純愛の名の下に   作:あすとらの

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1万UA突破、お気に入り100件突破、そして評価のとこに赤色がつきました。

皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

やったぜ。


弦巻こころの賛美歌(表)

ライブハウスCiRCLEはいつも通り。

 

いつも通りの晴天と、いつも通りの静寂と、いつも通りの物寂しい店番と。どうしようもなく身を刺す退屈は、どうやったって跳ね返せない。まったく、アルバイトというのも楽ではないが。

 

「やぁ京。今日もいい天気だ。こんな日は恋のひとつでもしてみたいね」

「シェイクスピアが言ったのは、晴れたり曇ったりの話ですよ」

「京!何だか今日は気分がいいの!何でかしら!?」

「人は太陽光に精神的な充足感を得るようですので、その効果かと」

「京くん!お腹減ってない?コロッケ、食べる?」

「野菜増し増しじゃないと食べれないんです、私」

 

その全てをぶち壊すように入って来た3人の少女と、その背後からおずおずと申し訳なさそうに2人の少女が顔を見せる。

 

「京さん、凄いですね………」

「あの3人を同時に捌いてる………」

 

驚嘆というより、単純に引いているだけとも取れるが。とにかく世界を笑顔にするバンドことハロー、ハッピーワールド!の3バカと形容される面々に対してまったく臆する事なく、律儀に質問に答えている。

 

「いつもご苦労様です、奥沢さん。こちら完成致しましたので」

「あぁ、本当ですか。ありがとうございます、いつもいつも」

「いいえ。私も中々新鮮な体験でございました」

「何々?何が新鮮なの?」

「主に貴女のおかげで」

 

ハロー、ハッピーワールド!の曲の作り方はやや変わっている。それどころかバンドのあり方も一線を画している。それもこれも全ての元凶はこの金髪少女のせいなのだが。

 

弦巻こころ。自由奔放をそのまま顕現させたような少女。快活、と言えば聞こえはいいものの。その柔軟が過ぎる発想は突拍子もなく、無邪気でありながら天衣無縫。

 

ちなみに弦巻家の総資産は京も予想しかねている。

 

「しかし珍しいですね。弦巻家の豪邸で大体の事は済むというのに、何用でございますか?」

「貴方に会いに来たわ!」

「おや………それはまた、大所帯で大変恐縮ですが、面白いものは出ませんよ」

「貴方の顔を見れたから満足だわ!」

「そうですか………」

 

それでいて、こころは京の天敵であったりもする。思えば彼女に勝てたと思えた事がない。何か突拍子もないと思えば、実は彼女なりの理論に基づいているもので、実際にそれで難局を見事に突破した例も多い。

 

ハロハピの乱痴気騒ぎの元凶かと思えば、困難を打破する銀の弾丸ともなる。

 

始終の全てに至るまでを理論として先に組み立てる京とは真逆を行く彼女であった。

 

「じゃあね!バイト頑張って!」

「はぁ………」

 

嵐のような少女と言うべきだ。気まぐれに来襲しては静謐そのものをぶち壊す。

 

「アルバイトではないのですが………」

 

どうにもテンションの差のせいで、彼の萎んだ声は届かないようだ。

 

 

 

 

 

陽と陰をそれぞれが体現したかのような2人は、生きる世界が何から何まで違う。お互いが普通に生きていれば決して交わる事がないのだが、果たしてこころがイレギュラーだったのか京が強運だったのか。

 

「京!ちょっといいかしら!いいわよね!?」

「いいですが」

「望遠鏡!私の望遠鏡が!」

「それは双眼鏡です」

 

一度現れれば、そこがどれだけ荘厳極まっていようともしっちゃかめっちゃかにしてしまうであろう嵐を呼ぶ少女。

 

「ちゃっちゃと分解しますから離れてください。利き手が動かない」

「あぁ、ごめんなさい!」

 

ある時は、何故か天文部である筈の彼女が、双眼鏡が壊れたと絶叫してCiRCLEに突入して、襟を掴んでぶんぶんと激しく前後させる。

 

「私が機械に強いとご存知でしたか?」

「いいえ。花音が、頼るなら京だって言ってたわ!」

「あぁ………そうですか………」

 

頼られるというのは嬉しい限りだが、市街地に迷い込んだ野生動物よろしく引っ掻き回すのは勘弁してほしい。ドライバーで手際よく分解し、こころと会話を成立させながら淡々と修理する。

 

「えらく本格的ですね」

「お父様が買ってくれたの」

「それはまた、羨ましい」

「どうして?」

「お金があるから、権力があるから。それを正しい人間が持っていたとしても、その使い方が正しいとは限りませんから」

「ふぅん………薫みたいな事を言うのね、京」

「一緒にしないでください」

 

3バカその1から、その2のようだと形容されるのは、京にとってどうしようもなく屈辱だ。たとえそれが演劇部のエースのようだと暗に言われても、嫌なものは嫌だ。

 

「レティクルがおかしいのはプリズムの凸レンズが欠けていたからです。2枚挟んでいて内側の方。集光がおかしくなったんです」

「凄いわ!京は何でも知ってるのね!」

「何でもは知りません」

 

お気に入りを直してもらって、飛び跳ねて喜ぶ姿はまったく高校生らしさのカケラがありはしないが、見ていて飽きる事もなし。天真爛漫というのは傍観している分には疲れる事もない。

 

「ねぇ、京」

「はい?」

「何だか貴方、とても悲しそうだわ」

「根が暗いだけです」

「………本当に?」

「何です?突然」

「いえ………気のせいかしら?」

「ええ。人は間違う生き物です」

 

こころは奔放に見えて、人をよく見ている。そしてそれをしまっておけないのである。京は自分を見て、そしてそれが露見しないよう上塗りする。彼女は僅かな手がかりだけでその核心を突こうとしていた。

 

まったく、天敵というのはどうすれば対処出来るというか。どこかに情報でも転がっていないものか。

 

「望遠鏡直してくれてありがとう!それじゃあね!今度は一緒にお茶しましょ!」

「ええ、予定が開いた時にでも」

 

相も変わらず、始終常に賑やかな彼女であった。

 

「双眼鏡なんですけどね………」

 

 

 

 

 

どこかで彼女は、楽しんでいたというより楽しませたかったのかもしれない。彼女は世界が笑顔であれ、と願ったが、最も近くにいる当の彼は、いつも物憂げに活字に目を落とすばかり。

 

「京!遊びましょ!」

「インターホンを鳴らしてください」

 

破天荒、文字通り天荒を破る彼女だが、それは破らなくていい。というかそれは近所迷惑に他ならない。

 

「たまの日曜くらい、お友達とお出かけしてはいかがですか?」

「どうして?京もあたしの友達よ!」

「いやそういう事ではなく」

「じゃあどういう事?あたし、京の話は難しくて偶にわからなくなるわ」

「………いや、もう。いいでしょう。それで何用で?」

「遊びましょ!」

「はい………はい?」

 

説明しているようでまったくされていない。一体どんな手でどんな結末を迎える事になるのかまったく予測出来ない。彼女の楽しさへの嗅覚と俊敏さは最早野犬じみている。

 

「貴方と遊ぶために迎えに来たのよ!ほらほら!」

 

窓の外に黒服の気配を感じてしまったがために、それを無理矢理跳ね除ける事は出来なかった。

 

弦巻こころの周囲は、常に黒服と称される謎の集団が警護している。名前の由来はそのまま、黒色のスリーピースにサングラスという通報されかねないビジュアルであるためなのだが。流石お嬢様を警護しているだけあり、様々な能力はSP顔負けなのだが。京も偶に黒服を見失う。

 

「だったら私を呼べばよかったのでは?」

「楽しい事には自分から行かなくちゃ!」

「はぁ………」

 

その心意気はエンターテイナーとしては素晴らしいが、アパートに黒塗りのリムジンを横付けするのは勘弁してほしい。待機しているのがあの黒服な上、車まで黒尽くめとなるとその道の方にしか見えない。

 

「京は頭もいいし、音楽の才能だってあるのに、どうしてそんなに悲しそうなの?」

「また唐突ですね。根暗なだけです」

「京は楽しくないの?」

「楽しんでいますよ。作詞も作曲も編曲も楽しい。ただそれを顔に出すか出さないかの違いです」

「そうかしら。何だかとても、無理してるように見えるわ」

「貴女の目は見かけによらず鋭い。しかし間違える事もある」

 

彼はこころに痛いところを突かれると、口癖のようにそう言って逃れた。常に自分が正しいとは限らない。

 

人間はミスをする生き物と言われているが、それは精神論の問題ではなく、脳の構造上、人間があらゆる環境下において100%でいれる事は不可能とされている。

 

ドラマチックな展開での決断だろうが、命をかけた男気溢れる決断だろうが、失敗する時は失敗する。老婆心といえば少しばかりの語弊はあるが、彼女が立ち止まるより前に躓いて派手に転んでしまわないか心配にはなる。

 

「着いたわ!」

「相変わらず建てるサイズと場所間違えたみたいな邸宅ですね」

 

古都にでも置いておけば遺産にでもなるだろう。一体誰の趣味で西洋の古城の如き邸宅になったのか。色々な意味で京の視線と興味を掴んで離さない弦巻邸である。

 

「お父様はとってもロマンチックなの。だからかしらね」

「あぁ、そうですか。お父様のご趣味ですか」

 

財を築き上げたとなれば、それである程度自由であれるのは権利だろうが、建てるなら大陸国家に立てた方が良いのではないか?というのは余計だろうか。

 

「そうだわ!まだ聞いてなかった!」

「何をです?」

「京のご両親の事よ!」

「………あぁ」

「京?」

 

完璧な不意打ちだったとはいえ、彼は自慢の演技力で、『ちょっとだけテンションが下がった』程度に留めた。反抗期の高校生らしく、それもまたえらくリアリティに満ちているのだが。

 

どうにも、家族の事は苦手だ。

 

「私の事は良いでしょう。言った筈ですよ。貴女の全てが正しいとは限らないと。それは着眼点の成否にも言える事です」

「………貴方はとっても不器用さんなのね」

「そうですね。性根が暗いとこんな感じです」

 

まるで自分の中にある核心に気付いていないように。白々しいが、回避するには有効な手段である。一点張りが通じるという強さを、ここまで振るわなければ意味もない。

 

「それで、遊ぶというのは?」

「バンドの演出を考えてほしいの!そういうのにも詳しいって薫が言ってたわ!」

「まぁ、はい。平均以上には。どこです?」

「ここでね、ミッシェルをドカーン!ってさせようと思ったら、美咲に止められたの」

「………まぁ、彼女達は通じ合っていますからね。やめた方が賢明かと」

 

何やら不穏な擬音には、常識人藤沢のセンサーが反応したようだ。当然どこをどうドカーンとしようが、中の人が悲惨になるようではスプラッターに様変わりしてしまう。

 

「演出用の花火があるでしょう。火薬は我々が使うには過ぎた物です」

「その通りだわ!流石ね京!やっぱり凄いわ!」

 

あぁ、某クラゲのドラマーはこんな気分にいるのか、と、少しばかり彼女の心象が理解出来そうだ。褒められて困惑する、というのも中々、こころの言葉でないと出来ない珍しい現象である気がする。

 

尊い1匹の熊と1人の常識人の命が救われたところで、続きを読む。

 

発案者が弦巻こころと瀬田薫と北沢はぐみであるという点に猛烈な不安を感じたが、ミッシェルがドカーン以外は意外にも許容範囲に収まっていた。

 

「京は色んな事が出来るけど、貴方の将来の夢は何かしら?」

「私ですか?特に決まっていませんが、そうですね、初任給が高そうな仕事を」

「………しょ、にん?どうして?」

「モチベーション管理です。またの名をスタートダッシュ」

「ふーん………やっぱり色々考えてるのね」

 

感心しているのか、それとも自分がしらない深みを見据える彼を物珍しいと思ったのか。ペンを取ると、彼女は次の雑談に入ろうか、というほどごく自然に、京の左手に自身の両手を重ねた。

 

「それとも、考えなきゃいけなくなっちゃったの?」

 

まずは彼女がしつこいくらいに京の近くにいようとした理由を、まずは考えなければならないようだ。




突然のフリ。

今回はほぼ伏線回と化してしまったので、なんか内容が………すまねぇ。
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