純愛の名の下に   作:あすとらの

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オリジナル小説を書きたいと思う今日この頃。

ちなみにこの裏編は、こころ裏編と繋がっています。で、RASが名前だけ出てきます。慣れとして、このお話はアニメ世界線です。


松原花音の跪拝(裏)

「花音さんが体調不良ですか?」

「ええ。心配だから様子を見てきてほしいの。ダメかしら」

 

こころからの突然の依頼が舞い込む。花音はどこぞのキーボードとは違い、自分の限界を理解した上で課題を課す。それを知っているだけに、京には拭えない違和感が燻る。

 

「彼女はあまり無茶をしないタイプの筈ですし、無理が祟ったというわけではなさそうですね」

「京は人と接するのが得意って聞いたわ。お願い出来るかしら」

「勿論。頼みとなれば」

「ありがとう!」

 

体調を崩すとすれば、流行病かあるいは怪我が悪化したか。とにかく花音は、悪い方へ悪い方へとシミュレーションを動かす癖で、本番で拍子抜けするパターンが多い。それもあって無茶をするような人間ではない。

 

「出水と申します。松原さんはいらっしゃいませんか。弦巻こころさんからの申し付けです」

「京くん?」

「体調を崩されたとか。こころさんが心配されていますよ」

「あぁ、うん。ごめんね」

 

ドアを開けて姿を現した花音は

 

「こころちゃんが?」

「ええ。体調不良と聞きましたが。おや?」

「うん。寝てたら良くなったから大丈夫。多分明日の練習には出れると思うから」

「それは重畳」

 

顔色も良く、疾病の一般的な症状とされる食欲不振や睡眠不足は見受けられない。本当に寝て回復したのか、それとも単に軽微だったのだろうか。とにかく大事ないようで幸運。でなければハロハピの団結力をこの場でまざまざと見せつけられるところだった。

 

「………ねぇ、京くん。お礼したいから、よかったら家、どうぞ」

「はぁ、お邪魔でなければお言葉に甘えようと思いますが」

「全然。寧ろ歓迎だよ。どうぞ」

「申し訳ありません、病み上がりに」

「ううん。私も京くんが来てくれて嬉しいから」

「そうですか」

 

露骨。花音の京を見る目が変わってしまった事を、ほんの1分かそこらで彼が察知したのは、京が器用だったのか花音が不器用だったのか。

京とて超能力者ではない。考えを読む事は出来ないが、それでも、花音の向けるそれが羨望という生易しいものでない事は手に取るようにわかる。

 

「お医者様には?」

「大げさだよ」

「そうですか………しかし療養はなさってくださいね」

「そう、かな?私は大丈夫だけど」

「ある国で、1人のインフルエンザ患者が潜伏期間中に微熱を出した。それで治ったと誤解した患者が出勤したせいで、都市を巻き込むパンデミックが起こりました。CiRCLEには行くべきでない。勿論今こうして貴女のすぐ側にいる私も」

 

極端なのは京本人も承知だが、大事なのは根拠を示すこと。多少話を飛躍させても、京は多少無理やり、花音に無理をさせない事とした。

 

筈なのだが。京が体調不良を知ってから5日、しかし花音が体調を崩してからは1週間以上経っているようで、その間に彼女はどうやら行くところまで行ってしまったようで、それが違和感の全てを物語った。

 

「やっぱり京くんが正しいんだね」

「いいえ。そのような事は。やっぱり?」

「うん。私も色々考えたんだよ。出会った時から全部。そしたらね、わかったんだ」

「まさか、考えたというのは………」

「うん。これだけでわかっちゃうんだね。やっぱり京くんは凄いな」

「体調不良の原因はそれですか………」

「私、京くんみたいに頭良くないから、ちょっと難しい事考えたら頭痛くなっちゃった」

 

才能とは厄介なもので、天才と言われれば無条件で敵対視されるのが常。そうでなければ、持て囃されるか。

 

「やっぱり貴方が正しいんだね。こころちゃんが言った通り」

 

正しいという呪い。その呪いにかかったのはこころだけではなかった。どうも彼女が吹聴しているのか、京が持つ正しさを、まるで宗教のように信奉しているようにさえ見える。しかし、歩く破天荒でアホの子でもあるこころとは違い、花音は数倍タチが悪い。

 

「凄いなぁ、凄い。そうだよね。京くん、私なんかより頭いいもんね」

「花音さん?」

「ねぇ、こころちゃんが言ってたよ。京くんはどんな状況でも正しくあれる人だって」

「そんな………いえ、そのような事は、決して」

「謙遜しないでよ。私はちゃんと知ってるから」

 

テーブルに置かれた京の手を、花音がそっと取る。

 

どこか虚ろで、盲目になっているような。それが友人として、背中を預けられる信頼だったのなら青春の1ページになったものを。元から花音にそのつもりなどなかった上、京も先輩との淡いロマンスを期待きて来たわけでもない。

 

「ねぇ、ひとつ、頼まれてくれないかな。一生のお願い」

「………何です?」

「その正しさ、私のために使ってくれないかなって………」

 

 

 

 

花音は京の訪問から2日後に復帰した。バンドの中ではいつも通り、こころや彼女を取り巻く3バカに振り回される常識人のまま、何も変わっていない。ただ一点。ハロー、ハッピーワールドの面々も、それを良い変化と捉えているが、その真意はそうでないらしい。

 

「ねぇ京くん、ここはどうしたらいいかな?」

「別に無理して変える必要もないでしょう」

「そっか。ふふ、そうだね。ありがとう」

「いえ、構いませんよ」

 

頼る事が多くなった。それ自体は大変よろしい事だが、花音の心中は穏やかではない。

 

京くんがそう言うなら従わなくちゃ。

 

京くんが言うなら間違いない。

 

正しいんだから………

 

盲目的というのも、完成されるとそれは依存になってしまうわけで。しかしそれを本人は、勿論悪しと思っていない。拒む理由がないからだ。

 

「花音さん、何だか最近京さんを頼る事が多くなりましたね」

「頼りにされて悪い気はしません」

「いやあれは、ちょっとマズイのでは?」

「………確かに、鵜呑みにするのはよろしくないですね」

 

花音を見ていると、京のアドバイスをまるで天啓のように絶対的な信頼を寄せている。それは宗教的といっても過言ではなく、最近は信奉も服従へと変わりつつある。どれだけ天然であっても、花音は間抜けではない。分別もある、どころか、ハロハピの中でもはっちゃけない柔和な常識人だった筈だが。

 

「京くん、ちょっといいかな」

「はい。失礼、奥沢さん」

「ええ、ごゆっくりどうぞ」

 

あまり聞かれたくない話を、少し店の裏で聞くだけ。そんな軽い気持ちだったのだろう。事実として、そのようなムードでまさかそれ以上をするとは思えない。

 

「美咲ちゃんと、何話してたのかな?」

「これから実のある話をしようと思っていたところです」

「………そうなんだ」

「どうしたんです?貴女らしくない」

 

らしくない、というのは様々な意味が込められている。便宜上ではあるが、京は今の状態の花音を異常であるという位置付けにしている。

 

本人は単に相談しているだけという認識でも、時に命に関わる問題さえ京に投げつけてくる花音を正常などと評価出来ない。どこかで彼女の思考が変わってしまった理由があるのだろうが、今となってはその理由が二の次三の次になってしまうほどには花音の変わりようは進行が早い。

 

「別に、いい変化だよ」

「そうですか。そうだといいですが」

 

しかも花音にとっては、人を信じるというだけの事らしく、寧ろいい変化だと話す。

 

「でもよかった」

「何がです?」

「私、貴方が導いてくれないとダメになっちゃった。他の娘と話してると、不安になっちゃうな………」

 

彼に服従していればそれで正しくあれる。それに取り憑かれてしまったが最後、彼の存在抜きに自分を語れなくなる。両手を京の頬に添えると、そっと唇を重ねる。ついばむように感触を確かめたかと思えば、追い込むように舌をねじ込み、後頭部に腕を回す。決して逃がさないように。

 

花音が主導権を握ったまま、欲のままに濃密な時間を過ごした。

 

「ご経験が?」

「そんなわけないよ。貴方にあげたいって、ずっと思ってたんだから」

「それは………いや、わかっています。理解した上で聞きたいのは、誰から、というところです」

「聞いてどうするの?それは貴方と私のこれからに関係あるの?」

「ありません。ただ知りたいだけです」

「……………RASのキーボードの娘から」

「RAS?あの小生意気なDJのバンドですか?そんなの………」

 

いた。確かPoppin’party辺りは、あのバンドと少ないながらもある程度親交があった。であれば、Galaxyの辺りにも広まっていると考えるべきか。

 

「ダメだ………あのキーボードがいる辺り秘密は守られそうにありません………」

 

元凶候補ナンバーワンのキーボードはパスパレファン、そしてRASのギターはポピパファンと、どう足掻いてもSPACEに繋がる要素しかない。

 

「プライバシー、プライバシーってなんだ………」

「でも関係ないでしょ?」

「は?」

「貴方の事を思ってるの。だからお願いよ。そうやって私だけを導いて。私だけに道を示して。そうじゃないと私、いけなくなっちゃったから」

 

膝をついて京より目線を下にすると、手を取ってそう懇願する。京は鋭いとはいえない、しかしやや切れ目がちな目元で決して穏やかといえる目付きをしていないが、どうやらそれが花音の奥底に眠っていた新たな嗜好を呼び起こしたようだ。

 

「あはっ………何だか、京くんに見下ろされるの、癖になりそうかも………」

「私にそちらの趣味はありませんが」

「そんな事言わないで。私が下になるんだもの」

 

会話に限界がある。というより、彼女が言葉でなく行動でその忠義を通そうとする花音には論をぶつけても意味はない。

 

「そろそろ戻りましょう。こころさんが爆発したら止められません」

「………うん」

 

彼の言葉には従うが、その理由に女がいるのはどうしたって気にくわない。暗い影を落とすのはその忠誠心かそれとも嫉妬心か、どちらにせよ花音は"今までした事のない顔"で恨めしそうに彼を見た。

 

私から目を背けるなんて………

 

「ねぇ、京くん」

「はい?」

「京くんが導いてくれるのは私だけでしょ?」

 

彼もまた、それを誰かに望んだのかもしれない。しかし、それが叶ったと喜ぶべきではない。それはつまり、上下関係をつくる事に他ならない。当然、憚れるのだが、彼女はそれを許しそうにない。

 

「貴方の側にいていいのは私だけ。言葉を信じていいのも私だけ。そうじゃないと私が生きていけないから………」

 

 

 

 

 

沈黙は金。時に黙り込むという行為は、雄弁よりも多くを語ってしまう。花音もまた、服従を明確に拒まない彼を見て肯定と受け取った。言葉にしなければ意思を汲めないなど従者として三流だとの事だが。

 

「………花音さん」

「ん?」

「今日の練習は?」

「京くんの事があるのでって言っておいたから」

「それでいいのかハロハピ………」

 

その告白から、花音は一切包み隠さなくなった。それ自体、彼女の思想はどうあれ自分というものをようやく意識し始めた花音ではあるが、それについて喫驚したのは最初だけ。彼の適応力が優れているのか、あるいは花音の表現力が優れているのか。

 

「私は貴方の下にだけいるの。それ以外は知らないから」

 

 

 

 

 

手に入れた、という言葉には語弊があるかもしれない。しかしそれでも、手中に収まっているという意味ではまったくの間違いというわけでもない。

 

「んふふ………」

 

猫がじゃれつくように、擦り寄る。すると京はそれを突き離す事をせずに優しく撫でるのである。

 

「はぁ……ん………」

 

いつのまにか彼に忠誠を誓う、という事が彼女を濡らしているらしく、京といる時はいつも白い肌を上気させて瞳を潤ませている。

 

「ねぇ、次はどうしたらいいの?貴方のためなら何だって出来るから、一言命令してくれればいいんだよ?」

「絶対に、私から離れないでください。いいですね?」

 

あまりこの状態にトリップした彼女を人目にふれさせるわけにはいかない。彼はその一心で、自宅に入り浸らせておく事で外出を食い止めた。それだけの話だが。

 

「………はい、ご主人様♡」

 

盲信というのは恐ろしいもので。文字通り見えていないのである。




遅くなってすみません。難産だったんや。

ちなみにオリジナル小説はそのうち書くつもりです。最近のブームに乗っかって異世界ものですかね。知らんけど。
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