カコの両親を救済。
カコの両親は、なんの事故で死んでしまうのだろうか。
俺の妄想脳は、「今日が命日じゃね」と訴えているものの、詳細まで教えてくれない。
俺はカコのお父さんが運転する車の、後部座席でソレを考える。
激しく流れていく外の景色は、前世の日本と変わらない。 道路があってガードレールが並んで、家が立っている。
まさか突然ココに銃弾が飛んで来る事はあるまい。
見た目は子ども、中身は妄想好きの大人。 駄目な例として反面教師にされそうだが、その妄想は今世で良く当たるんだ。 馬鹿にするなよ。
「それでね! フンボルトペンギンは、嘴のピンク色が───」
事故というと、身近なのは交通事故だ。 身近といっても程度は大中小。 死亡事故なら規模はデカい。
この車がスクラップになる事案かも知れない。 だとしたら、俺やカコも危険だ。
パークに行かずに天国に行く。 笑えない。
「ケープペンギンと、とても よく似てるけど───」
未来への影響は、当然ある。
俺が死んだくらいじゃ問題ないが、カコは重要人物だ。
女王事件が発生せずともセルリアンは跋扈するだろうし、火山もある。
職員が退去せざるをえなかった「例の異変」がなんなのか知らんが、それも起きるだろう。
だがしかし。 カコがいないと絶滅種がフレンズにならない可能性がある。 あと、ラッキービーストが開発されないかも。
ぜひ見たい身としては、ここで死なすワケには……。
って。 違うそうじゃない。
カコの生存はモチのロンだが、今は両親を救わねばならない。 脱線してどうするよ!
「あんじゅ?」
「へ? ああ、ごめん。 ペンギンさんの お話だね」
いかん。 隣に座るカコが首を傾げてきた。
楽しそうに語っていたのに、曇らせるワケにはいかん。
「……ペンギンさん、すき?」
ちょ。 不安そうな目で見ないで。 俺の不安が増幅されちゃうから。
ここは思考をカコにする。 けもの さんの話をしている場合じゃないが、心に余裕を持たせないと。
「う、うん。 すき……だよ」
ボソリと。 けれどカコに聞こえる大きさで答える。
嘘じゃないぞ。 ペンギンは、よちよち歩く姿がキュート。 水面のキラキラをバックに自由に泳ぐ光景は美しい。
よく見るペンギンとしては、フンボルトペンギン。 いろんな水族館や動物園の屋外展示で見られる種。
その事等から珍しくなさそうであるが、実は絶滅が危惧されている。 だけど日本では繁殖が進んでいるらしい。 気候に合うのかね?
嗚呼。 脱線した。 いや、良いのか。 カコを相手にしているのだ。
いやいやしかし。 両親を救うという重大な任務が俺にはあるのであって。
そんな感じでうんうん唸っていると、前に座る両親から声がかかった。 揶揄うような、陽気な声で。
「大好きだなんて……大胆! カコも幸せ者ね?」
お母さま。 聞こえてたのね。 脚色しているけど。
「杏樹くんがいれば、安泰だな!」
安泰? これからヤバいんですけど。
「あ、あんじゅは、ペンギンさんが すきって」
カコ、また頰を染めながら、ご両親に反論。
まだ幼き身でありながら、両親が揶揄っているのが理解出来ている様子。
やっぱ頭良いんだなぁ。 或いは、発達が早いのか。 エロい意味ではないぞ。
「カコも好きなんじゃない? ねぇ?」
そこで助手席に座るお母さまが、振り返って俺を見る。 やたらイイ笑顔だ。
守りたい。 その笑顔。
だけど、
「はい。 でも、カコが いちばんです」
最低でもカコには生きて欲しい。 優先。
将来的な意味で。 重要人物が舞台……裏に上がる前に死ぬのは勘弁な。
カコがいないと、絶滅種のフレンズたち……ニホンオオカミとかトキとかリョコウバトが見れなくなる。
パーク就職時のコネ的なものも、あるわけで。
…………。
嗚呼。 まただよ。
人の生き死にを利益や仕事の天秤にかけている。 酷い話だ。
悔い改めようね、俺。
「あんじゅ なんて、しらない!」
そこにダイレクトアタックな言霊。 ツライさん。
カコは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。 ごめんよ。 反省してます。
「フラれちゃったね、ボーイフレンドくん」
お父さま、そう言う割に嬉しそうなんですがそれは。 大切な娘にくっ付く悪い虫なんですかね俺は。
「血は争えないわね、ア・ナ・タ?」
そんな旦那に、奥様は嬉しそうに笑いながら腕を指で突っつく。 カコ夫婦はアイコンタクトを交わして笑い合った。
なにイチャついてんですかね。 過去に何があったのか知らんけど、運転中に余所見しないでくれませんかね。
これで事故って死んだら葬式出てやんねーから。 俺、わるくねーから。
「あら」
その時。 ブルブルと携帯のバイブ音。 奥様の携帯からだった。
ポケットから、スマートフォンを取り出すと応答。 耳に端末を当てて会話を始める。
誰からだろう。 仕事関係だろうか。
「おはようございます。 ええ……はい。 一緒にいますよ。 え? はい、わかりました」
仕事にしては、少し違和感あるなぁ。 それよりも両親をどう救うべきか考えねば。
いや、原因が分からないから対策が出来ない。 ホント、どうするのよ俺。
「近くのコンビニかどこかで止めてくれないかしら」
「わかった。 何かあったんだね」
「ええ」
とか、思っていた俺に対して、お母さまは言葉を投げかける。 揶揄いじゃない。 結構マジな視線と声色で。
「杏樹くん。 お母さんとお父さんが迎えに来るわ。 理由は……心当たり、あるんじゃないかな?」
ありますね。
たぶん、自室の机のアレが原因だ。 それしか考えられない。 オマケで発煙筒とかヘソクリとか。
嗚呼。
問題とは何故、次から次へと出てくるのか。 いや、俺の所為ですね分かります。
「杏樹ッ!」「あんじゅーッ!」
道中のコンビニで待つことしばし。
カコの両親及びカコちゃんに心配されていると、俺の両親が車でやって来た。
して、声を上げられながら走り寄られてギュッと抱き締められる。 ぶたれる覚悟はしていたが、これはこれで苦しいです……。
「ぐえええ……」
「ああ! 無事で良かった!」
「もう! 机の上に犯行声明みたいのが置いてあったから!」
それ犯行声明じゃないです。 遺書です。 間違えられているけど、どちらにせよ心配を掛けてしまったようだ。
2人にも、カコ家にも悪い事をしてしまった。 申し訳なさすぎる。
俺の、浅はかな行為。 猛省不可避。
だが許せ。 これも両親を救うため、俺の為に動いたからだ。
「もう! あんな悪戯ダメよ!」
悪戯扱いだった。 俺のガチ遺書が……。
「この先で、大きな交通事故があったというしなぁ。 車のラジオから流れてきたときは……もう、心配で心配で!!」
「へ?」
事故? この先?
俺の疑問を代弁するようにして、カコのお父さまが声を出してくれた。
「そうだったんですか。 知りませんでした」
「車のエンジン、切ってまして。 気がつきませんでした」
「いやはや……我が子もそうですが、皆さまも無事でなりよりです」
これは……。
どうやら、俺の遺書が間接的に両親を救う事に繋がった模様。 マジか! 万々歳じゃないか!
「ああ……よかったぁ」
「ホントね。 杏樹くんの悪戯で救われたみたい。 ありがとう」
「だが杏樹くん。 ご両親に心配をかけたのは反省しなさい」
カコの両親に礼と説教を受けた。 うん。 取り敢えず遺書は悪戯ちゃう。 ガチです。 そこだけは否定しておく。 心の中で。
「あんじゅ」
おろおろした声が。 振り向けば、いつものカコちゃん。
謝らないとな。 両親を救えたとはいえ、楽しみにしていた動物園の日に、こんな目に遭わせたんだから。
死ぬより良いだろと思うのは、あくまで俺の中だけの話だ。 誰がこんな事を予想してぎゃあぎゃあ騒ぐというのか。
それに。 俺は事故内容を全く知らなかったのだ。 偶然良い方向に転がっただけである。
だから。 ちゃんと謝ろう。
「ごめんね。 せっかく動物園、楽しみにしてたのに……嫌いになるよね」
重要人物に、いや。 カコに嫌われる。 それは仕方ないかも知れない。
でも、さ。 心が痛むな。 それは。
けれども。
カコの両親と俺の両親が話し合う傍、カコは「ううん」と首を横にふって否定してこう言うのだ。
「そんなコトない! あんじゅは、わたしのヒーローだよ!」
一瞬、思考が停止しかけた。 なんとか言葉を噛み砕いて……そしてなんとか、
「……ありが、とう」
礼を述べる。
刹那。
涙が頬を伝った。
心配していた事から解放されて、無駄に用意した荷物や行動が報われた。
嗚呼。
俺は、やった。 やったよ。 俺がこの世界に存在している意味はちゃんとあったんだ!
「「杏樹」」
お父さんとお母さんの温かな声が聞こえる。
俺、幸せ者です。
思わず言いそうになったとき、
「発煙筒、返してな?」
「あんじゅちゃん? お母さんね、杏樹の部屋に大切なモノを落としたみたい。
うん。 バレてたね。
そして、それを今言うか。 感動が台無しなんだけど。 涙を返せ。
そんな光景を見て、存命したカコの両親がクスクスと笑った。 大切な一人娘、カコの頭を撫でながら。
職員になる前の、大仕事。
それを成し遂げた報酬は、その
あーかいぶ:(当作品設定等)
フンボルトペンギン
鳥綱ペンギン目ペンギン科ケープペンギン属
体長約70cmと中型。
杏樹のメモ:
嘴の根元付近がピンク色なのが大きく分かりやすく、他種と見分けやすい特徴か。 多くの動物園や水族館で見られる。 ぷかぷか水に浮いている光景が、また可愛い。
鏡等を使って光を反射させたものを、ペンギンたちに向けると追いかけたりするが、可哀想なコトはやめたげて。
前世では、某動物公園の子が有名になった記憶がある。
彼はパークに行って、幸せになったのだろう。 フルルにも会えたのかも知れないな。 きっと。