純愛の名の下に   作:あすとらの

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書けた(瀕死)。9月に入ってからリアルが忙しくて、隙間を縫ってこれでした。

そういえば何となく読み返していたら、ヤンデレの代表格を結構書いてないような気がしてた。もしかしたらあすとらのが息を吹き返すかもしれません。


花園たえの提言(裏)

「………それでね、王子様のキスでお姫様は目を覚まして、幸せになったんだって」

「へぇ〜」

「興味無さげだね」

「興味ありませんからね」

「うわっ、ヒドいなぁ」

 

ライブハウスCiRCLEのカフェエリア。京とたえは、意味もなく雑談するのに最適な、暑過ぎない曇天の白昼に会話を弾ませた。

 

「所詮粘膜の接触でしょう」

「うっわー、そういう事言っちゃうんだ」

 

話題などその日の気分とお天道様の機嫌次第。本日の題目はお伽話とメルヘンチックであるようだ。基本的に、メルヘン許容派のたえとメルヘン排斥派の京ではあまり話が合うという事もないが。それは単に、『現実主義者を気取って背伸びをしたい年頃の若者』というような感情ではない。

 

「本当に助けたいのか、謎が残りますね」

「ま、空想の産物だしね」

「それを言ったらおしまいですよ」

「それもそっか。でも素敵じゃない?」

「何がです?」

「お姫様が毒で眠っちゃった時、多分王子様はなりふり構わなかったんだよ。京が言ったように、ただの粘膜同士の接触だとしても。あるいは最期の時を過ごしたかったのかも。どちらにしても素敵じゃない?」

「………確かに」

 

感傷がどう、という事ではない。文字通り自分の体を絞り出すようにやった、姫を想う故の行動。あるいは死が二人を分かつまで、をそのままにやろうとした儚くもロマンチックな別れ。それを理解しないほどに彼も人でなしではない。

 

「片方だけ取り残されるなんて辛いもんね」

「そうですね………」

「………京はどう思う?」

「別に………強いて言うならば、やはり物語は物語でしかありません」

 

歯切れ悪そうに話す京に引っかかるたえであったが、しかし。彼女はマイペースであれど無神経ではない。秘密くらい誰にだってある。まして彼の立場ともなれば、秘密どころか墓場まで持って行きたいタブーさえあるだろう。

 

「そっか。大人だね、京は」

「卑屈になっているだけです。大人ぶっているわけではありません」

「ふふふ。そういうところは変わらないか」

「変わって欲しかったですか?」

「んーん。私はそういうのは気にしないかな。リサさんとか友希那先輩とかは気にするだろうけど」

「そうですか………」

「そっ。私はそういうのじゃなくて、京が幸せなら全部いいの」

 

たえは笑った。さながらそれを夢見る無垢な少女のように。

 

 

 

 

 

その日は休日だというのに随分と慌ただしかった。主にそうなった原因は彼女達の旺盛な行動力にあったのだが。

 

「どういうつもりかしら?」

「圧倒的にこっちのセリフですよ友希那さん。何です?一体」

 

珍しく友希那が京の家を訪れたと思えば、凄まじい膂力で壁際まで追い詰められ、現在は仁王立ちの彼女によって逃げ道を塞がれてしまっている状態である。

 

「いいえ。こちらのセリフよ。これは最早問いただすなんて優しいものじゃないの」

「そんなイタリアンマフィアみたいなこと言われましても。落ち着いて、事情を一から話してください」

 

どうにも平和的に解決出来る予感がしない。

 

「花園さんがいるでしょう」

「いますね」

「交際をしていると声高に叫んでいたけど、どういうことかしら」

「はっ?」

 

平和的にならない理由はこれであった。流石にそんなもの分かるはずがないと反論しようとした京より早く、友希那が口を開く。

 

「貴方の返答次第では穏やかじゃなくなるわよ」

 

しかしこの女、ガチである。指を数本明後日の方向を向かせるくらいの勢いで京を問い詰める。もう問い詰めるという範囲を超えてしまう寸前だが。

 

「まさかそれを鵜呑みにしたのですか?」

「そんなわけないでしょう。鵜呑みにしていないからこうして問い質しに来たのよ」

「では質問を変えますが、私の言葉を信じますか?」

「………言葉によるわね」

「ダメじゃないですかっ。全然ダメじゃないですか。私が言ったところで逆効果なやつですよそれ」

「認めれば楽になるわよ」

「警察もビックリ」

 

京とて常に考えている。仲良しパーティーメンバーの男女比1:25ともなれば、誤解も生まれるべきして生まれるだろう。問い詰める、という行動は友希那らしいといえばらしい。やっていることは圧殺だが。

 

「まずですね、ご存知かと思いますが、私基本的にそういうの気にしてられないんです。そりゃ貴女達は確かに美少女ですが、こっちは死活問題抱えてるんで」

「そう………」

「………信じてませんね?」

「まりなさんやリサに比べたら付き合いは短いものね」

「そうですか………」

 

 

 

 

 

もはや、歩く惚気噴霧器と化してしまったたえに直接聞く他道はない。が、少しばかり彼にも焦りがあったのだろう。よりにもよって商店街に入ってしまったとなれば。

 

『私がいればいいんじゃないの?どうして?どうしてそんな、私が必要なはずでしょ?』

『あんた、いい度胸してる。私だけの主人になったんじゃないの?飽きたら捨てるつもり?』

『あれぇ?おっかしーなあ、今日の京くんには予定なんてなかったはずだけど………足りなかったかな………』

 

と、住人に常連客にと凄まじい視線を向けられて、心身を摩耗しながら商店街を抜けたところ。いよいよ噂が噂どころでなくなったようで、背中を見せれば背後から襲いかかられそうなほどに殺気立っている。

 

(パン屋!貴女同じバンドのメンバーでしょうに!)

 

身内の問題なら身内も手を貸して欲しいものだと、心の中で思っても、声に出さなければ伝わらないもので。

 

「あれ、京。どうしたの?」

 

しかし唐突に、運命の女神が京の味方をしたようだ。散歩でもしているのか、やけに軽装のたえとばったり出くわした。

 

「貴女を探していました」

「………何それ、告白?」

「違うし白々しいし。もう聞くこと全部聞いてるんですよ、こっちは」

「そっか」

 

悪びれるでもなく、喜ぶでもなく。ただ淡々と彼女はそう反応を返した。

 

「何故このような事を?」

「別に。事実を事実のまま言っただけだよ」

 

嘘をついていない。それはつまり、彼女はそう本気で思っていることを表している。いつものぼけっとしたような顔から彼女の表情がどう変わるかを注意深く観察する。

 

「よく絵本とかであるヤツだよ」

「………申し訳ありませんが、仰っている意味がわかりません」

「そう。そっか、京ってそういうの興味ないもんね」

「絵空事から学べることがあれば、私だってとっくに学んでますからね」

「カタイなあ」

 

隣を歩いて横顔を覗くと、たえは薄く笑っていた。

 

「お答えください。いつからそれが貴女の事実になったのですか?」

「なーんか引っかかる言い方だなあ………ま、いいけど」

 

京がそうやって核心に迫るような問いをしても、やはり笑みを崩さなかった。

 

「私にとってのじゃない。それが事実なんだってば」

「………私と、貴女が、恋仲であるという事がですか?」

「そう」

「いつからですか?」

「そんなの、出会った時からに決まってるよ。あの時からずっと、今もこれからも。ね?」

 

素早く観察し、分析する。彼女は一体どこからそれに取り憑かれたのか。思い返しみても、そのような前兆もなかった筈。

 

「私はちゃーんと理解があるから、友達を何人つくっても別に構わないけど、本命は私一人だから。そうでしょ?」

 

いつものたえは、天然ボケに見えてその深層が見えない。いつもそれを薄気味悪く思って、深く突っ込まれないような会話を心がけ、二人きりにならないよう注意を払ったつもりだった。

 

今はそうして観察するまでもなくなった。明らかに彼に対してよくない感情を向けている。

 

「私にはよくわかりません」

「今はまだ、ね。いいよ。ちゃんとわかってくれるように私も()()()からさ」

 

彼女は笑いを絶やさない。どこまでも彼女は、自らが信じるものを信じている。その信じるもののために、彼女はどうなってしまうのか。それは彼にも理解しかねるところ。

 

「答えてください。貴女は私とどうありたいんですか」

「どうありたい?もうなるべきものになってるから関係ないよ。私と貴女はもう結ばれてるんだから」

 

それについてこれ以上突っ込むのは下策と考えた。どんどんと思考パターンが黒ずんでいくのが手に取るようにわかる。

 

「京は運命って信じる?」

「信じたい………ですが、ないと思います」

「どうしてそう思うの?」

「そのようなものがあるのなら、私はその運命に嫌われてしまった。それを認めたくないだけですよ。貴女のように、運命に好かれた人に対するただの嫉妬です」

「へえ………」

 

その答えを待っていたとばかりに、たえは彼女は口角を吊り上げる。

 

「それじゃあさ、これから幸せになろ?今まで出来なかったことも、私達なら出来るよ。私が京の一歩、手助けしてあげる」

「……………」

「ねえ、今一番したいことは何?私に教えて?」

 

たえの笑みが徐々に凶悪になっていく。それすらも運命と呼ぶのは、あまりにも彼を冒涜している。貴方の全てを理解しているとばかりに、私だけが理解するとばかりに、徐々に彼の視線を狭めていく。そしてその免罪符は、運命という都合のいい言葉だ。

 

たえが、京の頰に優しく触れる。

 

「運命の相手は一人だけ。それが私なの。わかるよね?」

「………」

「わかるって、言って?」

 

いよいよ有無を言わさないようになった。これ以上二人きりというのは危険なのではないか。

 

「それはまだ早計というものです。では」

「もういいの?」

「ええ。とりあえず疑問は解けたので、概ね満足です」

「そっか。私も結構いい暇潰しにはなったかな」

「それはよかった。私も長丁場を乗り切った甲斐があるというものです」

 

あくまで平静を装って、京はその場を離れる。あのたえに背中を向けるという行動のせいで、少しでも気を抜けば不自然に走り出してしまいそうになるが、理屈だなんだではなく単に胆力と気合いで乗り切った。

 

(つくづく私らしくない………)

 

普段ならばもう少し熟考しただろう。

 

「ねえ」

 

不意に、声がかかる。焦りを悟られないように顔は向けずにいると、足音が近付く。

 

「まだ何か?」

 

心の中で悪態を吐きながらもそれに応じる。たえは彼の耳元まで顔を持っていくと、少し低い艶っぽい声で囁く。

 

「逃げてもいいけど追いかけるからね」

 

どんな顔をしているのか。それを知りたくなかった。それを知ったら、いよいよ出水京はたえを普通に見られないと、何より自分自身が一番悉知しているから。だからこそ、たとえ手遅れだと薄々わかっていてもどこか期待してしまう。京は聡明だが、同時に人間らしくある。

 

もうたえを普通と認定出来ない。だが、どこかに淡い期待がある。たえは辛い時に共にいてくれた、救いになってくれた人の一人だから。

 

「そうですか」

「そう。王子様とお姫様を邪魔する奴はみーんな消えて、二人は幸せになりましたとさっ」

「めでたいですか?」

「もちろん」

「そうですか………」

 

うやむやにして今度こそその場を去った。

 

「ふふふ………」

 

彼の真意を知ったのか、あるいは単に想い人とのなんてことのない会話が嬉しかったのか、それはたえ本人にしかわからない。京はたえに、いつも通りの関係でありたいと願った。しかし彼女がそうとは限らない。

 

そう、彼女には、運命という、京と共にあるべき絶対的な要素が味方についているのだから。

 

「逃げられるわけないじゃん。運命なんだから………」

 

そして少なくとも、たえも京と偶然出会う運命をただ指をくわえて待っていたわけではないということだ。




体もってくれよ!10万UA突破だァ!

というわけで、10万UA突破、総合評価も1000pt突破、ありがとうございます。これも読んでくださっている皆様のおかげです。

この度は2ヶ月以上更新されないなんて事態で、本当に申し訳ない。

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