パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。
みなさま、たくさんの愛を ありがとう!

漫画版主人公、菜々が上陸。 お迎えに行きます。


知り合いの新人飼育員

漫画版の主人公、菜々(なな)

新人飼育員として、頑張る子。

 

サーバルとキタキツネを担当し、主にキタキツネに振り回される。

ふたり だけでなく、他のフレンズとも絡むのだが今は割愛。

 

俺にとっては幼少の頃に出会い、今に至るまで、連絡が途切れる事なく友好的な関係を保ってきたヒトでもある。

 

中々、こういうのってないんじゃない?

 

大体は小中高の知り合いの殆どは進路が違えば話す事もなく、大半は自然分裂。

どこでナニやってんだか分からないんじゃないだろうか。 少なくとも俺はそうだった。 前世でも今世でも。

 

ああ、俺が単にボッチだったのもあんだけど……これ以上は心が抉れるのでやめておく。 これは あくまで個人の話だ。

 

さて。 そんな感じで数少ないヒトの知り合いである菜々。

 

いよいよジャパリパークに上陸すると連絡が入った。

そこで、ミライと共に港へお出迎え。 アニメに出てきた日の出港よりずっと大きい、物資の搬出入にも使われる場所へ移動中。

 

移動は例によってジープ。

舗装路が増えて本土で走る軽自動車等、一般車も見受けられ始めたジャパリパークだが、現場職はこの手が多い様子。 職種によるけれど。

 

まあ、この話は置いておこう。 それより菜々だ。

 

嗚呼。

 

いよいよ漫画版らしくなってきたというべきか。

 

して、俺はキタキツネの担当から外される。 後は任せたよ菜々。 パイセンは別の場所に飛ばされるんだ。

決して、面倒ごとを後輩に押し付けてズラかるわけじゃない。 元々の予定だ。

クレームは受け付けません。 キツネのクーリングオフは効かないんでヨロ。

 

 

「知り合いの方なんですね?」

 

 

隣で運転するミライが言う。

いつもの探検服に、いつもの羽根付き帽子。 受ける風で靡く、艶のあるエメラルドグリーンの髪。

 

相変わらず横顔も美人です。 けもの 語りで大興奮して、ヨダレを振り撒かなきゃ尚良し。

 

 

「言ってないっけ」

 

「聞いてませんよー」

 

 

ああ。 そういえば、菜々と知り合いなのは、誰にも言ってなかったな。

学生の頃、ミライとカコが一緒にいる事はあれど、菜々との組み合わせはなかったし。

 

別に支障はない。 寧ろ、将来への影響等を考えると俺は障害かも知れない。

その意味では、迎えに行かない方が良かった気さえしてくる。

 

その思考を察してか否か。 ミライは言葉を続けた。

 

 

「でも、杏樹さんがいてくれれば、緊張も解れて良いと思います」

 

「そうかな」

 

「そうですよ。 私がそうだったんですから」

 

 

ふふっ、と微笑むミライ。

 

あかん。 ドキッとした。

 

 

「ま、まあ? 初日だし、多少の緊張感は持って貰わないと困るけど!」

 

「いろいろ教えてあげて下さいね」

 

「もちろん! 特にキツネさまは、大変だからな!」

 

 

嬉しいような、恥ずかしいような。

そんな、くすぐったい気持ちがこみ上げる。

 

昂ぶる感情。

 

顔が、熱い。

 

ソレを誤魔化すように、声が高くなって、それが滑稽なのか笑みを深くするミライ。

 

くっ。 更に熱くなった気がする。

こんな時、オープンカーで良かったと思えるよ。 前から受ける風が熱冷ましになる……気がする。

 

だから、前を向き直ると。

 

 

「おっ」

 

 

ちょうど、港が見えてきた。

 

大きく立派な船が、埠頭(ふとう)に横付けされているのがハッキリ見える。

 

錆びや剥げている部分はなく、艶のある船体だ。 側面窓も多い。 その分、たくさんのヒトを乗せられるのだろう。

 

この場合、多くのヒトとはパーク職員や作業員を乗せていると思われる。

この港は、お客さん用じゃないからね。

 

とはいえ。 側面にはジャパリパークのロゴである、馴染みの「の」の字が大きく描かれている。

 

菜々は、アレに乗ってきたのかな。

 

 

「見えてきましたよ!」

 

「ああ。 今日も活気があるね」

 

 

港には、他にも様々な光景がある。

 

別の船で来たであろう、大きなコンテナの山とか。

 

オレンジ色の専用クレーンがそれらを運び、下方ではチカラがあるフレンズ……ゾウと思われる子が、機械なしじゃ無理そうな巨大な木箱を素手で仕分け中。

 

違うところでは、黄色ヘルメットの作業員が梯子をコンテナに掛けている傍らで、ネコ科のフレンズと思われる子が、ヒョイッとひとっ飛びでコンテナに乗った。

 

ヒトがトラックやトレーラー、フォークリフト等の乗り物や道具類を使う中、フレンズは己の能力である程度できる。

 

その対比が、港に限らず、様々な場所で見れたり……見れなかったり。

 

やはり、フレンズはスゴイんだなぁと改めて感じるね。

 

ヒトの姿で、それらをこなしている光景は、多くの可能性と不思議を感じずにはいられない。

 

して、ヒトとフレンズが入り乱れつつ笑い合う光景は、パークだからこそ。

 

加えて、運営中だからこそか。

 

後どれくらい、この光景を見られる猶予(ゆうよ)があるのだろう。

 

 

「いかん。 今を見なくちゃ」

 

 

ボソリと小さく独り言。

 

それは、流れていく風と光景に掻き消されて、()()()に届く事はなかった。

 

 

「あぁ! 杏樹(あんじゅ)さん! フレンズさんが いっぱい いますよ! 私、幸せですっ」

 

 

本人はトリップしてるから。 グヘヘ、とヨダレを垂らして、余所見運転(よそみ うんてん)中。

 

普通に危ない。

 

 

「ちゃんと前見て集中して運転して、お願い!?」

 

「はっ!? 失礼しました!」

 

 

我に帰り、ハンドルを握り直すミライ。

 

彼女がガイドする時は、運転は別の手にして貰った方が良いよね。 違いない。

 

あっ、俺は駄目ね。 運転苦手なんで。

 

 

「ふぅ」

 

 

俺も気持ちを入れ替える。 未来の事は分からないけど、悩んでも仕方ない。

 

今は今。 菜々を迎えに行く事に集中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんぱーい! 杏樹(あんじゅ)せんぱーい!」

 

 

人員用導線の傍らに停車、そこからの降車直後。

 

新規入場者教育を受けるべく、多くの者が担当者と合流する人混みの中。

 

懐かしくも明るい声が聞こえる。 視線を送れば、片手を上げて駆け寄ってくる女の子の姿が。

 

嗚呼。

 

ようやく。

 

ようやく、パークで会えたね。

 

俺は新たな仲間を歓迎(かんげい)すると共に感動し、莞爾(かんじ)として迎え入れる。

 

 

「久しぶり、菜々(なな)

 

「はい! 久しぶりですっ!」

 

 

新人飼育員(しんじん しいくいん)にして漫画版主人公(まんがばん しゅじんこう)

 

菜々(なな)ちゃんだ。

 

綺麗なピンク髪。 左側にサイドテール。 幼さが残る顔立ちと笑顔は、いつか無邪気に神社まで駆けた日を思い出させてくれる。

 

既に支給されたのか。 飼育員の制服である、肩部分と背中に「の」の字のロゴ入りモスグリーンジャケットをTシャツの上から羽織る。

 

して、漫画版の通り短パンとスニーカーの動きやすい格好ときた。

 

いや、現在において問題がある訳じゃない。 温かいからね。

 

今は。

 

この格好……休日でも冬場でも変わらない。 だから将来、風邪を引いたりチーターに「変わってる」みたいな事を言われるんじゃないだろうか。

 

いや、今は関係ないな。 素直に再会した事を喜ぼうぞ。

 

 

「菜々さん、おはようございます!」

 

「あっ、えっと! ガイドさん、おはようございます! ご指導お願いします!」

 

 

隣にいるミライを確認すると、ペコリとお辞儀。 ひたむきな姿勢で挨拶をする菜々。

 

宜しい。 初めの挨拶は大事だからね。

 

漫画版的には、寮かどっかの建物で挨拶を交わしていたが、俺の影響か。

このように港での挨拶となった。 別にこれくらいで未来は変わらないと思うので気にしない。

 

 

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

 

「そうそう。 フレンズと仲良くする上でも、柔らかな感じが良いよ。 少なくとも、今は俺もいるし大丈夫」

 

 

何が大丈夫なのか分からないが、そう言っておく。

 

アレだ。 努力差の劣等感(れっとうかん)から、せめて先輩としての矜持(きょうじ)を持っての発言。

それと、安心させたいという気持ちから。

 

 

「はい。 分かりました!」

 

 

それが伝わったのか。 菜々はニコリと笑みを返してくれた。

 

相変わらず、明るい笑顔。 その笑みで、俺のドロドロした不安や煩悩(ぼんのう)が浄化されていくよ……。

 

こんな先輩で ごめん。

 

 

「えぇっ!? なんで泣くの!?」

 

「え? ああ、ごめん。 良い天気だからね、陽が眩しくて」

 

 

嘘である。 少女に泣かされたのだ。

 

前にも似たやり取りがあったなぁ。 うろ覚えだけど。

 

こんな幼稚(ようち)な誤魔化し。 ミライには効かなかったのか否か、優しく話を合わせられる。

 

ああ、うん。

たぶん、バレてる。 チラッと見られては、微笑みを浮かべたから。

だけど、言葉にして突っ込まない優しさ。 オトナです。 これは沁みますね……。

 

 

「確かに、良い天気ですね。 パークライフの始まりには素晴らしい日です!」

 

「はい! 頑張りますっ」

 

 

良い返事である。 俺も、手伝える事は手伝ってあげよう。 可愛い後輩の為だ。

 

して、菜々にもパーク職員ライフを楽しんで頂こう。

 

 

「気張らなくて良いからね。 楽しむと良いサ」

 

 

ワガママなキツネさまとか、女王さまなチーターとか、ボケまくるアフリカゾウとか、アライさんの人生相談とかに対応していくのだろうな。

 

ああ、漫画版であった、それら光景のどれか見てみたい。

 

マーゲイとリカオンのケーキ屋さんも行きたい。 コンビニでタイリクオオカミお姉さまにも会いたい。 コアラがアルバイトしている光景を見たい。 でもパップは勘弁(かんべん)

 

思えばキリがなさそうである。

 

ネガティブな思考ばかりだったけど、何も暗い未来ばかりではない。

 

確かにパークには輝きがあって、みなが生き生きとしているのだ。

 

俺も、楽しむ時は楽しむか。

 

 

「では、(りょう)にご案内します」

 

 

明るい、ミライの声が。

 

おっと。 素敵(すてき)な出発の時間だ。 (きびす)を返して車に乗ろうとして───

 

 

「なあ、ミライ」

 

 

生まれた疑問(ぎもん)をぶつけてみる。

 

 

「これ、3人乗れるよな」

 

「はい。 大丈夫ですよ」

 

 

定員の意味じゃなくてだね。

言い辛いが、いちおう 言っておこう。

 

 

密着(みっちゃく)する、けど」

 

 

もごもごと、訴えてみた。

 

このタイプ、後部座席がない。

つまり横一列に並んで座る。 運転手、真ん中、助手席だ。

 

だがしかし。 そんなに ゆったりスペースはない。 本土で走る一般車のような快適さは、そんなに ないのだ。

 

 

「大丈夫です。 ゆっくり、安全運転で進みますよ!」

 

 

違う、そうじゃない。 振り落とされるとか、そういう心配ではない。

 

 

「あー、いや。 その」

 

「大丈夫です先輩! 私は狭くても気にしませんから!」

 

 

菜々が笑顔で言う。

思考が1番近いようで、違う。

 

ああ、うん。 笑顔を見ていたら、それで良いかと思えてきた。

 

して、俺の心が 如何(いか)に汚れているか良く分かったよ。 よよよ。

 

 

「そうか、良かったよ。 じゃミライ、運転よろ。 余所見厳禁(よそみげんきん)で」

 

「はい! 任せて下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

して。 真ん中に菜々を挟んでの寮への道中となったワケだが。

 

ミライがフレンズに気を取られて、車体が揺れ、その都度に菜々の体温や柔らかさを服越しに感じる羽目になる。

 

慌てる俺と反面、ふたりは フレンズに興奮してキャーキャー笑顔を振りまいた。

変に気にしている俺が、逆に馬鹿に思えてくる程に。

 

まあ、うん。 良いか。

 

俺もフレンズ好きだし。

 

2人には、笑顔が似合うから。




あーかいぶ:(当作品設定等)
菜々
たくさんいるパークスタッフ(職員)のひとり。
試験解放区 特殊動物 飼育員。 漫画版主人公。 新人さんとして、頑張る。 担当はサーバルとキタキツネだけど、ヘルプのあった他のフレンズと絡む事もある。

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