顔を知らない調査隊員相手に、必死の訴え。
人類が邂逅した、アニマルガールことフレンズと。
ヒト、 フレンズに共通した のけもの、セルリアン。
どちらも謎に満ちている。 故に理解したいと思うのは、ヒトの性。
よく分からんけど、カコの研究レポートや、アニメでのギンギツネの発言内容から、双方共に理解と対処を試みていたと思われる。
大切な事だ。 ヒトは様々な状況に直面し、発明や方法を模索し検討、受け入れて来た。
それらは、文明の発達とヒトの幸せに繋がっている。
或いは不幸か。
正解不正解、成功失敗を含めて、全てではないにせよ。 ヒトはこれからも、きっとそうだ。 そうしていく。
だがしかし。 アプローチを間違えれば、知る事も出来ない。 危険もある。
科学的見地から努力して「これでは、上手くいかないのが分かった」となるのは勿論だとして、それにしたって「やり方」は考えるべきだ。
いや。 仕方ないか。 試行錯誤の上である。
最初から「ふわっとした正解」が知らないならば、仕方ない。
そう。 知らないならば。
だけど、俺は転生者。
曖昧ながらも、フレンズやセルリアンの情報がある。 今現在のヒトよりかは。
犠牲の上で「知った」何かがパークにあるとすれば。
そのひとつは、今かも知れない。
『こちら───妙な生物群と遭遇。 大きな1つ目、明るい色合いをしている……言っちゃ悪いが、気味が悪い───近寄って来る。 あー、コミュニケーションは取るべきか? 指示を求める』
ミライの無線から、男性の……他の調査隊員の、呑気な声が聞こえたとき。
俺は思わず、引ったくるように無線を手に取って叫んでいた。
「逃げろ!? ソレはフレンズじゃない!」
何が怖いって。
隊員らの輝きを奪われる事よりも。
避けられたかも知れない犠牲を見逃す事だ。
『隊長じゃないな。 誰だ?』
「良いから逃げろ! 危険なんだよ、ソイツらは!」
質問している場合じゃないってのに、疑問を投げて来る相手。 さっさと逃げて欲しい!
内容からしてセルリアンだ。 まだ生で見た事はないけれど、危険なのは承知している。
ミライは、俺の突然の行動を飲み込めず、硬直。 その間にも、相手からは融通の利かない言葉を投げられた。
『ライブラリにも、そのような報告は無い。 良いから隊長に代わってくれ』
ざけんな。 ナニが報告が無い、だ。
冷静な言葉と真逆に、俺の焦りと怒りを熱していく。
何の為の調査隊編成だ。 この島の事が、ちゃんと分からないからだろ。
言うなれば、ソイツらセルリアンの事も。
「自分でも分からんだろ! 向かって来てるんだろ!? 良いから逃げろ!」
ストレートに「それはセルリアンだよ!」とは言えない。 言っても「は?」となるオチが見える。
アニメでいうと、かばんちゃんが初めて小さなセルリアンを見たときのような……あんな感じか。
問題なのは、敵だと教えてくれる子がいない事だ。 側に、な。
『隊長に指示を仰ぐ。 指揮系統を乱したくない』
「言ってる場合かぁ!」
確かに。 組織的な行動を取る上で、指揮系統がハッキリしているのは重要だけど、臨機応変に個々が対応出来る能力だって必要だと思う。
もどかしい!
そう思った
「───っ! 杏樹さん、無線を」
お望みの隊長さんが、我に返った。 反射的に無線を返す。
「頼む!」
「はい」
俺は無力だ。 改めて痛感させられた。
「代わりました、ミライです。 至急、その場から離れて下さい」
『分かった。
アッサリ受け入れた。
でもさ、良いから早く離れろよ。
そう思う俺だったが、ミライは怒らず素直に指示を出した。 エライさん。
「パーク・セントラルへ。 管理センターに報告を頼みます」
『了解───今の聞いたな! 急いで離れるぞ! パーク・セントラルに戻る!』
最後の方。 通話ボタン押しっぱなしだったのか、仲間とのやり取りと微かにエンジン音が聞こえた。
冷静さを装っていたが、やはり逃げたかったのだろうな。 最後の方、慌てたような口調だった。
非常事態でも、真面目さを貫く強さ。 俺には無いな。
取り敢えず、危機は去った様子。
嗚呼。 スゲェ疲れた……。
「ありがとう、ミライ」
「いえ。 凄い剣幕でしたから、只事じゃないと感じまして」
緊張が解れていく中、ミライは微笑みを返してくれた。
敵わない。 突発的な出来事に、一瞬硬直してしまったにせよ、冷静なやり取りであった。
だがしかし。 実際、只事ではない。
相手も分かっていたと思うけど。 気味が悪いって言ってたし。
それでも、逃げないで冷静に指示を仰ぐ。 それはそれで凄いと思う。
調査隊員だからだろうか。 もう少し柔軟に動いて欲しいところだが、それもまた、彼の強さだったと称賛したい。
おっといかん。 他の班にも連絡して貰おうか。 今のだけとは思えない。
「他の隊員とも連絡をとって欲しい。 1つ目の、明るい色をした生物には近寄るなと。 見かけたら逃げるようにって」
「分かりました」
信用して、質疑応答をせずに淡々とこなしていくミライ。 無線で似たような言葉が何度も繰り返されていく。
でも、どれも了解の言葉で速やかに終わっていくではないか。 俺とは大違い。
嗚呼。 俺って人望ないというか。 駄目だなぁ。
「杏樹さん。 ひと通り終わりました。 わたしたちも、パーク・セントラルに戻りましょう」
「あ、ああ。 そうだな。 ありがとう」
一緒に下山ルートに入る。 最初の時とは違い、ミライと共に周囲を警戒しながら、降りていく。
何が転生者か。 役に立っていないじゃないか。
「杏樹さん……報告にあった生物、何かご存知何ですか?」
そして聞かれる。 落ち込んでいると、面倒事が増えた気分だ。
それも、自分が悪いから、余計にイライラするというか。 それでも穏便に収めようと、適当な嘘を言っておく。
「いや。 島に来たばかりだから、分からないよ。 でも、不気味なヤツが向かってきていたら……そうした方が良いと思ってね。 ごめん。
「いえ。 杏樹さんは、正しい事をしたんですよ」
特にお咎めはされなかった。 聞きたい事はたくさん、あるはずなのに。
それどころか、褒めるまである。
「自信を持って下さい。 私だったら、同じ事をします」
「でも」
言い淀む。 俺の
俺だけならともかく、ミライにも迷惑が。 下手するとパークから のけもの にされてしまうんじゃないか。 心配だ。
だが、そんな心配を吹き飛ばすようにミライは言うのだ。
「わたしが保証します。 誰かから言われたって、杏樹さんは悪くないと言い張ります。 わたしたち を守ってくれたヒーローだって」
無線でギャアギャア騒いでいただけなのに。
ここまで言ってくれるなんて、な。
「ヒーロー、か」
「はい!」
「カコと同じ事を……言うんだな」
色褪せ始めた懐古の記憶。 セピア色のソレも、再び色彩を取り戻したかのようだ。
「カコさんが?」
「うん。 幼い頃と高校の時。 自分じゃヒーローだなんて思わなかったけど、さ」
「良いんですよ。 カコさんと私にとっては、ヒーローです」
真っ直ぐ言われると、むず痒い。
けれど報われた。
俺はまた、誰かの役に立ったんだなって。
「…………ありがとう」
頰を雫がなぞっていく。 それは温かく、内側の喜びから出た輝きだ。
俺からしたら、ミライの笑顔の方が、もっと輝いているけどな。
あーかいぶ:(当作品設定等)
ジャパリパークの火山
サンドスターを出している、不思議な火山。 ホットスポットだろう。 いろんな意味で。
この時点では、アニメの火山みたいな、結晶はない。