パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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評価して頂いた方々、ありがとうございます。

もうすぐ開園しそう。


開園と未来に向けて。

フレンズ、セルリアン発見という非常事態からしばらくして。

 

各パーク職員の尽力により、なんとか開園手前(かいえんてまえ)まで漕ぎ着けた。

菜々ちゃんはオープンスタッフではなく、遅れて上陸するそうだが……そろそろ第1世代である漫画版が始まるのだろうと感じさせる。

 

見渡せば、ピカピカの新築建造物。

 

セントラルには、遊園地の象徴である大きな観覧車(かんらんしゃ)

 

けもの をかたどった飾りや、パークのマスコット人形も見受けられる。

 

 

嗚呼(ああ)

 

 

俺は青空を見上げた。 込み上げてくる感情は、やがて嗚咽(おえつ)となり外に出る。

 

ようやっと。

 

ようやっと、ここまできた!

 

苦労は無駄ではなかったのだ!

 

長かった。 本当、長く感じた。

 

思えば転生先は普通に本土で、逆行ものかとも考えた時もあった。 過労死した前世を思うと、絶望すらした。

だがカコと出会い、けものフレンズの世界だと知り、職員になろうと決意。

その前に、死んでしまうカコの両親を救うべく奮闘。

 

学生時代は、前世同様に人間関係に苦しみ、挙句に卒業出来るかヤベェ状態。

カコ達は大学へ。 劣等感を感じながらも、それでも俺はギリギリで卒業。 パークへの道をなんとか歩んだ。

 

パークへは、臨時職員な形で上陸。 他の方々は正規で受けたか、計画に誘われて上陸。 羨ましい。 俺が悪いんだけど。

 

そして、サンドスターやらセルリアンやらフレンズやら新築工事やらで、ドッタンバッタン大騒ぎ。

 

俺も巻き込まれ、彼方此方へ行かされたな。

 

まあ、なんだ。

 

とにかく、パークは紆余曲折を経て、様々なプロトコルや新設工事を突貫で詰め込み、俺と共に新たなスタートを切る。

 

臨時職員の俺は、決まった仕事や場所に留まらず、お呼ばれした場所に右往左往。 運営開始しても、そうなる予定。

 

大変だけど、正規員の多忙さと比べると楽な方かも知れない。 資格がなくて雑工な俺に、気難しい事はさせられないだろうから。

 

他のヒトには悪いけど、楽が出来るなら越したことはない。 俺はフレンズに癒されに来ているのだ。 過労は勘弁な。

 

俺の曖昧な知識だと、フレンズが発見される前は通常運営されていた設定だったような気がしたが……気がしただけだったのか。

 

運営開始前に非常事態になった。 いや、良いんだけど。 早めに触れ合える分には。

 

そうそう。 触れ合うというと。

 

フレンズの安全性は、謎は多くも確認されたとかで、来園者との接触は順次許可されていく予定。

この短期間で矛盾だらけの中、良く決定を下せたものである。 俺には都合が良いんだけど。

 

というか、見た目の問題もあったかも知れない。 檻の中にいる けもの がヒトの姿になっていたら、「なんか……ねぇ?」というのもあっただろうし。 なんのプレイだと。

 

そんなフレンズたちは、今。

 

 

「リカオンさーん! この箱をアッチに運んで欲しい!」

 

「オーダー了解ですっ」

 

「アフリカゾウは?」

 

「港の手伝いに行っちゃったよー!」

 

「キタキツネは、どこいったー!?」

 

「手伝うのが嫌だからって、森に帰ったー!」

 

 

わいわいがやがや……。

 

 

パーク・セントラルや都市部、港など、各地でフレンズが お手伝い。

 

ヒトに混じって、けも耳をピコピコ、尻尾をフリフリさせた子らが、笑顔を振りまきながら頼まれた仕事をしている。

可愛い。 一部はサボってるようだけど。

 

もうね。 職員とは打ち解けた感じ。 早いな。 フレンズと呼ばれる所以が分かる気がする。

 

して、フレンズの有用性の1つを見出されているのもあるか。 チカラ仕事や素直さ、優しさ等だ。 皆が皆じゃないけど。

 

その点、教育を行えば可能性は広がる。

実際、漫画版はそうだったか。 一軒家に住んでいる子もいたし、受験勉強に励む子も。

クロサイは、キタキツネの為にログハウスの別荘を建てていた。 凄いと思う。

野生の特徴とヒトの文化が混ざった姿。 そこに純粋な優しさ含む喜怒哀楽がある。 俺が渇望した本物の世界が、愛がココにある。

 

もうすぐ、俺の知る第1世代……漫画版の世界に突入だ!

 

オラ、ワクワクすっぞ!

 

明るい喧騒の中。 静かに、ガッツポーズを繰り出すのだった。

 

 

「杏樹さーん! 感涙するのは良いとして、港の搬入を手伝ってよー!」

 

「次は、調査レポートの整理を頼む」

 

「なにおう! 商品棚にグッズを並べて貰うのが先よ!」

 

「いやいや! 警備員としてだな」

 

 

うん。 もうひと踏ん張りだぞ、俺。 こんなトコで倒れるなよ。

 

 

「はーい! 今、行きまーす!」

 

 

でも、前世のハードワークと比べたら。 必要とされて笑顔溢れる職場の方が良いに決まってるけどね。

 

それに、さ。

 

職員に、ヒトにも愛されている感があって良い。

 

うららかな陽気の下。 俺も笑顔で返事を返す。

 

きっと、この島での職員生活は楽しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、不安になる。

 

いつか。

この幸せが、輝きが、消えるんじゃないかって。

 

全ての 輝きは やがて 消える。

 

きっと、その通りだ。 パークに異変が起きて、ヒトが消えて。

今の形とは別の輝きが生まれるとしても。

 

俺の妄想脳は、それを良しとはしない。

 

この幸せをいつまでも、感じていたい。

 

不幸だと感じた前世だったんだ。 願うくらい、許してくれよ神さま。

 

それは勝手な願望だとしてもさ。

 

だからって、どうするのか。

 

祈って変わるなら苦労しない。 サンドスターの奇跡に頼るのは、非現実的だ。

 

なんの権限もない俺に、チカラのない俺にどうこう出来るのか。

 

分からない。

 

だから、この不安を一時でも忘れる為に。

 

俺は今の仕事に集中する事にした。

 

 

───第1世代、漫画版。

 

 

ジャパリパークが、通常運営(つうじょう うんえい)されている世界。

 

それはきっと、目の前まで来ている。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
ヒト
霊長類 霊長目 ヒト科

直立二足歩行を主なロコモーションとして用いる唯一の哺乳類。
自由になった前肢を用いて、道具を使用する。 そして脳の異常な発達に影響を与えたと考えられているそう。
環境に適応するのではなく、環境を改変することで、地球上でもっとも繁栄した種。

杏樹のメモ:
アニメで、ヒトの特徴をコノハ博士たちが説明していたな。 それなりに大型、群れを成す、持久力がある、とかだったか。
性格や感情、思考も様々だ。 そして意見が合わずに孤立したり争ったり。 時に騙し騙される。 挙げ句の果てには…………。

良いヒトもいる。 悪いヒトもいる。 千差万別。 けれど、俺は悪いヒト側だろう。 純粋なモノではないからだ。 欲を満たす為にパークに来た。 他にも、そういうヒトが島にいるのではないだろうか?

捻くれた思考をしてしまった。 どうも、前世の記憶を引きずっているようだ。 だけど、忘れようにも忘れられそうにない。 俺は弱いヒトだ。

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