パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。

パークまで、もう少し。 カコの両親の話は、当作中の話。
矛盾があるかも。


進路

飼育員、調査員、研究員や管理スタッフの面々。

 

パークは広大であり、多くのヒトや多種多様の職員がいる……はず。

客の玄関先《パーク・セントラル》や、その遊園地を含む動物園である以上、接客するヒトもいるし、清掃員や整備員、警備員もいるだろうな。

 

けもの たちや、職員管理、島の情報整理等を行っているであろう《管理センター》の仕事も含めると、人手は足りないくらいじゃないだろうか?

 

パークガイドロボットの開発もあるだろうが、アニメのラッキービーストのポンコツ具合を見ていると、やっぱメインはヒトなんじゃないかと思える。

 

つまり……あー、なんだ。

 

 

「学芸員は諦めて、ソッチになろう。 うん、そうしよう!」

 

 

都合の良い、妄想をして安心しているマダオがココにいた。

 

菜々ちゃんみたいに、立派な飼育員になりたいとか、そんなんじゃないんで。

なんかの職員になって、フレンズを見たり、囲まれたいだけなんで。

 

へ? 現実は甘くないって?

 

そうだね。 じゃあ、目の前の問題を片付けよう。

 

 

「…………取り敢えず、補習を終わらせよう」

 

 

学校の空き教室。 夕日が差し込み、他に誰もいない。 見ようによっちゃ、美しい光景。

ココが現実。 俺は、その真ん中にある勉強机にポツンと座る。

 

我、杏樹。 まだギリ高校生。

馴染みが大学に進学しようという中、卒業が危うい悲しき学生。

 

カコの両親の危機の次は、俺の危機。

 

前世の記憶? 知識?

 

役に立たん。 だって、前世でもロクに勉強してないもん。 ヒトはね。 繰り返す生き物なんだね。

 

 

「ほら杏樹っ! 卒業出来なきゃ、パークに行けんぞ!」

 

 

教室に入ってきた、補習担当の熟年微熱男性教師から、言葉のムチが飛んできた。

俺がパークに固執しているのを知っているので、やる気を出せる為に言っているのだ。

 

して、目の前でヒラヒラと見せられる1枚の紙切れ。

 

このタイミング。 ただの紙切れではない。

悪い内容なのかなぁ、成績表かなぁと思ってチラ見すれば、その瞬間に目を見開く事に。

 

 

「そ、それは!」

 

「そうだ! ジャパリパークの求人募集!」

 

 

なんと! それはパークの求人であった!

 

まさか、一般募集が既にかかっていたとは。

内容は調査、研究員補佐か?

まだ遊具や施設群の設備は整っていない筈だからな。 或いは工事現場か。

 

だが刹那的な、委託先の会社だとか日雇いは勘弁な。 パークに永住して働く正規員が良い!

 

良く見ようと、教師の手から取ろうとするも、直ぐにヒョイと高く上げられて取らせてくれない。

 

代わりに渡されるは、補習用の問題用紙。 欲しくない。 求人寄越せ。

 

 

「さあ杏樹! パークに行きたきゃ、頑張んな!」

 

「この鬼教師め! 恨むぞ!」

 

「お前が悪い。 良いから、補習を受けな!」

 

 

結局は、そうするしかなかった。

最低限の努力、というヤツだ。

 

俺は見たくもない問題を見ては頭を抱え、時々脳裏にカコの笑顔が浮かんでは、気力を回復させてペンを走らすを繰り返したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。 これで免除にしてやる。 普通なら留年だがな」

 

「……うえぇぇ」

 

 

やっと終わった。

 

空に星が瞬く頃、教員の慈悲により解放された。

窓と廊下は、黒い紙を貼り付けたように真っ黒。 教室を照らす光源は、天井の蛍光灯による真っ白な明かりのみ。

 

昼間はよく聞こえる、校舎内の喧騒は嘘のよう。 校舎は静寂に支配されていた。

 

嗚呼。 こんな時間まで残されたのね。

 

机に突っ伏し、気力を無くす。 セルリアンに輝きを奪われたら、こうなるのかね?

 

 

「頑張ったお前に、ほれ。 パークの求人をやる」

 

「……あざっす」

 

 

ペラリ、と。

教師に渡された報酬の紙を受け取り、疲れた頭で内容に目を通す。

 

 

「どれどれ」

 

 

えっと。 調査隊の補助?

随伴して荷物運びとか段取りか。

 

あとは……コレは工事現場の猫車押しか。 雑工だな。

 

俺、今世では現場系の資格を持ってないんだよな。 専門校じゃないし、職人や代理人になるつもりはなかったから。

とはいえ。 これらは、資格は必要ないだろう。 気楽そうに感じるが、ある程度落ち着いたら暇を貰う(クビになる)可能性が。

そも、チカラ仕事だぞ、コレ。 この時期の一般募集となったら、やっぱこうなるのか。

 

島に上陸出来る事に少し期待してしまったが、蓋を開ければ短い命。

これではカコとすれ違いになるか、そもそも全く会えない。

 

というか、よくこんなん学校の求人に出てたね。 よほど人手不足なのか。

 

 

「あー、こりゃフリーターになって、様子を見た方が良いかなぁ」

 

「なにを言ってるんだ。 行ける時に行った方が良いぞ」

 

「俺、ずっといられる職員になりたいんですよ。 清掃員でも雑務でも良いから」

 

「お前なぁ。 なんで、パークにこだわるんだ……あっ、そういうことか」

 

 

突然思い出したかのようにして、ニヤニヤし始める教師。

 

なに。 やめて気持ち悪いからソレ。 フレンズにして貰うなら、ウェルカムようこそなんだけど。

 

 

「馴染みのカコ絡みだろ!」

 

 

まあ、うん。 それも間違いではない。 でもね、さっき言った通り、俺はパーク職員になりたいの。 フレンズに囲まれて過ごしたいの。

 

どうでも良いワケじゃない。 馴染みとして可愛いと思ってるし、けもフレ公式のヒトたちと絡めるのは夢の時間だ。

そういう意味では、舞台となるパークにいって、もっと同じ時間を過ごしたい。

 

という事を、まさか言える筈もなく。

頭悪い上にオカシイと思われるのも嫌なので、俺は適当に流すことにした。

 

 

「そうです。 バレましたか、はははっ」

 

 

適当に、無感情に乾いた笑いで誤魔化した。 コレでこれ以上踏み込んでこないと思ったが、

 

 

「うむ。 優秀で美人の馴染みだ。 比べられる苦しみがあっただろうが、尚も側にいたいとは…………お前も男だな!」

 

 

肩をバンバン叩かれた。 すいません意味分かんないです。 あと、痛いです。 勘弁して下さい。

 

 

「いやぁ、若い頃を思い出す! 実はな、カコの両親は俺の教え子でもあってなぁ! あの2人は両想いだったが、母親の方が優秀だった! 父親の方に合わせようとランクを下げようとしたが、それはイカンということで、父親は勉学に励み、同じ道を歩んだ! お前の場合は少し異なるが、いやはや! 懐かしい日々を思い出したぞ! ありがとう!」

 

 

ペラペラと聞いてもない情報を、我が子のように嬉しそうに語る教員。

それ、話して良いの? プライバシーとかで訴えられない?

 

 

「そうですか。 夫妻の過去は分かりましたよ。 でも俺、カコの事は」

 

 

そこまで言うと、ポンと両肩に手を乗せられた。 全部分かってるぞと言いたげだ。

 

 

「みなまでいうな。 大切にしてあげなさい」

 

「まあ……その辺は」

 

「それだけだ。 今日はもう遅い。 真っ直ぐ家に帰るんだぞ。 あ、その求人は持って帰って良いから」

 

 

もういちど、肩を叩かれて教室から出て行く先生。 かつかつと廊下を歩く音が遠くなって行く。

 

この時間まで付き合ってくれる辺り、超良いヒトなんだろうな。

言われた事は、パッとしなかったけど。

 

 

「大切に、か」

 

 

カコは、そりゃあ大切だ。 パークへのコネだったり将来の為だったり。

 

個人としても好きだ。 公式のヒトである。 ミライや菜々もだが、馴染みとして側にいたからか。 両親の件もあった。 情が出てくるのは否定しない。

 

でも、女の子として。 恋愛感情があるかといえば……どうだろう。

そりゃ可愛い。 胸もデカい。 頭も良い。

先生の話の流れ的には、俺とカコが将来くっついて欲しいのだろう。

 

でもカコは、俺の事をどう思っているのか。 嫌われては、ないと思うが。

 

 

「分からん。 全然、分からん」

 

 

悩んでも仕方ない。 今はパークに行く事を考えよう。

 

卒業まで時間がない。

 

 

「取り敢えず、この求人で行くか。 弾かれたら、もう一度別の求人を探して、パークに行けば良い」

 

 

不安を拭うように。 言い訳するように。

 

独り言を言いながら、俺も教室を出る。 廊下は明かりこそついているが、窓は真っ暗。 静かで不気味。

 

幽霊でも、出そうだ。 怖い。

 

 

「杏樹」

 

 

突如、女の声が耳元で聞こえた。

 

 

「うおおお!?」

 

 

悲鳴をあげながら声の方を向けば、そこにいたのはカコご本人。

制服姿で、学生鞄を両手で前に持っている。 頭には、茶色を基色にした、ナニかのけもの のしっぽを思わす髪飾り。

 

これで白衣を着れば、ほぼイラスト通りの姿が完成するな。

 

しかし、カコ……こんな時間まで学校にいたのか。 俺の為に?

 

 

「脅かすな」

 

「ごめん」

 

 

でも、言いたい事は言っておく。

 

心臓に悪い。 マジで幽霊と思ったじゃん。

 

アプリ版で出てきた井戸の話を思い出したよ。 アレが幽霊なのかフレンズなのか知らないが、ホラー系はムリィ……。

 

あかん。 やめよう。 パークに行きたくなくなる。 俺はホラーは無理なのだ。

焦点をカコに戻そう。 暗い話はNGだ。

 

 

「あー、えと。 ずっと待ってたのか?」

 

「い、今。 きたとこ」

 

「そっか」

 

 

ずっといたなら、先生も立ち止まって話したりするだろうしな。

或いは気付かれずスルーされた可能性もあるが。 何にせよ、時間の浪費であろう。

 

ああ、そういう意味では、カコもこんな時間まで……。

 

 

「俺の為かい?」

 

 

コクリ、と。 静かに頷いて見せる。

 

ヤベェ。 嬉しくて、感涙するわ。

いや、実際出た。 滂沱(ぼうだ)には至らない。 小雨だ。 問題ない。

 

 

「あんじゅ?」

 

「すまん。 嬉しくて、つい」

 

「小さい頃から、だもんね」

 

 

微笑みを向けられた。 昔はオロオロしていたが、俺とはもう、流石に慣れたのだろう。 こういうヤツだと。

 

涙というのは、感情が高ぶっても出てくる。 自身をそれで制御、落ち着かせようとするんだったか。 ストレス発散にもなるとも聞いたかな。

 

だが人前で涙を流すのは、みっともないとされる。 特に男は。

 

弱いところを見せる。 結果、下に見られたり馬鹿にされたり、場合によっては人間関係への悪影響や仕事に支障が出る。

 

ヒトの世界は、優しくないんだ。

 

駄目だなぁ俺。 前世から変わってない。 こんなんじゃ、今世でも繰り返すぞ。

 

 

「みっともないよな。 男なのに」

 

「そんな事ない。 あんじゅは、優しいから泣けるんだよ」

 

 

優しくはないんだよ、俺は。

 

将来への利益不利益で採算して、自己満足で両親を助けようとしたり、公式のヒトと会おうとしたり、そういう意味で君と付き合ってる節もある。

 

 

「それに」

 

 

その心境を察してか。 言葉を続けられた。

 

 

「私の為に、泣いてくれた」

 

 

心を見通された気分になった。

 

嗚呼。

()()()()。 改めて思い知らされた。

 

 

「そう、だな。 その通りだよ」

 

「やっぱり、優しいよ。 私が保証する」

 

 

こりゃ、いよいよパークに行かないとな。 そこは保証出来ないが。

 

いや。 行かなきゃ。 転生者だから行かなきゃ嘘だとか、思っていた時もあるけれど。

 

カコと共に歩みたい。 そう願う。

 

もう、未来を変えるのが怖いとか、過去を悔やむのは、今はナシだ。

 

俺は涙を拭って、礼を述べた。

 

 

ありがとう

 

 

どこか、懐かしい響き。 幼い頃、両親を救おうとした日だったかな。 この感覚は。

 

 

「どういたしまして。 ヒーローさん」

 

 

覚えてたよ。

 

あらやだ。 急に顔が熱くなってきたぞ。 こりゃ知恵熱か。 あの微熱教師に当てられたか!

 

 

「そ、そうだ! パークへの求人を見つけたんだよ! 調査の補佐? とかいうのに応募しようと思うんだ!」

 

「じゃあ私より先に、パークに行けるの?」

 

「えーと……いや。 研修期間があるとか?」

 

「そっか。 ひょっとしたら、一緒のタイミングでパークに行けるかもね」

 

「おうよ!」

 

 

恥ずかしさと嬉しさで、妙なテンションになる俺。

滑稽なのか微笑ましいのか。 見てクスクス笑う馴染み。

 

パークでも、その笑顔を見なければ。

 

職員ライフ。 まだ正規じゃないけど……うむ。 上陸が楽しみだ!

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
パーク・セントラル
パークの玄関口となるところ。 ジャパリパークにやってきたお客様用にたくさんの施設がある。 ショッピングエリアやホテル、エンターテイメントなど。
(フィットネスクラブ、カラオケボックス等)
作中では、けもの病院もある。 中央には大きな建物。 それはジャパリパークをテーマにした遊園地、けものキャッスル。

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