純愛の名の下に   作:あすとらの

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ネタがなくなってきた………ヤンデレのタイプってあとありましたっけ?


市ヶ谷有咲の憧憬(表)

曰く、彼女を手懐けるコツは野良猫を手懐ける感覚であるらしい。

 

「まぁそんな簡単にはいかないんですが」

「あ?今私に話したのか?」

「いいえ。独り言です」

「そっか」

 

黙々と部屋の一角で作業をする少女がぴくりと反応を見せる。

 

「おい、またこんなモン食ってるのか?」

「あ、何でゴミ袋なんか漁ってるんですか」

「お前なぁ、何でこういう事、するかなぁ!」

「あだだだだ………」

 

市ヶ谷有咲。相手を罵ったり、淑女にあるまじき口調で他人を圧するように話すものの、その荒々しさの中に仲間を思う心がある、もしかしてもしかするともしかしなくてもツンデレ少女。ツインテールにツンデレという要素のテンプレートに反して、巨乳。

 

「死ぬぞ、死ぬぞお前!死ぬんだぞお前!」

「あっちょまっ、吐く、吐きますから待って」

「吐け!その不健康なモン全部吐け!」

「あぁー待って、お待ちください。舌噛みそう」

「……………」

 

鬼気迫る表情でがくんがくんと肩を揺らす有咲と、無表情のままに揺らされる京。両者の立場と表情は逆になってしまっているが、それは単なる性格の差でしかない。

 

さてな、押しが強い有咲と引く事を主戦術とする京は水と油のようだが、どうしてこうも仲睦まじくあれるのかだが、それはひとえに彼女のツンとデレにおける後者である事だろう。

 

「言ってるよなぁ、いっつも、沙綾と!」

「あい」

「そこに正座」

「フローリングですよ」

「あ゛?」

「あい」

 

押してダメなら押し切るという手は彼女の常套手段であるが、それはとても有効な手段だ。引き続けられない彼にとっては特に。

 

「あのな、私だって何もこういう説教ばっかしたいわけじゃねーんだ」

「ではしなければいいのでは?」

「お前な、自分の立場わかってんのか?あ?不摂生しなけりゃ済む話なんだよ………」

「ほれとほれはふぇふふぇふっふぇふぁ」

 

女子らしからぬ力で頰をつねられると、京の脳裏をよぎるのはいつも決まってそれだ。もっともそれは、カウンターパンチもかねているのだが。

 

「………ごきげんよう」

「だぁぁ!うるっせぇぇ!!」

「別に黒歴史だなんて思っていません。あれもまた有咲さんの一面でしょ。ギャップですよギャップ」

「そういうとこが余計なんだよお前よぉ………」

 

 

 

 

 

過去に一度だけ、京は所謂猫被りの有咲と会って会話をした。流星堂という質屋に足を運んだ時である。

 

「あの………」

「はい、如何されました?」

「そのぉ、疲れませんか?」

「まったく疲れませんね」

「そうですか………」

 

この頃の京はPoppin’party全体との交流がなく、会話も京にとって話しやすい存在に絞られていた。人間的に成熟した発酵少女のドラムだったり、不思議と波長が合う、全てのウサギを統べる女王のリードギターだったり。一級チョココロネストはいまひとつだったが。まだキーボードとギターボーカルとはお互いの顔を知らない関係だったので、まさかこんな近くにいるとは有咲も京も思わなかった。

 

「それから店員さん」

「はい?」

「無理をしておられますね。何か私に不都合が?」

「い、いや………すみません、ジロジロ見ちゃって。忙しそうだなと」

「多趣味ですから。メカも気になりますしオブジェも気になります」

 

3度目の訪問辺りになって、有咲の方が先に気付いた。沙綾が話す謎のクリエイターと何かと似てやいないか。偶然かで片付けるのは簡単だったが、それで素直に捨て置けるほど頭の中が愉快ではない。ので、

 

「あんた、香澄の知り合いかよ?」

 

少々面食らったように有咲の方を見るが、すぐに京は平常運転に戻る。

 

「いいえ。山吹さんと花園さんと個人的な交流があるだけです」

「そうか。まぁ、香澄はお前と真逆っつーかな。いや、りみも知らないのか?」

「ええ。残念ながら」

「いや、私が言うのもナンだけどさ、何のキッカケで出会えるわけ?その2人」

「偶然でしょうか」

「んなわけねぇだろ」

「いえいえ。あれはそう、私が学園にウサギ狩りに行った時の事です」

「それ長くなるか?」

「お時間80分ほどいただきます」

「馬鹿………」

 

初めて彼と本格的に会話をした感想はといえば、それを抱けないくらい彼は正体不明だった。あえて言うならば、

 

「おたえと仲良く出来た理由がわかる気がする」

「光栄です」

「光栄なのかよ………」

 

有咲がようやく拾えたものといえばこれくらいである。なるほど確かに、フィーリングが合いそうだ。彼のウサギハンターと2人きりになった時、どういった会話が展開されるのか未知数な怖さも感じるが。

 

「そっちが素なんですね、市ヶ谷さん」

「私のこっち側を知った奴は例外なく名前呼びだぞ」

「why?」

「お前とはこれっきりじゃない気がしてな」

「ま、おたくのバンドも書いていますしね」

「やっぱお前だったのか」

「はい。今明かされる衝撃の真実」

「いや、予想はついてた」

「そうですか。チッ………」

「おい」

 

バンドのメンバー以外で、ここまで他愛のない話が続いたのは初めてかもしれない。正体不明ではあるが、どこか魅力的ではある。

 

(何だこいつ)

 

実に形容しがたい。しかし、それに触れ合っていたいと思うのもまた事実である。

 

「この乾電池、フィラメントがタングステンではありませんね」

「あぁ?あー、それ、乾電池だったんだ。いや電池っぽい形してたけど」

「19世紀の遺物です。まさかこんな物があるとは」

「そうかぁ?そんなん骨董品屋に置いてあるだろ」

「これ骨董品じゃないんで」

「ふーん………」

 

彼には所謂オタク的な趣味があるようで、とにかく興味を惹かれたものに関して知識は広く深く、ミーハーの域をとうに超えている。おかげでその道の方々とマニアックな会話が可能になるのだが。

 

有咲も遠巻きに見ただけだが、某お山を彩るアイドルと某機材オタクメガネとの会話をほぼ同時に成立させていた時は、彼の頭の中身を本気で知りたいと思ったくらいだ。

 

「これは1日2日じゃ足りませんね」

「別にいつ来てもいいんだぞ?商売でもあるんだから」

「いえ、私は眺めるのが趣味であって買うのは趣味でないので」

「細けえなぁ」

「大雑把よりはいい筈です」

「どうだか」

 

有咲自身、予想外だったものの予定外ではなかった。どこか子供っぽいというか、理屈っぽいというか。知識はあれど、常識が伴っていないように思える。悪い人間でない事は誰が見ても明らかではあるが、どうやらこれで山吹沙綾と親しくなったようだ。

 

「あぁ………鉱石ラジオですか。またレアな………」

「お前、多趣味だな」

「機械の全てに興味があるのです。モーターパーツも、それを動かす電池も、外殻の材質まで全て」

「変わってんな」

「そうでしょうか。理解出来る力があれば興味も湧きます」

「そういうもんか?」

「そういうもんです」

 

今にもオーバーホールしそうなほどに目を輝かせる彼は、やはりいつもと違う。表情こそ変わらない鉄仮面だが、とにかく歩き回りながら物色しながらも疲れを見せない。そして、有咲も長い時間彼を観察しているせいで傾向がわかってきた。

 

彼は壺や絵画のような美術的な物品に一切の興味を示さず、20世紀やそれ以前の機械製品に強い興味を示す。特に構造や材質が不明な物、現在ほとんど出回っていないものに目がないらしい。ロストテクノロジーに惹かれるようだ。

 

「そろそろ閉店だぞ」

「失礼。長居し過ぎたようです」

「別にいいよ。この辺はもう買い手も見つからないだろうしな」

「もったいない。今では再現出来ない黎明期の技術ですよ」

「買えばいいじゃんか」

「置き場所に困るじゃないですか」

「わかんねーな、お前は本当に」

 

その言葉に返事を返さず、フッと微笑んだ京は、右手の人差し指を立てる。

 

「どうした?」

「これ、おいくらですか?」

「あ?ただの歯車じゃねーか」

「どうしても欲しいんですが」

「お前本当に何考えてんだ?」

「非売品ですか?」

「いいよそんなの。持ってけ。どうせ倉庫の肥やしになるだけだかんな」

「そうですか、ありがとうございます」

 

錆びた歯車をひとつ、貰い受けると、意気揚々と流星堂を後にした。

 

「なぁ、ちょっといいか」

「はい」

「ちょっとした心理テストなんだ。父親の葬式に来たある男に母親は一目惚れした。その後母親は実の息子に手をかけた。何でだ?」

「心理テスト?ブラックな頓知かと思いました」

 

彼は少し考えるように意味もなく視線を移すと、ひとつの答えを弾き出した。

 

「葬式を開けば男に会える」

 

彼の思考回路はどのような材料からどの過程を経てこの結論に至ったのか。

 

彼しか知らない。何ともナンセンスでブラックユーモアだ。

 

「そうか」

 

彼女も、それ以上は言わなかった。

 

 

 

 

 

時折、彼は職人顔負けのツールを駆使して機材の修理をしている場面をCiRCLEで見る。

 

「お前何でミキサー分解してんの?」

「主に月島さんのせい」

「何やらかしたんだよあの人………」

「聞きたいならご本人の口から。罰としてスタジオ裏で部品のユニット化作業に追われています」

「いや………遠慮しとくわ。何か忙しそうだし、出直すよ。その作業終わったら連絡くれ」

「いえ、構いません。丁度休憩が欲しかった。後はネジを締めるだけなので、月島さんにお願いします」

「マジで何がどうなったんだろうな………」

 

ベースアンプにもたれかかり、スポーツドリンクをラッパ飲みする。牛込りみと戸山香澄と知り合うより前、京がPoppin’partyの作詞や作曲を手伝うようになってから数ヶ月が経過した頃の京は有咲と比べてもいくらか見劣りするほど華奢で病的に肌が白い。

 

「それで、ご用とは?」

「お前さ、手先器用な方だろ?つかそうじゃなきゃ機械の修理なんてしないもんな」

「はい。で?」

「 さっきスタッフから渡された。まりなさんのだ」

「直接言えばいいじゃないですか。コミュ障の片思いか」

「怒ってるお前は怖いんだと」

「人をサイコパスみたいに………」

 

有咲から渡されたのは、1枚のメモリーカード。手のひらどころか人差し指の腹と同じくらいの大きさしかないそれを、有咲の前の言葉と繋げて考えると、予想はより悪い方向に進んでいく。

 

「まさか………」

「直してくんね?」

「無理です」

「まぁそう言うなよ」

「言います。私が電気屋に見えますか。そういうのはプロに頼んでください」

 

極小のメモリーカードを修復するには、特殊な工具だけでなくネットワークの方面からアプローチをかけるだけの技術も必要ある。彼には後者があっても前者がない。いくら彼が大器晩成を凌駕する天才だとしても、物理の法則には逆らえないもので、不可能は不可能なのだ。

 

が、しかし。

 

「まぁまぁ。まりなさんのプライベートショットとか、写ってるかもしれねーぞ?」

「あるわけないでしょ。特殊な性癖過ぎますよそれ」

「あ?何だ、知らねーのか京」

「何がです?」

 

本気で疑問をぶつけてしまった有咲は、目を丸くして驚いた。そしてそれを京はキャッチする。

 

「あの人結構、そういうの残すタイプの人だぞ」

「前言撤回。お引き受け致しましょう」




ネタ切れの予感………

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