純愛の名の下に   作:あすとらの

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武士道なのにガッツリ新撰組の羽織持ってるイヴちゃん。そいつら京都見廻組と同じような組織ですよ。まさかフィンランドの人ってこんな感じなんか?(偏見)


若宮イヴの歓喜(表)

さて、京は確かに頭脳明晰である。まだ高校生にもなっていないにもかかわらず、勉強会では香澄語話者にコロッケ娘にふわふわ(自称)アイドルにと常に教える側で、成績優秀なツンデレキーボードやポテト風紀委員にも常に新たな知恵を与える側として立っている。

 

曰く、人を見るのは人しかいない。故に自分以外に自分を見る誰かがいて、それによって自我もつくられるということである。

 

が、しかし。

 

「おかえりなさい!ケイさん!」

「……………」

 

時には京の知恵と観察をもってしても不可解なことに出会う。それが彼女だ。

 

現在時刻は正午。家に帰ると外国人美女が正座で三つ指をついたまま不法侵入という、本来なら混乱しか生まないこのシチュエーションである。正直、顔見知りでなかったらガラ空きの顔面に数発打ち込む自信があった。

 

若宮イヴ。フィンランド人とのハーフにして帰国子女。このワードを聞いた時、京は随分と焦った。何せ隣国の言語は覚えていたが肝心のフィンランド語はまったくの手付かずだったのだから。一週間の突貫作業、1分辺り2万語のペースで覚えたのはいい思い出である。

 

ステレオタイプな日本に憧れる、ごくありふれた外国の少女といった感じ。何よりブシドーなるものに強い憧れがあるらしいが、その定義は曖昧になってきている。純粋で人懐こく無邪気だが、それ故に想像の斜め上を行ってしまうことも。

 

「鍵は?」

「チサトさんから頂きました!」

「自称正統派………」

 

ハーフのモデルにお出迎えされるというのは、本来喜ぶべきなのだろう。それは自分の与り知らぬところで自宅の鍵のやり取りがされていなければだが。イヴのようなアホの子………もとい裏表がない性格でなければ即刻通報案件だった。

 

「チサトさんが言ってました。ケイさんはいつも頭をはたらかせているから、顔に出ないけどとても疲れていると」

「はあ。公然の事実になってしまっているようなので隠しはしませんが。そうですね」

「そこでパスパレで考えました!いつもお世話になっているケイさんに恩返しが出来ないかと!」

 

恩返し、という言葉のチョイスに何やら違和感を覚える。

 

「それはまた、アイドルバンドとして恐れを知らないというか何というか」

「満場一致で私が選ばれました!」

「それはようござんした」

 

絶対に、あの子役あがりの真っ黒女の仕業だと少し殺意が湧く。ここで人を振り回す天才こと日菜をぶつけない辺りに変な周到さを感じてさらに殺意が湧く。ここは安全策として、機械の話にならなければ常識人のドラマー、大和麻弥に白羽の矢が立ってほしかったが、最早そう焦がれることさえも千聖の罠なのだ。

 

「もうちょっと余裕があればよかったんですが………」

「?」

「お気になさらず。こちらの話です」

 

滑りかけた口をなんとか軌道修正する。この時ばかりは耳聡い麻弥や、最早京にとって存在が陰謀の千聖でなくてよかったとつくづく思うばかりである。

 

しかし京自身すでに言ったが、いくらなんでも恐れを知らない、というより軽率過ぎる。コンセプトを見た時は、彼も正統派アイドルのパチモンか、あるいはあるものをごった煮したキメラかと思ったものだが、出来てしまった上支持を集めているものは認めざるを得ない。そして面倒なことに、メディア露出は事故を引き起こす。

 

「あのですね、若宮さん」

「はい!」

「私、実はそんなにストレス溜めてないんですよ。それに若宮さんも、こんなワケの分からないことしない方がご自身のためです」

「ダイジョウブです!」

「いやあの、何が?」

「楽しいし嬉しいので!」

「そうですか、はい。それは喜ばしいことです」

 

その上、イヴの性格がコレなおかげで心配と緊張という名のストレスが限界を突破しそうだ。本人は単に、日本という文化に馴染めていないだけで本質的には明るくあるがまた違った人物なのだろう。しかしここは、ステレオタイプな日本の知識しか入らない外国人。文化の壁というのは、かくも高いものである。おかげで快活な女の子が、快活なアホの子になりかけている悲劇。

 

「京さん、好きなものは何ですか?」

「またえらく唐突な………」

「私、ちゃんと京さんに恩返ししたいんです!」

「そう仰られましても」

「男の胃袋を掴むんです!」

「それあれでしょ、好きな男にアプローチするとかそういう次元でしょ」

 

しかし、追い返すわけにもいかない。これがまったくやりにくいもので、彼女には打算が一切ない。恐らく恩返しというのも本意で、それ以外に何も求めない。だからこそ、最上級にやりにくい。

 

「別に、胃の中に入ればただの栄養素になるんですから、何食おうが一緒ですよ」

「いけません!」

「ほら始まった………」

 

友人というのは尊いものだ。いくら京でも、それくらいはわかる。だが、友人に感化されるのにだって限度というものがある。

 

「いいですか、サーヤさん曰く、栄養だけが重要なら一生点滴だっていい。美味しい料理には栄養補給以上の価値があるんです!」

「グルメ漫画の主人公ですかあの人は」

 

やたら食にこだわる理由が、何かと言い訳と屁理屈で手の込んだ食事を避けようとする京自身の業であるが、本人はそれを知らない。

 

「こんな一方的なおもてなしがあってたまりますか」

「おもてなし………ブシドーです!」

「一方的だって言っているでしょう」

 

そして沙綾の影響をモロに受けてしまっているイヴは中々厄介である。そもそもブシドーは日本的っていう意味じゃねーからなとは言わなかったが。

 

「サーヤさんとアリサさんに教えていただきました。日本の伝統的なお食事です」

 

用意されたのは焼き鮭と、白米と、味噌汁。

 

「これは伝統的な朝食です」

 

が、しかし、致し方ない。知らないのだから。そもそもこれは厚意であり、いくらそれが斜め上であろうとも、それを無下にする鬼畜にはなれない。昼食で白米という炭水化物の暴力が来ようとも、美女に昼食を振舞われる喜びで相殺しなければならないのだ。

 

「………美味しいです」

「よかったです!」

 

別に何を飾るでもない、ただありのままに言うべきことを言っただけ。それに喜ぶイヴ。そして午後一時を示すアナログ時計、伝統的な日本の朝食。

 

(何だこれ)

 

困惑するばかりである。正直、事情を説明されても困惑している。いや、物事の全てを見ようとするから一見意味不明になってしまうのだ。

 

「チッ………」

 

清純派女優(笑)か、あるいは氷川の瀟洒じゃない方か。けしかけたと思われるのはその二人に限られた。

 

「どうかしましたか?ケイさん」

「いいえ。ちょっと考え事をしていました」

「むぅ………ケイさんは難しいことをいつも考えているって、チサトさんが言ってました」

「いつもではありません。考えるべき時に考えるべき事を考えているだけです」

「今考えるべき事………は、何ですか?」

 

そういう一面があるせいでストレスフルになってしまう京を案じたというのに。あまり気分がいいものではないだろうが、イヴは純粋に、知らないものを知ろうとする。それが逆に今までにないことで、凄まじい違和感の正体である。

 

「色々ですかね」

 

考えるべきことは、と言われればそれはそれは今日の晩御飯から100年後の日本国の経済状況まで多岐に渡るが。今はそれよりも聞くべきことがある。

 

「そういえば若宮さん、一番肝心なことを聞いていませんでした」

「はい!何でしょうか!」

「貴女自身は何に対しての恩返しなのでしょうか。私、貴女と知り合ってからそんなに経ってませんよね?」

 

お礼をしたくなるほどに働きを評価してくれる。それは大変嬉しいことだ。が、恩返しを受けるほどに過重労働をしているかと問われれば、あるいはこうして手厚いサービスを受けるほどなのかと問われればそれには疑問が残るし、人選にも違和感がある。

 

「貴女は私と会ってからまだそんなに経っていないでしょう。抵抗はありませんでしたか?」

「どうしてですか?もうケイさんと私、お友達でしょう?」

「………そうですか。そうですね。貴女はそういう人です」

「はい!ケイさんもパスパレのみんなもバンドの人達も、みんな私の、大切なお友達です!」

 

心配になるほどに純粋。しかしそれがまた彼女らしい。

 

「貴女はきっと万人に愛される」

「はい!ありがとうございます!」

 

芸能界の理などわからないが、イヴは敵になる事が馬鹿らしいほどに無垢で真っ白な存在だ。だからこそ、京は羨ましいと思うと同時に、少し妬ましく思ってしまう。

 

「私は貴女のようになれなかった」

「………?」

「いえ。何でもありません」

 

失言だった。先程からよく口が滑る。見ると、イヴはどこか寂しげに笑っていた。

 

「私はケイさんのことをよく知らないかもしれません。でも、ちゃんと知っていくつもりです。それに私達は、ちゃんとケイさんの事が大好きですから。ケイさんにも、信じてほしいです」

 

いつもの天真爛漫な彼女とは違う顔。子供に言葉を効かせる母親のような柔和な微笑みで、イヴは言った。

 

 

 

 

 

 

その日の家路はイヴにとって、残り香を噛み締めるものになった。

 

「えへ、えへへ、えへへへ………」

 

締まりのない顔で、夕暮れの中歩く。

 

あくまで、知り合いの知り合いだった彼と親しく話せたのは一番の収穫だった。近寄りがたいというか、彼がそれを拒んでいるようというか。呼び出されれば不機嫌そうな顔を貼り付け、千聖としょうもないような言い合いをするような彼に、どこか苦手意識があったのかもしれない。

 

それでも純真過ぎる彼女は、彼と友達になりたいと願った。そんな羨望もあった。

 

「やっほーイヴちゃん!」

「ぴゃあ!ヒナさん!?」

「そうだよお。素敵なお友達のヒナちゃんだよお!」

 

突然背後から抱き締められ、思わず肩がびくんと震える。

 

「いやあ、どうしてるかなーって不安だったけど、その顔だとばっちしオッケーって感じだねえ」

「は、はい!ちゃんとケイさんとお友達になれました!」

「そかそか、そりゃよい事じゃ。あ、そうだ。ちょっとだけお茶してかない?京くんと何があったか聞かせてー」

「え、ええ?今からですか?」

「うん。みんな集まってるよ。みんなイヴちゃんのお話聞きたいってー」

 

もうすぐ日が暮れる。明らかに、話を聞くのニュアンスが異なる罠であるが。

 

「はい!是非ご一緒させてください」

「お、よきかなー。そんじゃ行こっか」

 

待ち構えるのは、最早質問が拷問に変わっていると言っても過言でない面々であるとはつゆ知らず。

 

 

 

 

 

「へえー、まっさかイヴがそんなにねえ」

「完全に不意打ちでしたが、まあ親切心ですし」

「ふーん………」

 

午後七時半、京宅。合法スペアキー組の一人である今井リサが、曰く禁断症状が出たらしいので招き入れることとした。

 

『禁断症状って何ですか?』

『え、それ聞く?聞いちゃう?それ聞いたら私もう———』

 

そこから先は聞かないことにした。とにかく夕飯に家事掃除にと万能で、他人のお世話大好きなリサの顔色が優れない理由はそれだったらしい。満足世話を焼けなかったことが気がかりなようだ。

 

「ちょっと妬いちゃうなあ。アタシだって友達でしょ?」

「友達………リサさんは姉のようです」

「姉かあ………」

 

安心したような、寂しいような。そんな複雑な感情を抱えながらも、リサは言う。

 

「でもよかったね。友達できて」

「………はい」

 

その言葉を噛み締めるように、京は笑った。




書いてて思った。とりとめがなさすぎる。

でもまあ表編なんてこんなもんです。
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