純愛の名の下に   作:あすとらの

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不思議のほほんパン娘、モカちゃん。


青葉モカの執心(表)

この世の人々は十人十色、性格も趣味も嗜好も様々。ともなれば、必要なのはそれを理解する心と許容する精神。

 

とは、道徳の文句である。しかし、確かに存在するのは、合う合わないだけでなく、それ以前の問題も考えられるわけで。

 

「おっすー、京くーん」

「おはようございます。お早いようで」

「そりゃーもう。モカちゃんは健康第一だからねぇ」

「だったら山吹ベーカリーを封印しては?」

「ひどーい。あたしから生きがいを奪うの〜?」

「もう少し生きがいを見つめ直しては?」

 

青葉モカ。マイペースな女の子、と呼べばいいものの、その自分のペースというのがあまりにもゆっくりな少女。バンドをしている以上団体行動は人並みに出来るものの、それ以外ではゴーイングマイウェイを遂行し続けるAfterglowのギター枠。ゆっくり生き過ぎて趣味は『睡眠』らしい。

 

「商店街行くのー?」

「ええ。モカさんも?」

「あたしはー、つぐのとこー」

「羽沢さんの?貴女がベーカリーの匂いに釣られないとは、明日は槍でも降ってくるのでしょうか」

「むー。あたしだってー、パン以外食べれないわけじゃないんだよー?」

「貴女のは好きの範疇を超えています」

 

クリスマスだがイブの時は、とにかく某コロッケ娘とモカで、コロッケとパンの二重奏であった。あれは、京が練り上げた作戦をこころの財力で成し得たからこそどうにかなったものの、どちらかが欠けていたらと思うとゾッとする。

 

禁断症状とか、出てくるのだろうか。

 

「ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に行こっかー」

「まぁ、構いませんが」

「手ぇ繋ぐ?」

「貴女がそうしたいなら。ほら」

「………んー」

「如何されました?」

 

涼しい顔で京が手を差し出すと、モカはそれを手に取らず、彼の顔をむくれながら見た。

 

読めない。まったく読めない。京は聡いが、全知全能でもエスパーでもない。年頃の女子高生達は、いくら隠そうと思ってもどこかで表情が変化する時、癖という形で特徴が出るものだが、彼女にはそれが見られない。笑いたい時に笑い、悲しむべき時に悲しむ。喜怒哀楽があまりにも単純過ぎるせいで、読心も何もあったもんじゃない。

 

「足らない」

「はい?」

「女の子と手を繋ぐんだよー?男の子だったら恥じらってくれてもいいじゃーん」

「少女漫画の世界でやってください」

「モカちゃん、自信なくしちゃうなー」

「そう言っていられる余裕があるのは大変よろしい事です」

 

モカほどの美形に流し目でふっと微笑まれると、何か新たな嗜好を開拓されてしまいそうだが、残念ながら京がモカに抱いているものは今のところ謎だけである。

 

「いいねぇ。何だかデートみたーい」

「連れ回される予感がします」

「だってさー、商店街の用事って話、ウソでしょー?」

「………なぜばれたし」

「モカちゃんはなーんでもお見通しだよーん」

「はぁ、そうですか。それはようござんした」

「テキトー」

 

どころか、逆にエスパーが如く心を読まれる事さえあるのだからたまったものではない。京もモカとは交友があるので、天敵という表現は正しくないかもしれないが、苦手であるという事に違いはない。

 

「それじゃーいこっかー」

「どこへ?」

「つぐんとこ」

「え゛?」

「はい、けってー。ほら、はーやーくー」

「あっちょ、引っ張らないでください」

 

その謎過ぎる思考回路で看破されたかと思えば、彼女の庭こと商店街を連れ回されて。そのような扱いを受ける事十数回。人と接するパターンというのはいくつか存在するが、そのどれもが当てはまらない彼女に苦心する事同程度。未だ引っ張られている。

 

「京くんはブラックダメなんだよねー?」

「よくご存知で。どなたからの情報ですか?」

「いんや、なーんかそうなのかなーって」

「フィーリングですか、そうですか」

 

羽沢珈琲店には、お手伝いのつぐみも、もう1人アルバイトのブシドー系フィンランドハーフもいないようで、やかましく大集合とはならなかった。

 

「美味しいですね」

「そりゃあもう、つぐんとこのだからねー」

「これはリピーターが増えるのも頷けます」

「何か食べないのー?」

「小腹は空いていませんので」

「ありゃ、つぐの懐は当分寒いだろーねー」

「残念です。私が空腹でないばっかりに」

 

そこからは、他愛のない話が続いた。最近学校がどうとか、周りのメンバーの交友関係がどうとか、あとは新作のパンがどうとか。周りを振り回しているようで、実は周りをよく観察している彼女らしい視点というか、常人には理解出来ない切り口のものもいくつか存在したが。

 

「モカさん、凄まじく人をぶん回してますね」

「そーかなー?」

「上原さんの心労についてはお察し致します」

「ひーちゃんはねー、そういうリズムつくってくれるところあるからねー。アフグロの中でも流れっていうかー」

「予定調和?」

「そーそー。それそれー」

「可哀想に………」

 

モカに付き合う、それもそれが毎日となると、想像したくない。彼女も純粋に楽しんでいる故ストレスにはならないだろうが、疲労にはなるだろう。心身ともに擦り減らしそうだ。

 

「そーいやさ、京くんは何で曲作ろうと思ったの?」

「えらく唐突ですね」

「そーんな事ないよ。みんな気になってるけど言い出せないだけ」

「聞いたって楽しいものではありませんよ」

「あたしは気になるなー。どういうキッカケでみんなと仲良くなったのかなーとかー」

「そんなもの、月島さんに聞けばよいのでは?」

「プライバシーの侵害だよー」

「だから本人から聞くんですかそうですか………」

 

無断ならばいけないが、その逆ならば許されると。本人の口から許しをもらうだけでなく、その先までを聞けるのだから手間は省けるだろう。らしいといえばらしいが、迷惑ではある。根掘り葉掘り聞いても、暇潰しになる程度の面白みもないのだが。

 

「なんとなくです」

「………ほーんとーにー?」

「ええ。なんとなく」

「へー………」

「ドラマチックでなくて申し訳ありませんね」

「いーやー。むしろそっちのが好きになれるかなー」

「そうですか。それは何より」

 

互いを尊重しているようで、それでも2人は歩み寄っていない。ただの知り合いかと言われれば違う。互いに気心の知れていると思っているし、だからこそ込み入った話が出来るというもの。しかし同時に、友人と言われればそれも違う。モカにとってあるべき友人との付き合いは、それこそAfterglowの面々のようである事。腫れ物を扱うようにというのは、モカ自身友人としての付き合い方だと思っていないし、それは京も同じ。奇妙な間柄ではあるが、2人はそれを忌むどころか保っているように見える。

 

「モカさんこそ。一個人を重視する貴女が『言われたからやった』などとは仰らないでしょう。それとも友人に義理立てする理由が?」

「そんなん、楽しそうだったからだよー」

「そうですか。そういうところは実に貴女らしい」

「やだなー。それ、褒めてる?」

「ベタ褒めですね」

「ほーん………」

 

午後3時から、現在時刻4時半までの間。店側もモカの存在で気遣っていたのか、コーヒー1杯だけで1時間半、2人席のひとつを占拠し続けた事になる。会話が弾むというのは時に恐ろしくもあるもので。

 

「そろそろ帰ります」

「おうおう、お疲れー」

「自分の分は自分でお支払いください」

「えー………女の子に払わせるのー?」

「デートでもしてから言う事です。では」

「ちぇー………」

 

偶然出会って、そこから始まっただけの話。幸いな事に京の予想は外れ、言うほど連れ回されはしなかったものの。

 

外出は当分控えようか。彼女の存在ひとつで、予定どころか調子まで狂う。

 

「京くん、家どっち?」

「あっち」

「あ、じゃあ途中まで一緒だね」

「ゑ?」

 

結局、その日はモカが京宅の玄関先までついて来たところで2人はそれぞれ別れた。

 

 

 

 

 

「やーやー京くん」

「………どうしてこうなるんですかね」

「トモちんの意思を継いでいるんだよー?」

「あぁ、彼のとんこつ醤油ですか………」

 

ある日曜、昼下がり。インターホン三連打に右手が真っ赤に燃えそうになるが、その正体を知ってその気すら失せた。

 

「お邪魔ー」

 

同じグループの姉御肌こと巴も過保護なもので、京は直情的な姉貴分として一定の信頼を置いているものの、その意思を継ぐのが彼女となると考えものか。グレーのパーカーでストリート風に決めた彼女は遠慮を知らないようで。

 

「それで、宇田川の姉の方の意思というのは?」

「京くんが無理しないように、見張り」

「別に徹夜なんてしませんよ」

「無理するっていうのは徹夜だけじゃないんだよー?」

「私は確かにやりたい事に追われていますが、死にたがりではありません。無理などしませんよ」

「本当だったらトモちんもつぐもひーちゃんも、あんなに心配しないんだなーこれが」

「彼女達も心配性ですね」

「仏の顔も三度までだよー?」

「仏じゃないくせに………」

 

何故だか、間延びしていてハイボルテージさと真逆を行く筈の彼女がやかまし屋のように見えてならない。言葉の魔力というか、何というか。

 

あえて言葉にするならば、それは京にとって雰囲気がうるさい。

 

「ほー、ここが京くんの家ねー」

「面白いものはありませんよ」

「すごーい。パソコン超メカメカしい」

「何しに来たんですか貴女」

「むふふー、モカちゃんを舐めてはいけんよ京くん。あ、でも首筋の辺りならちょっとだけ———」

「本当に、何しに来たんです?」

「真面目な話していい?」

「私は最初からそれを求めています」

 

すると、モカはパーカーを床に投げてベッドに入り、下半身を掛け布団に埋めたまま京の方を向き、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「………何ですか」

「わかってるくせにー。いいんだよー、おねーさんが慰めてあげようぞ」

「誰がですか」

「まったくもう、素直じゃないなー」

 

モカ自身が何をしたいか、京に何をさせたいのか、瞬時に理解したのはどうやら、京にとっての失敗だったようだ。巴の意思はどうやら口実だったようで、隠していたのはこれだったようだ。

 

「役得役得。こういう寒い日はあっためあおっかー」

「ウチエアコンありますよ」

「ストップ、温暖化」

「文明の利器ですよ」

「ここになー、湯たんぽがあるじゃろー?」

「……………」

「いいんだよー?ほれほれ」

 

飄々としているせいで、彼女の真意はわからない。彼女も奔放なもので、狙うものもわかったものではない。

 

「楽しくなってきたねー」

「わかりません」

「っていうか、もっとこっち来なよー」

「えー………」

「あたしはねー、今日は是が非でも京くんをダラけさせるって決めたんだからー」

「えー、あー………」

 

出どころはわからないが、バレていると思っていいだろう。徹夜だけが無理をするという行いに該当するわけではない、と言ったのが京に確信をもたらした。

 

「あたしはなーんでもお見通し」

「まったく、敵いませんね」

「明日も一緒にいてあげよっか」

「学校に行ってください」

「京くんはー?保健室行かなくていいのー?」

「私はいいんです。だって保健室登校なんてしてませんから」

「………おぉう?なんぞ?話が違くないかーい?京くーん」

 

あのおっぱいキーボードが声域を突破して絶叫しそうな爆弾を投下する。はて、モカを含めてガールズバンドパーティ総勢25名、それが周知の事実だった筈だが。

 

「あれは嘘です」

「まじでぇ?」




裏では違う系統になるんだな、これが。
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