純愛の名の下に   作:あすとらの

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さあて次回の1人でもうネタが尽きるぞー

現実逃避も兼ねて魔法科の二次創作辺りでも書こうかな………


氷川日菜の最適解(裏)

果たしていかがなものかと頭を捻る。どうにも度し難い。

 

「あたしがやるの!おねーちゃんはうるさい!」

「何ですって!?貴女に任せると出水君がもう2度と喋れなくなります!いいから私に預けなさい!」

「いーやー!あたしがやるの!」

 

姉妹喧嘩はよそでやってくれと言いたいところだが、生憎、今の彼にはそれを口にして彼女達に介入する気力がない。

 

ちょっとした事がキッカケで京は40度近い高熱を出した。原因が原因なだけに、おそらく簡単に体温が下がらないだろうという事で、学業に支障がない程度に看病してもらおうかとスマートフォンを手に取ったまさにその時、突撃してきたのが氷川姉妹である。

 

「貴女は芸能人でしょ!メンバーに迷惑かけるだけじゃ済まされないのよ!」

「おねーちゃんに言われたくない!」

 

人気バンドのメンバーに、芸能人。中々ないだろうと思っていた京の見通しが甘かった。何せ高熱を出したせいで思考力が奪われていて、その上脳の出力をセーブしなければならない状況だ。そして奇跡的にこのメジャー姉妹の予定が合わせて空白になってしまい、今に至る。

 

「見なさい!これを微熱とでも言うつもり!?感覚勝負でどこまで行く気なのかしら!」

「じゃあおねーちゃんはどうするのさ!また友希那ちゃんのお達しひとつでほっぽり出すの!?」

 

加熱の様相は治まるところを知らない。議論はここに来る前に完結させてほしかったものだ。が、それすらも言葉に出来ない。とにかく、筋肉を動かす事が億劫なのだ。

 

「とりあえず、終わらないようなら外でやってください」

 

と、ようやく絞り出した言葉がこれだ。しかしヒートアップして参ったものの、氷川姉妹もそれを放っておくほど目的を見失うというわけでもなく。

 

「京くんは寝てて」

「出水君は無理しないで。これは私達の問題よ」

「私の体が懸かってるんだから私の問題です。とにかくそれをやるなら近所迷惑にならない場所でやってください」

 

彼女達に引っかかったのは、近所迷惑というワードではなかったようだ。とにかく優先すべきを京とした場合、どうしても『私の問題』というワードを聞き逃すわけにはいかなかった。自分に関わる問題な上彼の性格に反する状況を作り出してしまっている現状を見つめると、京のストレスは相当なものと想像が今浮かんだ。

 

「………私は優しいので妹に譲ります。私は優しいので自分にも出水君にも無理はさせません。私は優しいので近所迷惑も考えています。何てったって私は優しいので。私は優しいんですからね。私は優しいので出水君の言葉を無視しません」

「あっ、はい」

 

紗夜は最早隠す気を感じられないほどに憎悪を放出しているが、それは火に油を注ぐようなもので、それを敏感に感じ取った日菜は紗夜に目を向ける。

 

「………何?」

「何でもないわ」

 

そう言って、紗夜はやや乱暴に扉を閉める。

 

「ふう………」

 

それで勝ち負けがどう、とはならないのが姉妹故である。これは勝ったのではなく、凌いだに過ぎない。彼を巡っては特に狭き門で、これは一時的に手中に収まっただけ。

 

「大丈夫?」

「熱が上がった。人間は45度の体温上昇が致死量です。あと5度」

「え゛っ?」

「というわけで、ちょっと、寝ます。おやすみなさい」

「あ、うん………冷えピタ買ってくるね?」

「すみません。ありがとうございます」

 

体温が上がったのなら、冷却しなければならない。もっと言えば、解熱しなければならない。発熱はウィルスや細菌への防なのだから、寝るだけでは特にどうなるわけではないのだが、結局動くか動かないかの二者択一しかないのだ。

 

彼の視界が暗転するまで、そう長い時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

「ムカつく………ムカつく………」

 

一方で、いつもの天真爛漫な顔はどこへやら。日菜は呪詛のようにムカつくと零しながら歩いていた。問題は、実の姉である氷川紗夜。どうしたって許される筈がない。彼女はわかっていながら自分の邪魔をしている。そう思えば思うほど、憎悪は肥大するだけで縮小することを知らない。

 

(あたしは京くんの事を本気で思ってるのに………)

 

理屈らしい理屈はない。ただ、自分が気に入っているものを盗られているような気がしてならないという子供じみたものではあるが、とにかく日菜にとって許せない事である。

 

「許せない………あたしの方が………」

 

憎々しげに目を吊り上げ、親指の爪を噛む仕草は最早純真無垢で天真爛漫な彼女と別人そのものだ。自分は心から京を想い身を捧げるが、姉は違う。姉はただ、略奪したい異常な性癖を孕んでいるに過ぎない。そう考えれば考えるほど、日菜の中で出水京という男の存在が膨れ上がるばかりだ。

 

「京って甘いもの好きだったよね………」

 

長年隣で見たからわかる。実際彼は脳の活性化言いながら糖分を摂取しまくった結果、リサが激怒して砂糖禁止令を出した事が過去にあった。彼のハイキャパシティ過ぎる脳が摂取したものを速攻で消費しているせいか、彼はその辺りの生活習慣病とは無縁だったが。

 

「懐かしいな………」

 

心を開いているのかいないのか、なんて、あの時はどうでもよかった気がする。ただ彼が楽しんでくれるのならそれで良かった。しかし、今となっては彼も楽しむどころではなさそうだ。

 

「ん………」

 

沼にハマろうとしていた日菜を呼び戻すが如く、スマートフォンが振動する。京からの電話だった。

 

「京くん?どうしたの?」

「いえ、別に緊急というわけではありませんが。1人は中々寂しいものです」

「………変わったね、京くん。前だったら絶対言わなかったよ」

「一種の防衛本能のようなものでしょうか。孤独死なんて言葉もあるくらいですし」

「もう、変な事言わないで!すぐ帰るから!」

 

京が自分を頼ってくれたという喜びと、高熱で文字通り死にかけない限り他人に頼らないという少しの寂しさ。らしいと言えばらしいが、それでも口にしたい。もっと頼ってほしいと。

 

「おねーちゃんじゃなくてあたしが………」

 

幼稚なのはわかっているが、それでも、どこかで勝ったような気分があった。氷川紗夜の妹、という姉にとっての付加価値を初めて抜けられたような気がした。

 

「………ふふっ」

 

それが嬉しくてたまらない。彼を愛する事で、1人の人間でいれるような気がした。稚拙ながらも、それを存在意義に出来たような気がした。

 

 

 

 

 

「うん!お熱下がった!」

 

彼女は変に完璧主義というか、そこは氷川の血筋かもしれないが、妥協を嫌う。だからこそ徹底的に()()()された結果、京の体温は37度辺りまで下がった。

 

「流石あたし!」

「………もうそれでいいですが」

 

気持ち悪い。京にとってはこの空間そのものが不快だ。何せ明らかに日菜の様子がおかしい。2人きりというこの状況、相手が芸能人であれば本来喜ぶべきところだが、察知した日菜の異常に熱のせいで出る倦怠感にと、それどころじゃない。

 

「それでいいですが、日菜」

「ん?なーに?」

「何か、焦っていますか?」

「別に………何で?」

「紗夜さんについて、よろしくない感情を抱いていますね」

「おねーちゃんは関係ない!」

 

どうしても分からなかった不快感の正体はこれだ。氷川日菜に最も欠けているものは、主観である。どうしても主に姉が来る。しかし自我の目覚めと共に日菜の中から絶対的な姉の存在というものが消え失せる。今の彼女は、自分を取り戻そうとしている最中だ。

 

「あたしが、氷川日菜が貴方を想ってるの!おねーちゃんは関係ないでしょ!あたしが、あたしの、あたしだけなのに!!」

 

と、言えば聞こえはいいものの。その実日菜は被害妄想を糧に京への想いを募らせているに過ぎない。京もそれを知っているからこそあえて口にしなかったが、不愉快には耐えられなかった。その代償は、最早言うまでもない。

 

「何でいつも、優等生ばっかり!あたしは笑ってただけなのに!あたしは反面教師じゃなきゃいけないの!?アイドルってだけで近寄っちゃいけないルールでもあるの!?」

 

どうやら彼女はナイーブらしい。あるいはナーバスになっているのか、睨みつけるような彼女の表情を見たのは京が初めてだろう。しかし問題なのは、京が日菜の気持ちを真に理解出来ない事にある。

 

兄弟もいない。

 

誰かに劣等感を抱いた事もない。

 

羨望されるような仕事もしていない。

 

氷川日菜と出水京はあまりにも逆を行き過ぎている。だからこそ、間違っても君の気持ちがわかるなんて言えなかった。それが出遅れた原因なのかもしれないが。

 

「貴方は違うと思ってたのにっ!!」

「………私も丁度そう思っていました」

 

どうしても、声に気持ちを込められない。理想を他人に求めるというのがどれだけ不甲斐なさを出してしまっているか日菜はまだ理解出来ていないが、それでも京には言えなかった。

 

「お許しください。私は貴方の理想になれなかったようだ」

「……………いや、だって………あう………」

 

しかし、突き放した相手が本当に離れてしまうと寂しくなってしまうのはティーンエイジャー特有のものだ。

 

「………日菜?え、ちょ、待っ………」

「ゴメン。でもね、あたし、おねーちゃんの妹としてじゃなくて、氷川日菜として京くんのことが好きなの」

「日菜?それは抱擁じゃなくて鯖折りで………」

「許せない、許せない、許せない。あたしはただ愛したいだけなのに、どいつもこいつも邪魔ばっかり!」

「肋骨が締まる………」

「おねーちゃんは違う!あたしから貴方を奪おうとしてる癖に!京くん、騙されてるんだよ!?」

 

彼女を構成するものは、怒りに任せている全てである。それを崩す事を考えたのも一瞬の気の迷いのようなもの。それをやったらいよいよ矛先がどこに向くかわからない。

 

彼は固く口を噤んだ。

 

 

 

 

 

日菜は、京を愛するという点においても紗夜と競おうとした。コンプレックスを抱えるという事は、自分をよく見ているという事だ。そういう事なのだが、これは日菜が自分を見てしまった故に起きた事である。

 

「まだ、まだ!あたしが愛さないと、京くんはおねーちゃんのところに行っちゃうんだから!」

「日菜………」

「あたしはおねーちゃんの分身じゃない!おねーちゃんが好きだったから、京くんの事を好きになったんじゃない!」

 

それは最早、意地で押し通しているようなもので、理屈で語っていなかった。言い聞かせている、というのもまた近いかもしれない。京の背中に覆い被さるように抱きつく彼女は、首筋に顔を埋めるようにして口元を押さえながらも叫んだ。

 

「京くんは、わかってくれるよね?」

「そう思うのも、無理はありません」

「そうだよね」

 

言えなかった。間違っても、どう口が滑っても。

 

氷川紗夜という別人を使う事で自分を見出すのは、果たして『主観』と呼べるのだろうか?

 

そんな事言えるはずがない。絶対に。




自我の目覚め日菜ちゃんでした。多分これも、後味悪いエンドだと思います。

趣味です(迫真)

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