純愛の名の下に   作:あすとらの

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内角高めストレートのようなキャラ崩壊。


若宮イヴの歓喜(裏)

カチカチと、アナログ時計の針が刻まれる。椅子の背もたれに背中を預けて舟を漕ぐ少年、京は、いつもと比べて考えられないほどに無防備である。いつもなら1時間に1回のペースで周囲の安全確認を挟むものだが、今日はそれがない。

 

当然だ。俗に過保護組と呼ばれるのは、リサ、友希那、沙綾、まりなだが、Roselia二人はバンドのため、まりなはそのバンドが利用するCiRCLEのため、沙綾は同じバンドメンバーの戸山香澄に引っ張り出されたため。要素が重なり、保護者が心配性を拗らせて突撃してくる要素がない。だからこそ深い眠りについている。ベッドを使わない理由は、寝たままの姿勢だと即応が出来ないからである。

 

「ん………ふあ………」

 

そうして、誰かに揺すられるでもなく穏やかな陽気に包まれて目覚める。そういえば昼食の備蓄はあっただろうか、また栄養補助食品のゴミが見つかったらリサと沙綾辺りの堪忍袋の緒が切れるだろうか。そんなとりとめのないことを考えながら台所に行くと。

 

「!?」

 

思わず肩をビクつくかせ、二、三歩飛び退いてしまった。別に黒光りするアイツがいたとか、居直り強盗に遭遇したとかそういうわけではなく、ラップでぐるぐる巻きにされたおにぎりが二個置かれていた。

 

「………ああ」

 

驚いたは驚いた。しかし、それから落ち着くまでに数秒しかかからないのは本人にとっても凄まじく不本意な慣れである。過保護お化けになりつつあるリサか沙綾か、あるいは月島まりなか。その辺りの計画的犯行と思えば、それ以上勘繰ることもない。

 

「美味しい………」

 

明太子と鮭が入ったもので、それ以上のものを感じるほど複雑な料理でもないのだが、それでも美味なようで、舌鼓をうっていた。

 

ありがたいにはありがたい。このところ仲の良い少女達の見えないところで冷蔵庫のエネルギーゼリーと戸棚のエナジーバーを行ったり来たりするような生活で、普通の食事など久しいものだった。が、今回はアプローチが今までと異なるところを京は不審がった。

 

(いつもなら起こすか、待っているものだったが………)

 

まあ彼女達にも事情というものがあるだろう。あまり頼り過ぎるというのにも慣れるのは良くない。彼女達には、バンドという優先事項があるのだ。自分のような不登校に等しい社会不適合者を気にかけてくれるだけ、本来なら女神として崇めたっていいくらいなのだから。感謝の意を込めて手を合わせる。

 

そういえば、おにぎりはやけに温かかった。

 

 

 

 

正直に言えば、京の中にはやりたいこととやるべきことを同じような列に並べているというのが現状である。

 

「あ、おはよう!京君!」

「丸山さん。どうしたんです?こんなところで」

「え、お仕事だけど」

「あ、そう。はあ………いやいや、うーん………なるほど」

「待って、その反応何!?」

 

ある時、京にあるスタジオに呼び出されるという受難が降りかかる。何だって自分がやらにゃいかんのだ、という抗議はもちろんしたが、適任だからというあまりにも酷い理由で一蹴された。予想をいい意味で裏切られたのは、知り合いが思いのほか集まっていた点。

 

「ちょうどよかった。これ、若宮さんに」

「イヴちゃんに?」

「彼女のものでしょう。そんな趣味持ってそうなのも」

「そうだね………」

 

彩の掌に収まるサイズのバッジは、赤地に金の丸が施された、いわゆる戊辰戦争の錦の御旗を模したもの。こんな歴史的かつマニアックなものを携行するのはイヴくらいなものだと当たりをつけていたが、まさに大当たり。

 

「直接渡したら?」

「私がこんな場違いな場所にいる理由がこんなものなんてお笑いです。ここから一秒でも早く抜け出したい」

「ゆっくりしていけば?」

「そんな理由も資格も気持ちもありません。というわけでこれは貴方に託しました」

「うーん、私は全然いいけど」

「いいけど、何です?」

 

言葉に詰まる彩。そんなに後ろめたいような会話もしていないだろうに、と京が首を傾げる。しかし言い知れぬ嫌な予感が頭をよぎる頃。

 

「アヤさん!ケイさん!」

 

そこに煌びやかにドレスで着飾った当人、イヴが合流する。いつものキーボードを奏でる姿が絵になるせいで、そういえば彼女はモデルだったなと思い出すまでに十数秒の時間を要した。いつもの人懐こい笑顔で二人に駆け寄る。

 

「あ、おはよ、イヴちゃん。もう上がり?」

「はい。ケイさんは、どうしてここに?」

「それもこれも忘れ物が悪い。はい、貴方の物です。確かに返しましたからね」

「え………」

 

いつも笑顔で、快活。そのイメージが強かっただけに、その表情は見たことのないものだった。笑顔が引きつり、数秒後にはその作り笑いも消え、そして俯いて黙り込んでしまった。

 

「若宮さん?」

「もしかして、めちゃくちゃ大事なものだったとか?」

「どっちかと言えば忘れたサイドに責任があると思うんですけど」

「しー!そういうこと言っちゃダメだって!」

 

二人もこんなところで怒るイヴなんてレアケースを見たくない。さっさとやるべきことをやって帰ろうかと京が目論見た辺りで、イヴは顔を上げる。

 

「ありがとうございます!」

「………はい」

 

罵詈雑言でも吐きかけられたら、特殊な性癖を持ち合わせていない京は沈むところまで沈んでしまっていたし、本人もそれを覚悟していたが、すぐにイヴは笑顔を取り戻した。

 

「ちょっと用事が出来たので、失礼しますね!」

「はあ………」

「彩さん、今度は一緒に帰りましょうね」

「うん………」

 

いそいそ、イヴはその場を去っていった。

 

「何だったんだろ今の………」

「私に聞かれても困ります」

 

残された二人は、ただただ怪訝に彼女が去った方向を眺めるだけだった。

 

「そ、そうだ京君!今度時間がある時、カフェに行かない?」

「それ、白鷺さんも一緒ですか?」

「ううん。私と二人で」

「………前向きに検討します」

「そっか。ありがと……。あれ?ああ!休憩時間がっ!」

「はあ、頑張ってくださいませ」

 

彼も彼で、叫ぶ彩から離れるように去り、彩はドタバタと現場に向かっていく。

 

「……………チッ」

 

物陰に隠れるイヴは、恨めしそうに指を噛んだ。

 

 

 

 

 

さて、京の部屋は、整理整頓されているかと問われれば部屋による。使用頻度が少ない居間やキッチンは綺麗な状態を保っているが、仕事部屋はケーブルが張り巡られていて、紙束がクリップで留められずに辺りに散乱している。基本、誰にも見せないのでこの姿を保っているのだが。

 

「……………」

 

今は違うが。果たして夢遊病の無意識か、凄まじいペースで記憶が抜け落ちてしまったのかは知らないが、京の部屋はここまで整頓されていなかった。分類され、クリアファイルに綺麗に入れられた書類の束、埃が取り払われた計器類。一瞬、物が無くなったのではと誤認したほどに、整然としていた。

 

(いやちょっと待て)

 

とにかく状況を整理しよう、と扉を閉め、居間に座る。可能性を挙げよう。まずそうしなければ、0が1にもなりやしない。京は熟考する。

 

一番最初に浮かんだのは、やはりというか、そういう事が大好きな2名の知り合い。今井リサと山吹沙綾。なのだが、少し考えてその可能性は弾かれた。そもそも彼女達には常識がある。特異過ぎる京の常識に、合わせているのだ。ものぐさな彼が危なっかしいので、彼に頼まれてはいないが、やりたい事はやりたい。こんな嵐のように引っ掻き回すような事はしないのである。

 

(引っ掻き回すというより、綺麗になってますが)

 

そんなどうでもいいことを考えつつ。待てよ、と頭を捻る。

 

昼食→部屋が綺麗になる(推定)→忘れ物の発覚→届けに行く→今に至る

 

としたら、京は誰かの侵入を許しそれに気付かないまま少なくとも24時間近くを過ごした事になる。

 

(いや、落とし主とこの件は別物か………?)

 

だとしたら、推定される時系列も異なるというもの。ある程度の当たりをつけたものの、しかしどうしたものかと、首を傾げる。届けに家を出た隙にとなれば、若宮イヴは一番先に外れるが。

 

(違う、もっと前か………)

 

悪態を吐く。確実に、深い眠りに落ちていた時だ。忘れ物も、その時のものだろう。近くどころか、同じ敷地内の同じ家の同じ部屋にいたというのにまったく気付かなかった。

 

人の第六感は、気配という曖昧なものを感じ取って目を覚ます事があるらしい。しかし睡眠というのは脳が休息を取っている状態。そんな時にどう感じ取るのだという、人間の知られざる可能性のひとつであるが。彼がしていたのは睡眠ではなく、電池切れとそれによる充電。気付けるわけがない。

 

(彼女が………)

 

ほぼ黒となったのが、彼女。そんな彼女といつも通り言葉を交わしたという事実が、重くのしかかる。彼女はあの時、顔で笑っていたが、心の内はいかなるものだったか。

 

同じように笑っていたのだろうか?それとも、また違う、いつもの彼女からは想像も出来ないような黒い一面を覗かせていたのだろうか。想像を掻き立てられるが、もうその答えは聞けないだろう。彼女を、今までと同じように見れる自信が京にはない。

スマートフォンと財布をズボンのポケットに突っ込み、コンビニにでも行くふりをして家を出た。

 

「おおう、もしもし?どったの?京」

「リサさん、今お忙しいですか?」

「もうちょいで休憩終わりだけど、なあに?」

「じゃあ手短に済ませます。一番最近、私の家に来たのはいつですか?」

「先週くらいかなあ。なんかその辺りから京もしっかりし出したから、世話焼けなくなってお姉さん悲しいぞお」

「そうですか。近いうちに手が付けられなくなると思うので、その時はまたお願いします」

「ほいほい」

 

ありがとうございます、と言って京は電話を切った。

 

まあ、ある程度予想はしていたが、いかんともしがたい。京が自分の中で既に黒を確定させている事もあるが、沙綾には電話をしなかった。

 

では次は、と、出来ればかけたくなかった番号にかける。

 

「自称正統派、聞こえてますか」

「私、結構耳はいい方なの。んで、自称って?」

「そんなもの後でいい。若宮さんについてです」

 

急かすように会話を展開させようとする相手は、自称正統派女優の白鷺千聖。出来れば危急の事態には避けたかったが、コンタクトを取れる保証があるのもまた彼女だけというジレンマを抱えての通話である。

 

「イヴちゃん?どうして?惚れたの?」

「何でそういう方向に持って行きたがるんですかね」

「冗談よ。それで、どうしたの?」

「最近の彼女の様子を聞きたくて。例えば単独行動が多くなったとか、何かと理由を付けて集団から離れるとか」

「………やっぱり惚れ———」

「そういう事言ってるんじゃねえですよ。ん?」

「はあ………分かったわよ」

 

前置きが長い、という不満は漏らさなかった。

 

「まあ、貴方の言った通り、最近増えたわね。あまり気にしてはないけど」

「そうですか………ちなみに今は?」

「今もいないわ。そういえば、さっき見た時は尋常じゃないくらい急いでたわよ」

 

心臓が跳ねる。嫌な汗が背中を伝う。まったく、察しが良すぎるのも考えものだと、笑顔がどこか引きつった。

 

「………分かりました。ありがとう」

 

電話を切り、自分の部屋のドアをアパートの廊下から眺める。部屋の中から、引き戸を開けるような乾いた物音がした。おそらく物置の戸が開いたのだろう。

 

ここは京の家だ。だというのに、中々開けられない。

 

どうすれば文字通り家の中で待ち受けるものに相対出来るのか。その答えが浮かぶ事は、遂にはなかった。




Q.このあとどうなったでしょうか。

今回のお話は実験的。イヴちゃんサイドない上にセリフも登場も少なかったですね。ニンジャ。ダメだったら次回から戻します、はい。

そしてモカちゃんとさーやを足して二で割った感じになったブシドーちゃんでした。こうでもしないとネタが尽きるんや………
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