パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。 引用等も多分に含みます。
違和感や誤字、間違いがあったらすいませんです……。

オカピとレンジャー。 ちょっぴりのしょっぱさ と 笑い声。


森の貴婦人、守人に何想ふ。

 

森で出会ったオカピのフレンズに感涙してしまった。 前世から変わらず泣き虫な俺だけど、こん時くらい泣かせて。

 

だって、アニマルガールよ? フレンズよ?

 

サンドスターによる奇跡で生まれた特殊動物にして、ヒトの女の子の姿をしている。

同時に言葉を喋り、二足歩行であり、意思の疎通が可能である。

 

優しくどこか、ほのぼのしていて。

 

童の頃に置いてきた、ワクワクやドキドキ、純粋な笑顔を見せてくれる可愛い子たち。

愛を渇望する現代人には、心のオアシスである。

 

オカピもその例に漏れないが、三大珍獣に出会えたとは……幸先が良い。

ああ、いや。 三大珍獣というのは他にジャイアントパンダとコビトカバであるが、明確な基準で決められたワケではなかったか。

 

なんにせよ、珍しい事に違いは無いかな。

 

 

「泣くほど嬉しかったのかー! 私も嬉しいよ! さあ! 超レアキャラガール、オカピとの出会いに感謝して、この美脚に見惚れると良いよ!」

 

 

事情を知ったオカピ。 ニコッと笑顔を見せたかと思えば、次には「ふふふーん♪」と不思議なダンスを披露した!

 

 

「おお…………っ!」

 

 

全身を舐めさせてくれるように、ねっとりと、その場でターン。 キリンみたいな尻尾は弧を描き、美しい縞模様(しまもよう)(あし)は前に出して、これ見よがしに強調。

 

ステージは、溢れ日で妖艶さを増させている。

 

大きめの けもの耳 もまた、チャーミングポイント。

 

俺はもっと、良く観察するべく、近寄ってしゃがみ込んだ。 漏れなく、視界が縞模様の美脚で埋め尽くされる。

 

フレンズは、元のけもの の特徴を服等で表しながらも、実際にありそうなファッションであり……なんというかコスプレではなく、無理を感じさせないのは凄い。

 

そして、えっろ……。

 

じゃなくて、すっごーい!

 

 

「ハッハッハッ! 見惚れるのは仕方ないとしても、仕事は しなければな!」

 

 

隊長。 現実的な言葉を言う割には、貴方もしゃがみ込んでガン見してるよね。

 

いやはや。 それだけ美しく見えるという事である。 森の貴婦人(きふじん)と呼ばれるのも納得。

 

側から見ると、マッチョとパンピーが森の中で女の子を観察している図。 通報されそう。

 

でも大丈夫。

ソイツら、(森の)おまわりさんです。

 

 

「しごと?」

 

 

ここでオカピが反応。 踊りを止めてしまった。

 

ああ、ダメダメ。 地獄言葉過ぎます。 フレンズは知らなくて良いの。 だから言うのもやめて。

 

 

「ああ、レンジャーだ! キミと、他の子。 森全体を守る仕事だ! 今日はパトロールメインだ!」

 

 

構わずナチュラルに会話してるとか。 羨ましいんですけど。

 

前にも会った事があるのかね。 いや、それは良いんだけどさ。 俺、蚊帳の外じゃね?

 

 

「だいじょうぶ? 最近、ヒトは たいへん って聞いてるよ」

 

「問題ない! 今日は優秀な人材が派遣されてきたからな!」

 

 

心配してくれるオカピ。 優しい子。

 

対して隊長はスクッと立ち上がり、俺の肩をバシバシと叩いてくる。 痛いッス。

でも。 数に入れてくれているのは、素直に嬉しい。 ココは名乗っておこう。

 

 

「俺、杏樹っていうんだ。 よろしくね」

 

「あんじゅ! 良い名前! これからよろしく!」

 

 

手を差し出されたので、反射的に立ち上がり握り返す。 柔らかくて優しい。 それに懐かしい感触だった。

 

 

「えへへー、新しい ともだちが出来た!」

 

 

純粋無垢(じゅんすいむく)な笑顔である。 守りたい、この笑顔。

 

嗚呼。 守る、か。

 

そうだ。 仕事しなきゃな!

 

この子の笑顔の為だと思うと、消極的な考えは消えて、前向きに明るくなる。

 

よし! やるぞ! やってやる!

 

 

「さあ、仕事をしましょう!」

 

「そうだな!」

 

 

オカピの手を放す。 温もりをもう少し感じていたいけど、その温かさを守る為、俺は仕事をしなきゃならん。 許せ。

 

 

「……あっ」

 

 

オカピから切ない声が。 ああ、安心させなきゃね。

 

 

「大丈夫。 パークを、皆を守るのが、俺たち職員の仕事だから!」

 

「良い事を言った! なに、案ずるなオカピ君! セルリアンにせよ悪党にせよ、見つけたら懲らしめてやる!」

 

「……う、うん」

 

 

明るい声を出して、不安がらせないようにしているつもりだけど、オカピは不安そうだ。

 

さっきの笑顔の方が似合ってるよ。 そう言おうとして、

 

 

「その、さ。 れんじゃーさん、だよね?」

 

「ああ!」

 

「俺は補佐だけどね」

 

 

聞かれたので、すぐさま誤解なきよう本職じゃないアピール。 何かあったとき、変に頼られたくないので。

 

ヒトとして、頑張るけどね。 本職の方ほど勇敢(ゆうかん)じゃなければスキルもないと言いたいのだ。 下手すると逃げるまである。

 

 

「必ず。 必ず帰ってきてね。 危なくなったら逃げてね! 私1人でも大丈夫なんだからさ! なんなら手伝おうか!? 私だって、守られてばかりじゃない、し。 この姿になったお陰か、チカラも少しあるんだよ!」

 

 

突然の死亡フラグ。 ギャグではなくシリアス。

 

必死に、何かを恐れるように。

オカピは共に行こうかと提案してくる。

 

 

───目尻(めじり)に涙すら浮かばせて。

 

 

泣かせたつもりはない。

 

 

レンジャー、ね」

 

 

たぶん、この言葉が心に響いたのかも知れない。

 

彼女の記憶には恐らく無いだろう。 けもの のときの記憶が残っていたとしてもだ。

 

俺の妄想が当たっていれば。

 

だからといって、同じ種の けもの 共通の記憶や感性が、フレンズにはあるのかも知れないな。

 

ロッジでのサーバルちゃんみたいに。

 

どう返事をするべきか。 彼女を安心させるために、同行させるべきか?

 

俺まで不安になりつつ、隊長に目線を送った。 ゴツい見た目に反して、優しげに、瞳にオカピを捉えている。

 

彼もまた、オカピに直接関わったヒトではないのだろう。 けれど、彼にも表現し辛い気持ちは伝わっていると思う。

 

哀しみか。 無念か。

憎しみか痛ましさか。

 

何にせよ。 俺は隊長さんに任せ───やがて、口を開いた。

 

 

「同行は許可出来んが…………この森に戻ってくる俺たちの為に。 また綺麗な(あし)を、踊りを見せてくれるかい?」

 

 

うん。 シリアスムードだけど、言っていること変態(へんたい)だよね。

 

ミライがいたら同じ意見を……いや。 あのヒトもダメだ。 ヨダレ垂らして激しく同意するわ。

そして味をしめて、ワンモワセイッワンモワセイッと繰り返して溺れていくに違いない。 俺は知っているんだ。

 

 

「うん。 私に出来る事なら、なんでもするから」

 

 

やめなさい。 女の子が、そんな事を言ってはいけない。

 

 

「そうだな。 では」

 

 

おっ、110番だな!

 

 

「キミも危なくなったら、逃げると約束してくれ。 そして、俺たちに頼ってくれて良い」

 

 

と、思ったらマトモな話だった。 危うく管理センターに通報するところだったよ。

 

 

「……うん。 れんじゃーさん も、あんじゅもね」

 

「ありがとう」

 

 

頷く。 モチのロンである。 俺のフィールドでの行動コマンドに、「逃げる」は1番前に来ている。

闘うなんて とんでもない。 逃げるが勝ち。

 

 

「ではパトロールに戻る! セルリアンの気配は あるからな!」

 

 

当てずっぽうじゃないん?

 

車を置いて、明後日の方向へ。 これ、帰ってこれなくなるんじゃ?

 

 

「あっ、えっと! コレ……くるま だっけ? この側にいるから!」

 

 

察してか否か。 オカピが側にいてくれるという。 良い子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セルリアンは出てこなかったが、案の定というべきか。

 

迷子になった俺と隊長さんは、夜の森に助けの声を響かせ、オカピが迎えに来るという情けない事態を引き起こした。

 

グッタリする俺と裏腹に、隊長さんとオカピは互いの無事に高らかに笑い合う。

 

…………まあ、災難であったが。

 

この日の出来事は、俺たちにとって良い思い出になるのだと感じたよ。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
オカピ
偶蹄目キリン科オカピ属に分類される偶蹄類の哺乳類。 当初はシマウマの仲間だと考えられていた。 後にキリンの仲間だと分かる。
脚の縞模様が美しい事から、森の貴婦人と呼ばれる。 20世紀に入ってから初めてその存在が確認された珍しい動物。
通説、世界三大珍獣のひとつ。

杏樹のメモ:
アニメにも出てきた。 記念すべき初フレンズだ。 会えて嬉しいよ。 やはりか、脚の縞模様は美しくも不思議な感じ。 そこだけならシマウマにも見えるが、キリンの仲間らしい。

キリンと同じ偶蹄目の動物の特徴として、2つに分かれた蹄(ひづめ)があり、一方で奇蹄目に属するシマウマは蹄が1つしかないらしい。
他の特徴として、頭には毛皮に覆われた2本の角があるとか、青白く、耳まで届く長い舌を持っているとか。

フレンズ化した姿をマジマジと研究、観察したワケじゃないけれど、やはりか、縞模様の脚が1番目立って美しい。 いや、変態な思想は持っていないと否定しておく。


オカピ レンジャー 事件
2012年 6月24日。 コンゴ民主共和国エプール市内にあるオカピ保護プロジェクトの施設が密猟者たちによって襲撃された。 レンジャーたちがおこなっている密猟活動の取り締まりに対する報復だった。

 レンジャーやその家族など関係者6名が殺害され、飼育していたオカピ14頭全部が射殺。 施設は放火され、機材や物資などは略奪もしくは破壊。 さらにオカピ保護の支援をしてくれていた地域の住民たちも襲撃を受けた。

 オカピは、国際自然保護連合(IUCN)によって将来絶滅の危険性がある「準絶滅危惧種」に指定されているが、この襲撃は、生息地でのオカピ保護活動の大きな障害となってしまった。

杏樹のメモ:
前世で某動物園内、オカピ展示のところで この記事や写真を見たとき、とても悲しい気持ちになった。
俺の出会ったオカピのフレンズが、泣きそうになっていたり、必死に言葉を言っていたのは……いや。 これは妄想だ。 失礼に値するかも知れない。 これ以上は、やめておこう。

だけれども。 俺たちヒトは……。
パークのフレンズたちには、笑っていて、幸せになって欲しいと願う。 これは 押し付けがましいだろうか。

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