純愛の名の下に   作:あすとらの

48 / 52
今更明けました、おめでとうございました。

ということで、年末年始のゴタゴタですっかり遅れてしまったはぐみ編でございます。


北沢はぐみの咎(表)

時刻は深夜1時。草木も眠る丑三つ時。良い子はもう寝る時間である。しかし花咲川女子学園の校門前にはそれに逆らうようにして人影が二人分ある。

 

「あわわわわ……怖いよぉ……」

「じゃあ別にこうしなきゃいいじゃないですか……」

 

今回のうっかりミスに付き合わされてご機嫌斜めな京と、そんな彼の様子など気にならないくらいに怖がっているはぐみである。

 

北沢はぐみはいい意味でも悪い意味でも有名人だ。前者の意味は商店街の元気印として、後者の意味は花咲川の異空間こと弦巻こころとフィーリングが合うちょっとアレな人物としてである。ハロハピでも持ち前の明るさと猪突猛進さを生かして、カンフル剤兼三馬鹿の一角として活躍中だ。

 

そんな恐れ知らずにも見えるはぐみであるが、今回はそうもいかない様子。何せ相手は深夜の学校という、ホラーの代名詞のような場所があり今からそこに進入しようというのだ。

 

「早く用事を済ませましょう。この時間帯なら警備員はいないでしょうが、絶対とは限らない」

「ゔゔ……怖いぃ……」

「我慢してください。そもそもあなたがやらかしたのが原因なんですから」

「そうだけどぉ……」

 

何故二人が不法侵入をする羽目になったのか。原因は主にはぐみにあった。単純に校内にある物を忘れたのである。

 

「本当に嫌なら、明日回収すればいい話でしょう」

「そういうわけにはいかないの!『ミッチー』も今頃寂しがってるよ!」

「……ああはい、そうですか。じゃあその意気で先行してくれませんかね」

「それはちょっと……ね?京くん、お願い」

「はっ倒しますよ……」

 

京もうろ覚えであるが、とにかくはぐみがミッチーというニックネームを付けたソレが動物ですらないことはよく覚えている。確か熊か何かのぬいぐるみだった。京はそのぬいぐるみが置き去りにされて寂しがっているというなんともメルヘンな理由で深夜1時に呼び出され、これから不法侵入という罪を犯そうとしているのである。

 

はぐみの切実な願いに折れて引き受けてしまった以上仕方ない。京は心の中で愚痴が止まらないまま、閉ざされた校門を乗り越えて敷地内へと進入した。

 

「なんかもう怖いんだけど……」

「まだグラウンドですよ」

「もうなんか、暗いとこは全部怖い!」

「あまり大きな声を出さないでください」

 

グラウンドを抜けて後者裏に行き、ある教室の窓を開ける。そこはあらかじめ解錠されており、その犯人は京本人だ。

 

「本来なら私の仕事はこれだけだったんですがね……」

 

そうぼやきながら、京は屋内に入った。内部はやはり完全に消灯されており、懐中電灯がなければ夜目になっていても危うい。そしてシンと静まり返り外と隔離されたほどの静かさは、学校を舞台にしたホラーが多いのも頷けるくらいには不気味だ。

 

「うわあ……うっわあ……」

 

約1名、その空気に当てられてすっかり気分が沈んでしまった者がいる。

 

「本当に行くんですか?」

「い、行くよ……。はぐみ、逃げない!」

「そうですか。時にはぐみさん、校舎のような広い建物を探す際は二手に分かれた方が効率的かと思いますが。いかがでしょう」

「無理!無理だよ京くん!一人にしないで!!」

「分かりましたから、大きな声は出さないでください」

 

京は恐れずに進んでいく。そのおかげもあって、探索はかなり早く進んでいく。サクサクと進んでいく中ではぐみはどうしてもそれが気になって仕方がなかったのだ。

 

「京くん、怖くないの?」

 

京の振る舞いはまるで恐怖という感覚が抜け落ちているようだった。粗い息遣いも、体の震えも、恐怖をした時の人間の生理現象というものがまったくないのだ。

 

「怖くないですね」

 

京はキッパリとそう言った。それが強がりや空元気でない事は、言葉よりもその堂々とした態度が物語っている。

 

「怖いというのはこちら側、受け手側が感じるものです。だから自分が克服するだけで、その感情は消えて無くなる」

「……??」

 

つまりそれはどういう事なんだと、はぐみはポカンとした表情で呆気に取られる。

 

「雰囲気に流されず自分が怖いって感じなければ最強、という事です」

 

その表情を見て京はそう端的に言った。この学校の雰囲気は、怖いと思わせるようはたらきかける事しかできないのだ。最終的に怖がるか怖がらないかは本人の自由。それを理解してしまえばいい。

 

「そっか〜。そういうものなんだね〜」

 

はぐみは感嘆する。この際、それができれば苦労しないとかそういう批判は抜きにして、まあ彼女にとっても大発見という事だ。

 

「まあ当然、訓練は必要になりますが。北沢さんもやろうと思えばできますよ」

「そうなの?今度教えてよ!」

「今度と言わず、今やりましょう」

「……ほえ?」

「何やら聞いた話だと、花咲川(ここ)にはいわゆる学校の怪談があるのだとか。何でしたっけ、さまよう少女の亡霊でしたっけ?」

 

学校の怪談というのは花咲川にも例外なくあるもので、京の耳にも入っている。数年前に不慮の事故だか殺されただかで死んでしまった女子生徒の亡霊がどうにかという話だが、京はベタなことこの上ない類の話と一蹴できる。しかしはぐみに効果は抜群のようで、京が話題を出すと慌てて止めに入った。

 

「やめてよ京くん!よ、寄ってきちゃうかもしれないでしょ!?」

 

はぐみはかなりその手のものを信じるタイプのようだ。人類皆友達の精神を持つ彼女ならばひょっとしたらと思ったが、どうやら全然そんな事はないらしい。怖いものは怖いようだ。

 

「そうは言いますがねはぐみさん。たとえこの世の者でないとしても先輩には挨拶しておくのが筋でしょう」

「真面目かっ!いやいいよそういうのは!早く探して帰ろ?ね?」

「……仕方ありませんね。それでは次はどこを探しましょうか」

 

軽くからかってはみたが、あまりに反応がガチなのでどこか罪悪感がある。京も幽霊ハントをしに来たわけではないし、そんな事をするほど暇でもない。昼間のはぐみの足跡をたどり、さっさとモノを見つけて撤退しよう。という事ではぐみに次の目的地を問う。

 

「お、音楽室……」

 

はぐみは青ざめた顔でそう答えた。

 

「……音楽室ですか。なるほど」

 

対照的に、京は笑った。というのも、音楽室は音楽室で少女の霊が出るとの噂があるのだ。

 

「丁度いい。同一人物か確認しましょう、はぐみさん」

「え゛っ」

「こんな時間に付き合わされたんです。これくらいの報酬は受けて当然というもの。そうでしょう?」

「そ、それはそうだけど……」

 

はぐみも痛いところを突かれて口籠る。

 

「え、いや、ちょっと待って」

 

しかし京の一言を拾い損ねていた事に気付き、待ったをかける。

 

「なんですか」

「報酬って言った?」

「言いましたね」

「報酬なの?」

「はい」

「お化けを探すことが?」

「はい」

「なんで!?」

 

迷いの無さすぎる答えに、はぐみの疑問が噴出する。京の頭の中を理解し難いと感じたのは、彼の教養の深さを目の当たりにした時。そして今のようにマトモでないと感じた時だ。

 

「なんでって……気になるからですよ。どうしようもなく。雰囲気に当てられたからでしょうか、超常的なものを解き明かしたくなってきた」

「分かんない……はぐみは全然分かんないよ、その気持ち……」

「そうですか?まあはぐみさんが理解していようがいまいが、付き合わされたお返しとして引きずってでも連れてきますが」

 

そしてこうなるとどうにも止まらないのも京の特徴である。

 

「まあ、音楽室で2人の用事が終わるかもしれませんし。行きましょうか」

「うう……ゔぅぅぅ〜……」

 

苦渋の決断であるが仕方ない。はぐみは逡巡ののちに逃げ出したい気持ちを抑えると決め、京についていくこととした。

 

「はぐみさん、歩きにくいです。もう少し離れてください」

「無理」

「あっはい、そうですか……」

 

そんな一幕を挟みつつ、2人は音楽室の扉の前に立つ。扉にはすりガラスがあって中の様子を詳しく窺う事はできない。

 

「開けますよ」

「う、うん……」

 

京が扉を開けると、当然であるが無人の音楽室が暗闇に包まれていた。様々な楽器が整然と並び、年季が入っている楽器もチラホラ散見される。

 

「あれではないですか?」

 

そしてここまで無茶を通した甲斐あってと言うべきか、京にとっては少々物足りないがアッサリと目当てのものは見つかった。

 

「よかったー!!ありがとね、京くん!」

 

それを手に取った瞬間、今まで怯えるばかりだったはぐみに笑顔が戻った。

 

「ふぅむ。まあ良しとしましょう」

 

京にとっては不発に終わったが、それでも真の目的が達成されたのは喜ばしい。そんなわけで歓喜のはぐみと複雑な思いに揺れる京が音楽室を出ようとすると……。

 

不意に、つい先程まで静寂に包まれていた音楽室に音が響く。備え付けられたグランドピアノの鍵盤を弾いた時の音だ。

 

「ぴわあぁぁぁ!!?」

 

はぐみはついに受容できる恐怖のキャパシティを超えたのだろう。悲鳴というか、奇声をあげてなりふり構わず大急ぎで音楽室を後にした。音楽室には一人、京が残される。正確には、彼は残ったのだ。

 

「こんばんは幽霊さん、お会いできて嬉しいです。が、残念ながら私には霊感というものがありません。あなたの姿を見る事はできない」

 

ただの怪談話かと思ったら、ソレは実在したのだ。京が心躍ったというのが大きな理由だ。まるで初対面の人間に当たり障りのない挨拶をするみたいに、見えないが確実にいる何者かに声をかけるのだ。

 

「それでも構わないというのなら……。どうぞ、お好きなように」

 

京は手近な椅子に腰掛ける。その声が届いたのか、それとも彼女に初めからその意思があったのかは分からない。見えない彼女はゆっくりとピアノを奏で始めた。曲名はショパンの『別れの曲』である。そして仮に彼女を高校生と仮定した場合、技術はそのレベルを超えている。4分ほどにまとめたので短いが、ちょっとしたコンサートのピアノソロを聴いているような気分だ。

 

「綺麗ですね。相当努力なされたのでしょう」

 

京の言葉は世辞でも誤魔化しでもない。素人にもそれが分かるくらいに美しい演奏だったということだ。京は拍手をし終わったのちにそう意見を述べる。

 

「ねえ幽霊さん。演奏を聴いた代わりと言ってはなんですが、私の話も聞いてくれませんか」

 

京は立ち上がり、そう言う。返事があるわけでもないので沈黙は肯定と受け取って勝手に話すのだが。

 

「私の親はね、頭がおかしいんです。アレに比べたら幽霊なんて可愛いものだ」

 

話というのは身の上話である。ただ不幸な身の上を哀れんで欲しいとかそういう事ではなく、人に話せないような話だから今こうして口にしている。

 

「今逃げ出してったはぐみさんなんてのは、私みたいなのにも声をかけてくれる優しい人で。もうあの頃に比べたら天国ですよね。いやまあ、死んでないんですけど」

 

そんな着地点に困るような話をして十分ほど経ったろうか。ピアノの蓋が閉じられ、突然舞台は閉幕した。

 

「おやおや……。フラれてしまいましたか」

 

ただし、幽霊さんが座っていたであろう椅子の上には先程までなかった観葉植物が置かれていた。

 

 

 

 

結局あの後、はぐみは決死の逃走で帰宅し、疲れてそのまま泥のように眠ったらしい。

 

「へー。そんな事がね……」

「まったく、私の深夜の校舎に放置なんかして」

「ごめんね〜……ホントにごめん……。あ、お詫びにコロッケ食べる?」

「お詫びじゃなくて持ってくるでしょ貴女は」

 

事から数日経った日曜日の午後。京、はぐみ、美咲の三人が特に理由もなく集まっていた。主に話題は夜明け前のアレコレであるが、本当に話題には事欠かない。

 

「え、演奏聴いてたの?マジで?強心臓すぎない?」

 

美咲は驚嘆する、というより呆れている。なんだって深夜のコンサートを聴いているのか。強心臓というか、無神経とさえ言えるだろう。

 

「ホントだよぉ!京くんってばいきなり幽霊探すとか言うし!」

 

はぐみもそう講義の声をあげる。

 

「ははは、正当な報酬を要求しただけですよ」

 

だが京はそれを笑い飛ばす。

 

「で、その幽霊さん、どうだったの?」

 

美咲は興味本位でそんな事を問う。話を聞く限りではただ演奏を聴いてほしかっただけの可愛らしい霊という事で、音楽に携わる者として何か感じたのかもしれない。

 

「かなりの腕前でしたよ。どうします?加入させます?」

「マジ、それこころの前で言わないでよ?」

 

ただ、その話については否定させていただく。こころなら新メンバーにすると言いかねない。がそれは破天荒の度合いを過ぎているのだ。

 

「まあ、もう成仏したでしょうし出来ないですが」

「え、京くんってそういうの分かるの!?」

「分かるわけないでしょ。演奏を聴いて欲しくて今まで徘徊していたのなら、もう満足した筈です」

「そっかあ……」

 

それも叶わないだろう。もう正体不明の誰かは満足して消えてしまったのだから。まあそれはそれで、天寿を全うしたのならいいだろう。

 

「で、これですよ」

「それがどうかしたの?」

「ただの草じゃん」

 

ここからが問題だ。幽霊が渡したとも取れる、小さな観葉植物。京は植えられたアイビーの葉っぱは、花言葉で『死んでも離れない』ことを意味する。

 

「誰が誰から離れたくないのやら……」

 

京はそう呟いた。




幽霊相手にフラグを立てる男、京。こういう話もやってみたかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。