純愛の名の下に   作:あすとらの

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丸1日悩んだ結果が蘭ちゃんです。

いやね、書くのは少し遅れましたけれども。


美竹蘭の純情(表)

思えば彼女は、ただ寂しがり屋という少女らしい少女であった。その根拠は?

 

Afterglowというバンドが存在している事、に限る。

 

「ここは………どうしよう?」

「アタシは別に変えなくてもいいと思うけど」

「何故私はここに………」

 

殺風景なある一室。ガールズバンド『Afterglow』のメンバーである美竹蘭、宇田川巴ともう1人。駆り出されたと言うべきか叩き起こされたと言うべきか、とにかく1週間のうち2日しか用意されていない休日の片方を、惜しげもなく消費させられているのである。

 

「あんたがあたしと2人きりは嫌だってゴネるから巴がいるんでしょ」

「いやぁ、美竹さんのような美人相手だと恥ずかしくて」

「湊さんと似た波動を感じるってひまりに愚痴ってたの、知ってるから」

「左様でございますか」

 

ひたすらに五線譜に音符を書くという、単調に思えて恐ろしく頭を回転させる作業の全てを、京は2人の少女と会話をしながら完璧にこなす。手を動かしていても、都合の悪い情報を流すスキルも健在で。

 

「あと巴を名指ししたのも」

「そういやさ、何でアタシなんだい?」

「心の拠り所です」

「は?」

「というのは冗談で、性格の問題です」

「そ、そっか………」

 

あえて言葉を悪くすればそれは緩衝材という事なのだが、それは何より性格が良くなければならないのも事実。これがまた、宇田川巴にうってつけの役割であった。

 

「あたしが性格悪いみたいなんだけど」

「ぶっきらぼうで沸点が低いという意味では、決して的外れではありませんね」

 

美竹蘭。Afterglowのギターボーカルを務める少女。初対面の人間はほぼ例外なく彼女を無愛想でぶっきらぼうと評価するだろうが、それは単純に口数が少なく人見知りをしているだけ。

 

寂しがり屋で等身大で歳相応、クールという言葉は不適切とも見える少女である。

 

「宇田川さん、そちら私が引き受けます」

「んお?そうか、悪い」

「お気になさらず」

「あんた巴にだけ優しくない?」

「いいえ。必要とされる時だけ優しいんです」

「あたしが必要としてるんだけど」

「引っ張り出したの間違いでは?」

 

結構根に持つ性格なようで、事あるごとに蒸し返す。安楽の地ことベッドの中から引き摺り下ろされて作曲の手伝いをしてほしいと、仏頂面で命令と勘違いしそうなお願いをされた事は、いくら盾にしても卑怯と思われないだろう。そんな不条理である。

 

「なぁ京、ここはもうちょいテンポアップした方がいいんじゃないか?」

「そうなるとキーボードの人が死にますが」

「出水、ここは?」

「ここの四分音符は余計です」

「じゃあ———」

「ちょっと待って、私はここに手伝いとして来たんですよね?」

 

まずその気配から。起こっていなくても、起きる兆しが見えればそれには口を噤む事なく言及すべきなのである。そうでなければ流されるままにそれが当然となってしまう。なので、言った。

 

何か配分おかしくない?と。

 

「………頼りにしてる」

「その手には引っかからないんですねぇ、それが」

「あはは………なぁ京、やっぱアタシがやろうか?」

「いいえ、宇田川さんはお気になさらず。全てはこの反骨赤メッシュ女が原因なのですから」

「変なアダ名付けんな」

「親しみを込めて」

 

言葉そのものは尤もらしいが、内容の蓋を開けばそれは子供の小競り合いと言う他ない。詭弁を捏ねてのらりくらりと相手の言葉を躱すだけでなく時に反抗するのは、学生らしいといえばらしいが。

 

「ここのパートは?」

「モカよ」

「だったらもうちょい詰めても大丈夫ですね」

 

蘭が彼を呼んだのは、何も嫌がらせをしたいからというわけではない。

 

(専門なんだからちょっとは配分多くしろ)

 

とは少し脳裏をよぎったものの、手伝ってもらっている身分で言える範疇を超えていると、すぐさまそのような思考は捨て去った。

 

「これでどうよ」

「完璧です。流石宇田川さん」

「そうか?照れるな………」

「こっちも終わった」

「まぁ美竹さんはいつも通りですね」

「何じゃそりゃ………」

 

このデジタルの時代に、紙の五線譜にシャーペンを走らせるというえらくアナログな手法を用いたせいで、3人で分担しても半日以上の時間がかかった。

 

「何だってパソコンで5、6時間で済む事を態々………」

「だって使い方知らないし」

「ゴメンな。使い慣れてないからさ」

「………別に構いませんが」

 

ばつが悪そうに京は呟く。

 

京には我を通すだけの度胸が些か足りないわけで、どこまでやっても多数派には勝てない。

 

「仕事は終わったので、私は失礼します。お2人とも、バンドを頑張って」

「何だ、聞いていかなくていいのかい?」

「お腹空いてヤバいんです。お腹と背中がくっついて内臓の圧縮がヤバい」

「飴玉ならあるけど」

「ありがとうございます」

 

頭を使っただけだというのに、うつ伏せになったまま体を引き摺る様はまるで瀕死の重傷を受けたかのようだ。

 

「お、おい………大丈夫か?」

「本当、これは経験した人にしかわかりません。飢餓というのは徐々に体を蝕んでいくのです」

「腹減ってるだけじゃん」

「2、3週間断食でもすりゃいいんです」

 

応酬はその後何度か続いたが、2人とも口を動かすと同時に後始末を器用にこなしている。どうしたって気が合わない理由が今ひとつわからない巴にとっても奇妙な、しかしどこか笑えてならない。

 

「やっぱりあんたら気が合うんじゃないか?」

「「誰がこんな奴と」」

「仲良しじゃないか」

 

などあった。対面は劣悪そのもので、出会った途端に隙を見つけては憎まれ口を叩く、模範的な友情とは間違っても言えない2人の間柄。

 

「何で蘭は京をいっつも呼び出すんだ?」

「あいつ、作詞作曲は天才的だし」

 

しかし蘭は彼の実力を正当に評価して、その力を受け入れ、来たるべき時に備えて頼る事さえある。

 

「なぁ京、お前蘭の事は嫌いなのか?」

「好きになれそうとは驚きです」

「じゃあ何で一緒にいようとするんだ?」

「彼女が実力者である事は違いありません。ポスト友希那の最有力候補ですね」

 

そして京もまた、蘭の一長の部分に目を向け、贔屓目も偏見もまた抜きにして正確に把握出来る、あるいはそれに努める人間であった。

 

「京、今度付き合ってよ」

「残念でしたね。私は貴女と違ってナイスでボインなお姉さんが好みなんです」

「終いにはシメる」

「おお、怖や怖や」

「やめろって2人とも」

 

どうにも、掴めない。というより、蘭にとっての京は掴み所があまりにも多過ぎて掴みきれない。まったくおかしな話だが、矛盾するようだが、2人の関係は表面上といえばその通りで、深くあるといってもその通りである。

 

「今日はありがとう。その………助かった」

「私も、いい経験になりました。今後もご用命の際はよしなに」

 

それでいて別れの挨拶も欠かさない2人であった。

 

 

 

 

 

それをどうしようもないと形容されるだろうが、それでも2人はこの関係に不満はない。

 

正確には、なかった。

 

「蘭さん」

「何?京」

「デスクトップミュージックを習いたいというその気概は確かに汲みました」

「じゃあ教えてよ」

「パソコンの使い方から教えろというのは流石に予想外です」

「こういうのは経験した事ないし」

「まったく時代はデジタルだというのに………」

 

Afterglowの歌う作詞作曲を一手に担う蘭も、流石に疲労と時間の消費に抗う事は出来ない。というわけで、その負担を軽減するだけでなく、音程の調整や完成した曲のテストをソフトの内部だけで可能な音楽ソフトの教えを蘭は請うた。

 

しかし問題はひとつ、蘭の家庭についてだ。

 

「私、蘭さんのお父様は苦手なのですが」

「あたしからちゃんと言っとくから」

「超不安」

「ちょっとは信用してよ」

「あの頭ん中明治時代の人が娘の話なんて聞きますかね」

「京?」

「おっと」

 

微かに溢れた不適切な発言をいなされつつも、青白く発光する電子の画面に釘付けになる。

 

「ピアノはここ。ここに打ち込むのがそのまま音になります。再生ボタンはここです」

「ミックスは?」

「一度楽器ごとの譜面を設定してからになります」

 

その場に青春感のカケラもないのは、甘酸っぱさどころか塩味に満ち溢れているせいであろう。というのも、2人はあまりに冷静過ぎた。大人びた、といえば聞こえはいいものの。

 

2人の指が触れる。

 

「あ、ゴメン。あれ?こっちのボタンじゃないの?」

「失礼。あぁ、そちらの操作は少し複雑で………」

 

目的の前には男女の触れ合いなど二の次三の次のようだ。

 

「なるほど………これは確かに便利かも」

「でしょう。いちいち紙の譜面なんてやってられませんよ」

「ありがとう。ねぇ京、お礼がしたいんだけど」

「え………」

「………何?」

「明日は槍でも降ってくるのかなと」

「バカにしてる?」

「意外性に驚いていたのです」

 

そして、その辺りから蘭は、バンドと関係のない場所で京に会うようになった。そしてよく、笑うようになったと巴は話す。吉凶を占うではないが、それでもAfterglowは他のバンドと比べて、言葉を悪くすればいくらか排他的だ。それはこのバンドが結成されたキッカケにまで遡る事になるのだが。

 

蘭は寂しがり屋。ともなれば、自分を理解してくれる人間が必要になり、そしてその役割はメンバーが担っていた。

 

「ねぇ京、こういう時ってどうしたらいいと思う?」

「仕方ないので2、3発ぶん殴ってください。ええ、その真っ赤に燃える右手で」

 

彼女の友情を求める欲求は確かに満たされていた。しかし、渦巻く孤独をそれで埋める事は不可能。何故かと問われればひとつ、人の欲望に終わりはない。

 

「あんたって本当、ムカつくくらい話し上手で聞き上手だわ」

「何故でしょうね」

 

段々と、しかし確実に。終わらない欲望は肥大し続ける。これらはそのキッカケとなった、蘭の中で変わりゆく京という人間への評価の変化である。

 

前兆というのは、し難い事はあっても出来ないという事はない。しかし、それは認知バイアスのジレンマ。人は起こった事に対処出来ても、起こりそうな事に備えるのは難題なのである。

 

「あたしの、友達になってほしい」

「勿論。ではこれからは、良き友人として」

 

歯止めをかけられるとして、彼女はあえてかけなかったとしたら、果たしてそれは業となってしまうのだろうか。




大体4000文字くらいを目標に書きたいなぁと思う今日この頃。
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