、団員としての自分と一人の女としての狭間で揺れ動く心を必死に押さえながら、二人からの通信を待つ。

 最初の問い掛けから時間にして僅か数分。だが、それはカレンにとって永遠ともいえるような時間に思えた。

 静寂が紅蓮のコックピットを支配しかけたその時。

 

 『黒の騎士団総員に告ぐ!!』

 

 頼もしい声がコックピット内に木霊した。

 カレンは敬愛する指揮官の無事な声を聞きホッと胸を撫で下ろした後、最愛の男性(ひと)の声が無い事に動揺する。

 だが、そんなカレンの心境を余所にゼロは言葉を続ける。

 

 『ユーフェミアは矢張り敵だ!! この特区日本は、我々をおびき寄せる為の卑劣な罠だった!!』

 「ライは!? ライは無事ですか!?」

 

 カレンはゼロの言葉を遮るかのように問い掛けた。無礼とは分かっていても押さえきれなかったのだ。

 突然カレンから問われたゼロは一瞬言葉を詰まらせたが、直ぐにさも当然と言わんばかりの口調で伝えた。

 

 『あぁ、無事だ』

 

 その言葉を聞いたカレンは張り詰めた緊張感が切れたのか。一瞬虚脱すると心底安心した様子で、軽く息を吐く。同時に沸々と沸き上がる怒り。

 まだ多くの日本人が会場内に居るのだから。

 

 ――良かった。でも、ブリタニアめ! 騙し討ちをするなんてっ!!

 

 そう思い、次は皆を助ける事に集中しようとカレンは気持ちを切り替える。操縦桿を握る手にも力が籠もる。

 ゼロからの出撃命令を今か今かと待ち侘びるカレンだったが、続いたゼロの言葉に一瞬息を詰まらせる。

 

 『だが、今は意識を失っている』

 「えっ!?」

 『私はこれより一旦、ラクシャータのいる場所まで引き、そこでライを降ろした後に合流する。ラクシャータ、聞いていたな? 準備をしておけ!』

 

 通信機からは気怠気な女の声で了解した旨の言葉が発せられるが、今のカレンには聞こえていない。

 

 ――意識不明? どういう事?

 

 『全部隊は式典会場に突入せよ!!日本人を救出せよ!! そして――』

 

 先程とは比べものにならない怒りが沸き上がり、カレンは自分の心が真っ赤に燃え上がるのを感じた。

 

 『ユーフェミア・リ・ブリタニアを――』

 

 ――許さない。

 

 『殺せ!!』

 

 ――受けさせてやる。報いを!!

 

 紅蓮の炎にその身を委ね、脇目もふらずに彼女は飛び出して行く。ライや皆を傷つけた、ブリタニアを破壊する為に……。

 

    ◇ ◇ ◇

 

 左手をそっと包み込むような暖かい感触と、鼻孔をくすぐる甘い香り。

 何とも言えない幸せな気持ちがライの頭の中を駆け巡り、彼は静かに瞳を開く。

 視界を占めるはカレンの姿。

 その事に安堵感を覚えつつ、ゆっくりと体を起こしたライ。

 すると、先程まで自分を虐げていた頭痛が殆ど無い事に軽い開放感を抱くと共に、気になっていた事を口にする。

 

 「カレン、皆は無事か?」

 「会場に居た大勢の日本人に犠牲が出たわ。けど、大丈夫、全部終わったから」

 

 涙ぐみながらそう告げると、ライに体を預けたカレンは胸元に顔を埋め、あなたが無事で、よかった、と震えるような声で言った。

 

 「終わった? ユーフェミアはどうなったんだ?」

 「ゼロが……撃ったわ」

 

 顔を上げずにそう答えた後、カレンはあの後起きた事を話し始める。

 富士の行政特区を落とした黒の騎士団。

 ゼロはその場で新たなる国家、合衆国日本の成立を内外に宣言した事。

 これから東京租界に向けて進軍を開始する事。

 各地のレジスタンスや名誉ブリタニア人達が自分達の行動に呼応し、今は作戦準備の真っ最中だという事。

 そこまで聞いて、ライは窓の外を見やる。

 意識を失う前よりも日は落ちて、窓から差し込んだ夕日が部屋の中を照らしていた。

 次に耳を澄ましてみると、外からはカレンの話した通り、引っ切りなしに各方面との連携状況を伝えるアナウンスが鳴り響いていた。

 カレンは一通り話し終わると――。

 

 「ちょっと待っててね」

 

 そう言って体を起こすとベットの脇に備え付けてあった電話機を取り、ライに背中を向けると電話を掛ける。

 

 「私です。はい……ええ……お待ちしてます」

 

 短い会話だけを行った後、受話器を置いたカレンはライに向き直る。

 

 「ゼロからあなたが目を覚ましたら連絡するように言われてたのよ。すぐに来るって」

 

 そう言い終わると、再びカレンはライに体を預けると、再び彼の胸に顔を埋めて押し黙る。

 まるで、ゼロが来るまでもう少し、とでも言わんばかりに。

 暫しの間、カレンは何も話さずじっとライの体温と鼓動を感じていた。

 そう、今のカレンには言葉など要らなかったのだ。

 ただ、ライは無事で、自分はこうしていられるという現実。それだけで十分だったのだから。

 ライもまた、カレンと同じ気持ちを抱きながら彼女の背中に両手を回す。

 しかし、言葉にこそ出さなかったが、一方ではルルーシュを護ると誓いながら、逆に護られた自分に対する情けなさも抱いていた。

 そんなライの心の内を感じ取ったのか、ゆっくりと顔を上げるとライの瞳を見つめるカレン。

 ライもまた見つめ返すと二人は互いにどちらとも無くキスを交わす。

 互いの無事を確認するかのように何度も何度も啄むように。

 やがてそれは熱を帯び情熱的なものへと変わる。

 今の二人には、外から絶え間なく響くアナウンスも聞こえない。

 暫くして、互いに唇を離すと惚けた表情を浮かべるカレンを見てライが静かに微笑むと、カレンは再びライの胸元に顔を埋めた。

 

    ◇ ◇ ◇

 

 『無事で何よりだった』

 

 ゼロからの労いの言葉を掛けられたライだったが、自分は何も彼の役に立てていない不甲斐なさからか。

 頭を垂れて謝罪の言葉を口にした後、顔を上げるとゼロに対して目で合図する。

 それに気付いたゼロは顔を動かす事無く、扉の側で壁にもたれかかり、腕を組んでジッと自分達の会話を聞いていたカレンに告げた。

 

 『少し席を外してくれ。彼と二人きりで話がしたい』

 

 カレンは一瞬戸惑いの色を浮かべたが、ライも軽く頷いたのを認めると小さく頷き返す。

 

 「分かりました」

 

 最後にそう言うと名残惜しそうに部屋から出て行った。だが、すぐ外で話が終わるのを待つだろう。

 扉が閉まる音を聞いたゼロはライに問い掛ける。

 

 『さて、これでいいか?』

 「ありがとう。今の僕の言う事は、多分聞いてくれないだろうから」

 

 そう言うとライは困ったような笑顔を浮かべた。

 

 「で、話とは何だ?」

 

 ゼロは仮面を外して素顔を晒した。

 

 ライは知らないが、これはルルーシュのライに対する誓い。ライと二人の時、その時だけは決してゼロの仮面を被らない事。

 だが、そんなルルーシュの誓いを知らないライは彼の瞳を見て、嘗ての自分を思い出し心を痛めた。

 

 「あの時、僕にギアスを使ったのか?」

 「……ああ」

 

 返ってきたのは簡潔な肯定の言葉。

 だが、それでライが納得出来る筈もない。

 

 「何故?」

 「ああでもしなければ、あの時のお前は止められないと判断したからだ。お前は強情な所があるからな」

 

 ルルーシュは力なく笑った。

 

 「僕が強情だって?」

 「俺は後悔していない。ギアスを掛けた事に対しては謝る気はないぞ?」

 「君も強情だな」

 「では、お互い様という事になるな」

 

 ルルーシュからの指摘に妙に納得してしまったライは、不意に肩の力が抜けるのを感じながら静かに笑みを浮かべ、ルルーシュもそれにつられる様に小さく笑った。

 暫しの沈黙の後、一息吐いたルルーシュは真顔に戻る。

 

 「これからの事だが……」

 「カレンから聞いている、トウキョウ租界に攻め込むんだな?」

 「ああ、この機会を逃す手は無い」

 「じゃあ、僕も――」

 「駄目だ!」

 

 ライの言葉を強めの口調で遮ると、ルルーシュは懐より資料を取り出した。

 ライはそれを受け取ると、ルルーシュの言葉に耳を傾けながら静かに読み始める。

 

 「ラクシャータの検診結果だ。結論から言う。お前の脳波の乱れはまだ治まっていない。よって、今あの月下を乗りこなす事は不可能だそうだ」

 

 只でさえ通常の月下より遥かに繊細な設定が施されているライの蒼月下。

 瞬発力においては紅蓮さえも凌駕するが、それ故に体に掛かる負担も並大抵なものでは無く、乗りこなすには搭乗者の体調も重要な要素になる。

 と言っても、乗れる人間など騎士団の中ではライ以外に存在しないのだが。

 愛機の生みの親でもあるラクシャータの検診結果まで突き付けられてしまえば、流石のライもそれを無視する事は出来ない。

 もし仮に無視しようとしても、自分を止める為にギアスまで使ったルルーシュが、次にどんな手を打ってくるか想像に難くない。

 

 ――下手をすれば、縛り上げてでも止めようとするな。その役目を担うのは恐らく……。

 

 嬉々とした笑みを浮かべる魔女の姿と、鬼気迫る表情を浮かべるカレンの姿を思い描いたライは慌てて首を振るとその映像を消した。

 それに、正直なところライも自分の体調が万全で無いという事は理解していた。

 

 ――しかし、まさか月下に乗る事さえも許されないとは……。

 

 そう思うとライはガクリと肩を落とした。

 

 「分かったら、ここで安静にしていろ」

 

 その様子を見て諭すかのように告げるルルーシュだったが、その言葉がライに一つの決意を抱かせた。

 

 「せめて、僕も連れて行ってくれないか?」

 「お前っ!」

 

 突然のライの頼みに、今まで一体何を聞いていたんだとでも言いたげなルルーシュの視線。

 しかし、ライはそれを真っ向から受け止める。

 

 「僕はもう自分に誓ったんだ。君やカレン、それに皆を護ると。月下に乗れなくれも何か出来る事がある筈だ」

 

 ――縛り上げたとしても、這ってでも来る気だな。

 

 ライの決意を秘めた眼差しに、とうとう折れたルルーシュは、全く強情な奴だと軽く鼻で笑った後――。

 

 「……ありがとう」

 

 心よりの感謝の言葉を口にした。そして思う。

 

 ――結果として、俺は大勢の式典参加者も巻き添えにした。いや、俺が殺したと言ってもいい。だが、それを知った上で、お前はそれでも付いて来てくれるのか。……ならば、やるしかない。もうこれ以上、大切な存在を失う事など……。

 

 ルルーシュは一つの決意を秘めながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

 「これから作戦会議を始める。無理にとは言わないが、出来る事なら出て欲しい」

 「ああ、勿論だ」

 

 その言葉を嬉しく思ったライは笑顔を浮かべた。

 ライの笑顔を見た時、ルルーシュの決意が僅かに揺らぐ。

 が、彼の中では既に一度決めた事、変更は無い。

 ルルーシュは、心の中でライに詫びると念押しする。

 

 「俺は先に行っている。ちゃんと身支度をしてから来いよ?」

 

 そう言うと仮面を被り部屋から出て行った。

 ゼロが部屋から出ると、案の定というべきか、すぐ外にはカレンが居た。

 部屋から出てきたゼロの姿を無言で見つめる彼女に対して、ゼロは懐から小袋に入った錠剤を取り出すと、彼女に向けて一言。

 

 『ライに飲ませてくれ』

 

 カレンはそれを無言で受け取ると小さく頷いた後、入れ替わるように部屋の中に入っていった。

 

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