なんか一瞬だけ日間ランキング7位になってたらしいですね。
ありがてぇ、ありがてぇ………
彼の書いた詞は、インターネットのアマチュア特有のものである事が多い。典型的なJ-POPとは少し違う。
「私は英語を歌詞に使いません」
「どうして?」
「決まっています。日本人だからです」
日本語の歌詞の中に英単語を混ぜ込むという事を好んでしないのは、京に限らず、彼の同業者も同じ事である。だからこそ、中途半端にロック調にならない、メッセージ性が強い、という点でアイドルの歌と一線を引いて、ネットや動画共有サイトから新たなジャンルが生まれたのかもしれないが。とにかく彼は、日本語歌詞に英語を混ぜる事を、語彙力が足りないからぶち込めという『逃げ』であるとし、そうある事を嫌った。
「私にも、ネット界で人気があるというプライドはありますから。言いたい事は言います。音楽番組のイチ視聴者としてもね」
「そうなんだ………」
「面倒くさい男でしょうか」
「ううん。自分の意見が言える人って、素敵だと思うな。わたしはそういうの、出来ないから………」
白金燐子。会話だけで見るならコミュ障、ゲーマー、臆病と、多数派から爪弾きされる存在だが、それでもRoseliaのキーボードを担うという実力、意見があればRoseliaの頭である湊友希那に真正面からぶつかる芯の強さ。やはり人は見た目で判断出来ないもので。京も、そのおどおどしたような容貌に騙されて面食らった1人である。
もっとも、ゲームを思えば人混みも他人との会話も怖くないとは白金燐子本人の談である。
「と、いうわけで、お宅のドラムの理解力に合わせると私のものではなくなる」
「そうだよね………ごめんね。自分勝手で。友希那さんが、京くんの事凄く頼りにしてたから」
「こちらこそ。しかし私にも譲れないものはありますので」
「うん。ごめんね」
京が書く曲の特徴は、小説のような歌詞。心象の描写や風景の描写などが、高校生にもなっていない少年が絞り出したワードとは思えないほど的確な、しかし難解な言葉で表現されている。彼曰く、
「日本人の理解力の問題」
との事らしいが、そんな煽ったような言葉でも、ネットのイベントで使われたり大百科で曲の個別記事が作られたり。自信過剰にならない程度には根拠のある自身という事で、そこもまた少年らしくない。
「それに湊さんは音楽以外はポンコツそのものですが、逆に言えば音楽の才能は天賦のものなので。貴女が心配する事は起こりません」
「いやそういう事じゃなくて………ね?」
「おや、的外れでしたか」
「その、お客さんもそうとは………ね?」
「問題はありませんよ。義務教育レベルの語彙力で私も曲を書いていますので」
燐子はやはりというか、バンド全体を見ても高い教養を身につけているだけに心配ないのだが、それでも偶に、曲中でAメロで張った伏線をサビで回収する、といったちょっとしたミステリー小説のような構成には苦労する事が多い。
「京くんはそういうやり方が得意なんだもんね」
「はい。それで湊さんも満足している事ですし」
「うん、そうだよね。何言ってんだろ、私………」
「しかし、曲中に擬音を入れるのは私としても初の試みですし、どこかでやってみたいですね」
彼は新し物好きというか、好奇心を満たすという意味では恐れを知らないというか。とにかく、自分の許さないラインでなければ積極的過ぎるくらいに新たなものを取り入れる。そこに厳正な審査というストッパーはあれど、アイデアは思い描くだけならばそこには益も不益もない。
「疲れましたね。貴女はどうです?」
「わたし?わたしはそんなに………」
「ま、そうですよね。鍛えてらっしゃる事でしょうし」
「でも、疲れてるなら無理しない方がいいよ。ちょっと休も?」
「………そうですね」
しかし当然、オフの日にはゲームの関連こと目先の餌にしか釣られない燐子が、バンドと関係のない作詞作曲談義をしに来たというわけではなく。同バンドのベースパート、面倒見の鬼系ギャルこと今井リサのお達しである。
ある事情のせいで京の肉体は常人のものより脆弱になってしまっている。そのため、疲労が溜まる事で起きる身体への害は時と場合によっては命に関わるものさえある。
しかしこれもまた、ある事情により京は病院に行く事が出来ない。そのため、過労防止の見張りが必要となる。京は頭脳明晰で、体の異変を敏感に察知出来る筈なのだが、何故かそれをしようとしない。少し前に一度それを問うた人物がいるのだが、その時ははぐらかされたようだ。
「今日はいい天気ですね」
「………?そう、だね?」
「最近は荒天続きでしたからね」
「6日連続夏日だったけど」
「よく太陽に当たると紫外線がどうの、と言いますが、実は日光に当たらないのは内臓に悪影響を及ぼしますよ」
「まさか………」
「というわけで、行きましょうか」
「い、いや………わたしはいいかな、って」
苦楽を共にするRoseliaの面々、そして繋がりのある他バンドのメンバーとは問題なく会話出来ているものの、それでも不特定多数が集まる場所は苦手としているようで。なので、そこを全力でえぐる事にしたのだが。
「というわけでご一緒に」
「ダメ。またそうやって追い返そうとするんだから」
音楽については、相談のしようがいくらでもあるが、しかし。京については燐子の中で相談すればよしとはならないようだ。彼がどうあってほしいのか、彼とどうありたいのか、考えは人の数ほどいるもので。
「はぁ………私なら大丈夫です。無茶はしませんよ」
「この前そう言って風邪ひいたよね?」
いつかの気弱な彼女はどこへやら。こと、京のことに関しては燐子も強気である。
「あれは不測の事態でした。私が前もって解熱剤を飲んでいなければ危篤状態に陥った事でしょう。危なかったですね」
「あの時は本当に、私達も大騒ぎだったんだから」
「大袈裟ですよ」
「それで死んじゃうかもしれないんだよ?」
「その時は潔く認めましょう」
「ダメ。絶対ダメ」
しかしそれは、かえって京へ意見出来る強さというものを養ってしまったようだ。意見するというのは人として大事な要素ではあるが、それがお節介に変わるとは京も聞いていない。燐子はRoselia内では年功序列と性格のせいで敬語を使う事が多いのだが、こうして強い口調での会話は、どこか別の人間のようにも思える。
とにかく、普通の人間は体温が45度に達すると死に至るとされているが、京の致死量はもっと低い。常人が寝込むくらいの体温で緊急搬送されるレベルとなれば、燐子の不安はもっともなのだが、当の本人は大丈夫だと言うばかり。
「今まで死んだ事ないので」
「そういう問題じゃない」
自分の身に潜む危険を知っていながら無茶苦茶をしているとしか思えない。
「こっちには奥の手があるんだからね………」
「ほう、それはどのような?」
「あこちゃんと弦巻さんに———」
「やめてやめろやめなさいやめてください。それはいけない。それは私の心がもたない」
「あの2人とわたし、どっちがいいか選んで」
「はい。申し訳ございません」
他バンドで、接点もこれといってない2人だが、あの近縁種が出会った時にはいよいよ疲労が蓄積して限界を迎える。テンションという一点に絞れば、下手をすれば某コロッケ娘と組むよりも凄まじい化学反応が起きてしまう。
「奥の手って脅しですか」
「脅しに聞こえたんだ………」
あのはっちゃけひとつで、京とは相容れない事が会話するより先にわかる。ハロハピの3バカに然り、宇田川妹に然り、不発のあの人に然り、テンション高い枠は総じて、ギャップ、あるいは裏側がない。つまり無邪気すぎる点が非常にやりにくい。前提が固まる、もしくは用意のしようがあるという意味で、何を抱えているかわからない、白鷺千聖や湊友希那、あるいは燐子のような人物は会話がしやすい。
彼女はそんな京の嗜好を理解してそう言っている。
「みんなが悲しむから、あんまり自分の事をいじめないで」
「………弱りました。私は努力しているだけなのですが」
「全部無駄になっちゃうかもしれないの。それはわたしだって嫌だから。だからこうしてお節介を焼いてるの」
青春スポーツもので、主人公が怪我を負って引退を余儀なくされるだとか、それに向き合うだとか、京の場合は違う。たかが風邪、たかが怪我。しかしそこで命のやり取りをしているのだ。
「だから。京くん自身のためにも、休んで」
「………はい」
彼だって、何も自殺願望で突貫しているわけではない。頼りにされるという喜びは、きっといつか、頼りにされなくなるかもという恐怖と常に隣り合わせだ。全てが狂ってしまった幼年期から、学生にすらなれていない14の子供が発揮出来る価値というのに、彼もまた苦しんでいるのかもしれない。
「あぁ、もう………ほら、寝るならベッドで、ね?」
「燐子さん」
「どうしたの?」
「貴女はどうです?今井さんは、Roseliaに自分が必要とされているのかを常に自問していました。貴女の性格を見るに、絶対的な自信を持つようには思えませんが」
人間は時に論理のカケラもないもので、手軽に持てるのは根拠のない自信である。人はそれを楽観と呼ぶが、それを是正する事は容易ではない。一度凝り固まった思考では凝り固まった答えしか出ない。
どうにも、彼女は演奏する事を楽しんでいても、それ以外に対する興味が初めからないように思える。
しかし………
「それで死んじゃうわけじゃないでしょ?」
命は何よりも重い。困難ではあるが不可能ではない、といえば、大概のものは天秤にかけられた時、命より軽いだろう。
偽善などというつまらない事を喚くつもりはない。正義だ道徳だなどと関係なく、命はたったひとつで、やり直しがきかないというのは事実である。それを喜んで投げ捨てるような行為は、きっとマトモなままでは出来ない。
だからこそ、認められないという不名誉も、燐子にとってはひどく陳腐に見えた。それはショックだろうが、音楽というのは自分を構成する要素のひとつでしかない。決して、全てではない。
「すごく落ち込むだろうし、すごく抱え込むと思う。だけど、世の中なんて、一個ダメだから生きる道が断たれるほどハードコアじゃないよ」
「達観していますね。いや、学生が背伸びしているだけですか?」
「京くんより先輩なのよ?」
「湊さんと氷川さんの前ではいっつもオドオドしてる癖に」
「あの2人を同時に相手すればわかるよ」
「ちょっと私は遠慮しておきましょうか」
彼女なりに、命の大切さを説いたのかもしれない。誰かに説教なんて彼女らしさのカケラもないが、京を思いとどまらせるために、手段を選ばないのか。それとも、今の物怖じしない白金燐子がRoseliaの皆にも見せない彼女の姿なのか。それは謎だが、知る気にもなれない。
「燐子さんがコミュ障を発動しないとは。私ってそんなに馬鹿っぽく見えますか?」
「ううん。とっても可愛らしいと思うよ」
「あぁ、そうですか。うん、はい。まったく嬉しくない」
と、気の合う友人のような、信頼し合うビジネスパートナーのような、どうともとれない関係のある日の一幕。
「ちなみにこの楽曲、キーボードパートはこうなっております」
「………え?」
「頑張ってください。それから腱鞘炎のお覚悟を」
「絶対許さない………」
それだけでは、言い表せないものも多少は孕んでいるかもしれないが。
コミュ障ダウナーじゃないりんりん。筆者は大好きです。妄想すると自然にフヘヘってなります。
キャラ崩壊タグついてるし大丈夫だよね?その辺のクレームは受け付けませんよ私。